読書する日々と備忘録

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2020年3月に読んだ新作おすすめ本

 というわけで2020年3月に読んだ新作おすすめ本です。

 

ラノベはシリーズ続巻中心の3月でしたが、「超高度かわいい諜報戦」は強烈なインパクトがある作品でした。貴重な宏嵩視点もある「ヲタクに恋は難しいノベライズ」は注目ですし、今月は一般文庫が二か月連続刊行の「パラ・スター」2冊は良かったですし、ファンタジーミステリ「錬金術師の密室」、「親王殿下のパティシエール」、「紙屋ふじさ記念館」「うつろがみ」など思っていた以上に豊作でした。ライト文芸/単行本のラインナップもなかなか悪くなかったです。

 

高校生で秘密諜報機関を指揮する天才少女・橘黒姫。初恋のために組織の力を濫用し、超高度な諜報技術で接触を図ろうとする彼女と、とある秘密を抱え平凡な男子生徒を装う初恋相手・凡田純一、暗殺少女・芹沢明希星のトライアングルスパイ・ラブコメ。初恋を拗らせて空回りする乙女な黒姫に、事情を知らないゆえに疑心暗鬼に陥ってゆく凡田、情報を得るため密かにアプローチを命じられた明希星。客観的状況を認識できない三者三様のすれ違いには笑ってしまいましたが、遭遇した事件から二転三転した結末の先を早く読みたくなる期待の新シリーズです。

―異能― (MF文庫J)

―異能― (MF文庫J)

  • 作者:落葉沙夢
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫
 

屈指の進学校に入学し自分の凡庸さを痛感した大迫祐樹。成績優秀で野球部エース赤根凛空と学校一可愛い月摘知海という二人の友人を取り持つモブキャラ役を自認する彼が、謎の少年から異能バトルロワイヤルに招待される物語。甘酸っぱい青春小説っぽい導入からの思っても見なかったいきなりの急展開。次々と登場する異能を秘めた登場人物たちのバトルロワイヤルを引き起こした黒幕の真意。強者と思われた異能者たちが次々と退場してゆく展開には驚かされましたが、伏線を回収していった先にあった意外な対決とその決着はなかなか良かったですね。

お前らどれだけ俺のこと好きだったんだよ! (GA文庫)
 

初めての恋人だった生徒会長にわずか一週間でフラれた高校生・芦宮隆人。そんな彼がかつて中学時代に交流のあった後輩・月ノ瀬白雪に秘密の部活・第二天文部の部室へ誘われる青春ラブコメディ。彼への恋心を自覚した後輩・月ノ瀬白雪、年上幼馴染舞咲くらら、クラスメイトでバイト仲間の櫛水乃愛。プライドが高く非恋愛脳だったヒロインたちは恋愛スキルが低くて空回りしまくりで、トラウマから自意識過剰を疑う主人公の噛み合わなさっぷりには苦笑いでしたけど、四人まとめてひとつの部活に放り込まれてどうなるか、今後に期待のシリーズですね。

ふじた先生推薦の作家華路いづるさんが描く『ヲタクに恋は難しい』ノベライズ。宏嵩視点で描かれる小学生の頃から再会して付き合い始まるまでの成海と宏嵩、採用というのは彼氏としてなのか売子同伴としてなのか悩む宏嵩、こーくん視点で語られる尚くんやその友人たちとの出会い、樺倉と花の初デート、いつものメンバーたちとメイドとして二藤家に仕える成海など八話収録で、興味深いエピソードが多かったですね。特に最初の方にある宏嵩視点の心情描写がなかなか秀逸だったと思いました。挿入されていたイラストはふじた先生描き下ろしとのこと。

 

 

パラ・スター 〈Side 百花〉 (集英社文庫)

パラ・スター 〈Side 百花〉 (集英社文庫)

