【BookWalker】春のコイン大還元祭開催!3月25日(月)09:59まで
今回はBookWalkerで2024年1月15日までに配信された全作品を対象に1回のお支払い金額1,500円(税込)以上でコイン50%還元!ということで対象商品の中から文芸単行本を30点セレクトしました。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1.地雷グリコ
勝負事にやたらと強い女子高生・射守矢真兎、文化祭での屋上利用を賭けたゲームに挑んだのをきっかけに、風変わりなゲームの数々に巻き込まれてゆく本格頭脳バトル小説。掴みどころのない彼女が勝負に挑む、生徒会役員の椚先輩に挑む罠の位置を読み合う地雷グリコ、出禁解除を賭けて戦った坊主衰弱、生徒会加入を賭けた自由律ジャンケン、星越高校と対戦しただるまさんが数えた、過去の因縁も絡むフォールームポーカー。初めて目にするゲームの本質を瞬時に判断して対戦相手ならどうするかを観察しながら展開を読み合い、丁々発止の駆け引きを繰り広げるゲームの醍醐味が詰まっていて、視界に入ったものなら何でも利用し尽くしてルールの隙を突く、その自由で奇想天外な発想には何度も驚かされました。
2.可燃物
余計なことは喋らない、上司から疎まれ、部下にもよい上司とは思われていない。しかし捜査能力は卓越している群馬県警を舞台に葛警部が事件の違和感を解き明かしてゆく連作警察ミステリ。山中で遭難した先で起きた謎めいた殺人事件、強盗傷害事件の容疑者が起こした交通事故の真相、バラバラ殺人事件に隠されていた背景、連続放火事件の意外な動機、殺人未遂事件の容疑者による立てこもり事件で起きた思わぬ状況。一見単純に見える事件の構図の中に感じた違和感を見逃さずに、突き詰めて真相にたどり着いてゆく彼の洞察力は流石で、確かにこういうタイプは上司に煙たがられそうだなと思いましたけどなかなか面白かったです。
就活をすることに葛藤する本好きの大学院生「小川哲」とその恋模様を描いた冒頭作を皮切りに、作家になった彼が怪しげな人物たちと遭遇してゆく連作短編集。著者の実体験かと錯覚してしまうリアルさで描かれる、エントリーシートと小さい頃から縁があった彼女との結末、思い出そうとする東日本大震災の前日の記憶。そして友人の妻が入れ込む青山の占い師や、大金を動かす金融トレーダーとなっていた高校時代の友人、偽ロレックスを巻く漫画家との出会い。根本のところでは揺らがないけれど、いろいろな人との遭遇で波紋を投げかけられ、様々な思いを抱きながら、そのひとつひとつを冷静に考察しようとしていく彼のありように作家としての性を感じてとても興味深かったです。
4.ぎんなみ商店街の事件簿 Sister編/Brother編
ぎんなみ商店街の事件簿 Sister編
posted with ヨメレバ
井上 真偽 小学館 2023年09月13日頃
古き良き商店街で起きた不穏な事件。ぎんなみ商店街に店を構える焼き鳥店「串真佐」の三姉妹、佐々美、都久音、桃が商店街に起きた事件を解決する連作ミステリ。近所の商店に車が突っ込む事故で事故死した佐々美の同僚と、目撃された謎の人物探し。地元中学校で起きた器物損壊事件と、現場に残された「井」の字に置かれていた焼き鳥の串の意味。「ミステリーグルメツアーに行く」と言って出掛けた佐々美が行方不明になり、偶然見つけてしまう作りかけの脅迫状。謎解きに関わる中で良くも悪くもおっとりマイペースな佐々美に、お友達との関係がいい都久音、小学生と思えない鋭い桃と三姉妹の個性がよく出ていました。
ぎんなみ商店街の事件簿 Brother編
posted with ヨメレバ
井上 真偽 小学館 2023年09月13日頃
