2月の読了冊数は読書メーターによると最終的に139冊でした。
読んだ本139冊
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こちらでは1月に読んだ文芸単行本の新作5点、ライト文芸の新作9点、文庫の新作10点の計24点を紹介しています。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
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二つの月が浮かぶ、熱砂に覆われたソリディアス大陸。自分ではない誰かの記憶を持つ少年アンガスが本に宿った〈本の姫〉と共に旅をするファンタジー。人々は文字(スペル)の魔力によって凶暴になり、各地で厄災が起きていた大陸を舞台に、各地を巡って邪悪な文字を探して回収する旅を続ける少年アンガスと本の姫。天使としての記憶をたびたび挟みながら、荒野を貫く鉄道に乗り、不思議な力を持つ歌姫たちに出会い、滅びた天使たちの遺跡を巡る彼らの旅には様々な出会いと別れがあって、徐々に明らかになっていくこともある一方で、2つの物語がこれからどう交わっていくのか、今後に期待したくなる物語になっていました。
6月のインターハイ予選で初めて県の準決勝まで進んだバレー部に所属する宮下景。しかしその重要な試合の数日前、景はあることがきっかけで怪我をしてしまう青春小説。違和感をそのままにしてしまったゆえの負傷による離脱。やる気がないと思っていた部員が、自分の代わりに起用されていることに対して、何となく積み重ねていくモヤモヤ。一方、彼の怪我に責任を感じて罪滅ぼしをしたいと告げてきた同級生の真島綾が抱える苦悩。これまで周囲を気にかけることもなく、マイペースに学校に通い部活に臨んでいた景が、怪我をしたことで以前のように上手く出来ないもどかしさを感じて、周囲の想いを知っていく中で様様なことに気づき、不器用に思いを言葉にしていく中で見出してゆくその答えが印象的な物語でした。
ベテラン職業俳優だが無名のオジサン俳優・左右田始。しかし脇役だからこそ見えてくる視点で様々な現場で生じる謎を左右田は人知れずに解決していくライトミステリ。役者として左右田が入った撮影現場で遭遇する、低予算ドラマ撮影で消えもののエクレアが亡くなってしまった事件、横暴な人気俳優が参加したドラマの打ち上げで照明が消えた理由、子役オーディションに付き添っていた母親が抱いていた想い、演劇舞台で切れてバラバラになったネックレスの真実、そしてMCとして抜擢された試写会で雲隠れした人気俳優の行方。要所で状況が見えている左右田の配慮が効いていて、目立たなくてもこういう存在は欠かせないでしょうし、彼がこれまで続けることができたのも何か分かるような気がしました。
文庫旅館で待つ本は
海辺の小さな老舗旅館・凧屋を舞台に、かつての常連・海老澤氏が寄贈した海老沢文庫。その蔵書から悩める宿泊客たちの心情に寄り添ったおすすめ本を若女将が紹介してゆく連作短編集。自分自身は利きすぎる嗅覚ゆえに小説が全く読めないけれど、宿泊者を見ていると、その人に今必要な物語が不思議とわかる若女将の円。彼女が本をすすめる同性の幼馴染に隠した想いを寄せる青年、夫や家庭に縛られてきた妻、妹の遺した子を育てる姉、そして明らかにされる海老澤文庫や円自身の秘密。川端康成 『むすめごころ』や芥川龍之介 『藪の中』、夏目漱石 『こころ』など、おすすめする本と宿泊客の事情を上手く絡めたストーリー構成になっていて、宿泊客たちの心を解きほぐして、ずっと抱えていた想いを許すことに繋がってゆく印象的な結末になっていました。
「国歌」とまで謳われるほど膨れ上がった「ヴィハーラ」音楽の作曲者の生涯とささやかな願いを描いた表題作ほか、13篇を収録した連作短編集。仕事を辞めて親ののジャンク屋を手伝い始めた男の物語や、料理魔事件、一九六五年にSNSが生まれていたらを描いたパニック、対馬で生まれた子どもが抱く複雑な想い、砂漠のアラベスクと南極に咲く花くらい遠すぎる存在、作っていたゲーム内に現れる幽霊バグ、心療内科医が通った中国整体にいた留学生、引きこもりの少女が元本因坊の祖父に教わった囲碁など、以前読んだ作品から数ページの短編までバラエティ豊かな構成になっていて、著者さんの試行錯誤や引き出しの多さを感じさせてくれる、印象的な物語が多かったですね。
竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る (メディアワークス文庫)
竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る
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fudaraku KADOKAWA 2024年02月24日頃
明治の終わり、病死した父が商っていた家業を継ぐため東京から金沢にやってきた十七歳の菖子が、二代目竜胆を襲名して怪異をもてなす魅惑的な地獄遊戯の物語。父が「竜胆」の名の下で、三人の商者、三人の下男とともに夜の訪れと共にやってくる怪異「おかととき」をもてなしていた話を聞き、詳細を何も知らぬまま、初めて迎えた驚愕の宴の夜。優しい彼女の戸惑いやためらいがさらなる悲劇を生む地獄の光景に直面して、葛藤を抱えるようになっていく菖子がなぜ父はこのような商売を始めたのかと思うのは当然の展開でしたけど、その事情が明らかになっていくと同時に、思ってもみなかった展開へと繋がってゆくその結末は予想もつかなかったですけど、なかなか印象的に残る物語になっていました。
噓があふれた世界で (新潮文庫nex)
浅倉 秋成/大前 粟生/新名 智/結城 真一郎/佐原 ひかり/石田 夏穂 新潮社 2024年02月28日
「嘘」をテーマに、今を生きる私たちをリアルに切り取った7つの連作短編集。「VTuberを守るため」という動機で人気音楽クリエイターが殺された影響、動画がバズったカリスマ女子高生が動画を撮らなくなった理由、幽霊からプッシュ通知が届くという報告が多発する呪いのアプリの調査、娘に似た女性をマッチングアプリで探す男、学校の机に推しダンス系YouTuberの祭壇を作る彼女、上司を騙して残業代を増やすOL、そして「世界でいちばん透きとおった物語」謎解きを依頼された亡き夫のアカウントが未だに動く理由。ミステリ要素もあって、嘘に追い詰められたり振り回されたそれぞれの結末が印象的な短編集になっていました。
帝室宮殿の見習い女官 見合い回避で恋を知る!? (講談社タイガ)
父を亡くした帰国子女で、編入した華族女学校の卒業を迎えて、母が勧める理不尽な見合いを逃れる術を探していた海棠妃奈子。大叔母の勧めで宮中女官採用試験を受ける物語。外交官の父と欧州で暮らしていたこともあって、三十も年上の中年男に嫁ぐしかないという母が勧めるお見合いをとても受け入れられず、宮殿勤めを選択した妃奈子。明治大正あたりの時代にオリジナル要素を加えた世界観になっていて、母からはエキセントリックで無能と決めつけられていた彼女が、女官としての仕事をする中で自分の居場所を得てゆくストーリーはなかなか良かったですし、帝国劇場で観劇したりもして恋の予感も感じさせてくれる今後の展開が楽しみですね。
煙突掃除令嬢は妖精さんの夢を見る ~革命後夜の恋語り~ (集英社オレンジ文庫)
煙突掃除令嬢は妖精さんの夢を見る 〜革命後夜の恋語り〜
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倉世 春/長門 さわこ 集英社 2024年02月19日頃
十年前に行き倒れていたところを煙突掃除人のラザールに拾われ、自身も煙突掃除の仕事をしながら暮らすニナ。訳ありの彼女が革命の英雄ジャンと運命の出会いを果たす物語。十二年前の革命で共和国となって以来、彼女が心の奥底に封じてきた秘密。彼とは関わりたくないのにニナを何かと気にかけるジャン。真っ直ぐな彼に惹かれていく一方で、ジャンがかつて袂を分かった時の権力者ロジャースに目をつけられ、抱いた疑惑を晴らせないまま利用されジャンが窮地に陥る中、明らかにされてゆく様々な知られざる過去の真実があって、我が身を省みずに決然と立ち上がったニナの覚悟が変えた未来と、かけがえのないものを取り戻してみせたその結末はなかなか良かったですね。
