3月の読了冊数は読書メーターによると最終的に123冊でした。
読んだ本123冊
読んだページ37,200ページ
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こちらでは3月に読んだライト文芸5点、文庫17点、文芸単行本14点の計36点を紹介しています。ライトノベル編はこちら↓
気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
彼女と彼の関係 平凡な早川さんと平凡な三浦くんの非凡な関係 (富士見L文庫)
彼女と彼の関係 ~平凡な早川さんと平凡な三浦くんの非凡な関係~(1)
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六つ花 えいこ/くろこだ わに KADOKAWA 2023年03月15日頃
「誰でもいいから、彼女になってくれんもんかね」「本当に誰でもいい?私でも?」三浦拓海と早川夏帆の他愛ない会話から期限つきのお試し恋人関係が始まる青春ラブコメ。放課後の帰り道や、休日のお出かけ。夏帆の想いに寄り添う拓海、好奇心旺盛で無防備な夏帆が、お互いの友人たちも絡めながらじゃれあうように楽しむ恋人の距離感。お互いそろそろ本物の恋人関係を意識していろいろ考え出す中、良くも悪くも暴走気味な夏帆の気持ちが空回りして、もどかしくなったり、拓海がちょっと不憫だな…と思う展開もありましたけど、友人たちのフォローもあって乗り越えた二人の結末がとても素敵な物語でした。巻末の二人らしいその後の関係も順調そうで良かったです。
嘘の世界で、忘れられない恋をした (メディアワークス文庫)
嘘の世界で、忘れられない恋をした(1)
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一条 岬 KADOKAWA 2023年03月23日頃
余命1年の宣告を受けた高校2年の月島誠。静かに日々を過ごす彼が想いを寄せる翼から映画制作部に誘われ、事態が思ってもみなかった方向に転がり始める青春ラブストーリー。活動を重ねてゆくうちに互いに惹かれ合ってゆく二人。一方で残酷にも確実に迫っているのを実感させる命の刻限。そこで余命のことを知らない翼が悲しまないよう、ある作戦を実行しようとする誠。幸せな日々だと実感してしまうからこそ、彼女を悲しませたくないと懸命に考える誠の想いが切なくて、翼だけでなくかけがえのない日々をともに過ごした映画制作部の仲間たちとの絆、そして時を越えて彼女に届く真摯な思いがとても心に響く物語でした。
金をつなぐ 北鎌倉七福堂 (集英社オレンジ文庫)
北鎌倉で和菓子職人をしながら日本茶カフェを営む眞白。彼女と二人の幼馴染を取り巻く人々や、彼ら自身それぞれの修復が綴られる青春ダイアリー。複雑な生い立ちで両親に引け目を感じている眞白、相貌失認症のような状況で学校に馴染めなかった夏樹、そして祖母に厳しく育てられた反動で神社の跡継ぎをゆるく務めている桜士郎。それぞれが抱えるものを理解して寄り添ってくれる、不器用だけれどかけがえのない確かな絆があって、彼女たちにも大切な譲れないものがあって、そんな三人に人見知りの引きこもりで美味しい料理を作って振る舞う夏樹の叔父・玄も交えた大切な関係がこれからどう変わってゆくのか、その続きをまた読んでみたくなるとても優しい物語でした。
宋代鬼談 中華幻想検死録 (集英社オレンジ文庫)
中国・宋の時代。幼くして両親を失い、叔父の援助でどうにか科挙に合格した心優しい青年・梨生が、地方官として赴任する道中で、水鬼に転じ川に縛られた男・心怡と出会う中華幻想怪奇譚。お人好しな性格で、心怡が輪廻に戻るまでの三年間の見届け役として従者に雇った梨生が、主簿として発見された遺体の検死をするたびに幽鬼が見えるようになってしまい、それを活かして心怡や県尉の開武と一緒に、人肉食事件や殺された女の遺体、首のない男の死体といった事件の真相に迫る展開で、その過程で垣間見えてくる関係者たちの複雑な想いが印象に残りましたが、知県の智項が抱える秘密は今後何かに活きてくるのか、また要所で出没する謎めいた薫彩華の存在も気になるところではあります。
君が、僕に教えてくれたこと (ことのは文庫)
君が、僕に教えてくれたこと
