2020年下半期注目のオススメ新作企画「ライトノベル」「ライト文芸」に続く第三弾ということで「一般文庫」レーベル編です。今回上半期のオススメ作品ということで一般文庫レーベルから30作品選びました。今年は文芸単行本から面白い作品が多数文庫化されています。また6月刊のものが上半期中に読み終わらなかったため、何点か入ってますが、それは7月以降に読んだおすすめしたい本ということで予めご了承下さい。
なお今回は「文芸単行本」と年間ベストに関して年越しとなってしまいました。年明け更新しますのでしばしお待ち下さい。
【参考】
1.崩れる脳を抱きしめて (実業之日本社文庫)
広島から神奈川の病院に実習に来て、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会い次第に心を通わせてゆく研修医の碓氷。実習を終え広島に帰った彼の元にユカリの死の知らせが届くが、その死に疑問を抱く青春ミステリ。過去に縛られていた碓氷が、解消してくれたユカリに惹かれるも果たせず終わった結末。その死に感じた違和感をそのままにできず、神奈川に飛びユカリの足跡を追う碓氷。ミステリとしての構図はさほど意外なものではなかったですけれど、読みやすくテンポよく進む展開と最後にたどり着いた結末は、その真摯な想いが報われた素敵な読後感でした。
2.君を描けば嘘になる (角川文庫)
寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。
3.クローゼット (新潮文庫)
男なのに女性服が好きというだけで傷つけられた過去を持つ芳と、幼い頃のある事件のせいで男性恐怖症を抱えていた纏子。服飾美術館を舞台に洋服の傷みと心の傷みにそっと寄り添うお仕事小説。芳が働くデパートでの特別展示を機に出会った服飾美術館の洋服補修士・纏子。芳は機会あって訪れた服飾美術館でめくるめく服の奥深い世界に魅せられて、美術館の中で働く人たちの雰囲気もなかなか興味深くて、それぞれの過去が繋がってしっかりと向き合い、服だけでなく心もまた少しずつ補修されて、新たな一歩踏み出す展開にはぐっと来るものがありました。
4.17歳のラリー (角川文庫)
十七歳の春。突如明かされた三年生のエース川木の渡米が平凡な都立高校テニス部に引き起こした波紋。絶対的な才能を持つ彼に対し、なかなか言い出せなかった仲間達の様々な想いが明らかになってゆく青春群像劇。突如明かされた途中で退学も厭わない決意表明に、ダブルスの相棒、女子部のエース、ゆるい部員、幼馴染のマネージャー、部長たちそれぞれの視点から彼への複雑な想いが綴られてゆく展開でしたが、関わってきた川木にもまたいろいろ思うところがあって、そんな連鎖的に明らかになってゆく等身大の熱い想いがなかなかぐっと来る物語でした。
5.禁じられたジュリエット (講談社文庫)
ミステリ小説が退廃文学として禁書扱いな世界観の日本で、それに触れてしまった女子高生6人が囚人として収監され、看守役2名を加えた8名で更正プログラムに参加させられる本格ミステリ。プログラムを早く切り上げられるよう協力するはずだった友人8人。役割に徹するうちに急速に対立を深めてゆく描写はあまりにも過酷で、二転三転してゆく展開には驚かされ、追い詰められた参加者たちの叫びは痛切で心に響くものがありましたが、終わってみるとなぜか清々しさすら感じてしまったその読後感に著者さんの深い本格ミステリ愛を見る思いがしました。
6.放課後の嘘つきたち (ハヤカワ文庫JA)
幼馴染で同級生の白瀬麻琴に誘われ、部活連絡会を手伝うことになったボクシング部の寡黙なエース・蔵元修が、周囲で起きるトラブルを解決してゆく連作青春ミステリ。カンニング疑惑のある演劇部、陸上部の幽霊騒動や映画研究会の不可解な作品改竄など、皮肉屋なもうひとりの特待生・御堂慎司も加えて、時には衝突しながらタイプの違う修と御堂の二人をメインに謎解きに挑む展開で、同時に人に言えない苦い過去が、彼らのありようにもそれぞれ暗い影を落としますが、それらを癒やす何とも皮肉な構図がなかなか効いていて、とても印象的な物語でした。
