先日の作った年末年始に読んだ文芸単行本企画 第二弾は文庫本編です。
できるだけ発売日に近いタイミングで読もうとは思っているんですが、これだけ読みたい本が多いとなかなか難しいのが現状ですね…(苦笑)でも今回紹介するのはどれもオススメできる一冊です。読みたい本を探す時の参考になれば幸いです。
1.君が最後に遺した歌 (メディアワークス文庫)
田舎町で祖父母と三人暮らしで、詩作を唯一の趣味に平凡な生活を送り、堅実な将来を目指していた水嶋春人。その秘かな趣味を知った同級生・遠坂綾音から一緒に歌を作るように誘われ、その人生が変わり始める青春小説。歌詞が書けない事情を抱える綾音に代わり自分が書く関係。共に時を過ごし想いを積み重ねて彼女が歌う姿に惹かれてゆく春人。綾音の夢を叶えるために背中を押す春人の決意は切なくて、けれど離れ離れになっても変わらない思いがあって、そんな二人が過ごしたかけがえのない日々と、ちょっと粋な結末にはぐっと来るものがありました。
2.あの夏、僕らに降った雪 (角川文庫)
高校2年の夏休み。年齢を偽って治験のバイトに潜り込んだ湊が深夜の病棟で出会った、無関心病を患う少女・莉子。そんな彼女とともに過ごしたひと夏の物語。母の影響で「お金は物に使う」スタンスで生きてきた湊と、興味があるものを全力で楽しもうとする余命一ヶ月の莉子が満喫する北海道の夏。彼女の闘病ドキュメンタリーに出演することになったり、突然興味を失う彼女の喪失感に直面したりもしましたけど、その真意に気づいて莉子の複雑な想いにしっかりと向き合い、寄り添って最後まで精一杯過ごした二人の日々がとても印象に残る作品でしたね。
3.星辰の裔 (集英社オレンジ文庫)
薬師だった父の志を継ぎ、大陸からの先進知識が集まる町を目指して旅する少女アサ。その途中で馬賊と呼ぶ大陸からの侵略者・辰の奴婢狩りに遭い、捕まってしまったアサが皇王の次男・季晨と運命の出会いを果たすファンタジー。宦官と勘違いされ皇女の側で働くアサが巻き込まれてゆく朝児に対する根強い差別と辰の後継者争い。薬師として生きたいと願うアサの願い、それを理解してくれる季晨との出会いと惹かれてゆく想いがあって、数奇な運命が激動の展開に繋がりましたけど、乗り越えた先の信念と想いの末に導き出された結末が印象的な物語でした。
4.クローゼット (新潮文庫)
男なのに女性服が好きというだけで傷つけられた過去を持つ芳と、幼い頃のある事件のせいで男性恐怖症を抱えていた纏子。服飾美術館を舞台に洋服の傷みと心の傷みにそっと寄り添うお仕事小説。芳が働くデパートでの特別展示を機に出会った服飾美術館の洋服補修士・纏子。芳は機会あって訪れた服飾美術館でめくるめく服の奥深い世界に魅せられて、美術館の中で働く人たちの雰囲気もなかなか興味深くて、それぞれの過去が繋がってしっかりと向き合い、服だけでなく心もまた少しずつ補修されて、新たな一歩踏み出す展開にはぐっと来るものがありました。
5.忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む (集英社オレンジ文庫)
恩人パオロが倒れたという知らせで故郷フィレンツェに戻ったガブリエーレ。彼が倒れた原因を探るため、秘密にしていた闇の世界にかかわる仕事を追いかけ始める物語。幼い頃から見えていた黒いもやに追いかけられる過程で出会ったパオロの相棒だったダンピール・かっぱ。ともに過ごす中で彼らの関係も明らかになっていって、だいぶ様相も変わっていきましたけど、突きつけられるダンピールの宿命と悲哀がまた切なくて、それを知ったガブリエーレがかっぱとこれからどう向き合っていくのか、とても気になる結末だったのでシリーズ化に期待したいですね。
6.冬の朝、そっと担任を突き落とす (新潮文庫)
