【Kindle50%オフ】早川書房 夏のキンドル本ビッグセール! (7/12まで)
本日6/21から「早川書房 夏のKindle大セール」ということでKindleの早川書房の電子書籍約2700点が50%OFF!になっています。ということで今回は対象作品の中から、文庫小説のおすすめ30作品をセレクトしました。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
同志少女よ、敵を撃て
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逢坂 冬馬 早川書房 2021年11月17日
独ソ戦が激化する1942年、突如として日常を奪われたモスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマ。赤軍の女性兵士イリーナに救われた彼女が、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵を目指す物語。母を撃ったドイツ人狙撃手と母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するため、理不尽で過酷な戦争を多くの仲間を喪いながら生き延び、狙撃兵として成長してゆく展開で、何が正しく間違っているのか難しい状況が続く中、時折垣間見える彼女の危うさにはたびたびハラハラさせられましたが、多くの葛藤を抱えながらもその戦争を生き延びて、過去の因縁にも見事決着をつけてみせた彼女の生き様がとても印象的な物語でした。
2.プロジェクト・ヘイル・メアリー(早川書房)
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
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アンディ・ウィアー/小野田 和子 早川書房 2021年12月16日頃
大ヒット映画「オデッセイ」のアンディ・ウィアー最新作。映画化決定!未知の物質によって太陽に異常が発生、地球が氷河期に突入しつつある世界。謎を解くべく宇宙へ飛び立った男は、ただ一人人類を救うミッションに挑む! 『火星の人』で火星でのサバイバルを描いたウィアーが、地球滅亡の危機を描く極限のエンターテインメント
3.ザリガニの鳴くところ(早川書房)
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。
「それが、ここに流れてるあたしたちの血。あたしたちは無法者なの」 アメリカ、カリフォルニア州。海沿いの町ケープ・ヘイヴン。30年前にひとりの少女命を落とした事件は、いまなお町に暗い影を落としている。自称無法者の少女ダッチェスは、30年前の事件から立ち直れずにいる母親と、まだ幼い弟とともに世の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた。町の警察署長ウォークは、かつての事件で親友のヴィンセントが逮捕されるに至った証言をいまだに悔いており、過去に囚われたまま生きていた。彼らの町に刑期を終えたヴィンセントが帰ってくる。彼の帰還はかりそめの平穏を乱し、ダッチェスとウォークを巻き込んでいく。そして、新たな悲劇が……。苛烈な運命に翻弄されながらも、 彼女たちがたどり着いたあまりにも哀しい真相とは――?人生の闇の中に差す一条の光を描いた英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞作。
5.三体(早川書房)
物理学者の父を文化大革命で惨殺されて、人類に絶望した中国人女性科学者・葉文潔。その数十年後、ある会議に招集されたナノテク素材の研究者・汪淼が、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる中国SF小説。なぜそのような怪現象が起きているのか。父を殺されたその後の葉文潔が描かれて、VRゲーム『三体』が示唆するものは意味深で、明らかになった真相がまた壮大なスケールの物語でしたけど、それでいて要所で人間らしい生々しい感情がポイントになっていたのが印象的でした。
14歳の誕生日。陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまった球状の雷。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた彼は、憑かれたように球電の研究を始める前日譚。研究にのめり込んでゆく陳と、雷兵器開発に邁進する技術者にして若き少佐・林雲の運命の出会い。研究に行き詰まった二人が助力を求めた世界的に有名な理論物理学者・丁儀と共に球電の真実に迫る展開で、二人が研究を始めたきっかけが親の死だったというのも業が深いですが、何度もぶつかりあいながら、突き詰めていった先に訪れる何とも鮮烈な結末もまた印象的な前日譚でした。
7.三体X 観想之宙 早川書房
三体文明の「階梯計画」に対抗する、敵艦隊の懐に人類のスパイをひとり送るという奇策。青色惑星で程心の親友・艾AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出すスピンオフ小説。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか?最終巻の背後に隠された驚愕の真相、意外なかたちで再登場する和服姿の智子、太陽系を滅ぼした歌い手文明の壮大な死闘という三部構成で、著者自身から公式スピンオフとして公認されただけあって設定的には原作との整合性は取れていたものの、原作との解釈違いもあったり、その辺好みが分かれる部分があるのかなとは感じました。
8.不快な夕闇
マリーケ・ルカス・ライネフェルト/國森 由美子 早川書房 2023年02月21日頃
オランダの酪農家一家に育った10歳のヤスは、クリスマスの晩餐用に殺されるかもしれない自分のウサギの代わりに兄が死にますようにと神に祈る。その祈りが現実となった時、不穏な空想の闇がヤスを襲う。ブッカー国際賞を史上最年少で受賞。いま注目のオランダ人作家のデビュー長篇。
オスマン帝国末期の1901年。東地中海に浮かぶミンゲル島では、ペスト流行の噂が囁かれていた。ペスト禍を抑え込むため皇帝アブデュルハミト二世の命で派遣された疫学者は、何者かの手によって惨殺される。代わりに送り込まれたヌーリー医師と、その妻、アブデュルハミト二世の姪にあたるパーキーゼ姫は、ペスト撲滅のために島に降り立つ。だが二人は秘密裡に、疫学者殺害の謎を解き明かす使命も負っていた――。 トルコ初のノーベル文学賞作家、オルハン・パムクが、架空の島を舞台に人間と疫病との苛烈な闘いを克明に描く傑作歴史長篇、ついに開幕!