古き良き商店街で起きた不穏な事件。母は早くに亡くなり父は海外赴任中で、ぎんなみ商店街近くに住む元太・福太・学太・良太の四兄弟。ある日、馴染みの商店に車が突っ込む事故が起きる連作ミステリ。事故の目撃者だった末っ子で小学生の良太が隠していることとは何か。中学校で手作りの楽器が壊されて、犯人がいるのではと疑われた学太の所属する書道部。「ミステリーグルメツアー」に同行している元太が誘拐事件に関わっている?こちらも兄弟たちを絡めた事件の謎を解いてゆく連作ミステリでしたが、ちらは賢い三男の学太に福太を絡めて二人を中心に事件解決に挑む展開で、Sister編とも交わる部分がありましたが、同じ事件でも立ち位置が違えばその様相も登場人物たちもこうも違って見えるんだな…ととても印象的な物語になっていましたね。
5.星を編む
あれからどうなったのかとても気になっていた、『汝、星のごとく』で語りきれなかった不器用な登場人物たちのエピソードを丁寧に描いた三つの愛の物語。櫂と暁海を支えた教師・北原の過去と、彼に病院で話しかけられた教え子の菜々が抱えていた問題。漫画原作者で作家となった櫂を担当した編集者二階堂と植木の二人が、時間を掛けてでも最後まで諦めずに繋いだ大切なもの。北原先生と暁海の関係の変化、そして周囲の人々のその後が描かれたエピソード。北原先生の過去エピや諦めずに奔走し続けた二人の熱い編集者たち、遠回りしながらも時間を掛けていい感じの夫婦になっていった二人の関係が丁寧に描かれていて、いろいろあったけれど良かったなと思えるその結末が読めてとても嬉しかったです。
今シーズンは、日本女子フィギュアの歴史を変える最高の選手2人が揃っている。しかし五輪に行けるのは一人だけ。2ヶ月後に新潟オリンピック開催を控えたこの日、二人の天才少女の人生がぶつかる運命の物語。十代とは思えぬ卓越したセンスと表現力で常に完璧な演技をみせる京本瑠璃。そして圧倒的身体能力で女子のジャンプの限界を突破する規格外の雛森ひばり。才能で周囲を圧倒する一方、不遜な態度を隠そうともしない彼女たちは典型的なヒールで、それでも彼女の才を愛して止まない関係者の視点から浮き彫りにされてゆく、二人の不器用な天才が一つの枠を巡って争う構図は、この勝負に賭けるこれまでの壮絶な人生の縮図でもあって、大一番でのギリギリで最高の演技をお互いに最後までやりきってみせた彼女たちの姿から目を離せませんでした。
7.Q
千葉県富津市の清掃会社に勤める、過去に傷害事件を起こし執行猶予中の町谷亜八。ある日、血の繋がらない姉・ロクから、二人の弟キュウを脅す人物が現れたと数年ぶりに連絡が入る長編小説。それぞれがシングルマザーの子供で、義父に引き取られた経緯で義姉弟となった睦深と亜八、侑九の絆。ダンスの天賦の才を持つキュウを守るため、かつて犯罪を犯した過去がある二人。彼をスキャンダルから守るためにハチが奔走する前半。そして彼女と袂を分かつことになったQがロクのプロデュースによりコロナ禍に閉塞する人々を変えるカリスマとして急速に注目を集めてゆく後半の怒涛の展開があって、義姉弟たちから距離を置いていたハチの行動に見える複雑な想いや、Qに賭ける対するそれぞれの想いが描かれてゆくその結末は圧巻でした。
8.十戒
父と共に伯父が所有していた枝内島を訪れた浪人中の里英。島の視察を終えた翌朝に同行していた不動産会社社員が殺され、犯人から十戒を課されるミステリ。島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。殺人犯を見つけてはならないという戒律を課されて、島内の爆弾に怯えながら指定された3日間を過ごす中で起きる殺人。限定された状況で犯人いかに計画的に犯行を重ねていったのか。振り返ると確かに首を傾げた箇所がいくつかあって、二人を中心に進めてきたストーリー構成や、用意周到に完遂させた犯行が最終的にひとつに繋がってゆくその結末はお見事でした。
縁切寺・東衛寺の娘で、離婚専門弁護士の松岡紬。離婚相談に来た相手に家族はいろんな形があることを伝えて、最良の離婚を提案するリーガルエンタメ。夫のモラハラと浮気に耐えられなくなって相談しに来て事務員に居着いてしまった聡美。行方不明になった妻の捜索を依頼された腐れ縁の専属探偵・出雲。元妻の友人に相談され紬を紹介する父・玄太郎。そして入籍していない同性婚の離婚協議、休職を理由に養育費減額を目論む聡美の元夫。可愛いけれど方向音痴で天然の彼女を慕って支えてくれる周囲の人々の視点も交えながら、やってきた依頼人に真摯に向き合ってゆく紬の頑張りを応援したくなる物語でした。
