先日、上の記事を読んで自分も夏に読みたい文庫を選んでみようと思い、15作品セレクトしてみました。この時期に読んでみると面白いかなと思った文庫です。夏の読書の参考になれば幸いです。
1.夏空白花 (ポプラ文庫)
昨日までの正義が否定され誰もが呆然とした終戦。未来を担う若者のために、戦争で失われた「高校野球大会」を復活させなければいけないと奔走する人々が描かれる物語。戦後の混乱期、GHQ占領下で思うようにままならない状況の中の中で始まった高校野球大会復活の動き。何のために復活させようとするのか、中心となって奔走する神住の複雑な想いや周囲の人たちの様々な想いも綴りながら、容易でない状況でも諦めない彼の熱意から意外な縁も繋がっていって、思わぬところから活路を見出し繋げてゆくてゆく熱い展開にはぐっと来るものがありました。
2.あめつちのうた (講談社文庫)
運動が苦手で家族に抱える鬱屈から逃げ出したい思いもあって、甲子園球場の整備を請け負う阪神園芸へと入社した雨宮大地。そんな彼が仕事や人々の出会いから変わってゆくスポーツ裏方小説。仕事もなかなか覚えられない大地に突っかかってくる、ケガでプロへの道を断念した同僚の長谷。それに同性愛者であることを周囲に隠す親友・一志や、重い病気を乗り越えて歌手を目指すビールの売り子・真夏と、同じく「選べなかった」運命に思い悩む仲間たちの葛藤を知り、自らも仕事や家族とも向き合いながらともに成長してゆく展開はなかなか良かったですね。
3.どこよりも遠い場所にいる君へ (集英社オレンジ文庫)
訳ありの過去もあり友人の幹也と采岐島のシマ高に進学した月ヶ瀬和希。そんな彼が初夏に神隠しの入江で倒れていた少女・七緒を発見するボーイミーツガール青春小説。過去からやって来た七緒と少しずつやりとりを重ねてゆく日々。何気なく過ごせていた高校生活の突然の暗転。明かされる過去の真相と、変わらず向き合ってくれる友人たちの存在、そして覚悟を決めた七緒。甘酸っぱく初々しかった出会いの結末には切なくなりましたけど、繋がって行く過去と未来、そして意外な形で届けられた真摯な思いは、かけがえのないとても素敵なものに思えました。
4.きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)
2025年の夏休み。双子の高校生・明日子と日々人は突然いとことの同居を父から告げられ、やって来た今日子が実は長い眠りから目覚めた三十年前の女子高生だったという物語。時代のギャップに戸惑いながら徐々に双子と打ち解けてゆく今日子の存在は、バラバラになっていた家族を繋ぐきっかけにもなって、過去との繋がりを感じるがゆえにもう取り戻せないことを痛感する彼女と、どうにもならない現実に直面した双子の対照的な選択、昔の想い人の回想がとても印象に残りました。懐かしい気持ちと切ない気持ちが入り混じる素敵なひと夏の物語ですね。
5.雲は湧き、光あふれて (集英社オレンジ文庫)
最後の甲子園を前に故障した屈指のスラッガー専用代走に指名される話/新人スポーツ記者と強豪校と対戦する弱小校のピッチャーの出会い/戦火が拡大する中で甲子園を目指す少年たちの話と、高校野球を題材とする中編三編。今の自分に自信を持てない主人公たちが野球への熱い想いに感化され、今やるべきことに奮闘する姿には心を動かさずにはいられません。いずれも良かったですが、個人的には新人新聞記者と弱小校ピッチャーの出会いを描いた「甲子園への道」が特に好きでした。読むと高校野球につい思いを馳せてしまう是非オススメしたい一冊です。
6.夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)
再婚の父に新しい母と弟。私だけが家族になりきれていない女子高生の美咲。そんな彼女が熱中する作家・三島加深のミステリツアーに招待され、家を出て三日間のツアーに飛び込むひと夏のクローズドサークル。「謎を解けば加深の未発表作を贈る」と誘われて集まり、不可解な消失や死体でお互い疑心暗鬼になってゆく参加者たち。解き明かされてゆく謎は未発表作に込められた真意にも繋がっていて、彼らと共に過ごしたとても印象的なひと夏の体験が、きちんと今の自分と向き合ってそれぞれの新しい一歩を踏み出す勇気へと繋がってゆく素敵な物語でした。
7.夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)
片田舎の劣悪な家庭環境に育ち将来に希望を抱けずにいた少年・日向が、身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子と運命の出会いを果たす壮絶で切ない最後の夏の物語。死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛けた弥子と、相続の条件として提示された古い盤上ゲーム・チェッカーを通じて心を通わせてゆく日向。絶望を抱えた二人が惹かれていけばいくほど、彼女の死に三億円の価値があることの意味が重くのしかかってきて、明かされてゆくそれぞれの秘密と葛藤の末に二人が選択した「正解」がとても印象的な物語でした。
8.死に至る恋は噓から始まる (新潮文庫nex)
