11月は読書メーターによると最終的に97冊でした。
読んだ本97冊
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こちらでは11月に読んだ文庫・単行本新作おすすめ、19点を紹介します。
気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。
ライトノベル編はこちら↓
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
竜愛づる騎士の誓約 上・下 (集英社オレンジ文庫)
竜を御す王、竜を葬る騎士。ふたつの稀種が治める王国。混成種ゆえに聖騎士には及ばず魔道士とも認められない竜に魅せられた少女セシリアが、それでも諦めずに王佐の騎士を目指すファンタジー。学院を卒業すれば幼馴染アルヴィンと婚約し、故郷から生涯出られなくなる。そんな定められた未来への猶予を得るために、夢を諦めることをどこか認められずに抗うセシリアと、儀典衛士を選ぶために学院を訪れた王女マルギットとの運命的な邂逅。希望を見出したセシリアが直面する騎士の現実があって、そこからは迷う間もなくまさに激動の展開に巻き込まれていった彼女がこれからどうなるのか、とても続きが気になる上巻でした。
謀反の罪を着せられた王女マルギットと主従の誓いを交わし、ラグダ王国へと落ち延びたセシリア。諦めない二人がさらに激動の展開に巻き込まれてゆくファンタジー下巻。マルギットと共にラグダ王国を苦しめる悪竜を葬ることに成功するものの、それをきっかけにマルギットに疎まれるようになるセシリア。さらにはルトゥエル王国で彼女の実家を含む七社家に宣戦布告するウイルズ王。様々な思惑が入り乱れて、王家や稀種を巡る秘密も徐々に明らかになっていって、状況が目まぐるしく二転三転する中で誰を信じることが出来るのか、どうするのが最善なのか困難を極めましたけど、それでも信じるところを貫いて、アルヴィンとともに最後までやりきってみせたセシリアの成長が印象に残るなかなか壮大な物語でした。
ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー (講談社タイガ)
フロイトの想察 ―新條アタルの動機解析― (集英社オレンジ文庫)
アルマジロと銃弾 (集英社オレンジ文庫)
楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)
十字架のカルテ (文春文庫)
タクジョ! (実業之日本社文庫)
相続人はいっしょに暮らしてください(祥伝社文庫)
闇に堕ちる君をすくう僕の嘘 (双葉文庫)
泣き娘 (集英社文庫)
金環日蝕
プロトコル・オブ・ヒューマニティ
ループ・オブ・ザ・コード
悪と無垢
分岐駅まほろし
やっかいな食卓
私はだんだん氷になった
幾千年の声を聞く
青の刀匠
女の敵には向かない職業
ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー
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石川 宗生/小川 一水 講談社 2022年10月14日
歴史は変えられる―物語ならば。色とりどりのifの世界に飛び込む五人の著者による珠玉の改変歴史SFアンソロジー。石川宗生さんの死ぬまで踊り続ける奇病が蔓延したイタリアで錬金術師が披露した奇天烈な治療法、宮内悠介さんの「ピーガー」というSNSが存在した一九六五年の日本で起きた世界初の炎上事件の真実、斜線堂有紀さんの和歌を詠訳する平安時代で歌人・式子内親王が出会った一人の女房、小川一水さんの巨大石壁・大廓ともうひとつの江戸時代の事件、そして伴名練さんのジャンヌ・ダルクが何度もやり直すことで垣間見せる様々な可能性。どの話も著者さんらしさがよく出ているどれも面白い短編集で、個人的には甲乙付けがたかったです(苦笑)
フロイトの想察 -新條アタルの動機解析ー
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猫田 佐文/むっしゅ 集英社 2022年10月20日