10.アリアドネの声
過去に事故で兄を亡くした悔いを抱え、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職した青年ハルオ。そのイベント開催中に巨大地震が発生して、地下に残された「見えない、聞こえない、話せない」女性の救助に動く物語。崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう時間制限もある中で、ドローンを使い目も耳も利かない中川を誘導する前代未聞のミッションに挑むハルオ。ギリギリの綱渡りの状況に、暴露系YouTuberの妨害、さらには不可解な挙動から障害者疑惑まで持ち上がって雑音も多くなる中、何度も窮地に陥りながら最後まで諦めずに活路を見出そうと奮闘する先に待っていた、意外で納得もしたその結末には見事に驚かされました。
11.夜明けのはざま
地方都市の寂れた町にある、家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」。死を見つめることで、自分らしく生きる葛藤と決意を力強く描き出す連作短編集。仕事のやりがいと結婚の間で揺れ動く中、親友の自死の知らせを受けた葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀を手伝うことになった花屋、苦い過去の記憶を呼び起こす男に再会した葬儀社の新人社員、夫との関係に悩む中、元恋人の訃報を受け取った主婦。自分にとって大切なものを理解できない相手と、相容れることができるのか…歩み寄れる部分もあるのかもしれないとはいえ、長く一緒に寄り添っていくことを考えると、なかなか簡単ではないのかもしれませんね。様々な想いを受け止めて答えを出した彼女たちはこれからも頑張って欲しいです。
12.ツミデミック
コロナ禍に直面して先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。 ままならない状況に足掻く人々の姿を描いた6つの連作短編集。大学中退の客引きバイトが出会った中学時代に死んだはずの同級生を名乗る女。コロナ禍で歪み狂い始めた一家の思わぬ結末。十五年前に亡くなって、当時のことを思い出してゆく幽霊。調理師の職を失った無職男が、近隣の老人宅に通い始めた顛末。妊娠した高校生の娘と隣人の妊婦の意外な結末。コロナ禍に絶望して集団自殺しようと集まった人々の顛末。コロナ禍で人生が狂った人たくさんいたんだろうな…と改めて考えてしまう様々な転落人生の明暗が描かれていて、著者さんの書ける話の幅の広さを改めて感じさせてくれる短編集でした。
13.あなたに心はありますか?
交通事故で家族を失い、自身も車椅子生活を余儀なくされている東央大工学部特任教授・胡桃沢宙太。AIロボットに心を持たせるべくプロジェクトを進める彼の葛藤苦悩と葛藤の物語。世間の耳目を集める盟友の二ツ木教授、助手の結衣と取り組む産学官共同の巨大研究開発プロジェクト。しかし講演会で倒れ帰らぬ人となったパネリストの教授から始まる、胡桃沢のもとに届く連続殺人予告、そして軍事利用に応用すべくプロジェクトを都合のいいように変えようとするライバル教授の存在。暗雲漂う中に感じる違和感、それでも何とかしようと懸命にあがき続けた先に待っていた、思ってもみなかった切ない結末には驚かされましたけど、それには確かに心が宿っていたと信じたくなりました。
14.本の背骨が最後に残る
物語を語る者が「本」と呼ばれる国で、同じ本の異同に行われる「版重ね」を描いた表題作ほか、著者が凶暴な想像力を解放して紡いだ七つの異界を描いた狂気の物語。「版重ね」で誤植と断じられた者は業火に焼べられ骨しか残らない世界。死ぬと他の動物に転化して世界に感じる恐怖、脳波から意識モデルを作る技術で生み出された地獄、「百夜通し」の称号を目指す痛妃たち、その人のところにしか降らない「降涙」を巡る物語、精神病院で行われる精神安置という欺瞞、そして「姫人魚」の版重ねを仕掛けられた本屋の娘。それが当たり前となって誰も疑問を抱かない世界で、ふと狂気に疑問を抱いてしまったその世界の異端ともいえる人たちが描かれていましたが、その結末はいずれも鮮烈で強く印象に残りました。
