恒例の2022年上半期注目のオススメ新作企画、今回は「ラノベ青春小説」「ラノベファンタジー」「文庫」に続く第四弾文芸単行本編です。上半期の文芸単行本に関しては、面白かった、良かった作品の候補が多すぎて何を入れるのか、どう並べるのかかなり迷いました。上半期企画の残る「ライト文芸」も心残りの積読を消化しつつ合間を見つけて作っていこうと思いますので、よろしくお願いします。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
ラブカは静かに弓を持つ
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安壇 美緒 集英社 2022年05月02日頃
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への二年間の潜入調査を命じられた全日本音楽著作権連盟の職員・橘。チェロを武器に傷を抱えた潜入調査員の孤独な闘いと葛藤を描くスパイ×音楽小説。著作権法の演奏権を侵害している証拠を掴むため、身分を偽ってチェロ講師・浅葉のもとに通い始める橘。師と仲間との出会いや奏でる歓びを積み重ねて、愚直にチェロに真摯に向き合い続けた彼が、過去の苦い思い出で凍っていた心を溶かし、自らの行為に葛藤するのも必然の展開だと思いましたけど、対照的な構図も絡めながら描かれる、自分にとって本当に大切なものは何か、自分はどうすべきなのか、その先に見出した不器用な彼らしい決断がとても印象に残る物語でした。
2.宙ごはん
育ててくれたママと産んでくれたお母さんがいる小学生の宙。育てのママ・風海が夫の海外赴任に同行することになり、産んでくれたお母さんの花野と同居を始める家族の物語。花野と一緒に暮らし始めた宙が直面する、ご飯も作らず子供の世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活。けれどそんな彼女を支えてくれる人たちがいて、宙が成長していく過程でいろいろなことに気づいたり、また違う一面も見えてきたりして、いろいろな人たちのとの大切な出会いや哀しい別れも経験しながら、成長してゆく宙と周囲のひとたちとのかけがえのない日々にはぐっと来るものがありました。
3.競争の番人
新川 帆立 講談社 2022年05月11日頃
曲がったことは嫌いだけど、いまいち壁を破れない公正取引委員会職員・白熊楓が、留学帰りの超エリート・小勝負勉と出会うリーガルミステリ。考えるより先に動いてしまうお人好しな白熊と、だいぶ嫌みだけと言うことは正しくて頭脳明晰の小勝負のコンビが挑むウェディング業界にはびこる価格カルテル内部調査。状況が変わるたびに二転三転する関係者の印象、優しさゆえに裏切られてしまう白熊にもどかしさも感じましたが、そんな彼女を認めてゆく小勝負のサポートも得て、向き合って見事乗り越えてみせた彼女の強さにはぐっと来るものがありました。
4.五つの季節に探偵は
逸木 裕 KADOKAWA 2022年01月28日頃
人の心の奥底を覗き見たい。暴かずにはいられない。そんな厄介な性質を抱える探偵・榊原みどりが出会った5つの謎と成長の連作短編集。高校時代の同級生からの依頼に見出す隠された人の本性、調香師の師匠が龍涎香を盗んだ理由、ストーカーの誤解と自転車のチェーンが壊された理由、指揮者とピアノ売りの間に起きた出来事の真相、エアドロップ問題と新人探偵の苦悩。エピソードを通じて描かれる自分が探偵に向いていると感じ、本質的に求めてしまうものに対する葛藤、ほろ苦い結末に向き合い乗り越えてゆくみどりの成長がとても印象的な物語でした。
5.六法推理
五十嵐 律人 KADOKAWA 2022年04月25日頃
