毎年ライトノベルに関しては「このライトノベルがすごい!」ということで年間のおすすめ企画が宝島社さん主催で開催されていて、自分も協力者として参加していますが、それ以外の「ライト文芸」「文庫」「文芸単行本」についても自分の読んだ本の中からの独断と偏見によるセレクトになりますが、年間企画をブログ企画として一人企画を作りたいと思います。ということで今回は「ライト文芸」に続く第二弾で「文芸単行本」編です。
対象としては「このライトノベルがすごい!」と同じ2020年9月~2021年8月に刊行された新作を対象30作品をセレクトしました(※続刊扱いは除外しています)。文芸単行本は読みたいものを読むのが精一杯で、自分なりに読んだ範囲でという限定にはなりますが、まずまず面白い作品が選べたかなとは思っています(並び順はいつも毎回頭を悩ませていますがw)。残る文庫編についても近々に更新したいと思います。 よろしくお願いします。
1.六人の嘘つきな大学生
成長著しいIT企業初の新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に課されたチームを作り上げてのディスカッションが、直前になって突如六人の中から一人の内定者を決めると通達される青春ミステリ。全員で内定を目指すはずの仲間が、ひとつの席を奪い合うライバルに。内定を賭けた議論の中で暴露された六通の封筒の中身。十年後のインタビューも交えながら当時の事件が語られる展開でしたけど、新たな嘘や事実が判明するたびに二転三転するそれぞれの印象、それを収束させていった結末への展開は鮮やかで、就職活動についても考えさせられましたね。
2.正欲
多様性。それぞれの生き方が尊重されるべき、と言われるようになった世の中。そこで讚美される「誰もが自分らしく生きやすい新しい時代」の虚像を引きはがし、白日の下に晒す物語。息子が不登校になった検事・啓喜、初めての恋に気づいた女子大生・八重子、そして秘密を抱える契約社員・夏月。それぞれの視点から描かれてゆく展開の中で、多様性と言われていても、社会的には許容されない欲求を、それでも変えられないものを抱えてどう生きていくのか。突きつけられた問いはあまりにも重くて、その問いに答える適切な答えを見つけられませんでした。
3.スモールワールズ
夫婦円満を装う主婦と家庭に恵まれない少年、出戻ってきた姉と再び暮らす高校生の弟、初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族、人知れず手紙を交わし続ける訳あり男女の関係、向き合うことができなかった父と子、大切なことを言えないまま別れた先輩と後輩。ゆるく繋がった世界の中で繰り広げられてゆく、周囲には理解されづらい何とも複雑な思いを抱えている不器用な主人公たちが、目の前の現実に向き合って受け入れ、そっと寄り添うようになってゆくそれぞれのエピソードはとても印象的で、改めてこの著者さんの描く物語は好きなだなとしみじみ感じました。
4.海蝶
女性初の潜水士として注目を集める横浜海上保安部所属・忍海愛。兄は特殊救難隊、父もベテラン海保潜水士で血筋は折り紙付きの彼女が、初めてならではの苦難や過去にも向き合ってゆく物語。東日本大震災に遭遇し目の前で母を失った愛。それをきっかけにバラバラになってしまった家族や、女性初の潜水士「海蝶」として働く彼女や周囲の戸惑いもあって、初めての任務がまたとんでもない事件でしたけど、苦難にぶつかって葛藤しながらも、行くも地獄戻るも地獄の道を突き進む覚悟を決めた愛がようやく大切な絆を取り戻す姿がとても印象的な物語でした。
5.スター
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。大学卒業した二人が名監督への弟子入りとYouTube発信という真逆の道を選ぶクリエイター小説。名監督の助監督になったものの自分の作品をなかなか表に出せない尚吾の葛藤、YouTubeで注目を集めながらそのクオリティに疑問を感じてしまう紘。同様に激変する表現者の世界に対する紘の仕事仲間、尚吾の先輩や同棲相手、後輩たちの苦悩や試行錯誤で実感のこもった言葉が突き刺さりましたけど、彼らが追い求めた先に見えてくるそれぞれの形がとても印象的な物語でした。
