2019年下半期注目のオススメ新作企画、「ラノベファンタジー」「ライトノベル恋愛・青春小説」に続く第三弾ということで「一般文庫」レーベル編です。ラノベの新刊以外は後追いがもはや常態化していて、ライト文芸レーベルや単行本もどこまで入れるのかという状況になりつつありますが、現在の積読の状況を鑑みてとりあえず一般文庫レーベルのおすすめ作品を先にリリースします。
一般文庫レーベルもライト文芸レーベルとの境界線が曖昧になってきていて久しいですが、刊行点数に比例して読みたい本も増えていく中、気になる本はできるだけカバーしたいと思っていますが、なかなかそれを全ては難しいですね(苦笑)取捨選択やりくりしながら読んだ本の中から今回20作品をセレクトしています。
上半期分と合わせて2019年一般文庫レーベルのおススメということでお願いします。
1.どうかこの声が、あなたに届きますように (文春文庫)
地下アイドル時代に心身に深い傷を負い、鎌倉の祖母のもとでひっそりと生活を送っていた小松奈々子20歳。そこに突然現れたラジオ局ディレクター黒木から番組アシスタントにスカウトされる物語。母親に認められるために頑張っていたアイドル活動に挫折して、希望を失いかけていた奈々子が挑戦するラジオの世界。戸惑いながら始めた彼女が多くの人に支えられて成長し、切実な日々を生きるリスナーたちと交流を深めていって、何度か危機に直面しながらも、これまでの放送で積み重ねてきたみんなの力を合わせて乗り越えていくとても素敵な物語でした。
2.屍人荘の殺人 (創元推理文庫)
神紅大学ミステリ愛好会会長の探偵・明智恭介と助手・葉村譲が、もう一人の探偵・剣崎比留子と共に紫湛荘を訪れ、予想もしなかった事態で荘内に籠城を余儀される中、次々と連続殺人事件が起きるミステリ。過去に因縁あるペンションでの夏合宿で、思わぬ形で閉じ込められた参加者たち。外部からの脅威による惨劇と、次々と起きる因縁じみた殺人事件の組み合わせが奇抜で事態をより難しいものにしていましたけど、その特殊な状況下で起きた事件の真相は切なくて、そんな事件を見事解決に導いてみせた探偵たちのその後をまた読んでみたいと思いました。
関連作品:「魔眼の匣の殺人」
3.彼女は死んでも治らない (光文社文庫)
いつも殺されがちな最高に可愛い幼馴染の沙紀。普通じゃないレベルで彼女のことが好きな女子高生・神野羊子が得意の推理を巡らせるハイテンションコージーミステリ。沙紀を殺した犯人を羊子が見つけ出すと、犯人を身代わりになぜか彼女が生き返る歪な関係、そんな羊子と一緒にいてサポートする昇の存在。のんびり屋なのに核心を突く乃亜や、正義感あふれる拝み屋女子高生・楓との出会いは羊子たちの関係に変化をもたらして、あの斜め上のカオスな展開から始まったこの物語を、伏線や真相を絡めつつすっきりとまとめ上げてみせた結末はお見事でした。
4.君の想い出をください、と天使は言った (角川文庫)
急性脳腫瘍で入院し、医師の態度から最悪の結果を察してしまい絶望する河野夕夏。その夜悪魔を名乗る不思議な青年と出会い、大切なものと引き換えに命を助ける取引を交わす恋愛ミステリ。二年間の記憶を失って様々な違いに戸惑いながらも再び職場の銀行で働き始める夕夏と、そんな彼女の前にアフターフォローとして再び現れた青年・水上。記憶が戻らなくても確実に前に進めている実感があって、そんな彼女を気にかけてくれる人たちがいて、そんな中で本当に大切なものを再び見出して、これまでの全てが繋がってゆく結末がとても素敵な物語でした。
5.不純文学 (宝島社文庫)
本を読むのが好きな「先輩」と一緒にいる「私」。私と先輩の二人が織り成す奇妙で不思議で切ない掌編集。本作は右ページに章題、左ページに1ページ完結の私と先輩の話が全120話ひたすら続くシンプルな構成。様々なシチェーションで私と先輩の関係が綴られて、時には不純に、時には愛しく、時には複雑な気持ちで先輩を想う私がいて、一見淡々としているように見える不器用な先輩の私への優しさがあって、そんな二人のエピソードの積み重ねがクセになってゆく、どんな状況でもお互いを大切に思う気持ちは変わらない姿がとても印象的な物語でした。
6.自殺予定日 (創元推理文庫)
再婚してわずか二年。父の死後、遺産とビジネスを継ぎ様々なものを変えてゆく継母の姿に父を殺したと確信する女子高生瑠璃は、自らの死で罪を告発するため山奥で首を吊ろうと決意するミステリ。自殺の名所で出会った幽霊の裕章と交わした、一週間以内に証拠が見つからなければ自殺するという約束。探っていくうちに継母への疑惑が膨らんでいく瑠璃。そこからの急展開と明らかになってゆく真相は、見えていたものの印象をガラリと変えていって、瑠璃が改めて実感した大切なものへと思いと、新たな人生を予感させる結末はぐっと来るものがありました。
7.偽りの私達 (宝島社文庫)
