【Kindle40%ポイント還元】文藝春秋 電書の森フェア2023 (10/5まで)
【Kindle50%オフ】KADOKAWA 秋の夜長に一気読み! ミステリフェア (10/5まで)
今回は各種オンライン書店で「文藝春秋 電書の森フェア2023」「KADOKAWA 秋の夜長に一気読み! ミステリフェア」が展開されています。そこで企画対象商品からそれぞれおすすめ作品を30作品セレクトしました。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1.極楽征夷大将軍
動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。足利直義は、怠惰な兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうとする。やがて天皇から北条家討伐の勅命が下り、一族を挙げて反旗を翻した。一方、足利家の重臣・高師直は倒幕後、朝廷の世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどなかったのだ。怒り狂う直義と共に、尊氏を抜きにして新生幕府の樹立を画策し始める。混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?幕府の祖でありながら、謎に包まれた初代将軍・足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇。
2.光のとこにいてね
母に連れられて来た古びた団地の片隅で出会った結珠と果遠。着るもの食べるもの、住む世界も何もかもが違うのに、お互いに惹かれ合う二人の四半世紀の物語。週に一回だけ古びた団地で育んだ二人の交流。高校時代の束の間の再会と突然の別れ。そして社会人になってからの偶然で運命的な再会。初手から強烈に惹かれ合う二人の縁みたいなものがあって、出会ってしまったらもうお互い意識せずにはいられなかったり、それぞれが抱える親子関係に対する葛藤を拗らせていて、それでも大人になっても大切なものはいつまでも変わらない不器用な二人のありようがとても印象的な物語でした。
3.機械仕掛けの太陽
2020年初頭、マスクをして生活することを誰も想像できなかった。現役医師として新型コロナを目の当たりにしてきた著者が描くコロナ禍の医療現場のリアル。シングルマザーで大学病院勤務医の椎名梓、結婚目前の彼氏と同棲中の女性看護師・硲瑠璃子、70代の開業医・長峰邦昭という三人の医療従事者の視点からそれぞれ描かれるストーリーで、現場で戦っていた人々にも葛藤やそれぞれの生活があって、特に最初は周囲の無理解に苦しんだこともあったでしょうし、甘く見てあんなことをしなければ…というような出来事にも直面することがあったと思いますが、そういう中でも向き合い続けた医療従事者の方々の尽力にはリスペクトしかないです。
棋士と女流棋士の両親を持つ長瀬京介と、落ちこぼれ女流棋士の息子・朝比奈千明。若くして期待を背負いプロ棋士を目指す彼らに、出生時の取り違え疑惑が持ち上がる運命と闘う勝負師たちの物語。底辺をさまよっていた女流棋士・朝比奈睦美と向井千穂子の友情と因縁、京介の父・厚仁の葛藤と国仲遼平との出会い、そして取り違え疑惑に対照的な態度を見せる京介と千明。才能を決めるのは果たして遺伝子か環境か、変わっていたかもしれない境遇、ぶつかり合う親子間の何とも複雑な関係、そして自らの無力を嫌でも突きつらけれる場所に身を置き続ける葛藤も描かれていて、あらゆる可能性に複雑な思いが交錯する中、意外な結末の先にあった二人だけの秘密には、これまで積み重ねてきたかけがえのない家族愛を見る思いでした。
5.魔女の原罪
