読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2019年7月に読んだ新作おすすめ本

7月の新作は豊作で読んでるシリーズものも多かったのでその兼ね合いでどれを選ぶかほんとに迷いました。でもそんな中でも選んだ新作はみんな面白かったですね。

 

ラノベだとやはり今後の展開に期待したくなるスニーカー文庫の「ロードス島戦記」や第13回小学館ライトノベル大賞<ガガガ賞&審査員特別賞>の「夏へのトンネル、さよならの出口」、ラノベ文庫「あなたのことを、嫌いになるから。」、オーバーラップ文庫友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ?」、ファンタジア文庫黒猫のおうて!」など、興味深い作品が多かったです。

 

ライト文芸では斜線堂有紀さんの「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」、一般文庫では映像化も期待したい野崎まどさんの「Hello world」、単行本では似鳥鶏さんの「育休探偵」も良かったですけど、砥上裕將さんの「線は、僕を描く」と一木けいさんの「愛を知らない」が頭一つ抜けてました。どちらも今後の作品に注目したい作家さんになりそうです。

 

ロードス島戦記 誓約の宝冠1 (角川スニーカー文庫)

ロードス島戦記 誓約の宝冠1 (角川スニーカー文庫)

 

 呪われた島ロードスに平和が訪れて百年、フレイムの王位継承者に禁忌を犯すディアスが現れ、不戦の誓いに仇なす帝国に対抗すべくマーモ公国の王子・ライルたちが立ち上がる新たなロードスの騎士を巡る物語。前作から百年後の世界で圧倒的な力を誇るフレイム王国を軸とした争乱に、マーモ公国の王子・王女たちがそれぞれ動き出す群像劇的な展開でしたけど、特にここからどう状況を覆すのか期待したい主人公・ライルと、あえてフレイムに身を投じたその兄・ザイードという対照的な二人が物語を盛り上げてくれそうです。いやこれは続巻が楽しみですね。

夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

 

海に面する田舎町・香崎。家族崩壊させた過去を悔やむ高校生・塔野カオルが、クラスで浮いた存在になっていた転校生・花城あんずと互いの欲しいものを手に入れるため協力関係を結ぶ青春小説。夏の日のある朝、塔野カオルが偶然耳にした、中に入れば年を取る代わりに欲しいものが何でも手に入る『ウラシマトンネル』の都市伝説。周囲との関係を拒絶していたあんずの言動はなかなかぶっ飛んでいましたが、彼女との協力関係から始まった二人の不器用なやりとりはとても甘酸っぱくて、大切なものに向き合った二人の結末にはぐっと来るものがありました。 

あなたのことを、嫌いになるから。 (講談社ラノベ文庫 ひ 7-2-1)

あなたのことを、嫌いになるから。 (講談社ラノベ文庫 ひ 7-2-1)

 

感情が昂ぶると最悪死に至る病『感情性自己免疫疾患』。そう診断されて以来、感情を無価値なものだと思い生きてきた四東愛都が、笑顔を絶やさない元気なクラスメイト奈々川恵実と出会う青春小説。事情を知らないまま一緒に過ごす時間を増やしていく積極的な恵実、愛都を見守ってきたいとこの春乃と主治医の橙香。命を落とすかもしれないと知りつつも育まれてゆく感情と、大切な存在だからこそ分からなくなってゆく複雑な想いがあって、手放したくない共にありたいと葛藤し続けた二人の選択がとても印象的な物語でした。

友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ? 1 (オーバーラップ文庫)

友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ? 1 (オーバーラップ文庫)

 

目つきの悪さから不良のレッテルを貼られた友木優児。『主人公キャラ』池春馬以外に誰も近寄らない彼が、春馬の妹で美少女の池冬華に突然告白されるラブコメディ。腑に落ちない告白の真意を問いただす優児と、思うところあって彼とニセの恋人関係を結んだ新入生の冬華。外見がアレで不器用だから誤解されがちだけれど、困った人を助けることを厭わず、相手にきちんと真摯に向き合える優児の良さを知ってゆく人が増えていって、そんなエピソードを積み重ねて冬華の想いも変化してゆく展開がとても良かったです。これは続巻に期待の新シリーズですね。