西荻窪ブックカフェの恋の魔女 迷子の子羊と猫と、時々ワンプレート (集英社オレンジ文庫)
西荻窪ブックカフェの恋の魔女 迷子の子羊と猫と、時々ワンプレート
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菅野 彰/ふろく 集英社 2024年02月19日頃
とある恋愛相談をきっかけに、西荻窪駅のコンビニで噂を囁かれるようになったブックカフェの店主・月子。恋に悩めるお客さんが本と魔女を求めてブックカフェにやってくる物語。ワンドリンクワンプレートのオーダーで読書をするカフェで、時々魔女に持ち込まれる仕事にやりがいを感じながらも結婚を考えている相手の転勤に悩む女性や、絵を描いている時にヴァイオリンを弾いている彼との関係に悩む美大生、そしてずっとお店に通いながらもなかなか切り出せなかった男の話。本になぞらえながら相談相手にそっと寄り添ってくれる月子さんの距離感がなかなか良かったですけど、たびたび出てきて月子の話し相手になっていた二階にいる山男の思わぬ正体に繋がってゆく結末には正直驚かされました。
国外追放された王女は、敵国の氷の王に溺愛される (富士見L文庫)
国外追放された王女は、敵国の氷の王に溺愛される
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坂合 奏/さくらもち KADOKAWA 2024年02月15日頃
王位継承争いに敗れ、継母殺し未遂を企てた汚名を着せられたドルマン王国の第一王女ジョジュ。国を追放され辺境の小国ロニーノのエミリオン王との政略結婚から始まるシンデレラロマンス。失意のジョジュを迎えた冷酷無慈悲と噂のエミリオン王。けれど出会った時に言われた「愛を求めるな」との言葉とは裏腹に、公正に扱ってくれた彼の下で、少しずつ聡明さを取り戻していくジュジュ。自身も意識していなかった祖国に複雑な思いを抱く一部貴族たちや、彼の元婚約者ヴィオラの存在もあって、それでも欲しい言葉をくれるエミリオンの真摯な想いや、彼女のことを応援してくれる人々に叱咤されたり、認められながら、様々な騒動にも逃げずに向き合い、凛とした姿を取り戻していくその姿がなかなか印象的な物語でしたね。
サイレント・ヴォイス 想いのこして跡をたどる (ことのは文庫)
札幌の遺品整理会社メメントで働く遺品整理士の柊つかさ。残留思念が視える異能を持つ彼女が、同僚の洲雲と組んで行う遺品整理の中で、遺品から伝わる声なき声を聴き、故人の想いを紡いでいく連作短編集。故人が最後に遺した想いを見つけて、遺族に伝える義務があると考えるつかさが洲雲と組んで働く中で見出してゆく、亡くなった娘の部屋の整理を依頼してきた母への想い、孤独死した男性の息子への想い、祖父の遺産相続を巡る孫と叔父・叔母の対立と祖父の想い、呪われた家に留まっていた想い、そして免許を持っているのに車を運転できない洲雲自身が抱えていた過去の悔恨。そんな想いに真摯に寄り添い残された人たちに伝えていこうとするつかさ自身もまた、洲雲や笹森に受け入れられることで救われる、とても優しくて温かい物語でした。
嘘つきな私たちと、紫の瞳 (ことのは文庫)
原因不明の病≪ヴァイオレット・アイ≫で病で親友を亡くした高二の咲織が、問題児だと思っていた同じクラスの男子・啓二と出会い、少しずつ変わっていく青春小説。十代にしか罹らず、左目が紫色になり次第に死に至る病≪ヴァイオレット・アイ≫で死んだ親友の気持ちを知るために詐病を装い、学校で孤立していた咲織。腫れ物扱いされていた彼女に声を掛けて、少しずつお互いを知っていった啓二が隠していた秘密。現実に抗うため、あるいは向き合うために嘘をついていた二人が、お互いがかけがえのない存在となっていったことで、未来を諦めないためにどうすればいいのか懸命に考えて、周囲の協力も得ながら希望を見出してゆくとても素敵な物語になっていました。
残酷な世界の果てで、君と明日も恋をする (スターツ出版文庫)
