【Kindle最大30%ポイント還元】文藝春秋 電子書籍フェア (9/21まで)
今回はKindleで文藝春秋の電子書籍フェアということで最大30%ポイント還元中となっています。文藝春秋を対象とした電子書籍フェアはあまり多くないので、対象作品の中からおすすめ作品を30作品セレクトしました。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
1.光のとこにいてね
母に連れられて来た古びた団地の片隅で出会った結珠と果遠。着るもの食べるもの、住む世界も何もかもが違うのに、お互いに惹かれ合う二人の四半世紀の物語。週に一回だけ古びた団地で育んだ二人の交流。高校時代の束の間の再会と突然の別れ。そして社会人になってからの偶然で運命的な再会。初手から強烈に惹かれ合う二人の縁みたいなものがあって、出会ってしまったらもうお互い意識せずにはいられなかったり、それぞれが抱える親子関係に対する葛藤を拗らせていて、それでも大人になっても大切なものはいつまでも変わらない不器用な二人のありようがとても印象的な物語でした。
2.機械仕掛けの太陽
2020年初頭、マスクをして生活することを誰も想像できなかった。現役医師として新型コロナを目の当たりにしてきた著者が描くコロナ禍の医療現場のリアル。シングルマザーで大学病院勤務医の椎名梓、結婚目前の彼氏と同棲中の女性看護師・硲瑠璃子、70代の開業医・長峰邦昭という三人の医療従事者の視点からそれぞれ描かれるストーリーで、現場で戦っていた人々にも葛藤やそれぞれの生活があって、特に最初は周囲の無理解に苦しんだこともあったでしょうし、甘く見てあんなことをしなければ…というような出来事にも直面することがあったと思いますが、そういう中でも向き合い続けた医療従事者の方々の尽力にはリスペクトしかないです。
棋士と女流棋士の両親を持つ長瀬京介と、落ちこぼれ女流棋士の息子・朝比奈千明。若くして期待を背負いプロ棋士を目指す彼らに、出生時の取り違え疑惑が持ち上がる運命と闘う勝負師たちの物語。底辺をさまよっていた女流棋士・朝比奈睦美と向井千穂子の友情と因縁、京介の父・厚仁の葛藤と国仲遼平との出会い、そして取り違え疑惑に対照的な態度を見せる京介と千明。才能を決めるのは果たして遺伝子か環境か、変わっていたかもしれない境遇、ぶつかり合う親子間の何とも複雑な関係、そして自らの無力を嫌でも突きつけられる場所に身を置き続ける葛藤も描かれていて、あらゆる可能性に複雑な思いが交錯する中、意外な結末の先にあった二人だけの秘密には、これまで積み重ねてきたかけがえのない家族愛を見る思いでした。
4.香君 上・下
香君 上 西から来た少女
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上橋 菜穂子 文藝春秋 2022年03月24日頃
香りで万象を知る香君の庇護のもと、発展を続けてきた帝国。ある時オアレ稲に虫害が発生してしまい、人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャが、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる物語。遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲オアレ稲。豊かな恵みをもたらす一方で、他の作物が育たたなくなるなど秘密も多く、帝国の統治の鍵を握るオアレ稲を巡る危機的状況が密かに迫る中、全体の状況を鑑みながら奔走するマシュウたちの奮闘は報われるのか…面白くて読むのが止まりませんが、思っても見なかった急展開から物語がどう動くのか、下巻が気になりますね。
上橋 菜穂子 文藝春秋 2022年03月24日頃
囚われた先でアイシャが見た、迫る危機的状況を打開する希望に思えた「救いの稲」。しかしそれが皮肉にも次々と新たな災いの連鎖を引き起こしてゆく下巻。「救いの稲」を見て怖いと思ったアイシャの懸念。彼女だけに聞こえるオアレ稲の呼び声、それに応えて飛来するものがもたらした災厄。アイシャは仲間たちとともに必死に飢餓を回避しようと奔走する激動の展開で、しかしこれから起こる災厄よりも目先の状況を見てしまう人々たちとの温度差があって、いろいろな利害や思惑が絡む中で最善策を採ることの難しさを痛感させられましたけど、覚悟を決めたアイシャの現状を変えていこうという思い、その行動力がとてもとても印象的な物語でした。