  • 作者:阿部 暁子
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
 

親友で車いすテニス選手・宝良のため最高の競技用車いすを作る夢を持って車いすメーカーで入社した百花。着実に夢に向かって突き進む親友に負けじと突き進む百花の物語。交通事故で脊髄損傷し、車いすでの生活を余儀なくされた宝良を救った車いすテニス。彼女との夢を成就させるために思い立ったら迷わない百花のバイタリティには驚かされましたが、まだまだ未熟で不器用でも、目の前のことに真摯に向き合って一歩一歩前に進む彼女の熱い想いに、周囲もだんだん感化されてゆく展開がなかなか印象的でした。親友・宝良視点の続巻にも期待しています。

パラ・スター 〈Side 宝良〉 (集英社文庫)

パラ・スター 〈Side 宝良〉 (集英社文庫)

  • 作者:阿部 暁子
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫
 

東京パラリンピック女子の代表候補として注目を集めるものの、昨年末から不調が続き苦しむ車いすテニス選手の君島宝良が勝利を掴むために奮闘する物語。side 百花と対をなす今回は車いすテニス選手・君島宝良のエピソードで、これまで支えてくれた恩師が倒れてのコーチ交代などもありましたけど、それでも気持ちを切り替えて目標に向かって地道に取り組み失敗を恐れずに挑む彼女だからこそ、周囲も感化されるし支えたくなるんですよね。その最後まで諦めない戦いには燃えましたし、お互い刺激しあえる百花との関係がとてもいいと思いました。

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:紺野 天龍
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
 

世界に七人しかいない錬金術師。その一人アスタルト王国のテレサ大佐が、お目付け役エミリア少尉と赴いた蒸気都市トリスメギストスで錬金術師フェルディナント三世の殺人件に遭遇するファンタジーミステリ。フェルディナント三世が成し遂げたという魂の解明。三重密室で起きた殺人事件の容疑を晴らすため、破天荒なテレサと振り回されるエミリアのコンビで事件解決に挑む展開でしたが、事態が二転三転する中で見えた意外な真相と、因縁に導かれるように出会った真逆の似た者同士の結末には唸らされました。これは続巻に期待せずにはいられませんね。

親王殿下のパティシエール (ハルキ文庫)

親王殿下のパティシエール (ハルキ文庫)

  • 作者:篠原悠希
  • 発売日: 2019/12/16
  • メディア: 文庫
 

華人移民を母に持つフランス生まれのマリー・趙が、革命後の混乱から救ってくれた清王朝乾隆帝の第十七皇子・永璘お抱えの糕點厨師見習いとして北京で働くことにばる中華ロマン小説。マリーがフランスの菓子職人見習いから清の御膳房に立場を変えて戸惑い苦労する様子はなかなか興味深いものがありましたけど、永璘不在の不安な状況でも試行錯誤しながらの頑張り認められ、自分で居場所を得てゆくマリーの前向きな姿勢がなかなか良かったですね。何かとマリーを気にかけてくれる永璘との関係性が、これからどう変わってゆくのか続巻に期待です。

紙屋ふじさき記念館 麻の葉のカード (角川文庫)
 

編集者の母と二人暮らしの大学生・百花。ある日、叔母に誘われた「紙こもの市」で紙雑貨の世界に魅了され、老舗企業「紙屋ふじさき」の親族で記念館の館長・一成と出会う物語。ふとしたきっかけから百花が作った紙細工を通して関わり合うようになり、イケメンだけれど無愛想な一成の紙への真摯な想いを知ってゆく百花。友人や一成の祖母に背中を押されて、お互い刺激を受けながらこもの市の商品を考えたり、記念館をもっと魅力あるものに変えていこうする展開はなかなか良かったですね。少しずつ変わってゆく彼らのこれからをまた読んでみたいです。

うつろがみ 平安幻妖秘抄 (角川文庫)

うつろがみ 平安幻妖秘抄 (角川文庫)

