読書する日々と備忘録

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2020年1月に読んだ新作おすすめ本

 2020年1月に読んだ新作おすすめ本です。

振り返ってみるとあまり意識してなかったですが、ラノベは意外と新作読んでたんですね。押さえておきたいオススメとしては強烈なインパクトを残したMF文庫Jの「今はまだ『幼馴染の妹』ですけど。」、第32回ファンタジア大賞《大賞》受賞受賞作ファンタジア文庫スパイ教室」、ガガ文庫「結婚が前提のラブコメ」あたりですか。GA文庫竜と祭礼」も派手さはありませんがしっかりとした作りのファンタジーです。 講談社ラノベ文庫のヤンキーメイドもの「ヤンキーやめろ。メイドにしてやる」、ヒロイン二人が中心のファンタジア文庫転生王女と天才令嬢の魔法革命」なども意外と楽しめました。

 

それ以外はむしろシリーズものの消化中心で新作まで手が回ってなくて点数が少ないですが、オレンジ文庫の「流転の貴妃 或いは塞外の女王」は中華風ファンタジー好きなら押さえておきたい一冊。少し変わった青春ミステリとして角川文庫「僕と彼女の嘘つきなアルバム」、そして「流浪の月」が注目を集めている凪良ゆうさんの「わたしの美しい庭」あたりですか。「プルースト効果の実験と結果」の佐々木愛さんも今後注目したい作家さんの一人です。

 

丘の上の七河公園で再会した幼馴染の妹・双原灯火。「流宮の氷点下男」と呼ばれる冬月伊織と、「自称・先輩を慕う美少女」の灯火の大切な人を取り戻そうと願う不器用な二人の物語。住む町に伝わる星の涙の都市伝説と、翌日からあざとく伊織に付きまとうようになった灯火の真意。幼馴染の妹とのあざといラブコメ展開はものの見事に裏切られて、伊織の苦い過去を絡めながら明らかになる不穏な状況があって、大切なものを諦められない灯火に真正面からぶつかってみせた伊織の想いと、二人で乗り越えた先に迎えた結末にはぐっと来るものがありました。

スパイ教室01 《花園》のリリィ (ファンタジア文庫)

スパイ教室01 《花園》のリリィ (ファンタジア文庫)

  • 作者:竹町
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/18
  • メディア: 文庫
 

各国スパイが「影の戦争」を繰り広げる世界。落ちこぼれのメンバーばかり7人が集められ、凄腕スパイ・クラウスの指導の下、死亡率九割を超える『不可能任務』に挑むスパイファンタジー。凄腕だけど説明できない教えベタの教師役相手に、騙しあいで打ち勝つ実地訓練に挑む不器用な少女たち。チームとして挑んだ過酷なスパイ任務にも最後まで諦めない少女たちの想いに、ともに戦ったクラウスも少なからず感化されていって、普段の日常からスパイらしい仕掛けを感じさせる展開と、そんな絆を育んでいった彼らの物語をまた読んでみたいと思いました。

竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― (GA文庫)

竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― (GA文庫)

 

師の遺言により少女ユーイの杖を修理することになった、半人前の魔法杖職人・イクス。姉弟子たちの助けも借りてどうにか破損していた芯材を特定した彼が、1000年以上前に絶滅した竜の心臓を求めて旅する物語。夏の終わりまでを期限とした竜の伝承を求めての探索、ユーイが抱える過去と杖が壊れた理由、明らかになってゆく竜が絶滅した真相。戦えない二人が主人公であるがために、派手な展開とは無縁でインパクトには欠けますが、しっかりとした世界観の中で動く登場人物の描写は繊細で、明かされた真実とその結末は心に響くものがありました。

結婚が前提のラブコメ (ガガガ文庫)

結婚が前提のラブコメ (ガガガ文庫)

 

母親から継いだ結婚相談所で婚活女子のサポートに奔走する「結婚できない人を結婚させる仲人」縁太郎。とある婚活パーティーで結衣と出会う婚活ラブコメ。エロ漫画家・牡丹、玉の輿を狙う元令嬢・カレン、究極のダメンズほいほいな保育士・まひるといった会員とも出会い、結婚に向き合えていなかったワケありな結衣も少しずつ変化してゆく展開で、単なる仲人と関係という関係にとどまらない、彼女たちのために奔走する縁太郎とヒロインたちの絆にはぐっと来るものがあって、縁太郎が応援する彼女たちの婚活の結末を最後まで見届けたいと思えました。

ヤンキーやめろ。メイドにしてやる (講談社ラノベ文庫)

ヤンキーやめろ。メイドにしてやる (講談社ラノベ文庫)

