読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2020年4月に読んだ新作おすすめ本

4月は意外と新作読めてたので、わりと多めになっていますが、各ジャンルでオススメを挙げていくとライトノベル電撃文庫の「オーバーライト」、GA文庫の衝撃作「カノジョの妹とキスをした。」、ガガガ文庫の「きのうの春で、君を待つライト文芸では斜線堂有紀さんのメディアワークス文庫恋に至る病」、執筆陣が豪華な講談社タイガ小説の神様 わたしたちの物語」、富士見L文庫香港シェヘラザード」あたりになりますかね。

 

一般文庫はハヤカワ文庫の「読書嫌いのための図書室案内」角川文庫の「仙文閣の稀書目録」、幻冬舎文庫プリズン・ドクター」、単行本はこれも同じ岩井圭也さんの「文身」、一条さゆりさんの「ピカソになれない私たち」、「金木犀とメテオラ」を挙げておきます。

 

ブリストルに留学中の大学生ヨシがバイト先の店頭で発見したグラフィティ。何故か絵には詳しい先輩ブーディシアとともに落書きの犯人探しに乗り出す物語。犯人探しをする過程で出会ったグラフィティを競い合う少女ララや仲間たち。グラフィティの聖地を脅かす巨大な陰謀と、かつて「ブリストルのゴースト」と呼ばれたブーディシアが描くのを止めてしまった理由。登場人物たちのグラフィティへの熱く複雑な想いが交錯する展開でしたけど、真相にたどり着く中で明かされる過去と、葛藤を乗り越えて立ち向かうその姿にはぐっと来るものがありました。

カノジョの妹とキスをした。 (GA文庫)

カノジョの妹とキスをした。 (GA文庫)

  • 作者:海空りく
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫
 

人生で初めての恋人晴香と交際一ヵ月。幸せ絶頂の佐藤博道は突然父親が再婚し、家庭の事情で晴香と離ればなれになった双子の妹・時雨と突然同居することになってしまう青春ラブコメ。小学校からの幼馴染で天真爛漫な晴香と、対照的に学校では猫を被っている優等生でことあるごとにからかってくる義妹の時雨。博道の晴香への想いは真っすぐで、けれど同じ顔の義妹との同居は彼女には秘密で、双子姉妹の両親が離婚した経緯や、時雨の複雑な想いも絡めて描かれる三人の関係は波乱必至ですね。突き付けられた衝撃の結末に続巻が気になって仕方ないです。

きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫 は 7-2)

きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫 は 7-2)

  • 作者:八目 迷
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: 文庫
 

引っ越した先の東京でうまく行かず、かつて住んでいた離島・袖島に家出してきた船見カナエが、幼馴染だった保科あかりと再会。時間を遡る現象「ロールバック」に巻き込まれる青春小説。カナエが巻き込まれた飛ばされた四日後から夕方6時になると一日ずつ遡るロールバック現象。遡る中で明らかになってゆくあかりの兄・彰二の死とあかりの恋心と兄への複雑な思い。ひたむきに頑張ってきたからこそ、失われたものの喪失感も大きくて、けれど何とかしようと懸命だったカナエの奔走が、未来への希望を引き寄せる展開にはぐっと来るものがありました。

七渡が進学した高校で再会した元許嫁の翼。しかしその隣には容姿抜群な今どきギャル麗奈がいて、少女たちの恋の駆け引きが始まる青春ラブコメディ。七渡が引っ越す前はお隣同士の幼馴染で許婚だった翼。七渡との関係を取り戻すために上京したのに、中学時代から七渡と関係を構築してきた麗奈がいる構図で、イメチェンを図って健気にぐいぐい攻める元許婚とかいう強烈なライバル相手に危機感を募らせる麗奈目線も多かったですが、ようやく七渡が想いを自覚し始める中、負けられない二人がコンビを組んでどう動くのか続巻が楽しみな新シリーズですね。

中古(?)の水守さんと付き合ってみたら、やけに俺に構ってくる (講談社ラノベ文庫)
 

