7月の読了冊数は読書メーターによると最終的に137冊でした。
読んだ本137冊
読んだページ42250ページ
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こちらでは7月に読んだ一般文庫17点、ライト文芸9点、文芸単行本17点の計43点を紹介しています。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。ライトノベル編はこちら↓
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
推し、燃ゆ (河出文庫)
逃避でも依存でもない推しは背骨だと信じ、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注いできたあかり。しかしある日突然推しがファンを殴ってしまい炎上してしまう葛藤の推し小説。学校でもバイト先でもままならない日々を送る中で、自分の居場所として祈るように推しを推していたあかり。炎上してからの推しを巡る状況の激変に、生きづらい日常の更なる悪循環も加わって、推しを推している時の充足感が感じられる一方で、推しや彼女自身のまさに坂道を転がるような暗転には無力感を感じましたけど、絶望しかない今を乗り越えて、いつか立ち直って欲しいと思わずにはいられませんでした。
愛されなくても別に (講談社文庫)
学費と家に月八万を入れるため、日夜バイトに明け暮れる大学生・宮田陽彩。そんな彼女が傍若無人な同級生・江永雅と運命の出会いを果たす青春小説。浪費家の母を抱えて友達もおらず、ただひたすら精神をすり減らす日々を送っていた陽彩。自分は母親に愛されていると思っていた陽彩が、訳ありの江永雅と出会ったことで気づいてまう衝撃の真実。それが当たり前だと思わされ、がんじがらめに囚われていた登場人物たちが抱えるしんどさはあまりに重く心揺さぶられましたが、だからこそその呪縛を断ち切り、未来に希望を見出そうとする彼女たちの決意を応援したくなる物語でした。
ぎょらん (新潮文庫)
嚙み潰せば死者の最期の願いがわかると言われている、人が死ぬ際に残す珠「ぎょらん」。「ぎょらん」をきっかけに交わり始める傷ついた魂の再生を描いた七つの連作短編集。ある理由から都市伝説めいたこの珠の真相を調べ続ける地方都市の葬儀会社へ勤める元引きこもりの青年・朱鷺。死者への後悔を抱えた彼らに珠は何を告げるのか。彼の妹の恋人、元保育士の夫、葬儀屋の大先輩、ボランティア先の老人ホーム、親友や母親の死に加えて、コロナ禍がテーマのエピソードもあって、残された人たちが抱いた様々な想いが繋がってゆく中で、死者たちが最後に遺すメッセージがとても印象的な物語になっていました。
インビジブル (文春文庫)
昭和29年、大阪城付近で政治家秘書が頭に麻袋を被せられた刺殺体として見つかり、中卒の若手・新城が帝大卒のエリート守屋と組む警察小説。全てが正反対で衝突を繰り返しながら、戦後大阪に広がる巨大な闇に迫ってゆく二人。その背景に満蒙開拓団の苛烈な労働や、南下してきたソ連軍侵攻に際しての悲惨な状況、そして満州にでのアヘン製造で巨万の富を得てきた人々という構図があって、今回の事件に関わる人物たちの関係性が浮き彫りになってゆく部分は上手かったと思いますし、当時の時代性や警察組織の雰囲気も感じられる展開はなかなか良かったです。
道をたずねる (小学館文庫)
十五歳になる年、裏山のクスノキで誓いを立てた俊介と幼馴染・一平と湯太郎。彼らと切磋琢磨しながら地図会社キョーリンの調査員として日本各地を歩いて、家の表札を一軒ずつ書き留めてゆく地図づくりに生涯を捧げた男たちの熱き物語。実在する住宅地図のゼンリンの歴史をモデルに構成されているストーリーのようで、パソコンなど便利なものは何もなくて、何事も実地の手作業でやらなければなかった時代に、人海戦術も駆使しながら地道な取り組みを積み重ねて全国の住宅地図を作り上げてゆく熱い想いが感じられる展開で、彼らに関わるたくさんの印象的な人々に支えられながら、三人の絆で何度も訪れる危機を乗り越えてゆくとても爽やかな読後感の物語でした。