高二の夏、教室で息を潜めて日々をやり過ごしていた宮下永遠の前に現れた転校生・長瀬刹那。傷だらけの嘘から、永遠と刹那の恋が始まる苦くて甘い恋と嘘の物語。交換条件で一週間だけ恋人になった、高慢で傍若無人な自称・人魚の美少女転校生・刹那と、心を閉ざし続ける傷だらけの永遠。正反対の二人が強烈に惹かれ合うようになっていくからこそ、暴かれてしまう隠されていた嘘。登場人物たちの印象をガラリと変えてゆく苦い過去の真相は何とも鮮烈でしたけど、改めて気付かされてしまう二人の命がけの恋の結末には切ないものを感じてしまいました。
9.僕といた夏を、君が忘れないように。 (メディアワークス文庫)
美大受験を控え沖縄の志嘉良島へと旅に出た高木海斗。どこか感情が抜け落ちた絵しか描けない、そんな自分の殻を破るための創作旅行で、一人の少女と運命の出会いを果たすひと夏のボーイミーツガール。自らの絵が人の目に触れることを忌避する海斗が出会った天真爛漫な少女・風乃。彼女に振り回されるかけがえのない日々と、島全体から感じられる不穏な雰囲気。海斗が変わるきっかけをくれた、全てを諦めかけていた彼女のことを放っておけるわけもなくて、最後まで諦めずにぶつけ合った想い、そんな二人が迎える結末にはぐっと来るものがありました。
10.あの夏、僕らに降った雪 (角川文庫)
高校2年の夏休み。年齢を偽って治験のバイトに潜り込んだ湊が深夜の病棟で出会った、無関心病を患う少女・莉子。そんな彼女とともに過ごしたひと夏の物語。母の影響で「お金は物に使う」スタンスで生きてきた湊と、興味があるものを全力で楽しもうとする余命一ヶ月の莉子が満喫する北海道の夏。彼女の闘病ドキュメンタリーに出演することになったり、突然興味を失う彼女の喪失感に直面したりもしましたけど、その真意に気づいて莉子の複雑な想いにしっかりと向き合い、寄り添って最後まで精一杯過ごした二人の日々がとても印象に残る作品でしたね。
11.砂時計のくれた恋する時間 (メディアワークス文庫)
親のいいなりに医師を目指す人生に嫌気がさした高校生の秀星。そんな彼のもとにこの夏、病気で死んでしまう少女・笹音から一緒に暮らすことを提案するメールが届く青春小説。徐々に身体が石化し、命を落とす不治の病「白砂病」。少しずつ症状に蝕まれながらも、ドライブをしたりドローンを飛ばしたり、かけがえのない日々を過ごす中で思いを積み重ねて、距離が狭まるほどに死が近付く二人の皮肉な恋。一緒に死ぬために出会ったはずだった二人が見出したかすかな希望、そして諦めずに奇跡を信じ続けた先にあった結末にはぐっと来るものがありました。
12.嘘つきな魔女と素直になれないわたしの物語 (集英社オレンジ文庫)
父親の浮気発覚による突然の両親の離婚。充実していた人生から一変した董子が、母親の地元である田舎で魔女を自称する金髪碧眼の少年・ハルと出会う青春小説。ご近所のほとんどが親類縁者で、携帯電話の電波もろくに入らない田舎への引っ越し。そこで出会った少年・ハルと解き明かす盗まれた卵、なくなったクッキー、赤い服の幽霊の謎。謎めいたハルとトーコが忘れてしまっていた八年前の真相。密かに村に危機が迫っていて、けれどそんな窮地を力を合わせて乗り越えて、二人で未来を切り開いてゆく姿がどこか微笑ましい、ひと夏の素敵な物語でした。
13.負けるための甲子園 (実業之日本社文庫)
甲子園決勝戦。失投からホームランを打たれ負けてしまった野球部のエース・筧啓人。不可解な失投を問いただしたキャッチャーの純平は、啓人に怪しげな店へ連れて行かれ意外な真相を知るファンタジー青春小説。閉じ込められていた怪しげな店で啓人を代償に自らを取り戻した和人。彼が今度は啓人を救うためにバッテリーを組む純平、やり手マネージャの美咲や仲間たちと再び甲子園出場を目指す展開で、時にはぶつかりながら仲間と一緒に頑張る中で育まれてゆく絆、葛藤する彼らがたどり着いたやはりこれしかないなと思えた結末にぐっと来る物語でした。
14.八月のリピート 僕は何度でもあの曲を弾く (宝島社文庫)
「最後のチャンス」と位置づけたピアノコンクール予選で落選した高校三年生の北沢鳴海。諦められない彼が時間を巻き戻すため、トリガーとなる音楽の神に愛された少女・神崎杏子と久しぶりに再会する青春小説。かつて才能の差を見せつけられたのに彼女にときめいてしまう鳴海が、そのたびに何度もやり直して距離を置いた過去と、再びピアノと彼女への想いに葛藤し続けたリピートの思わぬ結末。そして明かされてゆくもう一つの物語。託された真実を知った鳴海が大切な人のために、そして自らの想いや夢を取り戻すべく奔走するとても素敵な物語でした。
15.終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)
あらゆる感覚を五感に再現する端末・サードアイを手に入れたことで装いを変えた世界。そのきっかけとなりながらも二年前から眠り続ける幼馴染・結日を救うため、日々原周が仲間とともに立ち上がるひと夏の物語。サードアイの開発者で鍵を握る結日の姉・沙月の存在と、計画に手を貸す同級生・先崎との邂逅。打開する方法を模索するうちに見出したひとつの真相。立ち位置が変わっても何かを引き起こす彼女と、そんな彼女のために奔走する周という二人の関係は変わらなくて、可能性を信じて諦めず何度でもチャレンジし続ける周を応援したくなりました。
以上です。気になった作品があったらぜひ読んでみて下さい。