2月の読了冊数は読書メーターによると最終的に110冊でした。
読んだ本110冊
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こちらでは2月に読んだ文庫・単行本新作おすすめ29点を紹介します。
ライトノベル編はこちら↓
気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
竜と華 弱虫姫に氷剣の忠誠 (富士見L文庫)
竜と華 弱虫姫に氷剣の忠誠
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浅名 ゆうな/SNC KADOKAWA 2023年02月15日頃
従軍経験もなく相棒の竜もいないまま、王国の栄えある聖竜騎士団の総団長に就任した王女エレノア。臆病で半人前の妖精姫と呼ばれる彼女と、姫将軍に忠誠を誓う氷の騎士が織りなすファンタジー。針のむしろ状態で頼りなげな11番目の王女と、彼女に静かに付き従う副団長「氷剣」アドルファス、そして曲者揃いの調査隊の仲間たち。反発されながらも密かに努力を続けてきた彼女が、国内の不穏な状況を知り仲間たちと奔走する展開で、ずっと彼女が追い続けてきた事件が今回の事態とも繋がって、一連の事件に自ら決着を付けて、周囲の信頼を勝ち取ってみせたエレノアは見事でしたけど、彼女に寄り添うアドルファスの揺るぎないその献身ぶりというか、重い執着っぷりがじわじわと効いてきて最高でした(苦笑)
双蛇に嫁す 濫国後宮華燭抄 (集英社オレンジ文庫)
草原の民アルタナの娘として双子のように育った異母姉妹シリンとナフィーサ。族長の父は彼女たち二人を双子信仰が盛んな濫国の双子の皇帝に嫁がせる中華風ファンタジー。気が優しく刺繍と料理を愛するナフィーサは兄帝・燕嵐に、活発で弓と騎馬が得意なシリンは弟帝・暁慶の後宮に迎え入れられて、対照的な皇帝たちのもとでつい比較して複雑な想いを抱きながらも、それぞれが居場所を得つつあった矢先の不穏な疑惑、そして状況を激変させてしまう思ってもみなかった事件。姉妹たちも否が応でも巻き込まれてゆく激動の展開と複雑な因縁、彼女たちの苦衷の選択にはほろ苦さも感じましたけど、とはいえこれまで育んできたかけがえのない絆が失われたわけではなく、これはこれで彼女たちらしい結末だったように思いました。
かなりや異類婚姻譚 蛇神さまの花嫁御寮 (集英社オレンジ文庫)
かなりや異類婚姻譚 蛇神さまの花嫁御寮
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夕鷺 かのう/久賀 フーナ 集英社 2023年02月16日頃
没落華族に生まれた緋鳳院櫻子と、権勢を誇る蛇神一族の御曹司・冬夜との政略結婚。異能に目覚め彼に惨殺される未来を予知した彼女が、死を回避すべくやり直す和風浪漫ファンタジー。帝妃に選ばれる義姉を母といじめ抜いた結果、暗転した未来。予知能力に目覚めて冬夜と距離を置き、義姉との融和を図ることでルート回避を目指す櫻子。逆に溺愛される関係になっても新たな破滅フラグが立ったりでなかなか難しいなと思いましたけど、こうなってしまうとフラグ管理で回避するよりも、諸悪の根源を生贄に問題解決する方が早いですよね…。本気になったヤンデレはどう転んでも恐ろしくて、取り扱い注意だな…としみじみ思いました(苦笑)
雪蟷螂 完全版 (メディアワークス文庫)
長きにわたって氷血戦争を続けていたフェルビエ族とミルデ族。その戦に終止符を打つため、るフェルビエ族の女族長アルテシアがミルデの族長オウガに嫁ぐファンタジー。想い人さえ喰らうほどの激情をもつ〈雪蟷螂〉アルテシアが、相当な覚悟を持って臨んだ政略結婚。しかし約束の儀を阻もうとする世代を超えて交錯する人々の想い。やや独特な雰囲気をもったストーリーのようにも思えましたが、それでも気高き女傑が見せる覚悟と身を焦がすような熱い想いがあって、一方で信仰を恋に似たようなものと捉える考え方もまた印象的で、なかなか奥が深いと感じさせてくれる物語でしたね。