15.神に愛されていた
若くして小説家デビューを果たして、その美貌と才能で一躍人気作家となりながら、その最中に突然筆を折ってしまった東山冴理。その三十年後、冴理のもとにひとりの女性編集者が執筆依頼に訪れる作家小説。自分には執筆する権利がないと断る冴理に、亡くなった白川天音との関係を問う編集者。冴理が語る全ての運命の歯車を狂わせた天音との邂逅。才能の差を突きつけられ、全てを奪われた冴理の絶望。そして人生に希望をもたらしてくれた冴理を信奉し、ひたすら追い求め続けた天音の渇望があって、彼女のためにとよかれと思って打った手が、かえって相手を追い詰めてゆく悪循環には切なくなりましたけど、それでもなかなか思いが伝わらない、皮肉で不器用なすれ違いの結末には確かな救いがあったと思いました。
16.真夜中法律事務所
暗い夜道に立ち尽くす幽霊の存在に気づいた検事の印藤累。動揺する彼の前に現れた自称案内人の青年・架橋昴に、真夜中にだけ開かれる深夜法律事務所に導かれるリーガルミステリ。夜中だけ動き回れるこの世に未練を残す幽霊たちを導くために活動する深夜朱莉。彼女とともに事件解決に挑む人気アイドルのベンチプレス窒息死事件の思わぬ真相。そして後輩の今瀬と配属された観察指導課で取り組む先輩検事の証拠隠滅事件の真相究明。未練を残す霊たちを成仏させるためにも、冤罪と犯罪被害者の真相を追う中で辿り着いたその結末がなかなか印象的な物語でした。続きも書けそうな構成になっていて、続きが読めるならまた読んでみたいです。
17.キスに煙
かつてフィギュアスケートで活躍し、引退後はデザインの仕事をする塩澤。ある日、ライバルの志藤とは犬猿の仲だったコーチのミラーが転落死したことを知るミステリ。お互いに好敵手として競り合い意識する存在で、今もトップスケーターの地位にある志藤へのひた隠しにする想い。それがミラーの疑惑の転落死をきっかけに、お互いにこれまでと違う眼差しを向けるようになって、少しずつ着時に変わってゆく二人の関係。告げるだけで重荷になると秘めていた恋心と、もしかして自分のために彼は罪を犯したのでは?という疑心が交錯してしまう、なかなか切なくてシリアスな展開でしたけど、だからこそその顛末と垣間見えた最後の真意には救われる思いでした。
18.四重奏
音大時代の同級生・黛由佳が放火事件で亡くなり、彼女の死に不信を感じた坂下英紀は、鵜崎四重奏団のオーディションを受け、由佳の死の真相を知ろうとするミステリ。かつて音大時代に由佳の自由奔放な演奏に魅了され、秘めていた彼女への思いを燻らせていたチェリストの英紀。加えて自分の才能に自信を失くしつつあった彼が、自分を納得させるために模倣と技術を追求する独自の解釈をする鵜崎に近づく展開で、英紀自身もまた根幹にあるものを揺さぶられ、何が正しくて間違っているのか葛藤する展開でしたけど、その中で見出したものが果たして正解だったのかは彼女亡き今は確認しようもありませんが、それでも彼がひとつの答えを出したことそのものが意味あることだったのかもしれませんね。
19.暗い引力
私は悪くない。一人で破滅なんて絶対しない。ひとつの嘘から転がりだす悪意の連鎖。強がりもがき這い上がろうとする嘘つきたちの姿とその末路を描いた連作短編集。妻に先立たれ養子の息子と向き合う老人。仕事が忙しい妻を支える気弱な夫。地方の美術館でくすぶり続ける学芸員。倒産や理不尽なリストラで無職となった同級生たち。借金苦から逃れようともがく老女。会社ぐるみで不正を隠蔽する社畜たち。これさえあれば、これさえなければ、きっと大丈夫…堕ちていった登場人物たちのそんな意識が透けて見える描写の積み重ねと、その先に待っているそれぞれの因果応報ともいえる結末が鮮烈な印象を残す短編集になっていました。
20.素敵な圧迫