10.スター・シェイカー
人間 六度/ろるあ 早川書房 2022年01月19日頃
人類がテレポート能力に目覚めた近未来。不慮の事故がトラウマとなり能力を失った赤川勇虎は、違法テレポートによる麻薬密売組織から逃亡した少女ナクサと運命的な出会いを果たす物語。ふとしたきっかけから出会ったナクサにうっかり関わってしまったことで、その逃亡生活に巻き込まれてゆく勇虎。失われた地に住むロードピープルの助けを借りて、敵の襲撃に対応しながら組織の拠点に向かう展開でしたけど、そこで明らかになってゆく壮大な計画、苦悩しながらも勇虎が立ち向かう展開は粗削りながらもスケールの大きさを感じさせてくれる物語でした。
11.サーキット・スイッチャー
サーキット・スイッチャー
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安野 貴博 早川書房 2022年01月19日頃
完全自動運転車が急速に普及した2029年の日本。自動運転アルゴリズムを開発する企業の代表・坂本義晴は、仕事場の自動運転車内で襲われ拘束されてしまう近未来小説。「ムカッラフ」を名乗る謎の人物に突如拘束され、とある死亡事故が起きたロジックの説明と開示を要求された坂本。襲撃犯の様子が動画配信で中継される中、首都高封鎖が要求されて封鎖しなければ車内に仕掛けられた爆弾が爆発する緊迫感がある展開で、エンジニアと組んだ刑事が意外なルートからのアプローチで真相に迫ってゆくストーリーはテンポもよくてなかなか面白かったです。
12.標本作家
西暦80万2700年、人類滅亡後の地球。支配者である高等知的生命体「玲伎種」と、蘇生させて小説を執筆させる歴史上の名だたる文豪たちの交渉役である〈巡稿者〉メアリ・カヴァンが、ささやかで重大な反逆を試みるSF小説。生まれた場所も時代も違う作家たちの凝縮された人生。玲伎種による〈異才混淆〉の導入により数万年もの間歪んだ共著を強いられ続けて、次第に才能を枯渇させてゆく作家たちの狂気。壮大なスケールで積み重ねられてゆく描写の中で形を変えて繰り返し突きつけられる、作家にとって小説や創作とは何か。その本質を問い続ける展開は圧巻でしたが、果たして自分がそれをどこまで理解できたのかと問われると少しばかり考えてしまう一冊でした…(苦笑)
13.ガーンズバック変換
ネット・スマホ依存症対策条例が施行された近未来の香川県から、女子高生の美優が大阪へやってきた大阪観光サイバーパンクの表題作ほか八作品のSF短編集。売れないファンタジー作家がゴーストライターを引き受けた理由、中世の南仏を舞台とした貴族少女と吟遊詩人の出会い、詩をテーマとした三つの掌編、スマホゲーム開発をめぐる知的遊戯、表題作のほか存在していないオーストリアSF作家の架空伝記や、百合SFアンソロジー。実在の歴史をモチーフに虚構を織り交ぜて、いかにもありそうなそれっぽい雰囲気を作り出す作家の上手さを感じました。
プロトコル・オブ・ヒューマニティ
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長谷 敏司 早川書房 2022年10月18日頃
不慮の事故で右足を失い、AI制御の義足を身につけることになったダンサーの護堂恒明。そんな彼が人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性を表現しようと試みる近未来小説。身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーだった恒明の突然の暗転から、絶望の中に義足に希望を見出し、自らの肉体を掘り下げてダンスとは何かという本質を突き詰める恒明。そして認知症が急速に進んでしまい変わり果ててゆく、伝説の舞踏家だった父と向き合う絶望の日々。テクノロジーの進化とその限界も実感するなかなか壮絶な展開でしたけど、ある意味そんな彼ららしい結末がまた印象に残る物語でした。
15.AI法廷のハッカー弁護士
AI法廷のハッカー弁護士
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竹田 人造 早川書房 2022年05月24日頃
