とりあえず2023年も3月が終わって早くも1/4が経過して、上四半期として今年の1月から3月に読んだライトノベルの新作の中からおすすめを30作品セレクトしました。
今回はそれから少し間が空いてしまいましたが、第二弾ということで該当期間中に刊行された文庫の中から30作品セレクトしています。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1.タイタン (講談社タイガ)
野崎 まど 講談社 2023年01月17日
至高のAI『タイタン』のサポートで、人類は仕事から解放され自由を謳歌する未来。心理学を趣味とする内匠成果を世界でほんの一握りの就労者ナレインが訪れ、彼女に仕事を依頼する近未来SF。突如として機能不全に陥ったタイタンAIのカウンセリングを託されることになった成果。仕事という概念がない世界で様々なことを考察することや、働くことの意味、仕事しかしたことがないコイオスと共に旅する中で目にする様々な出来事、そんな中でコイオスの成長や彼女自身の心境の変化もあって、未来に生きるとはどういうことか、現段階ではあまりこういう世の中を想像できないですけど、いろいろと可能性を垣間見せてくれる物語でなかなか面白かったです。
2.スター (朝日文庫)
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。大学卒業した二人が名監督への弟子入りとYouTube発信という真逆の道を選ぶクリエイター小説。名監督の助監督にはなったものの自分の作品をなかなか表に出せない尚吾の葛藤。一方でYouTubeで注目を集めてはいるものの、果たしてそのクオリティでいいのかと疑問を感じてしまう紘。同様に激変してゆく表現者の世界に対する紘の仕事仲間、尚吾の先輩や同棲相手、後輩たちの苦悩や試行錯誤で実感のこもった言葉が突き刺さりましたけど、彼らが追い求めた先に見えてくるそれぞれの形がとても印象に残る物語でした。
3.特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (宝島社文庫)
特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
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南原 詠 宝島社 2023年02月07日
特許権をタテに企業から巨額の賠償金をせしめていた凄腕の女性弁理士・大鳳未来が、「特許侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げるリーガルミステリ。彼女と組む弁護士・姚のもとにもたらされる完成済の特殊なTVの特許侵害、映像技術の特許権侵害を警告され活動停止を迫られる人気VTuber。一見そこからの逆転は難しいと感じる状況から、やや不自然とも思えるその訴えの背後関係を探り始めたことで、見えてくる様々な企業の思惑を逆手に取って、上手い落とし所を見極めながらきちんと問題を解決してみせるその展開の妙はなかなか面白かったです。
4.お探し物は図書室まで (ポプラ文庫)
仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。案内されたレファレンスコーナーで司書さんが一風変わった選書をしてくれる連作短編集。婦人服販売に行き詰まりを感じる女性社員、雑貨店主を夢見る経理部員、子供を生んだ雑誌編集者の複雑な想い、夢破れ仕事も辞めたニート、そして定年退職した夫。無愛想なのに聞き上手なインパクト抜群の司書さんが、適切なオススメとちょっと変わった一冊とともに渡してくれる付録が印象的で、意外な本との出会いをきっかけに新しい道を見出してゆく、そんな著者さんらしさが詰まった物語でした。
5.竜と華 弱虫姫に氷剣の忠誠 (富士見L文庫)
竜と華 弱虫姫に氷剣の忠誠
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浅名 ゆうな/SNC KADOKAWA 2023年02月15日頃