6.デルタの羊
念願だった『アルカディアの翼』アニメ化に着手する製作プロデューサー・渡瀬智哉。前代未聞のアニメ参加を決意するフリーアニメーター・文月隼人。アニメに懸ける熱い人々の物語。業界の抱える「課題」が次々と浮き彫りとなり、波乱の状況下で窮地に追い込まれるアニメ作品。最初は次々と変わる構図に混乱しましたが、アニメ業界の問題を描きつつ全ての物語は一つに繋がって、原点に立ち返って厳しい状況の中にも可能性を見出して、熱い想いで人の心を動かし、夢を実現するまで何度でも諦めない往生際の悪い戦いっぷりはなかなか面白かったですね。
7.汚れた手をそこで拭かない
夫に聞いた話から妻が気づいた可能性、夏休みのうっかりミスに青ざめた小学校教諭、隣家の電気代滞納のお知らせから気づいた真相、映画のクランクアップ後に起きた事件、元不倫相手と再会した料理研究家を題材としたお金を巡る5つの短編集。最初は些細なことがきっかけで、見逃したりやってしまったその小さな綻びから、思わぬ形で暴かれてゆく事件の真相。後ろめたい複雑な想いを抱えているからこそ、決定的に対処を間違えた代償は如何ともし難くて、誤魔化そうとした結果として顕在化したじわじわとくる後味の悪さがなかなか印象的な物語でした。
8.白鳥とコウモリ
遺体で発見された善良な弁護士。一人の男が殺害を自供し事件は解決-のはずだった。しかし、父の言動に違和感を抱いた被害者の娘と容疑者の息子が、それぞれの事件の真相を追うミステリ。容疑者・倉木が証言する事件が起きた経緯、そして1984年に起きた東岡崎殺人事件の真相、抱いた矛盾や違和感を解消すべく刑事に当たったり、現場に赴くうちに邂逅する被害者の娘・美鈴と、容疑者の息子・和真。対照的な立場の二人が積み重ねてきた調査の先にたどり着いたのは何とも皮肉な結末で、それでも変わらなかった二人の絆がとても印象的な物語でした。
9.元彼の遺言状
奇妙な遺言状を残して亡くなった、元カレで大手製薬会社の御曹司・森川栄治。学生時代に彼と3か月だけ交際していた弁護士の剣持麗子は、栄治の友人の代理人として、森川家の主催する「犯人選考会」に参加するミステリ。数百億円とも言われる財産の分け前を獲得するべく、自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する麗子。お金にがめつい麗子のキャラがなかなか存在感ありましたけど、この事件を通じて様々な人と出会い、彼女もまたいろいろ考えたりする部分もあったんですかね。明らかになってゆく事件の真相もその結末もなかなか良かったです。
10.死にたがりの君に贈る物語
人気シリーズ完結を目前に訃報が告げられた、全国に熱狂的なファンを持つ謎の小説家・ミマサカリオリ。やがて廃校に集まった七人のファンが、未完となった作品の結末を探ろうとする青春ミステリ。著作が厳しい批判にさらされていたミマサカ。訃報に絶望し自殺を図った少女、そして共同生活する彼らたちが直面する絶対に起こるはずのない事件。集まった熱狂的なファンたちがやってきた理由は様々で、垣間見える繊細な著者の心境はとても複雑で、どこまでも著者を信じて微塵も疑わない真摯な想いがもたらした結末には心揺さぶられるものがありました。
11.原因において自由な物語
誰にも言えない秘密を抱える人気作家・二階堂紡季。その秘密を引き換えに廃病院から転落した恋人、そして高校のいじめ被害者の転落死事件の謎を追うミステリ。事件が起きた同じ廃病院から転落したスクールロイヤーの想護は、紡季に何を伝えたかったのか。沈黙する関係者の生徒、ウイルスのように感染していくいじめ問題。生徒たちが抱える複雑な心情が明らかになっていって、すれ違い追い詰められた先にあった悲劇があって、誰もが被害者にも加害者にもなりうる怖さと、それにどうやって向き合えばいいのか、その難しさを改めて痛感させられました。
12.ゴールデンタイムの消費期限
