今回は10月ガガガ文庫・富士見ファンタジア文庫・GCN文庫・アース・スターノベル・集英社オレンジ文庫の新刊感想まとめです。内訳はガガガ文庫の新作2点、続巻3点、富士見ファンタジア文庫の新作3点、続巻2点、GCN文庫の続巻1点、アース・スターノベルの新作1点、集英社オレンジ文庫の新作4点、続巻2点の計18点の紹介になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
きみからうまれる(ガガガ文庫)
幼い頃にお別れした名前も知らない初恋の少女。ずっと忘れられなかった彼女・鈴代憬が、2年生になった丸山幹人の高校に転校してくる初恋リメイクストーリー。周囲に気遣いながら何とか居場所を保っていた幹人と再会して、秘密の場所で急速に距離を縮めて、会えていなかった時間を新しい現在で埋めていく2人。繰り返される憬との見当違いな倒錯の時間が、失った初恋と欲求を満たしていって、すっかり甘い時間の深みにはまった頃、明らかになるまさかの事実。幹人と憬、そして幹人に中学時代から身近な存在だった美優も絡めた、それぞれの心を大きく揺さぶらずにはいられない、何とも複雑な初恋の行方は、最後にまた衝撃的な展開を迎えて、これはもう今後の展開に期待せずにはいられません。
秘密の青春は夜の学校で(ガガガ文庫)
ひとりぼっちの高校1年生・水瀬修斗に、成績優秀、運動神経万能、容姿端麗の三拍子揃った完璧2年生・月見楓が声をかけ、『家に帰りたくない同盟』に誘う青春小説。楓に案内された先には、誰も寄り付かない旧体育倉庫で紹介された同級生に大人気のアイドル的存在・風宮花音、音楽好きのギャル・荻野美里、クラスの能天気なムードメーカー・赤澤陽。それぞれに秘密を抱えて、普段とキャラが違う彼女たちと盟約の下にかけがえのない時間を育んでいく展開で、今回は女子バスケ部で中心的な存在の楓の悩みが顕在化していく状況で、盟約に縛られていた彼らがかけがえのない存在を助けるために新たな一歩を踏み出した結末はなかなか良かったですし、関係がこれからどう変わっていくのかも楽しみです。
だれがわたしの百合なのか!? 2(ガガガ文庫)
生徒会の3人とデートを続けつつも、夏休みに行われる『レクリエーション合宿』の企画運営で生徒会の仕事も大忙しのひと葉が、夏の海で振り回される第2弾。ひと葉に届いた匿名のラブレターを出した『リリー』は残り2人のうちどちらなのか。合宿の企画運営として張り切る鹿乃愛と一緒に携わることになったひと葉が、それぞれのドキドキ水着選びにも付き合いつつ、合宿中に友達の恋を成就させることに協力する展開で、よくも悪くも融通が利かないひと葉と、周囲と上手く折り合いをつけていく鹿乃愛という2人の生徒会での対照的な立ち位置も描きながら、鹿乃愛の秘めた想いを掘り下げていくストーリーはなかなか良かったですし、思わぬ一面を垣間見せた咲姫も鮮烈なインパクトを残しましたね(苦笑)
【悲報】お嬢様系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れに気づかず同業者をボコってしまう5(ガガガ文庫)
赤城 大空/福きつね 小学館 2025年10月20日頃
深層ソロ攻略を果たし、ついに深淵に足を踏み入れたカリン。疑惑を完全払拭するため、沸いて出る深層ボスたちを蹴散らしながら奧へと進む第5弾。真冬の静止を振り切って、配信を見ている視聴者たちをたびたび驚愕させながら、深層を攻略していくカリンが対峙する強力な深層ボス。強力なボス相手に戦い抜いたカリンが各方面にもたらしたとんでもない波紋と、お祈りモードだったブラックタイガー黒井がついに下した決断。いやでもこれ配信を見てたら普通気づくのでは…と思ってしまった必然の結末で、カリンが良い子過ぎて悪意や背景に気付けず、噛み合わないままジェノサイドお嬢様爆誕には笑ってしまいましたが、もうここまで突き抜けると何が起きても驚かないですね(苦笑)
千歳くんはラムネ瓶のなか9.5(ガガガ文庫)