女性不信で恋愛に消極的な高校生十神里久が、放課後に探し物をしていた水守結衣を助けたことをきっかけに、学校で有名なビッチとして噂されて孤立する彼女と付き合い始める青春ラブコメディ。水守の告白に恋愛感情はないけれど、彼女にもっと自分を大切にしてほしいからと付き合い始めた十神。二人の交際は十神の評判を気遣って学校では秘密で、そんな二人を応援する風紀委員長のような人もいて、そんな彼女の素顔を知っていった十神が、水守の窮地を救うために立ち上がる王道展開にはぐっと来るものがありました。続巻にも期待の新シリーズですね。

憧れの文芸同好会の先輩で超絶美少女の白森霞。そんな彼女に自らの想いをあっさり見抜かれた後輩陰キャ高校生・黒矢が、先輩からお試しお付き合いを提案される青春ラブコメ。余裕があってからかってくる白森先輩相手にいっぱいいっぱいで、振り回されっぱなしの黒矢。でもそんな彼女もまた実はわりと不器用で、からかいながら見えないところで赤面する一面もあって可愛かったですね(苦笑)一年間一緒に活動してきて、自分の大切なものをきちんと理解してくれて、そんな日々を積み重ねてきた二人の不器用で甘い関係にはぐっと来るものがありました。

シンデレラは探さない。 (講談社ラノベ文庫)

シンデレラは探さない。 (講談社ラノベ文庫)

  • 作者:天道 源
  • 発売日: 2020/04/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

お城のような五十階建てのタワーマンションにはお姫様が住んでいる。自分には関係のない存在と思っていた高校生の荒木陣が、その最上階に住む同級生・真堂礼と出会う青春小説。妹・舞の看病で学校を休んだ陣にプリントを届けに来たことで始まった礼との関係。無自覚系の陣相手にポンコツでチョロインになってしまう礼でしたけど、そんな彼女を応援する友人コンビもなかなか面白くて、陣を見続けてきた彼女だからこそ気づいた彼の想いがあって、不器用な彼女が陣の家族にも温かく迎えられ幸せになってゆく二人の関係をまた読んでみたいと思いました。

深夜、雨でずぶ濡れのまま家の鍵をなくし途方に暮れていた隣に住むOL早乙女ミオ。そんな彼女を助けた社畜・松友の「おかえり」が心に刺さったミオに月三十万円の「おかえり」係として雇われるラブコメディ。できる女なのに生活力ゼロのポンコツな上、極度の人間不信で孤独だったミオ。突如甘えん坊になったり、雇用関係がないと安心できない彼女の心の闇は深かったですが、松友の毎日のおかえりなさいや美味しい料理があって、彼の元同僚土屋や後輩村崎さんもミオを慕って、少しずつ癒やされてゆくミオと彼らの温かい関係がとても良かったですね。

才色兼備と評判の後輩・天音二菜からの突然の告白によって穏やかな日常が一変してしまった少し地味な高校生、藤代一雪。モテる彼女からの告白を詐欺と疑う一雪と猛プッシュする天音の青春ラブコメディ。ぐいぐい来る一途な天音の猛アプローチにたじたじの一雪。一歩間違えばわりと微妙な関係になりそうですけど、周囲も生温かく見守る二人は意外といい感じで、美少女だし料理も美味いし、認めたくはない彼女の存在がじわじわ来ますね(苦笑)親にもしっかり認められて着々と外堀を埋めてゆく天音に一雪がどこまで抵抗できるのか続きが楽しみなシリーズです。

嘘嘘嘘、でも愛してる (ファンタジア文庫)

嘘嘘嘘、でも愛してる (ファンタジア文庫)

  • 作者:川田 戯曲
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: 文庫
 

事故で記憶喪失となった少年にアプローチする三人の少女たち。けれど彼を殺そうとしたのは誰なのか。記憶を失う前に深い親交があった少女たちとの関係が明かされる青春ミステリ。クールでセクシーだけれどヤンデレ気味な同級生・色町、快活でアホ可愛い幼馴染・花屋敷、意外とおしゃべりで毒舌な女友達・雪縫。彼女たちはそれぞれが秘密を抱えていて、テンポのよい彼女たちとやりとりから少しずつ記憶が蘇って、複雑な想いが絡み合う先にあった真相は少しほろ苦かったですが、しっかりと真実を見極めた優しい彼の選択がなかなか印象的な物語でした。

