読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2019年8月に読んだ新作おすすめ本

振り返ってみると8月は意外と新作多めに読んでいたみたいで、今回のおススメは多めでした(苦笑)ラノベでは「ぼくたちのリメイク Verβ」はもうひとつのifということで、刊行ペース的に本編との兼ね合いが気になりますが、流石の安定感がありますね。ほかにもいくつか気になる新シリーズが出てきていて楽しみです。 

 

ライト文芸だと映画化の「初恋ロスタイム」は2冊セットで読むことを推奨します。あと富士見L文庫一生夢でくわせていきますが、何か」もわりとじわじわくる好きな作品。一般文庫では光文社文庫の「彼女は死んでも治らない」はさすが大沢めぐみさんという作品でしたが、織守きょうやさんの講談社文庫「少女は鳥籠で眠らない」、高校生作家の宝島社文庫偽りの私達」あたりも注目です。

 

単行本もやや多めですが話題の「三体」や松岡圭祐さんの「出身成分」はインパクトがありますね。「店長がバカすぎて」はこれから伸びていきそうな予感を感じましたが、個人的には日本舞踊に挑む安倍雄太郎さんの「いのち短し、踊れよ男子」と意外な結末が面白い水生大海さんの連作短編集「最後のページをめくるまで」を推しておきます。

 

ぼくたちのリメイク Ver.β (MF文庫J)

ぼくたちのリメイク Ver.β (MF文庫J)

 

会社が倒産した橋場恭也が偶然河瀬川と出会い、サクシードソフトのお荷物部署・第13開発部に拾われるもう一つの物語。どういう展開になっても恭也に絡んでくる河瀬川の使い勝手の良さというか、ヒロイン力みたいなものを感じる展開でしたが、雑務ばかりの第13開発部を業務改善して時間を作り出し、同僚理都子の企画アイデアを活かしながら仲間のやる気に火をつけ、企画を何とか成立させるべく奔走する恭也の場所を選ばない有能ぶりと、諦めない想いが熱いルートでした。しかし立ちはだかる常務もなかなか強敵で、これはこれで今後が楽しみです。

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

 

大戦と禁酒法で旧来の道徳が崩れ去った時代。非合法の運び屋シーモアのもとに、運んで欲しい荷物として正真正銘の吸血鬼の少女・ルーミーが持ち込まれる歴史ファンタジー。仕事上のトラブルから始まったルーミーとの同居生活。吸血鬼らしさを見せないルーミーと共に過ごすうちにシーモアの心境が変化してゆく中で、ふと気づいてしまったひとつの事実。確かに変わってしまった何かがあって、それでも二人の間には確かに育まれていたものがあって、ぶつかりあった本音の先にあった結末がとても自分好みでした。これは続巻に期待大の新シリーズですね。

わたしの知らない、先輩の100コのこと1 (MF文庫J)

わたしの知らない、先輩の100コのこと1 (MF文庫J)

 

最寄り駅が同じ以外接点がなく、毎朝顔を合わせるだけだった先輩と後輩。そんな二人がある日『1日1問だけ、どんな質問にも絶対正直に答える』という約束を交わす青春ラブコメディ。大部分の生徒と違う二人だけが通う通学電車で、話すことはなくても存在を意識していた二人。ふとしたきっかけから一つずつ質問を積み重ねていって、話すことや会うことが増えいくことで少しずつ二人の距離感も変わっていって、ミステリアスな小悪魔・後輩ちゃんの言動に先輩が振り回される二人の関係がこれからどうなってゆくのか続巻に期待したいシリーズですね。 

夢に現れる君は、理想と幻想とぼくの過去 (講談社ラノベ文庫)

夢に現れる君は、理想と幻想とぼくの過去 (講談社ラノベ文庫)

 

友人・カッツンの家に居候させてもらいだらけた日々を送る23歳、職歴半年のニートの天木颯。そんな彼が夢をコントロールする方法を記載したブログを見つける物語。颯が抱える10年前に交通事故で死んだ初恋の女の子・霧崎紗耶香に対する3つの後悔。リアルでは相変わらずな日々を送りながら、夢の世界で紗耶香と会うことにのめり込んでいく颯。著者さんらしどこか気怠そうな世界観で、夢の世界で背中を押してくれた紗耶香や、ダメンズな彼を見守るマキたちに出会い、積み重ねた思いを胸に新たな一歩を踏み出す展開はなかなか良かったですね。