従軍経験もなく相棒の竜もいないまま、王国の栄えある聖竜騎士団の総団長に就任した王女エレノア。臆病で半人前の妖精姫と呼ばれる彼女と、姫将軍に忠誠を誓う氷の騎士が織りなすファンタジー。針のむしろ状態で頼りなげな11番目の王女と、彼女に静かに付き従う副団長「氷剣」アドルファス、そして曲者揃いの調査隊の仲間たち。反発されながらも密かに努力を続けてきた彼女が、国内の不穏な状況を知り仲間たちと奔走する展開で、ずっと彼女が追い続けてきた事件が今回の事態とも繋がって、一連の事件に自ら決着を付けて、周囲の信頼を勝ち取ってみせたエレノアは見事でしたけど、彼女に寄り添うアドルファスの揺るぎないその献身ぶりというか、重い執着っぷりがじわじわと効いてきて最高でした(苦笑)
6.彼女と彼の関係 平凡な早川さんと平凡な三浦くんの非凡な関係 (富士見L文庫)
彼女と彼の関係 ~平凡な早川さんと平凡な三浦くんの非凡な関係~(1)
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六つ花 えいこ/くろこだ わに KADOKAWA 2023年03月15日頃
「誰でもいいから、彼女になってくれんもんかね」「本当に誰でもいい?私でも?」三浦拓海と早川夏帆の他愛ない会話から期限つきのお試し恋人関係が始まる青春ラブコメ。放課後の帰り道や、休日のお出かけ。夏帆の想いに寄り添う拓海、好奇心旺盛で無防備な夏帆が、お互いの友人たちも絡めながらじゃれあうように楽しむ恋人の距離感。お互いそろそろ本物の恋人関係を意識していろいろ考え出す中、良くも悪くも暴走気味な夏帆の気持ちが空回りして、もどかしくなったり、拓海がちょっと不憫だな…と思う展開もありましたけど、友人たちのフォローもあって乗り越えた二人の結末がとても素敵な物語でした。巻末の二人らしいその後の関係も順調そうで良かったです。
7.嘘の世界で、忘れられない恋をした (メディアワークス文庫)
嘘の世界で、忘れられない恋をした(1)
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一条 岬 KADOKAWA 2023年03月23日頃
余命1年の宣告を受けた高校2年の月島誠。静かに日々を過ごす彼が想いを寄せる翼から映画制作部に誘われ、事態が思ってもみなかった方向に転がり始める青春ラブストーリー。活動を重ねてゆくうちに互いに惹かれ合ってゆく二人。一方で残酷にも確実に迫っているのを実感させる命の刻限。そこで余命のことを知らない翼が悲しまないよう、ある作戦を実行しようとする誠。幸せな日々だと実感してしまうからこそ、彼女を悲しませたくないと懸命に考える誠の想いが切なくて、翼だけでなくかけがえのない日々をともに過ごした映画制作部の仲間たちとの絆、そして時を越えて彼女に届く真摯な思いがとても心に響く物語でした。
8.文身(祥伝社文庫)
好色で酒好きで暴力癖のある最後の文士と呼ばれた作家・須賀庸一。その己の破滅的な生き様で作品がすべて私小説だと宣言されていた彼の死後、娘に託された文章でその真相が明らかになってゆく物語。弟・堅次との複雑な関係、家を飛び出した経緯、作家となった兄弟が抱えた秘密、妻との出会いからの変化と、弟が書いたことを小説とするために実践する兄の変化、そして兄弟の相克に至るまで、作家であり続けるためにそこまでしなければならなかったのか、何が虚構で何が現実だったのか、様々なものが複雑に絡み合う壮絶な展開でしたけど、そこまで踏まえた上で娘に届いた手紙の意味を思うと、ついドキッとさせられてしまいました…。
9.絞首商會 (講談社文庫)
秘密結社「絞首商會」との関わりが囁かれる血液学研究の大家・村山博士が殺され、頭脳明晰にして見目麗しく厭世家の元泥棒・蓮野が遺族に事件解決を依頼される大正ミステリ。なぜ遺体が移動させられていたのか、鞄の内側がべっとり血に濡れていたのか。そもそも遺族が以前村山邸に盗みに入った元泥棒に事件解決を依頼するのも不可解で、蓮野の友人・井口やうら若き乙女の峯子も絡めながら、なぜか事件解決に熱心過ぎる四人の容疑者相手に緻密な推理を積み上げていって、それが一気に組み上がってひとつの形となってゆく終盤の展開はなかなか良かったです。今回の蓮野と井口のコンビで別の物語をまた読んでみたいと思いました。
10.銀色の国 (創元推理文庫)
自殺対策NPO法人の代表として日々奔走する晃佑のもとに届いた友人の自殺という悲報。元相談者の友人が今になって死を選んだ原因を調べるうちに、恐ろしい計画の一端に辿り着くミステリ。逃げたい衝動を抱える詩織が陥った罠、SNSに死をほのめかす投稿を行い自傷行為を繰り返す浪人生のくるみ、そして自殺者の原因を探るうちに明らかになってゆくVR「銀色の国」の存在。その仮想と現実で一体何が起きているのか。死を願う人々に忍び寄る常軌を逸した悪意と、影響されてありようを変えてしまった人々がいて、それでも諦めずに細い繋がりから活路を見出して、向き合い続けた晃佑の熱い想いが引き寄せた結末には心揺さぶられるものがありました。
