前回、新潮文庫nexの企画を作った時に思い出したのが、以前作ったこの企画。
この企画を作ってから2年近く経過していることもあり、今回はレーベル企画として改めてそれ以降に刊行された角川文庫を対象に、改めて30作品をセレクトしてみました。ただ、予め書いておくと角川文庫は毎月刊行されている点数自体が途方もないため、全然カバーしきれていないのが現状です。おそらくあれも入っていないこれも入っていないは当然あろうかと思いますが、そこは自分が読んだ本の中からのオススメということでよろしくお願いします(苦笑)
1.騙し絵の牙(角川文庫)
大手出版社で雑誌編集長を務める速水。上司の相沢から自身の雑誌の廃刊を匂わされたことをきっかけに、組織の思惑に翻弄されながらも懸命に抗う物語。作中では出版業界の厳しい状況が端的に描かれていて、部下や上司に振り回され大規模リストラや社内他誌の廃刊に直面したり、さらには家庭不和まで顕在化して、どんどん追い詰められてゆく速水。一方で出版界の新たな可能性の模索もあって、絶望しか見えなかった先にあった思わぬ展開には驚かされましたが、一見輝ける未来を手にしたかに見えた彼が直面する何とも皮肉な結末がとても効いていました。
2.青くて痛くて脆い(角川文庫)
大学1年の春に秋好寿乃に出会い、二人で秘密結社「モアイ」を結成した楓。将来の夢を語り合った秋好はいなくなり、すっかり変わってしまったモアイを取り戻すべく楓が動き出す青春小説。周囲から浮いていて誰よりも純粋だった秋吉と、彼女の理想と情熱に感化されつつ徐々にすれ違うようになった楓。明らかになってゆく楓のモアイへの複雑な思いと不穏な構図、そしてやりきれない結末には流石に頭を抱えたくなりました。どこかで軌道修正できなかったのかいろいろ考えてしまいましたが、こういう自己陶酔的な青臭さや痛さもまた青春なんですよね…。
3.君を描けば嘘になる(角川文庫)
寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。
4.彼女の色に届くまで(角川文庫)
画廊の息子で幼い頃から才能を過信し画家を目指している緑川礼。しかしいつの間にか冴えない高校生活を送っていた礼が、無口で謎めいた同学年の美少女・千坂桜と出会うアートミステリ。礼が衝撃を受けた原石のような彼女の絵の才能。その推理で礼の窮地を救ってみせる桜の意外な一面と、共に過ごすようになってゆく日々。圧倒的な才能を前に平凡な自分を突きつけられる葛藤と少しの打算、生活力皆無な桜が気になって飼育係として世話を焼いてしまう礼の複雑な想いが悩ましいですが、それでも不器用な二人らしい結末はとても素敵なものに思えました。
5.高校事変(角川文庫)
平成最大のテロ事件を起こし死刑になった男の次女・優莉結衣。彼女が転入した武蔵小杉高校を総理大臣が極秘訪問することになり、学校が突如武装勢力に占拠に巻き込まれてしまうエンタメ小説。こういう状況に遭遇するのは偶然でも、なにかあるたびにその関与を疑われてしまう境遇というのはなかなか厳しい…とはいえ武装勢力を相手に先生や他の生徒たちがパニックに陥る中、冷静に状況を見極めて判断し活路を見出してゆく結衣の行動力は際立っていました。そんな結衣がこれからも普通の女子高生でいられるのか気になるシリーズ。現在9巻まで刊行。
6.准教授高槻彰良の推察(角川文庫)
幼い頃に遭遇した怪異によって人の嘘がわかる耳を持ち、それゆえに孤独になってしまった大学生・深町尚哉。そんな彼が怪異に目がないイケメン准教授・高槻と出会い、常識担当の助手として様々な事件に遭遇するミステリ。いないはずの隣の空き部屋から聞こえる奇妙な音の正体、ふと気がつくと周囲にいつも針が落ちている呪い、肝試しに出かけて神隠しに遭った少女。高槻を理解する周囲の人々もなかなか印象的で、孤独な尚哉を分け隔てなく受け入れてくれる彼らの優しさが染みますね。幼い頃に奇妙な体験をした二人の今後に期待のシリーズです。5巻目が20年11月に刊行予定。