7.夏空白花 (ポプラ文庫)
昨日までの正義が否定され誰もが呆然とした終戦。未来を担う若者のために、戦争で失われた「高校野球大会」を復活させなければいけないと奔走する人々が描かれる物語。戦後の混乱期、GHQ占領下で思うようにままならない状況の中の中で始まった高校野球大会復活の動き。何のために復活させようとするのか、中心となって奔走する神住の複雑な想いや周囲の人たちの様々な想いも綴りながら、容易でない状況でも諦めない彼の熱意から意外な縁も繋がっていって、思わぬところから活路を見出し繋げてゆくてゆく熱い展開にはぐっと来るものがありました。
8.文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
高校2年生の文学少女・陸秋槎が自作の推理小説をきっかけに出会った、孤高の天才数学少女・韓采蘆。ふたりが邂逅する様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく連作短編ミステリ。作者の秋槎も予想だにしない真相を導き出してみせた采蘆。人間関係の描写自体はやや硬い印象で各話の物語の締め方がやや独特な感じもありましたけど、実際に起きた事件や作中作の犯人当てを、彼女とともに数学的思考もうまく絡めながら解き明かしてゆく展開で、推理小説の謎を解き明かす思考過程や様々な可能性を提示してみせてくれたなかなか興味深い一冊でした。
9.殺人依存症 (幻冬舎文庫)
息子を六年前に亡くした捜査一課の浦杉。その現実から逃れるように仕事にのめり込む彼が連続殺人事件の担当となり、捜査線上に実行犯の男達を陰で操る一人の女の存在が浮かび上がるホラーミステリ。最悪の状況を脱した先に待っていた地獄。破綻した家族から逃れるように家を出て暮らす浦杉たちの調査で明らかになる、加担者たちの犯罪者意識のなさ、彼らを扇動し操って息をするように罪を重ねる女の壮絶な過去。どこまでも救いのない中で浦杉に突きつけられる衝撃の事実と極限の選択は業が深いと慄きましたが、このエピローグだと続きありますかね。
10.青春のジョーカー (集英社文庫)
スクールカースト最底辺に所属し、上位女子グループの咲が気になっていた中三の基哉。閉塞感の漂う毎日を送っていた彼が、兄を通じて知り合った年上の二葉との出会いからジョーカーを得て少しずつ変わってゆく青春小説。いじられる存在で好きな子との会話すらままならない基哉の窮屈な生活と、ちょっとしたことで景色が全く違って見えたり、些細な噂で置かれる状況が一変することへの戸惑い。狭い世界の中での優越感やつまらない意地で失って大切な存在を自覚したり、甘酸っぱくほろ苦い青春と不器用な彼らの成長にはぐっと来るものがありました。
11.か「」く「」し「」ご「」と「 (新潮文庫)
みんなには隠している、ちょっとだけ特別なちから。なんの役にも立たないけれど、そのせいで最近気になって仕方ない。そんなクラスメイト5人のかくしごとがそれぞれの視点で描かれる連作短編集。それぞれ誰にも言えない秘密があって、抱えている想いがある。みんな頑張っているけど不器用だから勘違いして空回りして、傍から見てるともどかしいばかりなんですが、そこで思い切って一歩踏み出してみたらなあんだと思うようなことだったりで、そんな青春している5人が十年後どうなっているのかちょっと知りたくなるような、そんな素敵な物語でした。
12.あとは野となれ大和撫子 (角川文庫)