  • 作者:三好 昌子
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 文庫
 

幼くして帝たる父と母を亡くし東北の鎮守府副将軍となり、蝦夷との戦いに生きてきた源譲。都で検非違使の少尉となった彼が、時の権力者・藤原基経から神霊に憑かれた姫を元に戻せと命じられる平安ファンタジー。帝位を巡る争いに巻き込まれた譲が押し付けられた基経の娘、出羽から連れてきた蝦夷の神女・為斗の存在、そして幼き頃の約束を果たすなら姫の魂を捜すという神霊・虚神と魂がさまよう魔道山。以前の立場から時の権力者たちに目の敵にされ窮地に陥りながらも、大切なものを最後まで見失わなかった譲が迎えた結末はなかなか良かったですね。

大正時代を舞台にちょっと変わった横濱女子仏語塾(実は魔女学校)に通う魔女の卵たちが大活躍する物語。薬草学や占い、ダンス(箒で空を飛ぶことを、そう呼ぶ)も学ぶ小春、宮子、透子の三人のあやかし女学生を中心として、新聞記者でもある年上の甥っ子が持ち込んできた奇妙な噂話をきっかけに、巨大なアメリカ豹を巡る騒動に巻き込まれてゆく展開で、思っていたほどには大正浪漫感はなかったですけど、元気で個性的な少女たちが力を合わせてピンチを乗り越えてゆく展開はなかなか楽しかったですね。魔女学校三部作とのことで続巻にも期待です。

 

 

クリスマス間近、ベテルギウス超新星爆発を観測した日の夜。昴の乗った京浜東北線終電車の第二車両が突如消失。5年後の開通していないはずの高輪ゲートウェイ駅に飛ばされてしまうSF青春小説。いきなり直面する五年後の世界に呆然自失とする昴、瞳、勇作、晟生、真太郎の乗客たち五人のそれぞれの事情。彼らに突き付けられた五年の経過によってもたらされた変化は残酷で、それでいて変わらない想いもあって、そんな彼らが出会った運命の悪戯と、諦めきれない想いを取り戻すべく奮闘したその結末には確かな救いがあってなかなか良かったですね。

古文書に傾倒し、周囲から《解読師》と呼ばれる歴史学専修の院生・綱手。研究室で見つかった古文書の返却を任じられた綱手は、友人の相馬とともに瀬戸内海の小さな島を訪れる古文書ミステリ。相馬に振り回されつつ返却を済ませた綱手が遭遇する島に伝わる『白妙姫伝説』を模した連続殺人事件。白妙姫の生まれ変わりと信奉される少女、内容が欠けた謎の手記。専門的な内容になると途端に饒舌になるあたりには苦笑いでしたけど、相馬と二人で古文書から謎を解き明かしてゆく展開はなかなか良かったですね。シリーズ続刊あるならまた読んでみたいです。

六十歳で暗殺者の凶刃に倒れた皇妃エリザベート。亡霊のままハプスブルク帝国滅亡までを見届けさせられた彼女が、六歳の少女に逆戻りし二度目の人生を歩む歴史ファンタジー。二度と同じ不幸な人生は歩みたくないと決意した彼女が目指す方向はそっちですかw とツッコミを入れたくなるリスタートでしたけど、フランツ・ヨーゼフとの運命の出会いを回避しようと思っても、ますますドツボにハマってゆく展開はなかなか微笑ましくて、周囲の人々の不幸になるはずの運命もまとめて回避しようと奔走する彼女が迎えた幸せな結末はなかなか良かったですね。

大納言だった父と母を続けて亡くし、親が決めていた縁談も破断になってしまった沙羅。入内した従姉妹の女房として内裏に入った彼女が、十年ぶりにかつての許嫁・右近少将藤原朝蔭と再会する平安後宮ロマン。他人に騙されて家の財産も失った忘れかけていた沙羅。再び二人で想いを育む中で明らかになってゆく右大臣家の姫君と朝蔭の縁談の噂。なかなか不憫な境遇の沙羅でしたけど、周囲を駒としてか見ない父相手に振り回されながらも、彼女と添い遂げるために戦って見事状況を覆し、取り戻してみせた朝蔭の奮闘とその結末はなかなか良かったですね。