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水瀬さら/フライ マイクロマガジン社 2023年03月20日頃
これまで何人もの幽霊を助けてきた高校生・天。コンビニ前で出会ったセーラー服姿の幽霊・陽菜との運命的な出会いが、止まっていた時間を再び動かし始める青春小説。当初うんざりしていた天が陽菜に懇願される、コンビニでバイトをする姉を守って欲しいという願い。それをきっかけに彼女の姉・舞衣と交流する中で判明してゆく、それぞれが抱えている過去。消えかけながら数奇な運命を繋げた陽菜の心残りを何とか解決したいと奔走する不器用で真摯な天の想いもあって、過去だけでなくいつの間にか芽生えていた想いにも向き合ってゆく結末が、とても優しくて温かい物語でした。
スター (朝日文庫)
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。大学卒業した二人が名監督への弟子入りとYouTube発信という真逆の道を選ぶクリエイター小説。名監督の助監督にはなったものの自分の作品をなかなか表に出せない尚吾の葛藤。一方でYouTubeで注目を集めてはいるものの、果たしてそのクオリティでいいのかと疑問を感じてしまう紘。同様に激変してゆく表現者の世界に対する紘の仕事仲間、尚吾の先輩や同棲相手、後輩たちの苦悩や試行錯誤で実感のこもった言葉が突き刺さりましたけど、彼らが追い求めた先に見えてくるそれぞれの形がとても印象に残る物語でした。
お探し物は図書室まで (ポプラ文庫)
仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。案内されたレファレンスコーナーで司書さんが一風変わった選書をしてくれる連作短編集。婦人服販売に行き詰まりを感じる女性社員、雑貨店主を夢見る経理部員、子供を生んだ雑誌編集者の複雑な想い、夢破れ仕事も辞めたニート、そして定年退職した夫。無愛想なのに聞き上手なインパクト抜群の司書さんが、適切なオススメとちょっと変わった一冊とともに渡してくれる付録が印象的で、意外な本との出会いをきっかけに新しい道を見出してゆく、そんな著者さんらしさが詰まった物語でした。
文身(祥伝社文庫)
好色で酒好きで暴力癖のある最後の文士と呼ばれた作家・須賀庸一。その己の破滅的な生き様で作品がすべて私小説だと宣言されていた彼の死後、娘に託された文章でその真相が明らかになってゆく物語。弟・堅次との複雑な関係、家を飛び出した経緯、作家となった兄弟が抱えた秘密、妻との出会いからの変化と、弟が書いたことを小説とするために実践する兄の変化、そして兄弟の相克に至るまで、作家であり続けるためにそこまでしなければならなかったのか、何が虚構で何が現実だったのか、様々なものが複雑に絡み合う壮絶な展開でしたけど、そこまで踏まえた上で娘に届いた手紙の意味を思うと、ついドキッとさせられてしまいました…。
虜囚の犬 元家裁調査官・白石洛 (角川ホラー文庫)
虜囚の犬 元家裁調査官・白石洛
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櫛木 理宇 KADOKAWA 2023年03月22日頃
過去の苦い事件から家裁調査官を辞め、妹の専業主夫代わりの日々を送る白石洛。友人の刑事・和井田からかつて担当した少年・薩摩治郎が死体となって発見されたことを知らされるサスペンスミステリ。穏やかな日常を送っていた洛が、治郎の自宅を訪れて判明する監禁虐待されていた女性たち。なぜ治郎は彼女たちを監禁したのか、そしてその史上最悪の監禁犯を殺したのは一体誰なのか。強権的な父や無力な母、家政婦や庭師、精神医を通じて明らかになる凄惨な背景があって、中学生二人の動向も絡めながら組み上げらてゆく構図に覚えた違和感の正体は見事に打破されましたけど、それでも根深く逃げられないその連鎖には戦慄を覚えました…。
空への助走 福蜂工業高校運動部 (集英社文庫)
空への助走 福蜂工業高校運動部
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壁井 ユカコ 集英社 2023年03月17日頃
