読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2019年4月に読んだ新作おすすめ本

2019年4月に読んだ新作おすすめ本です。ライトノベルはやはり何といってもGA文庫の「友達の妹が俺にだけウザい」ですね。テンポよく進む展開に友達の妹と幼馴染のダブルヒロイン、クリエイターものとしても気になる期待の新作です。あとは凛々しい(けど不器用な)年上お姉さんたち三姉妹がヒロインのファミ通文庫やがてうたわれる運命の、ぼくと殲姫の叛逆譚」、何度もやり直した経験から亡国を救うスニーカー文庫のファンタジー戦記「千億亡国」あたりも注目の新シリーズです。

 

ライト文芸ではこなれたアラサーヒロインがなかなか面白いオレンジ文庫の「平安あや解き草紙」、シリアスなサスペンスもの「推定失踪」、一般文庫では辻堂ゆめさんの宝島社文庫今、死ぬ夢を見ましたか」、ポプラ文庫ピュアフル「僕と君の365日」あたりはなかなか良かったです。単行本ではスクールカーストを描いた浅倉秋成さんの「教室が、ひとりになるまで」が一押しです。新作はわりと豊作でなかなか興味深い作品が多かったですね。

 

友達の妹が俺にだけウザい (GA文庫)

友達の妹が俺にだけウザい (GA文庫)

 

青春の一切を非効率とする俺・大星明照が目指す伯父の会社への就職。ウザい親友の妹・彩羽に絡まれつつ、就職の条件として提示された幼馴染従妹・真白の偽彼氏役に挑む青春ラブコメディ。学校では存在感皆無の生活を送る明照と、彼に絡み部屋に入り浸る親友の妹・彩羽、最悪の再会から険悪な雰囲気の真白。親友を含めた周囲の登場人物にはそれぞれ抱える事情があって、陰キャラに甘んじる明照が仲間のためなら頑張る姿を見ると、彼らに慕われているのも納得ですね。気になる関係に投げ込まれた波紋で物語がどう動くのか、今後に期待大の新シリーズ。 

やがてうたわれる運命の、ぼくと殲姫の叛逆譚 (ファミ通文庫)

やがてうたわれる運命の、ぼくと殲姫の叛逆譚 (ファミ通文庫)

 

女性の【うたうたい】が歌の加護を男性にしか与えないため、女性の魔物狩りが見下される世界。街を守ってくれている女魔物狩りオルカたち三姉妹と、魂の歌を歌う少年レンのシンフォニックファンタジー。その歌と性格から周囲に慕われるレンと、彼が憧れるクール(に見えて実は不器用なだけ)なお姉さんのオルカ、そんな二人を見守るオルカの妹たち。不器用な二人の距離感も好みでしたが、災魔流を何とかしようとするレンの勇気、絶望的な戦いを繰り広げる三姉妹を救うために成し遂げた奇跡があって、そんな彼らの旅をまた読んでみたいと思いました。

千億亡国 死の螺旋にあらがえ黒騎士 (角川スニーカー文庫)
 

帝国の侵略で滅亡寸前の小国クーファ。密かに王国が滅亡する度に時間が巻き戻る不思議な体験を繰り返し、救国の道筋を探っていた孤独な若き黒騎士ラシードと、彼を救うべく剣を振るう女騎士パルミラのファンタジー戦記。あらゆる方策を試して何度も失敗し、幾多の戦乱を経験して最強の力と最善の方策を見出したラシード。孤独な戦いを乗り越えてきた彼の苦悩と、突き放されても共に向き合おうとするパルミラが一緒に打開して乗り越えてゆく展開が良かったですね。物語としてひとつの転機を迎えたここからが様々な意味で本当の勝負な新シリーズです。

自らモブとして目立つことを避けていた高校生・鷹野祐と孤高を貫く学園一の美少女・衣川マトの邂逅。二人が遭遇するサーバーセキュリティ絡みの問題を解決してゆく青春小説。祐の幼馴染が絡む試験問題漏洩事件、学校で起きたサイバー攻撃事件、マトが学校を中退して渡米しようとする理由。タイトルの印象より大分サイバーセキュリティが存在感のある内容でしたが、ミステリアスな彼女に最初は戸惑っていた祐が、マトのことを知っていくうちにその心境も変わっていって、彼女もまた祐たちとの出会いから新たな一歩を踏み出してゆく素敵な物語でした。

鬼畜の僕はウサギ先輩に勝てない (HJ文庫)

鬼畜の僕はウサギ先輩に勝てない (HJ文庫)

 

