あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
2023年に読んだ本は合計で1513冊になりました。
読んだ本1513冊
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また12月に読んだ本は122冊となっています。
読んだ本122冊
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こちらでは12月に読んだ文庫の新作5点、ライト文芸の新作4点、文芸単行本の新作13点の計22点を紹介しています。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
となりのナースエイド (角川文庫)
星嶺大学医学部附属病院の統合外科病棟に配属された新人ナースエイド桜庭澪。ボロアパートに引っ越してきた彼女が隣に住む技術至上主義の天才外科医・竜崎大河と出会う医療サスペンス。外科手術に対してストイックな意識を持ち、時にはぶつかりながらも鋭い観察力を見せる澪を評価する竜崎。ナースエイドを志したのは姉の死がきっかけで、空き巣に入られたことで事件が終わっていなかったことを知る澪。アプローチや志は違っても患者に対して真摯に向き合う姿勢は評価する二人が、一連の事件に巻き込まれてゆく中でそのぶれない信念を認め合うようになっていったり、過去を乗り越えた澪が立ち直って新たな一歩を踏み出す姿がなかなか印象的でした。
十の輪をくぐる (小学館文庫)
認知症を患う80歳の母・万津子を自宅介護しながら、スミダスポーツで働く泰介。万津子がテレビのオリンピック特集を見た時の意味深な呟きを聞き、知らなかった母の過去を調べ始める物語。バレー選手として挫折したために慣れない仕事をする中、介護で家族とギクシャクする一方で、選手として注目されている娘にどうしても複雑な想いを抱いてしまう泰介。しかし何も語らない母には過酷な過去を乗り越えた決意があって、これまで支えてきてくれた妻の存在や娘から勇気ある一言をもらって泰介もまた現状にしっかりと向き合って新たな一歩を踏み出し、少しずつでも変わっていこうとするその姿には応援したくなるものがありました。
匿名 (講談社文庫)
生きる希望を見失って渋谷の屋上で命を絶とうとしていた越智友香を救った、覆面アーティストFの歌声。生きる原動力となったFをもっと知りたくなって追いかけ始める物語。覆面アーティストとしてきっかけを得て飛躍し始めたFと、ファンアカウントでFの正体を追う友香。同じFのファンであるアカネと知り合いながら、知りたいという思いで近づいたFの意外な正体。因果応報とも言うべきか、被害者側はそのことを一生忘れることができないんだろうな…と改めて実感しましたが、でも皮肉にも今に繋がるそれにしっかりと向き合って、乗り越えてみせたFの覚悟が印象的な物語になっていました。
言いわけばかりの私にさよならを (角川文庫)
中学最後の大会で最悪なミスをして、大好きなバレーボールを辞めた鈴乃。高校で楽しいけど物足りない日々を送る中で、男子バレー部のエース・隆二先輩と出会う青春小説。好きなものに夢中な友人たちから取り残された気持ちになっていた鈴乃に、彼女はもっと跳べる、諦める必要なんてないと言葉だけでなく証明してくれた隆二先輩。ひたむきに努力する彼に感化され再び挑戦し始めた鈴乃は、一方で人知れず絶望と戦う彼の覚悟を知る中で密かに自覚してゆく思いがあって、簡単ではない状況にも諦めないで頑張る彼らの姿が印象的でしたけど、だからこそそんな状況に希望がもたらされる爽やかな結末には救われる思いでした。
朝起きて、君に会えたら (角川文庫)
ある事情から昼夜逆転生活を送っていた高校生のすず。そんな彼女が深夜の散歩中に、何年も前に交通事故で死んでしまった幼馴染の命日に公園で一人号泣する男の子・環と出会う青春小説。同じ学校に通ってはいても環のことを太陽のような存在で、憧れで自分とは対極にいる存在と感じていたすず。けれどこの夜をきっかけに始まった二人の秘密の交流は、お互いに愛しいと感じるような関係を育んでいって、自分のタイムリミットがをなかなか告げられないすずの思いが切なかったですけど、突然姿を消したすずへの忘れられない思いから、その秘密にたどり着いても変わらない環の覚悟があって、一緒に諦めずに頑張ることを決意した二人が迎えたその結末がなかなか印象的な物語でした。
王妃になった魔女様は五人の王子に溺愛される(小学館文庫キャラブン!)