週に3回、人工透析治療を受けながら高校に通う、和泉宏哉と水瀬杏梨。しかしある変死事件をきっかけに彼らが通う高校、そして住む街の秘密が暴かれていく特殊設定リーガルミステリ。校則がなく法律が絶対視される学校生活、魔女の影に怯える大人たち、そして血を抜き取られた少女の変死体の真相。一見自由だけれど、監視される街には何があるのか。変死事件をきっかけに謎に切り込んでゆく宏哉が知る過去の因縁と街が抱えてきた業の深さは旋律させるものがありましたね…。タイトルの意味を改めて噛み締めてしまう何ともやりきれない結末でしたけど、それでもやはり信じることはできなかったのか…と考えずにいられませんでした。
6.最後の鑑定人
「最後の鑑定人」と呼ばれ、ある事件をきっかけに科捜研を辞めて民間鑑定所を開設した土門誠が、その群を抜いた能力で持ち込まれる不可解な事件を解決する連作短編ミステリ。元恋人の遺留精液DNAが検出された女性他殺体の真実、外国人技能実習生が完全黙秘した放火事件の真相、宝飾品と一緒に車に残っていた白骨死体から明らかになる12年前の未解決強盗殺人事件、自殺した娘の遺品鑑定から分かった切ない真実。わずかな遺留品から卓越した着眼点や執念で事実に迫る土門のプロフェッショナルぶりが際立っていて、その土門の過去や彼をサポートする高倉のエピソードも交えながら、浮き彫りになってゆく過去の因縁も一緒に解決してゆく展開はとても面白かったです。
7.六法推理
五十嵐 律人 KADOKAWA 2022年04月25日頃
霞山大学で法学部四年・古城行成が一人運営する無料法律相談所・通称「無法律」。自らのアパート事故物件問題で経済学部三年の戸賀夏倫が訪れる連作短編青春ミステリ。事件解決をきっかけに無法律へと入り浸り、リベンジポルノ、放火事件、毒親問題、カンニング騒動といった持ち込まれる法律問題に対して古城と解決に取り組む戸賀。自身の原点となる法曹一家に育った法律マシーン古城の着想をヒントに、真相に迫る自称助手の戸賀がなかなかいいコンビで、時折どうにもならないほろ苦い現実にも直面しますが、それでも依頼人のためにギリギリまで考え抜いて、どうするのが一番いいのか、実を取る落とし所を模索し続ける古城の姿勢が印象的な物語でした。シリーズ化も期待しています。
8.香君
香君 上 西から来た少女
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上橋 菜穂子 文藝春秋 2022年03月24日頃
香りで万象を知る香君の庇護のもと、発展を続けてきた帝国。ある時オアレ稲に虫害が発生してしまい、人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャが、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる物語。遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲オアレ稲。豊かな恵みをもたらす一方で、他の作物が育たたなくなるなど秘密も多く、帝国の統治の鍵を握るオアレ稲を巡る危機的状況が密かに迫る中、全体の状況を鑑みながら奔走するマシュウたちの奮闘は報われるのか…面白くて読むのが止まりませんが、思っても見なかった急展開から物語がどう動くのか、下巻が気になりますね。
上橋 菜穂子 文藝春秋 2022年03月24日頃
囚われた先でアイシャが見た、迫る危機的状況を打開する希望に思えた「救いの稲」。しかしそれが皮肉にも次々と新たな災いの連鎖を引き起こしてゆく下巻。「救いの稲」を見て怖いと思ったアイシャの懸念。彼女だけに聞こえるオアレ稲の呼び声、それに応えて飛来するものがもたらした災厄。アイシャは仲間たちとともに必死に飢餓を回避しようと奔走する激動の展開で、しかしこれから起こる災厄よりも目先の状況を見てしまう人々たちとの温度差があって、いろいろな利害や思惑が絡む中で最善策を採ることの難しさを痛感させられましたけど、覚悟を決めたアイシャの現状を変えていこうという思い、その行動力がとてもとても印象的な物語でした。