芦葉高校3年生の岩波蔵之介と2年生の美咲渚。蔵センと美咲先生、2人の出会いの物語を描いだサイドストーリー第2弾。将来目指すものを見い出せず不良だった蔵センと、身長の伸びが止まり、青春を捧げたバスケに行き詰まりを感じていた美咲が出会い、それをきっかけに起きたそれぞれの変化。中学時代、必死にバスケに取り組んでいた綾瀬なずなが七瀬悠月に抱いたライバル心と、陽との関係に向ける複雑な想い。そして藤志高校で教師として再会した蔵センと美咲がなぜ教師になり、生徒たちを気にかけるのかがよく分かるエピソードになっていて、2人の今後も気になりますし、描かれていたそれぞれライバル関係もなかなか良かったですね。
転生先の世界観は無視するけど良いよね! (富士見ファンタジア文庫)
シュガースプーン。/希望 つばめ KADOKAWA 2025年10月18日
魔女になりたいという想いを抱いて、東雲まほろという女の子に異世界転生したもののそこは忍術の世界。それでも諦めない彼女が忍術を研究して魔法使いを目指す異世界ファンタジー。生前の知識を活かして、この世界の誰も思いつけない魔法を生み出し、魔女として生きていこうとするまほろ。彼女を異質な存在として認められない周囲を蹴散らしているうちに、忍術が苦手なはやてや幼馴染の忍術アイドル・あずきといった魔女仲間が増えていって、魔女として突出した力を持つまほろは、時には彼女たちを導きながら切磋琢磨する展開で、一緒に出場した学生大会での熱い戦いは、彼女たちの確かな成長と可能性を感じさせてくれましたし、仲間とともにこれからどんな活躍を見せてくれるのか続巻が楽しみです。
その『ざまぁ』請け負います 不遇ヒロインを救う陰の退職代行(富士見ファンタジア文庫)
初美 陽一/ギザン KADOKAWA 2025年10月18日
無愛想ながら料理の腕は一級品なマスターのクロウと、美少女ウェイトレス2名が営む酒場を、不遇に苛まれ救いの手を求める者が訪れる救済ざまぁファンタジー。平素は馴染みの客で賑わう何の変哲もない酒場『灰色の止まり木』が持つ、訪れた不幸な人々のざまぁを請け負う陰の退職代行という裏の一面。クズ冒険者パーティーに搾取される強化術師や、悪徳商会に騙されて利用されるダークエルフ、人質を取られ私腹を肥やす教団に酷使される聖女たちのために、クロウとその仲間たちが裏で調査を進めて虐げられる構図をぶち壊し、きっちり落とし前をつけることに協力する展開で、ヒロインたちの呪縛を断ち切ってみせたそれぞれの決着、ふっきれて笑顔を取り戻したヒロインたちのその後が印象的でした。
先生……キスは授業の範囲外です(富士見ファンタジア文庫)
高校生の山崎敦人がナンパされていたところを救って、うっかりキスまでしてしまった金髪お姉さんのシャーロットと、新任の外国人先生として再会する青春ラブコメ。授業中は真面目で人気者、でも日本での生活が初心者のシャーロットにお願いされて、密かに遊びを教える秘密の関係になった敦人。学校では見せない無邪気な笑顔で密着したり、手をつないだり、天真爛漫で無防備すぎる危なっかしい彼女に、敦人は学校でも放課後もドキドキさせられっぱなしという構図で、現段階では先生と生徒という関係にありがちなタブー的な危うさはやや控えめだった印象ですが、幼馴染の紅華やシャーロットの姉も絡めながら、2人の微笑ましい関係が少しずつ変わって絆を深めていく様子はなかなか良かったですね。
追放された侯爵令嬢と行く冒険者生活2(富士見ファンタジア文庫)
たけすぃ/コユコム KADOKAWA 2025年10月18日
偽装の恋人関係から始まったエリカとシンの冒険者生活。冒険者として大活躍する2人が仲間となったシスター・シャラを通じて魔境攻略の依頼を受ける第2弾。立て続けに森林竜を討伐したシンたちの規格外の活躍に、頭を抱えるギルドや辺境伯。つい目立ちすぎたことを自覚する2人が、教会から魔境攻略の依頼を引き受け、追放された経緯から同行するシャラをどこか警戒しながら目的地を目指す過程で、中層にはいないはずの強力なモンスターと対峙する展開で、ギリギリの局面なのにエリカを守るために突き抜けてしまうシンや、彼の奮闘につい自慢げな表情のエリカの惚気っぷりにツッコミを入れるシャラが効いていて、普通でない2人の特異っぷりを際立たせる上でもはや欠かせない存在になってきましたね。