世界は愛を救わない (講談社ラノベ文庫)

世界は愛を救わない (講談社ラノベ文庫)

 

幼馴染で文芸部に所属し、ささやかな特殊な力を持つ壇上貫地と石野美香、阿久津吾郎。その力を使って世界征服を目指す彼らが、目的を叶えるために求めていた能力を持つ後輩・開田環子と出会う青春小説。それぞれが抱える人に言えない密かな想いを叶えるため世界征服を目指していた三人と、その危うくも均衡していた彼らの関係に波紋を投げかけた環子の能力。世界征服のお題目はやや消化不良でしたけど、葛藤しながらも決着をつけてゆく三者三様の決断はどこまでも自らの想いに真摯で、彼らのその後が描かれたエピローグがとても印象的な物語でした

本屋の店員がダンジョンになんて入るもんじゃない! (ダッシュエックス文庫)
 

「一生本を読んで暮らしたい!」本を愛してやまない青年・アシタが、その想いとは裏腹に彼の知識を欲する顔馴染みの女冒険者エルシィにダンジョンへ連れて行かれるドタバタファンタジーコメディ。貴重本欲しさにダンジョンに潜ってみればゴブリン相手も厳しい貧弱っぷりで、エルシィやその仲間に頼りっぱなしのアシタでしたけど、強力なゴーレムを相手にするという絶低絶命の窮地に、彼の知識と仲間の力をあわせて打開してゆく展開はなかなか面白かったです。エルシィとの関係も気になりますが、一緒に潜った仲間たちもワケありのようで続巻に期待。

獣の巫女は祈らない (講談社X文庫)

獣の巫女は祈らない (講談社X文庫)

 

獣を祀り獣の耳と強靭な肉体をもつ一族が暮らす奥見島。その強さを認められ「獣の宮の巫女」に選ばれた奥見族の娘・なぎが流刑に処された明日何の姫と出会う和風ファンタジー。父が皇帝の後継者争いに敗れ、「姫」ということで奥見島に流された迅と、思いもよらなかった形でその正体を知ってしまうなぎ。そこに島の火山が胎動を始めて、都の異変も相まって巻き込まれてゆく二人が、運命に立ち向かい自らの手で切り開いてゆく展開は今後に期待してもいいんですかね。運命に翻弄された琉貴姫も結構幸せだったように思えた結末には救われる思いでした。

 

 

初恋ロスタイム -Advanced Time- (メディアワークス文庫)

初恋ロスタイム -Advanced Time- (メディアワークス文庫)

 

普通の高校生・相葉孝司に突然起こった「自分以外の時が1時間だけ止まる」不思議な現象。好奇心を抑えられず学校の外に繰り出した彼が、そこで自分以外にも動ける女の子・篠宮時音と出会う青春小説。最初は篠宮に警戒されながらも、時が止まった世界「ロスタイム」の中で一緒に楽しい時間を過ごすうちに、少しずつ確実に彼女に心惹かれてゆく孝司。けれど彼らにとってかけがえのない貴重な時間には原因があって、高校生ではままならない残酷な現実があって、それでも諦めなかった孝司の覚悟と、その引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。

初恋ロスタイム -First Time- (メディアワークス文庫)

初恋ロスタイム -First Time- (メディアワークス文庫)

 

高校入学と共に幼馴染・比良坂未緒に告白をし、見事玉砕した桐原綾人。気まずさで互いに言葉を交わす事もなくなったある日、突然「自分以外の時が止まる」という不思議な現象を彼女と共有するもうひとつの物語。日常では相変わらずな二人の関係と、昔のように接することが出来る時が止まった世界。「ロスタイム」で未緒と綾人が時間を共有することになった理由。思ってもみなかった急展開を打破してみせたのは二人がこれまで地道に積み重ねてきた成果で、最後の最後で明かされる破壊力抜群な結末には自分もものの見事にやられたと思いました(苦笑)

一生夢で食わせていきますが、なにか。 (富士見L文庫)

一生夢で食わせていきますが、なにか。 (富士見L文庫)

 