郷土史研究部とは名ばかりのシロ先輩の趣味を実践するだけの部活動に強引に入部させられたキタロー。今回は隠れキリシタンの郷として村興しを始めた村の取材に向かうウサギと鬼の青春怪異譚。振り回されると分かっていても彼女の笑顔と行動力に逆らえないキタローが一緒に向かった、隠れキリシタンに絡めた遺物を持つ村の取材。随所にシロ先輩の小動物めいた魅力が効いていた一方で、実はワケありな二人が解決した事件は意外と凄惨な結末でしたが、将来的に部員も増えそうな予感もあって、未だ謎も多い二人の怪しい部活動をまた読んでみたいですね。

針子の乙女

針子の乙女

 

前世の記憶を残したまま、技術貴族ヌイール家の子として転生したユイ。勘違いから針子との能力なしと判断されて邪魔者扱いされていた彼女が、ロダンと出会い人生に転機が訪れる異世界裁縫ファンタジー。地獄の日々から救ったロダンが気づいた精霊に愛される彼女の能力。ユイが前王に求婚される一方で、どうしようもないヌイール家の父や妹という分かりやすい構図でしたけど、テンポよく読ませる読みやすい文章と、人や環境に恵まれユイが幸せになってゆく展開はなかなか良かったです。とはいえちょっと頑張らないといけない状況のようで続巻に期待。

 

 

平安あや解き草紙 ~その姫、後宮にて天職を知る~ (集英社オレンジ文庫)

平安あや解き草紙 ~その姫、後宮にて天職を知る~ (集英社オレンジ文庫)

 

東宮への入内話が立ち消えになり、婚期を逃したまま実家に居座っている左大臣の娘・藤原伊子。そんな彼女に今は亡き東宮の息子である今上帝が入内を希望してくる平安お仕事ミステリー。十年前に別れた恋人・嵩那との間にあった誤解、そして伊子が初恋の人だったという今上帝という何とも複雑な距離感の関係も交えつつ、帝の熱烈な要請によって尚侍として入った年相応にこなれた感のある伊予が好みで、嵩那とも協力しながら後宮で起こる事件を解決してゆく展開は面白かったです。恋の行方も気になるその後のお話がまた読めたらいいなと思いました。

推定失踪 まだ失くしていない君を (集英社オレンジ文庫)

推定失踪 まだ失くしていない君を (集英社オレンジ文庫)

 

外務省のグレーゾーンな仕事を引き受ける外交官として働く桐島に宛てて、東南アジアの国・ビサワンで働く元恋人・亜希から謎めいたメールが届き、失踪した彼女を探すためビサワンへ飛ぶ物語。子供兵士の救済を目的とした国際NGOで働いていた亜希の失踪を探るうちに、ビサワンを巡る政情不安な状況に巻き込まれてゆく桐島。各国間の事情や利害関係に振り回されても諦めずに活路を見出そうとする中で、謎めいた彼女の過去も明らかになっていって、何ともやるせない結末でしたけど、最後まで真摯であろうとした彼女のありようはとても印象的でした。

鷹橋川で発見されたミイラ化した不思議な遺体。街の治安が急速に悪化してゆく中、圧力により捜査がたびたび頓挫する状況に、新米刑事の御堂陸が真相を解明するため美貌の科学者・神代宇路子の許へ押しかける物語。正義感が強く融通の利かない陸と、ミステリアスでスボラな宇路子のコンビが、協力しながら人魚をめぐる謎に迫る展開でしたが、民俗学と科学的視点を組み合わせて語られる見地はなかなか興味深く、二人もなかなかいいコンビっぷりでしたね。解決されないままの疑惑に宇路子の秘密も明らかになって、これは続刊に期待の新シリーズです。 

漫画家先生とメシスタント (富士見L文庫)

漫画家先生とメシスタント (富士見L文庫)

 

マンガ好きを周囲にひた隠す女子高生ときわが、学校帰りにアパートの前で行き倒れているのを発見した会社員・鈴木桂太。ご飯を食べさせてあげた彼が実は大好きなマンガ家の片割れだったと気づく物語。マンガ家のためのアパート・ヒット荘を舞台に、ほのかな恋心を抱く桂太や彼とコンビを組むレオ、新人漫画家の花や鬼の担当編集さん、マンガ家の桂太の妹たちも絡めながら、美味しそうなご飯やデザートを振る舞いつつのドタバタ劇や交流してゆく様子がなかなか楽しかったですね。ときわと桂太のその後も気になるので、また是非続巻を期待したいです。

