今回BOOK☆WALKERの方で2022年11月3日(木)~11月7日(月)まで光文社作品コイン+50%還元フェアが開催されています。
そこで今回は一部単行本も含めた光文社のおすすめ作品を30点セレクトしました。気になる作品があったらぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
舟を編む(光文社文庫)
玄武書房の辞書編集部に迎えられた馬締が、部署の離れる人たちの思いも受け継ぎながら、十年以上の歳月を掛け執念で辞書を作り上げていく物語。これは一つの辞書を作り上げる困難と同時に、ちょっと変わっていてなかなか周囲に受け入れられることのなかった馬締が、巡り合わせで自らが生きる場所を得て恋をしたり、周囲の人に影響を与えずにいられない人物に成長する過程を描いたお話でもあるんですよね。幾多の困難がありながら、最後まで諦めずに完成させたその姿には感じることも多かったです。巻末掲載された馬締の恋文には驚愕でした(苦笑)
東京すみっこごはん(光文社文庫)
商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋で行われる、年齢も職業も異なる人々が集まって手作り料理を共に食べる共同台所「すみっこごはん」を舞台にした連作短編集。クラスで過酷な嫌がらせを受ける女子高生・楓や、アラサーなOL・奈央といった様々な悩みを抱えている登場人物たちが、くじで当番が決まる料理に試行錯誤したり、一緒にご飯を食べてゆく中でのやりとりに助けられたり、癒されて前を向けるようになっていったり、その成立を探るうちに意外な繋がりや想いも判明して、じんわりと温かい気持ちになれる物語だと思いました。続刊も楽しみです。
黒猫の小夜曲(光文社文庫)
「優しい死神の飼い方」のレオの同僚が黒猫の姿で地上に派遣されることになり、昏睡状態の女性に入った記憶喪失の魂とともに街の魂を救ってゆくうちに、とある研究を巡る事件に巻き込まれてゆくシリーズ第二弾。クロと記憶喪失の魂だった麻矢とのコンビはどこかレオと菜穂を思わせる関係で、お話自体も前作とリンクしていますが、新たな構図が見えるたびに二転三転する連続殺人事件の捜査は、事件に関わった憂いを残す関係者たちの心を癒していくことにも繋がっていました。優しいけれど切ない結末でしたが続巻を楽しみにしています。
花菱夫妻の退魔帖(光文社キャラクター文庫)
とある事情から浅草出身で怪談蒐集を趣味とする侯爵令嬢の瀧川鈴子。室辻子爵邸に呼ばれて芸妓の悪霊を目撃した際、謎めいた男爵・花菱孝冬に出会う大正ロマンファンタジー。十二単を纏う謎の霊「淡路の君」を使い、悪霊を食わせた孝冬を気味悪く思った鈴子が、なぜかその孝冬に求婚されて二人で一緒に挑む霊を巡る事件。明らかになってゆく花菱男爵の事情や鈴子が怪談蒐集をする理由があって、お互いを知ってゆくことで少しずつ距離感が変わってゆくからこそ苦悩する展開はなかなか良かったです。鈴子の家族もいい感じに存在感があって続巻に期待。
マッサゲタイの戦女王
紀元前600年前後の古代オリエントを舞台に、四大帝国時代の終焉と戦乱の時代を生きたマッサゲタイ女王・タハーミラィの数奇な運命を描く歴史小説。マッサゲタイ族に生まれて、初恋の相手によって部族の王カーリアフの側妃とされたタハーミラィ。希望を見出だせなかった境遇から、ファールース王クルシュとの運命的な出会い、そこから過酷な状況を夫と共に生き抜いて立場を自覚するようになってゆく彼女の覚悟、そして意外な半生を送った従兄のその後も印象的で、ロマン溢れる筆致で描いてみせた壮大な物語の結末にはぐっと来るものがありました。
競歩王(光文社文庫)