高校時代の先輩でプロのマンガ家を目指す啓汰先輩と再会したあすみ。マネージャーとして交渉役や雑務を引き受けた彼女が次々と直面するトラブルとその奮闘を描くお仕事小説。マンガ家の夢を反対したあすみをマネージャーに据えて、周囲の反対を押し切りマンガ家業を軌道に乗せてみせた啓汰先輩。職場で起きるトラブルに対処していくあすみに対する啓汰先輩の信頼は厚くて、外堀も着実に埋まって周囲もすっかり公認状態なのに、それに全然気づかないあすみを見てると啓汰先輩がちょっと可哀想になりますね(苦笑)二人の今後がまた読んでみたいです。

透明なきみの後悔を見抜けない (講談社タイガ)

透明なきみの後悔を見抜けない (講談社タイガ)

 

子供の頃から人助けが趣味だという柔らかな雰囲気の大学生・開登。そんな彼が出会った人々の手助けをして後悔を解消してゆく恋愛ミステリ。不登校の生徒を気にかける教師、ダンス仲間と仲違いしてしまった女の子、自らの後悔がわからない女子大生と、仕事に明け暮れるうちに大切なものを見失ってしまったネイリスト。出会った人々に寄り添いその後悔に一緒に向き合ってゆく開登という構図から、これまでのエピソードが次々と繋がってゆく中で見えてくるもう一つの真実があって、人のために奔走する優しい開登にもたらされた結末が素敵な物語でした。

アリア嬢の誰も知らない結婚 (集英社オレンジ文庫)

アリア嬢の誰も知らない結婚 (集英社オレンジ文庫)

 

王立学士院魔法学科で落ちこぼれの少女・アリアと、エリート研究者兼教師を務める王族の青年・ラルシェの秘密。男女交際禁止の学士院でとある事情から夫婦になってしまった二人のマリッジラブコメディ。精霊を集めるのは得意だけれど魔法制御が致命的なドジっ子アリアを、密かに愛らしいと可愛がるラルシェ。周囲には内緒の相手の想いになかなか気づけないニブい二人によるもどかしくも甘いやりとりや、誤解からの迷走といった王道展開をベースとした物語で、周囲のいろいろ気になる関係も絡めながらのお約束のストーリーは安心して楽しめました。 

鎌倉男子 そのひぐらし 材木座海岸で朝食を (集英社オレンジ文庫)

鎌倉男子 そのひぐらし 材木座海岸で朝食を (集英社オレンジ文庫)

 

鎌倉材木座の早朝から開店している食堂「そのひぐらし」。そこで働く不器用な3人のバイトたちと訪れる常連客たちのやりとりを描く青春小説。偉大な兄を持つ迷走高校生・水澄と幼馴染の関係、何でもそつなく大学生・統一郎の初恋、コミュ力は高い悩み多きフリーター・流の閉塞感が描かれてゆく展開で、ほろ苦い恋やなかなかうまく行かない人生だったり、実際にはそうそう上手くいくことばかりでもない現実があって、不器用な悩める彼らが怠惰な店長や同僚、そして常連客たちのフォローも得ながら向き合い頑張ろうとする姿は応援したくなりました。

鎌倉御朱印ガール (集英社オレンジ文庫)

鎌倉御朱印ガール (集英社オレンジ文庫)

 

いつの間にか友人たちに彼氏ができてひとり呆然とした女子高生・羽美が、衝動的に向かって江ノ島の弁財橋で御朱印帖を拾い、それをきっかけに持ち主の男子高校生・将と会う青春小説。同い年の将と出会った先でなぜか弁財天と毘沙門天のケンカに巻き込まれて、二神の代理として将と鎌倉七福神御朱印集めで勝負をすることになってしまった羽美。困惑しながらも手探りで始まった不器用な二人の七福神巡りは初々しくて、困難にきちんと向き合い成長してゆく二人のその後をもう少し読んでみたかった気もしますが、読みやすくなかなか素敵な物語でした。 

蟲愛づる姫君の婚姻 (小学館文庫キャラブン!)

蟲愛づる姫君の婚姻 (小学館文庫キャラブン!)

