読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2019年10月に読んだ新作おすすめ本

10月に読んだ新作おすすめです。ラノベの新作は先月刊行分の後追いが多かったですが、語部マサユキさん待望のスニーカー文庫新作「疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが?」は幼馴染ものが好きな人にはオススメしたい一冊ですね。

 

ライト文芸だと新潮社文庫nexの「太陽のシズク」、富士見L文庫の「メイデーア転生物語」、LINE文庫「すべては装丁内」あたりは押さえておきたい一冊。少女漫画ノリがありなら一二三文庫の「藤倉君のニセ彼女」、じれじれ両片思い好きにはポルタ文庫の「小戸森さんは魔法で僕をしもべにしたがる」もオススメしたいところです。

 

一般文庫ではインパクト抜群の斜線堂有紀さんの「不純文学」、映画化の「屍人荘の殺人」、辻堂ゆめさんの「君の想い出をください、と天使は言った」あたりは要チェックですね。「後宮の花は偽りをまとう」あたりも遅ればせながら読みましたが、追いかけておきたいシリーズです。

 

単行本では何と言っても相沢沙呼さんの「medium 霊媒探偵城塚翡翠」ですが、これは今年注目の一冊になりそうです。額賀澪さんの「競歩」、そして「星砕きの娘」もなかなか読み応えのある一冊でした。

 

ちなみに今回Amazonの書誌がエラーになっているものが多くてあれですが、Kindle版もエラーなアイテムについてはそのうち表示されると信じてとりあえず表示しておきます。書影の印象もわりと重要なのでエラーになっているのはとても残念ですね...。

 

疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが? (角川スニーカー文庫) 語部 マサユキ

かつては仲良かった幼馴染・神崎天音とすっかり疎遠になってしまっていた天地夢次が、『夢を操る方法』という怪しげな本を拾い、異世界で幼馴染と結婚する夢を見る学園ラブコメ。今ではすっかり人気者の幼馴染と埋没している主人公が、夢の中で起きたことをきっかけにその大切な関係を取り戻してゆく展開で、そんな二人の不器用でも変わっていなかったそれぞれの思いも明らかになっていって、そして大切な彼女の危機的状況を打開すべく、リアルでも夢の中でも奮闘する展開は本当に良かったです。もし続巻があるようならまた是非読んでみたいですね。

朝比奈若葉と○○な彼氏【電子特典付き】 (MF文庫J)

朝比奈若葉と○○な彼氏【電子特典付き】 (MF文庫J)

 

クラスメイトの悪ノリから罰ゲームとして、学校一の嫌われ者・入間晴斗へのウソの告白を強要された内気な女子高生・朝比奈若葉。最初は嫌々始まったはずの晴斗との交際が、彼女を少しずつ変えてゆく青春小説。最初はやらされている感が満載だった下校やデートで、自分を気遣ってくれる晴斗の優しさや人間性に触れ、少しずつ彼を見る目を改めてゆく若葉。二人を取り巻くキャラも立っていて、彼女自身も明るさを取り戻していって、無自覚のうちにかけがえのない存在になってゆくのが分かるからこそ、最後の展開から続巻がどうなるのか気になりますね。

勇者の君ともう一度ここから。 (LINE文庫エッジ)

勇者の君ともう一度ここから。 (LINE文庫エッジ)

 

己と引き換えに狂神を討ち倒し世界を救った勇者セラフィルナ。一方、片腕を失って戦線離脱し失意の日々を送っていた剣聖・ジャンが、世界と彼女を救うために再び立ち上がるファンタジー。狂神を打倒した代償として呪いを浴びたセラを救うため、魔神器『ヴルムの真腕』を与えられて彼女のそばにいることを誓うジャン。ストーリーとしては登場人物も少なくシンプルな王道展開でしたけど、ずっと心残りで一度は諦めかけていた大切な人と再会し、これからも共にあるために2人で一緒に戦うことを決意したこれからの展開に期待したくなる物語でした。

シャドウ・サーガI -選定の剣と呪いの黒剣- (電撃文庫)

シャドウ・サーガI -選定の剣と呪いの黒剣- (電撃文庫)

 

アーサー王物語が大好きな日本の高校生・来人が大魔導士マーリンの弟子・リィナによって異世界グレートブリテンに召喚され、アーサーが死ぬ予言を覆すために奮闘するファンタジー。この世界では女の子のアーサーを召喚したリィナとともに支えてゆく展開で、状況に戸惑いつつも戦えるし、開き直った演技で流れを引き寄せてみせた来人の存在感はありましたけど、一方で女子は王位継承権がないなかで代わりに来人を影武者とした構図が今後どのように影響してくるか、優しくも相対的にやや影の薄かったアーサーの活躍に期待したいところではあります。