天狗と狐、父になる (講談社タイガ)
あやかしとして富と力を奪い続けてきた天狗・黒舞戒。そんな彼に仇敵の霊狐と人間の赤子を育てる試練が待ち受けるあやかし子育て物語。600年の間に人は山を拓きビルを立てたというのに、変わらない自分に飽き飽きして一念発起し、ボロボロの社から山を下りた黒舞戒。そこから長年争ってきた狐狸の宮杵稲と人間の子供・実華を育てる展開で、あやかしの力も子育ての前には無力な様子が微笑ましかったですけど、何だかんだで協力して一緒に問題を解決するようになって、実華だけでなくお互いのこともかけがえのない存在になってゆくその結末は良かったですね。
暗闇の非行少年たち (メディアワークス文庫)
松村 涼哉 KADOKAWA 2022年12月23日頃
少年院から退院したものの上手く現実に馴染めず、再び犯罪に手を染めようとしていた18歳の水井ハノ。そんな時SNSでティンカーベルと名乗る人物から、ある仮想共有空間への招待状が届くミステリ。空間に集う顔も本名も知らない子供たちとの交流を通して、少しずつ居場所を見つけていくハノ。しかし事情を抱える子供たちの共通点に気づいた時、思わぬ事態へ巻き込まれていく展開で、恵まれない境遇ではどうしても上手くいかないこともありますけど、やり直す機会を得ることができた時に、きちんと居場所があって、それを見守ってフォローしてくれる存在はやはり大切ですね。その志を引き継いだ彼らのこれからを応援してくなる物語でした。
帝都の鶴 優しき婚約者と薔薇屋敷の謎 (富士見L文庫)
帝都の鶴 優しき婚約者と薔薇屋敷の謎
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崎浦 和希/凪 かすみ KADOKAWA 2023年01月14日頃
没落貴族の家に生まれた女学生・鶴。父に命じられるまま売られるように決められた、顔も知らない実業家の青年・秋人一人で住む洋館で一緒に暮らし始める大正ファンタジー。一緒に暮らす中で秋人が呪いと呼ぶ怪奇現象と苦悩する彼の姿を知ってゆく鶴。鶴を守ろうとする秋人の優しさにも触れ、 次第に彼の力になりたいと感じるようになってゆく展開で、自らの心持ちが変わったことで、彼女自身がこれまで気づいていなかった女学校や実家の様々な一面も見えてきて、物語全体で見るともう少し山場があっても良かったかなという印象でしたけど、彼女がこれまで感じていたよりも周囲はずっと優しい世界だったことには救われる思いでした。
特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (宝島社文庫)
特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
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南原 詠 宝島社 2023年02月07日
特許権をタテに企業から巨額の賠償金をせしめていた凄腕の女性弁理士・大鳳未来が、「特許侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げるリーガルミステリ。彼女と組む弁護士・姚のもとにもたらされる完成済の特殊なTVの特許侵害、映像技術の特許権侵害を警告され活動停止を迫られる人気VTuber。一見そこからの逆転は難しいと感じる状況から、やや不自然とも思えるその訴えの背後関係を探り始めたことで、見えてくる様々な企業の思惑を逆手に取って、上手い落とし所を見極めながらきちんと問題を解決してみせるその展開の妙はなかなか面白かったです。
絞首商會 (講談社文庫)
