2020年下半期注目のオススメ新作企画、「ライトノベル」に続く第四弾は「ライト文芸」レーベル編です。どうしても後追い気味になっているために仕方ないのですが、この時期までずれ込むともうどこまで入れるのか諦めるのかなかなか難しいところではありますね(苦笑)とりあえず今回も自分が下半期に読んだものの中からオススメしたい30作品を紹介しています。
【参考】
1.星辰の裔 (集英社オレンジ文庫)
薬師だった父の志を継ぎ、大陸からの先進知識が集まる町を目指して旅する少女アサ。その途中で馬賊と呼ぶ大陸からの侵略者・辰の奴婢狩りに遭い、捕まってしまったアサが皇王の次男・季晨と運命の出会いを果たすファンタジー。宦官と勘違いされ皇女の側で働くアサが巻き込まれてゆく朝児に対する根強い差別と辰の後継者争い。薬師として生きたいと願うアサの願い、それを理解してくれる季晨との出会いと惹かれてゆく想いがあって、数奇な運命が激動の展開に繋がりましたけど、だからこそ乗り越えた先の信念と想いの末に導き出された結末がとても印象に残る物語でした。
2.ジギタリスの女王に忠誠を 修道院の王位継承者 (富士見L文庫)
ジギタリスの女王に忠誠を 修道院の王位継承者
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仲村 つばき/カズアキ KADOKAWA 2020年11月14日頃
二十年間の王位争いで国が荒れたリカー王国。やっと決まった王も急逝し、元修道女の一人娘マーガレットが後を継ぐヒストリカル・ファンタジー。孤立する王宮で味方は成り上がり騎士エドマンドだけ、正統な王の血を引く男ライオネルには見下される中で、国民のためにいい女王たるべく努力し続けるマーガレットが直面する反乱。なかなか厳しい状況でしたけど、それでも半ば意地で奮闘し続ける凛々しい彼女の姿は、見る人が見たら心動かされますよね。そんな彼女だからこそ迎えられた本来あるべきところに収まった結末にはぐっと来るものがありました。
3.ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女 (集英社オレンジ文庫)
王族による共同統治が行われる国イルバス。王宮を離れ北方辺境のリルベクで趣味の工業生産に明け暮れる王女ベアトリスが、周辺国の情勢が悪化により政治的決断を迫られる激動のヒストリカルロマン。尊大な兄アルバートと狡猾な弟サミュエルから距離を置くベアトリスが抱える秘密と、彼女を支え続ける側近のギャレット。事態が緊迫する中で駆け引きを続ける兄弟に振り回されるベアトリスでしたけど、不器用な彼女とギャレットの葛藤と繊細な距離感が効いていて、覚悟を決めた彼女たちが向き合った末に取り戻した絆にはぐっと来るものがありましたね。
4.コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店― (新潮文庫nex)
九州に展開するコンビニ「テンダネス」の門司港こがね村店。勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡するフェロモン店長・志波三彦と、彼を慕ってやってくる常連客たちがコンビニを舞台に繰り広げるお仕事小説。バイト野宮が密かに抱えていた後悔、夢と現実の狭間で悩む塾講師・桐山、幼馴染との関係に悩む梓、定年後妻との距離感が分からなくなった夫、パート・光莉の息子・恒星が抱いた疑惑、クリスマスの騒動など、店長や周囲の登場人物たちを絡めたドタバタ劇が楽しくて、その優しさが関わる人たちの心を癒してゆくとてもじんわりと来る物語でした。
5.それでも、あなたは回すのか (新潮文庫nex)