「2.43」で清陰高校のライバル校として登場する福蜂工業のバレー部、柔道部、釣り部や、どこか繋がりがある他校の部活動を通じて揺れ動く高校生たちの青春が描かれる連作短編集。努力を惜しまない登場人物たちの届かないがゆえの悔しい思いだったり、不器用な人間関係や恋心だったりと甘酸っぱい青春してるなあと思いながら読みましたけど、それが後できちんと成長していたり、変わった関係がフォローされていて嬉しいですね。ひとつひとつの繊細なエピソードが様々なところで繋がってひとつの世界を形成していて、なるほどなと唸らされた心地よい読後感でした。
百合小説コレクション wiz (河出文庫)
百合小説コレクション wiz
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深緑 野分/斜線堂 有紀 河出書房新社 2023年02月07日頃
実力派作家の書き下ろしと百合文芸小説コンテスト発の新鋭が競演する、八つのアンソロジー。斜線堂さんの選挙に絶対行きたくない見解の相違、小野さんの私たちが失った三年間、櫛木さんの夫とその愛人と三人の奇妙な同居生活、宮木さんの教師とパートナーの別離と女子高生、アサウラさんの彼氏ができた友達を拉致する話、坂崎さんの嘘つき姫とみんなの嘘、南木さんのとある魔術師の恋の物語、深緑さんの恋人を助けないと崩壊する世界と運命。男も絡む作品などは好みが分かれそうですけど、著者さんらしいそれぞれのアプローチで描かれる思っていたよりもカオスな関係があって、個人的にわりと楽しく読めた短編集でした。
赤ずきんの森の少女たち (創元推理文庫)
神戸に住む高校生・熊丸かりんが、従兄の大学生・栗原慧に訳してもらった祖母の遺品であるドイツ語の本。そこに描かれる十九世紀末の寄宿学校を舞台にした少女たちの物語。祖母が残したドイツ語の本に描かれる赤ずきん伝説の残るドレスデン郊外の森、学校でささやかれる幽霊狼の噂、校内に隠された予言の書と宝物の言い伝え。それらを読み進めるうちに物語と現実を結ぶ奇妙な糸に気づく二人。物語の中で描かれるロッテと個性豊かなルームメイトたちの寄宿学校の様子や、それぞれの謎解きのエピソードがなかなか楽しくて、積み重ねられた伏線が解き明かされてゆくとても素敵な物語でした。
遺体鑑定医 加賀谷千夏の解剖リスト (角川文庫)
遺体鑑定医 加賀谷千夏の解剖リスト
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小松 亜由美 KADOKAWA 2023年02月24日頃
京都府警に持ち込まれた傷害致死事件。新興宗教に傾倒していた母親の虐待を疑う京都府警は、大学で法医解剖医を務める加賀谷千夏に検死と司法解剖を依頼する法医学ミステリ。異様な姿で死亡した引きこもりの大学生の死因、河川敷で発見された首のない遺体の死因、発見された足だけの遺体の真相、同時に発見されたのに腐敗した死体と凍結した死体が並んでいた理由。新人助手・久住とのコンビで真摯に取り組む精緻な解剖描写と、事件の真相を導き出す千夏の推理力が目を引きましたが、毎話ごとに違う関係者視点から角度を変えて千夏の様子が語られる構図もなかなか興味深かったですね。
無実の君が裁かれる理由 (祥伝社文庫)
突然、身に覚えのない同級生へのストーカー行為を告発された大学生・牟田幸司。周囲の犯人扱いに追い詰められてゆく幸司に冤罪の研究する先輩・紗雪が疑いを晴らすために協力する連作短編集。二人が挑むストーカー扱いされた裏に潜んでいたもう一つの事件、ドローンを破壊したという自白の真相、冤罪痴漢事件に隠されていた真実、そして紗雪の父にまつわる冤罪事件の究明。読んでいると冤罪に繋がる証拠や自白、証言に対する信頼性といったものがいかにあやふやなものでしかないのか、そんなもので周囲に疑われてしまう恐ろしさをしみじみと感じましたが、それでも信じてくれる人の思いがあって、事件に真摯に向き合ってその思い込みを覆してゆく展開には救われるものがありました。
彼女が天使でなくなる日 (ハルキ文庫)
