6月の読了冊数は読書メーターによると最終的に136冊でした。
読んだ本136冊
読んだページ41646ページ
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こちらでは6月に読んだ一般文庫の新作22点、ライト文芸の新作4点、文芸単行本の新作13点の計39点の紹介になります。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。
ライトノベル編はこちら↓
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)
六人の嘘つきな大学生
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浅倉 秋成 KADOKAWA 2023年06月13日
成長著しいIT企業「スピラリンクス」初の新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に課されたチームを作り上げてのディスカッションが、直前になって突然六人の中から一人の内定者を決めると通達される青春ミステリ。全員で内定を目指していたはずの仲間たちが、ひとつの席を奪い合うライバルに。内定を賭けた議論の中で暴露されてゆく六通の封筒の中身。十年後に行われたインタビューも交えながら、当時の事件が語られる展開で、新たな嘘や事実が判明するたびに二転三転するそれぞれの印象の変化もありましたけど、れを収束させていった先には鮮烈な結末が待っていて、就職活動についてもいろいろと考えさせられるなかなか奥が深い物語でした。
オルタネート (新潮文庫)
加藤 シゲアキ 新潮社 2023年06月26日
高校生限定SNS「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、3人の若者の運命が鮮やかに加速してゆく、デジタルな世界と未分化な感情が織りなす青春小説。全国配信の料理コンテストでの悲劇の後遺症に悩む蓉、母との軋轢により絶対真実の愛を求め続けるオルタネート信奉者の凪津、高校を中退し音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志。オルタネートへのスタンスも異なる三人を軸に繰り広げられてゆく、本作の世界観ならでは人間関係は興味深くて、それぞれが上手く行かない葛藤に自分なりに向き合い、その決着を付けてゆく群像劇的展開はなかなか良かったですね。
月曜日の抹茶カフェ (宝島社文庫)
青山 美智子 宝島社 2023年06月06日
定休日の月曜日に、1度だけ「抹茶カフェ」を開く、川沿いの桜並木のそばに佇む喫茶店「マーブル・カフェ」。一杯の抹茶から始まる東京と京都を繋ぐ12ヵ月の心癒やされる連作短編集。携帯ショップ店員と茶問屋の若旦那、妻を怒らせた夫とランジェリーショップの店主、恋人に別れを告げたシンガーと祖母と折り合いが悪い紙芝居師、京都老舗和菓子屋の元女将と同じ名前の京菓子を買いにきたサラリーマンなど、思い悩む人々が誰かの何気ない言葉に励まされて、ふとしたことから自らもまた誰かの背中を押しているエピソードは意外なところで繋がりが描かれていて、そんな縁を丁寧に描いてゆく著者さんらしいとても素敵な物語でした。
この気持ちもいつか忘れる (新潮文庫)
この気持ちもいつか忘れる
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住野 よる 新潮社 2023年06月26日
退屈な日常に絶望する高校生のカヤ。彼の前に現れた爪と目しか見えない異世界の瞳が美しい謎の少女チカと出会い、真夜中の邂逅を重ねてゆく青春小説。生きていることに希望を見いだせないカヤが偶然であった少女の存在。互いの世界に不思議なシンクロがあることに気づき実験を始める二人。かけがえのない日々で大切な存在だからこそ、どうしても許せないことがあって、それがあっさり失われてしまう恐ろしさを何度も突きつけられましたが、だからこそ忘れてしまおうとせずに手放さなくて良かった、そう思える時がいつか来ることを願わずにはいられませんでした。
転職の魔王様 (PHP文芸文庫)
額賀 澪 PHP研究所 2023年06月08日