11.ヴィクトリアン・ホテル (実業之日本社文庫)
明日をもって百年の歴史にいったん幕を下ろす伝統ある超高級ホテル「ヴィクトリアン・ホテル」。ホテルを訪れた宿泊客たちの様々な人間模様が描かれる長編ホテルミステリ。悩める人気女優、自暴自棄なスリ、新人賞受賞作家、軟派な宣伝マン、そして人生の最期をホテルで過ごそうとする夫婦たちがホテルで出会う一期一会の縁。そんな登場人物たちの交錯する人生を描いていく展開と見て読んでいたのですが、途中からあれ?と思うような一面がいろいろと垣間見えてきて、結果的にええっ?となって見事にやられたと思いましたけど(苦笑)、でもとても優しくて素敵な物語だったと思いました。
12.虜囚の犬 元家裁調査官・白石洛 (角川ホラー文庫)
虜囚の犬 元家裁調査官・白石洛
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櫛木 理宇 KADOKAWA 2023年03月22日頃
過去の苦い事件から家裁調査官を辞め、妹の専業主夫代わりの日々を送る白石洛。友人の刑事・和井田からかつて担当した少年・薩摩治郎が死体となって発見されたことを知らされるサスペンスミステリ。穏やかな日常を送っていた洛が、治郎の自宅を訪れて判明する監禁虐待されていた女性たち。なぜ治郎は彼女たちを監禁したのか、そしてその史上最悪の監禁犯を殺したのは一体誰なのか。強権的な父や無力な母、家政婦や庭師、精神医を通じて明らかになる凄惨な背景があって、中学生二人の動向も絡めながら組み上げらてゆく構図に覚えた違和感の正体は見事に打破されましたけど、それでも根深く逃げられないその連鎖には戦慄を覚えました…。
13.かなりや異類婚姻譚 蛇神さまの花嫁御寮 (集英社オレンジ文庫)
かなりや異類婚姻譚 蛇神さまの花嫁御寮
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夕鷺 かのう/久賀 フーナ 集英社 2023年02月16日頃
没落華族に生まれた緋鳳院櫻子と、権勢を誇る蛇神一族の御曹司・冬夜との政略結婚。異能に目覚め彼に惨殺される未来を予知した彼女が、死を回避すべくやり直す和風浪漫ファンタジー。帝妃に選ばれる義姉を母といじめ抜いた結果、暗転した未来。予知能力に目覚めて冬夜と距離を置き、義姉との融和を図ることでルート回避を目指す櫻子。逆に溺愛される関係になっても新たな破滅フラグが立ったりでなかなか難しいなと思いましたけど、こうなってしまうとフラグ管理で回避するよりも、諸悪の根源を生贄に問題解決する方が早いですよね…。本気になったヤンデレはどう転んでも恐ろしくて、取り扱い注意だな…としみじみ思いました(苦笑)
14.金をつなぐ 北鎌倉七福堂 (集英社オレンジ文庫)
北鎌倉で和菓子職人をしながら日本茶カフェを営む眞白。彼女と二人の幼馴染を取り巻く人々や、彼ら自身それぞれの修復が綴られる青春ダイアリー。複雑な生い立ちで両親に引け目を感じている眞白、相貌失認症のような状況で学校に馴染めなかった夏樹、そして祖母に厳しく育てられた反動で神社の跡継ぎをゆるく務めている桜士郎。それぞれが抱えるものを理解して寄り添ってくれる、不器用だけれどかけがえのない確かな絆があって、彼女たちにも大切な譲れないものがあって、そんな三人に人見知りの引きこもりで美味しい料理を作って振る舞う夏樹の叔父・玄も交えた大切な関係がこれからどう変わってゆくのか、その続きをまた読んでみたくなるとても優しい物語でした。
15.仮面後宮 女東宮の誕生 (集英社オレンジ文庫)
仮面後宮 女東宮の誕生
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松田 志乃ぶ/皐月 恵 集英社 2023年01月20日
平安末期。謎の疫病・葡萄病みで大混乱に陥っている京の都。貴族や皇族も次々と倒れる状況で、次の東宮には一時、皇女を立てるべきという神託が届けられる和風ファンタジー。時の権力者で今上帝の兄の上皇・八雲院は神託の受け入れを決定、その条件を満たして選出された五人の女東宮候補となる皇女たち。双子の弟・映の宮、妹の貴の宮とともに宇治で忘れられた暮らしを送る火の宮もまた候補に指名される展開で、今上帝から命を受けてやってきた源翔との出会いがあって、様々な思惑が絡み合う中で起きた事件、覚悟を決めた映の宮主従、ライバル関係にある女東宮候補たちとの関係や、掴みどころのない八雲院の思惑など、その不穏過ぎる展開には今後への期待感しかありません。