ソビエト時代末期に建国された中央アジアの小国アラルスタン。様々な理由で居場所を無くし後宮で高等教育を受けていた少女たちが、国の危機に居場所を守るため逃亡した男たちに代わり臨時政府を立ち上げ奮闘する物語。保護者だった大統領の暗殺で日本人少女のナツキも後宮の若い衆のリーダーであるアイシャや仲間たちとともに、反政府組織の侵攻や周辺国の干渉に立ち向かう展開は、ギリギリの連続でもそこまでの悲壮感はなくて、周囲も巻き込みながら若いパワーで最後まで駆け抜け最後は認めさせてしまう素敵な物語でした。なかなか面白かったです。
13.悪女の品格 (創元推理文庫)
幼い頃からヒエラルキーの頂点に君臨し、今もかつての同級生三人と同時に付き合い貢がせている光岡めぐみ。しかし小学生時代の同級生への仕打ちをなぞるかのように次々と襲われ、婚活パーティーで知り合った大学教授の山本と犯人を絞り込んでゆくミステリ。共に犯人を追いかける中で暴かれ、明らかになってゆく周囲の人物たちの本当の思い。これまでやりたいように生きてきたことを思えば、因果応報とも思える結末でしたけど、そんな彼女が提示された二回目の人生をこれからどう生きるのか少しだけ気になる、決して悪いばかりではない読後感でした。
14.コンサバター 大英博物館の天才修復士 (幻冬舎文庫)
世界最古で最大の大英博物館。その膨大なコレクションを管理する天才修復士ケント・スギモトと、その助手を務めることになった日本人修復士・晴香が、美術品にまつわる謎を解いてゆくアート・ミステリー。すり替えられたパルテノン神殿の石板、なぜか動かない和時計の修理、札束が詰めこまれたミイラの木棺、そしてケントの父親の失踪。大英博物館の立ち位置などはなかなか興味深かったですけど、誰もがひとくせある大英博物館で働く人々やケントの関係者も絡めつつ、晴香を振り回すケントと二人で事件を解決していく展開はなかなか面白かったです。
15.満月珈琲店の星詠み (文春文庫)
満月の夜にだけ開く不思議な珈琲店。優しい猫店主が招いた悩める人々を、極上のコーヒーとスイーツ、そして占星術で運命を読む「星詠み」で癒し導いてゆく連作短編集。時代の変化に取り残されたシナリオライター、心に傷を抱えたプロデューサーとスキャンダルに直面した女優、エンジニアが遭遇した初恋の人。どこかうまく行かない状況で巡り合う珈琲店との出会いでは、猫店主の美味しいおもてなしと占星術による導きが転機に繋がっていて、苦境に向き合って充実した日々を送るようになってゆく登場人物たちのその後がなかなか印象的な物語でしたね。
16.あの夏、僕らに降った雪 (角川文庫)
高校2年の夏休み。年齢を偽って治験のバイトに潜り込んだ湊が深夜の病棟で出会った、無関心病を患う少女・莉子。そんな彼女とともに過ごしたひと夏の物語。母の影響で「お金は物に使う」スタンスで生きてきた湊と、興味があるものを全力で楽しもうとする余命一ヶ月の莉子が満喫する北海道の夏。彼女の闘病ドキュメンタリーに出演することになったり、突然興味を失う彼女の喪失感に直面したりもしましたけど、その真意に気づいて莉子の複雑な想いにしっかりと向き合い、寄り添って最後まで精一杯過ごした二人の日々がとても印象に残る作品でしたね。
17.だから僕は君をさらう (双葉文庫)
辛い過去から平穏無事を意識するミュージシャン志望の青年・守生光星。彼がある日、夜の墓地で一人の少女・紫織と運命的な出会いを果たす純愛ミステリ。エアガンで撃たれたハトを助けたことから仲良くなった二人。職を失って怪しい仕事で食いつなぐ守生の忘れられない苦い過去、紫織が抱える複雑な事情と、意外な形で繋がってゆく過去との巡り合わせ。彼らが陥った状況は何とも不運だったようにも感じましたけど、彼女のために覚悟を決める守生の優しく不器用な決断は切なくて、だからこそお互いを理解する二人が迎えた結末には救われる思いでした。
18.九度目の十八歳を迎えた君と (創元推理文庫)