大手広告代理店での激務とパワハラで、三年たたずに退職した未谷千晴。働く自信と希望を失った彼女が、叔母が経営する人材紹介会社で「転職の魔王様」という異名を持つ凄腕キャリアアドバイザー来栖嵐と出会うお仕事小説。働く自信と希望をなくしてしまい、一年間試用期間として来栖について仕事をすることになった千晴。彼女が直面してゆく岐路に迷う派遣社員、同じような境遇の広告代理店の人、来栖の元カノが来社した理由、トラブルで転職歴が多い人の事情、そしてなぜ来栖が今のような人物になったのか。面談初日から不躾な態度で接してきた来栖の過去が明かされてゆく一方で、彼女とともに過ごす中で千晴もまた自らに問いかけてゆく展開はなかなか良かったですね。
教室に並んだ背表紙 (集英社文庫)
中学校の図書室を舞台に、クラスや友人たちとの言動に馴染めない違和感や未来への不安、同級生に対する劣等感など、思春期の少女たちを繊細に描く連作短編集。図書室にやってくる苦手なクラスメイト、新たに赴任した学校司書と見つけた未来への手紙、ゴミ箱に捨てられた課題図書の感想文、変わってしまった友人への複雑な想い、自分を認めてくれた友人、ふとしたきっかけから教室に居場所がなくなる孤独など、教室の中に居場所を見つけられない主人公たちが見出すささやかな繋がりがとても優しくて、そんな繊細的な描写がとても著者さんらしい物語でした。
この本を盗む者は (角川文庫)
深緑 野分 KADOKAWA 2023年06月13日
“本の街”読長町に住み、巨大書庫「御倉館」を管理する家に生まれた本嫌いの高校生・深冬。ある日、入院した父の代わりに叔母を世話するために御倉館を訪れた時、蔵書が盗まれて祖母が仕掛けた本の呪いが発動してしまうファンタジー。泥棒を捕まえない限り町が元に戻ることはないと知り、本を盗んだ犯人を追って、不思議な少女・真白と一緒にいくつもの本の世界を冒険していく深冬。その過程で徐々に明かされてゆく御倉家の過去や本の呪いの正体、そして真実に向き合うことで少しずつ変わってゆく深冬の成長があって、様々なものがあるべき姿を取り戻しつつある中、それでも変わらなかった本当に大切なものを取り戻してゆくその結末はなかなか印象的でしたね。
アイアムマイヒーロー! (講談社文庫)
アイアムマイヒーロー!
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鯨井 あめ 講談社 2023年06月15日
自堕落で未来に希望を見出だせない日々を過ごす大学生・敷石和也。10年ぶりの同窓会を抜け出た彼は、駅のホームから転落する女性を目撃。直後に意識が遠のき、気がづくと10年前の過去にタイムスリップしていたことに気づく青春SF小説。気がつくと眼前に小学生時代の無鉄砲な自分タカナリがいて、自身は見知らぬ子どもの和也になっている。そんな状況に困惑を覚えながらも事情を知る凛子に助けられ、仲間たちと不審な事件の解決に挑む和也。何も分かっていない過去の自分に苛立つ彼が相対することになる、追いかけていた不審人物の正体。否が応でも自分に向き合わざるをえない状況はなかなかしんどいなと思いましたけど、それでも今の自分に本当に必要なものは何だったのかに気づいて一歩を踏み出すその結末はなかなか良かったですね。
向日葵を手折る (実業之日本社文庫)
彩坂 美月 実業之日本社 2023年06月05日
父親が突然亡くなり、山形の山あいの集落に引っ越した小学校6年生の高橋みのり。そこで仲の良い二人の少年・怜と隼人に出会う青春ミステリ。分校の同級生と心を通わせはじめた夏、「向日葵流し」のために植えられていた向日葵の花が切り落とされた事件、時折見え隠れする不穏な向日葵男の存在。成長とともに少しずつ変わってゆくみのり・怜・隼人三人の関係があって、繊細だったその関係の裏にあった構図も明らかになってきましたけど、子供ゆえのままならなさを突きつけられながらも、それでもその時の精一杯で頑張った結末がなかなか印象的な物語でした。
嘘つきなレディ 五月祭の求婚 (集英社文庫)