うっかり写真を撮ろうとしてしまったことで、クラスの人気者・香織の専属カメラマンにされてしまった輝彦。自由奔放な香織に振り回されっぱなしの彼が彼女に感化され、少しずつ変わってゆく青春小説。印象的な姿を撮りたいと思ったことから始まった二人の関係。ともに過ごし想いが変化してゆくことを自覚した輝彦が知ってしまう彼女が抱える秘密。彼女がそれを受け入れることも、寄り添うこともまた容易なことではなかったとは思いますが、二人でやりたいことをやり切った二ヶ月間、そして彼女との出会いが輝彦を変えてゆくその結末は印象的でした。

その終末に君はいない。 (スターツ出版文庫)

その終末に君はいない。 (スターツ出版文庫)

  • 作者:天沢夏月
  • 発売日: 2020/01/28
  • メディア: 文庫
 

高2の夏。親友の和佳と共に交通事故に遭った伊織。病院で目覚めるも事故直前で入れ替わってしまい、本来の伊織は死んだ状態で混乱する伊織が始める和佳としての生活とその変化が描かれる青春小説。入れ替わって初めて知る密かに憧れを抱いていた和佳の状況、密かに片想いしていた和佳の恋人・秀の存在、そして入れ替わりを見抜いた佐島の存在。いったんは新生活に希望を見出して葛藤しながらも、きちんと向き合い決断した伊織は立派でしたけど、そんな結末の先にあった最後のプロローグで明かされるもうひとつの真実が持つ意味には戦慄しました…。

美大日本画科に通う大学生詩子と、幼い頃から知る青年・七森が、二人で散逸した詩子の先祖で江戸末期の妖怪絵師・月舟の百枚連作の妖怪画を探すファンタジー。本物が封じ込められているという月舟の妖怪画を巡る因縁が描かれる展開で、月舟の絵に執着する画商・九十九の暗躍と、複雑な事情を抱える詩子と七森の関係。憑きもの落としや絵を巡る過去の因縁の清算がメインでしたけど、お互い相手をかけがえのない存在と自覚しながらも、なかなか上手く向き合えない詩子と七森の何とも不器用な距離感にはついもどかしい気持ちになってしまいました。

鬼恋語リ (集英社オレンジ文庫)

鬼恋語リ (集英社オレンジ文庫)

 

戦いの最前線だった椿ノ郷の若き郷長・雪疾の死を以て一時休戦となった鬼と人間の対立。郷長の妹・冬霞は和平の証として雪疾を討った鬼の頭領・緋天へ嫁ぐ恋と陰謀の和風幻想譚。わずか十二歳で都での人質生活から鬼へ嫁ぐことになった冬霞が知る、緋天の意外な素顔と一枚岩ではない鬼の事情。彼女が探る兄の死の真相と暗躍する人側の事情。幼くて緋天に妹扱いされてしまう冬霞でしたけど、そんな境遇に甘んじない積極性もあって、不安要素も多かった和平交渉のキーマンとなって、鬼たちにも認められてゆく存在に成長してゆく展開は良かったですね。

君がいて僕はいない (集英社オレンジ文庫)

君がいて僕はいない (集英社オレンジ文庫)

 

小6の冬に好きだった瑚都が中学受験できなくなるきっかけを作ってしまい、悔恨を抱えて生きてきた添槇城太郎。大学受験に落ちた日、衝撃的な出生の秘密を知った絶望から「自分だけがいない」世界に飛んでしまう物語。もうひとつの世界で久しぶりに巡り会った瑚都に感じた少しの違和感。徐々に明らかになってゆく周囲の人たちの未来。彼に突きつけられた現実は過酷だなと感じましたけど、一方で瑚都の知られざるその後の状況も明らかになって、再び繋がる過去と未来、意外な事実が明らかになった彼らが迎える結末には希望が感じられて良かったです。