黒猫のおうて! (ファンタジア文庫)

黒猫のおうて! (ファンタジア文庫)

 

奨励会三段リーグを全勝しながら突如理由も告げずに将棋界を去った天才棋士長門成海。そんな彼のもとに強くなりたい一心でゴスロリ猫耳姿で女流棋士三河美弦が弟子入りを志願する将棋小説。服装にインパクトはありますが、ストーリーとしては将棋から距離を置いていた成海が、将棋で強くなるために真っ直ぐにぶつかってくる美弦の熱い想いに心揺さぶられてゆく展開で、美弦の姉で女流棋士の美夏や初心者の大家の娘・茜も絡めつつ、真摯な想いを胸に秘めた美弦が因縁のプロ棋士加賀薫七段に挑む戦いとその結末には強く心に響くものがありました。

処刑少女の生きる道(バージンロード) ―そして、彼女は甦る― (GA文庫)
 

過去に起きた人災で異世界からの召喚者は見つけ次第処刑される世界。躊躇なく冷徹に任務を遂行する処刑人の少女・メノウが、迷い人の少女アカリと運命の出会いを果たすファンタジー。不可避に思えた運命をあっさり乗り越えるアカリと、そんな彼女に調子が狂わせながらも決着をつけるべく二人で旅するメノウの距離感がなかなかいい感じで、それに処刑人補佐のモモや王の娘アーシュナといった魅力的なキャラを絡めて展開する物語の安定感には驚かされました。ワケありな二人の旅がこれからどのようなものになるのか、続巻が楽しみな新シリーズですね。

全肯定奴隷少女:1回10分1000リン (MF文庫J)

全肯定奴隷少女:1回10分1000リン (MF文庫J)

 

英雄に憧れて冒険者になった少年・レンが、公園で見かけた貫頭衣を身に纏う銀髪で奴隷姿の全肯定少女。彼女に1回10分1000リンで全肯定してもらううちに、肯定された人々の心境も変わってゆくファンタジー。怪しい看板を掲げて全肯定・全否定を使い分けつつ悩める人々を導いてゆく奴隷少女のお悩み相談。シンプルなストーリーから垣間見えてくる彼女の事情があって、彼女に励まされながら成長してゆくレンの物語があって、そんなエピソードの積み重ねが効いてくる展開が印象的でした。彼らの微笑ましい恋模様の行方も気になるところですね。 

スーサイド少女 (講談社ラノベ文庫 え 2-1-1)

スーサイド少女 (講談社ラノベ文庫 え 2-1-1)

 

立入禁止の屋上が主な生息地の高校生・因幡が、そこで出会った先輩の鈴鹿涼子。飛び降り自殺を止めた鈴鹿に興味を覚えた因幡が、いじめられっ子の後輩・小刑部智世とともに鈴鹿のストーキングを始める青春小説。死のうとしては無感動にやめる鈴鹿の背中を押したいと感じ、小刑部のストーキング技術を使って鈴鹿の心情に迫ってゆく因幡。それぞれが抱えるどうにも屈折した想いは複雑で、執着ゆえにその行動もどんどんエスカレートしていって、育まれてゆく奇妙な連帯感をぶち壊し本音でぶつかり合ってしまう不器用な彼らの結末は悪くなかったですね。

 

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

 

片田舎の劣悪な家庭環境に育ち将来に希望を抱けずにいた少年・日向が、身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子と運命の出会いを果たす壮絶で切ない最後の夏の物語。死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛けた弥子と、相続の条件として提示された古い盤上ゲーム・チェッカーを通じて心を通わせてゆく日向。絶望を抱えた二人が惹かれていけばいくほど、彼女の死に三億円の価値があることの意味が重くのしかかってきて、明かされてゆくそれぞれの秘密と葛藤の末に二人が選択した「正解」がとても印象的な物語でした。

鑑定する店主は鬼の男・鬼蔵。彼を支えるのは人間の妻・渚。鴫沢古物店に集まるアンティークにまつわる小さな不思議を奇妙な縁で夫婦となった二人が解き明かしてゆく物語。真空管ラジオから流れるもう会えない母親の声、ドールハウスに住む小さな住人たちと家族の絆、戦地に向かった夫と妻を繋ぐめおと茶碗。昭和最後の夏を舞台になかなか素直になれない家族関係に関わって解き明かしたり、亡くなった夫婦の過去を探る中で鬼蔵と渚の出会いのエピソードも絡めてゆく展開は、時折切なさを感じさせつつも最後には良かったなと思える素敵な物語でした。