ヴィクトリア朝時代のロンドン。下町で暮らしからハートレイ伯爵家に引き取られたメアリ。秘密を抱えたまま伯爵令嬢として生きる彼女が十六歳の時、その秘密を知る美貌の青年貴族ジョシュアと出会う物語。赤ん坊の頃に誘拐されたとされ、令嬢としても返り咲いてからもどこか馴染めないまま、誰にも言えない秘密を抱えるメアリに、奇妙な頼み事をしてくるジョシュア。複雑な生い立ち生い立ちから上手く生きることができない二人が、様々な事件に巻き込まれる中でお互いのことを知っていって、一緒に過去を乗り越える展開はなかなか良かったですね。お節介でツンデレなメアリを気にかける令嬢ヴァイオラの存在もいい感じに効いていました。
小戸森さんちはこの坂道の上 (角川文庫)
小戸森さんちはこの坂道の上
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櫻 いいよ/けーしん KADOKAWA 2023年05月23日
しばらく旅に出るという福井の祖母宅管理を頼まれ、思い切って引っ越した29歳のフリーデザイナー小戸森乃々香。心機一転一人暮らしを満喫しようと思った矢先、幼馴染の清志郎が二人の子どもを連れて家にやってくる大人の青春物語。不倫の子と言われあまりいい思い出もなかった街で、なし崩し的に始まった因縁の初恋の人たちとの同居生活。料理担当として一緒に住むようになった漸の存在。祖母の恋人や子供の祖父母など訪れる人たちは騒がしい人たちばかりで、ストレスフリーとは程遠い日々に巻き込まれ、たびたび振り回されながら、たくさんの人たちとの出会いを通じて、いつの間にかそんな生活も悪くないなと思えるようになってゆく乃々香の心境の変化と、そんな彼女を優しく見守ってくれる周囲の人たちとの関係がなかなか良かったですね。
私が先生を殺した (小学館文庫)
桜井 美奈 小学館 2023年05月02日
全校生徒が集合する避難訓練中、屋上から飛び降りた学校一の人気教師・奥澤先生。しかし彼が担任を務めるクラスの黒板に「私が先生を殺した」というメッセージがあったことで、状況は一変する学園ミステリ。奥澤先生と女生徒のスキャンダルめいた動画を見つけ騒ぎ立てる落ちこぼれの砥部、突然有力視されていたはずの指定校推薦を失い納得できない女生徒・黒田、大好きな先生相手に取った誤解を生むような行動を今更周囲に言えない百瀬、そして不可解な指定校推薦を押し付けられて困惑する小湊。生徒に真摯に向き合ってきたはずの先生を追い詰める、何とも理不尽な歪みが招いた悲劇に対して、痛烈な皮肉にしか思えない最後の厚顔な挨拶が何ともあれな結末でしたけど、せめて卒業する生徒たちは幸せな人生を送ってほしいです…。
スクラップ・ライアー 警察庁組織犯罪対策部の嘘つき捜査官 (宝島社文庫)
スクラップ・ライアー 警察庁組織犯罪対策部の嘘つき捜査官
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幸村 明良 宝島社 2023年05月09日
生来の虚言癖が災いし、クビ同然に福岡県警から放逐され、ヤクザにも追われる立場となった橘涼真。警察庁の組織犯罪対策部に拾われ、潜入捜査官となるジェットコースタークライムノベル。選択の余地がないまま新たに戸籍まで作られた「立川諒」として、日本最大のヤクザ組織「阿頼組」五代目の一人娘・紗香に接近する涼真。しかし紗香にあっさり看破され、ヤクザ世界から逃げ出したい彼女に表向きは結婚相手とされつつ、その裏で裏で逃亡用の戸籍を用意する脅しめいた依頼を受ける展開で、当然ヤクザたちに目をつけられて、その抗争に巻き込まれ状況も目まぐるしく二転三転する中、たびたび陥る窮地をとっさのハッタリと虚言で切り抜けて、見極めを間違えなかった彼らが最後に掴み取った結末はお見事でした。
サラと魔女とハーブの庭 (宝島社文庫)
サラと魔女とハーブの庭
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七月 隆文 宝島社 2023年05月29日
13歳の春休み。家でも学校でも居心地の悪さを感じていた由花が、家族のもとを離れ田舎で薬草店を営むおばあちゃんと暮らす決心をする物語。森の中に佇む古いが落ち着いたお洒落なお店、自分のために作られた手作りの部屋、魔法の本みたいな日記帳、由花のための特別なハーブティー。そして誰にも言えない秘密の友達サラとの友情。心の余裕が失われていた由花を受け入れてくれる居場所ができて、お店を手伝う中で様々な人との出会いがあって、その積み重ねに少しずつ癒やされながら成長していった由花が迎える結末がとても印象的な物語になっていました。