天才高校生作家と持て囃されてデビューしながら、その後は燻っていた大学生・榛名忍。競歩のリオ五輪ハイライト番組を見て号泣する八千代と出会い競歩という競技にのめり込んでゆくスポーツ小説。最初は気乗りしないまま始めた競歩の取材。そんな忍に不機嫌を隠そうともしない八千代を追ううちに自らの苦悩も重ねて、ライバルたちと競い東京五輪を目指す八千代の苦闘のめり込んでゆく展開はとても重く苦しかったですが、それでも向き合い続けてきたからこそ見えたもの乗り越えられたこともあって、そんな彼らの結末にはぐっとくるものがありました。
虎を追う(光文社文庫)
30年前に起きた連続幼女殺人事件。刑事を引退した後もこの事件には真犯人がいるのではとずっと感じていた星野誠司が、孫である大学生の旭とその友人・哲に協力を仰いで事件を再び追う物語。孫たちの協力も得てSNSや動画投稿サイトも駆使し冤罪事件の真相解明を目指す星野班。そしてそんな彼らの活動に反応する真犯人「虎」。遺族など関係者への配慮や世論を巻き込んで事態を動かしていく手法の是非は難しいものがありますが、それでも緊張感のある展開はなかなか読ませるものがあって、物語を締めくくるエピローグにまたゾッとさせられました。
月夜に溺れる(光文社文庫)
バツ2で二児の母親でありながら、横浜、川崎の歓楽街で起こる色と欲にまみれた犯罪者を取り締まる神奈川県警生活安全部のエース・真下霧生。捜査能力と推理力(と美貌)を駆使し真犯人を追いつめる推理警察小説。神奈川県警本部の将来を担う二人の警察官が前夫、それぞれの子供がいて扱いに困る存在という魅力的で異色の主人公でしたけど、脇が甘く惚れた相手が被疑者になったり「またお前か!」と首を突っ込んだ案件が大きな事件に繋がってゆく中、その冷静で鋭い着眼点と人情味溢れる熱い想いで事件を解決してゆく展開はなかなか面白かったです。
帝国の女(光文社文庫)
世間の認識とは裏腹に華やかさから程遠い、帝国テレビジョンで働く女たちの日々。好きな仕事だけれどままならないことばかりの五人の女性たちが描かれる連作短編集。過労寸前まで奮闘する宣伝部・松国、仕事以外はまるでダメなプロデューサー・脇坂、年下の夫との倦怠に沈む脚本家・大島、訳ありマネージャー・片倉、憧れの人と出会う日を夢見るテレビ誌記者・山浦。それぞれの仕事に取り組む真摯な姿と、一方でプライベートは思うようにいかない苦悩はとても印象的で、ページ数以上に濃密なストーリーと彼女たちの切なる叫びが心に響く物語でした。
ストロベリーナイト(光文社文庫)
溜め池近くの植え込みから、ビニールシートに包まれた男の惨殺死体が発見された! 警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子は、これが単独の殺人事件で終わらないことに気づく。捜査で浮上した謎の言葉「ストロベリーナイト」が意味するものは? クセ者揃いの刑事たちとともに悪戦苦闘の末、辿り着いたのは、あまりにも衝撃的な事実だった。超人気・警部補 姫川玲子シリーズ第一弾。
十六年前の地震で温泉が涸れ衰退する一方の岐阜県宝幢村。地震で家族を亡くし、伯父夫婦の介護に明け暮れる日々を送る希子が、村で起きた事故死を巡る騒動に巻き込まれてゆくミステリ。典型的な狭い村社会での生き方を当たり前と思う伯父夫婦や村役場の婚約者・竜哉。働き始めた希子が、雇われブロガーの死にから広がる不審点を不気味な隣家長谷川家の長男・耀とともに探る展開でしたけど、真相を掘り起こしてみたらとんでもないものが出てきましたね(苦笑)旧弊に縛られる村と決別し、新たな可能性を見出した彼女たちの姿が印象に残る結末でした。
境内ではお静かに~縁結び神社の事件帖~(光文社文庫)
とある事情から大学を中退して人生に迷う坂本壮馬が、兄が神職をつとめる横浜・元町の源神社で働くことになり、参拝者の前以外では笑わないどこか謎めいた美少女巫女の久遠雫と出会うミステリ。神社での心霊現象、子供まつり中止を求める脅迫状、神社移転を嫌がる理由、就職活動を邪魔する存在、そして雫が源神社で働く理由といった謎を解いていく連作短編集で、クールな雫を探偵役に誰かのために奔走する壮馬がいいフォロー役で、終盤はなかなか劇的な展開でしたけど、少しずつ変わってゆく二人の距離感がどうなるのか是非続きが読んでみたいです。