 

蠱毒をこよなく愛し周囲から「毒の姫」とあだ名される斎帝国の第十七皇女・李玲琳。そんな彼女が最愛の姉である斎国の女帝・彩蘭の指示で魁国の王・楊鍠牙のもとへ嫁ぐ物語。華やかな衣裳や宝石より蟲が大好きな著者さんらしい強烈なキャラクターですけど、嫁ぎ先もまた鍠牙が命を狙われたりいろいろ物騒なところで、彼女の特技を活かしてその存在を認められてゆく展開はいいですね。姉に劣らず鍠牙も少しばかり執着気味なのはアレですが、結果から見れば水が合ったと言うかいい居場所を見つけられたのかな。続巻あったらまた読んでみたいです。

拝み屋カフェ 巡縁堂 (小学館文庫キャラブン!)

拝み屋カフェ 巡縁堂 (小学館文庫キャラブン!)

 

結婚予定の恋人と天職だと思っていた仕事をいっぺんに失った、不運すぎるアラサー女子の藤堂朱音。傷心を抱えて地元・仙台へと戻ってきた彼女が、拝み屋カフェ「巡縁堂」を準備中の幼馴染・玲二を手伝う物語。昔お世話になった先生と亡くなった猫のエピソードだったり、新居で不審な出来事が続く友人の何ともほろ苦い結末だったり、玲二の洞察力で原因を解決してゆく展開でしたけど、傍から見たらバレバレなのに朱音が鈍いゆえになかなか気づいてもらえない玲二の頑張りを密かに応援したくなりました(苦笑)続巻あるならまた読んでみたいですね。 

(P[そ]2-1)あの夏を、いつかの君と。 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[そ]2-1)あの夏を、いつかの君と。 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

入学早々、記憶にない過去の出会いを主張するイケメン男子・大澤祈につきまとわれる普通の女子高生・美弥緒。とある出来事で過去にタイムスリップした彼女が6歳の祈と出会い、彼の父親捜しを手伝う青春小説。タイムスリップによって繋がる九年前の出来事。育ての親を探すために家出した祈とミャオの父親探しの旅。小さな祈を巡る様々な人たちとの出会いがあって、二人の間に育まれてゆく確かな絆があって、話の筋としては分かりやすいストレートな展開ではありましたけど、不思議な経験が紡いだ二人の関係のリスタートがとても素敵な物語でした。

(P[ふ]4-7)この夏のこともどうせ忘れる (ポプラ文庫ピュアフル)
 

塾の夏季合宿に参加した受験生・圭人が抱える秘密、友人の家に姉妹で招かれる夏休みの日々、打ち上げ花火と男の子たちの夏、恋多き女子高生・梨奈が出会った篠くんとの恋、海で出会ったアオと出会い思い出す父親へ想い。夏休みという長い非日常を舞台に、いつもと違う場所で出会い、交流を深めてゆく中で、登場人物たちにこれまでなかった新たな心境が芽生えていく様子が繊細な描写で描かれてゆく連作短編集で、戸惑いながらも向き合い受け止めるようになってゆく姿がとても印象的でした。個人的には「昆虫標本」と「生き残り」が良かったですね。 

連載を打ち切られて仕事を失った崖っぷちのアラサー漫画家の月高アユムが、秋葉原の町で漫画以外のあらゆるものを漫画にする会社のJK社長・クルミと出会うお仕事物語。気力を失い秋葉原の町を彷徨っていたアユムが出会った、会社の中でもマンガに関わる変わっていたり面倒な案件だけを担当する「0課」のお仕事。時には戸惑ったり空回りするものの、挫折を知るからこそ訪れた悩める客に寄り添い、きちんと向き合ってよりよい道を見出し喜びを分かち合う、そんな一生懸命で優しいアユムにいつの間にか周囲も感化されてゆくとても素敵な物語でした。

ホームレス・ホームズの優雅な0円推理 (富士見L文庫)

ホームレス・ホームズの優雅な0円推理 (富士見L文庫)

 

自己採点ではバッチリ合格圏内と自信満々だったのに、医学部合格発表では不合格だった岩藤すず。納得行かず答案用紙の保管部屋に忍び込んだ彼女が、血まみれの巨大な犬の足跡と副学長の死体を発見するミステリ。「ワトスン」として生きることを信条とする岩藤すずの前に現れた低コストに生きるホームズ。連続殺人事件に二人が挑むわりとテンション高めな展開でしたけど、真実は何とも苦笑いな結末だったというか…エピローグで明かされたホームズの過去を読んでそれまでの展開を見る目が少し変わりました。続巻あるなら続きをまた読んでみたいです。