アンリバーシブル 警視庁監察特捜班 堂安誠人 (幻冬舎文庫)
アンリバーシブル 警視庁監察特捜班 堂安誠人
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長沢 樹 幻冬舎 2023年05月11日
警視庁捜査一課の本属とは別に、密かに身内の犯罪を秘密裏に探る「監察特捜班」に任命された堂安誠人。動画配信者の彼の双子の弟・賢人とともに、二人一役で自動運転の開発に絡む殺人事件に挑む警察小説。ある日、政府管轄の自動運転実験の責任者がビルから墜死して、前日に別の実験関係者も何者かに殺されていたが警察は自殺と判断。地元署の判断に不審を覚えて実験場に向かう二人が事件の背景を探る展開で、二人のポジションを活かした異なるアプローチだったり、違う視点を上手く使うことで、移民グループと地元警察の関係も浮かび上がらせて、移民グループとも接触することで真相に向けた活路を見出してゆく二人の活躍がなかなか面白かったですね。
月はまた昇る (徳間文庫)
成田名璃子 徳間書店 2023年06月09日
出産後すぐに職場復帰するつもりが、なかなか保育園が見つからない北村彩芽。そんな彼女のSNSでの呟きにママたちの苦悩が寄せられ、オフ会で知り合った二人と一念発起して保育園設立に動き出す物語。娘の保育園の方針が合わないと感じている経理担当のシングルマザー契約社員・敦子、保育園で働きたいと思っている元保育士の専業主婦・梨乃が、彩芽の情熱に引っ張られるように保育園設立に向けて動き出す展開で、三者三様に遭遇するトラブルにはそううまく行かないよな…とも感じましたけど、それでも諦めずに解決の道を探って、時にはぶつかり合いながら絆を深めて、力を併せて苦難を乗り越えてゆく姿はなかなか良かったですね。
水を縫う (集英社文庫)
手芸好きで周囲から浮いている高校一年生の清澄。一方、姉の水青は結婚を控えていて、かわいいものや華やかな場が苦手な彼女のために、清澄がウェディングドレスを手作りすると宣言する家族小説。好きな想いに忠実で真っ直ぐな清澄、対照的に派手なことは苦手で地味でいたい水青、子供には普通であって欲しい母・さつ子、彼女に大きな影響を与えた祖母・文枝、そして生活力に乏しいデザイナーの元夫・全。それぞれがお互い言葉足らずで上手く伝わらず、すれ違ってしまうもどかしい展開でしたけど、水青のドレスを通じてそれぞれの想いもいろいろ垣間見えて、少しは関係を変えるきっかけになったかなと思えるその結末には救われる思いでした。
贄の白無垢 あやかしが慕う、陰陽師家の乙女の幸せ (宝島社文庫)
贄の白無垢 あやかしが慕う、陰陽師家の乙女の幸せ
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高橋 由太 宝島社 2023年05月09日
かつての陰陽師家の名門・久我山家。その長女として生まれるも、使用人同然の扱いを受けてきた未緒が、父から不幸を呼ぶとされる「オサキモチ」である周吉のもとへの嫁入りを命じられる明治ファンタジー。以前、本所深川一帯を焼き払う大事件を起こし、世間から恐れ憎まれていた周吉。覚悟して嫁入りしたものの、初めて会った噂とは違う心優しい青年に戸惑う未緒。これまでお互いあまり良くない過去を過ごしてきた二人が、未緒の実家の問題を解決しながら心を通わせてゆく展開はなかなか良かったですね。周吉&オサキは前の時代のシリーズがあるようですけど、周吉と未緒がこれからどうなるのか、もし続刊あるならまた読んでみたいですね。
AIとSF (ハヤカワ文庫JA)
人類文明を劇的に変えようとしているAI技術。22名の作家が激動の最前線で体感するAIと人類の未来を描いた書き下ろしアンソロジー第三弾。AIの進化に晒された2025年大阪万博までの顛末、チャットボットの孤独、AIカウンセラーの献身からシンギュラリティまで、さすがに22作品もあると同じテーマで書いても人によってだいぶ方向性は違う印象でしたし、好みも分かれそうな気がしましたけど、野崎まどさんは相変わらずぶっ飛んでるな…と思いつつ、長谷敏司さん、揚羽はなさん、人間六度さんあたりのお話が個人的には良かったですかね。
新装版 今日、きみと息をする。 (宝島社文庫)