登場人物たちが抱える一種の異様な心理を突きつけられる、圧迫される隙間を追い求める女性を描いた表題作ほか、ちょっと変わったどこか危うい六篇の短編集。ぴったりくる隙間を追い求め続けてきた女が男の人生を蝕んでゆく執着、三億円事件計画の何ともしまらない結末、週末までに十万円よこさなければ犯罪を犯すと父親を脅す息子、パノラママシンを手に入れてやりたい放題を繰り返した男たち、プロボクサーのハングマンが許せなかった男の処刑、商店街のあちこちに残されたVの文字をきっかけに熱に浮かされはじめる人々。様々なきっかけから顕在してゆく、破滅と隣り合わせの心理にどう向き合うのか。それぞれの結末がなかなか鮮烈な印象を残す物語になっていました。
21.京都東山邸の小鳥遊先生
京都東山の住宅街に佇む、瀟洒な洋館「東山邸」に住む年の離れた小鳥遊姉妹。祇園の小料理屋で出演ドラマを酷評していた姉・葉月が、お忍びで来ていた駆け出しの俳優・鈴木英輔本人と運命の出会いを果たす物語。いわれのない批判を受けて、思うように書けないでいたかつての人気脚本家・葉月が、自分が目指すべき方向性を見失っていた英輔に「あなたのヒギンズ教授になってあげる」と啖呵をきって始まった師弟関係。彼女から受けたアドバイスの効果を実感して、その生来の素直さで実践してゆく英輔に新たな世界を見せて成長させてくれる様々な縁や出会い。たびたび困難に直面しても、周囲の助けも得ながら真摯に向き合って乗り越えてきた彼が、ようやく自覚した想いにも素直になってゆく、とても優しくて素敵な物語になっていました。
22.エヴァーグリーン・ゲーム
世界有数の頭脳スポーツであるチェスと出会い、その面白さに魅入られた4人の若者たちが、己の全てをかけて、チェスプレイヤー日本一を決めるチェスワングランプリに挑む青春小説。難病で学校にも行けずに入院生活を送る小学生の透。実力者でもマイナー競技ゆえにプロを目指すかどうか悩む高校生の晴紀。強要されていたピアノを辞めて盲学校の保健室の先生に偶然すすめられたチェスにハマってしまう全盲の少女・冴理。そして少年院を出て単身アメリカへ渡る天涯孤独の釣崎。生まれも育ちも違う各々の状況や、彼らとチェスの出会いを描いたエピソードが丁寧に描かれていて、チェスに魅入られた彼らがそれぞれ目指すもののために繰り広げる、負けられない熱い戦いとのその結末がなかなか良かったです。
23.逆転正義
SNSにも正義警察、正義中毒者が蔓延る現代ニッポン。どんでん返しの名手が仕掛ける常識がひっくり返るエンタメミステリ短編集。先生も反応が鈍い教室のいじめをSNSで炎上させた高校生。制服姿の家出女性を一人にはできず保護した男。麻薬取締官に捕まった麻薬の売人と完全黙秘、トイレで人を殺めた女の家にやってきた男、罪のない息子が殺された真相を探るうちにたどり着いた因縁、刑務所から出てきた男を脅す少年たちの顛末。本当の正義とは何なのか。見当違いだったり大切なことが何も見えていなかったり、それぞれ安直な正義感を嘲笑うかのような、構図がガラリと変わる真相には強烈な皮肉が効いていてとても面白かったです。
24.煌夜祭
生物も住めぬ死の海に浮かぶ十八諸島。〈語り部〉たちが島々を巡り集めた物語を語り継ぐため、年に一度冬至の晩に煌夜祭が開かれる物語。人食いの魔物と出会い夜通し語る少年、隣島の野心から故郷を守るために知恵で戦う少女、魔物になった少年が考える自らの存在意義、王位継承戦争を争った王子と従者。運命に翻弄されながらもそれに必死で向き合う登場人物たちなど、語り部たちによって語り継がれてゆく様々な物語があって、それをひとつひとつ積み重ねてゆくことで構成されてゆく世界観がとても印象的でしたね。今回単行本で新たに追加収録されていた短編もなかなか良かったです。
25.さやかに星はきらめき
人類が地球を脱し数百年が経過した未来。月に住む編集者キャサリンが人類全てへの贈り物となる本を作るため、宇宙に伝わるクリスマスの民話を集める連作短編集。話を集める過程で聞いた遠い星の開拓民の小さな女の子を愛した犬と猫、トリビトたちが特別な思い入れを持つ劇場船、人が住めなくなった地球にいる付喪神、山間の図書館に訪れた異星人の話。そういった話を集めて作られた本と幽霊船のエピソード。いつかこういう時代が来ることもあるのかなと思いながら読んでいましたが、猫がネコビトに、犬がイヌビトなどに進化している方向性がなかなか楽しくて、舞台設定が変わっても著者さんらしい雰囲気がよく出ていて良かったです。