秘密結社「絞首商會」との関わりが囁かれる血液学研究の大家・村山博士が殺され、頭脳明晰にして見目麗しく厭世家の元泥棒・蓮野が遺族に事件解決を依頼される大正ミステリ。なぜ遺体が移動させられていたのか、鞄の内側がべっとり血に濡れていたのか。そもそも遺族が以前村山邸に盗みに入った元泥棒に事件解決を依頼するのも不可解で、蓮野の友人・井口やうら若き乙女の峯子も絡めながら、なぜか事件解決に熱心過ぎる四人の容疑者相手に緻密な推理を積み上げていって、それが一気に組み上がってひとつの形となってゆく終盤の展開はなかなか良かったです。今回の蓮野と井口のコンビで別の物語をまた読んでみたいと思いました。
銀色の国 (創元推理文庫)
自殺対策NPO法人の代表として日々奔走する晃佑のもとに届いた友人の自殺という悲報。元相談者の友人が今になって死を選んだ原因を調べるうちに、恐ろしい計画の一端に辿り着くミステリ。逃げたい衝動を抱える詩織が陥った罠、SNSに死をほのめかす投稿を行い自傷行為を繰り返す浪人生のくるみ、そして自殺者の原因を探るうちに明らかになってゆくVR「銀色の国」の存在。その仮想と現実で一体何が起きているのか。死を願う人々に忍び寄る常軌を逸した悪意と、影響されてありようを変えてしまった人々がいて、それでも諦めずに細い繋がりから活路を見出して、向き合い続けた晃佑の熱い想いが引き寄せた結末には心揺さぶられるものがありました。
ヴィクトリアン・ホテル (実業之日本社文庫)
明日をもって百年の歴史にいったん幕を下ろす伝統ある超高級ホテル「ヴィクトリアン・ホテル」。ホテルを訪れた宿泊客たちの様々な人間模様が描かれる長編ホテルミステリ。悩める人気女優、自暴自棄なスリ、新人賞受賞作家、軟派な宣伝マン、そして人生の最期をホテルで過ごそうとする夫婦たちがホテルで出会う一期一会の縁。そんな登場人物たちの交錯する人生を描いていく展開と見て読んでいたのですが、途中からあれ?と思うような一面がいろいろと垣間見えてきて、結果的にええっ?となって見事にやられたと思いましたけど(苦笑)、でもとても優しくて素敵な物語だったと思いました。
ゆるコワ! ~無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる~ (角川文庫)
ゆるコワ! 〜無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる〜(1)
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谷尾 銀 KADOKAWA 2023年01月24日頃
悪魔的頭脳を持つ残念美人の茅野循に誘われ、オカルト研究会を結成することにした最強女子高生・桜井梨沙。怖いもの知らずのコンビを組んで心霊スポットを探索する青春ホラー小説。設立して早々に病院の廃墟に向かった二人が、呪いの神社、最凶事故物件、そして「カカショニ」と次々と攻略してゆく展開で、心霊スポットだけでなく、たびたび人の悪意にも晒されたり、ネット怪談もありましたけど、不穏な展開になっても補い合う循と梨沙の最強コンビがなかなか強いので、それを跳ね除ける力強さがありますね。ミステリ要素もあったりでこのレーベルらしい魅力に溢れた作品でした。
村田エフェンディ滞土録 (新潮文庫)
19世紀末のトルコ・スタンブールを舞台に、不思議な下宿、魅惑の異文化や、かけがえのない友人たちと留学生の村田がトルコで過ごした青春の日々を描くメモワール。ドイツ人オットー、ギリシア人ディミィトリスたちと共に英国婦人が営む下宿に住まう留学生の村田。東ローマ帝国への追懐、オスマン帝国復活への願い、戦争から必死に遺跡を守ろうとする思いなど、異文化や異なる地で育ってきた人々との宗教観や考えの違いに戸惑いながら、積み重ねてゆくその交流はとてもかけがえのないもので、だからこそ日本に帰国してからのギャップに悩める日々を思うとやるせなくなりました。