異世界誕生 2006 (講談社ラノベ文庫)

異世界誕生 2006 (講談社ラノベ文庫)

 

2006年、春。トラックにはねられて死んだ息子・タカシの遺したプロットを元にファンタジー小説を書きだした母・フミエ。そんな状況にうんざりするタカシの妹・チカが、タカシをはねた運転手・片山に相談する物語。片山が提案し、タカシの死から止まったままの時間を少しずつ動かし始めたウェブ小説の連載。ウェブ小説の扱いや公開したことで直面した悪意の数々や当時の時代感を懐かしいなと感じましたけど、一方でそれをきっかけに様々な思惑を持った人たちとの関わりが生まれて、それが停滞していた状況を変えてゆく展開が印象的な物語でした。

 

太陽のシズク ~大好きな君との最低で最高の12ヶ月~ (新潮文庫nex)

太陽のシズク ~大好きな君との最低で最高の12ヶ月~ (新潮文庫nex)

 

死に至る「宝石病」を患い海の見える高校に転校してきた理奈。親友や彼氏を作って最高の学園生活を送ろうと決意する理奈と、彼女のために受験を頑張る翔太が過ごした最高の12ヶ月の物語。運命の恋人と出会い、印象的な出会いを果たした美里と様々な出来事を経て大切な親友となってゆく理奈。彼女と自分の夢のために受験勉強する翔太が予備校で出会った仲間たち。違う時を過ごす中で不安やすれ違いもあって、それでも二人で育んできた確かな絆があって。そんな二人のかけがえのない日々を必ず読み返したくなる、とても鮮烈で印象に残る物語でした。

メイデーア転生物語 1 この世界で一番悪い魔女 (富士見L文庫)

メイデーア転生物語 1 この世界で一番悪い魔女 (富士見L文庫)

 

幼馴染に片想いしていた前世を時々夢に見る辺境貴族の令嬢マキア。運命的な出会いを果たした少年トールと魔法を学ぶ楽しい日々を過ごしていた彼女が、引き離されたトールと再会するために奮闘する転生ファンタジー。トールが救世主の守護者に選ばれ引き離されてしまう二人。トールと再会するため王都で最高峰の魔法学校を目指すマキア。学校では個性的な仲間もできて、選ばれていた救世主がまた前世でいろいろと因縁のあった存在で、抗いがたい運命に翻弄されるマキアとトールが大切な絆を守っていけるのか、続巻がとても楽しみな新シリーズですね。

すべては装丁内 (LINE文庫)

すべては装丁内 (LINE文庫)

 

著者から念願の詩集刊行ゴーサインをもらった新人編集者・甲府可能子。刊行条件でイラストの制約を受け、装丁デザイナー選びに苦戦する可能子が、編集長の紹介で腕利きだけれど偏屈な烏口曲に仕事を依頼するお仕事小説。情熱が空回りしがちな可能子と、理路整然と上から目線で仕事を選ぶ曲。一見、掴みどころのない曲にも、妥協をせずに最高のものを作り上げようとする熱い想いやこだわりがあって、彼に感化され多くの人に支えられながら、最高の一冊を作るために邁進する姿にはぐっと来るものがありました。続きが出るならまた読んでみたいですね。

藤倉君のニセ彼女 (一二三文庫)

藤倉君のニセ彼女 (一二三文庫)

 

学校一モテる藤倉君に自称・六八番目に恋をした尚。遠くから眺めるだけだった彼女が、ふとしたきっかけからモテすぎて女嫌いを発症した藤倉君の女除け役として「ニセ彼女」に立候補する青春小説。少女マンガのようにモテまくる藤倉を好きにならないという宣言から始まったニセ彼女生活。普通の男子生徒として扱ってくれる尚への安心感があって、一緒にいても苦にならない関係だからこそ少しずつ確実に変化してゆく二人の心境があって、ここまで拗らせるとどうなることか心配でしたけど、いつの間にか育まれていた大切なものに気づけて良かったです。

 小戸森さんは魔法で僕をしもべにしたがる (ポルタ文庫) 藤井 論理

園生くんから告白させるためにしもべにしようとする超絶奥手魔女の小戸森さんと、しもべでなく恋人になりたい超ド級の鈍感男子・園生くんのじれじれ両片想いストーリー。学校では非の打ち所がない美少女で人気者なのに、園生くんの前ではなぜかポンコツ魔女と化してしまう可愛い小戸森さんと放課後二人で過ごす密会の時間。彼女の乙女心になかなか気づけない彼の鈍感っぷりがもどかしい二人で、ものの見事にドツボにハマっているというか、チャンスに空振りばかりでなかなか前途多難でしたけど、最後は何か二人らしいなと思えた結末でしたね(苦笑)