複雑化する訴訟社会にあって、AI裁判官が導入された日本。あくまで機械として冷徹に分析する不敗弁護士・機島雄弁とこの国の正義をめぐるAI法廷ミステリ連作集。AIの穴をついて勝訴するハッカー弁護士の顔も持つ悪徳漢・機島が助手の軒下と組んで挑む、被告人を裏切りながら勝訴した殺人事件、脳波義足事故を巡る真相、不正データ使用リーク事件の再審請求、そして陥れられた軒下とマスターキー裁判。恩師や親友との因縁も絡めながら、苦い過去の事件の真相やAI裁判官の疑惑も追う展開で、何度も難しい局面に陥りながら、思ってもみなかった方法で盤面をひっくり返してみせる展開は痛快で面白かったです。
16歳の少女たちの生死をかけた通過儀礼がいま、はじまる ガーナー郡に住む16歳のすべての少女は、危険な魔力を持つとされ、森の奥のキャンプへ一年間追放される。少女ティアニーが、謎に包まれた通過儀礼〈グレイス・イヤー〉でのサバイバルの果てに見た真実。『侍女の物語』×『蠅の王』のポスト・ディストピア小説
17.なめらかな世界と、その敵 (ハヤカワ文庫JA)
なめらかな世界と、その敵
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伴名 練 早川書房 2022年04月20日頃
いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作ほか、テイストの違う独特な世界観が描かれた6つのSF連作短編集。ゼロ年代SF論、脳科学とインプラントと複雑な想いが交錯する愛憎劇、ソ連とアメリカの超高度人工知能を巡る争い、未曾有の災害で新幹線が陥った低減世界など、それぞれの作品らしい良さが感じられて面白かったです。個人的には「美亜羽へ贈る拳銃」「ひかりより速く、ゆるやかに」が好み。相手を思う真摯な気持ちの中にも複雑な想いが入り混じるからこそ明示されない結末がとても印象的なものに思えました。
18.楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)
二人以上殺した者は天使によって地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦が、大富豪・常木王凱に誘われ天使が集まる常世島を訪れる孤島×館ミステリ。激変した世界でかつて無慈悲な喪失を経験した青岸が直面する、起きるはずのない連続殺人事件。犯人はいかにして連続殺人を成し遂げたのか。復讐に人生を賭けた犯人の「天使」の特性を逆手に取ったその真相には善悪とは何かを考えさせられましたね。そんな中で青岸が見出してゆく、天使と役割を逆転させたような探偵の存在意義にはなかなか皮肉が効いていて印象的な結末だったと思いました。
19.僕が君の名前を呼ぶから (ハヤカワ文庫JA)
人々が並行世界間で日常的に揺れ動くことが実証された時代。虚質科学を研究する母と専業主夫の父とともに暮らす今留栞が運命の出会いを果たす、別の並行世界を生きたもう一人の栞の物語。中学2年の夏休みに訪れた元病院の敷地内で栞が出会った、鬼隠しに遭って姿を消した少年について調べている青年・内海進矢との出会い。両親が離婚しなかったら…ということで分岐してゆくもうひとつの物語で、積み重ねてゆく栞と進矢の思いや精一杯生きた日々はなかなか良かったですけど、それでもやっぱりな人生を送っていたあの二人にもしっかりと会えるあたりに、彼らとの結びつきの強さを感じましたね。
20.僕が愛したすべての君へ/君を愛したひとりの僕へ(ハヤカワ文庫JA)
並行世界間が実証された世界。両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦が、地元の進学校で85番目の世界から移動してきたというクラスメイト・瀧川和音と出会う物語。入学時の因縁をきっかけに運命的な出会いを果たした、暦と和音の一見腐れ縁のようにも思える関係。同時刊行作品の出来事との関連性を織り交ぜつつ、並行世界が実在する世界ならではの問題に悩まされながらも、それを力を合わせて乗り越えてゆく二人はとても幸せだったんだろうなと思わせるものがありました。二つ読んで比べてみるといろいろ思うところが出てきてとても面白かったです。