霞山大学で法学部四年・古城行成が一人運営する無料法律相談所・通称「無法律」。自らのアパート事故物件問題で経済学部三年の戸賀夏倫が訪れる連作短編青春ミステリ。事件解決をきっかけに無法律へと入り浸り、リベンジポルノ、放火事件、毒親問題、カンニング騒動といった持ち込まれる法律問題に対して古城と解決に取り組む戸賀。自身の原点となる法曹一家に育った法律マシーン古城の着想をヒントに、真相に迫る自称助手の戸賀がなかなかいいコンビで、時折どうにもならないほろ苦い現実にも直面しますが、それでも依頼人のためにギリギリまで考え抜いて、どうするのが一番いいのか、実を取る落とし所を模索し続ける古城の姿勢が印象的な物語でした。シリーズ化も期待しています。
6.風を彩る怪物
音大受験に失敗し、気分転換で姉の住む自然豊かな奥瀬見にやってきた名波陽菜。そんな彼女がフルートの練習中にオルガン制作者の芦原幹・朋子親子と運命の出会いを果たす物語。同い年の朋子とパイプオルガンの音づくりを手伝うことになりオルガンに惹かれてゆく陽菜と、その中途半端な姿に苛立ちを募らせる朋子。そこからの急展開はなかなか厳しいですが、オルガンづくりやそこで出会った人々のおかげで自分の大切なものを見出した陽菜、そして数々の試練に直面しながら諦めず、多くの人に助けられながらオルガンを作り上げてゆく朋子たちの結末にはぐっと来るものがありました。
特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
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南原 詠 宝島社 2022年01月07日頃
特許権をタテに企業から巨額の賠償金をせしめていた凄腕の女性弁理士・大鳳未来が、「特許侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げるリーガルミステリ。彼女と組む弁護士・姚のもとにもたらされる完成済の特殊なTVの特許侵害、映像技術の特許権侵害を警告され活動停止を迫られる人気VTuber。一見そこからの逆転は難しいと感じる状況から、やや不自然とも思えるその訴えの背後関係を探り始めたことで、見えてくる様々な企業の思惑を逆手に取って、上手い落とし所を見つけてゆく展開はなかなか面白かったです。
8.地図と拳
奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐって知略と殺戮をく繰り広げながら、日露戦争前夜から第2次大戦まで殺戮の半世紀を生きる歴史×空想小説。日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し海を渡った須野。彼らが出会う多くの仲間たちが理想と過酷な現実に殉じてゆく中で、子供世代まで絡めながら描かれてゆく激動の時代を生き抜いた男たちの生き様が圧巻でしたが、その結末がまたなかなかに効いている壮大な物語でした。
些細な傷害事件で野方署に連行されたとぼけた見た目の中年男スズキタゴサク。たかが酔っ払いと見くびる警察に、男は「十時に秋葉原で爆発がある」と予言するノンストップ・ミステリ。男の予言直後に秋葉原の廃ビルが爆発。今後の展開を示唆するこの胡散臭い中年男が果たして爆弾魔なのか。対話を試みて情報を引き出そうとする警察と男の駆け引き、鍵を握る過去の事件との繋がり。状況が二転三転して構図もガラリと変わる中で浮かび上がってゆく意外な真相があって、恐怖に支配されて不安を突きつけられた登場人物たちの生々しい感情がなかなか印象的な物語でした。
10.俺ではない炎上
浅倉秋成 双葉社 2022年05月19日頃