とある事件をきっかけに書けなくなった高校生小説家・綴喜に届いた『レミントン・プロジェクト』 の招待状…極秘の国家計画に参加した彼が、同じような元・天才たちと出会う青春小説。若き天才を集め交流を図る十一日間のプロジェクト『レミントン・プロジェクト』の驚くべき内容。世間から見放された元・天才たちが受けるセッションで突きつけられる過酷な現実。それでも栄光を取り戻したいのか、これでいいのか、彼らの生々しくて複雑な想いが描かれていましたが、葛藤と向き合い導き出されたそれぞれの選択と結末がなかなか印象的な物語でした。
13.盤上に君はもういない
将棋のプロ棋士を目指す者たちにとって最後の難関、奨励会三段リーグ。観戦記者の佐竹亜弓がそこで全てを賭けて戦う二人の女性と出会う将棋小説。棋士を目指して奨励会に挑む永世飛王を祖父に持つ天才少女・諏訪飛鳥と、両親から応援されずに勘当され病弱ながら年齢制限間際で挑戦する千桜夕妃。岐路でたびたび激突する彼女たちの負けられない壮絶な激闘が熱かったですが、それぞれの将棋を形作ってきた濃密な背景があって、受け継がれてゆく熱い想いもあって、そんな二人に関わる天才少年・竹森や記者たちの存在がなかなか効いていたと思いました。
14.和菓子迷宮をぐるぐると
ちょっと変わり者と言われる理系大学生・涼太が、和菓子美しさに魅せられて虜になり、和菓子職人になることを決意して製菓専門学校に入学する物語。製菓専門学校で涼太が班を組んで出会った同期四人の少女たち。少し変わっているものの、真っ直ぐで前向きな涼太の姿勢に少しずつ感化されてゆく班の仲間たちがいて、知ろうとすればするほど正解のないお菓子作りの奥深さに直面して、仲間の頑張りに刺激を受けたり自らがどうあるべきか悩みながら、真摯に向き合って時には助け合い、成長してゆく彼らの姿に大切なものをたくさん教わった気がしました。
15.神の悪手
避難所でなかなか勝ちきる手を打たない子がそれでも将棋を指し続けた理由、将棋人生を賭けたアリバイ作りに挑む追い詰められた男、詰将棋雑誌に投稿した訳あり少年の秘められた想い、対戦した棋士二人だけが感じることができる世界、駒師が指定対決の駒選びで感じた複雑な想い。将棋を題材とした運命に翻弄される登場人物たちの連作短編集で、思ってもみなかったことに気付いてしまい、それでも将棋に向き合い、前に進むことしかできない不器用な人々の苦悩や葛藤はどこまでも真摯で、その先に見出してゆく彼らの結末がとても印象に残る物語でした。
16.花束は毒
「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。彼を助けたい木瀬がかつて事件を解決してくれた探偵・北見理花に調査を依頼するミステリ。中学時代、探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった理花。探偵への依頼を躊躇する真壁が脅迫者を追及できない理由、そして鍵を握る四年前の事件。新たな事実が判明するたびに印象がガラリと変わって、一方で消えないままの違和感が徐々にもうひとつの可能性に繋がっていって、恐ろしい真相を果たして伝えられるのかも気になりましたけど、このコンビの物語もまた読んでみたいと思いました。
17.推理大戦
日本で見つかった、ある「聖遺物」。世界的にも貴重なその「聖遺物」をかけ、「推理ゲーム」が北海道で行われることになり、驚異の能力を持つ「名探偵」たちが、決戦の地に集うミステリ。アメリカ、ブラジル、ウクライナ、日本などの「名探偵」たちが、描かれたそれぞれのエピソードで見せつける特異な能力の数々。そんな彼らの聖遺物をかけた推理ゲームを前に起きた殺人事件。事件解決のために名探偵たちが持てる力を使って導き出してゆく推理の数々にはワクワクさせられて、その先にあった思ってもみなかった結末にはつい唸らされてしまいました。
18.レンタルフレンド
