読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2019年9月に読んだ新作おすすめ本

というわけで 9月に読んだ新作おすすめ本です。ラノベは何といっても犬村小六さんの「プロペラオペラ」ですよ。幼馴染大好きな著者さんなので、これからいろいろ紆余曲折ありそうですが、この言葉を信じて続巻を待ちたいと思います。

 それ以外にもHELLO WORLD if」の勘解由小路三鈴スピンオフとか、「魔弾の王と聖泉の双紋剣」とか、単行本でも「由比ガ浜機械修理相談所」などはなかなか良かったですね。

 

ライト文芸は白川紺子さんの和風ファンタジー三日月邸花図鑑」くらいしか新作読めなかったですが、残りは9月に少し崩していきたいところ。一方の一般文庫は豊作で、浅羽なつさんの文春文庫「どうかこの声が、あなたに届きますように」は要注目の一冊。宝島社文庫木曜日にはココアを」「薬も過ぎれば毒となる」「オタクと家電はつかいよう」も良かったですし、額賀澪さんの「君はレフティ」も青春小説として秀逸でした。

 

単行本はやはり伴名練さんの「なめらかな世界と、その敵」でしょうけど、逸木裕さんの「電気じかけのクジラは歌う」、凪良ゆうさんの「流浪の月」、青山美智子さんは二冊目ですが「鎌倉うずまき案内所」、そして森晶麿さんの「キキ・ホリック」あたりも注目しておきたい作品ですね。

 

プロペラオペラ (ガガガ文庫)

プロペラオペラ (ガガガ文庫)

 

追い詰められた極東の島国・日之雄。悲壮な決意で駆逐艦「井吹」の艦長として戦いに挑む皇家第一王女イザヤのもとに、かつて最低の事件を起こして皇籍剥奪された幼馴染・クロトが部下として乗り込む空戦ファンタジー。敵国ガメリア合衆国で投資家として成功していたクロトが日之雄に戻ってきた理由。苦戦必至の状況の中、超傲慢で頭が切れてバカがつく努力家クロトが、アホな部下たちと共にイザヤを支えて大逆転に導く熱い展開で、異国で台頭しつつある因縁のライバルの魔の手から彼女を守りきれるのか、これは今後がとても楽しみなシリーズですね。

平凡で物静かな中学生活を送っていた三鈴のもとに、ある日未来からやってきたミスズ。とても大切な二人を助けるため過去に来た彼女を助けることを決める、勘解由小路三鈴を主人公としたもう一つの物語。恋と気づかないまま失恋した中学時代。未来の自分と出会い変わってゆく三鈴が出会った直実と瑠璃、彼らの恋を見守るうちに気づいてしまった自らの想い。原作ではキーマン然とした存在感があったのに、なぜかその後の展開に絡んでこなかった三鈴の想いや葛藤が掘り下げられていて、本編にはない大切な人たちのために頑張る姿がとても良かったです。

魔弾の王と聖泉の双紋剣 (ダッシュエックス文庫)

魔弾の王と聖泉の双紋剣 (ダッシュエックス文庫)

 

ジスタートの戦姫・エレンの下で働く弓使いの青年・ティグルと副官リム。故あって突如攻め入ってきた敵国・アスヴァールの真っ只中で孤立した二人が、アスヴァール王女ギネヴィアと出会うもうひとつの物語。三百年も前の建国者・アルトリウスが蘇り、瞬く間に国を掌握してしまったアスヴァールを舞台に、二人がギネヴィアを助けて奮闘する展開で、並行して描かれるもうひとつの物語と舞台や一部登場人物が被る別展開という点はやや気になりましたが、お互い意識し複雑な想いも抱えながらも、力を合わせて戦う二人の物語はこれはこれで良かったです。

人類が圧倒的な銃の力でファンタジー種族を滅ぼしてゆく時代。エルフの村で育った人間の少年・ガーディが村の掟を破ったことで追放され、金貨姫フローリンが治めるイントラシア領に身を寄せるファンタジー戦記。剣も槍もロクに扱えず秘められし権能も「究極のお人好し」な主人公カーディが、エルフの村でバカにされながら培った知恵と経験、時代遅れになりつつある弓や妖精たちを駆使して戦い、未来の大軍師に向けた第一歩を踏み出す姿はなかなか印象的でした。そんな一風変わった作品をどう評価するのか他の人も読んでみたいと思いました。

由比ガ浜機械修理相談所 (DENGEKI)

由比ガ浜機械修理相談所 (DENGEKI)

 

リアルなヒューマノイド「TOWA」を助けたい想いが空回りして挫折した若宮氷雨。世間から逃げるように鎌倉に機械修理相談所を開いた彼の元に、TOWAの結を伴った戸川が訪れる物語。十五億で結を売ってほしいという戸川の依頼から買ってくれる人を探すことになった氷雨。束の間の彼女と共に過ごす日々で少しずつ変わってゆく心境。けれどそれに素直に向き合えない苦い過去があって、不器用過ぎる氷雨の葛藤もありましたけど、様々なことが繋がって明らかになってゆく過去や、今の大切な想いにきちんと向き合えた結末がとても素敵な物語でした。

