ここしばらく自粛が続く中で出かける機会も減り、最近学校が臨時休業中の娘の相手をする時以外は、空いた時間ひたすら本を読んでいました。4月5月の刊行分は厳しいという話はちらほら聞こえてきますが、自分にできることは本を読むことで、面白い本を紹介して興味を持ってもらうことかなと思っています。
なので最近意識して厳しいといわれる新作メインで紹介してきましたが、今回は最近読んだ中でこれはと思った特におすすめの15作品を一般文庫/単行本編とラノベ編紹介したいと思います。最近ラノベの企画が多かったので、今回は一般文庫/ライト文芸/単行本から先に紹介します。
1.香港シェヘラザード 上・下 (富士見L文庫)
誘拐された邦人家族から相談を受けた香港赴任中の新人女性外交官・秋穂。黒幕は香港最大の黒道組織・七海幇と判明したものの、証拠が足りず踏み込めない中、幹部の男・立花と出会う絶望と再生のラブサスペンス。商社マン・笹森が一瞬目を離した隙に誘拐された妻・蓮子の絶望。犯人は明らかなのに安易には手を出せないもどかしさと、危険な匂いのする立花との出会いがあって、急展開後も続く過酷な環境でもかすかな希望を諦めない蓮子と彼女を支える女医の梨令、そして秋穂と立花の因縁がどんな結末を迎えるのか、緊迫感のある展開が面白かったです。
同僚の木内たちと協力して、誘拐された蓮子の行方を追う 新人外交官の秋穂。そんななか、七海幇当主の三男である月龍の屋敷が突然襲撃される下巻。捜査過程で蓮子に繋がる手がかりを得たものの、救出を目前にして彼女を保護しそこなってしまう秋穂たち。事態が急展開を迎える中で、秋穂が立花に会いに行く決断をしたことが事件としても物語としても大きな転機に繋がりましたかね。彼女を取り戻せるのか緊迫した状況での劇的な救出劇でしたけど、救われたから万事解決ではないのがまたほろ苦かったですね…。立花と秋穂の関係も気になるところです。
2.恋に至る病 (メディアワークス文庫)
善良だったはずの幼馴染の少女がいかにして化物へと姿を変えたのか。150人以上の被害者を出した自殺教唆ゲームを作り上げた誰からも好かれる女子高生・寄河景と宮嶺の複雑な関係が描かれるミステリ。宮嶺への壮絶ないじめをきっかけに始まった景の変貌…自殺教唆ゲームはどんどんエスカレートして、彼女とともにあろうとする宮嶺はどんどん景のことが分からなくなっていって、そんな危うい状況の先にあった結末と、洗脳だったのか歪んだ純愛だったのか最後に気づいてしまう可能性、それでも変わらない彼女への想いが鮮烈で印象に残る物語でした。
3.仙文閣の稀書目録 (角川文庫)
そこに干渉した王朝は程なく滅びるという伝説の巨大書庫・仙文閣。帝国春の少女・文杏が、危険思想の持主として粛清された恩師が遺した唯一の書物を届けるべく訪れ、仙文閣の典書・徐麗考と出会う中華ファンタジー。麗考に救われたものの、無事蔵書される心配で住み込むことになった文杏が知る壮大な仙文閣の威容。文杏を持ち込んだ書物を巡って、権力に屈しない図書館めいた仙文閣で必要とされる資質が問われる展開でしたけど、知識云々よりももっと大切なことがあるんですよね。文杏がこれからどう成長してゆくのかまた読んでみたいと思いました。
4.文身
好色で酒好きで暴力癖のある最後の文士と呼ばれた作家・須賀庸一。作品がすべて私小説だと宣言されていた彼の死後、娘に託された文章でその真相が明らかになってゆく物語。弟・堅次との関係、家を飛び出した経緯、作家となった兄弟が抱えた秘密、妻との出会いからの変化と、弟が書いたことを小説とするために実践する兄の変化、そして兄弟の相克に至るまで、作家であり続けるためにそこまでしなければならないのか、何が虚構で何が現実がなのか、複雑に絡み合う壮絶な展開でしたけど、その娘に届いた手紙の意味を思うとドキッとしてしまいました。
5.プリズン・ドクター (幻冬舎文庫)