中学生の物静かな息子が両親を刺殺した事件。そこに微かな違和感を覚えた刑事・道筋が、学生時代の友人で心理研究所を営む天才心理学者の新條アタルを訪ねる動機解析ミステリ。解決済みの事件を秘密裏に天才心理学者の元に持ち込む刑事。まるで心の底を撫でるように、やがて事件の深部に近づいていく心理学者が解き明かす、解決したはずの夫妻殺人事件に隠された驚くべき真実。アタルとちょっと変わった助手子ちゃんのやりとりや、熱い猫への愛もじわじわ来ましたけど、何より事件に隠された密かな動機を解き明かしてみせた、アタルの卓越した心理分析がなかなか効いていました。
住宅業界大手の入社式で知り合い仲良くなった新入社員の青沼洋祐と緒田謙伸。二年目を迎えて早々に挫折した彼らが、様々な事件に巻き込まれてゆくお仕事小説。職場でのパワハラなどで青沼は鬱病となり休職、案件を引き継いだ謙伸も転職雑誌を愛読する日々。夫の反対で遅々として進まない一軒家を建てる仕事や、続出するライバル会社にクライアントを奪われる案件、そして条例違反の別荘を建てろという客まで現れるなかなかカオスな展開でしたけど、仲間たちとも協力して複雑に絡み合う状況にひとつひとつ向き合い、会社を変えようとする熱い展開はなかなか良かったですね。
二人以上殺した者は天使によって地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦が、大富豪・常木王凱に誘われ天使が集まる常世島を訪れる孤島×館ミステリ。激変した世界でかつて無慈悲な喪失を経験した青岸が直面する、起きるはずのない連続殺人事件。犯人はいかにして連続殺人を成し遂げたのか。復讐に人生を賭けた犯人の「天使」の特性を逆手に取ったその真相には善悪とは何かを考えさせられましたね。そんな中で青岸が見出してゆく、天使と役割を逆転させたような探偵の存在意義にはなかなか皮肉が効いていて印象的な結末だったと思いました。
親友を殺した犯人が精神鑑定で不起訴になった過去を抱える若き新人医師・弓削凛が、正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願する物語。歌舞伎町無差別通り魔事件、生後五ヶ月の娘を抱いてマンションから飛び降りた母、姉を刺し逮捕された引きこもり、精神疾患は詐病とした傷害致死犯の思わぬ反撃、過去に犯した殺人事件を多重人格で不起訴となっていた犯人の真意。容疑者たちの真意を些細な手がかりから見抜いていく展開はなかなか面白かったですが、過去の因縁を絡めた最後の事件は業が深かったですね…。
四大卒の新人タクシードライバー高間夏子。個性あふれる先輩や同期に励まされ、家族に支えられて、誠心誠意仕事に恋に立ち向かうお仕事小説。女性運転手の比率はわずか3%で、女性客が安心して乗れるタクシーを目指して自らこの道に進んだ夏子。お客さんから名刺をもらったり、元カレと再会したり、無賃乗車・駕籠抜けに遭遇したり、お見合いして付き合うことになったり、思ってもみなかったことを提案されたり。良くも悪くも様々なことに遭遇するタクシードライバーの仕事はなかなか興味深かったですけど、その積み重ねで成長してゆく夏子の物語をまた読んでみたいと思いました。
相続人はいっしょに暮らしてください
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桜井美奈 祥伝社 2022年10月13日
めったに帰ってこないダメな父親に搾取される日々を送る高校生の佳恵。高三の夏、そんな彼女に突然、他の相続人と暮らすことが条件に祖母・雅子の相続話が舞い込む疑似家族小説。家賃の滞納でアパートを追い出され、他に行く場所もなく借金まみれの義理の伯母・利沙子、女装姿の叔父・幸太郎、そして遺言執行人で雅子のハトコ・環と相続するまで同居することになった佳恵。相続人にはそれぞれの思惑や過去があって、遺産に群がる元恋人や父親はわりとあれでしたけど、同居を続けてお互いのことを知ってゆくうちに情が芽生えて、助け合うようになってゆく彼女たちの関係はなかなか良かったです。