身に覚えがない女子大生殺害犯として、実名写真付きでネットに素性が晒され大炎上した大帝ハウス大善支社営業部長・山縣泰介。ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、必死の逃亡を続ける炎上逃亡ミステリ。犯行を自慢していたTwitterアカウントが誤認され、見れば見るほど自分のものとしか思えず、誰一人として言い分を信じてくれない状況で逃亡する泰介。誰も彼もに追いかけられ逃げ続ける状況で、諦めずに足掻き続けたことで、ふとしたきっかけから思わぬ真相が明らかになっていきましたけど、もし自分がこうまで追い詰められたらどうするのか、できることがあるのか。炎上したら、叩いてもいいとなったら手がつけられないSNSの恐ろしさを改めて突きつけられる思いでした。
11.二重らせんのスイッチ
二重らせんのスイッチ
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辻堂ゆめ 祥伝社 2022年04月15日頃
渋谷区の高級住宅地で飲食店経営者が殺害され、現金二千万円を奪われた事件。桐谷雅樹は突然身に覚えがない強盗殺人容疑で逮捕されてしまう冤罪ミステリ。全ての証拠が雅樹による犯行を示唆する状況はなぜ起きたのか。全く異なる境遇で育った双子の弟との再会からがまた激動の展開で、過酷な環境で生きてきた弟と雅樹の思わぬ共通点、一方で考え方の違いも突きつけられたりで、当時の社会問題を絡めた過去の事情はなかなか考えさせられましたけど、ストーリーが二転三転する中で明らかになってゆく、状況次第ではありえたかもしれない計画、そして意外なところにあったそのターニングポイントがなかなか印象的な物語でした。
一穂 ミチ 幻冬舎 2022年02月09日頃
大阪のテレビ局を舞台に、世代も性別もバラバラな4人が、それぞれの悩みや壁にぶち当たりながら生きてゆく姿が描かれる連作短編集。社内不倫の前科で腫れ物扱いの四十代独身女性アナウンサー、娘とは冷戦状態で同期の早期退職に悩む五十代報道デスク、好きになった人がゲイで望みゼロなのに同居している二十代タイムキーパー、向上心ゼロで非正規の現状にぬるく絶望する三十代ADなど、不器用な登場人物たちはそれぞれの立場で偏見に晒されていて、厳しい現実に直面しながら、でも意外なところで味方の存在を見出す結末がなかなか印象的でしたね。
相沢 沙呼/青崎 有吾 実業之日本社 2022年03月17日頃
百合ってなんだろう。その問いに7人の作家たちが挑む物語とイラストを組み合わせた連作短編アンソロジー。お節介な委員長とちょっと変わった大人しい少女が密かに抱えるすれ違う想い。好きだった人の死の理由を探るために挑む絶望、愛してくれた人を失って初めて気づいた想い、久しぶりの再会と筆を折った理由、並び立つための整形手術、憧れの先輩が917円で買ったもの、疎遠になっていた二人を再び結びつけたもの。わりとハードな展開に直面する彼女たちのうまく伝わらない、伝えられないもどかしい繊細な想いが印象に残る鮮烈な短編集でした。
14.カレーの時間
寺地 はるな 実業之日本社 2022年06月08日頃
ゴミ屋敷のような家で祖父・義景と暮らすことになってしまった孫息子・桐矢。その同居生活を通して描かれる終戦後と現在、ふたつの時代を「カレー」が繋ぐ絶品“からうま"長編小説。母と叔母たちや従姉と女系家族で女性に囲まれて育った、ちょっと神経質な社会人・桐矢と、そんな彼と一緒に住むことになったデリカシーのない独り身の祖父・義景。気が短く一言多い祖父の言動に最初は辟易していた桐矢が知ってゆく、祖父が半世紀の間抱えてきた想いと隠し通してきた秘密。対比するように描かれる今と昔の時代や考え方の違いに時代の変化をしみじみと感じましたけど、不器用でナイーブな男性陣よりも、よほどしたたかで現実的に生きてきた女性陣のたくましさが印象に残る物語でした。
15.氷の致死量
