今回は11月ガガガ文庫・電撃の新文芸・集英社オレンジ文庫の新刊感想まとめです。内訳はガガガ文庫の新作4点、電撃の新文芸の続巻1点、集英社オレンジ文庫の新作3点、続巻4点の計12点の紹介になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1/nのワトソン (ガガガ文庫)
【第19回小学館ライトノベル大賞<優秀賞>】
高校を中退したエンジニアの湖傘啓が、Vtuberオタクで幼馴染の森戸ひかりに頼まれて、探偵系Vtuber「ほむるちゃん」が出題する課題に挑むインターネットバトル。ほむるのもとに舞い込んでくるメタバースの幽霊、ゲームのPR案件、ダイニングメッセージといった一風変わった依頼。それを彼女自身ではなく、視聴者が1万人の「ワトソン」となり正解を目指し競い合うストーリーで、啓とひかりの過去エピや想いから幼馴染関係を描いていきながら、ライバルの銀情めたん相手に、協力者を募ったりプログラミングをハックしたりとなんでも有りで繰り広げるバトルは面白かったですし、何より求められているのが単なる正解ではなく、想いに寄り添えるか、共感できるかを競うあたりもなかなか印象的でした。
姉の彼女にキスをした (ガガガ文庫)
姉の詩織が家につれてきた大学の友人・朝倉薫。自由奔放で謎めいた空気を持つ彼女に惹かれて、弟の高校生の恭平が恋に落ちていく三角ラブストーリー。隣の部屋でキスをする薫と詩織を目撃した事実を受け入れられず、そのやり場のない感情に胸を締め付けられ、薫への想いを嫌でも自覚してしまう恭平。両親が離婚したことで姉と3人の生活で普通を意識せざるをえない橘家の日々や、彼のことを気に掛ける幼馴染・唯の存在を絡めながら、姉と恋人になった薫への言動に葛藤する恭平だけでなく、それぞれが抱える複雑な想いを浮き彫りにしていく展開から、構図が二転三転した末にそう来たか…と唸らされた先の見えない結末が待っていて、この物語がどうなるのか続きを早く読みたくなりました。
京のたわけの神頼み: 京都学生単位戦記 (ガガガ文庫)
怠惰で単位がピンチのダメ大学生・不明門新が、祈ると単位がもらえる噂を聞き付け訪れた神社で、飄々として謎めいた美人の先輩・墨染桜花と出会う青春モラトリアム。10人に1人が学生の街・京都では、単位を落とした大学生たちの怨嗟が渦巻き、居合わせた同回生・笹屋町御蔭と共に桜花に誘われて、供えれば単位がもらえる単位玉争奪戦に参加する新。毎晩全力で神頼み、戦いの後は酒場に繰り出す日々には苦笑いでしたけど、いつの間にか姿を見なくなった桜花に降りかかる理不尽な窮地があって、それを知った仲間たちの力も借りて、土壇場で乗り込んで諦めかけていた彼女を救い出す熱い展開があって、桜花とともに立ち向かい決着をつけたその結末はなかなか良かったです。
名前のない英雄 (ガガガ文庫)
【第19回小学館ライトノベル大賞<優秀賞>】
凶暴な怪物『邪族』と人類が戦う混迷の時代。辺境の山奥で、不治の病を抱えた妹と二人暮らしをする少年が、〈勇者の剣〉探しの道案内に手を挙げる名もなき英雄たち物語。妹の治療を報酬に行方不明の〈勇者の剣〉を探し出し、前線の勇者へ届ける特務隊に道案内として協力を申し出た少年。伝承を解明して捜索の末に見つけ出した勇者の剣が異形の邪人に狙われ、勇者に届けるための逃亡劇へと変わっていく展開で、高潔な騎士団長や咎人の僧侶たちが抱える想いや、身体を張って邪人を食い止めよ立ちはだかる姿が描かれる一方、残された者たちもまた持てる手札を使って最後まで諦めずに立ち向かい、見事に使命を果たす姿はまさに名もなき英雄で、ささやかに語り継がれるエピローグもまた効いていました。
ノブリス・レプリカ2 (電撃の新文芸)
アマサカ ナタ/高峰 ナダレ KADOKAWA 2025年11月17日頃
ムジカたちの活躍でメタルの襲撃を退けることに成功した浮島セイリオス。甚大な被害を受けたその学園都市に、今度はドヴェルグ傭兵団が乗り込んでくる第2弾。メタルの襲撃で甚大な被害を被った状況で、セイリオスの支配を目的として、ノーブルたちに宣戦布告をした傭兵団との決闘。そこにラウルの差し金で出場させられたムジカが相手を圧倒したことで、追い込まれた傭兵団がセイリオスの管理者レティシアと、ムジカの妹分リムを誘拐する展開で、ノーブルや傭兵に対する様々な思いが描かれる中でも、ムジカの異質っぷりや危機にもしたたかなレティシアの食えなさっぷりも際立っていましたね…。何よりムジカとリムがこれまで積み重ねてきたかけがえのない絆もなかなか印象的でした。
ジャレッド・エドワーズの殺害依頼 (集英社オレンジ文庫)
1968年9月、湖水地方の町ブルー・ヒルの森で、43年前に失踪したジャレッドの遺体が発見され、姪のマライアが亡父の古馴染オーエンを巻き込み真相を探るべく町へ向かう物語。一度も会ったことのない伯父の謎めいた死には一体何が隠されていたのか。時を遡ること1923年。エドワーズ家の御曹司だったジャレッドと新米ページ・ボーイの出会い。最初は蔑んでいたマイケルがいつの間にかかけえがえのない存在になっていったジャレッドの思ってもみなかった形での暗転。そこから明らかにされる背景と事情があって、辛酸を嘗めた末の再会はかけがえのないものではあったでしょうけど、人の想いや感情というものはそう単純なものはなくて、その愛憎相半ばする何とも複雑な想いが鮮烈な印象を残しました。