新装版 今日、きみと息をする。
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武田 綾乃 宝島社 2023年05月09日
同級生の田村夏美から美術部へ勧誘された宮澤けいと。長身でイケメンの友人・沖泰斗と一緒に入部したことでややこしい三角関係に陥ってゆく青春小説。中学時代から泰斗を気にかけてきた夏美、そんな夏美を意識するけいと。そして同じ男でありながらけいとが好きな泰斗という、それぞれが違う人を好きな三角関係という構図。それに夏美の友人で泰斗の元カノ、泰斗の友人で夏美を気にかける長谷川も絡めた、何ともややこしい人間関係が出来上がっていて、それぞれが恋敵でもあるゆえに、そうそう上手くいかない彼らのままならない複雑な想いがなかなか印象的な物語でした。
光をえがく人 (講談社文庫)
一色 さゆり 講談社 2023年06月15日
東アジアのアートの一つ一つが大切な人を繋いで、お互いを知ることで見えてくる大切なものを描いてゆく、世界の「今」を感じさせる短編集。ハングルで書き込まれたアドレス帳の持ち主を探す韓国への女性二人旅、伝統の御所人形を作り続ける人形師とフィリピン人留学生の出会い、香港の現代水墨画家とワケあり地元実業家夫人の再会、記憶をなくして海外から帰国した有名な写真家の父の生涯、ミャンマー料理店の店主に聞く自国の政治犯の話。辛い時や悲しい時に芸術を通じて出会った人とのかけがえのない縁があって、それぞれの国が抱える複雑な事情も絡めながら綴られる大切な想いが印象的な物語でしたね。
風と共に咲きぬ (角川文庫)
清水 晴木 KADOKAWA 2023年05月23日
脇役、敵役、ちょい役―哀愁漂う陰日向に咲く登場人物たちが人生という名の舞台で奮闘する姿を描く連作短編集。ヒロインのお友達ポジションでいつも恋を盛り上げる存在だった花子視点の友人の恋愛模様、愛する家族を残し地球に出陣し正義のヒーローを相手に敗北する怪人、正義戦隊では決してセンターを張れないグリーンの苦悩、そして斬られ役の役者の奮闘、そして物語の観客役。相対的な立ち位置ではどうしても哀愁漂う脇役的ポジションとしか思えなくても、一方でそれぞれが積み重ねてきた自分自身の人生も確かにあって、悩みながらも一生懸命に頑張る登場人物たちの姿がなかなか印象的な短編集でした。
アラベスク後宮の和国姫 (富士見L文庫)
アラベスク後宮の和国姫(1)
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忍丸/カズアキ KADOKAWA 2023年06月15日
和国の姫君として育ちながら謀略で奴隷となり、ダリル帝国の後宮に入れられたライラー。子を産まずに数年経てば解放される道があることを知り、スルタンに近づかず年季明けを目指すと決意するファンタジー。しかしそんな思いとは裏腹に、さっそく母后に試され、スルタンのアスィールに気に入られて高慢な妃候補に妬まれたりと、ままならない状況に巻き込まれてゆくライラー。いつか故郷に帰ることを切望する一方で、難しい立ち位置にいるアスィールの力になってあげたい複雑な想いを抱く彼女が、たびたび難問に直面しながら、その持ち前の聡明さを見せて結果的に期待されてしまう今後の展開が楽しみな新シリーズですね。
一八三 手錠の捜査官 (集英社オレンジ文庫)
一八三(ヒトハチサン) 手錠の捜査官
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泉 サリ/モクモクれん 集英社 2023年05月18日頃
とある過去から刑事になる道を自ら閉ざしていた交番勤務の巡査部長・小野寺我聞。与えられた最後のチャンスに賭けることを決意した彼が、まさかの少年刑務所の服役囚とバディを組み事件捜査する刑事小説。異動した刑事課強行犯係では想像していたのとは異なる刑事の仕事を与えられ、鬱屈した思いを募らせていた我聞に下された密命。新制度の試験運用として、少年刑務所の服役囚あんどれとバディを組み、常軌を逸した行動に振り回されながらも、意外なアプローチで真相に迫る展開はなかなか面白かったです。一方で明らかになってゆく我聞の苦い過去があって、それとリンクするように影を落とすような気になる疑惑も出てきて、これからこのコンビがどうなるのか、今後の展開が楽しみですね。
