読書する日々と備忘録

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青春小説とホラーの二面性 櫛木理宇さんの14作品

 以前作家企画第一弾として相沢沙呼さんの作品を取り上げました。

今回は作家さん企画第二弾ということで櫛木理宇さんを紹介したいと思います。櫛木理宇さん2012年、『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞してデビュー、同年、『赤と白』で第25回小説すばる新人賞を受賞している作家さんです。個人的には『ホーンテッド・キャンパス』から読みはじめて、『赤と白』を読んでから今に至るまで追い続けてきた、書籍化されている作品は全て読んでいる数少ない作家さんの一人です。

 

櫛木理宇さんの作品には根底にホラーや人が隠し持つ恐ろしさの描写がありますが、その作品には『ホーンテッド・キャンパス』に代表されるような青春小説テイストを絡めた系譜と、「赤と白」に代表される狭い地域で起こる惨劇やホラーを前面に押し出した系譜があります。読んでみるとだいぶ印象が違うため、知らずになんとなく読むと驚かれる方も多いですが、この二面性こそが著者さんの大きな特徴であり魅力なのだと思います。

 

これまで前者は文庫での刊行、後者は単行本で刊行と棲み分けがされていましたが、近年単行本で刊行されていた作品も続々と文庫化が進んでいます。手に取りやすくなってきた状況ということもあり、今回その作品群を紹介してみるいい機会だと思いました。文庫化されたものはそちらを優先して紹介していますが、文庫化にあたり改題された作品もあるため単行本時のタイトルも記載しています。

 

1.ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

 

幽霊が視えてしまう体質の森司が、心配で見守っていた高校時代の後輩こよみと大学で再会。一緒に入ったオカルト研究会での日々は、ホラーというよりはライトなオカルトミステリー。森司視点で語られるヘタレぶりがなかなか容易に進展しないことを伺わせますが「いずれその日が来るのを待ってます」「そういう人だって知っています、ずっと前から」等々、淡々と話が進む中での会話の端々に、感情があまり表に出ないこよみの森司をよく知ってます感が織り交ぜられていて、読んでいる方が付き合っちゃえよとなるジレジレ感を楽しむシリーズです。現在15巻まで刊行。

2.ドリームダスト・モンスターズ (幻冬舎文庫)

悪夢に悩まされ、クラスから孤立しつつあった女子高生晶水が、彼女に興味を持つ同級生壱とその祖母の夢見で救われたことをきっかけに、彼らが扱う夢に関する依頼に関わっていくお話。依頼者の悪夢に潜り込んで探り、依頼者自身に原因を気づかせる解決方法はある程度パターン化していましたが、「好き」とストレートにぶつけてくる壱と、いろいろ教えてくれる祖母の組み合わせに、いつの間にか馴染んでしまった晶水は由緒正しきツンデレ。毎回壱の新たな一面を知って、少しずつ縮まっていく二人の距離感が良かったです。現在3巻まで刊行。

3.アンハッピー・ウエディング 結婚の神様 (PHP文芸文庫)

幼馴染の史郎を一方的に恋慕い、彼との結婚を夢見る会社員の咲希。そんな彼女が妹の紹介で結婚資金を稼ぐために副業で結婚式の「サクラ」のバイトとして働く物語。同じサクラの百合香とともに臨む憧れの結婚式場で次々と起こる略奪婚、歳の差婚、毒親といったワケアリ結婚式の数々。長年の片想いでずっと近くにいるのに、なかなか見えてこない史郎ことシロの本音。これでもかとばかりに結婚の現実が突きつけられて、頻発するトラブルからひとつの構図が見えてきて、それでも結婚に憧れる咲希の真っ直ぐな想いとその結末は心に響くものがありました。

4.僕とモナミと、春に会う (幻冬舎文庫)

僕とモナミと、春に会う (幻冬舎文庫)

僕とモナミと、春に会う (幻冬舎文庫)

 

人と話すことが大の苦手で毎週水曜日に原因不明の熱に悩まされている高校生の翼。病院の帰り道に偶然立ち寄った奇妙なペットショップで不思議な猫と出会い、家で飼うことになる物語。彼だけには別のものに見える不思議な猫・モナミとの出会いが転機となって、自身のわだかまりを解消しいろいろなものへの見る目が変わっていったり、お店でのバイトで同じようなお客と関わって一緒にその不安を解消したりで、その世界が少しずつ広がってゆくことを実感する物語は、とても読みやすくて良かったなと思える読後感でした。続刊を読んでみたい作品ですね。