九州北部にある小さな星母島。1年前大野麦生と一緒に戻ってきて託児所併設の民宿を営むようになった千尋。島の「母子岩」と呼ばれる名所にご利益を求めて様々な人々が訪れる連作短編集。モライゴとして育てられた地で千尋が出会う、育児と仕事の両立に苦しむ妻、千尋に興味を持ち探りを入れるライター三崎塔子、子宝を願う娘と母の関係、千尋を育ててくれた政子とその孫まつりと息子の陽太、そして掴みどころのない同居人・麦生との関係。淡々と為すべきことを為し、言うべきことを言う一見ドライに見える千尋もまた訪れる人たちや周囲の人たちと同じように悩むこともあって、そんな彼女だからこそ寄り添える優しさがとても印象的な物語でした。
あけびさんちの朝ごはん (角川文庫)
あけびさんちの朝ごはん
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石井 颯良 KADOKAWA 2023年01月24日頃
結婚直前で婚約破棄をされてしまい、職と家と恋人の全てを失ってしまった明日彼方。そんな27歳独身無職が、突然男子高校生&4歳児と同居することになる不器用な家族の絆の物語。馴染の家に居候中の身で、従姉の葬儀で親戚中の心ない言葉にさらされる忘れ形見の兄妹を放っておけず、引き取る決意をする彼方。警戒心MAXの兄・幸希と甘えたい盛りの妹・咲希相手の手探りの同居生活は、幸希の進学問題も絡んだりと、なかなか距離感も掴めなくて難しいものがありましたけど、周囲に支えられお互いのことを理解してゆく彼女たちの、不器用だけれど優しくて温かい関係は心に響くものがありました。
死にたいあなたに男子大学生がお肉をごちそうしてくれるだけのお話 (角川文庫)
死にたいあなたに男子大学生がお肉をごちそうしてくれるだけのお話
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夕鷺 かのう/田中 寛崇 KADOKAWA 2022年12月22日頃
疲労と憂鬱を溜め込んだ重たい体で帰宅して、「料理好きの男子大学生」の動画を見るのが唯一の癒しになっている彼女たちが、彼に誘われて美味しい肉料理を振る舞われる暗黒童話的連作短編集。スマホで見る素敵なレシピを解説付きでアップしてくれる爽やかな大学生の彼の動画にハマる、寄生マウント女に何もかも奪われた女、クズ男に金も身体も巻き上げられる純情女子大生、そして同担拒否SNS粘着女の所業とその末路。読んでいて途中から感じ始める違和感を最後に顕在化させてゆく結末にはやっぱりと思いましたけど、それをにこやかにやり遂げる彼には戦慄しましたね。スッキリとは…とその意味を考えてしまう、とても著者さんらしい物語でした(苦笑)
広告の会社、作りました (ポプラ文庫)
突然会社の倒産を告げられ、いきなり無職になってしまったデザイナーの遠山健一。安定した転職先を求めたはずが、コピーライター天津孔明の個人事務所でフリーランスとして働くことになってしまうお仕事小説。変わり者の天津とコンビを組む事になった健一。戸惑いながらも二人でコンビを組んでの仕事にいつしか見出してゆく楽しみ、そして倒産のきっかけとなった因縁の企業での出来レースコンペと法人化。過去のことを思い出してしまう不安を乗り越えて厳しい状況にも可能性を信じて立ち向かった勇気、その中での自身の成長とこれまでの縁があって、成長した現時点での力を尽くした先にあった結末がなかなか印象に残る物語でした。
お役に立ちます! 二級建築士 楠さくらのハッピーリフォーム (角川文庫)
お役に立ちます! 二級建築士 楠さくらのハッピーリフォーム
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未上 夕二 KADOKAWA 2023年02月24日頃
亡くなった父の意思を継いて二級建築士となった楠さくら。持ち込まれるリフォーム案件に、持前のまっすぐさで幸福を呼ぶ驚きの提案をするお仕事小説。みんなが幸せになるクライアントに寄り添う設計を心掛けるさくらが向き合うスポーツ用品店の改装、和菓子屋店二号店の設計、そして因縁の相手とのコンペ、コテージのリニューアル。想いのつまった家を売らない決断をして、父が遺した借金返済をする決意を固めた家族はなかなか大変な境遇でしたけど、どうすれば依頼主が一番幸せになれるのか、上手くいくことばかりではなくても諦めず、さくらの真摯に向き合う姿勢が感じられる仕事ぶりで、そんな彼女たちの頑張りがきちんと報われる結末で良かったです。
今日も町の隅で (角川文庫)