下宿仲間でクラスメイトの女子サブレに片想いをしている高校生のめえめえ。未だ友達な二人が一緒に過ごすことになる、ひと夏の特別な四日間の物語。告白もしておらず、夏休みでサブレとはしばらく会えないと思っていためえめえ。それがある不謹慎な目的のために、夏休み中に遠方にあるじいちゃんの家にサブレと一緒に行くことになり、二人で夜行バスに乗って出かける展開で、一緒に過ごす距離感の中で実はお互いにいろいろなことを考えていて、共感できることも違うなと感じることもある、そんな当たり前のことをいちいち真剣に考えるサブレと、それに根気よく付き合うめえめえは、傍から見たら何とも面倒くさいコンビですけど、同時にとてもお似合いの二人だなと思いました。
千年前、神からの求婚を袖にして、愛する男と共に輪廻転生の呪いをかけられた女。様々な時代で出会いとすれ違いを繰り返してきた彼女が現代を生きるモダンファンタジー。今の時代では盗み屋・祥子とルームシェアをしながら、カレー屋で働く店員として日々を送る岡田杏として生きる女。祥子が不正に取引される和綴じ本「徒名草文通録」を盗み出す依頼を受けたことから、再び動き始める運命。運命の二人が形を変えながら何度も積み重ねてゆく縁も描かれる中で、神も絡めたなかなかカオスな展開になっていきましたけど、何とも現代らしいオチの中にも確かな愛があって、とても素敵な物語でした。
7.新しい星
大学時代の合気道部で同期だった四人。大学を卒業してそれぞれの道を進んだ彼女たちの、30歳を超えてからのなかなか上手く行かない人生、愛するものの喪失とそこからの再生を描く物語。娘の死から暗転した青子の人生、職場で上手く行かずに辞めてから引きこもりになってしまった玄也、乳癌を患ってしまった茅乃、そして疫病で妻子と離れて暮らす卓馬。茅乃のリハビリをきっかけに再会してもそれぞれのままならない人生はそうそう変わらなくて、それでも自分を気遣ってくれる仲間がいてくれる安心感をしみじみと実感させてくれるとても優しさに満ちた物語でした。
8.陽だまりに至る病
父親が仕事で帰ってこないという同級生の小夜子を心配して家に連れ帰った小学五年生の咲陽。コロナを心配する母親に小夜子のことを言いだせないまま、こっそり自分の部屋に匿うミステリ。翌日、小夜子を探して咲陽の家を訪ねてきた刑事。小夜子の父親がラブホテルで起きた殺人事件の犯人ではないかと疑念を抱く咲陽。コロナ渦で状況が激変してしまうと、あるいは起こりうるかもしれないと感じる展開でしたが、信頼関係とは何かということを突きつけられて、けれど無意識のうちに影響を受けていたことが分かる描写の積み重ねが印象に残る物語でした。
9.花束は毒
「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。彼を助けたい木瀬がかつて事件を解決してくれた探偵・北見理花に調査を依頼するミステリ。中学時代、探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった理花。探偵への依頼を躊躇する真壁が脅迫者を追及できない理由、そして鍵を握る四年前の事件。新たな事実が判明するたびに印象がガラリと変わって、一方で消えないままの違和感が徐々にもうひとつの可能性に繋がっていって、恐ろしい真相を果たして伝えられるのかも気になりましたけど、このコンビの物語もまた読んでみたいと思いました。
10.零の晩夏
描かれたモデルが例外なく死に至る「死神」の異名を持つ謎の絵師ナユタ。駆け出しの美術ライター八千草花音が、運命に導かれるようにナユタの謎を追う美術ミステリ。広告代理店を辞めた花音が巡り合った美術ライターの仕事。その中で紹介される謎の絵師ナユタの存在。関係者として紹介される人々を取材し、その謎を追ううちにナユタを巡る壮絶な過去と意外な繋がりが明らかになって、元同僚・浜崎の存在もなかなか効いていましたけど、運命に導かれるように謎を追う花音が、紆余曲折の末にたどり着いた壮大な真相にはぐっと来るものがありましたね。
11.世界が青くなったら
ある朝仲内佳奈が目を覚ますと、彼氏の坂橋亮が世界から消えていた。自分がおかしくなってしまったのか、それとも世界が壊れてしまったのか?混乱しながらも亮の手がかりを探し始める現代ファンタジー。LINEや電話番号、住んでいた場所からも痕跡が消えてしまった亮。そして友人が夢に見た喫茶店で不思議な体験をした佳奈が、店主・ミツルを手伝いながら親友や中学生、恋人に裏切られたOL、といったお店にやってくる人たちの後悔を解決する展開で、その過程で思い出してゆくこれまで積み重ねてきた思い、そして少しずつ心境の変化もあったりで、物語としての決着と希望を感じさせてくれるその結末にはぐっと来るものがありました。