昨日星を探した言い訳 (角川文庫)
全寮制中高一貫校の制道院学園に進学した坂口孝文。中等部2年への進級の際、映画監督の清寺時生を養父にもつ茅森良子が転入してきて、坂口と運命の出会いを果たす青春小説。生徒会長を目指す真っ直ぐだけれど脇の甘い茅森を、影から支える坂口の密かな共犯関係。二人だけでたくさんの想いを語り合い、揺るぎない信頼と甘酸っぱい関係を積み上げてきたからこそ、思ってもみなかった急展開には驚かされましたけど、どこまでも頑固者で不器用で揺るぎない二人が、傷つきながらも大切なものを見出してゆく展開で、意外な転機と巡り合わせの末に辿り着いた結末には苦笑いでしたけどなかなか良かったですね。
映画化決定 (集英社文庫)
過去に描いたマンガをなかなか超えられず苦悩していた高校生のナオト。そんな彼のもとに学生向けの映画で受賞している同級生の天才女子高生監督ハルから映画化オファーが舞い込む青春小説。最初は小学生の頃に描いたマンガの映画化に乗り気でなかったナオト。しかし映画製作の過程で改めて作品の本質に向き合うことになり、一方で大きな秘密をひた隠しにするハルとぶつかりあいながら絆を深めてゆく展開で、葛藤と情熱が入り交じる形で進行する物語の構図は一見とてもわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末がじわりと効いてきて上手いなと唸らされました。
宮中は噂のたえない職場にて (角川文庫)
宮中は噂のたえない職場にて(1)
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天城 智尋/woonak KADOKAWA 2023年06月13日
幼い頃に母を亡くして乳母に育てられ、二十歳で女房として宮仕えを始めた梓子。人ならざるモノが視えるため、忌避される彼女が、宮中で起きる事件を解決する平安お仕事ファンタジー。噂もあって一向に主が決まらずにいた梓子が、帝の信頼厚い美貌の右近少将・光影に目をつけられ、真相究明と事態収束に協力する展開で、三日三晩経っていた噂、双六で勝負したい骸骨、出席してこない上司、内大臣が献上した桜など、和歌をもとに梓子が怪異を縛る設定が斬新で良かったですね。帝も常識的な判断をしてくれる方で、何より気が利くのに自らに向けられる想いには鈍い梓子相手に苦労しそうな二人の関係が気になるシリーズです。
夜獣使い: 黒き鏡 (ハヤカワ文庫JA)
〈異様の敵〉と闘った末に姿を消した母の言葉に従い、黒屋敷にいる黒ずくめの男・鏡見夜狐と出会った冬乃ひなげし。怪異専門の探偵・鏡見は彼女を助手として事件解決に挑む怪異連作ミステリ。「依頼が僕を探偵にする」そう話す鏡見たちのもとにもたらされる、冷蔵庫で育つ胎児、落下する三つの首、幻影で人を惑わす鋼の羊といった怪事の依頼。いかにも著者さんらしい世界観の中で描かれてゆく、ひげなしが呆れるくらい生活力は皆無でも、怪事件を見事に解き明かしてゆく鏡見の手腕があって、孤独でもたくましく真っ直ぐでパワフルなひげなしが、そこに居場所を見出して彼を支える二人の関係がなかなか良かったです。
ヨンケイ!! (ポプラ文庫)
離島・大島の渚台高校に転校してきた春尾。慢性的な人数不足に悩む陸上部にようやく男子4人のスプリンターが揃ったのに人間関係は最悪で、そんな彼らが100×4リレー(四継)に挑む青春小説。ヒーローだった兄との差を痛感する星哉、親友との複雑な過去を抱える雨夜、強豪陸上部を逃げ出した春尾、そしてヨンケイ出場に憧れていた朝月。相手を理解しようともせずことあるごとに衝突し、なかなか力を出しきれなかった彼らが、ふとしたきっかけからピタッとハマる瞬間を知っていって、手応えを感じたことで一丸となって勝利を目指すその姿にはぐっと来るものがありましたね。
いいからしばらく黙ってろ! (角川文庫)
いいからしばらく黙ってろ!