文具店シエル ひみつのレターセット (メディアワークス文庫)

文具店シエル ひみつのレターセット (メディアワークス文庫)

 

商店街の一角にある文具店・シエル。突然兄から店を任された空良は、無愛想な看板猫と共に毎日店に立ち、店にやってくるのは様々な悩みを抱えた人たちに文具を紹介することで解決に導いてゆく物語。辛い現実に直面して引きこもっていた空良が、文具店で手紙でやり取りをする少女、母親が消したい秘密、旅立つ部下への餞別、夫が使っていたインクを探す老齢の女性と出会い、不器用なりに訪れた人たちのために何とかしたいと思う彼女の気持ちはとても真摯で、ようやく気づけた自分の大切なものに向き合うようになってゆく展開はなかなか良かったです。

後宮妃の管理人 ~寵臣夫婦は試される~ (富士見L文庫)

後宮妃の管理人 ~寵臣夫婦は試される~ (富士見L文庫)

 

右丞相の珀皓月と結婚し、妃嬪の健康管理と美容を維持して後宮を管理することを帝より命ぜられた大手商家の娘・優蘭。女装して後宮にたびたび出入りする夫とともに夫婦で後宮の闇に挑む物語。背景に政治的対立もあったりで、妨害工作の末に身の危険を感じたりしながらも、損得勘定を計算しつつも、要所を抑えて妃嬪たちに向き合っていく優蘭がいいですね。高級貴族で美丈夫の皓月もワケありでいろいろ大変なんだなあと思いつつも、不器用なりに妻となった優蘭を大切にしようという思いが感じられてよかったです。続巻出たらまた読んでみたいですね。

主婦やめます! 家事代行チーム松竹梅 (富士見L文庫)

主婦やめます! 家事代行チーム松竹梅 (富士見L文庫)

 

育ち盛りの子供を抱えて夫が突然のリストラ。松枝梨沙は、姑の反対や子供といたい葛藤を押し切り、主婦友の奥竹美加子、汐田梅の3人で、会社の立ち上げを決意する物語。資格マニアの梨沙、人脈が広い美加子、知恵袋の梅で組んだ家事代行『チーム松竹梅』。喧嘩した雑誌編集長と奥さんの仲を取り持ったり、訪問先の引きこもりの息子を気にかけたり、訪問先の事情にやや首を突っ込みすぎる感もありましたけど、局面を打開する彼女たちのスキルや、家事代行業を始めたことで周囲との関係が変わってゆく展開はなかなか良かったですね。続巻にも期待。 

 

HELLO WORLD (集英社文庫)

HELLO WORLD (集英社文庫)

 

本好きで内気な男子高校生直実が、突如現れた「未来の自分」ナオミから未来の恋人・瑠璃の存在と彼女が事故死する運命を聞かされ、悲劇の記録を書き換えるため奔走する青春恋愛SFノベライズ。仮想と現実の混じり合う世界を舞台に、未来の自分と出会ったことでその過去をなぞって瑠璃との距離を縮めてゆく直実。けれど直実にも育まれていた瑠璃への想いがあって、ナオミにも秘められた切実な願いがあって、世界が転回する中でも変わらない彼女を真摯に想う二人が導く結末にはぐっと来るものがありました。これは映画が楽しみになる世界観ですね。 

ウタカイ  異能短歌遊戯 (ハヤカワ文庫JA)

ウタカイ 異能短歌遊戯 (ハヤカワ文庫JA)

 

短歌を歌い異能「歌垣」を互いにぶつけあう「歌会」。歌聖高校に通う一年生の登尾伊勢が、最大のライバルであり先輩の朝良木鏡霞への燃える恋心をウタに乗せて、歌会の全国高校選抜トーナメントに挑む物語。先輩に対する想いに葛藤しながら、個性派揃いの他校の少女たちとの試合を勝ち抜いていくひたむきな伊勢の想いが熱くて、つまるところ先輩への愛なんだよなあというか、先輩も何だかんだいいながら真摯に向き合っていて、対戦相手の名前やエピソードはややアバウトな印象もありましたけど、そのシンプルで真っ直ぐな展開が心地よかったです。 