あることから親友に嫌われて学校での居場所をなくしてしまった高2の莉緒。居場所を失くして歩道橋で諦めかけたある日、転校生の幸野悟と出会う青春小説。全てがどうでも良くなりかけたタイミングで悟が掛けてくれた言葉に、明日には何かが変わると期待したくなった心境の変化。同じクラスに転校してきた悟の言動から、少しずつ変わり始める日常。なかなか素直になれないながらも、自分を気にかけてくれる悟に惹かれていくからこそ気になってしまう、彼が莉緒の姉の莉乃を気にかけている理由。悟が抱えていた秘密は衝撃的で、二人の関係が難しくなるのも仕方ないような気がしましたが、それでも自らが抱える想いに向き合おうとする二人のこれからを応援したくなる物語でした。
三体 (ハヤカワ文庫SF)
物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人女性科学者・葉文潔。彼女がスカウトされた軍事基地では人類の運命を左右するプロジェクトが進行するSF小説。数十年後、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられるたナノテク素材の研究者・汪淼。なぜそのような怪現象が起きているのか。父を殺されたその後の葉文潔が描かれていて、VRゲーム『三体』が示唆するものは意味深で、明らかになってゆくその真相がまた壮大なスケールの物語になっていましたけど、それでいて要所で事態を動かしていくポイントが人間らしい生々しい感情だったりするのがなかなか印象的でした。
朱色の化身 (講談社文庫)
ガンを患う元新聞記者の父から辻珠緒という女性に会えないかと依頼を受けたライター大路亨。不条理な運命にもがいた、母娘三代の数奇な人生が明らかになってゆくミステリ。一世を風靡したゲームの開発者として知られていた珠緒の突然の失踪。大路が元夫や学生時代の友人たち、銀行時代の同僚などに取材を重ねていく中で明らかにされてゆく珠緒の人生。そして大きな影響を及ぼした昭和31年の福井・芦原大火。なかなか業の深い真相にたどり着いてしまいましたけど、それでも何とか前向きに生きようと足掻いて、ままならない苦悩を積み重ねながらも生き抜いてきたその壮絶な人生が圧巻の物語でした。
氷の致死量 (ハヤカワ文庫JA)
私立中学に赴任した教師の鹿原十和子。14年前に殺された教師と似ていたことから、彼女と殺人鬼・八木沼の運命が交錯するシリアルキラー・サスペンス。自分と共通点があったのではないかと感じて、14年前に学院で殺害された事件の被害者で、教師でもあった戸川更紗に興味を持つようになってゆく十和子。“ママ”を解体し、その臓物に抱かれて、更紗に未だ異常な執着を持ち続ける八木沼に、親子や夫婦、セクシャルな問題など様々なことが複雑に絡んでいて、導かれるように運命の糸が繋がってゆく展開で、視点が変わるとまた違ったものが見えてくる中、執着とボタンの掛け違いから起きた悲劇とその結末がなかなか印象的な物語でした。
彼女。百合小説アンソロジー (実業之日本社文庫)
相沢 沙呼/青崎 有吾/乾 くるみ/織守 きょうや/斜線堂有紀/武田 綾乃 実業之日本社 2024年02月05日
彼女と私の至極の関係性。百合と何か?その問いに7人の作家たちがそれぞれ挑む連作短編アンソロジー。お節介な委員長と少し変わった大人しい少女の密かにすれ違う想い。好きだった人の死の理由を探るために挑む絶望。愛してくれた人を失って初めて気づいた想い。久しぶりの再会と筆を折った理由。並び立つための整形手術。憧れの先輩が917円で買ったもの。疎遠だった二人を再び結びつけたもの。なかなかハードな展開の中で彼女たちのうまく伝わらない、伝えられないもどかしい繊細な想いをそれぞれ著者さんらしいらしい文章で描き出していて、それを彩るイラストとたどり着いた結末がまた鮮烈な印象を残す短編集になっていました。
コーリング・ユー (集英社文庫)
海洋研究所のイーサンと飼育員ノアのもとに国際バイオ企業から届いた依頼。世界環境を救うべく、シャチを訓練して微生物を収めた貴重なキャスターの回収を目指す海洋冒険小説。好奇心が災いし、従姉のエルと共に人間に捕獲されてしまったシャチのセブン。他動物と言語によるコミュニケーションが出来るセブンが、離れ離れになったエルが苦境にあることをクジラから聞く展開で、やや視点の切り替わりが多く、どこまでがファンタジーなのかも考えながら読んでいましたが、周囲の助けも借りながら様々な困難に立ち向かい、見事乗り越えて目的を果たしてみせたその結末はなかなか良かったですね。