下宿仲間でクラスメイトの女子サブレに片想いをしている高校生のめえめえ。未だ友達な二人が一緒に過ごすことになる、ひと夏の特別な四日間の物語。告白もしておらず、夏休みでサブレとはしばらく会えないと思っていためえめえ。それがある不謹慎な目的のために、夏休み中に遠方にあるじいちゃんの家にサブレと一緒に行くことになり、二人で夜行バスに乗って出かける展開で、一緒に過ごす距離感の中で実はお互いにいろいろなことを考えていて、共感できることも違うなと感じることもある、そんな当たり前のことをいちいち真剣に考えるサブレと、それに根気よく付き合うめえめえは、傍から見たら何とも面倒くさいコンビですけど、同時にとてもお似合いの二人だなと思いました。
10.風琴密室
夏休みのバイトで幼馴染みたちと廃校の小学校を片付けていた高校生の凌汰。そこへ東京から友人とともに訪ねてきた女子高生で、6年前の一時期この小学校に通い、すぐに引っ越していった雨ちゃんと再会する青春ミステリ。兄と雨ちゃんの3人で遊び、兄の事故で悲しい記憶に変わってしまった彼女とのひと夏の思い出。友人と久しぶりに村を訪れた雨ちゃんとの再会に盛り上がって台風に遭遇し、そのまま宿泊することになった廃校で起きてしまういくつかの事件。それらの密室事件はどのようにして起きたのか、伏線を回収しながら真相に迫る先にあった結末はなかなか衝撃的でしたけど、エピローグまで気が抜けない鮮烈な青春小説でもありました。
学園の魔王様と村人Aの事件簿
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織守きょうや KADOKAWA 2022年06月29日頃
不穏な噂も多く注目される存在の御崎秀一と、ふとしたきっかけから友人になった普通の男子高校生・山岸巧。そんな二人が身近に起きる謎を解いてゆく連作青春ミステリ。御崎のたぐいまれなる推理力を知った巧が、彼の助手として学校や町で起こる事件の解決に挑む展開で、片方の個室だけいたずらされるトイレ、犯人を見ても名乗り出ない目撃者、酔って寮から転落死した先輩、半グレの仲間割れ殺人事件など、些細な違和感を見逃さずに事件を解き明かす一方で友人関係には意外と不器用な御崎が、コンビを組みながら友情を育もうとする姿には巧もキュンとしてしまったりで苦笑いでしたけど、そんな二人の関係がなかなか良かったですね。
12.愛されてんだと自覚しな
千年前、神からの求婚を袖にして、愛する男と共に輪廻転生の呪いをかけられた女。様々な時代で出会いとすれ違いを繰り返してきた彼女が現代を生きるモダンファンタジー。今の時代では盗み屋・祥子とルームシェアをしながら、カレー屋で働く店員として日々を送る岡田杏として生きる女。祥子が不正に取引される和綴じ本「徒名草文通録」を盗み出す依頼を受けたことから、再び動き始める運命。運命の二人が形を変えながら何度も積み重ねてゆく縁も描かれる中で、神も絡めたなかなかカオスな展開になっていきましたけど、何とも現代らしいオチの中にも確かな愛があって、とても素敵な物語でした。
13.新しい星
大学時代の合気道部で同期だった四人。大学を卒業してそれぞれの道を進んだ彼女たちの、30歳を超えてからのなかなか上手く行かない人生、愛するものの喪失とそこからの再生を描く物語。娘の死から暗転した青子の人生、職場で上手く行かずに辞めてから引きこもりになってしまった玄也、乳癌を患ってしまった茅乃、そして疫病で妻子と離れて暮らす卓馬。茅乃のリハビリをきっかけに再会してもそれぞれのままならない人生はそうそう変わらなくて、それでも自分を気遣ってくれる仲間がいてくれる安心感をしみじみと実感させてくれるとても優しさに満ちた物語でした。
14.陽だまりに至る病
父親が仕事で帰ってこないという同級生の小夜子を心配して家に連れ帰った小学五年生の咲陽。コロナを心配する母親に小夜子のことを言いだせないまま、こっそり自分の部屋に匿うミステリ。翌日、小夜子を探して咲陽の家を訪ねてきた刑事。小夜子の父親がラブホテルで起きた殺人事件の犯人ではないかと疑念を抱く咲陽。コロナ渦で状況が激変してしまうと、あるいは起こりうるかもしれないと感じる展開でしたが、信頼関係とは何かということを突きつけられて、けれど無意識のうちに影響を受けていたことが分かる描写の積み重ねが印象に残る物語でした。