自殺予定日 (創元推理文庫)

自殺予定日 (創元推理文庫)

 

再婚してわずか二年。父の死後、遺産とビジネスを継ぎ様々なものを変えてゆく継母の姿に父を殺したと確信する女子高生瑠璃は、自らの死で罪を告発するため山奥で首を吊ろうと決意するミステリ。自殺の名所で出会った幽霊の裕章と交わした、一週間以内に証拠が見つからなければ自殺するという約束。探っていくうちに継母への疑惑が膨らんでいく瑠璃。そこからの急展開と明らかになってゆく真相は、見えていたものの印象をガラリと変えていって、瑠璃が改めて実感した大切なものへと思いと、新たな人生を予感させる結末はぐっと来るものがありました。

魔法使いと契約結婚 ふしぎな旦那様としあわせ同居生活 (双葉文庫)

魔法使いと契約結婚 ふしぎな旦那様としあわせ同居生活 (双葉文庫)

 

結婚コンサルタントとして働くアラサー会社員・深月が、飲み会の帰り道に行き倒れていたイケメン魔法使い・キリヤを拾い、契約結婚を申し込んできた彼とおためしの同棲生活を送る契約結婚ブコメディ。炊事、洗濯、掃除など、全ての家事を引き受けてくれるという甘い言葉に負けて同棲生活を始めた深月。出会いはあれでも深月のそれまでの生活崩壊ぶりを思えば、胃袋掴まれて快適な生活提供されたらハマりますよねよね…という分かりやすい展開でしたが、彼の優しさを実感して自覚した想いに向き合うようになってゆく結末はなかなか良かったですね。

絵画療法の第一人者・熊沢が営む心療所にインターンとしてやってきたスクールカウンセラーを目指す大学院生・日向聡子。様々な悩みを持つ人々の本心や過去を、絵を通して解決していく物語。飛行機に強い恐怖心があるサラリーマンや、スマホ依存に悩む学生、ユニコーンの絵ばかり描く少女、認知症で自宅に帰れなくなった老女、そして幼少期の記憶がない聡子自身の過去。描かれた絵をヒントに症状を解決してゆくミステリーで、繊細な心理を抱える人に寄り添う優しさから導かれ、明らかになってゆく謎とそれぞれの結末はなかなか良かったと思いました。

(P[し]3-1)終電前のちょいごはん: 薬院文月のみかづきレシピ

(P[し]3-1)終電前のちょいごはん: 薬院文月のみかづきレシピ

 

福岡の古いビル2階にある小さなお店「文月」。三日月から満月の間だけ営業する店主の文が作る季節のちょいご飯が訪れる人たちの心を癒やす物語。思うような仕事ができないインテリアデザイナー、結婚を焦るアラサー女子、地方出版社の編集、実家の和菓子屋を手伝う男の憂鬱、突然亡くなった友人、人事部の古株女子社員、受付社員の片思い、仕事に生きる百貨店員といった登場人物同士を絡めつつエピソードを構成する中で、のんびりとマイペースな文がまたいい感じに効いていました。巻末レシピも良かったですし続編があるならまた読んでみたいです。

(P[お]5-1)世界の終わりと嘘つき少女 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[お]5-1)世界の終わりと嘘つき少女 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

幼馴染の平間律さえいればいいと他人と距離を取っていた遠河れん。そんな彼女が不思議な空の写真を撮影する黒百合やそれに感化された赤穂と出会い、少しずつ変化してゆく青春小説。黒百合の印象的な写真をきっかけに関わりが増えていった三人が、共に過ごす時間が増えてゆく中で育まれてゆく絆と、少しずつ垣間見えてゆくそれぞれが抱える事情。不器用ゆえにすれ違いを解消できない彼女たちがもどかしかったですが、それぞれが抱える葛藤に向き合い、窮地に陥った友達のために奔走して、一緒に乗り越えた先にあった結末はなかなか良かったですね。 

 