12.コンビニ人間(文春文庫)
村田 沙耶香 文藝春秋 2018年09月04日頃
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。
13.八咫烏シリーズ(文春文庫)
阿部 智里 文藝春秋 2014年06月10日頃
人間の代わりに八咫烏の一族が支配する世界「山内」ではじまった世継ぎの后選び。いわくありげな立太子の若宮に、それぞれ思うところを秘めた4人の后候補たち。そんな候補たちを相手に候補の一人である箱入り娘のあせびが、若宮への想いを成就すべく奮闘するお話かと思って読んでいたのですが。。。次々と明らかになる后候補たちの事情、そして最後登場した若宮によって明かされるまさかの真相。意地悪に見えた后候補たちも実は悪い人じゃないのねとか思いながら読んでいたので、最後のどんでん返しにはびっくり。ここからどう続いていくのか期待。
14.満月珈琲店の星詠み(文春文庫)
満月の夜にだけ開く不思議な珈琲店。優しい猫店主が招いた悩める人々を、極上のコーヒーとスイーツ、そして占星術で運命を読む「星詠み」で癒し導いてゆく連作短編集。時代の変化に取り残されたシナリオライター、心に傷を抱えたプロデューサーとスキャンダルに直面した女優、エンジニアが遭遇した初恋の人。どこかうまく行かない状況で巡り合う珈琲店との出会いでは、猫店主の美味しいおもてなしと占星術による導きが転機に繋がっていて、苦境に向き合って充実した日々を送るようになってゆく登場人物たちのその後がなかなか印象的な物語でしたね。
15.十字架のカルテ (文春文庫)
親友を殺した犯人が精神鑑定で不起訴になった過去を抱える若き新人医師・弓削凛が、正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願する物語。歌舞伎町無差別通り魔事件、生後五ヶ月の娘を抱いてマンションから飛び降りた母、姉を刺し逮捕された引きこもり、精神疾患は詐病とした傷害致死犯の思わぬ反撃、過去に犯した殺人事件を多重人格で不起訴となっていた犯人の真意。容疑者たちの真意を些細な手がかりから見抜いていく展開はなかなか面白かったですが、過去の因縁を絡めた最後の事件は業が深かったですね…。
16.Iの悲劇 (文春文庫)
六年前に滅びた簑石に人を呼び戻すIターン支援プロジェクトが実施され、南はかま市甦り課の実務を担当する三人が奔走する現実と真実の物語。最初に入居した二組の夫婦のいがみ合い、水田養鯉を志した入居者の誤算、行方不明になった子ども、秋祭りで起きた食中毒、なくなった仏像といった次々と起こる問題に、どうにもやる気の見えない課長・西野の下、実務を担う万願寺や新人の観山が振り回され、どうにかしようと奔走する展開で、やけに西野が要所をしっかり押さえていると思ったら真相はそういうことでしたか。言われてみれば納得の結末ですけど、とはいえ苦心してきた立場からすればそれはないよって話ですよね…。
17.カインは言わなかった (文春文庫)
カリスマ芸術監督が率いるダンスカンパニー。その新作公演「カイン」の初日直前に、主役の藤谷誠が突然失踪してしまい、沈黙が守ってきたものの正体に切り込む罪と罰の慟哭ミステリ。公演直前に姿を消した主演、美しき画家の弟、代役として主役カインに選ばれたルームメイト。全てを舞台に捧げ、壮絶な指導に耐えてきた男に何が起きたのか。複雑な思いを抱える人物たちの描写を積み重ねていきながら、自分が特別な存在になりたい、認められたいのになかなか満たされないそんな芸術の不条理さが浮き彫りになりましたけど、こういう時に起きる事件の動機は意外と平凡だったりするんですよね…。
18.魔女のいる珈琲店と4分33秒のタイムトラベル (文春文庫)
魔女のいる珈琲店と4分33秒のタイムトラベル
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太田 紫織 文藝春秋 2023年04月05日
留学先のイギリスで手を怪我してしまいピアノが弾けなくなった中学生・岬陽葵。引っ越した札幌の珈琲店「タセット夕暮れ堂」で、後悔を抱えた人を過去へ連れていきやり直しをさせてくれる魔女と出会うファンタジー。失意の陽葵を励ますおばあさんが教えてくれたお店の秘密。チャンスは一度、珈琲を淹れる4分33秒の間だけ。言いたい放題言う女性客の後悔、そして親友だった友人のためにもう一度時を飛ぶ陽葵。時守として時を跳ぶ力は得ても、自分の後悔自体を取り戻すことはできない辺りなかなか切ないですけど、弾けなくなったピアノを諦めない母に対する複雑な思いだったり、自らの行動が思わぬ波紋を引き起こしていたりもして、これから物語がどう動くのか、今後が楽しみなシリーズですね。