異界遺失物係と奇奇怪怪なヒトビト (集英社オレンジ文庫)
異界遺失物係と奇奇怪怪なヒトビト
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梨沙/ねぎし きょうこ 集英社 2023年06月20日
実家が貧乏だったゆえ金に対してシビアで、大手警備会社で事務職に就き、安定した生活を送ろうと目論む早乙女南。彼女が謎の部署『異界遺失物係』に配属されてしまうお仕事小説。奇跡的に採用されたものの、配属されたのは希望の事務職ではなく、甘い物が主食の部長や世話焼きの山ガール事務員、特殊性癖持ちの観察員などなどクセだらけの面々がいる『異界遺失物係』。分からないままコミュ力に乏しい五十嵐先輩と組んで、顔のない男や花をキる女、成長する胎児といった死者の未練を探して解決してゆく展開は、意外と二人がいいコンビっぷりを見せてくれて、周囲の濃いキャラたちもよく動いていて、彼女たちの物語をまた読んでみたくなりました。
BAT 吸血鬼探偵オリバー・サンシャイン (富士見L文庫)
BAT 吸血鬼探偵オリバー・サンシャイン
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田中 三五/うごんば KADOKAWA 2023年04月14日頃
NYの高校に通う心優しい少年オリバー。ある日不可解な事件に巻き込まれ母親が重症。自身は吸血鬼になってしまい、怪しげな私立探偵ヤンに預けられるバディアクションミステリ。母親を救う手立てを求めたオリバーが預けられた、暴力折檻も厭わない吸血鬼専門の事件解決請負人ヤン。半人前の吸血鬼として躾けを受け、時には命の危険も感じながら、コンビを組んで怪物絡みの事件を追うオリバー。前作と世界観が繋がっているのか、今回もアメコミっぽい展開の中で少しずつ変わってゆく二人の関係があって、真相に追う中でたどり着いたほろ苦い事件の真相とその結末もなかなか良かったですね。
【第17回小説現代長編新人賞受賞作】
水庭 れん 講談社 2023年06月14日
少しだけ変わった過去をもう一度体験できて、心のズレが直る不思議な朝顔の種「うるうの朝顔」。霊園事務所で働く青年・日置凪からもらった種が、出会った人々を少しずつ変えてゆく連作短編集。ふとしたきっかけから凪より「うるうの朝顔を託された、息子に手を上げた夫と離婚したばかりで鬱々とした日々を過ごしていた母、ずっと誰にも語らなかった過去の悔恨を抱えてきた男、大切なものを見失いかけていた男が抱える複雑な想い、亡くなった学校の先生の幽霊を見るようになった少女。託した人たちの変化の兆しを目の当たりにして、凪自身もまたずっと目を背けていた苦い過去に向き合うことを決意するその姿には、確かな未来への希望が感じられました。
多崎 礼 講談社 2023年06月14日
聖イジョルニ帝国の英雄ヘクトルの娘として生まれ、家に縛られてきたユリア。彼女が父と一緒に向かった呪われた地・レーエンデへの旅で、寡黙な射手・トリスタンと出会うファンタジー。街道を切り拓くために向かったレーエンデの地に魅了され、初めての友人を得て、仕事に従事して恋をするユリア。そんな彼女が期せずして様々な思惑が絡むレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていく展開で、それぞれ秘密を抱えながら、自分のなすべきことを見据えて覚悟を決めるヘクトルやトリスタン、そして彼らの生き様を見て自らがすべきことを見出してゆくユリアの成長があって、激変してゆく状況に翻弄されながら、それでも各々がなすべきことをやり遂げる強さが心に響く重厚で読み応えのある物語でした。
トゥモロー・ネヴァー・ノウズ
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宮野 優 KADOKAWA 2023年04月28日頃