16.双蛇に嫁す 濫国後宮華燭抄 (集英社オレンジ文庫)
草原の民アルタナの娘として双子のように育った異母姉妹シリンとナフィーサ。族長の父は彼女たち二人を双子信仰が盛んな濫国の双子の皇帝に嫁がせる中華風ファンタジー。気が優しく刺繍と料理を愛するナフィーサは兄帝・燕嵐に、活発で弓と騎馬が得意なシリンは弟帝・暁慶の後宮に迎え入れられて、対照的な皇帝たちのもとでつい比較して複雑な想いを抱きながらも、それぞれが居場所を得つつあった矢先の不穏な疑惑、そして状況を激変させてしまう思ってもみなかった事件。姉妹たちも否が応でも巻き込まれてゆく激動の展開と複雑な因縁、彼女たちの苦衷の選択にはほろ苦さも感じましたけど、とはいえこれまで育んできたかけがえのない絆が失われたわけではなく、これはこれで彼女たちらしい結末だったように思いました。
17.SHELTER/CAGE 囚人と看守の輪舞曲 (双葉文庫)
SHELTER/CAGE 囚人と看守の輪舞曲
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織守 きょうや 双葉社 2023年03月15日
民営刑務所で働くことになった河合凪が興味を惹かれた、長期受刑者だが悠々自適に生活しているように見える殺人犯の阿久津。看守と囚人が織りなす人間模様を描いたミステリ。新任女性刑務官が垣間見る様々な受刑囚たちの意外な姿。クールな刑務官・北田が抱える鬱屈、刑務所にいる女医の過去、やむをえず引き受けた弁護士・高塚といった周囲の人々の心理描写もまた印象的で、受刑者も悔恨を抱えていたり、後悔はしていなかったり、変わりそうにもなかったり、その心境は様々なんですよね。あの高塚弁護士がさりげなく登場している驚きもありましたが、舞台のわりには意外と落ち着いたストーリー展開で、いろいろと興味深い物語でした。
18.彼女が天使でなくなる日 (ハルキ文庫)
九州北部にある小さな星母島。1年前大野麦生と一緒に戻ってきて託児所併設の民宿を営むようになった千尋。島の「母子岩」と呼ばれる名所にご利益を求めて様々な人々が訪れる連作短編集。モライゴとして育てられた地で千尋が出会う、育児と仕事の両立に苦しむ妻、千尋に興味を持ち探りを入れるライター三崎塔子、子宝を願う娘と母の関係、千尋を育ててくれた政子とその孫まつりと息子の陽太、そして掴みどころのない同居人・麦生との関係。淡々と為すべきことを為し、言うべきことを言う一見ドライに見える千尋もまた訪れる人たちや周囲の人たちと同じように悩むこともあって、そんな彼女だからこそ寄り添える優しさがとても印象的な物語でした。
19.さいはての家 (集英社文庫)
居づらくなったり罪を犯したり、何かに反発したり所属していた場所を捨て他の土地へ向かう人たち。行き詰まった人々が、ひととき住み着く「家」を巡る連作短編集。家族を捨てて逃げてきた不倫カップル、逃亡中のヒットマンとその事情を知らない元同級生、新興宗教の元教祖だった老婦人、親の決めた結婚相手から逃げてきた女と別れた彼に追われる妹、子育てに戸惑い、仕事を言い訳に家から逃げた男など、逃亡のはてにたどり着いた住処に住まう人々の繊細な心情描写がとても著者さんらしいと思いましたが、個人的には「ままごと」と「かざあな」が印象に残りました。
20.華国神記 (中公文庫)
下級官吏・鄭仲望の前に現れた神虎を操り、尊大な態度で自分は《真名》を奪われた神であると主張する少女・春蘭。そんな人になってしまった元神様の少女が活躍する中華ファンタジー。名を盗んだ仲望の兄は死んでいて、弟の仲望の家に居候を決め込む春蘭。一方、都では妖が良家の子女を襲う事件が発生して、禁軍が出勤して神経を尖らせている状況で、春蘭はある姉妹を助けたことから仲望ともども思わぬ事態に巻き込まれてゆく展開でしたが、今回は神としての知識や度胸もある春蘭にやる気のない仲望が振り回されがちな構図が、これからどう変わってゆくのか今後の展開に期待のシリーズですね。
21.華は天命を診る 莉国後宮女医伝 (角川文庫)
華は天命を診る 莉国後宮女医伝(1)