26.宙わたる教室
様々な事情を抱えた生徒たちが通う東京・新宿にある都立高校の定時制。「もう一度学校に通いたい」という思いのもとに集った生徒たちが、理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成する青春科学小説。読み書きに難を抱える二十一歳の岳人、子供時代に学校に通えなかったアンジェラ、不登校で定時制に進学した佳純、東京で集団就職した七十代の長嶺。生まれ育った時代も環境も違う生徒たちが定時制に通うことの難しさを描きながら、時には衝突をきっかけにお互いのことを知るようになっていって、そんな彼らにしっかり向き合う藤竹に支えられて、力を合わせて火星のクレーターを再現する実験で高校部門の学会発表を目指す熱い展開はなかなか良かったですね。
オカルト雑誌の編集者となった後輩が近畿地方のある場所にまつわる怪談を集めるうちに、いくつかの共通点を見出していって、恐ろしい事実が浮かび上がってゆくオカルト小説。焼き直しの記事ではなくオリジナリティのある記事を描くために、某月刊誌に掲載されていた記事、ネットで収集した情報、読者からの手紙などを改めて分析していた後輩が考察してゆく中で気づいてしまった、エピソードに出てくる『山へ誘うモノ』、『赤い女』、『呪いのシール』といったものの存在。淡々と繰り返し綴られてゆく描写はいずれもとある山中付近に点在していて、それに近づくとどうなるのか…狂気を孕んだ文章がなかなか鮮烈な印象を残す一冊でした。
28.沈没船で眠りたい
加速度的に発展するAIに人々が仕事を奪われ、人としての尊厳を求め過激化したネオ・ラッダイト運動によりテロが引き起こされる近未来。そんな中、テロの首謀者と関わりを持つとされる女子学生・千鶴が機械を抱いて海に飛び込むシスターフッドSF。組織の幹部として関与していたことは認めながらも、逮捕理由となった器物破損に関してはなぜか否定し続ける千鶴。回想で語られてゆく、頑なで孤立していた彼女を認めてくれた唯一の親友・悠を襲った悲劇。冷ややかな目で悠の彼・有村の活動を眺めていたはずの彼女がなぜ組織に関わるようになったのか。一見矛盾しているようにしか見えない千鶴の行動は、どこまでも親友に対する真摯な想いに繋がっていて、大切な人のために生きたことが明らかにされてゆく鮮烈な結末が、とても印象的な物語になっていました。
29.100年のレシピ
料理が苦手だったことから彼氏に振られた大学生の理央。一念発起して大河料理学校に通い始めた彼女が、ふとした縁から亡くなったばかりの創始者・大川弘子の過去の足跡をたどり始める連作ミステリ。日本中の女性から支持を集め、理央の実家の味の起源にもなっている料理研究家について、彼女の曾孫の翔吾とともに彼の父の過去や弘子が出した本の編集者、忙しい母に代わって彼女が料理を作っていた隣家の女の子たちを取材してゆくことで、改めて浮き彫りになる弘子の料理に生きた人生。一方で彼女がずっと気にかけていた戦後間もなくに起きた出来事のその後も、これまで真摯に積み重ねてきたことが全て繋がって、ひとつの事実を明らかにしてゆくとても幸せな結末になっていました。
30.案山子の村の殺人 (ミステリ・フロンティア)
どこか不穏な案山子だらけの宵待村で起きた殺人事件。楠谷佑のペンネームで活動する合作推理作家で、執筆担当・宇月理久とプロット担当の篠倉真舟の大学生コンビが事件に挑むミステリ。ぎくしゃくした人間関係やいなくなる案山子、そしてボウガンの毒矢だったりと、どこか不穏な雰囲気を感じさせる山奥の村で村で起きた連続殺人事件。それを合作推理作作家の従兄弟が、いかにしてその犯行が行われたのか、お互いに推理を積み重ねていきながら真相に迫ってゆく展開になっていて、最初の事件に至るまでの過程がやや冗長だった感はありましたけど、読者への挑戦状も付いた王道の推理劇はなかなか読み応えがありました。