最愛の娘を辱め殺したのに、少年法に守られのうのうと生きている男に復讐を果たした母。しかし我に返ると復讐を決意した瞬間まで引き戻されていたことに気づく連作SF短編集。犯人を何度殺しても殺しても終わらないループ、先に進まない時計。そのうち感染するかのようにループが広がっていって、記憶がリセットされてしまうステイヤーよりも、記憶を維持するルーパーの数が増えてゆくことで崩壊しつつある秩序。混沌とした繰り返しの日々に自分が直面したらどう向き合うのか。そういう状況になってしまえば、それに絶望する人もいれば、悪用する人もいるんだろうな…と思いながら読んでいましたが、それでもいつか終わるかもしれないと信じて、真摯に生きる人たちの姿がとても印象的な結末でした。
ロールキャベツ
森沢明夫 徳間書店 2023年05月17日頃
夢も趣味もない大学生の夏川誠と、ただ椅子に座るだけの遊び「チェアリング」の仲間たちとの出会いから、人生が大きく変わってゆく青春起業小説。ミュージシャン志望のパン子、農家レストラン経営を夢見る風香との出会いから始まった、シェアハウスに住む投資家志望のミリオン、喫茶店のオーナーを目指すマスターも一緒に「チェアリング」をして過ごす刺激的でかけがえのない日々。それぞれがままならない複雑な事情を抱えていて、窮地に陥った仲間のために奔走する彼らが、時にはすれ違いながらもみんなで一生懸命考えて、それぞれの特性を活かした新たな夢を見出してゆくとても素敵な物語でした。
櫛木 理宇 集英社 2023年05月10日頃
地方の温泉街の河原で発見された子どもの惨殺遺体。警察は疑いを強めて逃亡する15歳の少年・間瀬当真が警官の拳銃を強奪し、子分とともに子ども食堂に立てこもるサスペンスミステリ。自らの無実を主張し、人質を殺されたくなければ警察が真犯人を捕まえろという当真。少年少女とともに人質となり、幼馴染の刑事・幾也と連携しながら、当真と粘り強く交渉して解決を目指す子ども食堂の店主・司。捜査の過程で暴かれてゆく温泉環境の絶望的な育成環境や、それを食い物とする大人たちには暗然たる気持ちにさせられましたが、今回の事件を通じての子どもたちの心からの叫びが、変わるきっかけになって欲しいと思わずにはいられませんでした。
井上 悠宇 講談社 2023年06月28日
幼い頃から不思議なものが見えていた大学生の菊理現と、思い出のダイスに触れた途端、見えるようになった長い黒髪に白いワンピースの美しい女性。彼だけが認識する言葉を持たない不実在探偵が提示した正解から、真相を推理する水平思考ミステリ。何とも奇妙な事件を解決するため、親戚の刑事・百切と部下烏丸により持ち込まれる、藍の花を握りしめて女性が死んだ理由、宗教施設で血を流す大きな眼球のオブジェの原因解明と、そこから繋がる事件で判明した思わぬ真相。「はい」か「いいえ」だけを答える異色の探偵が提示する解答をもとに、個性的なキャラたちが真実にアプローチする展開はなかなか斬新で、全てが繋がってひとつの真実にたどり着くその結末には唸らされました。
まるで名探偵のような: 雑居ビルの事件ノート (ミステリ・フロンティア)
まるで名探偵のような
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久青 玩具堂 東京創元社 2023年06月30日
雨宿りに入った雑居ビルの喫茶店で同じ高校生の名探偵・三津橋芹の存在を知った小南通。トリッキーな難問に挑む高校生コンビの推理と、店子たちのほろ苦い人生模様を描く連作短編集。日常に退屈していた小南が芹と出会ってから遭遇する、探偵の名刺を使って会社員の身辺を調べ回る偽探偵の目的、日記だけを手がかりに捜す失踪した大学生、古書に記された江戸時代の秘剣密室殺人、夫の浮気疑惑と肉が食べられない理由、亡くなった映画監督のヒロインのモデル探しといった謎の解明。探偵や占い師、古本屋といった個性的なキャラも絡めながら、小南と一緒に挑む謎解きも楽しかったですけど、様々な関わりが増えてゆく中で、母が亡くなってから失われていた感情を少しずつ取り戻してゆく芹の変化がなかなか印象的でした。
眠れない夜にみる夢は
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深沢 仁 東京創元社 2023年06月30日
様々な登場人物たちが織り成す、一言では言い表せないような繊細な状況に陥ってしまった、五つの人間模様を描いた夜の短編集。同棲相手が出ていった男のもとに転がり込む親友の妻娘、同じ日の夜に出会い恋に落ちた三人の奇妙な関係、浮気されて不倫が無理になった親友のために不倫関係を精算する女、男運の悪い双子の姉にバツイチ上司を紹介する弟、後輩の元カレに思わぬ提案をする女。不器用ゆえにままならない日々を送る登場人物たちは、それでもかけがえのない相手を大切に思う気持ちが確かにあって、そんな彼らの優しさに気づいてくれる人がきちんといるそれぞれの結末にはじんわりと来るものがありました。