櫓太鼓がきこえる (集英社文庫)
高校を中退し親との関係が悪化していた17歳の篤。先の見えない毎日を過ごしていた彼が、相撲ファンの叔父の勧めで相撲部屋に呼出見習いとして入門する物語。実力が全ての力士と違い、完全年功序列の相撲の呼び出しの世界。弟子も少ない弱小の朝霧部屋で力士たちと暮らし、稽古と本場所を繰り返す日々。しくじってばかりで自信を喪失気味で、一方で力士たちの焦りや葛藤を目の当たりにする機会も多くて、感化されて少しずつ前向きに頑張るようになると、きちんと見ていてくれる人もいるんですよね。そんな彼らのこれからの頑張りを応援したくなる物語でした。
うちの父が運転をやめません (角川文庫)
うちの父が運転をやめません
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垣谷 美雨 KADOKAWA 2023年02月24日頃
最近やたら目にする高齢者ドライバーの事故。ふと高齢者の父に不安を覚えた猪狩雅志が、息子の息吹と帰省した夏に父親に運転をやめるよう説得を試みる家族小説。安い給料のやり甲斐ない研究職、高校生になってから元気のない息子に共稼ぎで忙しい妻。高齢者の運転は危険でもかといって現実はなかなか切実で、通販の利用や都会暮らしのトライアルも失敗。途中までは行き詰った閉塞感が半端ない展開でしたけど、後半の急展開はなかなか興味深く読みました。そうそう上手くは行かないでしょうけど、あるいは一つの提案としてこういう生き方もありなのかもしれないですね。
華国神記1-名を盗られし神は少女となりて (中公文庫)
下級官吏・鄭仲望の前に現れた神虎を操り、尊大な態度で自分は《真名》を奪われた神であると主張する少女・春蘭。そんな人になってしまった元神様の少女が活躍する中華ファンタジー。名を盗んだ仲望の兄は死んでいて、弟の仲望の家に居候を決め込む春蘭。一方、都では妖が良家の子女を襲う事件が発生して、禁軍が出勤して神経を尖らせている状況で、春蘭はある姉妹を助けたことから仲望ともども思わぬ事態に巻き込まれてゆく展開でしたが、今回は神としての知識や度胸もある春蘭にやる気のない仲望が振り回されがちな構図が、これからどう変わってゆくのか今後の展開に期待ということで。
ようこそ、自衛隊地方協力本部へ 航空自衛隊篇 (角川文庫)
ようこそ、自衛隊地方協力本部へ 航空自衛隊篇(1)
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数多 久遠 KADOKAWA 2022年12月22日頃
自衛隊に入隊を希望する人々に開かれた自衛隊の窓口・自衛隊地方協力本部─略して地本。そこで自衛官たちの心温まるエピソードを描く連作短編集。かつて防衛大学進学を後押ししてくれた相談員との再会、将来店を持ちたい悩める自衛官、退職する自衛官の就職斡旋、教師に自衛官志望を妨害される生徒へのフォロー、進路に悩む学生の気象レーダー見学、自らの経験を語る講演への参加など、自衛隊を巡る様々な周辺事情をフォローしたり、いろいろなところに目配りする人たちもまた自衛隊の中で重要な役割を担っているんですよね。なかなか興味深かったです。
そして花子は過去になる (宝島社文庫)
高校時代の人間関係のトラウマをきっかけに、家から出られなくなり引きこもっていた花子。唯一の外との繋がりだったゲームアプリを通じてフリーターのレンと運命的な出会いを果たす恋の物語。引きこもりの花子とバイト先のコンビニと家を往復する虚しい日々を送る蓮。花を育てるだけの地味なスマホゲームで出会った二人が積み重ねた交流によって育まれてゆく想いと会う約束。緊張のあまり気を失う花子と、会っていないはずなのにいつのまにか増えていくレンとの思い出。お互い自信がなくて不安を隠せない二人を密かに支えてくれた存在があって、二人を繋ぐ運命的な繋がりもあって、過去を乗り越えた二人が勇気を持って一歩踏み出して未来に繋がってゆく素敵な物語でした。