並行世界間が実証された世界。両親の離婚を経て父親と暮らす少年・日高暦が、父の勤務する虚質科学研究所で佐藤栞という少女に出会う物語。親同士が離婚した研究者という共通点から、共に過ごすうちにほのかな恋心を育んできた暦と栞。全てを一変させるきっかけとなった親同士の再婚話と二人を襲った悲劇。諦めきれずに彼女を取り戻すために生きることを決意した暦の執念は凄まじいと感じましたが、そんな彼に寄り添うように支え続けた同僚の研究者・和音の献身ぶりにも思うところが多かったです。同時刊行のどちらを先に読むのかは悩ましいですね。
21.裏世界ピクニック(ハヤカワ文庫JA)
裏側で「くねくね」を目にして死にかけていた時、仁科鳥子と運命的な出会いを果たした女子大生の紙越空魚。危険と隣合わせで謎だらけの裏世界に二人で足を踏み入れる怪異探検サバイバル。研究とお金稼ぎを目的とする空魚と、姿を消した大切な人を探すために非日常へと足を踏み入れる鳥子。始まりと出会いはやや唐突にも思えましたが、成り行きから何となくコンビを組んだ感もあった二人に絆めいたものが生まれて、相手のために奔走する展開は悪くなかったですね。タイトルにあるようなピクニックとはとても言えない怖いテイストでしたが続巻に期待。
22.嘘と正典 (ハヤカワ文庫JA)
マルクスとエンゲルスの出逢いを阻止することで共産主義の消滅を企むCIAを描いた歴史改変SFの表題作をはじめ、零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる青年の感動譚「ひとすじの光」、音楽を通貨とする小さな島の伝説「ムジカ・ムンダーナ」など6篇を収録。圧倒的な筆致により日本SFと世界文学を接続する著者初の短篇集。
23.法治の獣 (ハヤカワ文庫JA)
春暮 康一 早川書房 2022年04月20日頃
あたかも罪と罰の概念をもつかのように振る舞う異星の草食獣シエジーたちの衝撃的な秘密を描く表題作を含む、3つの宇宙SF中短編。近隣の海洋惑星への調査行で集合的精神体を持つルミナスに遭遇した探査チームが直面する衝撃的な悲劇、知性を持たず群れ単位で法を作るシエジーを使った社会実験の結末、生体の迷宮状態「方舟」のカオスな状況が描かれていて、知性を持った生命体とのファーストコンタクトで痛感する人類側の対応の難しさや、それによって何が引き起こされてしまうのか、ひとつひとつの描写を積み重ねていった先にあるそれぞれの結末がとても印象的な物語でした。
24.新しい世界を生きるための14のSF (ハヤカワ文庫JA)
伴名練さんがセレクトしたまだSFで単行本を出していない売出中の新世代SF作家たちによる書籍化前の傑作14篇に、それぞれのジャンルの入門書を紹介したアンソロジー。突事故直前に最後の審判を繰り広げる車載AI、恋人の死体を盗み超常の存在へ愛を問う女、隕石衝突回避のために知恵を絞る高校生たちの青春、大正時代の屋敷で怪死事件が結ぶ少女二人の運命など、なかなか読み応えたっぷりのアンソロジーは、国内の各ジャンルSF小説紹介も載っていて充実の内容でした。斜線堂さんのちょっと変わった著者さんらしい話が印象に残りましたけど、好みとしては冒頭にあった八島さんの「Final Anchors」が良かったですね。
25.走馬灯のセトリは考えておいて (ハヤカワ文庫JA)
走馬灯のセトリは考えておいて
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柴田 勝家 早川書房 2022年11月16日頃
人が死後に自らのライフログから分身を遺せるようになった未来、“この世”を卒業するバーチャルアイドルのラストライブを舞台裏から描く書下ろし表題作のほか、コロナ禍によりウェブに移行した神事がVR空間上の超巨大競技へ進化していく「オンライン福男」、“信仰が質量を持つ”ことの証明に全生涯を捧げた東洋美術学者をめぐる異常論文「クランツマンの秘仏」など、文化人類学と奇想が響き合う傑作集。
26.はじまりの町がはじまらない (ハヤカワ文庫JA)