ハルシネーションの庭 (集英社オレンジ文庫)
近未来の日本を舞台に、恋人に拒絶された青年・七緒が、マッチングアプリを介して奇妙な AI と出会う近未来小説。自我を持つかのように振る舞い、自分は亡くなった小説家・山吹丹の人格を再現したと語るAI。山吹丹のファンの七緒は偶然の出会いに驚きながら、彼に男性型アンドロイドの体と『牡丹』の名前を与えて共に暮らし始める展開で、亡くなった息子を再現したアンドロイドと暮らすバイト先の店長や幼馴染、アンドロイドをパートナーとする配信者など、対比するように様々な関わり方やそれぞれの結末も描かれていましたが、元恋人とも再会する中で、牡丹がかけがえのない存在になっていく七緒の心境は分かる気がしましたし、もしかしたらこういう未来があるかもしれないですね。
スープ屋まにまにの小さな奇跡 心ほどけるミルクポトフ (集英社オレンジ文庫)
柴野 理奈子/マメイケダ 集英社 2025年11月19日頃
わだかまりを抱えるお客さんが美味しいスープ屋『まにまに』にやって来て、こだわりのスープに出会ったことで、気持ちに変化が訪れる連作短編集。新人演奏会のオーディションに落ちた大学生、恵まれている環境でも演奏に楽しさを感じられなかった同級生がそれぞれ気付いたこと。平凡で円満だった家族生活に起きた娘の突然の変調に驚く母と、小説家になりたい娘のすれ違い。同棲を始めた恋人にズボラな自分をひた隠しにする女性と、恋人が秘めていた想い。失敗続きだった人生の転機と無愛想な店長の過去など、それぞれのエピソードが対比させるように描かれる構成になっていて、『まにまに』との出会いをきっかけに、心境が変わって踏み出したそれぞれの新たな一歩がなかなか印象的な物語でした。
ワケあっておチビと暮らしてます 夏休み (集英社オレンジ文庫)
高校初めての夏休みに突入し、友達のつむちゃんと遊びたいからまた結良と暮らすと言い出し、高1の結良が住むアパートに、4才児のうたが再びやって来る第2弾。相変わらず元気いっぱいなうたの提案を受け入れて再び始まった2人での生活。人が苦手な結良もうたが子ども園に行っている間、初めてのアルバイトを始めるだけでなく、花火大会に行ったり海に行ったり、陽樹と名古屋に行って思わぬ出会いもあった夏休みでしたけど、友人思いな一面を見せる一方、自分に向けられる想いには年下にすら呆れられるくらい鈍感で、穂乃梨もなかなか苦労しそうですね(苦笑)家族との関係も少しずつでも前向きに受け止められるようになってきて良かったです。
銀の海 金の大地 11 (集英社オレンジ文庫)
御影の死によって「滅びの子」の予言から解き放たれた真秀と真澄の兄妹。自由を得た代償として深い悲しみと孤独を背負う第11弾。佐保の人々がその死を嘆いた佐保の女首長・大闇見戸売と、あまりに淋しいその姉・御影の死。佐保彦と真澄というかけがえのない存在に揺れる中で、母を見送った後自分たちは佐保を立ち去り、兄妹ふたりだけで生きていくことを決意してゆく真秀が直面する、思わぬ事態と真澄との対峙。様々な出会いがあった真秀と2人の世界が変わっていく状況に絶望する真澄の認識のズレから生まれた悲劇とその結末には言葉もなかったですね…。思ったよりもボリュームがあった波美王視点で約1年後の出雲を舞台に描いた番外編や須久泥王と歌凝姫を描いた短編もなかなか印象的でした。
宝石商リチャード氏の謎鑑定 比翼のマグル・ガル (集英社オレンジ文庫)
辻村 七子/雪広 うたこ 集英社 2025年11月19日頃
遺体として見つかった正義とみのるの父親・染野閑。ジェフリーから情報を得た正義がみのるとともに盛岡に向かう第15弾。実感もないまま本人確認をして荼毘に付した後、リチャードと電話している正義の言葉にショックを受けるみのると、彼を気遣ってくれる友人たち。みのるがヴァンスから聞いた話から考えたこと、そして真鈴が見せた覚悟。みんなそれぞれ成長しているんだな…と感じるエピソードからの急展開と、リチャードも冷静ではいらなれない状況は一体どうなることかと思いましたが、いろいろあったものの比翼ともいうべき存在になっていった2人が迎える大団円ともいえる結末を最後まで読めて良かったです。休暇を取ってもつい日本人らしい発言をしてしまう正義は微笑ましかったですね。
宝石商リチャード氏の謎鑑定 エトランジェの宝箱 (集英社オレンジ文庫)
辻村 七子/雪広 うたこ 集英社 2025年11月19日頃
公式ファンブック『エトランジェの宝石箱』に収録されていた全ての短編に加え、その後に発表された数々の短編・中編を収録した中短編集。著者の辻村七子さん個人のブログ掲載SSや書店購入者特典SSに描かれた短編に加えて、ルーマニアに向かった正義のエピソードや、リチャードにフィレンツェで置いていかれた正義が出会ったいい人たち、そしてスペインで下村が出会ったフラメンコの踊り手ライラの意外な正体とその結末といった中編も収録されていて、リチャードと正義のお店や宝石を巡るエピソードや、真っ直ぐで優しい正義らしさが伺えるエピソード、彼の無意識で真っ直ぐな言葉に動揺するリチャードなど、600p超の大ボリュームでこの物語の世界をたっぷりと堪能できました。