通勤途中の駅のホームで十八歳のままの姿の高校の同級生・二和美咲の姿を目撃した間瀬。周囲は感じない違和感を持った彼が、九度目の十八歳を迎える彼女の謎を追う追憶のミステリ。間もなく三十歳になる間瀬と再会した十八歳の美咲。十八歳の繰り返しから彼女を解放するため、かつての友人や恩師を訪れる展開では、再会する夢破れた同級生たちのありようや、振り返る自らの過去やかつて抱いた美咲への想い、そして回収されてゆく伏線の先には当時知り得なかったほろ苦い真相があって、けれどそれだけでは終わらない結末がとても印象的な物語でした。
20.遥かに届くきみの聲 (双葉文庫)
かつて天才子役だった過去を隠して高校生活を送る小宮透。当時彼が朗読に励んでいたことを知る同級生の沢本遥が、徹を所属する朗読部へ勧誘する青春小説。今の透が人前で声を出せなくなった苦い過去、かつてのライバルだった近藤先輩との再会、そして声を取り戻す手助けをしてくれた遥が抱える秘密。人に聞かせる朗読、そして競技としての朗読は、読む人が物語をどう解釈して聞かせるのか奥深いものがあって、遥たちと再び朗読に取む中で過去とも向き合い、自分と競い合い支えてくれる周囲の人たちの大切さを思い出してゆくとても素敵な物語でした。
21.水神様がお呼びです あやかし異類婚姻譚 (角川文庫)
美形だがマイペースな1つ上の幼馴染天也と、平和な毎日を送るお人好しの高校生・美月。しかし突然、不可解な現象に立て続けに襲われ、それが水神様からのプロポーズであることを知る異類求婚ファンタジー。綺麗な緑色の石の雨が降り注ぎ、解読不能な手紙が届く神様の暴走には苦笑いでしたけど、天也や兄の公太を頼りながら求婚を断ろうと奮闘する中で、天也への想いを自覚していく美月がいて、明かされるご先祖様と水神の因縁、そして天屋たちの秘密があって、懸命に向き合って本当に大切な想いを見出す優しい結末にはぐっと来るものがありました。
22.僕の目に映るきみと謎は (角川文庫)
異常な世界が日常に視えてしまう女子高生・祀奇恋子。彼女と幼馴染・真守が、親友から怪しい人形を渡された女子生徒の相談を受け、「除霊推理」で恋子と真守のコンビが怪異を暴くオカルトミステリ。5W1Hを駆使して真相に迫り除霊する恋子と異界に繋がる扉を閉じることが出来る真守。当たり前のように怪異が視えてしまう日常で、怖がりのくせに逃げない幼馴染を守る二人の関係がなかなか絶妙で、相手を呪い殺す「トモビキ人形」を巡る真相とその結末もまたなかなか壮絶なものがありましたけど、そんな二人の物語をまた読んでみたいと思いました。
23.花村遠野の恋と故意 (幻冬舎文庫)
九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が続いて、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びながら事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いまいましたね。そんな彼らのこれからが楽しみです。現在2巻まで刊行。
24.鵜頭川村事件 (文春文庫)
一九七九年夏。亡き妻・節子の田舎である鵜頭川村へ、三年ぶりに墓参りにやってきた岩森明と娘の愛子。突如、山間の村は豪雨に見舞われ閉じ込められる中で一人の若者の死体が発見され、閉塞した状況で蓄積していた鬱屈が狂気に繋がってゆく物語。村の有力者・矢萩家への鬱屈した想いと、外部と遮断された状況でうやむやにされた犯人探し。大人たちに不信を隠せない若者たちに対する扇動が暴走に繋がってゆくまでの描写には、追い詰められた人の危うさが生々しく描かれていて、ギリギリの状況で何とか娘を守ろうと奔走する岩森がとても印象的でした。
25.向日葵のある台所 (角川文庫)