石田 夏穂 集英社 2023年06月05日
思ぬ形で発生した事件から起きた不当な辞令に憤る人事部採用チームの小野。会社の不利益になる人間の採用を心に誓い、密かな復讐を始める物語。彼女が導き出した、顔の縦と横の黄金比を満たす者を選ぶというある意味選考方法。自身が辿り着いた評価軸をもとに業務に邁進していく中で、その影響なのか社会の必然だったのか明確になってゆく如実な社内の変化、そして黄金比の「縁」が手繰り寄せることになった会社の思わぬ真実。なんだかなあと思う気持ちを抱きつつも、彼女もまた一貫性があったとはいえ知られたら何か言われそうな所業を繰り返していたわけで、これまでの自分を顧みてあっさりと決断を下す小野のありようがなかなか印象に残る結末でしたね。
夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない
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和田 正雪 KADOKAWA 2023年04月24日頃
零細出版社でアルバイトをしている大学生の米田。ある日米田は取材の最中に、赤い服を着た不思議な女性・佐倉乃亜と出会う青春ホラー小説。実話怪談の記事の執筆を担当する怪談ライターの米田が、取材も兼ねて後輩の相談に付き合った時に出会った、いかにも不審な女性・乃亜との運命的な邂逅。異界に行きたいオカルトマニアの彼女と向かう、寂れた住宅街にある廃屋、不可思議なトンネル、そして後輩の田舎で開催されるという奇祭。真面目系クズっぷりを垣間見せる米田が、最初はヤバいやつだと避けていたはずの乃亜にだんだん惹かれてゆく様子や、異様な展開なのにそれを淡々と受け入れてゆくその結末には、切なくなると同時にじわじわと来るものがありますね…。
蓮見恭子 光文社 2023年06月21日
水中の華・アーティスティックスイミングでオリンピックを目指す女子高生・陣内茜と、ぼっちのオタク女子の同級生・西島由愛が全くタイプの違う二人が出会って交流を深めてゆく青春小説。幼馴染みの神崎水葉との約束を胸に、アーティスティックスイミングに全てを賭けてきた茜の負傷による離脱。挫折の日々に出会った独りで行動するぼっちの同級生・西島由愛との交流。アスリートとして岐路に立たされた時人はどうあるべきか。競技をしていれば誰もが直面する難しいテーマに、ペアを復活させたい幼馴染・水葉の複雑な想いも絡めながら、自分がどうしたいのか分からなくなっていた茜が、離脱したから見えてきたこと、様々な経験を通して自分なりの立ち位置を見出してゆくその姿はなかなか印象的でした。
小野寺 史宜 ポプラ社 2023年05月17日
「みつばの郵便屋さん」シリーズに登場する欠点だらけの「泉ちゃん」こと片岡泉が巻き起こす、素晴らしき出会いのスピンオフ小説。いやな人間だということはわかっていて、それでも直せないから自分がダメな人間と自覚している片岡泉。小学生時代を知る近所の大学生、中学の友人、アルバイト先の店長、喧嘩別れした元カレといったこれまでに出会った人たちに鮮やかな印象を残していって、その結婚に至るまでを描いたストーリーで、間違えても反省できるキャラだからこそ周囲に愛されていて、だからこそ形を変えながら続いてゆく人間関係がなかなか良かったですね。
古野まほろ 光文社 2023年05月24日
偶然耳にしたわずか1文・数十字をめぐる論理的対局ロジカ・ドラマチカ。エリート警察署長vs論理の魔女・紅露寺結子の伊達と酔狂のロジック探偵バトル。彼女の指す一手ごとに暴かれてゆく悪魔宿るワンセンテンスの解釈。そして彼女が最後に証明する驚天動地の犯罪計画。内容の多くが二人の言葉を使った殴り合いのようなもので面食らう部分もありましたが、考察を積み重ねてゆくことで導き出される真実があって、さりげないミスリードも絡めながらそこから少しずつ変わってゆく二人の関係が落ち着くべきところに落ち着いて、様々なことが明らかになってゆくその結末はなかなか印象的でした。