十年前、先代王妃が亡くなったあとに王妃に座におさまった北の森の魔女ナユラ。直後から眠りつづける病床の国王の願いを胸に、育ててきた五人の王子たちの代理婚活を始めるファンタジー。魔女が国王や息子たちを洗脳したために、五人の王子は適齢期を迎えてもいっこうに結婚しないという噂。実際には十八歳ほどにしか見えない美女でも、実年齢は三百歳になる長年引きこもってきた魔術オタクの人見知り。彼女が育ててきた五人の王子たちも、魔術オタクの変態学者や色魔のクソ王子、無自覚天然女たらし、臆病で癇癪持ち、悪魔憑きと曲者揃い。しかもみんなナユラが大好き過ぎて、魔女を殺そうとする陰謀も絡めながら繰り広げられる、お互いの思いが噛み合わない騒動劇は面白かったです。意外な黒幕との因縁も気になりますね。
若旦那さんの「をかし」な甘味手帖 北鎌倉ことりや茶話 (集英社オレンジ文庫)
家事代行サービスの会社で働く秋月都。ある日、都は急病のスタッフに代わり、北鎌倉に派遣された大きなお屋敷で、出迎えた和装の若き和菓子職人・羽鳥一成と出会う物語。そのお屋敷は一成の工房兼住居で、見事な出来栄えで常連客も多い彼の作る和菓子。日々鍛えた料理の腕で、羽鳥家の定期契約プランを勝ち取った都が彼の作る和菓子に触れるうちに、密かに抱えていた和菓子の苦手意識や両親との関係も変えてゆく一方で、都での仕事関係での出会いが繋いだ思わぬ縁。一時閉店していた甘味処も再開したりと事態もいろいろ動き出していて、これからどんなエピソードが紡がれるのか今後がとても楽しみな物語になっていました。
贄の聖女と救済の契り 不良魔法士と綴る二度目の恋 (富士見L文庫)
贄の聖女と救済の契り 不良魔法士と綴る二度目の恋
posted with ヨメレバ
村田 天/Shabon KADOKAWA 2023年12月15日頃
突然魔力を失った教会で働く聖女・リゼルカ。力がない自分は無価値だと悩むリゼルカを、苦手な幼馴染で多くの浮名を流す魔法士のシャノンが保護しに来るファンタジー。研究者が提案した回復方法は、建国の祖の血を引くシャノンと『契る』こと。堅物には無理だと言うシャノンに対し、少しずつ彼に慣れると決めて練習を始めるリゼルカ。遊び慣れているはずなのシャノンの態度はなぜかぎこちなくて、外の世界に触れたことでリゼルカも様々なことを知っていって、初々しい関係を積み重ねてゆく二人が、邪教の陰謀に巻き込まれてゆくなかで思いを自覚して、しっかりと向き合おうとするその関係がとても素敵でした。
なりゆき悪女伝 縫妃は恋を繕わない (富士見L文庫)
苑国皇子・佩芳との親善馬上対決に、對国皇子の身代わりとして参加した對国の末姫・夏雲。三年後、苑国へ五名の妃嬪が嫁がれる日、彼女もまた初恋の君のもとへ嫁ぐ中華風ファンタジー。美麗で冷酷に見えるが故に「悪女だから」と噂もされた夏雲。けれど本当は可愛いもの好きで特技は刺繍。衣装はもちろん平たい胸を補強する肉饅頭もお手製で、その堂々とした振る舞いが勘違いされてかえって注目を集めてゆく夏雲。視野の広さに冷静な判断力、時には懐に飛び込む度胸もあるのに、どこか抜けている可愛い彼女を佩芳に気に入るのもわかるような気がしました。未だ安定しない立ち位置の佩芳を、彼女がこれからどう支えていくのか、続きがあるならまた読んでみたいと思いました。
ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動したテレビ局員の守谷が、異動先で出会った吾妻が祖母から譲り受けた一枚の不思議な「絵」の謎を追い、事情を確認するために秋田へ向かうミステリ。不思議な一枚の古い絵を展覧会で使うために、「イサム・イノマタ」という名前しかわからない謎の画家の背景を調べてゆくうちに明らかになってゆく、秋田の猪俣一族を巡る複雑な事情。終戦直前に秋田を襲った悲惨な空襲の様子や、猪俣家三代を中心とする何とも込み入った人間模様も描かれる中で、明らかにされてゆく確かな絆やそれぞれの結末があって、真相を追っていて少なからず影響を受けていた守谷たちのその後も印象的な物語になっていました。