編集者になりたくて出版社を受けるも、就職活動がまったく上手くいかず、ソーシャルゲーム開発会社に入社した友利晴朝。そんな彼が同期の青塚凛子と「サ終(サービス終了)」と呼ばれる赤字チームに配属されるお仕事小説。拾い上げからから始まった社会人生活で待っていたのは自社のゲームプレイ。周囲の言葉も刺さって、少しずつやるべきことの理解を深めていった中で起きたチームの危機。今できることをやろうと奮闘した結果自体は及第点でも、自らは本当にこれだけしかできなかったのか。突きつけられた悔しさを乗り越えて頑張る姿をまた読んでみたくなりました。
6.冬の朝、そっと担任を突き落とす (新潮文庫nex)
校舎の窓から飛び降りた担任教師。遺書は残されていなかった。奇妙な平穏が続いた理系特進クラスに転校生・中西美紀がやってきたことで、教室の贖罪が始まる青春ミステリ。学校側が否定する担任の自殺の原因はこのクラス全員が知っている。死の真相を探り始める美紀が、そしてその後を引き継いだ田嶋春が、目をそらしていたクラスメイトたちに投げかけた波紋。すれ違いの連続が悪意なき残酷さを生んで、その積み重ねによって事態の様相もガラリと構図を変えていって、全てが繋がった末に提示されるその結末にゾクリとさせられる印象的な物語でした。
7.嘘つきな魔女と素直になれないわたしの物語 (集英社オレンジ文庫)
眼の少年・ハルと出会う青春小説。ご近所のほとんどが親類縁者で、携帯電話の電波もろくに入らない田舎への引っ越し。そこで出会った少年・ハルと解き明かす盗まれた卵、なくなったクッキー、赤い服の幽霊の謎。謎めいたハルとトーコが忘れてしまっていた八年前の真相。密かに村に危機が迫っていて、けれどそんな窮地を力を合わせて乗り越えて、二人で未来を切り開いてゆく姿がどこか微笑ましい、ひと夏の素敵な物語でした。
8.君が最後に遺した歌 (メディアワークス文庫)
田舎町で祖父母と三人暮らしで、詩作を唯一の趣味に平凡な生活を送り、堅実な将来を目指していた水嶋春人。その秘かな趣味を知った同級生・遠坂綾音から一緒に歌を作るように誘われ、その人生が変わり始める青春小説。歌詞が書けない事情を抱える綾音に代わり自分が書く関係。共に時を過ごし想いを積み重ねて彼女が歌う姿に惹かれてゆく春人。綾音の夢を叶えるために背中を押す春人の決意は切なくて、けれど離れ離れになっても変わらない思いがあって、そんな二人が過ごしたかけがえのない日々と、ちょっと粋な結末にはぐっと来るものがありました。
9.廃妃は再び玉座に昇る 耀帝後宮異史 (小学館文庫キャラブン!)
残虐非道な凶后の姪として政変で断罪され、天下万民の怨敵として刑場に引っ立てられた先帝の廃妃・劉美凰。死ねずに幽閉された血染めの廃妃が、十年ぶりに後宮に帰還する中華風ファンタジー。彼女の身に宿る奇しき力を必要とし、皇太后とした現皇帝・天凱。表向きは白き喪服をまとった皇太后として、裏では天凱と一緒に都で猛威をふるう鬼病の原因を突き止めるため、未だ怨憎が煮えたつ禁城に舞い戻った美凰の苦悩がまた壮絶で、二人の愛憎が入り交じる複雑な因縁があまりにも切なくて、そんな二人の行く末がとても気になる注目の新シリーズですね。
10.九天に鹿を殺す 煋王朝八皇子奇計 (集英社オレンジ文庫)
中原の覇者・煋王朝で皇帝の崩御とともに、次代の玉座を巡り八人の皇子が争う「九天逐鹿」。審判役・女帝の勅命のもと宮中に現れる蠱鬼を狩り、夭珠を増やす凄惨な戦いの幕が開ける中華謀略ファンタジー。母や家族だったり、妻や姉といった大切な存在のために集った八人の皇子たちが繰り広げる、卑劣な奸計が蠢いて情を断ち切れぬ者から滅びていく壮絶な後継者争い。新皇帝が誕生すれば殺される運命にある女帝・閨水娥。それぞれの想いが垣間見えるからこそ、それぞれの末路もまた印象的で、その先にあった結末にもまたぐっと来るものがありました。
11.大阪マダム、後宮妃になる! (小学館文庫キャラブン!)