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竹宮 ゆゆこ KADOKAWA 2023年07月21日
実家では上と下の双子に振り回される生活を送り、大学卒業直後には婚約者も就職先も住む場所さえなくなってしまった富士。ふとしたきっかけから弱小劇団の運営にのめり込んでゆく青春小説。大学卒業後に親の勧めでお見合い結婚する予定が白紙にされて、その傷心を友人だと思っていた同級生たちに全否定された富士。そこからお金も場所も伝手もない、どう考えても破綻寸前の弱小劇団に魅せられてのめり込んでゆく彼女が、ほんとにその選択でいいの?を何度も突き付けられながら、それでもハイテンションで最後まで駆け抜ける展開には著者さんらしさがよく出ていてなかなか良かったです。
数学者の夏 (講談社文庫)
リーマン予想の証明で壁にぶつかっていた上杉和典。彼が夏休みのステイ先として訪れた伊那谷の学生村で、村を揺るがす事件が生きる青春ミステリ。羨むほどの数学的センスを持つ元京大生と知り合い、数学に没頭するはずが村ではガソリン泥棒に資料館が荒らされたりと不穏な事件が頻発。中学時代の恋人・立花彩と再会した和典が事件解決に動き、それが過去の殺人事件にまで繋がってゆく展開で、彼らの相変わらずな部分と成長した部分も垣間見せつつ、辛い過去の歴史にしっかりと向き合って、様々な形で変わるきっかけに繋がってゆく結末はなかなか良かったですね。
マザー/コンプレックス (小学館文庫)
地下鉄で起きたある事件を発端に、歪み、崩壊していく三つの家族。そして、暴走する母性の先に新たな悲劇が起こってしまう連作小説。痴漢行為を咎められ、逃げようとして地下鉄に轢かれて死んだ自慢の息子の母。高校生の娘が長らく続いた電車内で痴漢を捕まえたものの、思わぬ悲劇に遭遇する母。そして待望の子供を妊娠した矢先に夫が痴漢行為で逮捕され、途方にくれる妻。暴走する母たちの迷走っぷりは当事者以上に際立っていましたが、そこから明らかになってゆく子供たちの意外な一面もあって、残された遺族の複雑な思いも考えて今いましたが、一方でどうしようもないクズにも因果応報と思える結末がまっていて、これは必然だと思ってしまいました…。
アリスとテレスのまぼろし工場 (角川文庫)
アリスとテレスのまぼろし工場
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岡田 麿里 KADOKAWA 2023年06月13日頃
製鉄所の爆発事故により出口を失い、時が止まった町で暮らす中学3年生の正宗。鬱屈した日々を過ごす中、同級生の睦実に導かれて野生の狼のような少女と出会う劇場アニメの原作小説。製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れた正宗が出会った、喋ることのできない囚われた少女・五実との出会い。正宗がそこに通って彼女と仲良くなっていくことで、皮肉にも始まってゆく世界の均衡の崩壊。この世界に存在する大人たち、子どもたちそれぞれの視点から閉塞した状況を描写しながら、正宗と五実、睦実の関係性を軸に、現実とまぼろしの構図が明らかになってきて、それぞれが覚悟を決めたことで迎える結末はなかなか良かったですね。
クロワッサン学習塾 (文春文庫)
教員をやめ、小学4年生の息子とふたり、東京から地元に戻り父が営むパン屋で働きはじめた黒羽三吾。そこで関わった子どもたちと「学ぶこと」の意味を探しながら成長するあたたかな物語。店で起きた万引き騒動をきっかけに気づいた、母子家庭で忙しい母に聞くこともできず学校の宿題で少し困っている少女。息子の親友になった少年が、自分も気づいていなかった困難。教員時代の後悔を胸に人生の岐路に立つ三吾が、学校や家での困ったことを言葉にできない子どもたちの悩みに気づいて、他の家庭で抱えている問題に手を差し伸べるのは簡単なことではなかったですけど、子供のためにその真摯に向き合おうとする姿勢は好ましかったです。
五年後に (双葉文庫)
女子生徒から聞いた男性教師に告白した返事「五年後に言うてくれたら嬉しいのに」に複雑な想いを抱く女教師。人間のささやかな悪意、不器用さ、弱さなどを教師を主人公に描く連作短編集。女生徒の言葉につい自らの苦い過去を思い出してしまう女教師、波止場で毎日息子を待つ老女と統廃合間近の中学校教師、余命わずかな母親のこれまでの人生に思いを馳せる教師、友人へのいじめに無力だった過去の自分を悔いる教師が気づいたいじめ、家庭に問題を抱えている生徒に向き合う教師。後味も良くない表題作はどうしても強烈なインパクトがありますが、それだけではない教師の様々なありようを浮き彫りにしてゆくとても印象的な短編集でした。