19.神と王 亡国の書 (文春文庫)
古い歴史を持つ国・弓可留で父の後を継ぎ、歴史学者として日々研究に励んでいた慈空。しかし隣国・沈寧の侵攻で国を滅ぼされ全てを失った彼が、踏みにじられた故郷のため、亡き親友のため立ち上がるファンタジー。親友だった王太子に「弓の心臓」を託され逃げ出した慈空が、片刃の剣を持つ風天や不思議な生物を手首に飼いならす日樹と出会い、対となる「羅の文書」奪還を決意する展開でしたけど、現状を憂う沈寧の王太女との運命の出会いもあって、複雑な思惑が絡む混沌の中でのそれぞれの決断とその結末は印象的で、また続きを読みたくなりました。
20.社労士のヒナコ(文春文庫)
ひよっこ社労士のヒナコ
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水生 大海 文藝春秋 2019年10月09日
派遣社員から一念発起し社会保険労務士になった二十六歳のヒナコが、得意先で相談に乗りながら事件を解決し成長していくお仕事小説。解雇、ブラックバイト、産休育休、パワハラ、残業代、裁量労働制、労災といったよくある事例をテーマに取り組んでいく新米社労士の仕事はなかなかハードで、社内トラブルに巻き込まれかけたり、上手く利用されそうになったりもありましたけど、それでも試行錯誤しながら真摯に取り組んでいく雛子の頑張る姿には素直に応援したくなるものがありました。
21.どうかこの声が、あなたに届きますように(文春文庫)
どうかこの声が、あなたに届きますように
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浅葉なつ 文藝春秋 2019年09月03日
地下アイドル時代に心身に深い傷を負い、鎌倉の祖母のもとでひっそりと生活を送っていた小松奈々子20歳。そこに突然現れたラジオ局ディレクター黒木から番組アシスタントにスカウトされる物語。母親に認められるために頑張っていたアイドル活動に挫折して、希望を失いかけていた奈々子が挑戦するラジオの世界。戸惑いながら始めた彼女が多くの人に支えられて成長し、切実な日々を生きるリスナーたちと交流を深めていって、何度か危機に直面しながらも、これまでの放送で積み重ねてきたみんなの力を合わせて乗り越えていくとても素敵な物語でした。
22.希望が死んだ夜に(文春文庫)
天祢 涼 文藝春秋 2019年10月09日
同級生春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された14歳の女子中学生・冬野ネガ。彼女は犯行を認めたものの動機は一切語らず、神奈川県警捜査一課・真壁と生活安全課・仲田がコンビで事件解決に挑む社会派青春ミステリ。なぜお嬢様だったのぞみが貧困母子家庭の少女・ネガ殺されたのか。周囲に聞き込みをしてもなかなか見えてこない彼女たちの接点と動機。けれどある情報をきっかけに事件の構図もガラリと様相を変えて、過酷な環境でもささやかな夢に希望を見出そうとした少女たちが踏みにじられ、絶望を突き付けられる理不尽さに胸が痛くなりました。
23.葬式組曲 (文春文庫)
20代の女性社長・北条紫苑が率いる「北条葬儀社」。彼らが引き受ける謎に充ちた葬儀の果てに、意外な結末が待ち受ける衝撃の連作短編ミステリ。妙な関西弁を喋る餡子、寡黙で職人肌の高屋敷、生真面目すぎる新入社員の新実…そんな癖の強い社員たちが執り行う不可解な遺言を残した父親、火葬を頑なに拒否する遺族、霊安室から忽然と消えた息子といった奇妙な葬儀の数々。遺族からは最終的に感謝される葬儀のエピソードは良かったですけど、その背景にはまさかの驚愕の事態が隠されていて、それまでの印象がガラリと変わってしまう結末にはびっくりさせられました。
24.料理なんて愛なんて (文春文庫)
ずっと好きだった真島に高級バレンタインチョコを渡したものの、料理が下手でフラれた優花。彼が憧れていた相手は料理教室の先生だったことを知った彼女が、料理を好きになろうと奮闘する物語。一念発起して自炊に挑戦したり、料理男子と合コンしたりする一方で、自炊しなくてもいい食べるものが充実した街に引っ越したり、自炊をしない後輩につい共感してしまう優花。そんな中、料理を作ってくれる男にアプローチされて、どうあるべきかで心揺れてしまう彼女の葛藤はなかなか切実でしたけど、「料理は愛情」という呪いに囚われながら、それでも上手く行かない自分にしっかり向き合った彼女のありようがとても愛しくなりました。