光る君と謎解きを 源氏物語転生譚 (宝島社文庫)
皇居のお濠にうっかり転落して、なぜか源氏物語の若紫に転生してしまった就活生の紫乃。身の回りで次々と起きる王朝絵巻の事件に令和の就活女子が挑むミステリ。転生先がただの平安時代ではなく源氏物語の世界で、光源氏にすべてを打ち明けて若紫として生活を続けることになった紫乃。しかし彼の急死した妻・葵上が六条御息所の生霊に取り殺されたという噂が立つ中、これは殺人事件だと考えて真相を探り始める紫乃。22歳の女子大生が10歳の若紫に転生という構図もあって、光源氏や惟光といったキャラはいたものの、思っていたよりはあまり恋愛寄りではなく、わりとミステリ寄りのなかなか面白いコンセプトのストーリーになっていて、もし続きが出るならまた読んでみたいと思いました。
実家暮らしのホームズ (宝島社文庫)
ミステリーマニアの資産家が実施した推理クイズ大会で最高得点を叩き出しながら行方をくらませた判治リヒト。居場所を突き止められた彼が代償として様々な事件を解決するミステリ。赤の他人を偽の受取人に仕立てて、予選通過報奨金を搾取したと損害買収請求された引きこもりが、すでにネットカジノで金を溶かしてしまっていたために返金できず、外出しなくてもいいことを条件に仕方なく引き受けた探偵役。実家で引きこもりをしているものの、捜査で意外と行動的なリヒトでしたけど、傍から見れば母親に心配されるのも分かる状況になっていて、そんな彼が解き明かす8ビットの遺言や-25℃の密室、複雑な漢字暗号といったトリックがなかなか面白いミステリになっていました。
事故物件探偵 建築士・天木悟の執心 (角川文庫)
憧れの建築士・天木悟を慕って、横浜の大学の建築学科に入学した織家紗奈。その天木から幽霊が見える力を買われて事故物件調査の助手にスカウトされる事故物件事件簿。壇上にいた幽霊の存在に気づいた彼女に持ちかけられた、心理的瑕疵を取り除く建築士の助手仕事。自らが住むアパートの幽霊問題を解決した結果として、事務所に住み込みで働くことになる紗奈。彼らが解き明かしてみせた木目の家や望まぬ同居人の隠されていた思わぬ結末にも驚かされましたが、白い家は恐ろしかったですね…。最初は乗り気ではなかったものの意外と居心地もいい好待遇に心境が変わる紗奈でしたけど、一緒に様々な経験を共有していくうちに、なかなかいいコンビになっていった二人の物語をまた読んでみたいと思いました。
君の青が、海にとけるまで (角川文庫)
不器用ゆえに同僚に医療事故の責任を押し付けられてしまい、心が病んで休職することになった看護師3年目の胡麦。気分がどん底まで落ち込む中、海辺のカフェSESTAを紹介される物語。美味しいコーヒーと共にカウンセリングを受けられるカフェで、物腰柔らかな医師の唐麻と話し心が軽くなってゆく胡麦。ふとしたきっかけからカフェで働くことになった彼女が知る、そこで働く個性豊かな仲間たちが抱える見えない傷。いろいろな人々との出会いから、様々な考え方があることを知って、窮屈な医療一家の実家や、かつての職場のあまりよろしくない状況も客観視できるようになった彼女が、しっかりと自分で未来を考えるようになってゆく姿はなかなか良かったですね。
星になれない君の歌 (小学館文庫)
自らの誕生日の夜に、姉弟同然に育ってきた幼馴染・拓朗の突然の病死に直面した大学生の都萌実。彼の幽霊に遭遇して一時的に身体を乗っ取られた彼女が、最初は半ば脅されるようにして拓朗の心残り解消に協力する物語。生前ソングライターを目指していて、片思いだった相手に贈る歌を作っている最中に亡くなってしまった拓朗と、彼が活動できる深夜に一緒に歌を作って完成を目指すことになった都萌実。彼女の恋模様も絡めながら進めた二人の歌作りの結末は、想像以上にキツかったというか、そうそう上手くいくことばかりじゃないんだよな…と思い知らされましたけど、それでも別の道を選んだことでいつの間にか疎遠になっていた二人にとって、一緒に音楽を作るこの共同作業が、かけがえのない最後の時間としてとても印象的な物語になっていました。