校舎の窓から飛び降りた担任教師。遺書は残されていなかった。奇妙な平穏が続いた理系特進クラスに転校生・中西美紀がやってきたことで、教室の贖罪が始まる青春ミステリ。学校側が否定する担任の自殺の原因はこのクラス全員が知っている。死の真相を探り始める美紀が、そしてその後を引き継いだ田嶋春が、目をそらしていたクラスメイトたちに投げかけた波紋。すれ違いの連続が悪意なき残酷さを生んで、その積み重ねによって事態の様相もガラリと構図を変えていって、全てが繋がった末に提示されるその結末にゾクリとさせられる印象的な物語でした。
7.文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
高校2年生の文学少女・陸秋槎が自作の推理小説をきっかけに出会った、孤高の天才数学少女・韓采蘆。ふたりが邂逅する様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく連作短編ミステリ。作者の秋槎も予想だにしない真相を導き出してみせた采蘆。人間関係の描写自体はやや硬い印象で各話の物語の締め方がやや独特な感じもありましたけど、実際に起きた事件や作中作の犯人当てを、彼女とともに数学的思考もうまく絡めながら解き明かしてゆく展開で、推理小説の謎を解き明かす思考過程や様々な可能性を提示してみせてくれたなかなか興味深い一冊でした。
8.君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と無愛想な支配人 (集英社オレンジ文庫)
君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と無愛想な支配人
posted with ヨメレバ
山口 幸三郎/鈴木 康士 集英社 2020年11月20日
一晩眠ると消し去りたいと願う記憶が消える部屋があるという噂の湖畔のペンション「レテ」。そこに噂を聞きつけた人々がやってくる連作短編集。寡黙なオーナーの遠野愛文としっかりものの少女・多希、常連客で女流ミステリー作家の丸川千歳。離婚した幼馴染、姉に劣等感を抱く妹、ペットの死を悔やむ少女、明らかになってゆく愛文の過去、そして引き継いだ記憶の結末。確かな愛があったからこそ苦しむそれぞれのエピソードは読んでいて切なくなりましたが、けれどその先に再び紡がれてゆく関係には新たな希望が感じられるとても優しい物語でしたね。
9.乙女椿と横濱オペラ (集英社オレンジ文庫)
明治末期の横濱。まことの恋に憧れる女学生・紅の周りに怪異が起こり、父親の長屋に住みついている青年絵師・時川草介と事件を解決する怪異譚。男爵屋敷の椿によって神隠しにあった紅の許嫁の真相、さまよう女学生の亡霊、古き狗神の祟り。新聞記者の兄の助けも借りながら、怪異を見ることができる草介と好奇心旺盛な紅の二人で事件の真相を調べる展開で、一見ぐうたらに見える草介が抱える訳ありの過去と、そんな彼をいろいろ言いながらも世話を焼く紅の腐れ縁的な関係がなかなか良かったです。草介はもしかしてあの絵師さんの子供なんですかね…?
10.失恋の準備をお願いします (講談社タイガ)
告白を断るため、魔法使いだと嘘をついてしまった女子高生。フリたい私とめげない彼。恋と嘘とが絡みあい、やがて大きな渦となってゆく連作短編集。上京間近で告白されて遠距離恋愛を迷う女子高生、モテすぎて困る男子高生、彼の浮気を疑う彼女、ブラック企業のサラリーマンの恋、盗み癖がなおらない女の子と彼女が気になる小学生。やたらと濃い登場人物たちが日の下町で繰り広げてゆく数々の事件は、意外なところで繋がり絡み合ってかなりカオスな展開でしたけど、そこから伏線が繋がっていい感じにまとまっていく結末はなかなかいい感じでしたね。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。