ミステリな食卓 美味しい謎解きアンソロジー (双葉文庫)
ミステリな食卓 美味しい謎解きアンソロジー
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碧野 圭/太田忠司 双葉社 2023年06月14日
極上の謎解きに加え、趣向を凝らした料理の描写も楽しむことが出来る、美味しい食をテーマにした短編作品を収めたミステリアンソロジー。碧野圭さんの気ままな日々を送るOLが会社の同僚の結婚詐欺騒動に巻き込まれる過程で出会った苺のスープ。新津きよみさんの性格の違う双子姉妹の生き方と、実家の蕎麦屋と夢の物語。碧野圭さんの料理教室と料理を巡る男女の複雑な心理とすれ違い。西村健さんの定年を迎えた刑事のバスの旅。斎藤千輪さんのイタリアンと音楽と嘘。いくつか既読の作品もあったような気がしましたが、タイプの違う美味しい食とミステリを楽しめました。
海神の娘 (講談社タイガ)
海神たる蛇神の抜け殻からできたという、世界の南の端にある「花勒」「花陀」「雨果」「沙文」の四つの島。領主を決める海神に仕える巫女王の託宣を巡る物語を描いた連作短編集。領主が海神の娘を娶ることで、島は海神の加護を得て繁栄すると言われ、領主と彼女たちの物語が描かれていて、かつて家を滅ぼした領主の息子に嫁ぐ黥面の少女。次男を偏愛する元海神の娘が犯した禁忌と領主を信じる娘。暴虐の君主が迎える必然の結末と、嫁いできた少女が密かに抱える辛い過去。それぞれに想い人がいる少女たちに下された託宣。真意も知らされず、様々な想いを抱えながら嫁いだ海神の娘たちが、苦難に向き合い、それを乗り越えて幸せになってゆく姿がなかなか印象的な物語になっていました。
完璧な小説ができるまで (メディアワークス文庫)
完璧な小説ができるまで
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川崎 七音 KADOKAWA 2023年06月23日
人気小説家・相崎一歌の監禁事件。暴走したファンの犯行かと思われた事件が、そこから思わぬ真相が明らかにされてゆくサスペンスミステリ。高校時代の一歌の友人で、逮捕されるまでは相崎一歌になりすまして執筆していたという月村荘一。二人の間に一体何があったのか。問いただす刑事を前に驚くべき告白を始める月村。一歌の苦悩と協力を求めた壮一の監禁。月村壮一と柊木逸歌に相崎姫野を加えた、作家を目指す三人で始めた文芸研究同好会と複雑な三角関係。そこで起きた悲劇。その過去の意味合いを劇的に変えてしまう衝撃的な展開、そして完璧な計画がもたらした紆余曲折の末に辿り着くその結末は鮮烈な印象を残しました。
ひとすじの光を辿れ (新潮文庫nex)
ゲートボールの和名「門球」からモン美と呼ばれる、口を開けばゲートボールのことしか話さない清楚系美人の保嶋沙都美。親に言われてガリ勉をしていた主人公が、彼女の情熱に影響されてゲートボールにのめり込んでゆく青春小説。モン美と副部長ピン子のちょっと変わった美少女コンビ、部員不足に入部したことで棚ぼた惚れを期待かと疑われタナボーと呼ばれる主人公を加えた三人でゲートボール大会優勝を目指す展開で、意外とテクニカルなゲートボールの奥深さも感じつつ、想像以上に波乱万丈だったピン子の事情に直面したり、激闘だった大会のあっけない幕切れからモン美に秘められた熱い想いに触れて、タナボー自身もまた少しずつ変わってゆくなかなか爽やかな読後感の青春小説でした。
後宮食医の薬膳帖 廃姫は毒を喰らいて薬となす (メディアワークス文庫)
後宮食医の薬膳帖 廃姫は毒を喰らいて薬となす(1)
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夢見里 龍 KADOKAWA 2023年07月24日
暴虐な先帝の死後、処刑を免れる代わりに後宮食医として貴妃達の治療を命じられた先帝の廃姫・慧玲。先帝の呪いと恐れられ、典医さえも匙を投げる奇病を次々と治していく中華後宮ファンタジー。母に教えられたことで毒疫を唯一治療することができる、あらゆる毒を解す白澤一族最後の末裔でもある慧玲。皇后に救われて謎めいた美貌の風水師・鴆と出会い、鱗が生える側妃、脚に梅の花が咲く妃嬪、青く燃える火を帯びる皇后、都の東部で起きた毒疫の調査。周囲から憎まれ蔑まれる雰囲気の中で、味方と思いたい相手にすら油断できず信じきれない状況の中で、それでも絶望に最後まで諦めずに真摯に向き合い、人々を救うことで認められてゆく慧玲の姿がとても印象的でした。
冥府の花嫁 地獄の沙汰も嫁次第 (集英社オレンジ文庫)
