読書する日々と備忘録

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今だからこそ読みたい!一般文庫15選

ということで勢いで作った今だからこそ読みたい!シリーズの最後、第四弾一般文庫編です。こちらもこれまであまりこれまでセレクトしてこなかった作品も含めつつ、印象に残っている15作品を選んでみました。以上四企画、今の時期しばらくは外出なども難しい判断を迫られる日々は続きそうですが、そんな状況の気分転換になれば幸いです。

 

1.どうかこの声が、あなたに届きますように (文春文庫)

地下アイドル時代に心身に深い傷を負い、鎌倉の祖母のもとでひっそりと生活を送っていた小松奈々子20歳。そこに突然現れたラジオ局ディレクター黒木から番組アシスタントにスカウトされる物語。母親に認められるために頑張っていたアイドル活動に挫折して、希望を失いかけていた奈々子が挑戦するラジオの世界。戸惑いながら始めた彼女が多くの人に支えられて成長し、切実な日々を生きるリスナーたちと交流を深めていって、何度か危機に直面しながらも、これまでの放送で積み重ねてきたみんなの力を合わせて乗り越えていくとても素敵な物語でした。

 

2.明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

 

あるトラブルがきっかけで大学を休学し、実家を離れて期間限定の自立を始めた富山。人に言えない葛藤や臆病な自分に自信喪失気味だった彼が、バイトするコンビニで印象的な人たちと出会う青春小説。バイトリーダーの鹿沢や同級生の氷川、同じラジオ番組のヘビーリスナーの女子高生・佐古田たちと出会い、繋がっていくことで少しずつ変わってゆくその心境。誰しも不器用な一面があって、上手くいくことばかりでもなくて、けれどそんな彼らとの関わりから生まれる様々な出来事が、前へ進むきっかけに繋がってゆく展開にはぐっと来るものがありました。

 

3.騙し絵の牙 (角川文庫)

騙し絵の牙 (角川文庫)

騙し絵の牙 (角川文庫)

  • 作者:塩田 武士
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: 文庫
 

大手出版社で雑誌編集長を務める速水。上司の相沢から自身の雑誌の廃刊を匂わされたことをきっかけに、組織の思惑に翻弄されながらも懸命に抗う物語。作中では出版業界の厳しい状況が端的に描かれていて、部下や上司に振り回され大規模リストラや社内他誌の廃刊に直面したり、さらには家庭不和まで顕在化して、どんどん追い詰められてゆく速水。一方で出版界の新たな可能性の模索もあって、絶望しか見えなかった先にあった思わぬ展開には驚かされましたが、一見輝ける未来を手にしたかに見えた彼が直面する何とも皮肉な結末がとても効いていました。

 

4.私を知らないで (集英社文庫)

私を知らないで (集英社文庫)

私を知らないで (集英社文庫)

  • 作者:白河 三兎
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: 文庫
 

転校を繰り返して無難に生きることを覚えてしまった慎平と、クラスで孤立していたキヨコ、そんな彼女を救おうとしながらも、引きこもりになってしまった高野の物語。頭では冷静に計算しつつもキヨコが気になって仕方ない慎平は、彼女を知るたびに惹かれていって、でもおじさんがキヨコを訪ねてきたことでどこか予感できた結末。苦境に陥ったキヨコを救うには中学生はあまりにも無力で、ただ「普通になりたい」という彼女の思いを叶えるために、もっと上手く立ちまわることもできたのに、そうしなかった慎平の決断には、泣きたくなってしまいました。

 

5.赤と白 (集英社文庫)

赤と白 (集英社文庫)

赤と白 (集英社文庫)

  • 作者:櫛木 理宇
  • 発売日: 2015/12/17
  • メディア: 文庫
 

地方の豪雪地帯の閉塞感を日々感じながら、親との関係があまりうまくいっていない女子高生4人が、些細な選択の積み重ねからどんな結末を迎えることになったのかという物語。この年頃は理不尽な親の物言いにどうしようもない無力感を感じるものですが、それでも決断すべき時に決断することで変わることもあるし、その時流されることでより悪くなることもある。最初に起こった事件記事が書かれているのですが、物語として描かれていた過程は思っていた以上の女の子たちのリアルなやりとりで、その生々しい感情にドキッとさせられました。