憧れの美少女・姫野実衣奈の事故に遭遇し、彼女を救った早乙女乙綺。しかし事故の際に実体と分離した彼女の思念体・ミーナに取り憑かれてしまい、彼女を実体に戻すためヒロイン攻略作戦をはじめる青春ラブコメディ。学校での実衣奈は取り繕った姿だというミーナによって暴露される彼女の意外な趣味。試行錯誤するミーナとの日々は乙綺を少しずつ変えていって、けれど有効なはずのアドバイスにはたびたび齟齬が生じて、幼馴染や妹分はやや活かしきれなかった感もありましたけど、そんな彼らが迎える意外で納得感もある結末はなかなか良かったですね。

ネトゲ世界に入り浸り、ぼっちはリア充を凌駕すると信じる大学生・月岡草一。ネトゲでパートナーを組んでいたJK朝日奈舞に人生の攻略方法を教わり、計画的ぼっちリアルライフとどちらがいいか勝負する青春ラブコメ。オフ会で会ったら実はリア充JKだった舞のアドバイスを受けて、放送研に入会して憧れの高嶺先輩にアプローチする展開で、草一の良さに気づいてゆく舞の複雑な想いも絡めつつ、先輩のためにいろいろ努力して頑張る草一はカッコよかったですけど、どこか締まらないその結末もまた彼ららしいのかなと微笑ましく思えて良かったですね。

 

 

恋に至る病 (メディアワークス文庫)

恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 

善良だったはずの幼馴染の少女がいかにして化物へと姿を変えたのか。150人以上の被害者を出した自殺教唆ゲームを作り上げた誰からも好かれる女子高生・寄河景と宮嶺の複雑な関係が描かれるミステリ。宮嶺への壮絶ないじめをきっかけに始まった景の変貌…自殺教唆ゲームはどんどんエスカレートして、彼女とともにあろうとする宮嶺はどんどん景のことが分からなくなっていって、そんな危うい状況の先にあった結末と、洗脳だったのか歪んだ純愛だったのか最後に気づいてしまう可能性、それでも変わらない彼女への想いが鮮烈で印象に残る物語でした。

降田天さんの小説を書けずに悩む作家、櫻いいよさんの本が読めなくなった読者の葛藤、芹澤正信さんの作家にあこがれる投稿者、手名町紗名さんのマンガ、野村美月さんの文学少女と千谷一也の邂逅、斜線堂有紀さんの水浦しずを応援する二人、相沢紗呼さんの編集者河埜さんのエピソード、紅玉いづきさんのAとのエピソードなど、小説の神様を絡めてそれぞれが思い思いのアプローチでらしさを発揮していましたが、久しぶりの野村美月さんも堪能できましたし、最後に配置されていた紅玉いづきさんの書いた文章がまたいい感じに締めていて良かったですね。

香港シェヘラザード 上・蕾の義 (富士見L文庫)

香港シェヘラザード 上・蕾の義 (富士見L文庫)

 

誘拐された邦人家族から相談を受けた香港赴任中の新人女性外交官・秋穂。黒幕は香港最大の黒道組織・七海幇と判明したものの、証拠が足りず踏み込めない中、幹部の男・立花と出会う絶望と再生のラブサスペンス。商社マン・笹森が一瞬目を離した隙に誘拐された妻・蓮子の絶望。犯人は明らかなのに安易には手を出せないもどかしさと、危険な匂いのする立花との出会いがあって、急展開後も続く過酷な環境でもかすかな希望を諦めない蓮子と彼女を支える女医の梨令、そして秋穂と立花の因縁がどんな結末を迎えるのか、緊迫感のある展開が面白かったです。

香港シェヘラザード 下・花の奸 (富士見L文庫)

香港シェヘラザード 下・花の奸 (富士見L文庫)

 

同僚の木内たちと協力して、誘拐された蓮子の行方を追う 新人外交官の秋穂。そんななか、七海幇当主の三男である月龍の屋敷が突然襲撃される下巻。捜査過程で蓮子に繋がる手がかりを得たものの、救出を目前にして彼女を保護しそこなってしまう秋穂たち。事態が急展開を迎える中で、秋穂が立花に会いに行く決断をしたことが事件としても物語としても大きな転機に繋がりましたかね。彼女を取り戻せるのか緊迫した状況での劇的な救出劇でしたけど、救われたから万事解決ではないのがまたほろ苦かったですね…。立花と秋穂の関係も気になるところです。