サービス終了が決定したMMORPG「アクトロギア」。ゲーム世界のはじまりの町で町長を務めるオトマルは唐突に自我を獲得し、毒舌秘書官のパブリナとともに世界の終わりを救う終わりかけゲーム復興物語。パブリナの説明で、この世界の終わりを阻止するためには冒険者たちの満足度向上が必須と理解した町の住人たち。ショップやクエストの最適化、近隣国との交易と手を打っていく中で出てくる周辺諸国との摩擦。世界存亡の危機に直面するオトマルとパブリナの二人が軽妙なやり取りを交わしながら、思ってもみなかったポジションにまで上り詰めて、けれどそれでも変わらない二人の関係、そしてお互いにフォローし合いながらゲーム内の世界を救う展開はなかなか面白かったです。
27.バイオスフィア不動産 (ハヤカワ文庫JA)
バイオスフィア不動産
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周藤 蓮 早川書房 2022年11月16日頃
住民に恒久的な生活と幸福を約束するバイオスフィアⅢ型建築。それを管理する後香不動産の社員として働くアレイとユキオは、独自に奇妙な発達を遂げた家々の問題に向き合ってゆく近未来小説。新時代住居の浸透により類の在り方が大きく様変わりした未来。引きこもる個々の住居からのクレームで直面する、査問神殿で見つかった鎮痛剤、自給自足を標榜するコロニー、大人になれない大人たち、左右対称の隣人トラブル。現代の感覚からすると当事者たちの異常性を感じずにはいられませんが、一方で置かれた状況から考えると納得してしまう部分もあって、そんな矛盾する問題に向き合って答えを見出してゆく中で、少しずつ変わってゆくコンビの距離感が効いていてなかなか面白かったです。
28.君の話 (ハヤカワ文庫JA)
記憶改変技術「義憶」が普及した世界。二十歳の夏、天谷千尋が一度も出会ったことのない、存在しないはずの幼馴染・夏凪灯火と再会したことで動き出す物語。何もない過去を消したかったはずが、植え付けられるたった一人の幼馴染の鮮明な記憶。あまりにも運命的な再会から突如目の前に現れた灯花の存在を疑って、どうしようもなく惹かれてゆく千尋。そこにはもうひとつの物語があって、不器用でお互い遠回りせざるをえなかった二人がきちんと向き合って、儚く切ないけれど優しさが感じられる物語の結末に著者さんらしさがよく出ていると思いました。
29.鈴波アミを待っています
鈴波アミを待っています
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塗田 一帆 早川書房 2022年03月16日頃
Vtuber鈴波アミがデビュー1周年を迎えた夜。しかし待望の配信は始まらず彼女は突如失踪してしまい、諦めない視聴者たちは推しの復帰を信じ続けるVtuber小説。主人公に偶然見出され、かけがえのない日々を積み重ねて成長してきた鈴波アミ。彼女の原因不明の失踪を、1年分の配信アーカイブを同時視聴しながら推しを待ち続ける主人公たちの思い。拗らせすぎて時には揶揄され炎上する主人公には苦笑いでしたけど、彼女を応援してきた人たちの熱い思いを胸に、再びステージへ向かおうとする彼女を支えながら、それでも自分はあくまで1ファンとして彼女を推すその矜持と結末にはぐっと来るものがありました。
30.転生令嬢と数奇な人生を
転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁
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かみはら 早川書房 2021年12月02日頃
ファルクラム王国の中流貴族キルステン家の令嬢に転生したカレン。温かい家族に囲まれて幸せに暮らしていたが、14歳の頃、なぜか兄姉弟の中で自分だけ母親の記憶から忘れ去られてしまった。家を出て平民として暮らすことにして2年が過ぎた16の春。ここでまた転機が。皇帝の愛妾となった美貌の姉に呼び戻され、カレンは結婚をすすめられる。平民に落とされた妹を貴族籍に戻そうという姉心であったが、いわゆる政略結婚だ。婿候補は2人いた。侯爵家の次男で容姿端麗・将来有望な騎士ライナルトと妻に先立たれた地方領主のコンラート老伯爵。果たして、カレンの選択は……?