シングルマザーで中学二年の娘・葵を育ててきた美術館に勤める学芸員・麻有子。極力関わらないようにしていた根深い遺恨がある母が倒れ、その母と突然同居することになってしまう物語。これまで散々母に甘えながらも、いざとなると妹の麻有子に押し付けようとする姉・鈴子。すれ違いばかりだった過去のわだかまりはあまりも重くて、そう簡単には解消できないよなあと感じましたが、それでも母に様々なことを思い起こさせる自分と娘の関係の積み重ねがあって、不器用なりにお互い少しずつ向き合えるようになってゆく結末には救われる思いがしました。
26.あなたが心置きなく死ぬための簡単なお仕事。 (角川文庫)
不況によりなんでも屋から「やり残し請け合い屋」に転身した日賀テルが、押しかけWEBコンサル女子・木崎すずを助手に、もたらされた依頼を解決してゆく物語。かつての想い人が育てていた花、余命僅かのためうまく別れたいと願う夫婦、記憶喪失状態な友人の持っていた日記の真実、そして幽霊からの電話の招待、そしてテルに届く差出人不明の依頼。テルとすずの二人で時には衝突し、助け合いながら依頼を解決してゆくコンビっぷりがなかなかいい感じで、だからこそ最後の急展開は切なかったですけど、とても優しくて素敵な物語だったと思いました。
27.友達以上探偵未満 (角川文庫)
忍者と芭蕉の故郷、三重県伊賀市の高校に通う伊賀ももと上野あおは地元の謎解きイベントで殺人事件に巻き込まれる。 探偵好きの二人はももの直観力とあおの論理力を生かし事件を推理していく青春ミステリ。伊賀の里ミステリツアーでの殺人事件、二人が通う伊賀野高校で起きた殺人事件、ももとあおの出会いと夏合宿で起きた殺人事件。タイプが違う二人を中心に見立て殺人を解き明かしてゆく展開は読みやすいのに意外と本格的で、補い合っていい感じにバランスが取れている二人が出会い、挑戦することになった最初の事件もなかなか効いていましたね。
28.三途の川のおらんだ書房 迷える亡者と極楽への本棚 (文春文庫)
人生最後で最上の一冊を選んでくれるという三途の川べりの「おらんだ書房」。生前に大きな未練を残す死者たちが最後の一冊を求めて店を訪れる連作短編集。本が大好きで本で圧死した公務員、先に亡くなった夫が最後に読みたかった本を探す妻、小さな子どもが探していたもの、不倫した夫たちを呪いたい妻、最終回を描かずに亡くなった人気漫画家、つまらない本を所望する高校生など、飄々とした着物姿の店主と彼に振り回されるアルバイトのいばらが、お客さんたちが本を求める真意を読み解いて、彼らのために奔走する姿はとても優しくて印象的でした。
29.平安・陰陽うた恋ひ小町 言霊の陰陽師 (宝島社文庫)
承和の変の謀反から二年。いまだ権力争いの残り火に翻弄される後宮で、言霊をあやつる異才の陰陽師・小野小町が難事も怪異も解き明かす物語。陰陽師・小野篁の孫として後宮の女たちの相談を受ける小町が直面する、袖にした貴族の悪夢や恋煩いの相手探し、そして承和の変を巡る事件。時の権力者・藤原良房なども登場して、かの有名な色男・在原業平などの協力も得ながら、あやかしが絡むの事件の背景を探り、言霊を使って人知れず影から解決してゆく業深き女陰陽師・小町という構図はなかなか面白かったですね。続刊がまた出るなら読んでみたいです。
30.殺人事件が起きたので謎解き配信してみました (宝島社文庫)
人気動画配信者・ソウスケが視聴者からの贈り物大食いチャレンジ動画の生配信中にカメラの前で突然死亡し、配信を見ていた友人「謎解き」動画配信者カイが、その死の謎に迫る動画配信ミステリ。恩義ある彼の死に報いるためにも、その死の謎に迫ろうと決意する構図で、動画配信者の視聴者に対する配慮は大変だなあと感じつつ、情報を得る手段も乏しい素人による犯人探しの限界はそれをォローする人材をうまく配したり、密かに動画配信している刑事・田井中の視点も交えたりして、謎解きを絡めながら解決に繋げてゆく展開はなかなか面白かったですね。
以上です。気になる本があったら是非手に取って読んでみて下さい。