デザートブッフェへの同行を依頼する大学4年生、若手女優志望の設定で観劇につきあってほしいヘアメイクアーティスト、検査入院で飼い猫の面倒を見て欲しいと依頼され、その過去に関わることになる常連の翻訳家、婚約者の元カノも参加するパーティに友人として同行など、様々な事情を抱えた女性たちから友人役を依頼される連作短編集。依頼主の抱える真の理由を手探りで冷静に見極めつつ、依頼主にとっての最善をチョイスしてゆく七実が、ややこしい状況に巻き込まれながら、しっかりと向き合い依頼に応える姿はプロフェッショナルで印象的でした。
19.ほたるいしマジカルランド
名物社長で有名な大阪北部・蛍石市の老舗遊園地「ほたるいしマジカルランド」。自分たちの悩みを裡に押し隠しながら、お客様に笑顔になってもらうため、従業員が奮闘する姿を描いていく物語。社長が入院したという知らせが入り、動揺する従業員たち。アトラクションやインフォメーションの担当者、清掃スタッフ、花や植物の管理人、そして社長の息子など、どんな人にでもそれぞれの立場なりに悩みがあって、ふとしたきっかけから周囲の人たちもまた悩みを抱えていることを知って、見る目や自分のものの見方が変わってゆくそんな優しい物語でしたね。
20.草原のサーカス
製薬業界で研究者として働く姉と、アクセサリー作家として活動する妹。仕事で名声を得るも、いつしか道を踏み外していく二人の物語。頑張り屋で産学連携を繋ぐ存在として期待されていた姉・依千佳。広い世界を見せてくれる存在に出会えた仁胡瑠。期待に応えようと頑張って成果を得ていた二人が、いつしか空回りするようになって道を踏み外してゆく展開は、一歩間違えば誰にでも起こりうる話で、上手く行かなくなった時どうすれば良かったのかとても難しいですね。そんな大変な経験に直面した二人のささやかなリスタートを応援したくなる物語でした。
21.推し、燃ゆ
逃避でも依存でもない推しは背骨だと信じ、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注ぐあかり。ある日突然推しがファンを殴ってしまい炎上してしまう推し小説。学校でもバイト先でもままならない日々を送る中で、祈るように推しを推していたあかり。炎上してからの推しを巡る状況の激変に、生きづらい日常の更なる悪循環も加わって、推しを推している時の充足感が感じられる一方で、推しや彼女自身のまさに坂道を転がるような暗転には無力感を感じましたけど、絶望しかない今を乗り越えて、いつか立ち直って欲しいと思わずにはいられませんでした。
22.沖晴くんの涙を殺して
病気で余命一年の宣告を受けて教師を辞め故郷に戻ってきた桶場京香。そこで北の大津波で家族を喪い引っ越してきたという、笑うだけの不思議な高校生・志津川沖晴と出会う物語。常に微笑み、スポーツ万能で一度覚えたことは忘れず、驚異的な治癒力を持った沖晴が抱える秘密と孤独。感情を失った沖晴と余命のない京香の出会いをきっかけに、少しずつ沖晴が自らの感情を取り戻す展開でしたけど、様々な想いを積み重ねていった結末は残酷で、けれどその忘れられない思い出を胸に刻みながら、未来へと希望を見出してゆく姿がとても印象に残る物語でした。
23.教室に並んだ背表紙
中学校の図書室を舞台に、クラスや友人たちとの言動に馴染めない違和感や未来への不安、同級生に対する劣等感など、思春期の少女たちを繊細に描く連作短編集。図書室にやってくる苦手なクラスメイト、新たに赴任した学校司書と見つけた未来への手紙、ゴミ箱に捨てられた課題図書の感想文、変わってしまった友人への複雑な想い、自分を認めてくれた友人、ふとしたきっかけから教室に居場所がなくなる孤独など、教室の中に居場所を見つけられない主人公たちが見出すささやかな繋がりが優しくて、そんな繊細的な描写がとても著者さんらしい物語でした。
24.道をたずねる
十五歳になる年、裏山のクスノキで誓いを立てた俊介と幼馴染・一平と湯太郎。彼らと切磋琢磨しながら地図会社キョーリンの調査員として日本各地を歩き、家の表札を一軒ずつ書き留めてゆく地図づくりに生涯を捧げた男たちの熱き物語。住宅地図のゼンリンをモデルにしたストーリーのようで、何事も実地の手作業でやらなければなかった時代に、人海戦術も駆使しながら地道な取り組みで全国の住宅地図を作り上げてゆく熱い展開があって、そんな彼らの奮闘を支える人々もまた印象的で、三人の絆で危機を乗り越えてゆくとても爽やかな読後感の物語でした。