5.お城のもとの七凪町 骨董屋事件帖 (朝日エアロ文庫)

お城のもとの七凪町 骨董屋事件帖 (朝日エアロ文庫)
 

城下町・七凪町の骨董店で住込みの職人見習いとして働く荒木堅吾が、狭い町内で発生する事件を解決するミステリー。老人たちに囲まれた日常のせいか主人公・堅吾は高校を卒業したばかりとは思えない落ち着きぶりでしたが、著者さんらしいホラーテイストな事件を同級生や人情味豊かな老人たちと協力しつつ解決していく物語の雰囲気はなかなか良かったです。師匠が入院で不在の中、共に生活する師匠の孫娘である樋田四姉妹は昔からお互いをよく知る間柄で、長女雪・次女菊とのお互いを思いやるような繊細な三角関係にも期待したいシリーズでした。

 

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6.赤と白 (集英社文庫)

赤と白 (集英社文庫)

赤と白 (集英社文庫)

 

地方の豪雪地帯の閉塞感を日々感じながら、親との関係があまりうまくいっていない女子高生4人が、些細な選択の積み重ねからどんな結末を迎えることになったのかという物語。この年頃は理不尽な親の物言いにどうしようもない無力感を感じるものですが、それでも決断すべき時に決断することで変わることもあるし、その時流されることでより悪くなることもある。最初に起こった事件記事が書かれているのですが、物語として描かれていた過程は思っていた以上の女の子たちのリアルなやりとりで、その生々しい感情にドキッとさせられました。

7.死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA) ※単行本名「チェインドッグ」

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

 

鬱屈した日々を送る大学生・筧井雅也の元に、連続殺人鬼・榛村大和から唯一の冤罪を訴える手紙が届き、彼の生い立ちや事件の再調査を進めていくことを決意する物語。榛村と面会し調査を進めていくうちに、周囲から明るくなった、変わったと言われる一方で、昔をよく知る灯里には違和感を指摘される雅也。調べていくうちに意外なところで繋がっていく過去の負の連鎖と、榛村という恐ろしい存在にいつの間にか魅入られていく恐怖。決別してようやく平穏を取り戻せたかと思われた描写の裏で、まだまだ終わらない連鎖が示唆されるエピローグは秀逸です。

8.避雷針の夏 (光文社文庫)

避雷針の夏 (光文社文庫)

避雷針の夏 (光文社文庫)

 

「よそものは、死ぬまでよそもの」それがこの町のルール。旧弊甚だしい閉ざされた小さな町で、夏祭りを前に町役場のガーゴイル像が破壊されたことをきっかけに始まる崩壊。田舎町を舞台にした物語でしたが、誰もがどこかで道を違えたことを自覚しながら目をそらし、修復不可能なまでに溜まる鬱屈。簡単には覆せない狭い世界での数の圧力。井戸端会議やSNSなどで些細な噂がいつのまにか事実になってしまうようなことはどこにでもありうることで、その生々しい描写にハッとさせられることも多かったです。少女たちの家族、やり直せるといいですね。

9.侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫) ※単行本名「寄居虫女」

事故で亡くした息子と同じ名前の少年・朋巳。彼を家に入れた結果、その母親や弟まで寄生を始め徐々に家を侵食されていく物語。父親があまり寄り付かない家庭の隙間に入り込んで洗脳してゆく過程があまりにも巧妙で、狡猾に煽って分断されたことでお互い対立して孤立し変わり果ててしまう母親や姉妹たちの変貌ぶり。家族内で微妙な扱いであったがゆえに、ただ一人危機感を失わなかった美海という皮肉な展開。そんなどうにも救いようがない感じに追い詰められていくのに、エピローグでは穏やかな雰囲気になってしまっているのがまた恐ろしかったです。

10.瑕死物件 209号室のアオイ (角川ホラー文庫)

※単行本名「209号室には知らない子供がいる」

瑕死物件 209号室のアオイ (角川ホラー文庫)

瑕死物件 209号室のアオイ (角川ホラー文庫)

 

 