憧れの初恋の人・白江を追いかけて、ブラック旅行会社から彼が社長を務める旅行会社に転職を果たした美紀。人にも霊にも冷酷な白江と一緒にワケあり旅行先の霊に関する問題を解決してゆく物語。入社研修先が怪異が起こるホテルで、その後も怪奇現象で有名な訳あり物件を人気観光地にしてきた白江に連れられ、霊に脅かされ振り回され続ける美紀。普段はツンツンしているイケメン白江にも抱える事情があって、そんな彼のことを見捨てられずについつい奔走してしまう、九割八分ビターだけれどちょっぴり甘い部分もあったりする二人の今後に期待ですね。

 

今、死ぬ夢を見ましたか (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

今、死ぬ夢を見ましたか (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

電車の中で、駅のホームから突き落とされて親友の五味淵と一緒に死ぬ夢を見た井瀬。彼が見た夢の内容を当て、同じ体験をしている女子高生・紗世と出会うタイムリミットサスペンス。同じように自らの死を回避すべく試行錯誤する紗世と彼女が憧れる先輩。刑務所から出所した井瀬を仕事に誘ってくれた五味淵と、井瀬を気にかける幼馴染の粕谷。テンポよく進む展開の中で誰を信じればいいのか、真相が明らかになるたびに物語の構図も変わってゆきますが、ありえたかもしれない可能性を思うと、その結末には何ともやるせないものを感じてしまいました。  

菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

 

進路に悩む高校3年生・三峰菜月は、子供の頃に自分の大切な絵本を直してくれた書籍修復家・豊崎俊彦と再会。一念発起弟子入りを目指し奮闘するお仕事小説。親に言われるままに大学進学でいいのか疑問に思っていた菜月の運命の出会い。彼女の修行を通じて描かれる和書の修復がどのように行われるのか、その描写や解説はなかなか興味深かったですが、食べていくのが難しい仕事だからこそ、書籍修復の仕事にどう真摯に向き合うのかをしっかり考えるのは大切なことですよね。周囲の人に支えられながら成長してゆく菜月の今後を応援したくなりました。

(P[ゆ]1-1)僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ゆ]1-1)僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

色彩が失われて1年で死に至る無彩病だと知らされ、自暴自棄になりかけた高校生・新藤蒼也。そんな彼が進学クラスから自ら希望して落ちてきた美少女・立波緋奈と契約のような365日間の恋を始める物語。周囲に知らせず最後まで普通の日常を送りたいと願う蒼也と、その秘密を唯一知る緋奈の少しずつ変わってゆく関係と、幼馴染たちを絡めたかけがえのない日々。大切な存在だと思うようになればなるほど、失う辛さを感じさせて切なかったですが、最後まで精一杯向き合い続けた二人の想いと、エピローグで明らかになるもう一つの真実が印象的でした。

小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

 

 華々しいデビューを飾ったものの鳴かず飛ばずの作家・豊隆と、彼の作品がきっかけで文芸編集者になった俊太郎。経営状態から俊太郎の所属する文芸誌存続が危ぶまれる状況で、あえて勝負に出る二人の物語。「いつか一緒に仕事を」と思いながらも、具体化しないまま迎えてしまった苦境。出版業界の苦境を生々しく描く一方で、それでもどうにかできないか諦めずに活路を見出そうとし、それぞれの立場から何度もぶつかり合い、もがき苦しみながらも目をそらさずに真っ向から向き合って、いい作品を作り上げていく熱い思いは心に響くものがありました。 

忘却城 (創元推理文庫)

忘却城 (創元推理文庫)

 

忘却城に眠る死者を呼び覚まし、蘇らせる術で発展した亀琲王国。過去の深い傷を抱えた青年儒艮は盲獄と呼ばれる牢で死霊術師の長・名付け師と出会い、幽冥祭で起きる事件を阻止すべく動き出す中華風ファンタジー。許嫁を殺された盲目の死霊術師の少女と、これまた訳ありの過去を持つ教師・儒艮の二つの視点から語られてゆく展開で、複雑な設定を作中でもう少し上手く説明できると良かったですが、スケールの大きな世界観や積み重ねていった伏線を最後で巧みにまとめあげてみせた結末には可能性を感じました。もう少し広がりを期待したい作品ですね。

ひょんなことから名探偵・九条清春の秘書になった渡会透子。自称ご当地探偵の九条と堅物で真面目さが取り柄の透子が、地元で起きる奇妙な謎を解き明かしてゆく連作ミステリ。神奈川県川崎市を舞台に、ご当地アイドルに届いた脅迫状や今は亡き親友の宝物の正体、地元出身のオリンピック選手を巡る嘘、動物公園で起きた不審な出来事、絵馬紛失事件の真相。こじんまりとした謎が中心の展開でしたけど、ぐうたらな九条と透子の掛け合いもなかなか楽しく、解き明かす真相もまた優しく味わいのある結末だったりで、是非シリーズ化を期待したい作品ですね。