 

 

彼女は死んでも治らない (光文社文庫)

彼女は死んでも治らない (光文社文庫)

 

いつも殺されがちな最高に可愛い幼馴染の沙紀。普通じゃないレベルで彼女のことが好きな女子高生・神野羊子が得意の推理を巡らせるハイテンションコージーミステリ。沙紀を殺した犯人を羊子が見つけ出すと、犯人を身代わりになぜか彼女が生き返る歪な関係、そんな羊子と一緒にいてサポートする昇の存在。のんびり屋なのに核心を突く乃亜や、正義感あふれる拝み屋女子高生・楓との出会いは羊子たちの関係に変化をもたらして、あの斜め上のカオスな展開から始まったこの物語を、伏線や真相を絡めつつすっきりとまとめ上げてみせた結末はお見事でした。

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

 

法律事務所に務める新米弁護士木村と有能な先輩・高塚のコンビが挑む連作リーガル・ミステリ。15歳の少女に手を出したとして逮捕された元家庭教師、中退した元同期の覚悟、浮気され離婚を望む男が親権を望んだ理由、そして高名な芸術家と娘の関係の4話からなる構成で、最初は一見よくあるありふれた事件に思えますが、それが性格の違う弁護士コンビによる別視点からのアプローチによって、もうひとつの構図を浮かび上がらせてゆく構成となっていて、事件決着後に木村が垣間見るほろ苦くもなかなか味わいのある結末がとても印象的な物語でした。 

偽りの私達 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

偽りの私達 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

都市伝説として囁かれる【まほうつかい】。七月十七日から八日に時間が巻き戻った高校生・土井修治が、十七日に階段から落ちて死ぬ美少女・渡辺百香を救うため、彼女の死の原因を探り始めるミステリ。修治の大切な幼馴染・七瀬の彼氏と浮気したのが渡辺百香?そんな噂を聞いて調べ始めた修治が気づくスクールカーストを巡る不穏で狡猾な罠。読んでいくうちに浮かぶ先入観がたびたび裏切られ、新たな事実が明らかになるたびにガラリと構図を変えていって、荒削りではあるものの伏線を巧みに使いつつ、思わぬところに着地してみせた結末は見事でした。

四月になれば彼女は (文春文庫)

四月になれば彼女は (文春文庫)

 

恋人・弥生と1年後に結婚式をすることを決めた精神科医の藤代。そんな彼のもとに初めての恋人・ハルから手紙が届く、失った恋に翻弄される12ヶ月の物語。醒めた同棲生活を送る藤代の元に届いた、大学時代の恋人・ハルからの手紙。永遠に続くものだと信じていたかつての恋があったからこそ、つい今の穏やかな想いと対比して不安を生じさせてしまうわけですが、不器用な登場人物たちがそれぞれのやり方で、心残りだった苦い過去にしっかりと決着をつけて今の自らの想いに真摯に向き合い、葛藤を乗り越えようとする姿は心に響くものがありました。 

 

 

三体

三体

 

 物理学者の父を文化大革命で惨殺されて、人類に絶望した中国人女性科学者・葉文潔。その数十年後、ある会議に招集されたナノテク素材の研究者・汪淼が、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる中国SF小説。なぜそのような怪現象が起きているのか。父を殺されたその後の葉文潔が描かれて、VRゲーム『三体』が示唆するものは意味深で、明らかになった真相がまた壮大なスケールの物語でしたけど、それでいて要所で人間らしい生々しい感情がポイントになっていたのが印象的でした。三部作ということらしいので続編にも期待しています。

出身成分

出身成分

 

平壌郊外の保安署員クム・アンサノが11年前の殺人・強姦事件の再捜査を命じられ、簡単だったはずの捜査を進めるうちに思ってもみなかった真実が明らかになってゆくミステリ。再認識する捜査の杜撰さと国家の横暴さ、そして思わぬ形で浮上する元医師だったアンサノの父の存在。脱北者の証言に基づいて描かれたという出身成分によって扱いが相当異なる北朝鮮の世界には愕然としましたが、こういう何を信じていいのか分からない心休まらない日常だったり、個人の尊厳が脅かされかねない社会で生きるということをしみじみと考えさせられる物語でした。

店長がバカすぎて

店長がバカすぎて

 