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小田 菜摘/Minoru KADOKAWA 2023年01月24日頃
女子太医学校を首席で卒業し、市井の医療院で研修する新人医官・李翠珠。医学的知識で根拠に薬店店主を救ったことをきっかけに、後宮への配置換えを命ぜられる中華医療ミステリ。彼女の医療に対する真摯な姿勢や医学知識を評価され、実直な若き官吏・鄭夕宵とともに、河嬪の殿舎から見つかった堕胎薬、発熱を繰り返す御史大夫、呂貴妃が体調を崩した原因など、後宮や周辺で次々と起きる医療絡みの事件解決に挑む展開で、姉弟子や周囲とも相談しながら過去の因縁も絡むそれらの真相を解き明かしてみせた読後感は悪くなかったです。最初は実家の医院を継ぐつもりだったはずの彼女が、これからどんな生き方を選ぶのか、今後に期待の新シリーズですね。
22.宋代鬼談 中華幻想検死録 (集英社オレンジ文庫)
中国・宋の時代。幼くして両親を失い、叔父の援助でどうにか科挙に合格した心優しい青年・梨生が、地方官として赴任する道中で、水鬼に転じ川に縛られた男・心怡と出会う中華幻想怪奇譚。お人好しな性格で、心怡が輪廻に戻るまでの三年間の見届け役として従者に雇った梨生が、主簿として発見された遺体の検死をするたびに幽鬼が見えるようになってしまい、それを活かして心怡や県尉の開武と一緒に、人肉食事件や殺された女の遺体、首のない男の死体といった事件の真相に迫る展開で、その過程で垣間見えてくる関係者たちの複雑な想いが印象に残りましたが、知県の智項が抱える秘密は今後何かに活きてくるのか、また要所で出没する謎めいた薫彩華の存在も気になるところではあります。
23.本のない、絵本屋クッタラ: おいしいスープ、置いてます。 (ポプラ文庫)
本のない、絵本屋クッタラ
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標野 凪 ポプラ社 2023年02月02日
札幌にある『本のない、絵本屋クッタラ』。店主・広田奏と共同経営の八木が切り盛りするカフェで、季節のスープと奏のセレクトする絵本が訪れた人々の心を癒やしてゆく連作短編集。最初は絵本屋と思っていたのに、スープセットとコーヒーのみのカフェと知って戸惑う訪問客たち。彼らが抱える育児での迷いや、仕事に忙殺されていたり、今の立ち位置に迷っているといった苦悩に耳を傾けた奏、そして彼がセレクトした絵本を受け取るためにもう一度店を訪れることになる展開で、外な繋がりも明らかになりましたけど、時に温かく、意外な一面を持った本に込められた優しさがとても心に響く物語でした。
24.赤ずきんの森の少女たち (創元推理文庫)
神戸に住む高校生・熊丸かりんが、従兄の大学生・栗原慧に訳してもらった祖母の遺品であるドイツ語の本。そこに描かれる十九世紀末の寄宿学校を舞台にした少女たちの物語。祖母が残したドイツ語の本に描かれる赤ずきん伝説の残るドレスデン郊外の森、学校でささやかれる幽霊狼の噂、校内に隠された予言の書と宝物の言い伝え。それらを読み進めるうちに物語と現実を結ぶ奇妙な糸に気づく二人。物語の中で描かれるロッテと個性豊かなルームメイトたちの寄宿学校の様子や、それぞれの謎解きのエピソードがなかなか楽しくて、積み重ねられた伏線が解き明かされてゆくとても素敵な物語でした。
25.百合小説コレクション wiz (河出文庫)
百合小説コレクション wiz
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深緑 野分/斜線堂 有紀 河出書房新社 2023年02月07日頃
実力派作家の書き下ろしと百合文芸小説コンテスト発の新鋭が競演する、八つのアンソロジー。斜線堂さんの選挙に絶対行きたくない見解の相違、小野さんの私たちが失った三年間、櫛木さんの夫とその愛人と三人の奇妙な同居生活、宮木さんの教師とパートナーの別離と女子高生、アサウラさんの彼氏ができた友達を拉致する話、坂崎さんの嘘つき姫とみんなの嘘、南木さんのとある魔術師の恋の物語、深緑さんの恋人を助けないと崩壊する世界と運命。男も絡む作品などは好みが分かれそうですけど、著者さんらしいそれぞれのアプローチで描かれる思っていたよりもカオスな関係があって、個人的にわりと楽しく読めた短編集でした。
26.無実の君が裁かれる理由 (祥伝社文庫)