宮廷医の娘 (メディアワークス文庫)

宮廷医の娘 (メディアワークス文庫)

  • 作者:冬馬 倫
  • 発売日: 2020/04/25
  • メディア: 文庫
 

由緒正しい医の家系に生まれ仁の医師を志す陽香蘭。法外な治療費を請求する闇医者・白蓮の施術を見て強引に弟子入りし、衝突しながら真の医療を追い求めていく中華風ファンタジー。白蓮の次元の違う施術に可能性を感じ弟子入りした香蘭が遭遇する、腹痛の商人と木から落ちた少年の識別救急、醜い官吏と火傷を負った娘の整形手術、引きこもりの貴妃と東宮を巡る陰謀。白蓮はどうも出自が現代人っぽい雰囲気ですが、弟子と認めた香蘭の師匠としてまだ若い彼女を教え導き手綱を締めるいいコンビっぷりでした。彼女たちの活躍をまた読んでみたいです。

統合歴六四二年、一万五千人以上を犠牲にクゼの丘で終わった戦争。その終戦から二年、兵士たちの最期の言伝を届ける任務を担っていた狙撃兵・キャスケットが陸軍遺品返還部の一人として遺族たちに会いに行く物語。女装して徴兵から逃げた弟、家の事情で娼婦にならざるをえなかった婚約者、精神を病んだことに気づかない息子、蔑まれていることに気づかなかった青年、そして変わってしまった兄官など、戦争が終わっても続く悲哀があって、失われたものの大きさを突き付けられる印象的な物語で、個人的には第二章の金猫さんのエピソードが好きでした。

昔から人のついたウソがわかってしまいなかなか人を信じられない万結。ハーブを使ったカフェ・古街で働く彼女が不登校に悩む小2の姪・実乃里の付き添いで訪れた絵画教室で、過去を抱え絵が描けずにいた講師の和樹と出会う物語。嘘が分かってしまうことで苦い過去を抱えていた万結でしたけど、こうやって子供にきちんと寄り添ってあげられるのは、彼女が気付いてしまう生々しい感情に繊細なだけで、本来はとても優しい人だというのがよく分かりますね。変わるきっかけを得た和樹との関係が変わる予感...もう少し踏み込んでくれても良かったかな。

野宮小鳥の中学時代の辛い時期、癒やしとなってくれた憧れの『四つ葉カフェ』。高校生になり店のバイト募集の張り紙を見た小鳥が、美形の星名三兄弟が営む『四つ葉カフェ』で働き始める青春小説。長兄・伊織に憧れてバイトに応募した小鳥を、女子のバイトはNGだと拒絶する三男で同級生の新。おためし採用になった小鳥が、苦い過去の原因だった女子と再会したり、伊織ととても仲よさげな幼馴染・雪乃の姿を目の当たりにしながらも、それ以上に好きなカフェのために乗り越えて頑張る姿に、新も認めるようになってゆく展開はなかなか良かったですね。

 

仙文閣の稀書目録 (角川文庫)

仙文閣の稀書目録 (角川文庫)

  • 作者:三川 みり
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: 文庫
 

そこに干渉した王朝は程なく滅びるという伝説の巨大書庫・仙文閣。帝国春の少女・文杏が、危険思想の持主として粛清された恩師が遺した唯一の書物を届けるべく訪れ、仙文閣の典書・徐麗考と出会う中華ファンタジー。麗考に救われたものの、無事蔵書される心配で住み込むことになった文杏が知る壮大な仙文閣の威容。文杏を持ち込んだ書物を巡って、権力に屈しない図書館めいた仙文閣で必要とされる資質が問われる展開でしたけど、知識云々よりももっと大切なことがあるんですよね。文杏がこれからどう成長してゆくのかまた読んでみたいと思いました。
プリズン・ドクター (幻冬舎文庫)
奨学金免除のため刑務所の矯正医官になり、患者にナメられ助手に怒られ憂鬱な日々を送る是永史郎。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が変死する医療ミステリ。矯正医官としての鬱屈に要介護状態の母の世話もあってどうすべきか失いかけていた史郎が、CTで発見されなかった病の解明、獄中で起きた突然死や不審死の真相、仮釈放受刑者の拒否問題などに挑む展開で、大学時代の友人たちや恋人の助けも借りながら公私の問題を解決していく中で、徐々に今ここで働いている意味を見出してゆくほろ苦さ混じりの結末にはぐっと来るものがありました。