角や霊力を持たないものは差別される冥途十州。ツノナシの翠が奉公先の鬼から折檻されていたところを閻魔庁の冥官・天鴦に助けられる冥界ファンタジー。過重労働の改善や、音信不通となってしまった弟を探すため、閻魔庁へ向かおうとする翠に天鴦が渡した特別な許可証。実は閻魔王だった天鴦の計らいで、仮の花嫁候補扱いとして遇されることになった翠。ここでもやはりツノナシゆえに妬まれたり、陥れられそうにもなることもありましたけど、真っ直ぐな彼女は持っていた不思議な力で危機的な状況を救い、秘されていた出自も明らかになったことで風向きも変わりましたね。弟は果たして見つかるのか、天鴦との関係がこれからどうなるのか今後の展開が楽しみです。
癒やしのお隣さんには秘密がある (PHP文芸文庫)
癒やしのお隣さんには秘密がある
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梅澤 夏子 PHP研究所 2023年07月11日
真面目ゆえ、頼まれた仕事をなんでも引き受けてしまう苦労性の蓬田藤子。彼女が住むオンボロアパートの隣の部屋に、とんでもないイケメン・仁科蒼真が引っ越してくるラブコメディ。お金持ちのエリート会社員で親切で紳士的な隣人との交流に、次第に癒やされるようになってゆく苦労人の藤子。日々の積み重ねがかけがえのないものになっていったからこそ、思ってもみなかった急展開にはうわあ…と思いましたけど、いつの間にか傍にいるのが当たり前になっていたと自覚してゆくあたり、それを受け入れられるのかはその人次第なのかなとも感じつつ、何だかんだ言いながらもお似合いの二人だったのかもしれないですね(苦笑)
君は医者になれない 膠原病内科医・漆原光莉と血嫌い医学生 (メディアワークス文庫)
君は医者になれない 膠原病内科医・漆原光莉と血嫌い医学生
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午鳥志季 KADOKAWA 2023年04月25日頃
血が怖いという致命的ハンデを抱える医学生・戸島光一郎。落第にリーチが掛かった彼は、救済措置として人手不足のアレルギー・膠原病内科の手伝いを命じられる物語。免疫が己の身体を傷付けてしまう難病患者を診療する膠原病内科。歯に衣着せぬ言動に加え、人として残念な面が多々ある医長・漆原光莉と、母への処方を守らない家族、光一郎に看取ることを依頼された患者、光一郎の幼馴染・式崎京の急変。何とかしたいという思いに果たしてどう処置するのが最善なのか、どうしても経験も知識も不足する光一郎が空回りしてしまうのも仕方ないとも思いましたが、取り戻せない過去を抱える漆原の言葉は重かったですね…。ハンデを克服するのは大変そうですけど漆原に認められた光一郎には頑張って欲しいです。
養生おむすび「&」 初めましての具材は、シャモロックの梅しぐれ煮 (集英社オレンジ文庫)
養生おむすび「&」 初めましての具材は、シャモロックの梅しぐれ煮
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髙森 美由紀/つじこ 集英社 2023年07月20日
青森の長閑で美しい景色の中で営業するキッチンカー「&」の不愛想な店主の柴田。悩める客一人ひとりのために選んだ具材で、できたてのおむすびをそっと差しだす短編集。再会した相変わらず少食で忙しい小学校時代の同級生・市川に寄り添ってくれた美味しいおむすび。魅せられた彼女も手伝うようになって店の様子も変わっていく中で、お店を訪れてくれる老夫婦だったり、ワカサギ釣りにやってきた先輩とのかけがえの出会いもある一方、ライバルの妨害もありましたけど、お互いに刺激しあって内心認め合うようになっていっても、口ではなかなか素直になれない二人の距離感がなかなか良かったですね。
映画みたいな、この恋を (集英社オレンジ文庫)
のどかな田舎の三ヶ日町の高校に通う、自他ともに認める普通の高校生の実緒。そんなある日、地元が映画のロケ地に決定して、町の誰もが一気に浮き立つ青春小説。俳優を目指している親友の果菜や、動画配信で町おこしをしようと試行錯誤する幼馴染の翔太と、平凡だけど楽しい毎日を送っていた実緒が、裏方でサポートするつもりだったのに、気づけば自身がエキストラとして映画に出演することになってしまう展開で、多くの人の様々な思惑に振り回されながら、意識していなかった気持ちにも気づいて、様々な経験を通じて引っ込み思案だった彼女が自ら意思表示したり、これからのことも少しずつ考えるようにもなってゆく、とても眩しい青春小説でした。
妹妹の夕ごはん 台湾料理と絶品茶、ときどきビール。 (富士見L文庫)
妹妹の夕ごはん 台湾料理と絶品茶、ときどきビール。
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猫田 パナ/mame(まめ) KADOKAWA 2023年05月15日頃