7.虹を待つ彼女(角川文庫)
優秀で予想できてしまう限界に虚しさを覚えていた研究者・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加して、衝撃的な自殺でカルト的な人気のゲームクリエイター・水科晴を知る物語。過去の事件や水科晴のことを調べてゆくうちに、彼女に共鳴し惹かれてゆく工藤。重要なキーパーソン「雨」の存在と調査中止を警告する謎の脅迫。我が身が危険に晒されながらも諦めず、晴を人工知能で再現することに妄執する工藤の姿には鬼気迫るものがありましたが、真相を知った彼のほろ苦くも粋な決断は心に響くものがありました。
8.仙文閣の稀書目録(角川文庫)
そこに干渉した王朝は程なく滅びるという伝説の巨大書庫・仙文閣。帝国春の少女・文杏が、危険思想の持主として粛清された恩師が遺した唯一の書物を届けるべく訪れ、仙文閣の典書・徐麗考と出会う中華ファンタジー。麗考に救われたものの、無事蔵書される心配で住み込むことになった文杏が知る壮大な仙文閣の威容。文杏を持ち込んだ書物を巡って、権力に屈しない図書館めいた仙文閣で必要とされる資質が問われる展開でしたけど、知識云々よりももっと大切なことがあるんですよね。文杏がこれからどう成長してゆくのかまた読んでみたいと思いました。
9.17歳のラリー(角川文庫)
十七歳の春。突如明かされた三年生のエース川木の渡米が平凡な都立高校テニス部に引き起こした波紋。絶対的な才能を持つ彼に対し、なかなか言い出せなかった仲間達の様々な想いが明らかになってゆく青春群像劇。突如明かされた途中で退学も厭わない決意表明に、ダブルスの相棒、女子部のエース、ゆるい部員、幼馴染のマネージャー、部長たちそれぞれの視点から彼への複雑な想いが綴られてゆく展開でしたが、関わってきた川木にもまたいろいろ思うところがあって、そんな連鎖的に明らかになってゆく等身大の熱い想いがなかなかぐっと来る物語でした。
10.紙屋ふじさき記念館(角川文庫)
編集者の母と二人暮らしの大学生・百花。ある日、叔母に誘われた「紙こもの市」で紙雑貨の世界に魅了され、老舗企業「紙屋ふじさき」の親族で記念館の館長・一成と出会う物語。ふとしたきっかけから百花が作った紙細工を通して関わり合うようになり、イケメンだけれど無愛想な一成の紙への真摯な想いを知ってゆく百花。友人や一成の祖母に背中を押されて、お互い刺激を受けながらこもの市の商品を考えたり、記念館をもっと魅力あるものに変えていこうする展開はなかなか良かったですね。少しずつ変わってゆく彼らのこれからをまた読んでみたいですね。現在2巻まで刊行。
11.ゴーストハント(角川文庫)
谷山麻衣が通う高校の取り壊そうとすると祟りがあるという旧校舎。ひょんなことから、校長から旧校舎の調査依頼を受けた渋谷サイキックリサーチの仕事を手伝うことになるホラーミステリ。以前のX文庫版を読んだのはかなり昔だったので内容もあやふやでしたけど、自信家のナルやぼーさん、巫女さん、真砂子たちと出会ってぶつかり合ったり、ああだこうだ試行錯誤しながらみんなで事件解決に挑んでゆく展開を読んでいくうちに、そういえばこんな感じだったなと懐かしい思いで読みました(苦笑)続巻も楽しみなシリーズです。現在3巻まで刊行。
12.君の想い出をください、と天使は言った(角川文庫)
急性脳腫瘍で入院し、医師の態度から最悪の結果を察してしまい絶望する河野夕夏。その夜悪魔を名乗る不思議な青年と出会い、大切なものと引き換えに命を助ける取引を交わす恋愛ミステリ。二年間の記憶を失って様々な違いに戸惑いながらも再び職場の銀行で働き始める夕夏と、そんな彼女の前にアフターフォローとして再び現れた青年・水上。記憶が戻らなくても確実に前に進めている実感があって、そんな彼女を気にかけてくれる人たちがいて、そんな中で本当に大切なものを再び見出して、これまでの全てが繋がってゆく結末がとても素敵な物語でした。