読書嫌いのための図書室案内 (ハヤカワ文庫JA)

読書嫌いのための図書室案内 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:青谷 真未
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫
 

読書嫌いな高校二年生の荒坂浩二は、図書委員会で廃刊久しい図書新聞の再刊を任され、本好き女子の藤生蛍とともに本も絡めた数々の謎に挑む学園ミステリ。本が絡むと人が変わる藤生と一緒に挑む「舞姫」を絡めた留学生との関係、美術部の先輩から託されたタイトル不明の感想文の意味、生物の樋崎先生が広めた生物室の怪談の真相。感想文回収のために不器用な二人が真相に挑む展開でしたが、クールでやる気がないように見えるのにいざという時にはビシッと決める主人公の不思議な秘密への伏線は鮮やかで、彼らの物語をまた読んでみたいと思いました。

死んでもいい (ハヤカワ文庫JA)

死んでもいい (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:櫛木理宇
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫
 

同級生が刺殺された事件の取り調べで「ぼくが殺しておけばよかった」と告白した少年の真意、幼稚園で起きたママ友の災厄の真相、数十年ぶりに再会した義姉、夫のストーカーに殺された妻の想い、三十年ぶりに訪れた街で明かされる事件の真相、そしに著者自身が登場人物となって描かれる書下ろしの「タイトル未定」を含めた連作短編集で、うまくやったと思ったら終わらない恐怖にぞっとさせられたり、意外なところで繋がっていたり、著者さんらしい作品が多かったですが、最後の「タイトル未定」はこれまでとはまた違ったアプローチで面白かったです。

夢の上-夜を統べる王と六つの輝晶1 (中公文庫)

夢の上-夜を統べる王と六つの輝晶1 (中公文庫)

  • 作者:多崎 礼
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
 

六つの輝晶は叶わなかった六人の夢。王に謁見した夢売りによって語られる翠輝晶を巡るファンタジー。夫オープとのささやかな幸せを願いながら死影に憑かれたアイナの物語、数奇な運命の元に生まれ二人の子となったアライス、彼女が繋ぐ女騎士イズガータとアーディンの物語で構成されていて、最初はやや文章が堅いかなと感じましたけど、逆境でも彼と共にあったアイナの幸せ、そしてアーディンたちの報われない想いと、形は違うけれど深い愛を感じるエピソードでしたね。彼女らに育てられたアライスがこれからどんな人生を歩むのか続巻が楽しみです。

代々、ユリコという名の生徒が「ユリコ様」として絶対的な権力を持ち、逆らう者には必ず不幸が訪れるという私立百合ヶ原高校の奇妙な伝説。なれるのは一人だけというユリコ様を巡り、ユリコが次々と殺されていくミステリ。図らずも候補となった新入生・矢坂百合子がユリコ様を巡る争いに巻き込まれ、次々とユリコが殺されてゆく状況に、探偵役の親友・美月とともに犯人を追う展開でしたけど、ユリコ様の過去と事件の真相、二転三転する構図、そしてそれだけでは終わらない意外な結末が意味するところにはそういうことだったのかと唸らされました。

羊毛高校文化祭。二年二組のお化け屋敷で、首吊り幽霊に扮していたクラス委員・旭川明日葉の絞殺死体が発見され、彼女に想いを寄せていた閑寺尚がクラスメイトの甲森瑠璃子とともに調査に乗り出す学園ミステリ。本題に入るまでがやや冗長な感もありましたが、彼とクラスメイトたちとのやり取りは青春していて、登場人物がやたら多く、謎解きに挑む探偵役甲森の動機にはやや感情移入しにくかったりしたものの、テンポよく進む展開と鮮やかな謎解き、その何ともほろ苦く切ない結末はまたこのコンビの謎解きを読んでみたいと思わせるものがありました。