コンビニ弁当と缶ビールが夕食の定番の枯れきった一人暮らし生活を送る松沢夕夏30歳。台湾からやって来た18歳の留学生と送る女ふたりのおいしくて楽しいルームシェア生活。夕食作りを条件にルームシェアを始めた、料理上手でアイドルオタクな大学生・楊春美。年齢も趣味嗜好も違う彼女と一緒に暮らすことに不安を感じていた夕夏が、初日から春美の作るおいしいごはんに胃袋を掴まれてゆく展開で、一緒に過ごすうちにお互いや周囲が抱える寂しい気持ちに気づいて、それぞれがありのままでいられる居場所になってゆく、そんな彼女たちの関係がとても良かったです。
コロナ禍による休校や緊急事態宣言。これまで誰も経験したことのない事態に直面する中で、天文に興味を持った中高生たちがスターキャッチコンテストに挑む青春小説。スポーツの大会や夏休みの合宿も中止になる中で、望遠鏡で星を勝ちスピードを競う「スターキャッチコンテスト」開催を目指す高校生の亜紗、進学した中学の新入生で唯一の男子だった真宙、他県からの宿泊で友人からも距離を置かれる旅館の娘・円華。感染関係者への差別、離婚や家庭の事情での転校など、コロナ禍では実際にあっただろうな…と感じさせる様々な出来事にも直面しながら、コンテストに向けて取り組む中で育まれてゆく彼らのかけがえのない絆がとても素敵な物語でした。
【第30回松本清張賞受賞作】
ノウイットオール あなただけが知っている
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森 バジル 文藝春秋 2023年07月05日
1つの街を舞台に描かれる、5つの世界。少しずつ重なり合い影響を与えあって、思わぬ結末を引き起こし、世界を反転させてゆく連作短編集。探偵青影のもとにもたらされる殺されたヤクザの真犯人探しミステリ。好きな相手を紹介してくれることを条件に誘われたM-1挑戦を描いた青春小説。未来人との遭遇から始まるSF小説、追放されて現世にやってきた異世界と因縁の再会を描いたファンタジー、そして不可思議な力を持った女性と運命の出会い。一見共通点もなさそうなまったくジャンルが違う短編が、それぞれが繋がってゆくことで全貌が明らかになってゆくその結末には驚かされました。
うっかり遭遇してしまった7つの禍。逃れられずそれに絡め取られてゆく人々の人生とその結末を描いた短編集。本を貪ることに魅入られてしまった男。耳に潜り込む奇妙な男を知ってしまった男。向こうの世界を知ってしまい、そこで運命の出会いを果たした男。バスで声をかけてくる女たちに魅入られてゆく男。ハナバエを育てる農場から逃れられない男。髪を教義とした教団の教祖世代交代の儀式。電車内の裸夫から始まる大パニック。遭遇してはいけないものに気づいてしまい、魅入られていった結末は様々でしたけど、それぞれに感じたことは違うものの、どれも心を強く揺さぶられるものがありました。
東欧で学生時代を過ごして、そのままハンガリーの病院で職を得たアサト。しかし過誤から左手を失ってしまい、見知らぬ白人の左手の移植手術を受けた葛藤を描く物語。仕方ないと諦めた左手の喪失と生々しいまでの幻肢痛、クリミア併合から逃れてきた妻ハンナのこと、そして移植された左手の違和感に悩まされるアサト。ウクライナと周辺国の陸続きの国境を巡る複雑な想いは、陸続きの国境を持たない日本とはまた違った感覚もあるんだなと思いながら読んでいましたが、アサト視点で語られる物語にはやはり少なからず混乱があったことも伺えて、やはり人々の考え方も違う異国の地で、同時期にいくつもの悲劇に立て続けに直面したら、冷静に向き合うことはなかなか難しいですね…。
その謎を解いてはいけない
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大滝 瓶太 実業之日本社 2023年06月01日
厨ニめいた探偵・暗黒院真実の助手を務める、生まれつき左眼だけ翠色のオッドアイで、珍しい名字が悩みの女子高生・小鳥遊唯。そんな二人が決して解いてはいけない謎を暴いてゆくミステリ。山奥を探索中に帰れなくなった二人が止めてもらった蛇怨館で直面する殺人事件。失踪した作家の捜索依頼や、双子のどちらが主人公を殺したか、その集大成とも言える事件の違う意味で壮絶な結末…。話の脱線が多いため話の進行が遅い点は否めませんが、実質的な探偵役の小鳥遊が事件を解き明かすたびに、関係者の隠しておきたかったあまりにも痛い黒歴史が次々と暴かれてゆく展開には、ああそういう意味でしたか…と妙な納得感がありました(苦笑)