奨学金免除のため刑務所の矯正医官になり、患者にナメられ助手に怒られ憂鬱な日々を送る是永史郎。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が変死する医療ミステリ。矯正医官としての鬱屈に要介護状態の母の世話もあってどうすべきか失いかけていた史郎が、CTで発見されなかった病の解明、獄中で起きた突然死や不審死の真相、仮釈放受刑者の拒否問題などに挑む展開で、大学時代の友人たちや恋人の助けも借りながら公私の問題を解決していく中で、徐々に今ここで働いている意味を見出してゆくほろ苦さ混じりの結末にはぐっと来るものがありました。
6.彼女の知らない空 (小学館文庫)
化粧品会社の新素材軍事転用を巡る社員夫婦の葛藤、自衛官の妻が知らない空で起こる無人軍用機の戦争、スキャンダルで潰れたプロジェクトを巡るあれこれ、過重労働で心身を蝕まれる会社員と老人の邂逅、徴兵制を巡る身もふたもない現実、大連のホテルを介して繋がる今と昔、宇宙飛行士を夢見た男が通した正義など、淡々と綴られてゆく組織の中で何かあった時に自らはどうあるべきか、家族との折り合いをどうつけるかというそれぞれの葛藤とその結末には心に響くものがありました。深田課長は格好良かったですし、最後の葉書がまた印象的でしたね。
7.ピカソになれない私たち
選ばれし者だけが集まる、国内唯一の国立美術大学・東京美術大学油画科。スパルタで知られる森本ゼミに属することになった望音・詩乃・太郎・和美、それぞれの葛藤を描く青春小説。地方出身で天才的な画風の望音、技術はあるがこれといった特徴のない詩乃、美大生としての自分に迷いをもつ太郎、前衛的で現代的な作風の和美。厳しい森本の下で才能とは何か、過酷な現実を何度も突きつけられ、周囲を妬みぶつかり合う厳しさを痛感しましたが、それぞれが悩んできたことに対する自分なりの解答を見出してゆくその結末にはぐっと来るものがありました。
8.金木犀とメテオラ
母を亡くした東京生まれの秀才・佳乃と、家族に問題を抱える美少女・叶の邂逅。北海道に新設されたばかりの中高一貫の女子校を舞台に、やりきれない思春期の焦燥や少女たちの成長を描く青春小説。2歳の頃から英才教育を受けてきたピアノも苛烈な受験勉強も奪われて北海道にやってきた宮田佳乃と、母親に振り回される人生から脱却しようとあがく奥沢叶。何かと比較されてライバル視するようになってゆく二人が、残酷な現実を突きつけられて焦燥を募らせてゆく中、ライバルの意外な素顔を知ったことで垣間見える希望にはぐっと来るものがありました。
9.読書嫌いのための図書室案内 (ハヤカワ文庫JA)
読書嫌いな高校二年生の荒坂浩二は、図書委員会で廃刊久しい図書新聞の再刊を任され、本好き女子の藤生蛍とともに本も絡めた数々の謎に挑む学園ミステリ。本が絡むと人が変わる藤生と一緒に挑む「舞姫」を絡めた留学生との関係、美術部の先輩から託されたタイトル不明の感想文の意味、生物の樋崎先生が広めた生物室の怪談の真相。感想文回収のために不器用な二人が真相に挑む展開でしたが、クールでやる気がないように見えるのにいざという時にはビシッと決める主人公の不思議な秘密への伏線は鮮やかで、彼らの物語をまた読んでみたいと思いました。
10.小説の神様 わたしたちの物語 小説の神様アンソロジー (講談社タイガ)
降田天さんの小説を書けずに悩む作家、櫻いいよさんの本が読めなくなった読者の葛藤、芹澤正信さんの作家にあこがれる投稿者、手名町紗名さんのマンガ、野村美月さんの文学少女と千谷一也の邂逅、斜線堂有紀さんの水浦しずを応援する二人、相沢紗呼さんの編集者河埜さんのエピソード、紅玉いづきさんのAとのエピソードなど、小説の神様を絡めてそれぞれが思い思いのアプローチでらしさを発揮していましたが、久しぶりの野村美月さんも堪能できましたし、最後に配置されていた紅玉いづきさんの書いた文章がまたいい感じに締めていて良かったですね。
11.パラ・スター Side 百花/Side 宝良 (集英社文庫)
親友で車いすテニス選手・宝良のため最高の競技用車いすを作る夢を持って車いすメーカーで入社した百花。着実に夢に向かって突き進む親友に負けじと突き進む百花の物語。交通事故で脊髄損傷し、車いすでの生活を余儀なくされた宝良を救った車いすテニス。彼女との夢を成就させるために思い立ったら迷わない百花のバイタリティには驚かされましたが、まだまだ未熟で不器用でも、目の前のことに真摯に向き合って一歩一歩前に進む彼女の熱い想いに、周囲もだんだん感化されてゆく展開がなかなか印象的でした。