「みつば」の街を舞台に11歳から42歳、それぞれの選択に向き合う登場人物たちを描いた10編の短編集。高校野球観戦にいたヤジを飛ばすオヤジ、トラウマの東京タワー、大丈夫なバカ親子、チャリにはねられた話、事故で人生を棒に振った男女の数奇な運命、芽が出ない作家と拾った一万円をどうするか、家に泊めてあげて欲しい妻の元カレの事情、同窓会で出会った昔好きだった女子との再会、カートを片付けるおじさん、元カノを見返すために10キロ走る就活生。一つ一つの物語はわりと短くて、いかにもなありふれた日常でしたけど、その中で描かれる登場人物たちの選択がなかなか印象的でした。
過ぎる十七の春 (角川文庫)
まもなく十七歳の誕生日を迎えようとしている従兄弟同士の直樹と隆。毎年同様、直樹と典子の兄妹が隆の住む花の里の家を訪れ、二人の少年を繋ぐ悲劇の幕が上がるホラーミステリ。なぜか母親の美紀子に対して冷淡な態度をとってしまい、夜部屋を訪れる何者かの気配に苛立つようになってゆく隆。息子の目の中に恐れていた兆しを見つけて絶望する美紀子の異変があって、直樹もまたが因縁に絡め取られてゆく様子はなかなか恐ろしかったですが、姉妹でもある彼ら二人の母の覚悟がその因縁に決着をつける物語の大きな転機となっていて、猫の三代の存在もまたいい感じに効いていました。
君のいたずらが僕の世界を変える 食べもの探偵トモアキの事件簿 (宝島社文庫)
君のいたずらが僕の世界を変える 食べもの探偵トモアキの事件簿
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篠谷 巧/銀行 宝島社 2023年02月07日
事故で意識不明となってしまった漫画家を目指すフリーター宇佐見太一。高校時代に自分が描いた漫画『食べもの探偵トモアキの事件簿』の世界で目覚めてしまうクロスオーバーミステリ。食べものの声を聞き事件を解決する奇妙な探偵トモアキの助手をしつつ、現実世界への帰還を目指すが徐々に意識の境界が揺らぎ初めてしまう太一。一方でゲーム開発を取材したきっかけから再会した宇佐見のかつての同級生・沙月が、目覚めない彼を目覚めさせようと作品を朗読したりと試行錯誤する展開で、交錯する夢と現実はややカオスな印象はあったものの、作中作のミステリは意外としっかりしていて、二人が迎えたエピローグはなかなか良かったですね。
人生の喜怒哀楽を繊細に掬いあげる恋と愛と性と怪。どんな時も気持ちに寄り添う、甘くてスパイシーで苦くしょっぱい13編の連作短編集。プロポーズに自らが人魚だと告げる女性、敏くて鈍い男が世の中をBL世界にしたり、双子に嫁いだ似た者同士の提案、歳の離れた従兄への恋心、地下アイドルの同級生を密かに推すモデルの女子高生、ホームから落ちて死んで生まれ変わり妻に拾われた猫、亡くなった彼になりすますウィルスとの交流、一目惚れで買った真っ赤なソファが語る持ち主の30代など、積み重ねられてゆくどうにもならない想いが丁寧に綴られていて、もう少しうまく立ち回れればと思ってしまうくらい不器用でしたけど、変わらない一途な想いがとても印象に残りました。
七十一歳となった現在、レビー小体型認知症を患い介護を受けながら暮らす祖父。小学校教師である孫娘の楓が身の回りで生じた謎について話して聞かせると、かつて小学校の切れ者の校長だった知性が生き生きと働きを取り戻す連作短編ミステリ。古書に挟まれていた4つの訃報記事の謎、居酒屋で起きた密室殺人事件の以外な真相、プールから消えたマドンナ先生の行方、全員で33人いるクラスメイト、容疑者とされてしまった同僚の岩田先生、碑文谷さんとストーカーを巡る事件など、一見難解とも思える事件を解決へ導く助言をする祖父がいて、岩田やミステリ好きの四季との心揺れる関係も絡めながら描かれる展開はなかなか良かったですね。
2020年、中2の夏休みの始まりに、また変なことを言い出した成瀬あかり。全力で我が道を突き進む彼女を周囲の視点から浮き彫りにしてゆく青春小説。突然閉店を控える地元の西武大津店に毎日通って中継に映ると言い出したり、幼馴染の島崎とM-1に挑戦したり、膳所の祭りの司会も務めたり、自身が信じた方向へ自由に突き進む成瀬。別視点からのエピソードもありましたけど、何より地元への愛に溢れていて、突然突拍子もない行動をするその存在感に周囲も目をそらせなくて、様々なところに影響を与えていく成瀬が痛快で面白かったです。お互いに認め合う島崎との友情もなかなか効いていました。