リバーサイドに建つ瀟洒なマンションサンクレール。209号室に住む葵という名の美少年によって、一見「ちゃんとして」見える女たちが静かに歪み壊れていくホラーミステリ。ふとした隙に家庭に入り込む葵によって、歪められてゆく家族とそれによって追い詰められてゆく妻たち。マンションで立て続けに起こる怪事件と、少しずつ明らかになってゆく謎めいた209号室の事情。少しずつ壊れてゆく関係の描写がとても生々しくて、一区切りついたかに見せかけてゾクリとさせる部分を最後に垣間見せる怖さに、著者さんらしさがよく出ていると思いました。
11.少女葬 (新潮文庫)  ※単行本名「FEED」

少女葬 (新潮文庫)

少女葬 (新潮文庫)

 

家出したふたりの少女が出会ったのは最底辺のシェアハウス。お互い親友と感じていた綾希と眞美が、些細な行き違いから歩む道が分岐してしまう物語。生まれや育ちは違えども、家出して行き場のない存在としてたまたま同室になった二人。確かに綾希の方が考えて慎重に行動してはいましたが、転落してゆく眞美と転機が訪れた綾希の明暗を分けたのは、出会いや巡り合わせといった運の要素も大きかったですね。残酷なまでに差がついた二人の対比描写は辛いものがありましたが、立場を違えても親友としての絆は忘れなかった二人に微かな救いを感じました。

 

12.世界が赫(あか)に染まる日に

世界が赫(あか)に染まる日に

世界が赫(あか)に染まる日に

 

従兄妹の未来を奪った加害者へ密かに復讐を誓う中学生の櫂が、15歳の誕生日に自殺する計画を立てる同い年の文稀と出会い、文稀が死ぬまでは復讐に協力する契約を結ぶ物語。被害者の消えない傷の大きさに比して、加害者の意識の希薄さや未成年として保護されるがゆえの罪の軽さには理不尽さを感じてしまいますが、ではそれを私的に裁いていいのかと言われると…転機があれば櫂のように逡巡するようになるのは当然だし、一人になっても突き進まんでしまう文稀を取り巻く境遇の悲惨さには、どうにもやりきれないものを思わずにはいられませんでした。

13.鵜頭川村事件

鵜頭川村事件

鵜頭川村事件

 

一九七九年夏。亡き妻・節子の田舎である鵜頭川村へ、三年ぶりに墓参りにやってきた岩森明と娘の愛子。突如、山間の村は豪雨に見舞われ閉じ込められる中で一人の若者の死体が発見され、閉塞した状況で蓄積していた鬱屈が狂気に繋がってゆく物語。村の有力者・矢萩家への鬱屈した想いと、外部と遮断された状況でうやむやにされた犯人探し。大人たちに不信を隠せない若者たちに対する扇動が暴走に繋がってゆくまでの描写には、追い詰められた人の危うさが生々しく描かれていて、ギリギリの状況で何とか娘を守ろうと奔走する岩森がとても印象的でした。

14.ぬるくゆるやかに流れる黒い川

ぬるくゆるやかに流れる黒い川

ぬるくゆるやかに流れる黒い川

 

六年前ともに家族を無差別殺人でなくした同級生小雪と再会した大学生香那。犯人武内譲が拘置所で自殺し犯行動機等が不明なままだった事件の背景を、二人で改めて調べ始める物語。調べいくうちに明らかになってゆく追い詰められていった譲の心境と、世代を越えて女性嫌悪に取り憑かれた武内家の男たち。譲を虐待していた祖父と殺された祖父の弟。「からゆきさん」を絡めた武内家の呪いや、香那と小雪の壊れてしまった家族のエピソードは厳しかったですが、それでもきちんと向き合った二人の新たな一歩へと繋がる結末には救われるものがありました。

 

また参考までに著者さんの創作に対する考え方や執筆スタイルなどをまとめたインタビュー集として、以下の作品にも寄稿されています。

「ファンタジーへの誘い-ストーリーテラーのことのは-」

ファンタジーへの誘い: ストーリーテラーのことのは

ファンタジーへの誘い: ストーリーテラーのことのは

 

 

なお、9月と10月はここから櫛木理宇さんの作品刊行が続きます。

新作が気になる方は是非チェックしてみて下さい。

世界が赫に染まる日に

世界が赫に染まる日に

 
虎を追う

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ホーンテッド・キャンパス16 (角川ホラー文庫)

ホーンテッド・キャンパス16 (角川ホラー文庫)