志乃と恋 Future2(富士見ファンタジア文庫)
社会人になってついに同棲をスタートさせた早乙女志乃と白雪恋。一つ屋根の下で始まったふたりの甘々時間はさらに熱を上げていく第2弾。帰ってきたら相手がいるかけがえのない新生活のスタート。志乃の誕生日をいつまでも祝いたいと願う恋の想い。教師の志乃とモデルの恋の生活リズムがだんだん噛み合わなくなっていく中でのすれ違い、最初の決めたルールもなかなか守れなかったり、お互い初めてのことだけに上手く行かないことも多くて、けれどそれでも相手が大切だからこそ意思を尊重して、相手を思いやる気持ちやお互いだけに見せる本音の素直な想いがあって、志乃の前でいつも以上に力を出してみせた恋や、思わぬアクシデントも一緒に乗り越える2人の関係がとても素敵でした。
世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。 4 (GCN文庫)
編乃肌/桑島黎音 マイクロマガジン社 2025年10月20日頃
hikariの隣に立てるようになりたいと決意してオーディションに挑む雨宮さん。一方、光輝はとある夢を繰り返し見たことから、スランプに陥ってしまう第4弾。光輝の隣だけでなくhikariの隣も譲りたくないと思うようになった雨宮さんが挑むhikariの相方オーディション。そして会長から文化祭イベントのベストカップルを決めるザ・マッチングショーに出場を依頼される2人。文化祭で一緒に雲雀に占いをしてもらったり、会長のお化け屋敷にトラウマを刻まれたり、思わぬ一幕もあったマッチングショーもなかなか良かったですけど、風邪を引いた光輝のお見舞いや、何よりクリスマスデートやオーディションの負けない宣言もあって、絆を深めて成長してゆく2人の想いが詰まったとても素敵な最終巻でした。
東の魔女のあとしまつ(アース・スターノベル)
中村 颯希 株式会社アース・スター エンターテイメント 2025年10月16日頃
不完全な予知能力で殺される予知夢を見た魔女アデルが、少年時代の勇者レイノルドを攫い、徹底的に甘やかして育てることで裏目に出てしまう勘違いコメディ。小心者でぽんこつなアデルが、何とか回避すべく弟子たちと相談して、少年時代のレイノルドを攫い、徹底的に甘やかして育てることで、結果的に彼を悲惨な環境から救ってしまい、勇者として覚醒させないよう必死に行動するアデルの努力はことごとく裏目に出て、レイノルドはぐんぐんと才能を開花させて、アデルへの崇拝をさらに募らせていく展開で、どうしてこうなったと頭を抱えるアデルと、一途で愛が重過ぎる末弟子のレイノルドの構図には苦笑いでしたけど、巻き込まれる弟子たちも絡めたストーリーがどんな結末を迎えるのか続巻が楽しみです。
レンタルフレンド(集英社オレンジ文庫)
元商社勤務の七実が、レンタルフレンドとして様々な事情を抱えた女性たちから友人役を依頼されて、それぞれが抱える事情をサポートしていく連作短編集。デザートブッフェへの同行を依頼する大学4年生、若手女優志望の設定で観劇につきあってほしいヘアメイクアーティスト、検査入院で飼い猫の面倒を見て欲しいと依頼され、その過去に関わることになる常連の翻訳家、婚約者の元カノも参加するパーティに友人として同行など、依頼主を観察しながら抱えている真の理由を手探りで冷静に見極めて、彼女たちにとっての最善をチョイスしてゆく展開で、時にはややこしい状況に巻き込まれながらも、それぞれにしっかりと向き合って依頼に応えていく七実のプロフェッショナルな姿勢が印象的でした。
悪女と聖女が手を組めば(集英社オレンジ文庫)