今シーズンは、日本女子フィギュアの歴史を変える最高の選手2人が揃っている。しかし五輪に行けるのは一人だけ。2ヶ月後に新潟オリンピック開催を控えたこの日、二人の天才少女の人生がぶつかる運命の物語。十代とは思えぬ卓越したセンスと表現力で常に完璧な演技をみせる京本瑠璃。そして圧倒的身体能力で女子のジャンプの限界を突破する規格外の雛森ひばり。才能で周囲を圧倒する一方、不遜な態度を隠そうともしない彼女たちは典型的なヒールで、それでも彼女の才を愛して止まない関係者の視点から浮き彫りにされてゆく、二人の不器用な天才が一つの枠を巡って争う構図は、この勝負に賭けるこれまでの壮絶な人生の縮図でもあって、大一番でのギリギリで最高の演技をお互いに最後までやりきってみせた彼女たちの姿から目を離せませんでした。
コロナ禍に直面して先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。 ままならない状況に足掻く人々の姿を描いた6つの連作短編集。大学中退の客引きバイトが出会った中学時代に死んだはずの同級生を名乗る女。コロナ禍で歪み狂い始めた一家の思わぬ結末。十五年前に亡くなって、当時のことを思い出してゆく幽霊。調理師の職を失った無職男が、近隣の老人宅に通い始めた顛末。妊娠した高校生の娘と隣人の妊婦の意外な結末。コロナ禍に絶望して集団自殺しようと集まった人々の顛末。コロナ禍で人生が狂った人たくさんいたんだろうな…と改めて考えてしまう様々な転落人生の明暗が描かれていて、著者さんの書ける話の幅の広さを改めて感じさせてくれる短編集でした。
小学校卒業まであと半年。オカルト趣味を壁新聞作りに注ぎ込むために、掲示係に立候補したユースケ。同じく立候補したサツキたちとともに、去年亡くなった彼女の従姉のマリ姉の死の真相を探り始めるミステリ。一年前の奥神祭りの前日、グラウンドの真ん中で死んでいたマリ姉の謎。遺品のパソコンの中に『奥郷町の七不思議』のファイルを見つけて、もう一人の掲示係で転校生のミナを加えて七不思議を調べ始めることにしたユースケたち。小学生がイレギュラーに冷静に対応できるのかとちらりと思いましたが、小学生らしくどこか向こう見ずで、危なっかしい雰囲気を漂わせながら、持ち味が違う三人が力を合わせて、真相に迫ってゆく展開はなかなか良かったですね。
世界有数の頭脳スポーツであるチェスと出会い、その面白さに魅入られた4人の若者たちが、己の全てをかけて、チェスプレイヤー日本一を決めるチェスワングランプリに挑む青春小説。難病で学校にも行けずに入院生活を送る小学生の透。実力者でもマイナー競技ゆえにプロを目指すかどうか悩む高校生の晴紀。強要されていたピアノを辞めて盲学校の保健室の先生に偶然すすめられたチェスにハマってしまう全盲の少女・冴理。そして少年院を出て単身アメリカへ渡る天涯孤独の釣崎。生まれも育ちも違う各々の状況や、彼らとチェスの出会いを描いたエピソードが丁寧に描かれていて、チェスに魅入られた彼らがそれぞれ目指すもののために繰り広げる、負けられない熱い戦いとのその結末がなかなか良かったです。
暗い夜道に立ち尽くす幽霊の存在に気づいた検事の印藤累。動揺する彼の前に現れた自称案内人の青年・架橋昴に、真夜中にだけ開かれる深夜法律事務所に導かれるリーガルミステリ。夜中だけ動き回れるこの世に未練を残す幽霊たちを導くために活動する深夜朱莉。彼女とともに事件解決に挑む人気アイドルのベンチプレス窒息死事件の思わぬ真相。そして後輩の今瀬と配属された観察指導課で取り組む先輩検事の証拠隠滅事件の真相究明。未練を残す霊たちを成仏させるためにも、冤罪と犯罪被害者の真相を追う中で辿り着いたその結末がなかなか印象的な物語でした。続きも書けそうな構成になっていて、続きが読めるならまた読んでみたいです。
双子の弟ユリオがいなくなってからどこか気持ちが中途半端なまま、幼馴染の深雪とともに大学生になったアリオ。連続する殺人事件を契機に驚愕の真相が明らかになってゆく青春サスペンス。食費を浮かすために大学の新歓をはしごしている中で出会った蒼や、その紹介で出会ったアリオにうり二つの市堰との関係が生まれてゆく一方で、ジョーカーと名乗る人物から送られてくる不審なメール。そして周辺で起こり続ける殺人事件。生きる希望を見いだせず何とも気怠い日々を送る彼らが辿り着いた思ってもみなかった形で繋がる真相でしたけど、何とも救いがない結末の中で彼が思ってもみなかった形で希望を見出すことができて良かったです。