 

6.ずっとあなたが好きでした (文春文庫)

ずっとあなたが好きでした (文春文庫)

ずっとあなたが好きでした (文春文庫)

 

バイト先の女子高生との淡い恋、転校してきた美少女へのときめき、年上劇団員との溺れるような日々、集団自殺の一歩手前で抱いた恋心、そして人生の夕暮れ時の穏やかな想いが綴られてゆく恋愛小説集。年齢や状況もバラバラな恋の行方と意外な結末。最初は普通の恋愛小説ではあまりない展開で新鮮だなあと思いつつ読んでましたが、途中から読んでいてうん?となって、だんだんその違和感に気づいて、最後でやられた!となりました。一気読みするには分厚いですが、その分手応えを感じた一冊で巻末の解説も必見。それにしても懲りていない結末には苦笑いでした。

 

7.希望が死んだ夜に (文春文庫)

希望が死んだ夜に (文春文庫)

希望が死んだ夜に (文春文庫)

  • 作者:涼, 天祢
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: 文庫
 

同級生春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された14歳の女子中学生・冬野ネガ。彼女は犯行を認めたものの動機は一切語らず、神奈川県警捜査一課・真壁と生活安全課・仲田がコンビで事件解決に挑む社会派青春ミステリ。なぜお嬢様だったのぞみが貧困母子家庭の少女・ネガ殺されたのか。周囲に聞き込みをしてもなかなか見えてこない彼女たちの接点と動機。けれどある情報をきっかけに事件の構図もガラリと様相を変えて、過酷な環境でもささやかな夢に希望を見出そうとした少女たちが踏みにじられ、絶望を突き付けられる理不尽さに胸が痛くなりました。

 

8.プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:早瀬 耕
  • 発売日: 2018/03/20
  • メディア: 文庫
 

有機素子コンピュータによる会話プログラムの共同研究者を失い何も手につかなくなった南雲助教と、列車に轢かれて亡くなった元恋人の会話を再現しようとする学部生の佐伯衣理奈。そんな前に進めない二人が巡り合う連作短編集。会話プログラムとのやりとりを交えつつ繰り広げられる、共同研究者、契約社員、元恋人、そして南雲と衣理奈のエピソード。概念自体はやや難解でしたが、理系らしい合理思考と割り切れない情念のせめぎ合いの中で変化してゆく不器用な人間模様はとても優しくて、そんな彼らが迎えた結末はなかなか心に響くものがありました。

 

9.女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

 

自分の目の前で幼馴染・歩巳が暴漢に襲われ姿を消した事件をきっかけに、棋士を諦めたかつての天才少年棋士・香丞。高校で美貌の女流棋士として再会した彼女が再び何者かに襲われ、その事件の真相を追う将棋ミステリ。コンピューター将棋が棋士に勝つのが当たり前になった近未来が舞台。謎解きのアプローチにいくつか後出し設定もあったのは少し気になりましたが、棋士を目指すもう一人の幼馴染・桂花も交えた三角関係の機微や、コンピューター将棋の考察も絡めながらたどり着いた結末の意味にはなるほどと納得してしまいました。面白かったです。

 

10.サラの柔らかな香車 (集英社文庫) ※2巻まで刊行

サラの柔らかな香車 (集英社文庫)

サラの柔らかな香車 (集英社文庫)

  • 作者:橋本 長道
  • 発売日: 2014/09/19
  • メディア: 文庫
 

プロ棋士の夢破れた瀬尾が金髪碧眼の日系ブラジル人の少女サラに出会い、彼女に将棋の才を見出して将棋を教えるところから始まる物語。将棋のプロになれなかった場合の厳しい現実も描写されていますが、何より波はあるものの時折驚異的な才能の発露を見せ、周囲の人たちの人生に少なからず影響を与えながら、言語能力に乏しくてほとんど会話にならないサラの特異性が際立っていました。澱んだ将棋へのこだわりに縛られた人たちの想いを、将棋の対局を通して変えていくサラが、そして彼女の将棋が今後どうなっていくのかとても気になる物語でした。