東京パラリンピック女子の代表候補として注目を集めるものの、昨年末から不調が続き苦しむ車いすテニス選手の君島宝良が勝利を掴むために奮闘する物語。side 百花と対をなす今回は車いすテニス選手・君島宝良のエピソードで、これまで支えてくれた恩師が倒れてのコーチ交代などもありましたけど、それでも気持ちを切り替えて目標に向かって地道に取り組み失敗を恐れずに挑む彼女だからこそ、周囲も感化されるし支えたくなるんですよね。その最後まで諦めない戦いには燃えましたし、お互い刺激しあえる百花との関係がとてもいいと思いました。
12.死んでもいい (ハヤカワ文庫JA)
同級生が刺殺された事件の取り調べで「ぼくが殺しておけばよかった」と告白した少年の真意、幼稚園で起きたママ友の災厄の真相、数十年ぶりに再会した義姉、夫のストーカーに殺された妻の想い、三十年ぶりに訪れた街で明かされる事件の真相、そしに著者自身が登場人物となって描かれる書下ろしの「タイトル未定」を含めた連作短編集で、うまくやったと思ったら終わらない恐怖にぞっとさせられたり、意外なところで繋がっていたり、著者さんらしい作品が多かったですが、最後の「タイトル未定」はこれまでとはまた違ったアプローチで面白かったです。
13.さよならが言えるその日まで
教え子を誘拐したとされる父が事故死しひっくり返った日常。誰も何もわかってない親族や警察、マスコミに憤る遺された女子高生の娘・イオが父の名誉にかけて事件の真相を追う物語。車に残されていた行方不明だった謙介の教え子・ロクの痕跡。親戚のヒデローと調査を始めたイオが直面した意外な事実、ロクを匿った引きこもりのミキヤス、明らかになってゆくロクと父親・ツギオの関係や当時の状況。大人たちに時には振り回され助けられながら、それぞれが向き合って過去を乗り越え、新たな一歩を踏み出すエピローグにはぐっと来るものがありました。
14.その一秒先を信じて シロの篇/アカの篇 (講談社タイガ)
小学校の頃、シロと仲違いしたまま引っ越してしまった親友のアカ。数年後、天才ボクサーとなった彼の姿を動画で目にしたシロが、その強さに憧れ自分もボクシングを始める青春小説。家庭崩壊、学校でのいじめで追い詰められていたシロと、ボクシングの基礎を教えたレンの邂逅。力を出し切れないシロを変えた元いじめの主犯・守屋の想い、そして圧倒的な強さを見せるアカとの対戦という目標があって、何度も挫折してくじけそうになりながらも、周囲に支えられそのたびに這い上がって立ち向かったシロが迎えたその結末にはぐっと来るものがありました。
難病に冒された弟の治療費を稼ぐため、ボクシングで勝つことを宿命づけられたアカこと暁。勝利を重ねるごとに孤独が苛む天才ボクサーとなっていった彼の前に、幼馴染の心優しかった少年・シロがライバルとして立ちはだかる青春小説。レンにその才能を見出され、天才少年ボクサーとして注目を集めるアカ。けれど彼には病弱の弟と一人で二人を養う母親の存在があって、大切な存在であるがゆえの葛藤もありましたけど、周囲に支えられるシロを羨む彼にも信じてくれる人たちがいて、苦難を乗り越えてて対戦したシロとの激闘とその結末は印象的でしたね。
15.うつろがみ 平安幻妖秘抄 (角川文庫)
幼くして帝たる父と母を亡くし東北の鎮守府副将軍となり、蝦夷との戦いに生きてきた源譲。都で検非違使の少尉となった彼が、時の権力者・藤原基経から神霊に憑かれた姫を元に戻せと命じられる平安ファンタジー。帝位を巡る争いに巻き込まれた譲が押し付けられた基経の娘、出羽から連れてきた蝦夷の神女・為斗の存在、そして幼き頃の約束を果たすなら姫の魂を捜すという神霊・虚神と魂がさまよう魔道山。以前の立場から時の権力者たちに目の敵にされ窮地に陥りながらも、大切なものを最後まで見失わなかった譲が迎えた結末はなかなか良かったですね。
以上です。4月刊行分はライトノベルの刊行が多く、そちらの消化に忙しくて正直この辺まではあまり手が回っていなかったので、その辺追い付いたらまた機会を改めて紹介したいと思います。