13.ネガレアリテの悪魔(角川文庫)
19世紀末、ロンドンの画廊で展示されたルーベンス未発表の真作。その絵に目を奪われたエディスが「贋作」と断言する美貌の青年・サミュエルと運命の出会いを果たすファンタジー。訳ありな貴族の娘・エディスと、絵より現れた異形の怪物から彼女を救ったサミュエル。ジョン・ラスキンやヴィクトリア女王など実在の人物も絡めつつ、サミュエルと宿敵・ブラウンの贋作に宿る怪物を巡る戦いを描く展開でしたけど、虚構も織り交ぜながら展開されるストーリーはなかなか面白かったですね。未だ謎多きサミュエルとエディスのその後が気になるシリーズ。現在2巻まで刊行。
14.水神様がお呼びです あやかし異類婚姻譚(角川文庫)
美形だがマイペースな1つ上の幼馴染天也と、平和な毎日を送るお人好しの高校生・美月。しかし突然、不可解な現象に立て続けに襲われ、それが水神様からのプロポーズであることを知る異類求婚ファンタジー。綺麗な緑色の石の雨が降り注ぎ、解読不能な手紙が届く神様の暴走には苦笑いでしたけど、天也や兄の公太を頼りながら求婚を断ろうと奮闘する中で、天也への想いを自覚していく美月がいて、明かされるご先祖様と水神の因縁、そして天屋たちの秘密があって、懸命に向き合って本当に大切な想いを見出す優しい結末にはぐっと来るものがありました。
15.ただいま、ふたりの宝石箱(角川文庫)
仮面を被った仕事ぶりに限界が来て退職し、譲り受けた古民家で趣味のアクセサリーづくりをして暮らす涼子。そんな家に店子として宝飾職人「希美」さん住むことになるあたたかな再生の物語。趣味も合い配慮が行き届いていて、欲しい時に欲しい言葉をくれる希美に惹かれていく涼子。一方で未だに引きずる複雑な過去の想いや、容易に解けない呪いから素直に心を開けない状況にもどかしくもなりましたが、そんな彼女を尊重しつつ粘り強く向き合って、様々な過去のわだかまりを解きほぐすのを手伝ってくれた彼に出会えてほんとに良かったなと思えました。
16.僕の目に映るきみと謎は(角川文庫)
異常な世界が日常に視えてしまう女子高生・祀奇恋子。彼女と幼馴染・真守が、親友から怪しい人形を渡された女子生徒の相談を受け、「除霊推理」で恋子と真守のコンビが怪異を暴くオカルトミステリ。5W1Hを駆使して真相に迫り除霊する恋子と異界に繋がる扉を閉じることが出来る真守。当たり前のように怪異が視えてしまう日常で、怖がりのくせに逃げない幼馴染を守る二人の関係がなかなか絶妙で、相手を呪い殺す「トモビキ人形」を巡る真相とその結末もまたなかなか壮絶なものがありましたけど、そんな二人の物語をまた読んでみたいと思いました。
17.僕と彼女の嘘つきなアルバム(角川文庫)
田舎に息苦しさを感じて、大好きな写真家・渡引クロエが通っていた大学に入学し上京した可瀬理玖。クロエが立ち上げた創作サークルで、不思議な力を持つ女の子・渡引真白と出会う青春ミステリ。部室で消失した写真の謎を解いたことをきっかけに、真白のいなくなった父を探す協力をすることになった理玖と仲間たち。特異な存在の母・クロエとの複雑な関係を抱える真白を、かけがえのない彼らの存在が少しずつ変えていって、明らかになってゆく父のことから垣間見えた母の真意と、ようやく向き合えた先にあった苦笑いの結末がとても素敵な物語でした。
18.向日葵のある台所(角川文庫)
シングルマザーで中学二年の娘・葵を育ててきた美術館に勤める学芸員・麻有子。極力関わらないようにしていた根深い遺恨がある母が倒れ、その母と突然同居することになってしまう物語。これまで散々母に甘えながらも、いざとなると妹の麻有子に押し付けようとする姉・鈴子。すれ違いばかりだった過去のわだかまりはあまりも重くて、そう簡単には解消できないよなあと感じましたが、それでも母に様々なことを思い起こさせる自分と娘の関係の積み重ねがあって、不器用なりにお互い少しずつ向き合えるようになってゆく結末には救われる思いがしました。