バブル世代のアラ還OLが事故に遭い、目を覚ますと乙女ゲームの悪役令嬢・エレノアに転生する異世界(代)シスターフッドコメディ。皇太子に早速婚約破棄されても十代の子供を恋愛対象として見れないためにノーダメージ。そしてライバル役の聖女ルミエラも実は転生者(元オタク女子大生)だということが発覚し、ゲーム知識は豊富でも恋愛経験ゼロのルミエラに慕われ、世代間ギャップにたびたび衝撃を受ける姿には苦笑いでしたが、長年の社会人スキルとバブル時代にブイブイ言わせた経験でサポートするうちに、自身が悪女のはずなのになぜかイケメンキャラたちに次々と好かれてしまい、世界滅亡を救うために魔王まで攻略していく展開はなかなか微笑ましかったですね。
術式結晶は闇に歌う 帝都術式捜査録(集英社オレンジ文庫)
日本で発達した魔法『煌花術式』が、人々の生活にとけこむ技術となった大正時代。三課に勤める警察官の篠原勇人が、高等な技術を使う鷹見瑠璃子と出会う異能ロマンタジー。術者連続失踪事件を追うなか、不可解な術式の痕跡を発見した篠原が、見たことのない高度な術式を使う瑠璃子に救われ、『煌花術式』を使った事件に対処する三課への協力を依頼する展開で、殉職した篠原の父と瑠璃子の師・久遠が知己であったこと、そして『煌花術式』を使うことにできる人間が特権階級であると考える一派の存在が浮き彫りになる中、篠原がかつて皇宮警察で女皇を警護していた過去も絡めながら、『煌花術式』が健全に使われる平等な世の中を目指すために、2人で因縁に決着をつける結末はなかなか良かったですね。
小鳥遊さんの京菓子暦 かわいい和菓子と甘くない謎(集英社オレンジ文庫)
杉元 晶子/佳奈 集英社 2025年10月17日頃
京都に越してきたばかりの高1の鞠が、雨宿り中にクラスメイトの翔から抹茶の有平糖をもらい、それをきっかけに仲良くなっていく和菓子ライトミステリ。兄が和菓子喫茶を営む翔と出会って和菓子に興味を抱いた鞠が、クールな翔を巻きこみながら一緒に鞠の父がお店を訪れた際の失敗や、教室で周囲を翔に声を掛けるようになったことで彼の環境が変わり始めたり、和菓子を巡る親友なつめと茶道部の先輩の間に生じた誤解や、翔と幼馴染の長年のすれ違いを解消していく展開で、謎解きとしてはライトですが、和菓子好きで意気投合した好奇心旺盛な鞠と出会ったことで、人間関係に不器用だった翔も変わって、かけがえのない友人関係になっていく2人のほっこりするような距離感がなかなか良かったです。
荒野は群青に染まりて ―赤と青―(集英社オレンジ文庫)
未だ敗戦の爪跡が深く残る東京で、それでも何とか生き延びて立ち上がろうともがく人々のエピソードを描いた番外編短編集。学校に通い始めて鬱屈した気持ちを抱えていた群青がリョウともども巻き込まれた事件と意外な顛末。群青とともに錦糸町へ出かけた佳世子が見つけた一体だけ残った女雛を欲しがった想いと、男雛を並べるべく何とかしようとする男たち。13歳となってからなぜか群青に対してだけ当たりが妙にきつくなった佳世子に対する周囲の戸惑い。化学を教えてもらうため群青が東海林へ近付くことにいい顔をしない赤城の想い。戦後の雑然とした世の中を生き抜いていくために、寄り添って絆を深めてきた彼らの仲間たちを想う気持ちが感じられる短編集でした。
銀の海 金の大地 10(集英社オレンジ文庫)
中毒で佐保に留まった大王は回復に向かったものの、駆けつけた王子や豪族たちは佐保に留まったままで、滅びの子である真秀と真澄の訪れに佐保の人々が慄く第10弾。真秀の力で素性を偽り大王不在の王宮に残っていた佐保姫が触れた悪意。一方、佐保の長老・穂波は一族が生きのびるために、速穂児を使って真秀と真澄を殺そうと決意する展開で、一族の集団心理に陥る危うさや彼らの脆さが浮き彫りになりましたけど、信念がぶつかり合う真秀と速穂児の死闘も対照的で、明かされたまさかの真実は物語を根本から揺るがしかねない、様々な価値観が反転しかねないものでしたけど、解放された真秀たちに感じた安堵と希望とは裏腹に、佐保一族の選択には何とも言えない気持ちになりましたね…。