小麦100コロス マンション管理士による福音書 不正な管理会社のたとえ (集英社オレンジ文庫) ゆきた 志旗

ブラック上司と対立し、大手管理会社を辞めてマンション管理士として独立した創士郎。不安いっぱいの開業早々、インターン志望の女子高生・紫が押しかけてくる物語。正直なところ読めば読むほどマンション管理士で独立する不安を痛感する展開でしたけど、彼なりの意地もあったんでしょうね。いろいろ手伝った末にようやく近所の大規模マンション管理組合の顧問に食い込むきっかけを得て、因縁の元上司と対峙する展開で紫の意外な正体や押しかけてきた理由も明らかになって、それらに懸命に向き合う創士郎たちの奮闘とその結末は悪くなかったですね。

虹を蹴る (集英社オレンジ文庫)

虹を蹴る (集英社オレンジ文庫)

 

三十歳を前に同棲していた彼に捨てられた山田瑞希。倒れた母親に代わって央学高校ラグビー部員たちが暮らす代理寮母を任され、そこで天才肌のスタンドオフ・逸哉や人知れず努力を重ねるウィング・龍之介たちと出会う青春小説。ラグビー監督だった父に反発し、ラグビーのことをほとんど知らなかった瑞希。寮母として彼らと付き合ううちに、一見分かりづらいそのひたむきなラグビーに対する思いを知り、だんだん感化されて支えるようになってゆく展開はベタではありましたけど、随所にわかりやすいラグビーの解説もあったりでなかなか良かったですね。

ヴァンパイア探偵 --禁断の運命の血-- (小学館文庫キャラブン!)

ヴァンパイア探偵 --禁断の運命の血-- (小学館文庫キャラブン!)

 

昔から殺人事件が多いことで有名な紅森市。紅森署に勤める刑事の桃田遊馬と、血液研究のスペシャリスト・天羽静也のコンビが「血」を手がかりに難事件に挑むブラディ・ミステリ。被害者の服についていた血液の正体、逃亡者が抱える秘密、手首だけ見つかった被害者の妄執、そして殺された女性の首に残された痕の謎。今の時代、血を分析することによってそこまで分かるのかという密かな驚きもありましたが、運命の血と天羽家を巡る因縁に苦悩する静也と、それでも変わらない遊馬の友情がとても印象的な物語でした。続編あるならまた読んでみたいです。

イマドキ女子高生の美香が帰宅途中のゴミ捨て場で見つけた金管楽器コルネット。そのコルネットに憑いていた同い年の幽霊・紫乃と出会う青春小説。紫乃に体を預けてコルネットが吹けるようになった美香。紫乃の夢でもあり、先生目当てで入った吹奏楽部は思った以上に厳しくて、その態度にいら立つ吹奏楽男子・川崎もいて、何度もうんざりしてめげそうになりながらも部員たちそれぞれの想いを感じて、そしてみんなの頑張る姿にも感化されて紫乃の想いも知って、少しずつ下手な自分に向き合って変わってゆく美香のこれからを応援したくなる物語でした。

相手の気持ちに人並み以上に共感してしまう「エンパス」の能力に悩む根暗高校生・シンヤ。自分の本心を見抜いた彼を好きになってしまった元気少女・まひるの恋模様を描いた青春小説。過去の苦い思い出から心を閉ざしていたシンヤが、まっすぐにぶつかってくるまひると出会い、感化されて変わってゆく展開で、彼の周囲にもだんだん人が増えて、きっかけをくれたまひるやその友人たちにもそれぞれ抱える複雑な想いや事情があって、葛藤する友人を支えながら自らの想いにしっかりと向き合ってゆく不器用な彼らの姿には応援したくなるものがありました。

 

不純文学 1ページで綴られる先輩と私の不思議な物語 (宝島社文庫)

不純文学 1ページで綴られる先輩と私の不思議な物語 (宝島社文庫)

 

本を読むのが好きな「先輩」と一緒にいる「私」。私と先輩の二人が織り成す奇妙で不思議で切ない掌編集。本作は右ページに章題、左ページに1ページ完結の私と先輩の話が全120話ひたすら続くシンプルな構成。様々なシチェーションで私と先輩の関係が綴られて、時には不純に、時には愛しく、時には複雑な気持ちで先輩を想う私がいて、一見淡々としているように見える不器用な先輩の私への優しさがあって、そんな二人のエピソードの積み重ねがクセになってゆく、どんな状況でもお互いを大切に思う気持ちは変わらない姿がとても印象的な物語でした。

