年末年始は今まで読めなかった本を読むチャンスで、そこでわりとたくさんの単行本を読みました。読んでみたらどれも思っていたよりも面白かったので、そのおすすめ10作品を今回紹介したいと思います。どれもなかなか印象的な作品だったので好みに合えば楽しめるはずです。
1.ぼくもだよ。 神楽坂の奇跡の木曜日
「人は食べたものと、読んだものでできている」盲目の書評家のよう子と、路地裏でひとり古書店を営む本間。それぞれが見つけた本が繋ぐ奇跡の物語。神楽坂に盲導犬と住み、出版社の担当・希子と隔週木曜日の打ち合わせが楽しみなよう子。神楽坂の路地裏で古書店を経営し、五歳になる息子のふうちゃんと週に一度会えるのが楽しみなバツイチの本間。点字や本を巡るそれぞれの事情も興味深かったですが、よう子の書いた小説をきっかけに物語の構図がガラリと変わっていって、奇跡のように繋がってゆく過去と未来への期待感がとても印象的な物語でした。
2.どうしてわたしはあの子じゃないの
閉塞的な家や村から逃げだし、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天。ある日中学時代の友人のミナから連絡をもらい、藤生を含めた幼馴染三人で久しぶりに再会する物語。強権的な両親に押さえつけられて早く家を出たいと思っていた天、そんな彼女を気にかける藤生の複雑な想い、天と一緒にいて自分というものを持っていないことを痛感していたミナ。それぞれが満たされない想いを抱えていて、自分は自分でしかなくて、大人になって変わったこともあるけれど、けれど変わらないものは変わらない三人のそれぞれのありようが印象的な物語でした。
3.ストーリーテラーのいる洋菓子店 月と私と甘い寓話
様々な悩みを抱えて店を訪れた人たちを、ストーリーテラー語部の語る物語と美しいシェフ・糖子の作る極上のお菓子で心解きほぐしてゆく心に甘く優しく沁みわたる連作短編集。ぱっとしないフリーター、突如休暇を宣言した専業主婦、素直になれなかった少年の呪い、ケーキを買いに行けないシャイな中年男性、糖子の妹・麦の片思い、語部の過去、そして店が生まれ変わるきっかけとなった二人の出会い。ひとつひとつのエピソードも良かったですけど、何より語部の真摯な想いと彼に感化され変わってゆく糖子の不器用で甘い関係がとても素敵な物語でした。
4.それをAIと呼ぶのは無理がある
AIが常に寄り添いサポートする時代。生まれた時からAIに囲まれて育ってきた主人公たちの計算不能な現実の恋や夢を描く近未来青春連作短編。AIに不毛な恋愛相談をする浩太、不登校の幼馴染さくらを心配する裕彦が渡されたもの、かなでが自らのAIを世界一可愛くするために必要だったこと、通学し始めたさくらが痛感するリアル、そして小春に藤次がAI初期化を依頼した理由。AIに対する距離感やリアルな人間関係に自信を持てない戸惑いなど、時代が変わってもその本質は変わらない繊細で瑞々しいエピソードにはぐっと来るものがありました。
5.朝焼けにファンファーレ
それぞれの想いを胸に秘めて、法律のプロを目指す司法修習生たち。理想と現実に悩みながら進む彼らを描いたリーガル青春小説。法律事務所での仕事をそつなくこなす藤掛、真っ直ぐだけれど不器用な松枝、予備試験経由で司法試験に合格した異例の19歳・柳、戸惑いながらも懸命に取り組む長野。藤掛の周囲をフォローできる洞察力や、柳のポテンシャルはインパクトがありましたけど、そうでない不器用な修習生たちもそれぞれ頑張っていて、法律家の卵として真摯に向き合おうとする彼らの姿勢、それを見守る先輩たちの想いがとても心に響く物語でした。
6.マッサゲタイの戦女王
紀元前600年前後の古代オリエントを舞台に、四大帝国時代の終焉と戦乱の時代を生きたマッサゲタイ女王・タハーミラィの数奇な運命を描く歴史小説。マッサゲタイ族に生まれて、初恋の相手によって部族の王カーリアフの側妃とされたタハーミラィ。希望を見出だせなかった境遇から、ファールース王クルシュとの運命的な出会い、そこから過酷な状況を夫と共に生き抜いて立場を自覚するようになってゆく彼女の覚悟、そして意外な半生を送った従兄のその後も印象的で、ロマン溢れる筆致で描いてみせた壮大な物語の結末にはぐっと来るものがありました。
7.ラストは初めから決まっていた
失恋で辛い思いを抱える堂島ことりが、大学の創作ゼミで出された「自分の体験した恋愛」をテーマとした小説を書き上げる課題。そこで失恋相手の親友・涼介と小説交換相手となる恋愛小説。突然授業に参加することになった涼介に複雑な想いを隠せないことり。けれど涼介の書く小説に魅せられ、自らの失恋を小説にして少しずつ変わってゆく心境、そして小説を通して明らかになる過去の真相。涼介の真摯で真っ直ぐな想いにことりも感化されて、小説のやりとりから少しずつ思いも育まれていって、そんな二人が迎えた結末にはぐっと来るものがありました。
8.いつの空にも星が出ていた
物静かな高校の先生が連れて行ってくれたスタジアムの思い出。予備校に通う女子高生と青年の出会い。家業の電気店を継いだ若者の好きなもの。洋食店のシェフの父で応援団長だった祖父と初めて出会う少年野球でピッチャーの息子。ベイスターズを愛する登場人物たちの連作短編集。そのまんま全てホエールズ、ベイスターズを巡るエピソードで綴られる構成で、自分はファンではなかったですけど当時は父親の影響でよく観てましたし、低迷期とか関係なく応援し続ける複雑な気持ちとか、それでも心から好きなんだと思う気持ちが心に響くそんな物語でした。
9.白き女神の肖像
妻ディアーナをモデルに描いた『東方ノ女神』で一躍時代の寵児となった画家ショーン。しかし奇妙なことを訴えるようになっていた妻が亡くなってしまう描くことに取り憑かれた画家をめぐる美と狂気幻想譚。まるで絵に存在を吸い取られるかのように次第に衰えていったディアーナ。その後モデルとなったローズマリーもまた異常なほど憔悴していく理由の推測は提示されましたけど、取り憑かれたように絵を描き続けるショーンは、一方で愛する人への配慮がどこか欠落していて、だからこそミシェルの決断やヨハネスとマデラインの関係が印象に残りました。
10.透明な耳。
都立高校に通いダンス部では中心的存在の原田由香。しかし帰宅途中に接触事故に遭い、その外傷が原因で感音性難聴となってしまい、耳が聞こえなくなってしまう葛藤と再生の青春群像劇。絶望し友達や恋人と連絡も取れなくなってふさぎ込み、家族の関係もぎくしゃくしてしまう由香。当たり前だったはずの日常を全て失ってしまう絶望感は半端なかったですが、こういう時必要なのは寄り添ってくれる理解者と、これからの未来に向き合う勇気なんですよね。苦しい状況を乗り越えて夢に向かってチャレンジする由香たちの姿にはぐっと来るものがありました。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。