恋愛禁止 (角川ホラー文庫)
高校時代の教師を衝動的に殺してしまった瑞帆。彼女の前に現れた3人の男を巡る恋愛の業を描き出す戦慄の物語。かつて彼女の世界の中心だったその愛情が、いつしか憎しみに変わってしまった末の結末。覚悟していたのに殺人が一向に露呈しないことに戸惑いながらも、友人の紹介で知り合った男と結婚して子供が生まれた頃に現れたもう一人の男の歪な愛。そして夫もまたなかなか屈折した想いを抱えていて、こういういかにもなタイプの男を引き寄せてしまう女性は確かにいそうですが、自責の念に駆られながら、一方的で歪んだ愛に振り回される瑞帆の絶望にはなかなか来るものがありました。
人生に迷いが生じた時、どうすればいいのか分からなくなった時、誰かの存在が助けになる。もつれた心を解きほぐす温もりに満ちた五つの連作短編集。恋人に紹介できない家族、会社でのいじめによる対人恐怖、人間関係をリセットしたくなる衝動、わきまえていたはずだった不倫、ずっと側にいると思っていた幼馴染との別れ。知られたくない、自分は間違っている、こうするしかないと思いこんでしまうと、そこから抜け出せなくなることがありますけど、抜け出せれば意外とそんなことはなかったと、客観的に冷静に物事を見れるようになるんですよね。そんな迷える主人公たちに手を差し伸べてくれる周囲の人たちの優しさが心に染みる物語でした。
下宿仲間でクラスメイトの女子サブレに片想いをしている高校生のめえめえ。未だ友達な二人が一緒に過ごすことになる、ひと夏の特別な四日間の物語。告白もしておらず、夏休みでサブレとはしばらく会えないと思っていためえめえ。それがある不謹慎な目的のために、夏休み中に遠方にあるじいちゃんの家にサブレと一緒に行くことになり、二人で夜行バスに乗って出かける展開で、一緒に過ごす距離感の中で実はお互いにいろいろなことを考えていて、共感できることも違うなと感じることもある、そんな当たり前のことをいちいち真剣に考えるサブレと、それに根気よく付き合うめえめえは、傍から見たら何とも面倒くさいコンビですけど、同時にとてもお似合いの二人だなと思いました。
惣菜と珈琲の店「△」を営み、晴太、中学三年生の蒼と三人兄弟だけで暮らしているヒロ。しかしある日、蒼は中学卒業とともに家を出たいと言い始めるて、関係に変化に戸惑いながらも抗う不器用な家族たちの物語。ヒロが美味しい惣菜を作り、晴太がコーヒーを淹れ、蒼は元気に学校へ出かける。そんな穏やかな日々を続けてきた三人が直面する変化の兆し。それぞれに複雑な事情を抱えている三人だからこそ、今の家族のあり方が変わることにとても敏感で、けれどかけがえのない存在だからこそ、これからどうあるべきか真剣に向き合いたい、そんな相手を大切に思う愚直な気持ちがとても優して温かい素敵な物語でした。
残照
中国史上ただ一人、陸路で地中海に達した武将・郭侃。「海に沈む夕日を見たい」モンゴル軍を率いた漢人武将が、たった一つの夢を叶えるために地の涯を目指す歴史小説。祖父の代からモンゴルに仕え攻城戦と砲兵に長けた漢人が、37歳の時にイスラム世界の征服とさらなる領土拡大のためフラグの大西征を開始したモンゴル軍に部隊長として加わり、新兵器・回回砲をひっさげ七百以上の城を陥落させる展開で、多様な人種が入り交じるモンゴル軍の中で功績を上げ続けて、そこからさらに中国に戻ってフビライに仕えて波乱の生涯を生き抜いてみせたその一代記はまさに圧巻でした。