大阪で生まれ育ったコテコテのアラサー大阪女子が、凰朔国一の豪商・鴻家の華やかな屋敷に住む令嬢・鴻蓮華に転生し、放り込まれた後宮でたくましく生きてゆく後宮コメディファンタジー。理想の男性はバースと公言する大阪マダムが転生した理由には笑ってしまいましたが、母・皇太后と対立する疑り深い皇帝の天明に協力し、蓮華をライバル視する妃嬪候補たちすら巻き込んで、後宮にタコパを流行らせたり妃嬪たちに野球を指導したり、やりたい放題なのに深刻な問題すら何とかしてしまう蓮華の慧眼や心意気、圧倒的なパワーがとても痛快な物語でした。
12.京都岡崎、月白さんとこ (集英社オレンジ文庫)
優しかった父が死んで身よりを失った女子高生の茜と妹のすみれ。親戚の家で肩身の狭い思いをしていた彼女たちを、親戚筋で京都岡崎にある「月白邸」に住む青年・青藍が引き取られる家族の物語。酒浸りの破綻した生活を送る人間嫌いで変人という噂の青藍と、入り浸る明るい絵具商の青年・陽時。最初ぎこちなかった関係も茜の餌付けやすみれのあどけなさに少しずつ変わっていって、陽時の特別な人のエピソードは切なかったですけど、家の事情に振り回され続けた彼らが、その不器用な関係に大切な絆を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありました。
13.京都烏丸のいつもの焼き菓子 母に贈る酒粕フィナンシェ (富士見L文庫)
京都烏丸のいつもの焼き菓子 母に贈る酒粕フィナンシェ
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古池 ねじ/イナコ KADOKAWA 2020年09月15日頃
無愛想でしゅっとした菓子職人と可愛い店員さんが営む和の食材を使った京都の小さな焼き菓子屋「初」。丁寧に作られた心が満たされるお菓子を愛する人々の物語。自分らしく生きたいデザイナー、常連のドイツ人大学教員とその教え子、お店のお菓子に魅せられて京都にやってきた就活生、そして店長と店員さんと両親のこと。食べたくなるようなお菓子の描写も素敵ですが、誰もが素直になれない一面を抱えていて、そんな不器用な登場人物たちのはっとするような繊細な想いを巧みな視点で浮き彫りにして、導かれてゆく結末がとても印象に残る物語でした。
14.額装師の祈り 奥野夏樹のデザインノート(新潮文庫nex)
事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。少し変わった依頼でも真摯に向き合う夏樹が、彼女の作品の持つ雰囲気に惹かれた表具額縁店の次男坊・久遠純と出会う物語。時には依頼人の想いを暴いてしまう一方で、婚約者との過去にどう向き合うべきか悩む不器用な夏樹と、掴みどころのない純との微妙な距離感。そして二人の重要な過去に繋がる池端の存在。明らかになっていったそれぞれの過去に向き合うことにはほろ苦さも伴いましたけど、そんな自分に寄り添ってくれる存在がいて、新たな一歩を踏み出す姿が描かれる結末にはぐっと来るものがありました。
15.君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と無愛想な支配人 (集英社オレンジ文庫)
一晩眠ると消し去りたいと願う記憶が消える部屋があるという噂の湖畔のペンション「レテ」。そこに噂を聞きつけた人々がやってくる連作短編集。寡黙なオーナーの遠野愛文としっかりものの少女・多希、常連客で女流ミステリー作家の丸川千歳。離婚した幼馴染、姉に劣等感を抱く妹、ペットの死を悔やむ少女、明らかになってゆく愛文の過去、そして引き継いだ記憶の結末。確かな愛があったからこそ苦しむそれぞれのエピソードは読んでいて切なくなりましたが、けれどその先に再び紡がれてゆく関係には新たな希望が感じられるとても優しい物語でしたね。
16.ようこそ紅葉坂萬年堂 (小学館文庫キャラブン!)
日々の生活に疲れ、働く意味を見失ってしまった綾瀬葵。ある日、紅葉の美しい坂の途中にある万年筆などのペンを専門に扱う「紅葉坂萬年堂」と出会い、働くことを志願するお仕事小説。無愛想だけれどペンの知識が豊富な宗方が語る万年筆の世界に魅せられた葵。最初は失敗しながらも真摯な宗方の姿勢に感化されて成長していく葵だったり、万年筆のこと以外では残念で不器用な宗方との関係も含めて王道の展開でしたけど、それ以上に万年筆への愛に溢れていて、自分でも万年筆を使ってみたくなる素敵な物語でした。続刊あったらまた読んでみたいですね。
17.吉原水上遊郭 まやかし婚姻譚 (ポプラ文庫ピュアフル)
明治44年に起きた吉原大火ののち、東亰・隅田川に返り咲いた水上遊郭。大火で両親を亡くし客を送迎する番人見習いの船頭になった利壱が、長春楼楼主に頼まれ娼妓見習いのツバキを切見世へと連れていく時代小説。吉原大火の結果として再構築された水上遊郭を舞台に、想いを通わせてゆくツバキと吉原で生まれ育った絵師の許されない恋。しかしツバキに目をかけていた廣川は水上吉原を牛耳る老獪な存在で、絶望的な状況で仕掛けられた謀略の行方にはドキドキしましたけど、そこからの急展開と思ってもみなかった結末にはぐっと来るものがありました。
18.九重家献立暦 (講談社タイガ)
就職活動がうまく行かず、とある事情で故郷に戻った九重茜。旧家の実家で昔と変わらぬ頑迷な祖母、居候として住み着いていた母の駆け落ち相手の息子・仁木一と同居する家族の物語。祖母に厳しく育てられ、嫌でも母を意識せざるをえなかった茜。彼女と祖母の複雑な距離感、そして九重家の年中行事を調査すべく同居する仁木という構図は、三者三様の深い悔恨を抱えていて、その元凶となった茜の母・景子の業の深さを改めて痛感する展開でしたけど、本音でぶつかり合ってようやく向き合えた不器用な彼女たちの変わりつつある関係が印象的な物語でした。
19.乙女椿と横濱オペラ (集英社オレンジ文庫)
明治末期の横濱。まことの恋に憧れる女学生・紅の周りに怪異が起こり、父親の長屋に住みついている青年絵師・時川草介と事件を解決する怪異譚。男爵屋敷の椿によって神隠しにあった紅の許嫁の真相、さまよう女学生の亡霊、古き狗神の祟り。新聞記者の兄の助けも借りながら、怪異を見ることができる草介と好奇心旺盛な紅の二人で事件の真相を調べる展開で、一見ぐうたらに見える草介が抱える訳ありの過去と、そんな彼をいろいろ言いながらも世話を焼く紅の腐れ縁的な関係がなかなか良かったです。草介はもしかしてあの絵師さんの子供なんですかね…?