東大に名探偵はいない
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市川 憂人/伊与原 新 KADOKAWA 2023年01月27日頃
東大卒&東大生作家・市川憂人、伊与原新、新川帆立、辻堂ゆめ、結城真一郎、浅野皓生の各氏による東大ミステリアンソロジー。憧れの従姉の痕跡を探すために加入した文芸サークル、地震研に突然届いた1枚のはがき、ミステリ作家・帆立が親友と挑む農学部で起きた盗難事件、熱烈な恋を一瞬にして冷めさせた「片面」の意味、美しく完璧な妻が提示した新居の条件、卒業生の医師を取材した学生メディアに届いた告発状。新川帆立さんの話が強烈なインパクトで全て持っていってしまった感もありましたけど、東大生ならではの苦悩や東大あるあるなども描かれていてなかなか興味深く読むことが出来ました。
カメルーンで生まれて人間に匹敵する知能を持ち、手話を介して人と会話もできるニシローランドゴリラのローズ。アメリカに渡り動物園で暮らすようになった彼女が、4歳の人間の子どもを助けるためにゴリラの夫を殺されてしまうリーガルミステリ。人と普通に会話をするローズがアメリカに見出した希望。子供を助けるために夫を銃で殺されてしまった理不尽に裁判を起こしたことで突きつけられる、人であることを前提とした法と倫理の現実。実際にあったアメリカで激しい議論を巻き起こした「ハランベ事件」をモチーフにしたストーリーで、まさかプロレスまで出てくるとは思いませんでしたけど、裁判を通じて垣間見える何とも皮肉な構図の変化、そして視点や立場が変わればまたいろいろと見えるものも変わってゆく展開とその結末には、いろいろと考えさせられるものがありました。
【第10回・ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作】
西暦80万2700年、人類滅亡後の地球。支配者である高等知的生命体「玲伎種」と、蘇生させて小説を執筆させる歴史上の名だたる文豪たちの交渉役である〈巡稿者〉メアリ・カヴァンが、ささやかで重大な反逆を試みるSF小説。生まれた場所も時代も違う作家たちの凝縮された人生。玲伎種による〈異才混淆〉の導入により数万年もの間歪んだ共著を強いられ続けて、次第に才能を枯渇させてゆく作家たちの狂気。壮大なスケールで積み重ねられてゆく描写の中で形を変えて繰り返し突きつけられる、作家にとって小説や創作とは何か。その本質を問い続ける展開は圧巻でしたが、果たして自分がそれをどこまで理解できたのかと問われると少しばかり考えてしまう一冊でした…。
この想いを知ってしまったら、そのままではいられない。何とも複雑な思いが思ってもみなかった結末を呼び寄せる、緻密で繊細な六篇の連作短編集。彼氏よりソファの肌触りに執着する女。妊娠で豹変し別れた妻と、父に会う娘の悲壮な覚悟。すれ違う恋人への複雑な想い。身体から出た石を交わし合う恋人たち。父を意識するあまり役に投影して自ら白木蓮の花に姿を変えた夫。身に花を咲かせる世界で転がり込んできた猫のような彼女と彼との結末。自分の中に確かにあったはずの愛は、けれど必ずしも上手くいく結末に繋がっているとは限らなくて、少しずつすれ違ってどうにもならなくなった自らの思いに、何とか向き合おうとするそれぞれの姿がとても印象的な短編集でした。
ネット・スマホ依存症対策条例が施行された近未来の香川県から、女子高生の美優が大阪へやってきた大阪観光サイバーパンクの表題作ほか八作品のSF短編集。売れないファンタジー作家がゴーストライターを引き受けた理由、中世の南仏を舞台とした貴族少女と吟遊詩人の出会い、詩をテーマとした三つの掌編、スマホゲーム開発をめぐる知的遊戯、表題作のほか存在していないオーストリアSF作家の架空伝記や、百合SFアンソロジー。実在の歴史をモチーフに虚構を織り交ぜて、いかにもありそうなそれっぽい雰囲気を作り出す作家の上手さを感じました。