聖ヨアキム学院に赴任した教師の鹿原十和子。そしてまた一人、犠牲者である彼女の生徒の母親を解体する殺人鬼・八木沼武史。十和子と八木沼、二人の運命が交錯するシリアルキラー・サスペンス。自分に似ていたという教師・戸川更紗が14年前、学院で殺害された事件に興味を持つ十和子、更紗に未だ異常な執着を持つ八木沼に、十和子や周囲の様々な親子関係や夫婦夫婦関係、セクシャルな問題など様々なこと問題にも直面しながら、運命ともいうべき絡み合った糸が解き明かされてゆく展開で、視点が変わるととまた新たな構図が見えてゆく先にあった、執着とボタンの掛け違いから起きた悲劇とその結末がなかなか印象的な物語でした。
名取 佐和子 実業之日本社 2022年03月17日頃
10年前に貸し出されたままだったケストナーの『飛ぶ教室』は、 なぜいま野亜高校の図書室に戻ってきたのか。体育祭を控え校内が沸き立つなか、1冊の本に秘められたドラマが動き出す物語。怪我をして体育祭に参加出来なくなり、友達の図書委員の仕事を一週間代わることになった百瀬。そこで見つけた「飛ぶ教室」の謎を解明するために朔太郎と真相に挑む展開で、卒業生たちの果たされなかった思い、そして今の体育会で直面する問題があって、繋がった過去と今の因縁を乗り越えるためのアイデアを見出してゆく結末にはぐっと来るものがありました。
父親が仕事で帰ってこないという同級生の小夜子を心配して家に連れ帰った小学五年生の咲陽。コロナを心配する母親に小夜子のことを言いだせないまま、こっそり自分の部屋に匿うミステリ。翌日、小夜子を探して咲陽の家を訪ねてきた刑事。小夜子の父親がラブホテルで起きた殺人事件の犯人ではないかと疑念を抱く咲陽。コロナ渦で状況が激変してしまうと、あるいは起こりうるかもしれないと感じる展開でしたが、信頼関係とは何かということを突きつけられて、けれど無意識のうちに影響を受けていたことが分かる描写の積み重ねが印象に残る物語でした。
18.スター・シェイカー
人間 六度/ろるあ 早川書房 2022年01月19日頃
人類がテレポート能力に目覚めた近未来。不慮の事故がトラウマとなり能力を失った赤川勇虎は、違法テレポートによる麻薬密売組織から逃亡した少女ナクサと運命的な出会いを果たす物語。ふとしたきっかけから出会ったナクサにうっかり関わってしまったことで、その逃亡生活に巻き込まれてゆく勇虎。失われた地に住むロードピープルの助けを借りて、敵の襲撃に対応しながら組織の拠点に向かう展開でしたけど、そこで明らかになってゆく壮大な計画、苦悩しながらも勇虎が立ち向かう展開は粗削りながらもスケールの大きさを感じさせてくれる物語でした。
19.サーキット・スイッチャー
サーキット・スイッチャー
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安野 貴博 早川書房 2022年01月19日頃
完全自動運転車が急速に普及した2029年の日本。自動運転アルゴリズムを開発する企業の代表・坂本義晴は、仕事場の自動運転車内で襲われ拘束されてしまう近未来小説。「ムカッラフ」を名乗る謎の人物に突如拘束され、とある死亡事故が起きたロジックの説明と開示を要求された坂本。襲撃犯の様子が動画配信で中継される中、首都高封鎖が要求されて封鎖しなければ車内に仕掛けられた爆弾が爆発する緊迫感がある展開で、エンジニアと組んだ刑事が意外なルートからのアプローチで真相に迫ってゆくストーリーはテンポもよくてなかなか面白かったです。
20.夏休みの空欄探し
クラス内でじゃない方と呼ばれるクイズ研究会会長の高校2年生のライこと成田頼伸。ファミリーレストランで謎解きをしている姉妹を手伝った結果、謎解きの協力を依頼される青春ミステリ。大学生の天音と高校1年生七輝の姉妹やライと同じ姓だけれど人気者で自分とは大違いの成田清春も交えて、解いた暗号の答えに導かれて四人であちこち出かける謎解きの旅。自分とは違う清春にたびたびコンプレックスを刺激される一方で、いつの間にかライも妹の七輝のことが気になる展開でしたけど、何とも切なさも入り混じった全ての謎が明かされても変わらない、かけがえのない彼らの関係性がとても印象的なひとなつの物語でした。