  • 作者:秀章
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

代々執事の家系で日本有数の名家・鶴ヶ島家の次女麻白に仕える久世太一郎。麻白お嬢様から新たな専属メイドを探すよう申しつけを受けた彼が、買い出しに出かけた先で出会ったヤンキー少女ハナをメイドとして勧誘する物語。仕事をスマホで動画を撮って覚えるあたりがハナらしいですが、事あるごとに衝突するヤンキー気質のハナとお嬢様麻白の相性は最悪でも、テンポよく進むドタバタ展開の中でお互いいろいろ見えてくるものがあって、そんな二人が育んでゆく不器用な主従関係の結末には、またこの物語の続きを読んでみたいと思えるものがありました。

転生王女と天才令嬢の魔法革命 (ファンタジア文庫)

転生王女と天才令嬢の魔法革命 (ファンタジア文庫)

 

幼い時に前世の記憶を取り戻してからは、魔法研究に邁進していた王女・アニス。そんな彼女が天才公爵令嬢・ユフィが次期王妃の座から外される場面に遭遇し、彼女をパートナーとしてスカウトするファンタジー。アニスの弟王子がユフィに突然突き付けた婚約破棄。そんな窮地に陥った彼女を颯爽と救ってみせたアニスは破格な存在で、その奇行や斜め上の発想に戸惑い振り回されながらも、彼女の示す道に新たな可能性を見出してゆくユフィは果たして幸せになれるんでしょうか(苦笑)けれど状況的に弟王子とは対立必至で、今後の展開が気になりますね。

クラスで一番の彼女、実はボッチの俺の彼女です (角川スニーカー文庫)

クラスで一番の彼女、実はボッチの俺の彼女です (角川スニーカー文庫)

  • 作者:七星 蛍
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/02/01
  • メディア: 文庫
 

自称・選択ボッチの篠宮誠司と、学年トップの成績で現役モデルの高嶺の花・神崎琴音。教室の中では絶対に交わらない2人による内緒の甘酸っぱいドキドキ青春ラブコメディ。今はまだ周囲には秘密だけど意外に甘えたがりな神崎と、そんな彼女に戸惑いながらも何だかんだでベタぼれな篠宮。これまでどんな積み重ねがあったのかとても気になるところですが、秘密な関係ならではのもどかしい距離感がポイントで、お互い相手を想う気持ち自体は揺るぎないだけに、彼を慕う後輩や会長を絡めて物語をどう展開していくのか、今後に期待したい新シリーズです。

隣のキミであたまがいっぱい。 (MF文庫J)

隣のキミであたまがいっぱい。 (MF文庫J)

  • 作者:城崎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫
 

『他人の思考が読めてしまう』特殊能力を持つ美少女・如月那緒が、隣にいれば宇佐美北斗だけに限定されると気づき共に過ごすようになる青春ラブコメ。常に他人の考えていることが聞こえてしまう彼女がようやく見出した安住の居場所。そんな如月を忌避することもなく、思考がだだ洩れ前提の会話が当たり前になってゆく北斗は彼女にとってかけがえのない存在で、普段は感情が乏しそうに見える彼女が時折北斗にだけ見せる表情には凄まじい破壊力がありますね。今は無自覚でも日々の積み重ねでお互い唯一無二の存在と化してゆく二人の今後が楽しみです。

完全無欠な主人公体質の親友に巻き込まれがちで、やる気ゼロのクロムウェル。ゆるく生きるつもりだったのに、魔王軍からの襲撃でその日常は一変。戦った魔王に指揮官としてスカウトされる物語。魔王のフェルによって魔王軍の司令官に任命されてからが本当のスタートで、秘書セリスといがみ合ったりサポートされながら、魔族の子供・アルカを助けたり、コミュ障なデュラハンたちの仕事環境を改善していく展開はなかなか面白かったです。それにしても彼が死んだと思っている親友やマリアあたりは救いがないので、それをどう救済するのか続巻に期待。

 

流転の貴妃 或いは塞外の女王 (集英社オレンジ文庫)

流転の貴妃 或いは塞外の女王 (集英社オレンジ文庫)

 

商人の娘として生まれ、後宮の貴妃になった柴紅玉。それが勢力を拡大しつつある北方の遊牧民族の盟主へと嫁がされることになり、さらにその途上で嫁ぎ先の敵対部族による襲撃で攫われてしまう中華風浪漫譚。帝の寵愛はなくとも後宮謳歌していた生活から、二転三転する運命に翻弄され激変する紅玉の人生は大変だなあと思わずにいられませんでしたが、族長の末子アマルの妻となった彼女があるべき姿を見定めて覚悟を決め、遊牧民族の妻としては型破りな、けれど自分らしいやり方でアマルを支えるようになってゆく姿にはぐっと来るものがありました。

この声が、きみに届くなら (集英社オレンジ文庫)

この声が、きみに届くなら (集英社オレンジ文庫)

 

中学のときから片想いしている本城先輩に、バスケ部で再会した高1のゆめ。過去にトラウマがあり、声のコンプレックスのせいでうまく話せなかった彼女が、先輩のピンチに頑張る青春小説。話すのが苦手でも地道にやるべきことを頑張る彼女の姿があって、友人の沙月や新田先輩のおかげもあって先輩との距離が少しずつ近くなっていった矢先の突然の急変。でも先輩に後悔だけはして欲しくないと、どうするのが一番いいのか、ゆめは生懸命に考えて頑張っていましたし、そんな彼女のことをきちんと見てくれていた先輩との関係を応援したくなる二人でした。