15.花束は毒
「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。彼を助けたい木瀬がかつて事件を解決してくれた探偵・北見理花に調査を依頼するミステリ。中学時代、探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった理花。探偵への依頼を躊躇する真壁が脅迫者を追及できない理由、そして鍵を握る四年前の事件。新たな事実が判明するたびに印象がガラリと変わって、一方で消えないままの違和感が徐々にもうひとつの可能性に繋がっていって、恐ろしい真相を果たして伝えられるのかも気になりましたけど、このコンビの物語もまた読んでみたいと思いました。
16.N/A
生理が嫌でそれを止めるために食事を取らない高校2年生・松井まどか。優しさと気遣いの言葉に苛立ち、肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く青春小説。拒食症と勘違いされ見当違いのアドバイスにイライラしたり、理想のかけがえのない他人を探して相手とのズレに失望したり、型にはめようとする無理解な周囲に絶望するまどか。けれどそんな彼女自身もまた不安定で自意識過剰で、自分自身のことも、友人や元カノのことも何も分かっていなかったと跳ね返ってくる展開はなかなか痛かったですが、生々しく描かれる苦悩する彼女の渇望がとても印象的な物語でした。
17.戴天
皇帝は政治を疎かにし、宮廷では佞臣が暗躍する唐・玄宗皇帝の時代。そんな時代にあっても天に臆せず、どこまでも義に生きることを貫こうとする者たちの物語。身体を欠損し失意のうちに従軍して、権勢を振るう宦官・辺令誠の非道に憤った崔子龍、天童と謳われ義父の遺志を継いで皇帝を糺そうとする真智。幼馴染3人の何とも複雑な関係を絡めながら描かれる展開で、当時の英雄ですら屈服させてしまう佞臣の昏い影響力の凄まじさには戦慄させられますが、安禄山挙兵の混乱が続く中で、今自分の成すべきことは何かを問い続ける彼らの苦悩と生き様がとても印象的な物語でした。
18.八咫烏シリーズ(文春文庫)
阿部 智里 文藝春秋 2014年06月10日頃
人間の代わりに八咫烏の一族が支配する世界「山内」ではじまった世継ぎの后選び。いわくありげな立太子の若宮に、それぞれ思うところを秘めた4人の后候補たち。そんな候補たちを相手に候補の一人である箱入り娘のあせびが、若宮への想いを成就すべく奮闘するお話かと思って読んでいたのですが。。。次々と明らかになる后候補たちの事情、そして最後登場した若宮によって明かされるまさかの真相。意地悪に見えた后候補たちも実は悪い人じゃないのねとか思いながら読んでいたので、最後のどんでん返しにはびっくり。ここからどう続いていくのか期待。
19.スワン (角川文庫)
巨大ショッピングモール「スワン」で起きた前代未聞のテロ事件。生き残った五人の関係者に招待状が届き、事件の中の一つの死の真相を明らかにするために集まるミステリ。自暴自棄なテロリストによる襲撃という極限状況において、それぞれがどんな行動を取ったのか。同じ被害者でも各々が置かれた立場は違って、思惑を秘めて参加したお茶会で暴かれる当日の行動。その場で最善を取るのは容易ではなくて、終わってからもどうすればという後悔は消えなくて、そんな中でどんなに追い詰められても大切なものを手放さなかったいずみの決意とその結末がなかなか印象的でした。
20.満月珈琲店の星詠み(文春文庫)
満月の夜にだけ開く不思議な珈琲店。優しい猫店主が招いた悩める人々を、極上のコーヒーとスイーツ、そして占星術で運命を読む「星詠み」で癒し導いてゆく連作短編集。時代の変化に取り残されたシナリオライター、心に傷を抱えたプロデューサーとスキャンダルに直面した女優、エンジニアが遭遇した初恋の人。どこかうまく行かない状況で巡り合う珈琲店との出会いでは、猫店主の美味しいおもてなしと占星術による導きが転機に繋がっていて、苦境に向き合って充実した日々を送るようになってゆく登場人物たちのその後がなかなか印象的な物語でしたね。