社会人三年めの三上傑が気に掛ける大学生の妹・若緒。友人で妹の恋人でもあった大河が起こした事故以来、どこかぎくしゃくしている家族と友とやりきれない想いの行き先を探す物語。後遺症で左足を引きずるようになってしまい就活に苦戦する若緒、些細なことで夫婦喧嘩をする両親、職場で対立するパート、そして何となく疎遠になってしまった友人や恋人たち。張りつめた空気が様々なところに影響を及ぼしてゆく状況は何か分かる気がしましたが、こういう時に不安を受け止めてくれる存在がいて、いろいろと変わってゆくきっかけがあって良かったです。
22.風琴密室
夏休みのバイトで幼馴染みたちと廃校の小学校を片付けていた高校生の凌汰。そこへ東京から友人とともに訪ねてきた女子高生で、6年前の一時期この小学校に通い、すぐに引っ越していった雨ちゃんと再会する青春ミステリ。兄と雨ちゃんの3人で遊び、兄の事故で悲しい記憶に変わってしまった彼女とのひと夏の思い出。友人と久しぶりに村を訪れた雨ちゃんとの再会に盛り上がって台風に遭遇し、そのまま宿泊することになった廃校で起きてしまういくつかの事件。それらの密室事件はどのようにして起きたのか、伏線を回収しながら真相に迫る先にあった結末はなかなか衝撃的でしたけど、エピローグまで気が抜けない鮮烈な青春小説でもありました。
彼女の背中を押したのは
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宮西 真冬 KADOKAWA 2022年02月18日頃
相談したいことがあると妹からのメールを断ったその日に、勤めていた書店のビルから飛び降りた妹。結婚と同時に上京していた姉・梢子は、妹に何があったのかを探るため、地元に戻り同僚たちなどに会いに行く物語。妹を追い詰めたものは何だったのか。母の過剰な期待と父の無関心、同僚からぶつけられた心ない言葉、思うようにいかない恋愛など、様々な人に出会い、疎遠だった妹のことを知ってゆくたびに、その印象も少しずつ変わっていって、ようやく明らかになった事件の真相、そして未来への希望が垣間見えた結末にはぐっと来るものがありました。
24.夏鳥たちのとまり木
中二の夏にネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた経験がある中学教師の葉奈子。教え子の女子生徒が抱える秘密を知って、15年前の夏の記憶が重なってゆく希望と祈りの物語。母親から放置され気味に扱われ、孤独だった葉奈子が年上の男のもとに逃げ込んだ過去の記憶。自分ほど悲惨な境遇ではなくとも、精神的に追い詰められている女子生徒の心理が痛いほどよく分かる彼女の複雑な想い、心に傷を負ったまま生きる中年男性教師の再起も絡めながら、本当に大切なものは何か、そのためにどうするのがいいのか、女子生徒に向き合って寄り添いながら、一緒に模索してゆく姿がなかなか印象的な物語でした。
25.世界が青くなったら
ある朝仲内佳奈が目を覚ますと、彼氏の坂橋亮が世界から消えていた。自分がおかしくなってしまったのか、それとも世界が壊れてしまったのか?混乱しながらも亮の手がかりを探し始める現代ファンタジー。LINEや電話番号、住んでいた場所からも痕跡が消えてしまった亮。そして友人が夢に見た喫茶店で不思議な体験をした佳奈が、店主・ミツルを手伝いながら親友や中学生、恋人に裏切られたOL、といったお店にやってくる人たちの後悔を解決する展開で、その過程で思い出してゆくこれまで積み重ねてきた思い、そして少しずつ心境の変化もあったりで、物語としての決着と希望を感じさせてくれるその結末にはぐっと来るものがありました。
弊社は買収されました!