凜の弦音(光文社文庫)
中学時代から真摯にひたすら弓道に打ち込んできた高校一年生の少女・篠崎凜が、いつの間にかネットで『天才弓道美少女』と評判になってゆく青春小説。引退した中学時代の恩師の家で起きた殺人事件、同級生が部活を辞める理由、借りた竹弓がなぜなくなったのか、新顧問の指導方針、ライバル登場と弦が切れた理由、そしてTV出演のライバルとの対決など、何かあるたびに巻き込まれて葛藤する真面目な主人公でしたけど、それでも周囲に助けられながらしっかりと向き合い謎を解き明かして見せるその愚直でひたむきな姿勢がなかなか印象的な物語でした。
ベンチウォーマーズ(光文社文庫)
選ばれた者は受験に失敗すると言われる高校行事の対抗駅伝、通称「落伝」。今年クジ引きで選ばれた5人が、意地と本気を見せる青春小説。バレー部のエースだったがケガでリハビリ中の朔。厳格な父親に反対されながらもバスケが好きな康太。自分が嫌いすぎて内面を隠す女子マネージャー伊織。言い訳ばかりで自分に甘いちょっぴりおデブな勇樹。家庭の事情によりアルバイトで練習時間が少ない恭子。接点もなくバラバラだった5人がそれぞれの事情を知って、助け合って絆を育みながら落伝に向けひとつになってゆく展開にはぐっと来るものがありました。
プラットホームの彼女 (光文社文庫)
転校前に親友と喧嘩してしまった少年、地味な高校生の意外な一面に心穏やかでいられない少女、事故で娘を失った傷心の母親など、様々な想いを抱える人が駅で出会う一人の少女の連作短編集。逡巡して踏み出せない決心や消化しきれない悔恨を抱える人たちの前に現れ、その背中を押したりわだかまりを解消するきっかけを与えて大切なことを思い出させてくれる少女。物語を重ねてゆくうちにその素性や背景も徐々に明らかになっていって、途中で想像していたものとは少し異なるやや意外な結末を迎えましたけど、切ないながらも心温まる素敵な物語でした。
レジまでの推理: 本屋さんの名探偵 (光文社文庫)
船橋にある書店を舞台にお店のお客さんが持ち込んだり書店で起こるミステリを店員たちが解いていく連作短編集。ポップ作りに精を出し、忙しい時期にはなぜかいなくなるのに謎はしっかり解いてみせる店長と、頼もしい個性的なアルバイトたちによって繰り広げられる物語は、書店あるあるを交えつつ現状の問題点にも触れた構成だったりでとても面白かったです。最終話は一瞬あれれ?と思う展開でしたが最後まで読むと納得。あの仕事量から推察するに普通の店長以上に相当忙しいんでしょうね。カリスマ書店員になると大変そうだなあと思いました(苦笑)
少女ノイズ(光文社文庫)
殺人現場を撮影することが趣味の大学生スカと、両親を繋ぎ止めるために理想的な優等生を演じ続ける孤独な女子高生瞑。進学塾の屋上で出会った二人が恐ろしくも哀しい事件の真実を見つめるミステリ。身の回りで起こる事件を解決する過程で描かれる不器用な二人の恋愛模様。解説で有川浩がミステリの皮を被ったキャラ小説だと指摘していましたが、予備校での出会いから始まって、繊細に積み重ねてゆく二人の距離感でのやりとりがこの話のツボで、ツンデレが過ぎてしまうあまりなかなか素直になれない瞑の言動についニヤニヤしてしまう一冊ですね(笑)
すずらん通り ベルサイユ書房(光文社文庫)
神保町すずらん通りの「ベルサイユ書房」にアルバイトで入った作家志望の日比谷研介が、男装の麗人店長剣崎やカリスマポップ職人の美月といった濃いメンバーとともに次々と事件に巻き込まれていく書店ミステリ。美月の書くポップの影響力の大きさや、人間観察などから導き出される彼女の洞察力の凄まじさを感じながら読んでいましたが、そんな場所だからこそ事件の方も引き寄せられていくのかもしれないですね。終盤ではそんな美月さんの意外な一面も見れたりしてなかなか楽しかったです。
俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない(光文社文庫)
俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない
posted with ヨメレバ
水沢秋生 光文社 2021年02月09日
「俺」はいったい誰なんだ?目覚めるたびに別人に成り代わる。そんな状況で目にした「カップル連続惨殺犯」の文字に強い衝撃を受けるミステリ。年齢も性別もバラバラで、脈絡があるのかどうかもわからないまま、別人の視点から体験してゆく様々な出来事。そして不可解な現象が続く中で見えてくる連続惨殺事件との関わり。自分は一体何者なのか、そしてこの状況で何をすべきなのか。試行錯誤を繰り返す中で問い続けた主人公が、見逃してはいけなかった大切なことを見出し、きちんと向き合おうとする姿がとても印象的な物語でしたね。面白かったです。
春や春 (光文社文庫)
俳句雑誌で昔知っていた男の子の名前を発見し、俳句の価値を主張して国語教師と対立した茜。友人の東子にそんな顛末を話すうち俳句甲子園出場を目指すことになってゆく青春小説。個性的な初心者の新入生三人も加えつつ立ち上げた俳句同好会。顧問などの協力を得ながら俳句の基本に取り組んだり、抽象的な俳句を数値化する俳句甲子園の独特なルールに向き合ったり気になる人間関係も織り交ぜつつ、豊かな言葉を駆使しながらチームとして戦う展開はなかなか新鮮でした。有望な新入生も入学したりと続巻に期待したい作品です。
避雷針の夏 (光文社文庫)
「よそものは、死ぬまでよそもの」それがこの町のルール。旧弊甚だしい閉ざされた小さな町で、夏祭りを前に町役場のガーゴイル像が破壊されたことをきっかけに始まる崩壊。田舎町を舞台にした物語でしたが、誰もがどこかで道を違えたことを自覚しながら目をそらし、修復不可能なまでに溜まる鬱屈。簡単には覆せない狭い世界での数の圧力。井戸端会議やSNSなどで些細な噂がいつのまにか事実になってしまうようなことはどこにでもありうることで、その生々しい描写にハッとさせられることも多かったです。少女たちの家族、やり直せるといいですね。
世界が赫に染まる日に(光文社文庫)
従兄妹の未来を奪った加害者へ密かに復讐を誓う中学生の櫂が、15歳の誕生日に自殺する計画を立てる同い年の文稀と出会い、文稀が死ぬまでは復讐に協力する契約を結ぶ物語。被害者の消えない傷の大きさに比して、加害者の意識の希薄さや未成年として保護されるがゆえの罪の軽さには理不尽さを感じてしまいますが、ではそれを私的に裁いていいのかと言われると…転機があれば櫂のように逡巡するようになるのは当然だし、一人になっても突き進まんでしまう文稀を取り巻く境遇の悲惨さには、どうにもやりきれないものを思わずにはいられませんでした。
輝け!浪華女子大駅伝部(光文社文庫)
マラソンの世界陸上の出場権を逃した後、女子大の親切駅伝部の監督オファーを受けて引退することになった千吉良朱里。五人の部員と三年目の全国大会出場を目標に奮闘する青春小説。部活新設で文字通りゼロからのスタートで、選手集めから苦労したり、始めたばかりの指導者生活がなかなか思うようにいかない中で、周囲の助けを得たりして、地道な積み重ねが選手たちの成長に繋がってゆくのを実感できる展開はいいですよね。何が起こるかわからないレース当日もまたなかなかグッと来る展開で、朱里と教え子たちのその後をまた読んでみたくなりました。
マンガハウス!(光文社文庫)
超人気漫画を突如休載した神野拓が指導する新人育成プロジェクト。そこにワケありの三人が集まってぶつかり合いながら切磋琢磨の共同生活を送るお仕事小説。再デビューを目指すが伸び悩む滝川あさひ、会社を辞めて漫画家を志す林一樹、絵は下手だが発想力は人一倍の星塚未来。そして指導役の神野が悩む親子関係と彼が突如休載した真相。それぞれが深い悩みや戸惑いを抱え、身近に競い合う存在がいるとどうしても避けられない嫉妬や悪魔の声に苛まれながら、それでも逃げずに向き合い自らの答えを出してゆく彼らの姿には共感できるものがありました。