都市伝説として囁かれる【まほうつかい】。七月十七日から八日に時間が巻き戻った高校生・土井修治が、十七日に階段から落ちて死ぬ美少女・渡辺百香を救うため、彼女の死の原因を探り始めるミステリ。修治の大切な幼馴染・七瀬の彼氏と浮気したのが渡辺百香?そんな噂を聞いて調べ始めた修治が気づくスクールカーストを巡る不穏で狡猾な罠。読んでいくうちに浮かぶ先入観がたびたび裏切られ、新たな事実が明らかになるたびにガラリと構図を変えていって、荒削りではあるものの伏線を巧みに使いつつ、思わぬところに着地してみせた結末は見事でした。
8.薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理 (宝島社文庫)
医者から処方された薬で足の痒みが治まらず悩んでいたホテルマン水尾爽太。再診後の薬局で薬オタクの女性薬剤師・毒島と出会う薬剤ミステリ。ホテル客室の塗り薬紛失事件に、薬の数が足りないと訴える老人、痩身剤を安く売る病院など、他のことには興味が薄いのに薬が関わると俄然行動力を発揮する毒島の存在感と、そんな彼女が気になる爽太が事件を解決していく展開はなかなか面白かったです。病院や薬剤師、薬の豆知識もあったりで、わりと踏み込んだのに進展しない二人の関係はなかなか遠い道のりですけど、続巻あるならまた読んでみたいですね。
9.トラットリア代官山 (ハルキ文庫)
亡き父から受け継いだ店を気丈に守り続ける男装の女支配人・大須薫と天涯孤独の年下敏腕シェフ・安東怜が、訪れたお客の問題を解決に導くグルメ小説。結婚して代官山で暮らす友人に抱く独身アラサー女子の複雑な思い、転落事故で記憶を失った父親と愛犬の失踪の真相、若きネイリストが抱いた彼への疑念の顛末といった事件をお客様と一緒に解決する展開で、そんな積み重ねが最後に繋がりましたね。美味しそうな料理との描写も合わせて著者さんらしい物語でした。薫と怜の関係も気になるところですけど、そのあたりも続刊で読めることを期待してます。
大陸西方の相国で部署を渡り歩いて勤続十年の三十路手前の女官吏・陶蓮珠。新皇帝の双子の弟・郭翔央から声を掛けられて、新皇帝が娶る予定だった威国の妃の身代わりとなる中華後宮ファンタジー。威妃を迎えに行くと新皇帝が姿をくらませ、双子の弟・翔央と共に威国語を話せる蓮珠がその身代わりを務める展開。官吏としては有能で、自ら抱えてきた想いや翔央から聞いた志から、新皇帝即位を巡る陰謀を何とかしようとして空回りする蓮珠がやや危なっかしかったですが、そんな中でお互い惹かれつつある翔央との今後がなかなか楽しみなシリーズですね。20年1月に3巻目刊行予定。
11.木曜日にはココアを (宝島社文庫)
川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる...小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる些細な出来事の積み重ねが、最後に繋がってゆく連作短編集。登場人物たちがどこかでさり気なく繋がっている連作短編集で、行き詰まっていた登場人物たちが新たな出会いや今まで気づかなかった優しさに触れて、見える世界を少しだけ変えていって、連鎖反応的に繋がってゆく物語がもたらした勇気と、それがもたらした結末がとても素敵な物語でした。最初のエピソードが最後にこういう形で結実するのもいいですね。
12.タスキメシ (小学館文庫)
長距離選手として将来を期待されながら大怪我を負った高校三年生の眞家早馬。そんな彼が料理研究部に入り浸るようになる中、それぞれの熱い思いが交錯する駅伝大会が始まる青春小説。料理研究部の井坂都との出会いと、複雑な想いを抱える早馬が新たに見出した夢。そんな彼を諦められない同級生の助川や弟・春馬。都への想いも絡めた早馬の真意はどこにあるのか、彼に抱く周囲の複雑な想いが何とももどかしかったですが、仲間たちが突きつける熱い想いが早馬の心を強く揺さぶる結末はなかなか良かったですね。都との関係はどうなったのか気になる…。
続巻:「タスキメシ 箱根」
夏休み中、交通事故に遭った高校生・古谷野真樹。後遺症で過去の記憶を失いつつも夏休み明けの日常を取り戻しつつあった古谷野が謎の落書き「7.6」にあちこちで遭遇する青春ミステリ。自分へのメッセージと直感で感じて、同じクラスで写真部の生駒桂佑や春日まどかと一緒にその謎に挑む古谷野。謎を追ううちに明らかになってゆく親友の秘密と事件の真相。事実を知るたびに過去にあった情景が変化して、正直な心境は時に残酷で、失われたものの大きさを痛感しましたが、それでもまっすぐに向き合った彼らの真摯な想いがとても印象的な物語でした。
14.少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)