19.山神よろず相談所(角川文庫)
よろず屋を営む3人の兄たちに溺愛される高校一年生の山神結。天然で素直な彼女が不思議で個性的な父や兄たちと持ち込まれた依頼を解決してゆくハートフルストーリー。秋祭りで女装させられていたクラスメイトの佐藤千を巡る人探し、引きこもりの息子と家出娘の捜索、姉と自らの元婚約者の結婚を阻止したい妹といった依頼を調査するストーリーには不穏な展開もありましたけど、期せずして結と兄妹となってしまった千の複雑な想いや、苦境に陥りがちな悩める彼女のために奔走し、温かく見守る家族の想いがとても微笑ましくて素敵な家族の物語でした。
20.天涯の楽土(角川文庫)
弥生時代後期。久慈島と呼ばれる九州北部の里で平和に暮らしていた少年隼人。津櫛邦の急襲により里を燃やされて家族と引き離され奴隷にされた彼が、敵方の剣奴の少年・鷹士に命を救われる和風古代ファンタジー。過酷な奴隷生活にたびたび反発し、周囲から痛めつけられる隼人を救ってくれる鷹士。次第に距離を縮めてゆく彼らが久慈の十二神宝を巡る諸邦の争いに巻き込まる中、隼人は生い立ちの秘密を知り仲間たちと島の平和を取り戻すため、失われた神宝の探索に向かう展開はなかなか壮大で、続きが気になるシリーズ(単行本で二巻目が刊行済)。
21.雲神様の箱(角川文庫)
霊山を移り住む古の民・土雲の一族。長の家に生まれながら不吉な双子の妹ゆえ虐げられていた少女・セイレンが、本来求められた姉媛の身代わりに雄日子の守り人となる古代和風ファンタジー。類い稀な技を持ちながら孤独と怒りから里を飛び出した真っすぐな気性のセイレンと、大王への叛逆を目論む雄日子の邂逅。姉媛との因縁も絡めつつ、自分の居場所を提供してくれた雄日子への複雑な想いを抱えるセイレンが、その野心や彼のありようにどう向き合ってゆくのか、多くの人との関わってゆくなかでどう成長してゆくのか今後に期待したいシリーズ。現在2巻まで刊行。
22.天命の巫女は紫雲に輝く(角川文庫)
景国の祭祀を司る貞家の一人娘なのに、宮廷の華やかな儀式には参加させてもらえない貞彩蓮が、護衛の皇甫珪と宦官殺人事件を調べるうちに第三公子・騎遼と出会い、宮廷内の争いに巻き込まれてゆく中華風ファンタジー。野心家の騎遼と出会い興味を持たれ、蠱毒や息壌を用いた巫覡を阻止するために関わってゆく彩蓮と皇甫珪。護衛として凸凹コンビを組む三十路男・皇甫珪に加えて、騎遼もまた彩蓮に興味津々で、彩蓮自身がどうありたいのかを問われる展開でしたが、座して待つのではなく自ら立ち向かう彩蓮の決断はなかなか悪くなかったと思いました。現在3巻まで刊行。
23.うつろがみ 平安幻妖秘抄(角川文庫)
幼くして帝たる父と母を亡くし東北の鎮守府副将軍となり、蝦夷との戦いに生きてきた源譲。都で検非違使の少尉となった彼が、時の権力者・藤原基経から神霊に憑かれた姫を元に戻せと命じられる平安ファンタジー。帝位を巡る争いに巻き込まれた譲が押し付けられた基経の娘、出羽から連れてきた蝦夷の神女・為斗の存在、そして幼き頃の約束を果たすなら姫の魂を捜すという神霊・虚神と魂がさまよう魔道山。以前の立場から時の権力者たちに目の敵にされ窮地に陥りながらも、大切なものを最後まで見失わなかった譲が迎えた結末はなかなか良かったですね。
24.あなたが心置きなく死ぬための簡単なお仕事。(角川文庫)
不況によりなんでも屋から「やり残し請け合い屋」に転身した日賀テルが、押しかけWEBコンサル女子・木崎すずを助手に、もたらされた依頼を解決してゆく物語。かつての想い人が育てていた花、余命僅かのためうまく別れたいと願う夫婦、記憶喪失状態な友人の持っていた日記の真実、そして幽霊からの電話の招待、そしてテルに届く差出人不明の依頼。テルとすずの二人で時には衝突し、助け合いながら依頼を解決してゆくコンビっぷりがなかなかいい感じで、だからこそ最後の急展開は切なかったですけど、とても優しくて素敵な物語だったと思いました。
25.鬼恋綺譚 流浪の鬼と宿命の姫(角川文庫)