20.星の降る家のローレン 僕を見つける旅にでる (メディアワークス文庫)
ある日姿を消し、生死不明となっていた少年時代の宏助の恩人で謎多き中年画家・ローレン。年月が過ぎて大学生になっていた宏助のもとに、突然ローレンから「自分の絵を売ってほしい」と手紙が届く物語。何とか個展を開催した宏助が、絵に描かれた友人を探す個展の客・雪子と一緒にローレンの行方を追う展開で、雪子と行方知れずになった親友・杏子のエピソード、そしてローレンの過去に迫ってゆく中で明らかになってゆく過去の真相は切なくて、けれどそれぞれがしっかりと向き合って新たな関係を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありましたね。
21.死者と言葉を交わすなかれ (講談社タイガ)
不狼煙さくらは探偵・箒山との浮気調査中に、調査対象の突然死に遭遇。病死とされたものの仕掛けた盗聴器からは死者との会話が流れ出して、真相を追う二人は予想だにしない悪意に出会うミステリ。調査対象が突然死する直前に話していた、話し声が聞こえない相手は誰だったのか。不狼煙と箒山のダブル女子探偵を中心に、調査対象の妻や実家、贔屓のバーなどで聞き込みした中で見出す些細なヒント、そこから導き出されてゆく真相には唸らされましたが、だからこそ事件解決の裏に隠されていた驚愕の事実に、これまでの全てを覆された気分になりました。
22.未だ青い僕たちは (スターツ出版文庫)
雑誌の読モをしている高校生・野乃花が隣の席になったアニメオタクの原田。実はSNSでアニメ界のカリスマだった原田と正体を隠して交流するうちに、だんだん心境が変わってゆく青春小説。窮屈な現実世界では一切交わりがないのに、ネットではいろいろと話すようになって、お互い必要不可欠になってゆく二人。不器用な野乃花が踏み出した一歩を受け止められない原田の劣等感がまたじわじわ来ましたけど、様々な出来事を通してかけがえのない存在として自覚してゆく二人と、けれどそう簡単には変われないもどかしい距離感がなかなか良かったですね。
23.愛に殺された僕たちは (メディアワークス文庫)
恋人に貢ぐため義母から保険金殺人の標的にされる高校生・灰村瑞貴。父親の身勝手な愛情により虐待され、殺されるのをただ待つだけの逢崎愛世。そんな歪んだ愛に苦しむ二人が出会ってしまう青春小説。お互い夢も希望もないからこそ気づいてしまうそれぞれの絶望。二人が見つけた連続殺人の予定が記された絵日記から始まった共犯関係。お互いにどんどん追い詰められてゆく容赦ない展開の連続で、二人で思い描いてしまったちっぽけな希望が切なくて、相手のためにという選択をどう受け止めるのか、その意味をいろいろと考えさてしまう結末でした。
24.きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間 (富士見L文庫)
きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間
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村田 天/丹地 陽子 KADOKAWA 2020年07月15日頃
ある日吉祥寺で金色の瞳の猫と出会い、一匹の猫となってしまった仕事に疲れたOL・舞原留里。そんな彼女が猫にだけ優しい偏屈な高校時代の元同級生・岸田頼朝と出会う物語。猫に好かれる特異体質を持つ岸田にお持ち帰られて、彼の家で一緒に過ごした67日間。共同生活で岸田の意外な一面がたくさん垣間見えて、共に過ごすうちに留里の中にも育まれてゆく想いがあって、改めて留里が人として対してみると岸田はほんとめんどいやつだなーと苦笑いでしたけど、それにめげずにしっかり向き合った留里と頼朝のお似合いな感じがとても素敵な物語でした。
25.放課後の宇宙ラテ (新潮文庫nex)