愛と理想を掲げた夫婦が営む、行き場のない母子を守る「のばらのいえ」。未来のない現実から高校卒業と同時に逃げ出した祐希が、後悔を終わらせるため戻る決意をする物語。両親を亡くして引き取られた環境で、希望の見えない状況から逃げ出した祐希がずっと心残りだった、幼少から一心同体だった紘果の存在。久しぶりに帰ってきたことで分かる変わったこと、変わらないことがあって、当時は仕方のない側面もあった過去の状況を踏まえてこれからどう生きるべきか、それらも踏まえてしっかりと向き合い、新たな一歩を踏み出すことを決めた彼女たちのこれからを応援したくなりました。
シングルファーザーとして4歳の娘を育てる36歳の恭平。そんな彼がシッターに従事しながら1人で1歳半の息子を育てる高校の同級生・章吾と同居生活を始める拡張家族の物語。亡き妻に任せっぱなしだった家事・育児に突如直面することになり、会社でもキャリアシフトを求められ、心身ともにギリギリの日々を送る恭平。そんな彼を助けてくれた章吾もまた家族や実家を巡る複雑な事情を抱えていましたけど、そんな二人が時には衝突もしたり助け合ったりしながら、お互いに刺激を受けて意識を変え、育児に向き合うようになってゆく彼らの選択がなかなか印象的な物語になっていました。
今日も多くの患者に向き合う泌尿器科医・鮎川が、元ヤンキーの看護師長、忍者のようなソーシャルワーカーなど心強い仲間たちとともに病と事件の早期解決に挑む医療ミステリ。羞恥心から嘘をついたり、人に言えない秘密を抱えている人も多く、泌尿器科ならでは多様な謎に真摯に向き合う鮎川。謎の火傷をした少年、夜尿症が治らない中学生、救急搬送された営業マン、透析センターに立て籠もるYouTuber。それぞれの事件の背景にある独善的な悪意が何ともあれでしたけど、鮎川も真摯に向き合う熱いところもある医師で、師長や忍さんがいい感じに効いてました。あとがきまでなぜか短編になってしまう著者のこだわりには脱帽です(苦笑)
バールの正しい使い方
親の仕事の都合で転校を繰り返す小学生の礼恩。行く先々で出会うクラスメイトたちがなぜ嘘をついたのか。その真意を解き明かしてゆく連作短編集。嘘をついた少女とけしからんぞおじさん、海辺の町で一緒にタイムマシンを作ったときのこと、その街に戻って知ったこと、同じ場所に呼び出された五人のクラスメイト、お母さんが大好きな男の子、この世界が大好きだった女の子。バールがどう関わってくるのか気になりながら読んでいましたが、子供たちもまた子供たちなりにどうにかしようと考えていて、上手い具合に繋がってゆく結末の中で明かされるその意味になるほどなと感心させられました(苦笑)
1991年バルセロナ。サグラダ・ファミリアの尖塔に吊り下げられた死体。前代未聞の殺人事件に聖堂石工の父が絡んでいると考えた娘の志穂が手がかりを求めて調べ始める建築ミステリ。父の友人の遺体がサグラダ・ファミリアの尖塔に吊り下げられているのを発見してしまい、父の失踪がこの殺人事件に絡んでいると考えた志穂が、サグラダ・ファミリア建設に関わる人々に話を聞く過程で明らかになってゆく、サグラダ・ファミリア建設の背景とガウディが遺したある物を巡る陰謀。囲の人間関係にも巻き込まれる中で、家族を巡る過去の真相も明らかになりましたけど、建設を巡るエピソードが壮大過ぎて事件解決そのものよりもそちらに意識が向いていました(苦笑)
家電量販店売上高ナンバー1奪還を目指すR電器が出店した未開の地K市。しかし何故高齢者率85%のそこで轟家電一強の状態が続いているのか、その謎に迫るミステリ。人口の多くを占める老人に対して細やかな接客対応をしているらしいということしかわからないまま、売上不振が続いてわずか半年で撤退を余儀なくされたR家電。一方、事情あって轟家電のパソコン教室で働くことになった時透の視点で明らかにされてゆく、移住者が優遇されるK市の驚愕の真実。巧妙に仕込まれたロジックに絡め取られてゆく先に待っていた結末には慄きましたけど、知ってはいけない、関わってはいけない、そうなったらもう逃れられないやつですね…。