幼少期に東北で両親を失い、今は都内のダリア専門店で働く二十歳の太輝。街中で出会った謎めいた美少女・巫香にある目的のために近づく闇落ちミステリ。自殺した双子の弟の死の真相を探るため、花屋の配達を利用して巫香の家を訪れる太輝。引きこもり気味で掴みどころのない巫香を機転とする不穏な出来事の数々に不安を覚えながら、断片的な情報を拾い集めて核心に迫ってゆく展開で、その背景を知っていけばいくほど誰を信じていいのか、どうすればいいのか分からなくなる中、デリケートで難しいギリギリの選択を迫られ続けましたけど、それでも彼女の孤独に向き合って寄り添う覚悟を決めた太輝の決断が印象に残る物語でした。
中国・武則の天時代の都・神都随一の哭女とされ、葬式に引っ張りだこだった泪飛。人に明かせない秘密を抱える泪飛が年上の青年貴族・青蘭と出会う中華ミステリ。いい家柄の葬儀で涙をもって故人の功績を称え謳い、身分を偽りながら幼い妹弟を養っている泪飛こと燕飛と、友人の死の真相を探るために青蘭の出会い。彼に関わることで巻き込まれる笑わなくなった少年への対処、義賊に誘拐されたり、狄仁傑の友人の死の真相調査、頭を狙った連続殺人事件。様々な事件に遭遇する過程で燕飛の背景や焦燥も明らかになって、燕飛の一度は諦めかけた夢を応援するその友情がなかなか印象に残る物語でした。
知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした女子大生の春風。犯人の落とし物に心当たりがあった彼女が、居合わせた高校生の錬に押し切られて二日間だけの探偵コンビを組むミステリ。H大で心理学を学ぶ春風と高校生の錬で進める犯人が落としたストラップの持ち主探し。母子家庭で妹を案じる高校生・莉緒とカガヤの出会い。いくつかの視点から綴られてゆくストーリーは、思わぬ形で繋がっていって驚かされましたけど、優しい心の持ち主であっても一歩間違えば、追い詰められれば誰だって心が歪んでしまうこともあるんですよね…でもそこから丁寧に描かれる著者さんらしいとても真摯で優しい結末には救われる思いでした。
プロトコル・オブ・ヒューマニティ
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長谷 敏司 早川書房 2022年10月18日頃
不慮の事故で右足を失い、AI制御の義足を身につけることになったダンサーの護堂恒明。そんな彼が人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性を表現しようと試みる近未来小説。身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーだった恒明の突然の暗転から、絶望の中に義足に希望を見出し、自らの肉体を掘り下げてダンスとは何かという本質を突き詰める恒明。そして認知症が急速に進んでしまい変わり果ててゆく、伝説の舞踏家だった父と向き合う絶望の日々。テクノロジーの進化とその限界も実感するなかなか壮絶な展開でしたけど、ある意味そんな彼ららしい結末がまた印象に残る物語でした。
疫病禍を経験した未来。世界生存機関に所属するアルフォンソは、児童200名以上が原因不明の発作に見舞われる奇病の現地調査を命じられる近未来小説。20年前に民族のアイデンティティが消去され、再生のテーマパークとも揶揄されるその国での調査中、抹消の元凶となった生物兵器が強奪されて、悲劇の再来を恐れる事務総長から密命を言い渡される展開で、国がなくなってしまうことによってアイデンティティが喪失することの意味だったり、多様な価値観が配慮される未来ではどういうことが起こるのか、やや情報量が多めではありましたけど、思考実験としてもいろいろと考えさせてくれるなかなか読み応えのある一冊でした。
新人作家、汐田聖が目にした不倫妻の独白ブログ。そこに登場する「不倫相手の母親」に、長年存在を無視され苦しめられてきた実の母親を思い出してゆく連作短編集。無邪気に優雅に、意味もなく他人を次々と不幸に陥れる理解不能の存在。ある時は遠い異国や港の街で、名前も姿も偽りながら狂わせてゆく、夫に尊厳を否定される妻の逃避、海外赴任先で夫の不倫を知った妻の不倫、暴力を振るう父から母や妹と逃げ出した少年、中学以来の交流を続ける無二の親友。それらのエピソードにも絡めて描かれることで浮き彫りになってゆく、どうしようもなく母親に支配されてきた親子関係や、不可解で無秩序な育った家がとても鮮烈な物語でした。