25.プルースト効果の実験と結果 (文春文庫)
痛々しい自意識過剰、空回る都会への憧れ、思い通りにいかない初恋。思春期の苦くて甘い心情を鮮やかに描き出す四篇の連作短編集。プルースト効果という言葉を教えてくれた男の子との初恋、仲良くなった文芸部の女の子との関係、仲良くなった友達と気になる彼のエピソード、そして帰省の新幹線で出会った彼との関係。大人になる過程の多感な少女たちが出会う友人たちとの関係や淡い恋模様の繊細な描写に心揺さぶられて、著者さんの書いた物語をまた読んでみたくなる印象的な一冊でした。個人的には「プルースト効果の実験と結果」が良かったですね。
26.あれは閃光、ぼくらの心中 (文春文庫)
音大付属中学に通う嶋幸紀・15歳。ピアノ一筋の人生が暗転し、冬の夜に自転車で家出した彼が、道に迷いヤンキーに追いかけられた先で夜空にギラギラと輝く25歳のホスト弥勒と運命の出会いを果たす物語。家出して都内に向かったはずなのになぜか町田にいた幸紀が、酔っぱらいだった弥勒に縋って転がり込んだ部屋の壮絶な状況。15歳で家出をしたという意外な共通点を持つ弥勒の部屋に居候し、掃除をしながら送る奇妙な同居生活を送る二人の間には、育まれていった確かな絆があって、彼ら二人の邂逅を転機としたそれぞれの波乱万丈なその後の人生と、導かれるようにたどり着いた結末にはぐっと来るものがありました。
27.まよなかの青空 (文春文庫)
結婚を前提に交際していた相手の母親から、手切れ金と共に息子と別れるよう言い渡された33歳のひかる。傷心の彼女が様々な人と再会し、「ソラさん」のからくり箱の話を思い出す物語。偶然再会した高校時代の同級生・日菜子や幼馴染の達郎。そこから運命に導かれるように繋がってゆくいくつもの縁と、明らかになってゆく家族の過去や「ソラさん」の謎。登場人物たちの誰もが過去に悔いを抱えていて、長らく苦しめられていた呪縛と久しぶりに向き合うことになって、過去はやり直せなくても、それでもこれからに希望が感じられる結末には救われるものがありました。
28.三途の川のおらんだ書房(文春文庫)
三途の川のおらんだ書房 転生する死者とあやかしの恋
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野村 美月 文藝春秋 2021年10月06日
人生最後で最上の一冊を選んでくれるという三途の川べりの「おらんだ書房」。生前に大きな未練を残す死者たちが最後の一冊を求めて店を訪れる連作短編集。本が大好きで本で圧死した公務員、先に亡くなった夫が最後に読みたかった本を探す妻、小さな子どもが探していたもの、不倫した夫たちを呪いたい妻、最終回を描かずに亡くなった人気漫画家、つまらない本を所望する高校生など、飄々とした着物姿の店主と彼に振り回されるアルバイトのいばらが、お客さんたちが本を求める真意を読み解いて、彼らのために奔走する姿はとても優しくて印象的でした。
29.さよならクリームソーダ (文春文庫)
さよならクリームソーダ
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額賀 澪 文藝春秋 2018年06月08日頃
再婚した両親から逃げるように美大入学で一人暮らしを始めた友親。知り合った先輩の若菜と親交を深めるうちに、その過去と秘密を知ってゆく青春小説。両親に向き合えない後ろめたさを抱える友親と義姉・涼の複雑な関係。友親の前に現れた若菜を気にかける少女・恭子と、明らかになってゆく若菜が抱える絶望と秘密。登場人物たちのどうにもならない葛藤と生々しい感情のぶつかり合いが繊細に描かれていて、絶望に直面し何かが確実に壊れてしまった彼らが、それでも何とか生きていこうとする姿にはほろ苦くも未来があって、心に響くものがありました。
30.ずっとあなたが好きでした(文春文庫)
ずっとあなたが好きでした
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歌野 晶午 文藝春秋 2017年12月05日頃
日々、集団自殺の一歩手前で抱いた恋心、そして人生の夕暮れ時の穏やかな想いが綴られてゆく恋愛小説集。年齢や状況もバラバラな恋の行方と意外な結末。最初は普通の恋愛小説ではあまりない展開で新鮮だなあと思いつつ読んでましたが、途中から読んでいてうん?となって、だんだんその違和感に気づいて、最後でやられた!となりました。一気読みするには分厚いですが、その分手応えを感じた一冊で巻末の解説も必見。それにしても懲りてないな~と思いました(苦笑)