同棲していた彼氏に振られた勢いで不動産会社を辞めた藤堂美雪が、ふとした縁から思いがけず高級住宅地・広尾のイマディール不動産で働き始めるお仕事小説。単身用マンション購入に訪れたキャリアウーマン、社宅を出てファミリーマンションを探すのに低予算物件を希望する父親、物件を売り出したいものの絶対に価格を下げたくない家主といった訳あり客を相手に先輩の助けも借りつつ奮闘する展開で、先輩・桜木との恋模様含めてややありふれた展開ではありましたが、仕事も恋も前向きに取り組んで成長してゆく美雪の頑張りはなかなか良かったです。

君がオーロラを見る夜に (角川文庫)

君がオーロラを見る夜に (角川文庫)

 

過去に背負った心の傷を抱えたまま、大学卒業までの日々をやり過ごす大学4年生の市橋悠希。そんな彼が大学の講義でオーロラを見たいという少女・空野碧と出会う青春小説。オーロラをきっかけに親しくなってゆく悠希と碧。そして二人で観に行くことになった日本でオーロラが見れるという北海道への旅。並行して大切なヒトを失った悠希によるオーロラを見るためのノルウェーへの旅も描かれるために、途中まではどこか不穏な気配もありましたけど、終わってみればしっかりと過去を乗り越えて未来への希望を見いだせる、良かったなと思えた物語でした。

しがない法律事務所を営み、小さな依頼に振り回されてばかり海棠忍。自らが後見人をつとめ事務所に入り浸るようになってしまった15歳の聡明な少女・黒澤瑞葉と事件解決に挑むミステリ。小学6年生の杉浦涼太によってもたらされた、3年前に事故死した祖父から譲り受けるはずだった絵画が何者かの手によって奪われた事件。暴走気味の瑞葉に振り回されながら、事なかれ主義になりきれない忍が事件の真相に迫る展開で、テンポよく散りばめられてゆく一見関係なさそうな小ネタの数々が、後々いろいろ効いてくるのは上手かったです。シリーズ化に期待。

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

 

凍土となってしまった世界を描く「冬の時代」人間が人間を管理する進化型ディストピア「たのしい超監視社会」複雑な境遇だった姉の子との共同生活「人間の話」、陽系外縁部で人間の店主が営業する“消化管があるやつは全員客"「宇宙ラーメン重油味」誕生日に部屋に突然岩が出現する「記念日」透明人間の日々を描く「No reaction」と6つのSF短編集でしたが、どこか掴みどころのない淡々と描かれるストーリーはじわじわ来る感じで印象に残りました。読み終わった後に見て気づいたんですが、表紙の絵は登場人物だったんですね(今更感)

 

 

文身

文身

  • 作者:岩井圭也
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 単行本
 

好色で酒好きで暴力癖のある最後の文士と呼ばれた作家・須賀庸一。作品がすべて私小説だと宣言されていた彼の死後、娘に託された文章でその真相が明らかになってゆく物語。弟・堅次との関係、家を飛び出した経緯、作家となった兄弟が抱えた秘密、妻との出会いからの変化と、弟が書いたことを小説とするために実践する兄の変化、そして兄弟の相克に至るまで、作家であり続けるためにそこまでしなければならないのか、何が虚構で何が現実がなのか、複雑に絡み合う壮絶な展開でしたけど、その娘に届いた手紙の意味を思うとドキッとしてしまいました。

ピカソになれない私たち

ピカソになれない私たち

 

選ばれし者だけが集まる、国内唯一の国立美術大学東京美術大学油画科。スパルタで知られる森本ゼミに属することになった望音・詩乃・太郎・和美、それぞれの葛藤を描く青春小説。地方出身で天才的な画風の望音、技術はあるがこれといった特徴のない詩乃、美大生としての自分に迷いをもつ太郎、前衛的で現代的な作風の和美。厳しい森本の下で才能とは何か、過酷な現実を何度も突きつけられ、周囲を妬みぶつかり合う厳しさを痛感しましたが、それぞれが悩んできたことに対する自分なりの解答を見出してゆくその結末にはぐっと来るものがありました。

金木犀とメテオラ

金木犀とメテオラ

  • 作者:安壇 美緒
  • 発売日: 2020/02/26
  • メディア: 単行本
 

母を亡くした東京生まれの秀才・佳乃と、家族に問題を抱える美少女・叶の邂逅。北海道に新設されたばかりの中高一貫の女子校を舞台に、やりきれない思春期の焦燥や少女たちの成長を描く青春小説。2歳の頃から英才教育を受けてきたピアノも苛烈な受験勉強も奪われて北海道にやってきた宮田佳乃と、母親に振り回される人生から脱却しようとあがく奥沢叶。何かと比較されてライバル視するようになってゆく二人が、残酷な現実を突きつけられて焦燥を募らせてゆく中、ライバルの意外な素顔を知ったことで垣間見える希望にはぐっと来るものがありました。