とにかく本が好きで〈武蔵野書店〉吉祥寺本店の契約社員として働く谷原京子、28歳。独身。「非」敏腕店長・山本の下で、文芸書の担当として次から次へとトラブルに遭いながら働くお仕事小説。日々入ってこない注文を嘆いたり、尊敬する先輩が辞めたりする中で、問題客や増長した作家、ワンマン書店経営者といったトラブルに対処しながら、意外な繋がりがあったりガリバー出版社に新卒で入社した元後輩の奮闘を知ったり、斜め上にバカすぎる店長にイライラしながら文句だらけの書店員に愛着を持っている主人公が迎えた結末はなかなか良かったです。

いのち短し、踊れよ男子

いのち短し、踊れよ男子

 

一目惚れした清香に誘われ舞い上がり、興味のなかった日本舞踊の発表会を見た大学生の駿介。そこで華やかな舞台で堂々と踊る吉樹と出会い、日本舞踊に魅せられてゆく青春小説。清香に「踊りの上手い人が好き」と言われて下心たっぷりの稽古通いを始めた駿介に、容赦なく欠点を指摘する師匠の息子・吉樹。踊りの上手さは認めざるを得ない吉樹にも日舞への複雑な想いがあって、一緒に踊ることになった二人が抱える葛藤と、真摯に向き合おうとする気持ちに向き合いながら、お互い刺激し合えるいい関係になってゆく展開にはぐっと来るものがありました。

最後のページをめくるまで

最後のページをめくるまで

 

使い勝手のいい女が隠していたもの、詐欺に手を染めた大学生のわずかばかりの犠牲、死体が火葬されるまで落ち着かなかった理由、夫の浮気発覚から始まった意外な結末、ひき逃げされた息子の復讐を誓う母の顛末の5つのエピソードから構成される連作短編集。緊迫感ある展開の先にあった意外な結末だったり、手に染めた過去の因果応報だったりで、作中で主人公の心境が変わっていったとしても、だからといってそうそういい感じに終わらせたりしないあたりがむしろ新鮮で印象的な物語でした。個人的には冒頭の「使い勝手のいい女」が良かったですね。 

下北沢インディーズ

下北沢インディーズ

 

音楽雑誌でインディーズバンドの発掘コラム連載を任された新人編集者の音無多摩子。下北沢のライブハウスのマスター・五味淵の紹介でバンドマンたちを取材する多摩子が、思いがけない事件に遭遇するミステリ。壊されたデジタルティレイ、元カレの彼女の浮気疑惑、スタジオから盗まれたベース、ライブ中にドラマーが怒り出した理由、アカウントを乗っ取られたバンドの解散危機など、デビュー前のバンド事情に絡めた謎に遭遇する多摩子と、それを解決する探偵役の五味淵という役回りで、少し視点を変えると見えてくる真相と構図が印象的な物語でした。

ぬるくゆるやかに流れる黒い川

ぬるくゆるやかに流れる黒い川

 

六年前ともに家族を無差別殺人でなくした同級生小雪と再会した大学生香那。犯人武内譲が拘置所で自殺し犯行動機等が不明なままだった事件の背景を、二人で改めて調べ始める物語。調べいくうちに明らかになってゆく追い詰められていった譲の心境と、世代を越えて女性嫌悪に取り憑かれた武内家の男たち。譲を虐待していた祖父と殺された祖父の弟。「からゆきさん」を絡めた武内家の呪いや、香那と小雪の壊れてしまった家族のエピソードは厳しかったですが、それでもきちんと向き合った二人の新たな一歩へと繋がる結末には救われるものがありました。 

手のひらの楽園

手のひらの楽園

 

天真爛漫な夕陽ノ丘高校「エステ科」2年園部友麻の波乱な日々。全寮制の「仕事を学ぶための高校」で疲れたお母さんを癒やすためにエステティシャンを目指す青春小説。離島に育ち父親がおらず家は貧乏で、奨学金を借りての高校入学後に母親も行方知れずになった友麻。わりと悲惨な境遇でも楽観的で、素の自分のままでぶつかっていく彼女が突然告白されたり同級生の諸事情に巻き込まれたり、実は生きていた父親や初めて恋を知ったり、周囲の人たちに支えられながらひとつひとつ向き合って、ちょっぴり大人になってゆく展開はなかなか良かったですね。