25.おれたちの歌をうたえ
元刑事の河辺のもとにある日かかってきた電話。友が遺した暗号に導かれ、40年前の事件を洗いはじめた河辺とチンピラの茂田はやがて、隠されてきた真実へとたどり着くミステリ。過去を語るために思い出してゆく、封印していた四十年前の記憶。仲が良かった五人組の若き日々と悲劇。二十年前の再会と挫折。暗転したそれぞれの人生と苦い思いがあって、遺された暗号の意味を巡るうちに新たな事実も明らかになっていって、その真相にたどり着くまでにずいぶんと遠回りした感もありましたけど、紆余曲折の末に迎えた結末がなかなか印象的な物語でした。
26.零の晩夏
描かれたモデルが例外なく死に至る「死神」の異名を持つ謎の絵師ナユタ。駆け出しの美術ライター八千草花音が、運命に導かれるようにナユタの謎を追う美術ミステリ。広告代理店を辞めた花音が巡り合った美術ライターの仕事。その中で紹介される謎の絵師ナユタの存在。関係者として紹介される人々を取材し、その謎を追ううちにナユタを巡る壮絶な過去と意外な繋がりが明らかになって、元同僚・浜崎の存在もなかなか効いていましたけど、運命に導かれるように謎を追う花音が、紆余曲折の末にたどり着いた壮大な真相にはぐっと来るものがありましたね。
27.オルレアンの魔女
原作者レジーヌがこだわる「黒髪のジャンヌ・ダルク」像にぴったりということで、パリ・オペラ座新作公演の主役に抜擢された天羽七音美。彼女がパリで起きる連続殺人事件に巻き込まれてゆくミステリ。演出家の依頼で宣伝のためカンヌへ渡った七音美。その頃、パリで起きた娼婦が丸刈りにされ殺される事件。被害者が握っていた「オルレアンの魔女」というメモの謎。刑事エミールとともに伝説の残る「監獄島」での捜査では、彼の地ならではの意外な事実も明らかになって、最後に関係者を集めて披露される謎解きとその結末はなかなか面白かったですね。
28.月の淀む処
築40年のマンション・パートリア淀ヶ月に引っ越してきたフリーライターの紗季。しかし不審な出来事にたびたび遭遇するようになって、隣の部屋に住む雑誌記者の真帆子と共に調査を始めるホラーミステリ。住人たちの持つ奇妙な風習、連続して起こる行方不明事件、消えた死体、謎めく大量の骨壺など、閉鎖的なマンション内の空気、そして不穏な影を感じさせながら連鎖してゆく危うい狂気があって、精神的に追い詰められてゆく中で変わってゆく心境、そしていつのまにか立たされていた分岐点での決断が、読み終わるまでなかなか頭を離れませんでした。
29.あなたを愛しているつもりで、私は――。娘は発達障害でした
あなたを愛しているつもりで、私はーー。 娘は発達障害でした
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遠宮 にけ 宝島社 2021年08月11日頃
娘の七緒が「発達障害」だという診断を受け、周囲と馴染めない日々に頭を悩ませる母・夕子。娘との関係、夫との関係、ママ友との関係、自分の母との関係。普通とは違う娘を抱えながら悩み抜いた母親の物語。大人しくて賢い一方で、強いこだわりがあったり、あまり他者に興味を持たないことがわかってきた娘・七緒。頭では分かっていてもありのままに受け入れたり、周囲に素直に頼るのは難しいですし、周囲との差は気になるし、普通であったらとは思ってしまうのが親の心理ですよね。そんな悩める夕子の近くに寄り添ってくれる人がいて良かったです。
30.ワラグル
年末の漫才日本一を決めるKOMで敗れ、今年ダメなら実家の生業を継ぐと公言していた相方とのコンビも解散となり絶望する加瀬凛太。何とかして漫才を続けたい凛太の前に、先輩KOM王者からある情報が寄せられるお笑い小説。来年決勝に残れなければ芸人を辞めることを条件に、死神の異名を取る謎の作家ラリーに教えを請う凛太。同様に師事するキングガン、放送作家を目指す梓、それぞれの視点で描かれてゆく葛藤やぶつかり合う姿はとても熱くて、それらが見事な形で繋がって、結実してゆく展開にはぐっと来るものがありましたね。面白かったです。