しあわせ、探して(光文社文庫)
夫・康生の転勤に従って絵本の出版社を退職し、大分で暮らす真子。夫ともに理想の家族を作りたいと思っていた彼女が、ある日男子高校生・高木に声を掛けられる巡り会いと再生の物語。優しい親となり、子どもを待ち望んでいたはずだった真子が秘めている矛盾した思い。彼女が出会い様々なことを話すようになった高校生高木との時間。彼女がずっと抱えていた複雑な想いは、様々な人たちとの出会いからその形を明確にしていって、だからこそしっかりと向き合って、それまでの葛藤を乗り越えてみせたその結末はとても優しくて心に響くものがありました。
彼女は死んでも治らない(光文社文庫)
いつも殺されがちな最高に可愛い幼馴染の沙紀。普通じゃないレベルで彼女のことが好きな女子高生・神野羊子が得意の推理を巡らせるハイテンションコージーミステリ。沙紀を殺した犯人を羊子が見つけ出すと、犯人を身代わりになぜか彼女が生き返る歪な関係、そんな羊子と一緒にいてサポートする昇の存在。のんびり屋なのに核心を突く乃亜や、正義感あふれる拝み屋女子高生・楓との出会いは羊子たちの関係に変化をもたらして、あの斜め上のカオスな展開から始まったこの物語を、伏線や真相を絡めつつすっきりとまとめ上げてみせた結末はお見事でした。
Y田A子に世界は難しい(光文社文庫)
訳アリで自我を宿したAI内蔵人型ロボットとして生まれ、和久井秋彦に救われて彼の家に居候することになった瑛子。そんな彼女が家族の勧めで高校に入学する青春AI家族小説。作った人の趣味もあって見た目は人間らしくても、描かれるティテールに彼女はロボットなんだなと感じさせられましたが、最初友達を作ろうとして空回りする姿がヤバいなと思った瑛子が、アルバイトや部活動に挑戦したり、友人の家族問題に巻き込まれていく中で、大切な友人や家族たちに認めれられ、将来に希望を見出すようになってゆく結末にはぐっと来るものがありました。
忘れ物が届きます(光文社文庫)
家の主人が語る小学生の頃の事件や、高校の卒業式の日に語られる高校入試直前の事件、別れることになった同棲カップルが最後に明かす一つの嘘、存在感のないお隣さんが昔窮地を救ってくれた真相、何でも代行業の社員が訪れて聞く昔依頼人の兄の婚約者が消えた真相といった過去の謎が判明する連作短編集。時効といった頃合いにふとしたきっかけから明かされてゆく心残りだった過去の真相。その多くが複雑だけれど相手を想う気持ちに溢れた優しさから生まれた事件だったり謎だったりで、いずれも感傷的な想いを感じつつも悪くない読後感の物語でした。
食いしんぼう魔女の優しい時間(光文社キャラクター文庫)
見た目は二十代だけど実年齢は三百歳の魔女・黒木理沙。そんな優しい魔女は長い人生を楽しみながら、住んでいる街の困った人を助けてゆく連作短編集。三百年余りの人生で、得意になったことと言えばお料理と人助け。魔女ばれしないように解決するのは大変だけれど、大好きな街の誰かのためにと意気込む彼女が出会う、一人で不安そうにしている女子学生や古くから因縁ある隣家とトラブルに悩む中学生、魔法を感じ取ることができる中学生。この街に長く住んでいる優しい理沙と美味しそうな料理も絡めながらの住人たちとの日常がなかなか良かったです。
カトリングガール~虫好きな女子って変ですか?~(光文社キャラクター文庫)
可愛いもの好きで虫嫌いの新人東京都職員の三好幸紀。出向することになった国立感染症研究所の研修で、見た目美少女なのに虫が大好きな昆虫学者・香取理緒の指導を受けることになる物語。人付き合いが苦手で虫大好きな理緒に戸惑いながらも、時折無防備な姿にドキドキしたり、研修で一緒に公園調査に行ったりする二人。正反対で一緒にいることにぎこちなかった二人が、殺傷力の高い鳥マラリアに脅かされるペンギンを救うために奔走するうちに、共感できる理解者を見つけたようなもう少し時間がかかりそうな、もどかしい距離感が微笑ましかったです。