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額賀 澪 実業之日本社 2022年03月17日頃
朝テレビをつけたら、働いている会社買収されていた?大混乱に陥る社内の状況に愛社精神満点の総務部員・真柴忠臣が奮闘する企業買収ヒューマン・コメディ。外資系企業に買収された花森石鹸。変われないベテラン、合理化を求める若手、葛藤するシングルマザーなど、モチベーションも立場も世代も違う社員たちもまとまれないまま、やってきた統合先の社員と対立する構図は深刻でしたけど、真柴たちの存在が潤滑油となって、危機を乗り越えるために何が必要なのか向き合い、力を合わせて本当に大切なものを見出してゆく展開はなかなか良かったですね。
27.AI法廷のハッカー弁護士
AI法廷のハッカー弁護士
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竹田 人造 早川書房 2022年05月24日頃
複雑化する訴訟社会にあって、AI裁判官が導入された日本。あくまで機械として冷徹に分析する不敗弁護士・機島雄弁とこの国の正義をめぐるAI法廷ミステリ連作集。AIの穴をついて勝訴するハッカー弁護士の顔も持つ悪徳漢・機島が助手の軒下と組んで挑む、被告人を裏切りながら勝訴した殺人事件、脳波義足事故を巡る真相、不正データ使用リーク事件の再審請求、そして陥れられた軒下とマスターキー裁判。恩師や親友との因縁も絡めながら、苦い過去の事件の真相やAI裁判官の疑惑も追う展開で、何度も難しい局面に陥りながら、思ってもみなかった方法で盤面をひっくり返してみせる展開は痛快で面白かったです。
28.神薙虚無最後の事件
大学二年生の瀬々良木白兎とアパートの隣に住む一つ年下の後輩・来栖志希が、倒れていたところを助けた御剣唯から依頼され、大学の名探偵倶楽部に所属する金剛寺らとともに、二十年前に起きた事件の真相に挑むミステリ。唯の父・大が著した20年前のベストセラー「神薙虚無最後の事件」と伝説の炎上事件。未解決に終わった事件と行方不明になった名探偵・神薙虚無の真相に挑む名探偵倶楽部所属メンバーたちの推理。白兎と志希の何とも繊細な距離感も良かったですけど、積み重ねてきた伏線を丁寧に回収して導いてゆくそれぞれのアプローチには新たな発見があって、真相に迫る推理の先にあったその意外な結末はなかなか良かったです。
29.恋せぬふたり
吉田 恵里香 NHK出版 2022年04月28日頃
職場の同僚や家族に理解されないまま恋愛や結婚を促され続け、居心地の悪さを感じていた咲子。そんなある日、アセクシュアル・アロマンティックを自認する高橋と出会い、その世界が少しずつ変わってゆくドラマノベライズ。誰にも恋愛感情を抱かず性的にも惹かれない二人が、自分たちなりの生き方を模索すべく始めた共同生活。始めはそんな生き方を理解できない家族、同僚、元彼や、ご近所といった周囲に波紋を広げていきますが、形にこだわらずにどうすればお互いらしく生きていけるのか、きちんと話し合いながらお互いの意思を尊重する二人の生き方を通して、これからの夫婦やパートナーのあり方をいろいろ考えさせてくれる物語でした。
鈴波アミを待っています
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塗田 一帆 早川書房 2022年03月16日頃
Vtuber鈴波アミがデビュー1周年を迎えた夜。しかし待望の配信は始まらず彼女は突如失踪してしまい、諦めない視聴者たちは推しの復帰を信じ続けるVtuber小説。主人公に偶然見出され、かけがえのない日々を積み重ねて成長してきた鈴波アミ。彼女の原因不明の失踪を、1年分の配信アーカイブを同時視聴しながら推しを待ち続ける主人公たちの思い。拗らせすぎて時には揶揄され炎上する主人公には苦笑いでしたけど、彼女を応援してきた人たちの熱い思いを胸に、再びステージへ向かおうとする彼女を支えながら、それでも自分はあくまで1ファンとして彼女を推すその矜持と結末にはぐっと来るものがありました。