夏休みのある日、白いワンピースのような服に身を包む美少年アストラル神威と橋の上で出会った十七歳の高校生・鬼島鋼太郎。面倒に巻き込まれたくないと避けた彼が、後日鋼太郎の高校に留学生として転校してくる青春小説。『せいしゅん』をするために予測不能な行動ばかりをとり、鋼太郎を困惑させる神威。周囲に隠していた鋼太郎の妹を巡る事情や、彼と秘密を共有する千葉巴も否応なしに巻き込んで、怒涛の文化祭へと繋がってゆく展開は圧巻でしたけど、ではなぜ彼がそこまで青春を謳歌することにこだわっていたのか。明らかにされてゆくその壮絶な過去と幕切れに直面して、そうするしかなかったのか思わずにいられない葛藤の日々と、最後に明かされる密かに託されていた真摯な思いがなかなか鮮烈な印象を残す物語でした。
宮城県の港町で統合失調症を患う母の介護に忙殺される日々を送る高校2年生小羽。誰にも助けを求められない孤立した日常を送る彼女たちが、町に引っ越ししてきた女性・青葉と出会う物語。双極性障害の祖母を介護する航平、アルコール依存症の母と弟の面倒を看る凛子としか共有できない、周囲の無理解に苦しむ彼女たちに寄り添ってくれた青葉の存在。震災によって全てが一変した日々と震災時の後悔、癒えない傷。10年後かつての仲間との再会から過去に向き合おうと決意する彼女たちは、結果的に孤立した日常からは解放されたけれど、だからといって過去と決別したわけでもなくて、それぞれが感じて忘れずに抱き続けてきた様々な想いには強く心が揺さぶられる思いでした。
人生で一番エネルギー要る時期なのに。ハードモードな日常ちょっとえぐすぎん?陽キャ中学生レナレナが、公然不倫中の母と共に未来をひらく知恵と勇気の爽快青春長篇。中高一貫女子校でバスケにのめり込む育ち盛りのレナレナを主人公に、母の不倫相手が陽性になったことから濃厚接触者疑いでバスケの大会に出られなくなったり、友人たちも両親が離婚問題に揺れたり、コロナ禍で家族の店が潰れそうになったり。困難に直面して彼女たちなりに懸命に考える姿だったり、自身は生きたいように生きているのに、娘には妙に理性的で理屈っぽい母の言葉は鮮烈な印象を残しましたけど、あのやりたい放題の母親を淡々と受け入れる夫や娘にも正直驚きました…。
「絶対に東大合格しなきゃ許さない」両親の苛烈な期待に応えるために、勉強漬けの日々を送る高校三年生の高志。ある日、同級生の少女・星から、自身をとりまく異常な環境を「虐待」だと指摘される青春ミステリ。教室で浮いていた星と勉強漬けで埋もれていた高志。学校で受ける正体不明の嫌がらせ、そして受験に失敗して引きこもりになってしまった姉。自らも親からネグレクトを受けていることを打ち明ける星の話を聞くうちに、自らの親の異常ぶりを認識して、このままの未来に絶望し、自分の人生を取り戻すために一緒に自分達を追い詰めた親への〈復讐計画〉を周到に用意する高志たちが、思わぬアクシデントにも遭遇しながら、今の自分にできる精一杯で掴み取ってみせたその結末には確かな希望がありました。
いい物件なのに人が居つかない家、というものは存在する。入居者たちが経験する恐怖体験とその原因が明かされてゆく連作短編集。母と共に庭付きの一軒家へ引っ越してきた中学生が経験する、ささやかだが気になる出来事の連続。不動産仲介会社に勤める朝見が、いわくつきの物件を探している大学時代の先輩だったライターに紹介した物件で起きた出来事。そしてその家はなぜ人が居つかないのか。新たな住人をきっかけに、浮かび上がってゆく過去のある事件。最初はホラーものかと思って読んでいたのですが、本当に恐ろしいのは人の執着なんですよね。でもさりげなく一番怖かったのは最後に姿を見せた大家さんだったりしました…。
中国のある町で起こった奇妙な出来事。脳科学をテクノロジーに昇華させ「時代」を作ったIT経営者の不思議な経験。全く関係なさそうな出来事が思わぬところで繋がってゆく近未来SFミステリ。中国で引き起こされた、真夜中にパソコンのディスプレイに「誰かたすけて」の文字が連鎖してゆく怪現象。相手の不倫が原因で別居をしていた夫と久しぶりに会った妻が感じた決定的な違和感。会わなかった間に一体何が起きていたのか。思わぬ形で繋がった運命的な邂逅と決定的な変容に直面して、危機を救うために奔走するダイナミックなストーリーの先には、さらに斜め上の結末が待っていて驚かされました。意欲的なチャレンジで鮮烈な作品を書き続ける著者の次回作に期待。
動物たちが、「生きること」を教えてくれた。母を亡くしてからの家庭環境に苦しんだ岸本聡里が、救ってくれた祖母とペットに支えられて獣医師を目指し、北海道の獣医学大学へ進学する青春小説。母を亡くしてから父が再婚した継母の心無い態度に苦しんで、中学時代には不登校にもなった聡里。そんな彼女を救い出し、大学に進学する筋道を作ってくれた祖母のチドリさんの存在。獣医になると覚悟を決めるには様々な葛藤があって、けれど悩める彼女を支えてくれるかけがえのない人たちがいて、経験を積み重ねてゆく中でこれからの進むべき道や、自分の居場所を見出してゆく聡里のこれからを応援したくなる物語でした。