青山領の民が突然変異し鬼となり、小寺領の民を襲い血を吸って殺すようになって30年。故郷から逃げ出し身を潜めて暮らす小寺の民の若き領主・菊が、勇敢な少年・元信に窮地を救われ、運命の出会いを果たす和風ファンタジー。民を救うために強くなりたいと願う菊に剣術を教える元信と、お互い惹かれ合ってゆく禁断の恋の行方。そして旅する薬師の文梧とその助手・主水が出会った少女・竜胆の決意。長らく続いた小寺と青山による因縁の真相と結末はほろ苦くやるせなかったですが、それでも二人で見事本懐を遂げてみせた結末はなかなか印象的でした。
26.紅い糸のその先で、 (角川文庫)
子供の頃から「運命の紅い糸」が見えてしまうゆえに辛い思いをしてきた高校生つむぎ。入学式でぶつかった架間先輩と風紀委員会で印象的な再会を果たす青春小説。先輩の小指に紅い糸が無いことに気づくつむぎ。最初はケンカばかりしていたのが共に過ごすうちに少しずつ変わり、お互いの友人の恋を応援する作戦を立てるようになる二人。そこからの苦い過去を繰り返すかのような急展開は、彼女にとってなかなか厳しい状況でしたけど、紅い糸を巡るひとつのエピソード、先輩からの告白も絡めて意外なところから覆ってゆく結末はなかなか良かったですね。
27.夏、君と運命の恋をするはずだった (角川文庫)
出産間近の妻・千花と病院に向かう道中で不慮の事故に遭ってしまう明良。悲劇を拒絶したことで彼女と出会う10日前にタイムリープしてしまった明良が、彼女と再会すべく奔走するやり直し青春ミステリ。彼女を抱きしめた瞬間繰り返されるタイムリープ。その度に薄れる彼女の記憶や周囲で起きる事件の差異、事情を知って支えてくれる友人たち。なかなかうまく行かないのはなぜなのか、事件を防ぎ追い求めた過程で見えたもう一つの可能性や真相はほろ苦かったですが、それでも諦めなかった彼らが取り戻した大切な関係にはぐっと来るものがありました。
28.猟犬の國(角川文庫)
便宜上「イトウ家」と呼ばれる日本の誇る情報機関。日本人でもないのに不本意ながら猟犬になった男が、情報と軽武装を頼りに、国内外の邪魔者を排除するスパイ小説。あの「イトウさん」は組織名だったの?とか思わなくもなかったですが、スパイとしての大阪での日常を過ごす偽日系人の経歴を持つ男が、警察庁から出向してきた新人・幸恵に情け容赦のない環境を「アウトロー!」とか散々に罵られながら、コンビを組んでスパイとして新人教育していくゆるい展開がなかなか面白かったです。もしかしてあの人なんですかね(苦笑)現在2巻まで刊行。
29.龍探 特命探偵事務所ドラゴン・リサーチ(角川文庫)
川崎で探偵事務所「ドラゴン・リサーチ」を営むバツ3の元刑事・遊佐龍太。日々警察の手に余る事件や、訳アリの危険な依頼が持ち込まれる探偵ミステリ。借金でヤクザに追われる美人AV監督の護衛、かつての極左過激派の女神をつけ狙うストーカーの正体、拳銃盗難事件に絡む警察官夫婦の苦悩。警察時代の人脈を駆使したり、有能な3人の元妻などにサポートされながら依頼を解決してゆく展開で、できた周囲との対比で主人公のダメっぷりが際立っていましたが、なぜかそういう人はモテるんですよね(苦笑)関連作品を読んでいるとより楽しめそうです。
30.海棠弁護士の事件記録 消えた絵画と死者の声(角川文庫)
しがない法律事務所を営み、小さな依頼に振り回されてばかり海棠忍。自らが後見人をつとめ事務所に入り浸るようになってしまった15歳の聡明な少女・黒澤瑞葉と事件解決に挑むミステリ。小学6年生の杉浦涼太によってもたらされた、3年前に事故死した祖父から譲り受けるはずだった絵画が何者かの手によって奪われた事件。暴走気味の瑞葉に振り回されながら、事なかれ主義になりきれない忍が事件の真相に迫る展開で、テンポよく散りばめられてゆく一見関係なさそうな小ネタの数々が、後々いろいろ効いてくるのは上手かったです。シリーズ化に期待。以上です。
気になる本があったらぜひ読んでみてください。