もしもあの日、あの時、過去の分岐点で違う選択肢の人生を歩んでいたら…満月の夜だけ現れる過去に後悔を抱えた者たちが行き着く不思議な分岐駅まほろしを巡る連作短編集。もしもあの時、告白をしていたら、もしもあの時第一志望の大学に合格していたら、もしもあの時、夢を追わなければ、もしもあの時病院に連れて行っていたら、そしてもう一度会いたい大切な人。選択肢次第では今よりもよりよい可能性があったのではないか。過去が変わるわけではないけれど、もしそうしていたらの人生を追体験してゆくストーリーで、それぞれが過去に向き合うことで本当に大切だったものに気づいてこれからを変えてゆく、そんな素敵な物語でした。
フードスタイリストの仕事優先の毎日を送るユキに、夫・健が突如提案した義実家同居。しかし義母・凛子との相性は最悪だと自認するユキは、苦し紛れの折衷案として「一緒に住むけれど、食卓は別々」を提案する家族小説。夫に先立たれ同居していた長男も事故死した義母・凛子。家庭を疎かにしがちな負い目もあって、何かと凛子の言動に目くじらをたて、距離を置こうとするユキをあざ笑うかのように直面する息子の不登校、上手くいかない仕事、独居する母の認知症疑惑、義兄の隠し子との同居、義姉夫婦の同居。二つの食卓は衝突しながら徐々に境界線を危うくしていく展開で、凛子の作る美味しそうな食事の描写は思わず食べたくなりますが、何だかんだ言いながらもひとつの家族の形を見せてくれた温かい物語でした。
辛い現実を生きる女子高生・氷織の生き甲斐はアイドル四宮炭也の推し活だけ。感染病流行でライブが中止になり、ふとしたきっかけから推しのなりきりとのやりとりにのめり込んでゆく黒歴史ミステリ。最愛の父はエベレスト登頂間際に凍死、学校では陰湿ないじめを受け、家に帰れば義父に性的虐待を受ける絶望の日々。顔を見たこともないなりきり相手への密かな恋にしか救いがない状況で、もうひとつの黒歴史との邂逅がまた何ともあれでしたけど、これもまた運命に導かれた出会いだったのか…二つの「こおり」を巡るそれぞれの因縁を決着させてゆく中で、今まで不遇でしかなった氷織にも救いがあって良かったです。
世界の中心にそびえ続ける巨大な木。数奇な運命に巻き込まれた人々の叡智と苦悩が積み重なり、やがて壮大な謎が解き明かされてゆく物語。宗教の長となった少女、天文学に人生を捧げる青年、革命組織に身を置く男など、時代も移り変わり視点も変えながら、文明が成熟してゆく中でも大いなる力を信じて、力ではなく知性で世界を変えようとした人々のあがく姿を描いた連作短編で、その中でも変わらずあり続けるこの木は一体何なのか?これまでの著作とはまただいぶ違うカテゴリに感じられた作品でしたけど、壮大なスケールで描かれたその結末はなかなか印象的でした。
突然火事に遭い、消えない火傷を負った東京の男子高校生コテツ。父も植物人間状態に陥り天涯孤独となった彼は、遠縁の島根に住む女性の刀鍛冶・剱田かがりという老婦に引き取られる青春小説。自暴自棄にな気持ちで島根にやってきたものの、クラスメイトの視線に耐えられず学校に行けなくなってしまうコテツ。そこから少しずつ弟子たちと刀剣の仕事を手伝う展開で、現代で刀を作る意義や弟子たちとの関わりで葛藤を抱きながらも鉄を打ち、熱に溶かされて変わってゆく心境があって、心の傷が癒やされていったコテツが様々なことに向き合い、それを受け入れてゆくその姿がとても印象的な物語でした。
会社の倒産を機に田舎から漫画家を目指して上京し、憧れの漫画家のアシスタントを務めることになった葛城彩華。しかしそこから次々とトラブルが続出して巻き込まれてゆくお仕事ミステリ。スタジオでは漫画家の双子の弟で漫画家・神薙のセクハラが横行し、さらにはボツネーム盗難騒ぎやストーカー、同僚の階段突き落とし事件が同時多発的に次々と発生し、誰を信じていいのか分からなくなってゆく展開で、主人公自身もいろいろと迂闊なところはあったように思いましたけど、それ以上にいかにも彼女と相性が良くなさそうな神薙のトラブルメーカーっぷりが際立っていました。