思い出とひきかえに、君を (集英社オレンジ文庫)

思い出とひきかえに、君を (集英社オレンジ文庫)

 

約束の場所に現れなかった片想い中の陸斗が事故に遭ったことを知った高1のひまり。思い出とひきかえに願いを1つ叶えてくれる不思議なお店に迷いこんだ彼女が、陸斗を助けるため彼との大切な思い出を手放してゆく物語。中学時代に知り合い、電車の中でたまに言葉を交わす中で少しずつ積み重ねてきた彼への想い。彼が直面する困難から救おうとしたことで、かえってすれ違ってしまう切ない展開でしたけど、そんな彼女の想いを神様も見守ってくれてたんでしょうかね。一緒に新たな思い出を紡いでいってほしいと二人を応援したくなるそんな物語でした。

 

僕と彼女の嘘つきなアルバム (角川文庫)

僕と彼女の嘘つきなアルバム (角川文庫)

 

田舎に息苦しさを感じて、大好きな写真家・渡引クロエが通っていた大学に入学し上京した可瀬理玖。クロエが立ち上げた創作サークルで、不思議な力を持つ女の子・渡引真白と出会う青春ミステリ。部室で消失した写真の謎を解いたことをきっかけに、真白のいなくなった父を探す協力をすることになった理玖と仲間たち。特異な存在の母・クロエとの複雑な関係を抱える真白を、かけがえのない彼らの存在が少しずつ変えていって、明らかになってゆく父のことから垣間見えた母の真意と、ようやく向き合えた先にあった苦笑いの結末がとても素敵な物語でした。

北鎌倉の嘉風堂 裏路地神社の扇子屋さん (宝島社文庫)

北鎌倉の嘉風堂 裏路地神社の扇子屋さん (宝島社文庫)

  • 作者:千早 朔
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 文庫
 

北鎌倉の細い裏路地にあつ「嘉風神社」。そこの片隅で青年・嘉染葵燕が作る「神様の声を授ける扇子」が目立たないながら密かに評判を呼び、悩める参拝客が次々と訪れる物語。転職に迷う女性の真意、転校してゆく女の子との友情、父親が嫌いな女子高生の複雑な心情、恋人を亡くした青年が十五年後に知った彼女の想い、助手の充晴が手伝うようになった事情。二人で補い合いながら迷える参拝客の複雑な想いに寄り添い、前向きになれるようそっと手伝うエピソードはとても優しくて、心温まる読後感が良かったですね。続巻あるならまた読んでみたいです。

 

わたしの美しい庭

わたしの美しい庭

 

マンションの屋上庭園の奥にある「縁切り神社」。そこを訪れる生きづらさを抱えた人たちと、統理とふたり暮らしの小学生の百音、同じマンションに住む路有たちの物語。元妻の血の繋がらない娘・百音と同居する統理、ゲイの路有や同じマンションに住む桃子、仕事でうつになってしまった基らの視点から、その生きづらさが語られるエピソードで構成されていて、失ってしまった人やものへのままならなさを抱えながらも、それを簡単に忘れられるものでもないし、抱えながら生きてゆくしかないことを受け入れる彼らのありようがとても印象的な物語でした。

プルースト効果の実験と結果

プルースト効果の実験と結果

 

痛々しい自意識過剰、空回る都会への憧れ、思い通りにいかない初恋。思春期の苦くて甘い心情を鮮やかに描き出す四篇の連作短編集。プルースト効果という言葉を教えてくれた男の子との初恋、仲良くなった文芸部の女の子との関係、仲良くなった友達と気になる彼のエピソード、そして帰省の新幹線で出会った彼との関係。大人になる過程の多感な少女たちが出会う友人たちとの関係や淡い恋模様の繊細な描写に心揺さぶられて、著者さんの書いた物語をまた読んでみたくなる印象的な一冊でした。個人的には「プルースト効果の実験と結果」が良かったですね。

熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス

熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス

  • 作者:キタハラ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 単行本
 

顔よし体よし性格よし。そのうえ読書家。なんだか現実味のないイケメン熊本くん。彼と何となくつるんでいる大学生のみのりが同級生から彼の意外な噂を聞く不器用な人々の物語。何となく居心地が良かった熊本くんの意外な秘密。明らかになってゆく絡み合う因縁と意外な繋がり、そして生々しく描写される突き付けられた呪いと閉塞感が強烈で、底なし沼に引きずり込まれるような感覚を覚えましたが、知りたいと思ったがゆえに失ってしまった居場所をいつまでも忘れられないみのりが、紆余曲折の末に巡り会った一冊の本がとても印象に残る結末でした。