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

 

神紅大学ミステリ愛好会会長の探偵・明智恭介と助手・葉村譲が、もう一人の探偵・剣崎比留子と共に紫湛荘を訪れ、予想もしなかった事態で荘内に籠城を余儀される中、次々と連続殺人事件が起きるミステリ。過去に因縁あるペンションでの夏合宿で、思わぬ形で閉じ込められた参加者たち。外部からの脅威による惨劇と、次々と起きる因縁じみた殺人事件の組み合わせが奇抜で事態をより難しいものにしていましたけど、その特殊な状況下で起きた事件の真相は切なくて、そんな事件を見事解決に導いてみせた探偵たちのその後をまた読んでみたいと思いました。

君の想い出をください、と天使は言った (角川文庫)

君の想い出をください、と天使は言った (角川文庫)

 

急性脳腫瘍で入院し、医師の態度から最悪の結果を察してしまい絶望する河野夕夏。その夜悪魔を名乗る不思議な青年と出会い、大切なものと引き換えに命を助ける取引を交わす恋愛ミステリ。二年間の記憶を失って様々な違いに戸惑いながらも再び職場の銀行で働き始める夕夏と、そんな彼女の前にアフターフォローとして再び現れた青年・水上。記憶が戻らなくても確実に前に進めている実感があって、そんな彼女を気にかけてくれる人たちがいて、そんな中で本当に大切なものを再び見出して、これまでの全てが繋がってゆく結末がとても素敵な物語でした。

後宮の花は偽りをまとう (双葉文庫)

後宮の花は偽りをまとう (双葉文庫)

 

大陸西方の相国で部署を渡り歩いて勤続十年の三十路手前の女官吏・陶蓮珠。新皇帝の双子の弟・郭翔央から声を掛けられて、新皇帝が娶る予定だった威国の妃の身代わりとなる中華後宮ファンタジー。威妃を迎えに行くと新皇帝が姿をくらませ、双子の弟・翔央と共に威国語を話せる蓮珠がその身代わりを務める展開。官吏としては有能で、自ら抱えてきた想いや翔央から聞いた志から、新皇帝即位を巡る陰謀を何とかしようとして空回りする蓮珠がやや危なっかしかったですが、そんな中でお互い惹かれつつある翔央との今後がなかなか楽しみなシリーズですね。

 

medium 霊媒探偵城塚翡翠

medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎が出会った、霊媒として死者の言葉を伝える城塚翡翠。そんな彼女の霊視と論理の力を組み合わせて殺人事件に立ち向かうミステリ。殺された香月の後輩、招待された別荘で殺された先輩作家、女子高生連続の犯人を警察に協力する二人が翡翠の霊視と香月の論理で何とか解決してゆく展開で、けれど最後の連続殺人犯との対峙は、これまで積み重ねて来たものの何が虚で実だったのか分からなくなる急展開に繋がって、その何とも鮮烈で皮肉に満ちていた決着をいろいろと想起させるエピローグが際立たせていました。

競歩王

競歩王

 

天才高校生作家と持て囃されてデビューしながら、その後は燻っていた大学生・榛名忍。競歩リオ五輪ハイライト番組を見て号泣する八千代と出会い競歩という競技にのめり込んでゆくスポーツ小説。最初は気乗りしないまま始めた競歩の取材。そんな忍に不機嫌を隠そうともしない八千代を追ううちに自らの苦悩も重ねて、ライバルたちと競い東京五輪を目指す八千代の苦闘のめり込んでゆく展開はとても重く苦しかったですが、それでも向き合い続けてきたからこそ見えたもの乗り越えられたこともあって、そんな彼らの結末にはぐっとくるものがありました。

星砕きの娘

星砕きの娘

 

魔の化生、鬼の跋扈する地、敷島国。幼い頃に鬼に浚われ て囚われの身となっていた豪族の跡取り・弦太が、蓮の蕾から変化した赤ん坊・蓮華と運命の出会いを果たす和風ファンタジー。囚われて七年後、美しさと強さを兼ね備えた娘に成長した蓮華と弦太が迎える転機。弦太が後継者ゆえのままならなさを痛感する一方で、彼を慕う蓮華との間には変わらない強い絆があって、周囲の複雑な想いを絡めて二転三転してゆく激動の展開に翻弄されながらも、数奇な運命に向き合って決然と立ち向かった二人がたどり着いた粋な結末にはぐっと来るものがありました。