うちの父が運転をやめません

うちの父が運転をやめません

  • 作者:垣谷 美雨
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 単行本
 

最近やたら目にする高齢者ドライバーの事故。ふと高齢者の父に不安を覚えた猪狩雅志が、息子の息吹と帰省した夏に父親に運転をやめるよう説得を試みる家族小説。安い給料のやり甲斐ない研究職、高校生になってから元気のない息子に共稼ぎで忙しい妻。高齢者の運転は危険でもかといって現実はなかなか切実で、通販の利用や都会暮らしのトライアルも失敗。途中までは行き詰った閉塞感が半端ない展開でしたけど、後半の急展開はなかなか興味深く読みました。そうそう上手くは行かないでしょうけど、一つの提案としてこういう生き方もありなんですかね。

宝の山

宝の山

  • 作者:水生 大海
  • 発売日: 2020/02/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

十六年前の地震で温泉が涸れ衰退する一方の岐阜県宝幢村。地震で家族を亡くし、伯父夫婦の介護に明け暮れる日々を送る希子が、村で起きた事故死を巡る騒動に巻き込まれてゆくミステリ。典型的な狭い村社会での生き方を当たり前と思う伯父夫婦や村役場の婚約者・竜哉。働き始めた希子が、雇われブロガーの死にから広がる不審点を不気味な隣家長谷川家の長男・耀とともに探る展開でしたけど、真相を掘り起こしてみたらとんでもないものが出てきましたね(苦笑)旧弊に縛られる村と決別し、新たな可能性を見出した彼女たちの姿が印象に残る結末でした。

#柚莉愛とかくれんぼ

#柚莉愛とかくれんぼ

  • 作者:真下 みこと
  • 発売日: 2020/02/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ノルマを達成できず、なかなかデビューできない三人組のアイドルグループ「となりの☆SiSTERs」。センターを務める青山柚莉愛の動画生配信中に行われたドッキリがファンの怒りを買ってしまうミステリ。マネージャーにやらされたドッキリがまさかの炎上。柚莉愛と仲間二人の微妙な関係と、振り回されて怒るファンたち、その炎上を密かに演出したTOKUMEIの存在。柚莉愛とTOKUMEI視点で語られる複雑な心情描写はリアルで、無責任な憶測で炎上してもどこかぱっとしない地下アイドルの悲哀と、まさかの衝撃的な結末が印象的でした。

運命の人を見つけた、ら

運命の人を見つけた、ら

 

やけ気味に申し込んだ婚活パーティーで出会った運命の人・篠木杏莉。彼女に痛烈な言葉を突き付けられた竹田融が事故に巻き込まれ中学二年生から人生をやりなおし再び彼女と巡り合うボーイミーツガール。うだつの上がらない中年からの華麗なやり直し…というほど、そうそう上手くはいかない波乱万丈だった二度目の人生でしたけど、またもや最悪の形で彼女と出会ってしまうあたり、これもまた運命の出会いとしか言いようがないですね(苦笑)けれど積み上げていったからこそ少しずつ変わっていった三度目の正直とも言える結末はなかなか良かったです。

次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気

次期風紀委員長の深見先輩は間違いなく病気

 

ある秘密を抱えて、家族と離れて暮らす高校生・石崎鏡花。特待生に選ばれるために入った風紀委員会で、眉目秀麗な優等生の深見先輩と衝撃的な出会いを果たす青春小説。他人の心の声が聞こえてしまう過酷な過去を生きてきた鏡花。そんな彼女が風紀委員で出会ってしまった自分への想いがダダ洩れな変態の深見先輩。最初は鏡花センサーでも付いてるの?とか思う先輩の内心にドン引きで、けれどその行動は意外と紳士で、彼女の葛藤もなかなか苦しかったですけど、真摯に気にかけてくれる彼への想いが少しずつ変わってゆく展開はなかなか良かったですね。