コロナ禍がもたらした幾つもの「こんなはずじゃなかった」。市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれる切実な悩みと想いに、二人のカウンセラーコンビが向き合ってゆく連作短編ミステリ。カウンセラーの晴川と正木のもとに持ち込まれる、コロナによって将来の夢を見失った女子高生、婚約破棄された男性、幸せな未来を失った一児の母、人としての尊厳を奪われたホームレス、そして生きる気力を失った学生。いかにもありそうなエピソードの裏に隠されている背景や真実を卓越した観察力や洞察力で見抜いて解決に導いてゆく晴川には驚かされましたが、それによってもたらされた悪くないと思えるそれぞれの結末が印象に残る物語でした。
私たちはどこで間違えてしまったんだろう
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美輪 和音 双葉社 2023年02月22日頃
皆が仲良く、のどかな田舎町で起こった毒「おしるこ」事件。毎年行われる秋祭りで誰かがおしるこの鍋に農薬を入れて多数の死者が出てしまい、それをきっかけに全てが変わってゆくノンストップミステリ。当時の状況から犯人は町民に絞られ、誰もが疑心暗鬼となって新事実が明らかになるたびに、取り憑かれたように疑わしい人を追い詰める日々。高校生の仁美や幼馴染の修一郎と涼音も無関係ではいられなくて、その容疑者は果たして真犯人だったのか…言えない自己保身や仄暗い複雑な感情も絡めながら、だからこそ考えたくない可能性に気づいてしまった時、全てを失ってしまうかもしれない恐怖に葛藤して、追い詰められてゆくその焦燥が生々しかったです。
猫、犬、馬、人形など、異質な存在との交歓によって導かれるカタルシス、人と人ならざるものとの間の愛のありようを描いた6編の連作短編集。家族との平穏な日々、バンドマンの恋人が置いていった犬と暮らす女性、捨てられた余命幾ばくもない猫を引き取る出版社社員、カゴバックが持ち主と寄り添った一生、乗馬に夢中になっていた少女の数奇な人生、そしてシベリア抑留を経験した老人が出会った看護婦。愛とは何ぞやと突き詰めてゆくと確かに人に限った話ではないな…なるほどと思いながら読んでましたが、でもやはり後半の方が著者さんらしいのかなとは思いました(苦笑)個人的には「乗る女」みたいな話が結構好きですね。
仲良し兄弟の小学生五年生の晶と高校生の達。晶にとって誰よりも尊敬できる兄なのに、他の人から見ると「普通じゃない」らしい達と交わした言葉を大切に生きてゆく家族小説。物知りで絵が上手く、面白いことを沢山教えてくれて、けれどコミュニケーションが苦手で不登校、集中すると走り出してしまう癖がある達。同級生たちや大家さんとの会話を通じて「普通」とは何か、初めて意識する世間に晶が戸惑ったり葛藤して、さらに意外な事実が判明してからの思わぬ展開にはやや唐突な感もありましたけど、それでも晶が兄を大切に思う気持ちは揺るがなくて、とても優しい家族の物語でしたね。
三年前に小学校教師を辞めた石村。今は夜勤の警備員として働く彼が、勤務先で置引未遂を犯した10歳の少女との出会いが、立ち止まっていた彼を動かし始める物語。昼の世界から逃げ込むようにして選んだ仕事をして、他人と深く関わらずに生きようと決めていた石村が出会う、自分の子供時代を思い出すような少女。そこから思い出してゆく自分の子供時代の過酷な環境、そして自分を犠牲にしてまで誰かを助けた教師時代の出来事にはいろいろ考えさせられましたけど、そんな不器用な彼が感謝されて、そのありようを認めて寄り添ってくれる人がいる未来に希望を見いだせる結末で良かったです。
ここにあるはずだったんだけど
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佐々木 愛 双葉社 2023年02月22日頃
育たない胸に、どうしてこんなに悩んでいるのだろう。いくつ年を重ねても、いつも人生に自信を持てない。生きづらい世の中との隔たりをやわらかく溶かす4篇の小胸小説。推し俳優が巨乳元モデルを結婚したことによって、「F」であることに取り憑かれてしまう女性、「夜、トレンチコートの中にブラジャーを着けた男が出る」という噂、他人の幸せを願う授乳室荒らし、サッカー部のマネジャーは皆大きいと思う行き場のない想い。傍から見たら分からなくても、それが閉塞感やコンプレックスに繋がってしまう、行き場のない思いや繊細な心理描写が丁寧に積み重ねられた先にあるそれぞれの結末が印象に残る物語でした。