 

11.神の値段 (宝島社文庫)

神の値段 (宝島社文庫)

神の値段 (宝島社文庫)

 

人前には一切姿を見せない前衛芸術家・川田無名。唯一繋がりがあったギャラリー経営者永井唯子が殺され、アシスタントの佐和子が犯人や無明の居場所、最後に残された作品の謎を探るべく動き出す物語。唯子の突然の死によってその後始末に奔走する佐和子、事件後も見つからないまま生死すら不明の無名、彼が1959年に描いた作品が今売りに出される意味。殺人事件自体の真相はわりとありふれていましたが、それ以上に新しい事実が判明する度にガラリと変わってゆく登場人物たちの印象、作中で語られる芸術家のありようや作品に対する考え方はとても面白かったと思いました。

 

12.次回作にご期待下さい (角川文庫) ※2巻まで刊行。

次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

 

仕事に追われる月刊漫画誌の若き編集長で苦労人の眞坂崇とトンデモ天才漫画編集者・蒔田が、漫画バカの編集者たちや漫画に命をかける漫画家たちとともに日常のお仕事に潜む謎を解き明かしてゆくお仕事小説。落とし物をきっかけに出会ったビルの夜間警備員・夏目の謎、打ち切りに悩む漫画家とのやりとりやヘッドハンティング、そして盗作疑惑の真相など、漫画雑誌はほんと大変な仕事なんだなと実感させる一方で、それでも登場人物たちが面白い漫画を作りたいという想いからぶつかり合うなかなか熱い作品でした。

 

13.四月一日(わたぬき)さんは代筆屋 (宝島社文庫)

四月一日(わたぬき)さんは代筆屋 (宝島社文庫)

四月一日(わたぬき)さんは代筆屋 (宝島社文庫)

  • 作者:桜川 ヒロ
  • 発売日: 2018/10/04
  • メディア: 文庫
 

『筆の都』と呼ばれるところにある代筆屋。四月一日(わたぬき)さんというふくよかで可愛らしい男性の元を訪れる様々な人たちの物語。結婚を前にわだかまりを残した両親への手紙や、すれ違ってしまった年上の幼馴染に対する変わらぬ想い、孫にあてた入学祝いの手紙や就職活動の履歴書など、それぞれのエピソードには意外な事情もあって、個別の話かと思ったら思わぬ形で繋がりも見えてきたりで、代筆するだけでなくさりげなく軌道修正しながら最善へと導いてゆく訳ありな四月一日さんの仕事ぶりと、後日談的なエピソードがとても素敵な物語でした。

 

14.少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

 

法律事務所に務める新米弁護士木村と有能な先輩・高塚のコンビが挑む連作リーガル・ミステリ。15歳の少女に手を出したとして逮捕された元家庭教師、中退した元同期の覚悟、浮気され離婚を望む男が親権を望んだ理由、そして高名な芸術家と娘の関係の4話からなる構成で、最初は一見よくあるありふれた事件に思えますが、それが性格の違う弁護士コンビによる別視点からのアプローチによって、もうひとつの構図を浮かび上がらせてゆく構成となっていて、事件決着後に木村が垣間見るほろ苦くもなかなか味わいのある結末がとても印象的な物語でした。

 

15.捕食 (創元推理文庫)

捕食 (創元推理文庫)

捕食 (創元推理文庫)

  • 作者:美輪 和音
  • 発売日: 2017/08/31
  • メディア: 文庫
 

つらい過去があり男性が苦手な真尋と、彼女と知り合い急速に距離を縮めるいづみ。彼女と一緒なら自分は変われると信じていたはずの真尋に不審が芽生え、いづみの謎多き過去を追うサスペンスミステリ。過去を追う過程で明らかになってゆく、似た境遇だった彼女の選択とその周囲で姿を消してしまった人たち。何かあるたびにハナカマキリのように脱皮を繰り返してきた彼女がなり得たものは何だったのか。やや詰め込み過ぎた感もありましたが、ぐいぐい読ませる展開の末に迎えるいろいろ想像できてしまうエピローグは、この物語らしい結末に思えました。

 

以上です。気になる本があったら是非読んでみて下さい。