 

神保町で紙鑑定事務所を営み、どんな紙でも見分けられる男・渡部。「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした訪問客にプラモデル写真を元に浮気調査を依頼されるミステリ。紙の鑑定を絡めたミステリなのかと思いながら読み始めましたが、勘違いから始まるまさかのジオラマを元に事件を解決してゆくスタイルには正直ビックリしました(苦笑)伝説のプラモデラー・土生井の安楽椅子探偵っぷりや、テンポよく進むストーリーは謎解きものとしては粗削りな感がある一方で、爆走するお嬢さんとかキャラ小説としては意外と面白かったのでシリーズ化に期待。

さよならが言えるその日まで

さよならが言えるその日まで

  • 作者:高木 敦史
  • 発売日: 2020/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

教え子を誘拐したとされる父が事故死しひっくり返った日常。誰も何もわかってない親族や警察、マスコミに憤る遺された女子高生の娘・イオが父の名誉にかけて事件の真相を追う物語。車に残されていた行方不明だった謙介の教え子・ロクの痕跡。親戚のヒデローと調査を始めたイオが直面した意外な事実、ロクを匿った引きこもりのミキヤス、明らかになってゆくロクと父親・ツギオの関係や当時の状況。大人たちに時には振り回され助けられながら、それぞれが向き合って過去を乗り越え、新たな一歩を踏み出すエピローグにはぐっと来るものがありました。

いいからしばらく黙ってろ!

いいからしばらく黙ってろ!

 

実家では上と下の双子に振り回される生活を送り、大学卒業直後には婚約者も就職先も住む場所さえなくなってしまった富士。ふとしたきっかけから弱小劇団の運営にのめり込んでゆく青春小説。大学卒業後に親の勧めでお見合い結婚する予定が白紙にされて、その傷心を友人だと思っていた同級生たちに全否定された富士。そこからどう考えても破綻寸前の弱小劇団バリスキに魅せられたのめり込んでゆく彼女が、ほんとにその選択でいいの?を何度も突き付けられながら、それでもハイテンションで最後まで駆け抜ける展開には著者さんらしさがよく出てました。

GETUP!GETLIVE!

GETUP!GETLIVE!

  • 作者:航, 渡
  • 発売日: 2020/02/12
  • メディア: 単行本
 

東京神田神保町のお笑い養成所SSSで、日々学びオーディションを受け、バイトとネタ作りに追われる3組のコンビが、日本一、世界一のお笑い芸人を目指す青春ストーリー。共感系幼馴染がコンビ「スターダスト」、古典的漫才に活路を見出そうとする「菊一文字」、今どきのネタも駆使する「6‐シックス‐」の3組が、それぞれの抱える事情に迷い、ぶつかり合いながら、テレビ出演枠を目指して戦う展開でしたけど、どのスタイルだから正解ということもなくて、自分たちを選んでもらえるよう、自分たちのやり方を貫く姿がなかなか印象的な物語でした。

ウミガメみたいに飛んでみな

ウミガメみたいに飛んでみな

  • 作者:木村 椅子
  • 発売日: 2020/01/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

北海道を舞台に気は優しくて情けないモラトリアムを生きる若者たちの葛藤を瑞々しく描いた連作短編集。バンド脱退でらしさを失った父とロック好きな娘、無難に生きてきた父とナイフを隠し持つ息子、父と衝突し家を出た母を思う娘、金髪に染めた中学生と兄、結婚を機に失踪していた父を探した男、祖母を亡くした娘の悲しみ、帰省したら父がアイドルの追っかけをしていた大学生など、それぞれ鬱屈を抱える主人公たちの葛藤とこじれた周囲との関係があって、けれど終わってみれば意外と悪くない結末に落ち着く展開の妙がなかなか印象的な短編集でした。