 

教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

 

北楓高校で起きた三人の生徒連続自殺事件。クラス内でも地味な存在の垣内友弘が、最高のクラスで起きた一連の不審死の謎を追う青春ミステリ。生徒に代々引き継がれてきた4つの特殊能力。不登校の白瀬美月から三人を殺した死神の存在を知らされた垣内が、突如引き継いだ特殊能力で他の能力者や犯人の正体を探ってゆく展開で、スクールカーストの力関係や伏線を巧妙に絡めながら、地味な特殊能力を駆使した殺人の結末へと導いていく展開はお見事。突きつけられた現実への失望があるからこそ、そんな彼にもたらされる一筋の光にぐっと来る物語でした。

わたしたち、何者にもなれなかった

わたしたち、何者にもなれなかった

 

高校時代の映画同好会に所属し映画で成功することを夢見ていた4人。しかし中心だった石田サキの突然の失踪で空中分解し、悔恨を抱えたまま12年が経過した彼女たちのもとに、サキの居場所を知らせる謎めいた電話がかかってくる物語。映画雑誌副編集長の夏美、束縛の強い夫に悩まされる佐和子、シングルマザーの弥生。すっかり変わってしまった彼女たちは未だ消えない悔恨が影を落としていて、そんな状況で十二年ぶりに再会したサキと過去の真相があって、止まったままだったかけがえのない思い出にようやく向き合えた彼女たちの姿が印象的でした。

これは花子による花子の為の花物語

これは花子による花子の為の花物語

 

高校時代の人間関係のトラウマをきっかけに、家から出られなくなり引きこもっていた花子。唯一の外との繋がりだったゲームアプリを通じてフリーターのレンと運命的な出会いを果たす恋の物語。積み重ねた二人の交流によって育まれてゆく想いと会う約束。緊張のあまり気を失う花子と、会っていないはずなのにいつのまにか増えていくレンとの思い出。お互い自信がなくて不安を隠せない二人を密かに支えてくれた存在があって、二人を繋ぐ運命的な繋がりもあって、過去を乗り越えた二人が勇気を持って一歩踏み出して未来に繋がってゆく素敵な物語でした。

ミネルヴァの梟は飛び立ちたい ~東雲理子は哲学で謎を解き明かす~

ミネルヴァの梟は飛び立ちたい ~東雲理子は哲学で謎を解き明かす~

 

外部から城京大学大学院に進学した東雲理子。修士課程で哲学を専攻する彼女が、海外帰りの新指導教員・大道寺哲の助けを借りながら日常の謎に挑む哲学ライトミステリ。返却したはずなのに戻ってくる哲学辞典、ある日を境に姿を見せなくなった喫茶店の常連、休みのない古本屋の理由、何度待ち合わせをしても会えない友人、研究室に代々伝わる謎の掟など、身近で起こった謎を哲学を絡め解き明かしていくエピソードを八編収録。理子と父親の関係は気になりますが、大学で哲学を教える研究者である著者さんの文章は読みやすく書かれていて楽しめました。

くらやみガールズトーク

くらやみガールズトーク

 

女性の人生には通過儀礼が沢山ある。自分で選んだ人生のはずなのに、古い社会通念の箱に押し込められ、じわじわと別のものに変容させられていく言えない恐怖が描かれる連作短編集。当然のように夫の名字を与えられ消えてしまう旧姓や独り暮らし、恋、子育て、親の痴呆といった相手の都合に振り回されて、自分でないものにされてしまうのではないかという深刻な不安は、男の人だとおそらくこうなんだろうなと想像はできても、当事者として直面した時どう感じるのかはまた別ものなんでしょうね。リアルで生々しい苦悩がとても印象に残った作品でした。

ぼくたちは勉強ができない 非日常の例題集 (JUMP j BOOKS)

ぼくたちは勉強ができない 非日常の例題集 (JUMP j BOOKS)

 

人気コミック「ぼくたちは勉強ができない」ノベライズ版。アンチエイジング薬で幼女化してしまった桐須先生の冒険、世界征服を目指す魔王・成幸と配下たちの顛末、胸が大きくなった文乃が実感した持てるものの悩み、忍者となった成幸と三人が桐須城へ侵入する四つの連作短編集。構成としては本編には直接絡まない形で描かれたエピソードで、たびたびネタにされる文乃がやや不憫な印象もありましたけど、全体としては原作キャラらしさが文章でも上手く再現されていて、いきいきとよく動く登場人物たちらしいお約束の展開を安心して楽しく読めました。