 

三日月邸花図鑑 花の城のアリス (講談社タイガ)

三日月邸花図鑑 花の城のアリス (講談社タイガ)

 

父が亡くなったことで、大名庭園を敷地内に持つ三日月邸を相続し、探偵事務所を開業した八重樫光一。そんな事務所を訪れた不思議な少女・咲に出会い三日月邸を巡る謎に迫る和風ファンタジー。「庭には誰にも立ち入らないこと」という亡父の謎の遺言。咲と踏み入った庭で出会った人々の悔恨と、彼らのためにそれを解消してゆくお人好し探偵・光一。八重樫家とは険悪の仲と聞いていた牧家の兄妹たちとの出会いがあって、明かされる過去や庭園の真相には切ない気持ちになりましたが、光一と不器用な牧兄妹たちのやりとりが妙にツボにハマる物語でした。

 

 

地下アイドル時代に心身に深い傷を負い、鎌倉の祖母のもとでひっそりと生活を送っていた小松奈々子20歳。そこに突然現れたラジオ局ディレクター黒木から番組アシスタントにスカウトされる物語。母親に認められるために頑張っていたアイドル活動に挫折して、希望を失いかけていた奈々子が挑戦するラジオの世界。戸惑いながら始めた彼女が多くの人に支えられて成長し、切実な日々を生きるリスナーたちと交流を深めていって、何度か危機に直面しながらも、これまでの放送で積み重ねてきたみんなの力を合わせて乗り越えていくとても素敵な物語でした。

木曜日にはココアを (宝島社文庫)

木曜日にはココアを (宝島社文庫)

 

川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる...小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる些細な出来事の積み重ねが、最後に繋がってゆく連作短編集。登場人物たちがどこかでさり気なく繋がっている連作短編集で、行き詰まっていた登場人物たちが新たな出会いや今まで気づかなかった優しさに触れて、見える世界を少しだけ変えていって、連鎖反応的に繋がってゆく物語がもたらした勇気と、それがもたらした結末がとても素敵な物語でした。最初のエピソードが最後にこういう形で結実するのもいいですね。

医者から処方された薬で足の痒みが治まらず悩んでいたホテルマン水尾爽太。再診後の薬局で薬オタクの女性薬剤師・毒島と出会う薬剤ミステリ。ホテル客室の塗り薬紛失事件に、薬の数が足りないと訴える老人、痩身剤を安く売る病院など、他のことには興味が薄いのに薬が関わると俄然行動力を発揮する毒島の存在感と、そんな彼女が気になる爽太が事件を解決していく展開はなかなか面白かったです。病院や薬剤師、薬の豆知識もあったりで、わりと踏み込んだのに進展しない二人の関係はなかなか遠い道のりですけど、続巻あるならまた読んでみたいですね。

前職を辞めて求職中の美優が、「なんでも対応」ありのミヤタ電器店の求人を知って、変わり者の宮田社長と一緒に家電を巡る謎を解き明かすミステリ。新品のルータを欲しがる理由、空気清浄機についたカビの謎、同じような使い方なのにスマホの充電の減りが早い理由、異音を発する食器洗い機、そして美優をストーカーする人物の正体。無表情な宮田の過去に、美優のトラウマやストーカー騒ぎもあって若干詰め込みすぎだった感もありますが、家電知識の宮田と推理力の美優のコンビで家電と人間関係を絡めた謎を解き明かしてゆく展開は興味深かったです。

君はレフティ (小学館文庫)

君はレフティ (小学館文庫)

 

夏休み中、交通事故に遭った高校生・古谷野真樹。後遺症で過去の記憶を失いつつも夏休み明けの日常を取り戻しつつあった古谷野が謎の落書き「7.6」にあちこちで遭遇する青春ミステリ。自分へのメッセージと直感で感じて、同じクラスで写真部の生駒桂佑や春日まどかと一緒にその謎に挑む古谷野。謎を追ううちに明らかになってゆく親友の秘密と事件の真相。事実を知るたびに過去にあった情景が変化して、正直な心境は時に残酷で、失われたものの大きさを痛感しましたが、それでもまっすぐに向き合った彼らの真摯な想いがとても印象的な物語でした。

 

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春、ゼロ年代のSF論、脳科学インプラントと複雑な想いが交錯する愛憎劇、ソ連アメリカの超高度人工知能を巡る争い、未曾有の災害に巻き込まれた新幹線が陥った低減世界といった6つのSF連作短編集。テイストの違う世界を描いた作品にはそれぞれの良さがあって面白かったです。個人的には「美亜羽へ贈る拳銃」「ひかりより速く、ゆるやかに」が好みでしたかね。相手を思う真摯な気持ちの中にも複雑な想いが入り混じるからこそ、明示されないその結末がとても印象的なものに思えました。