線は、僕を描く

線は、僕を描く

 

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生・青山霜介。アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、初めての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく青春小説。湖山に気に入られてその場で内弟子にされた霜介と、反発して翌年の「湖山賞」での勝負を宣言する湖山の孫・千瑛。初心者ながらも水墨画にのめり込んでいく霜介に、彼と関わるうちに千瑛もお互いに刺激を受けて変わっていって、才能だけでも技術だけでもない水墨画の世界で、その本質に向き合い続けた二人が迎える結末には新たな未来が垣間見えました。面白かったです。

愛を知らない

愛を知らない

 

ヤマオの推薦で合唱コンクールのソロパートを任された高校二年生の橙子。親戚でクラスメイトの涼の視点から彼女の苦悩と決意が描かれる青春小説。気難しくて周囲から浮いていた橙子に期待するヤマオ、一緒に練習することになった伴奏役の涼と委員長で指揮者の青木、共に過ごす中で意外な一面を見せてゆく橙子が抱える苦悩。これまで見えていたものがガラリと反転した世界で、どうにもならないところまで拗れてしまった関係があって、やりきって勝ち取った結果にはぐっと来ましたが、だからこそその先にあったこの物語の結末が胸に突き刺さりました。

育休刑事

育休刑事

 

生後三ヶ月の息子・蓮のため、刑事としては初めての育休に挑戦中の県警本部捜査一課・秋月春風。育休中なのになぜか次々と事件に巻き込まれてゆく物語。妻の親友でもある秋月の姉に助けられたり振り回されたりしながら、子連れで質屋強盗殺人事件に巻き込まれラッピングカーのアリバイ作りを目撃し、爆弾騒ぎに巻き込まれたりと、子連れで何度も引っ張り出されて事件解決に奔走する状況は育休としてどうなんだとも思いましたが、最後に明かされた妻の沙樹の事情を知ると育休に至った経緯には納得。彼らにはまたどこかの作品で会ってみたいですねー。

何度でも、紙飛行機がとどくまで

何度でも、紙飛行機がとどくまで

 

10年前に出会って結婚し、もうすぐ子供が生まれるはずだった明良と千花。二人が事故に遭遇し出会う日の10日前に戻って抜け出せないループに気づく青春小説。友人たちの協力を得て再び千花と出会い、自らの人生をやり直そうとする明良。しかし些細な差異がやり直しに繋がり、やり直すたびに少しずつ失われてゆく彼女の記憶。この物語の重要なポイントになったもうひとつのエピソードも印象的で、試行錯誤の中で垣間見えた別の幸せや未来を知りつつも、最後まで諦めなかった二人の物語の結末に残されたもう一つの可能性を信じてみたくなりました。

九度目の十八歳を迎えた君と (ミステリ・フロンティア)

九度目の十八歳を迎えた君と (ミステリ・フロンティア)

 

通勤途中の駅のホームで十八歳のままの姿の高校の同級生・二和美咲の姿を目撃した間瀬。周囲は感じない違和感を持った彼が、九度目の十八歳を迎える彼女の謎を追う追憶のミステリ。間もなく三十歳になる間瀬と再会した十八歳の美咲。十八歳の繰り返しから彼女を解放するため、かつての友人や恩師を訪れる展開では、再会する夢破れた同級生たちのありようや、振り返る自らの過去やかつて抱いた美咲への想い、そして回収されてゆく伏線の先には当時知り得なかったほろ苦い真相があって、けれどそれだけでは終わらない結末がとても印象的な物語でした。

みどり町の怪人

みどり町の怪人

 

埼玉県のローカルな田舎町・みどり町。以前あった未解決の殺人事件もあって、どことなく閉塞感を感じさせる小さな町に都市伝説の噂も絡んで怪人が出ると噂されるミステリ。地方FM局の放送がきっかけで全国的に広まっていくみどり町の怪人の伝説。閉塞的な地域ゆえに登場人物たちが思わぬ形で繋がっていて、そんなみどり町に住む人々の鬱屈からの魔が差したとしか思えない行動が、結果として意外な真実に結びついていって、みどり町の怪人の噂が燻るようになかなか消えない理由と、ひっそりと収束した過去の事件の意外な結末が印象的な物語でした。