21.十字架のカルテ (文春文庫)
親友を殺した犯人が精神鑑定で不起訴になった過去を抱える若き新人医師・弓削凛が、正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願する物語。歌舞伎町無差別通り魔事件、生後五ヶ月の娘を抱いてマンションから飛び降りた母、姉を刺し逮捕された引きこもり、精神疾患は詐病とした傷害致死犯の思わぬ反撃、過去に犯した殺人事件を多重人格で不起訴となっていた犯人の真意。容疑者たちの真意を些細な手がかりから見抜いていく展開はなかなか面白かったですが、過去の因縁を絡めた最後の事件は業が深かったですね…。
22.Iの悲劇 (文春文庫)
六年前に滅びた簑石に人を呼び戻すIターン支援プロジェクトが実施され、南はかま市甦り課の実務を担当する三人が奔走する現実と真実の物語。最初に入居した二組の夫婦のいがみ合い、水田養鯉を志した入居者の誤算、行方不明になった子ども、秋祭りで起きた食中毒、なくなった仏像といった次々と起こる問題に、どうにもやる気の見えない課長・西野の下、実務を担う万願寺や新人の観山が振り回され、どうにかしようと奔走する展開で、やけに西野が要所をしっかり押さえていると思ったら真相はそういうことでしたか。言われてみれば納得の結末ですけど、とはいえ苦心してきた立場からすればそれはないよって話ですよね…。
23.カインは言わなかった (文春文庫)
カリスマ芸術監督が率いるダンスカンパニー。その新作公演「カイン」の初日直前に、主役の藤谷誠が突然失踪してしまい、沈黙が守ってきたものの正体に切り込む罪と罰の慟哭ミステリ。公演直前に姿を消した主演、美しき画家の弟、代役として主役カインに選ばれたルームメイト。全てを舞台に捧げ、壮絶な指導に耐えてきた男に何が起きたのか。複雑な思いを抱える人物たちの描写を積み重ねていきながら、自分が特別な存在になりたい、認められたいのになかなか満たされないそんな芸術の不条理さが浮き彫りになりましたけど、こういう時に起きる事件の動機は意外と平凡だったりするんですよね…。
24.コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (角川文庫)
入学早々友達づくりに乗り遅れていたことに気づいて愕然とする房総大学の新入生・藤村京。教室に残された高級な傘に気づき、その持ち主を推理し始めるコミュ障探偵ミステリ。傘を忘れた人は誰か、服屋で消えた同級生の謎、カラオケで酒を飲ませた犯人、祭りの中での盗難事件、元喫煙室で起きた冤罪事件の真相。いろいろ考え過ぎて話せなくなる、動けなくなってしまう藤村だからこそ、その推理力には眼を見張るものがあって、少しずつ増えてゆくかけがえのない友人たちを助けるため、遭遇した謎を推理してゆく彼のありようはとても好ましかったです。
25.遺産相続を放棄します (角川文庫)
遺産相続を放棄します
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木元 哉多 KADOKAWA 2022年07月21日
遺産目当てで室町時代から続く名家・榊原家当主の孫・俊彦に嫁いだ妻の景子。しかし当主の死による遺産相続で俊彦が権利を放棄、その思惑が狂ってゆく遺産相続ミステリ。何とか夫を翻意させようとするも首尾よくいかず、そればかりか事故で義姉を死なせてしまう景子。死体を隠して景子を脅迫したXは誰か。様々な思惑が絡み合う騒動劇の中、頭脳明晰だった景子は夫があまりにも浮世離れし過ぎていて、読者も一緒にイライラさせられるそのダメ男っぷりを見誤った人の見る目のなさが敗因だったのは間違いないですけど(苦笑)、関係者たちを見極めて裏で糸を操り自らの目的を達成してみせた意外な黒幕の暗躍は見事でした。