突然、身に覚えのない同級生へのストーカー行為を告発された大学生・牟田幸司。周囲の犯人扱いに追い詰められてゆく幸司に冤罪の研究する先輩・紗雪が疑いを晴らすために協力する連作短編集。二人が挑むストーカー扱いされた裏に潜んでいたもう一つの事件、ドローンを破壊したという自白の真相、冤罪痴漢事件に隠されていた真実、そして紗雪の父にまつわる冤罪事件の究明。読んでいると冤罪に繋がる証拠や自白、証言に対する信頼性といったものがいかにあやふやなものでしかないのか、そんなもので周囲に疑われてしまう恐ろしさをしみじみと感じましたが、それでも信じてくれる人の思いがあって、事件に真摯に向き合ってその思い込みを覆してゆく展開には救われるものがありました。
27.遺体鑑定医 加賀谷千夏の解剖リスト (角川文庫)
遺体鑑定医 加賀谷千夏の解剖リスト
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小松 亜由美 KADOKAWA 2023年02月24日頃
京都府警に持ち込まれた傷害致死事件。新興宗教に傾倒していた母親の虐待を疑う京都府警は、大学で法医解剖医を務める加賀谷千夏に検死と司法解剖を依頼する法医学ミステリ。異様な姿で死亡した引きこもりの大学生の死因、河川敷で発見された首のない遺体の死因、発見された足だけの遺体の真相、同時に発見されたのに腐敗した死体と凍結した死体が並んでいた理由。新人助手・久住とのコンビで真摯に取り組む精緻な解剖描写と、事件の真相を導き出す千夏の推理力が目を引きましたが、毎話ごとに違う関係者視点から角度を変えて千夏の様子が語られる構図もなかなか興味深かったですね。
28.そして花子は過去になる (宝島社文庫)
高校時代の人間関係のトラウマをきっかけに、家から出られなくなり引きこもっていた花子。唯一の外との繋がりだったゲームアプリを通じてフリーターのレンと運命的な出会いを果たす恋の物語。引きこもりの花子とバイト先のコンビニと家を往復する虚しい日々を送る蓮。花を育てるだけの地味なスマホゲームで出会った二人が積み重ねた交流によって育まれてゆく想いと会う約束。緊張のあまり気を失う花子と、会っていないはずなのにいつのまにか増えていくレンとの思い出。お互い自信がなくて不安を隠せない二人を密かに支えてくれた存在があって、二人を繋ぐ運命的な繋がりもあって、過去を乗り越えた二人が勇気を持って一歩踏み出して未来に繋がってゆく素敵な物語でした。
29.ゆるコワ! ~無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる~ (角川文庫)
ゆるコワ! 〜無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる〜(1)
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谷尾 銀 KADOKAWA 2023年01月24日頃
悪魔的頭脳を持つ残念美人の茅野循に誘われ、オカルト研究会を結成することにした最強女子高生・桜井梨沙。怖いもの知らずのコンビを組んで心霊スポットを探索する青春ホラー小説。設立して早々に病院の廃墟に向かった二人が、呪いの神社、最凶事故物件、そして「カカショニ」と次々と攻略してゆく展開で、心霊スポットだけでなく、たびたび人の悪意にも晒されたり、ネット怪談もありましたけど、不穏な展開になっても補い合う循と梨沙の最強コンビがなかなか強いので、それを跳ね除ける力強さがありますね。ミステリ要素もあったりでこのレーベルらしい魅力に溢れた作品でした。
30.君が、僕に教えてくれたこと (ことのは文庫)
君が、僕に教えてくれたこと
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水瀬さら/フライ マイクロマガジン社 2023年03月20日頃
これまで何人もの幽霊を助けてきた高校生・天。コンビニ前で出会ったセーラー服姿の幽霊・陽菜との運命的な出会いが、止まっていた時間を再び動かし始める青春小説。当初うんざりしていた天が陽菜に懇願される、コンビニでバイトをする姉を守って欲しいという願い。それをきっかけに彼女の姉・舞衣と交流する中で判明してゆく、それぞれが抱えている過去。消えかけながら数奇な運命を繋げた陽菜の心残りを何とか解決したいと奔走する不器用で真摯な天の想いもあって、過去だけでなくいつの間にか芽生えていた想いにも向き合ってゆく結末が、とても優しくて温かい物語でした。