電気じかけのクジラは歌う

電気じかけのクジラは歌う

 

人工知能が作曲をするアプリ「Jing」が普及し、作曲家の仕事が激減した近未来。「Jing」専属検査員になった元作曲家・岡部の元に、自殺した現役作曲家で親友の名塚から未完の新曲と指紋が送られてくる近未来ミステリ。名塚から託されたものの意味と、事故で右手が不自由になった名塚の従妹・梨紗の苦悩、そして「Jing」を作り出した霜野の野望。「Jing」で気軽に音楽を作れてしまう中、あえて自分の手で音楽を作り出す意味に葛藤しながらも、秘められた名塚の想いに気づいてゆく展開は著者さんらしさがよく出ていて面白かったです。

流浪の月

流浪の月

 

奔放に育ててくれた両親を失い、引き取られた伯母の家で追い詰められてゆく更紗。そんな行き場のなかった彼女を受け入れた文が抱えていた苦悩。真実を知られることがないまま否定された二人の関係。確かに難しいテーマで、どんなに真摯な想いがあろうと世間一般の常識では容認し難いものがあるのは分からなくもないんですけどね。けれど辛い過去からうまく生きられない不器用な登場人物たちがいて、たくさん傷つきながらも育んできた揺るぎない真っすぐな想いがあって、ただともにありたいというささやかな願いくらいは叶う未来であって欲しいです。

鎌倉うずまき案内所

鎌倉うずまき案内所

 

古ぼけた時計屋の地下にある「鎌倉うずまき案内所」。旋階段を下りた先には、双子の内巻・外巻と所長のアンモナイトが待っていて、ほんの少しの軌跡を起こす連作短編集。平成の世を遡りながら、会社を辞めたい編集者、ユーチューバーを目指す息子を改心させたい母親、結婚に悩む女性司書、クラスで孤立したくない中学生、売れない劇団の脚本家、ひっそりと暮らす古書店の店主といったさりげなく繋がっている登場人物たちが主人公で、不思議な優しい案内所に迷い込んだ悩める彼らが、苦悩を乗り越え進むべき道を見出す展開はなかなか良かったですね。

キキ・ホリック

キキ・ホリック

 

かつて校庭の一角を占める<プラントハウス>を管理していた蘇芳キキ。ミステリアスな彼女と運命的な出会いを果たした若宮波留花が事件に巻き込まれてゆくミステリ。学校ではいじめに遭い、家では両親に抑圧されていた波留花。キキと出会ったことで劇的に変わってゆく彼女の環境。キキに惹かれてゆく波留花が邂逅するキキの妹・カラの存在、謎めいたキキの周辺で次々と起こった殺人事件。姿を消した彼女の行方を追う波留花が直面する真相は何とも切なかったですが、巧みに回収されてゆく伏線によって紡がれていった結末が儚くも美しい物語でした。

希望の糸

希望の糸

 

閑静な住宅街で小さな喫茶店を営む女性が殺されて、捜査線上に浮かぶ常連客だったひとりの男性。容疑者たちの複雑な運命に、若き刑事・松宮が挑む物語。自身も今まで知らなかった秘密を知ることになった松宮が、加賀刑事にフォローされながら殺人事件の真相を追う展開でしたけど、その過程で明らかになってゆくとてもデリケートで複雑ない事情があって、それが積み重なったことで起きたすれ違いの悲劇が何とも切なかったです。でもそれでもきちんと向き合ったことで、壊れかけていた不器用な親子関係に修復の兆しが見えたことには救いを感じました。

森があふれる

森があふれる

 

作家の夫に小説の題材にされ続けて植物の種を一心不乱に食べ続けた結果、身体から芽吹いて森と化した妻。壊れた作家夫婦と彼らに関わった人々の物語。家でどんどん森を侵食させてゆく妻とそれを題材にして執筆する夫の狂気。彼らに関わった担当編集者たちや不倫相手の家族関係にも歪みをもたらして、妻の不在が作家として決定的な停滞をもたらしたのに、それにすら慣れてしまう懲りない作家と妻のどこまでも噛み合わない会話には絶望しかけましたが、それでも夫にようやく話し合おうとする姿勢が生まれたことに希望を感じるべきなんでしょうかね…。

#失恋したて (LINEノベル)

#失恋したて (LINEノベル)

 

就活がうまくいかず、社会人の恋人・亮平とも予定が合わなくて会えない日々が続く就活生のなつき。彼の出張に合わせた北海道旅行での思わぬ失恋と、そこから始まる少し不思議なひとなつの物語。彼と待ち合わせた幸福駅でなつきを待っていた全然幸福じゃない出来事。彼女の叫びを撮影してバズらせた小学生ユーチューバー・遥希、その父親と三人で一緒に巡る失恋旅行。彼女に届くたくさんの共感や悩みコメントがあって、楽しい旅は少しだけ自分らしさを思い出させてくれて、少しずつ前を向く元気を取り戻してゆく彼女の姿がとても印象的な物語でした。