高校生になって超常現象なんか信じない平凡な青春を過ごすつもりだった圭太郎。しかし幼馴染の未想が持ってきた数理研の廃部室の鍵が、退屈な日々を一変させる青春SF小説。実質オカルト研だった数理研の部室で出会った自称超能力者の転校生・曖。彼女の消えた夏休みの記憶と怪しいの機械を自作しての人体実験。仲良くなってからはほんと楽しそうだなあと読んでいたら、後半は思ってもみなかった斜め上の展開が待っていて、いろいろツッコミを入れたくなりましたけど、それを何となくいい感じにまとめあげていった着地点はなかなか良かったですね。
26.海月館水葬夜話 (集英社オレンジ文庫)
穏やかな港町の学園で司書として働く遠田湊。そんな彼女と幼馴染・凪が一緒に暮らす小さな洋館・海月館に死んでも忘れることのできなかった後悔を抱えて客人が訪れる葬送ミステリ。湊の先輩司書だった櫻子と図書委員の吉野、「私が朝香を殺した」と告げる二人が抱えていた秘密、妻が殺されてから気づいた夫の後悔、病死した兄と双子の妹の複雑な関係、訪れた死者たちの後悔に向き合い、真相を解き明かしてゆく湊と凪。そんな二人の関係もまた過去に縛られたものに思えましたけど、様々な後悔に向き合ってきた湊の選択がなかなか印象的な物語でした。
27.記憶書店うたかた堂の淡々 (講談社タイガ)
突如失踪した静乃の優しすぎる恋人・誠。職場に連絡すると意外な事実が判明し、冷めた目をした美貌の青年・うたかた堂との出会いによって、心に秘めた過去や秘密、願いが解き明かされてゆく物語。姿を消した恋人の正体、うたかた堂が婚活で出会った一組のカップル、女優・乃木坂カレナとの関係、友人あけるの初恋の結末、おじいちゃんと孫の約束。記憶を代償に人々の大切な願いを叶える謎の青年・現野一夜は、最初は掴みどころのない人物に思えましたけど、不器用な彼が導いてゆくほろ苦くも優しい結末、そして現野自身の変化が印象的な物語でした。
28.たとえあなたが骨になっても 死せる探偵と祝福の日 (集英社オレンジ文庫)
殺されても謎解きをやめない凛々花先輩。死者の声が聞こえる探偵部の朝戸雄一は彼女の頭蓋骨を密かに抱え、謎に飢えた彼女の好奇心を満たすため、自分だけが聞こえる凛々花の声を頼りに次々起こる事件を追うミステリ。死を呼ぶ先輩と死者の声を聞ける主人公が近くで起きる路上で発見された小指、バレンタインの変死体、奇妙な脅迫状、学校の屋上からの墜落死の真相。その関係には何とも危うさも感じさせますけど、二人で事件を解決してゆく展開はテンポも良くて、彼女の兄の登場で浮上してきた先輩の実家・後光院家との因縁も気になるところですね。
29.新米占い師はそこそこ当てる (集英社オレンジ文庫)
英国人占い師を祖母に持ち、幼い頃から占いの才能があった萌香。占いのせいで周囲と上手くいかなくなった過去から占いを封印する彼女が、祖母の帰省中になりゆきから占うことになる物語。追い詰められた依頼人に同情し、チャレンジしてみることになった萌香。過去のトラウマから占いに自信がなかった萌香でしたけど、彼女を気にかけてくれる幼馴染・翼の的確なサポートや、依頼人の薫子さんたち大人がいい人だったこともあって、お友達の難しい依頼や過去にも向き合って何とか乗り越えられましたかね。幼馴染との関係も気になるので続刊に期待です。
30.うちの作家は推理ができない (二見サラ文庫)
先輩編集の高山から売れっ子現役大学生ミステリ作家・二ノ宮花壇の担当を引き継いだ左京真琴。「いま書いている物語の推理パートを忘れてしまう」彼の物語を推理し、つじつまの合う結末を考える作家ミステリ。喫茶店でカップルの男が怒った理由、花壇に依頼した書評、寮で見かけた幽霊の正体、エノが食あたりをした理由、そして素直になれない作家の真意。何度も振り回される左京を見ていると拗らせ過ぎなのではと思ってしまいますが、左京があまりにも不憫だったので続編があったら是非二ノ宮に逆襲してぎゃふんと言わせる展開を期待したいですね。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。