26.魔女のいる珈琲店と4分33秒のタイムトラベル (文春文庫)
魔女のいる珈琲店と4分33秒のタイムトラベル
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太田 紫織 文藝春秋 2023年04月05日
留学先のイギリスで手を怪我してしまいピアノが弾けなくなった中学生・岬陽葵。引っ越した札幌の珈琲店「タセット夕暮れ堂」で、後悔を抱えた人を過去へ連れていきやり直しをさせてくれる魔女と出会うファンタジー。失意の陽葵を励ますおばあさんが教えてくれたお店の秘密。チャンスは一度、珈琲を淹れる4分33秒の間だけ。言いたい放題言う女性客の後悔、そして親友だった友人のためにもう一度時を飛ぶ陽葵。時守として時を跳ぶ力は得ても、自分の後悔自体を取り戻すことはできない辺りなかなか切ないですけど、弾けなくなったピアノを諦めない母に対する複雑な思いだったり、自らの行動が思わぬ波紋を引き起こしていたりもして、これから物語がどう動くのか、今後が楽しみなシリーズですね。
27.神と王 亡国の書 (文春文庫)
古い歴史を持つ国・弓可留で父の後を継ぎ、歴史学者として日々研究に励んでいた慈空。しかし隣国・沈寧の侵攻で国を滅ぼされ全てを失った彼が、踏みにじられた故郷のため、亡き親友のため立ち上がるファンタジー。親友だった王太子に「弓の心臓」を託され逃げ出した慈空が、片刃の剣を持つ風天や不思議な生物を手首に飼いならす日樹と出会い、対となる「羅の文書」奪還を決意する展開でしたけど、現状を憂う沈寧の王太女との運命の出会いもあって、複雑な思惑が絡む混沌の中でのそれぞれの決断とその結末は印象的で、また続きを読みたくなりました。
28.社労士のヒナコ(文春文庫)
ひよっこ社労士のヒナコ
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水生 大海 文藝春秋 2019年10月09日
派遣社員から一念発起し社会保険労務士になった二十六歳のヒナコが、得意先で相談に乗りながら事件を解決し成長していくお仕事小説。解雇、ブラックバイト、産休育休、パワハラ、残業代、裁量労働制、労災といったよくある事例をテーマに取り組んでいく新米社労士の仕事はなかなかハードで、社内トラブルに巻き込まれかけたり、上手く利用されそうになったりもありましたけど、それでも試行錯誤しながら真摯に取り組んでいく雛子の頑張る姿には素直に応援したくなるものがありました。
29.希望が死んだ夜に(文春文庫)
天祢 涼 文藝春秋 2019年10月09日
同級生春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された14歳の女子中学生・冬野ネガ。彼女は犯行を認めたものの動機は一切語らず、神奈川県警捜査一課・真壁と生活安全課・仲田がコンビで事件解決に挑む社会派青春ミステリ。なぜお嬢様だったのぞみが貧困母子家庭の少女・ネガ殺されたのか。周囲に聞き込みをしてもなかなか見えてこない彼女たちの接点と動機。けれどある情報をきっかけに事件の構図もガラリと様相を変えて、過酷な環境でもささやかな夢に希望を見出そうとした少女たちが踏みにじられ、絶望を突き付けられる理不尽さに胸が痛くなりました。
30.葬式組曲 (文春文庫)
20代の女性社長・北条紫苑が率いる「北条葬儀社」。彼らが引き受ける謎に充ちた葬儀の果てに、意外な結末が待ち受ける衝撃の連作短編ミステリ。妙な関西弁を喋る餡子、寡黙で職人肌の高屋敷、生真面目すぎる新入社員の新実…そんな癖の強い社員たちが執り行う不可解な遺言を残した父親、火葬を頑なに拒否する遺族、霊安室から忽然と消えた息子といった奇妙な葬儀の数々。遺族からは最終的に感謝される葬儀のエピソードは良かったですけど、その背景にはまさかの驚愕の事態が隠されていて、それまでの印象がガラリと変わってしまう結末にはびっくりさせられました。