ある女性から多額の遺産を残されていると弁護士から知らされた塾講師・八木里花。夫と離婚して一人で息子を育てている彼女が、相続のための条件を知って、過去の事件の真相を調べ始めるミステリ。相続の条件は里花の母親違いの姉・夏野の死の真相を突き止めること。蝶のように脆い心臓と芙蓉のように鮮やかな痣を持ち、高校生で自らを死を選んだ美しい姉。多くの謎を残して散った少女を巡る愛憎と献身はなかなか壮絶で、その描写の積み重ねには著者さんの読ませる筆力を感じましたが、それを知ることで浮かび上がってくる相続の真の条件があって、これまで少なからず影響を受けていた理花が直面する選択が、印象的な結末になっていました。
どこまでもロジカル、限りなくポップ。そしてほんのりクレイジー。著者の奇想が踊る5つの奇妙な謎と解決を描いた連作短編ミステリ。ドレスをズタズタにした犯人は、どこから来てどこへ逃げたのか。虫食いだらけにしてしまった作家の父の原稿を、二人の高校生が前後の文章から推理して完全修復。夫は殺したはずなのになぜ動いてるのか、祠の妖精に悪運を授けられた殺人犯の容疑から外れた男の結末。瞬間移動能力者が起こした密室殺人。ちょっと変わった前提からスタートするそれぞれのエピソードは、読者の思い込みを巧みに覆してゆく意外感があって、なかなか面白かったです。
しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人
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早坂吝 光文社 2023年05月24日
迷宮牢で目を覚ました女名探偵の死宮遊歩。六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めたゲームマスターから、七人のうち一人だけ生き残れるサバイバルを告げられるミステリ。冒頭に描かれる理不尽極まりない凄惨な一家殺害事件。そこから一転、死宮の視点で描かれる一人また一人と殺害されてゆく七人の男女によるサバイバル。生きてここを出られるのは誰なのか?そしてゲームマスターの目的は一体どこにあるのか。二転三転する状況の中で作り込まれたディテールが活きてきて、著者さんらしくややトリッキーな展開ではあったものの、僅かな手がかりから解決への糸口を見出して世界を反転させてみせたその結末はお見事でした。
三十年前に別れたままの君の凍死体が発見され、街での出来事や君との思い出が甦ってゆく表題作と、貧困・警備員オタク女生活の半私小説を収録した作品集。鶏小屋の前で会った二人。初めて訪ねた家で出会ったZの存在。ある日連れて帰った、学校の鶏小屋で生まれたばかりの鶏の子供。そしてある日養鶏場で発生した鶏の病気。名前をあえて書かないことで性別のニュアンスを削ぎ落としながら描かれる、灰色な故郷での嫉妬や裏切りを読んでいると、人の関係性に性別はあまり関係ないんだな…としみじみ思いましたが、一方で淡々と描かれる東京で暮らす女性の平凡ゆえにリアルな生き様もまた印象に残る作品になっていました。
ミステリ、児童文学、幻想ホラー、掌編小説など、デビュー10周年を迎えた著者によるカラフルな11の物語を収録した作品集。巻頭の印象的な「海」や姉妹の関係性が印象的な「髪を編む」、不思議な現象と学者たちの戦いの記録「空へ昇る」、淡々と綴られる奥の深いホラー「耳に残るは」、プールになぜ付け爪が落ちていたのかを推理する「プール」、真相が優しい「イースター・エッグに惑う春」、前日譚「本泥棒を呪う者は」、4人の子どもたちが遭遇する事件を描いた「緑の子どもたち」など、個人的には長編の方が好みかなとは思いましたが、これはこれでジャンルも多彩で著者の引き出しの多さを改めて感じさせてくれる短編集でした。
公私共に「いい子」でいることの「割りに合わなさ」を訴える女性を描いた表題作ほか、社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たちへ贈る短編集。人よりも先に気づいてしまうがゆえに、さり気なくフォローしたり、歩きスマホをしてぶつかってくる人をよけたり、そんな女性が直面する理不尽な現実。お供えしたら願いが叶うというフィギュアにお供えする女性、郷里の友人の結婚式を欠席した結婚式嫌いな女性。誰にでもモヤモヤすることや、心に思うところがあるのは当然で、でもそれをやらない分別があるからこそ複雑な想いを抱えてしまう人たちの生きづらさが印象的でした。