法律事務所に務める新米弁護士木村と有能な先輩・高塚のコンビが挑む連作リーガル・ミステリ。15歳の少女に手を出したとして逮捕された元家庭教師、中退した元同期の覚悟、浮気され離婚を望む男が親権を望んだ理由、そして高名な芸術家と娘の関係の4話からなる構成で、最初は一見よくあるありふれた事件に思えますが、それが性格の違う弁護士コンビによる別視点からのアプローチによって、もうひとつの構図を浮かび上がらせてゆく構成となっていて、事件決着後に木村が垣間見るほろ苦くもなかなか味わいのある結末がとても印象的な物語でした。
15.真壁家の相続 (双葉文庫)
大学生の真壁りんに届いた祖父の死の知らせ。急いで葬儀会場へ向かうと一人の青年が現れ、彼が祖父の「隠し子」と名乗ったことを皮切りに、相続の話し合いは揉めに揉めてゆく物語。祖父が遺した小さな家と預金のみの相続を巡る、寄り付かなった長男夫婦、独り身でデザイナーの長女、事実婚の次女たちの醜い争い。こういう時末っ子だった夫が失踪した後も同居して介護していた妻とか立場弱いんですね…話としては妥当なところに落ち着いた感もありましたけど、終わってみれば弱い立場だったりんの母が一番したたかだった…とても勉強になりました。
16.金継ぎの家 あたたかなしずくたち (幻冬舎文庫)
割れた器を修復する「金継ぎ」を仕事とする千絵。進路に悩みながらその手伝いを始めた孫の真緒が漆のかんざしを見つけ、それをきっかけに二人で千絵の故郷・飛驒高山へと千絵の記憶をたどる旅に出る物語。二人が思い切って出かけた旅の中で千絵が思い出してゆく、複雑な想いも絡む過去の記憶。真緒に助けられながら向かった過去の気がかりに向き合う旅では、様々な出会いがあったり漆に関わる現状もあって、それに単身赴任中だった真緒の母・結子との関係も絡めながら、母から娘そして孫へと確かに受け継がれてゆく温かな想いが印象的な物語でした。
17.科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)
自社の非科学的な商品にダメ出しをしたばかりに、最も行きたくなかった商品企画部に島流しになった大手電器メーカーに勤める科学マニア羽嶋賢児。その真っすぐすぎる科学愛が騒動を巻き起こすお仕事小説。苦い経験をさせられたり振り回された過去から、似非科学を否定し空気を読まずに正論を言って衝突する賢児。正しければいいというものでもないという現実と、科学好きを拗らせてしまう要因となった複雑な事情…こんな人が周囲にいたら疲れそうですが、科学研究を巡る厳しい事情も語られていたりで、理想と現実のバランスを取るのは難しいですね。
18.オタクと家電はつかいよう ミヤタ電器店の事件簿 (宝島社文庫)
前職を辞めて求職中の美優が、「なんでも対応」ありのミヤタ電器店の求人を知って、変わり者の宮田社長と一緒に家電を巡る謎を解き明かすミステリ。新品のルータを欲しがる理由、空気清浄機についたカビの謎、同じような使い方なのにスマホの充電の減りが早い理由、異音を発する食器洗い機、そして美優をストーカーする人物の正体。無表情な宮田の過去に、美優のトラウマやストーカー騒ぎもあって若干詰め込みすぎだった感もありますが、家電知識の宮田と推理力の美優のコンビで家電と人間関係を絡めた謎を解き明かしてゆく展開は興味深かったです。
19.絵に隠された記憶 熊沢アート心療所の謎解きカルテ (宝島社文庫)
絵画療法の第一人者・熊沢が営む心療所にインターンとしてやってきたスクールカウンセラーを目指す大学院生・日向聡子。様々な悩みを持つ人々の本心や過去を、絵を通して解決していく物語。飛行機に強い恐怖心があるサラリーマンや、スマホ依存に悩む学生、ユニコーンの絵ばかり描く少女、認知症で自宅に帰れなくなった老女、そして幼少期の記憶がない聡子自身の過去。描かれた絵をヒントに症状を解決してゆくミステリーで、繊細な心理を抱える人に寄り添う優しさから導かれ、明らかになってゆく謎とそれぞれの結末はなかなか良かったと思いました。
20.ウタカイ 異能短歌遊戯 (ハヤカワ文庫JA)
短歌を歌い異能「歌垣」を互いにぶつけあう「歌会」。歌聖高校に通う一年生の登尾伊勢が、最大のライバルであり先輩の朝良木鏡霞への燃える恋心をウタに乗せて、歌会の全国高校選抜トーナメントに挑む物語。先輩に対する想いに葛藤しながら、個性派揃いの他校の少女たちとの試合を勝ち抜いていくひたむきな伊勢の想いが熱くて、つまるところ先輩への愛なんだよなあというか、先輩も何だかんだいいながら真摯に向き合っていて、対戦相手の名前やエピソードはややアバウトな印象もありましたけど、そのシンプルで真っ直ぐな展開が心地よかったです。
以上です。
「ライト文芸編」と「単行本編」もまだ読み終わってない本がありますが、何とか年内更新目指して頑張りたいと思います。