高校二年生の寿美子の幼馴染れいちゃん。同じ高校に進学し通学を共にする二人の、互いを傷つけ合いながらも一緒にいる思春期の複雑な友人関係を描いた青春小説。可憐な容姿とは裏腹に他人を貶めたり、陰口を撒き散らすことでしかコミュニケーションをとることができないれいちゃん。一方、受験にも失敗してあまり上手く行っていない学校生活を送る寿美子が、彼女の吐く毒に自らも影響を受けしまっているのではと感じてしまうのも分かるような気がしましたけど、そんな息苦しい二人の関係にあった閉塞感を、少しずつ変えていってくれた栞と塁の兄妹との出会いには救われる思いでした。
毎年、生徒の誰かがサプライズを起こすことが慣例の八津丘高校の文化祭。まるで宣戦布告をするかのように事件が起きた2年前の文化祭ポスターが学内掲示板に貼られ、犯人とその糸を探る学園ミステリ。2年前、ゲリラライブで人が殺到して教師がケガを負い、その様子がSNSにアップされて炎上、ニュースにも取り上げられた事件。なぜその時のポスターが貼られたのか、文化祭実行委員の市ヶ谷のぞみと佐竹が生徒たちに聞き込みをしてゆく中で浮き彫りにされてゆく、登場人物たちの印象と実像があって、様々な思いが垣間見えた文化祭が終わりを迎えてゆく中で、辿り着いたそれぞれの結末がなかなか印象に残る物語でした。
生物も住めぬ死の海に浮かぶ十八諸島。〈語り部〉たちが島々を巡り集めた物語を語り継ぐため、年に一度冬至の晩に煌夜祭が開かれる物語。人食いの魔物と出会い夜通し語る少年、隣島の野心から故郷を守るために知恵で戦う少女、魔物になった少年が考える自らの存在意義、王位継承戦争を争った王子と従者。運命に翻弄されながらもそれに必死で向き合う登場人物たちなど、語り部たちによって語り継がれてゆく様々な物語があって、それをひとつひとつ積み重ねてゆくことで構成されてゆく世界観がとても印象的でしたね。今回単行本で新たに追加収録されていた短編もなかなか良かったです。
閉塞的な現実を背負い行き詰まっている登場人物たちが、様々な葛藤の中で現れた思わぬ気づきをきっかけに新たな一歩を踏み出してゆく連作短編集。念願だった映画の宣伝会社に転職した弥生がなかなか受け入れられない夫からの提案、大手企業に内定した健生が抱えているわだかまり、夫や義実家に対して嘘で塗り固めていた実家事情、売れない漫画家がずっと抱いていた後悔、物怖じせず屈託のない転校生に副担任の杏子が抱く複雑な想い。登場人物たちの直面する状況に素直に向き合う、抱えている想いに正直になるのが難しい複雑な心情が巧みに描かれていて、それでも最後はしっかり向き合って、希望が感じられるそれぞれの結末はなかなか良かったです。
「お父さんと同じ墓には死んでも入りたくない」義母の遺言から始まった墓問題。親類や子供たちを巻き込み、墓の必要性などを考えるきっかけになっていく墓騒動小説。十九日を前に、突然明らかになった姑の遺言。いきなりの真実に黙り込む義父と、亡き母の希望を叶えるために奔走する義姉たちの騒動の行方をワクワクしながら眺めていた五月と、一方で夫婦どちらの名字を悩むかで相手と揉める娘たち。夫の実家と娘の婚約者の実家という二つの家族を巡って問題提起される実家の墓をどう維持するのか、夫婦の姓をどう選択するのかというかなか根の深い問題にはドキリとさせられましたし、向き合えば負担も重い誰もが他人事ではない話で、自分だったらどうするのかいろいろ考えずにはいられない物語でした。
小説集Twitter終了
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青井タイル/足立いまる/乙宮月子/根谷はやね/九科あか/斜線堂有紀 中央公論新社 2023年11月20日頃
23年夏、突如「X」と名前を変えられ、姿を消した世界最大のSNSプラットフォームTwitter。140字でしか気持ちを伝えられない世界を愛し続けた作家たちが紡ぐTwitterなき世界の物語集。Twitterが終わる世界でオタクたちはどう生きるか、相互フォローの女性からのDMで始まる奇想天外な物語、他者への複雑な想いとTwitterのエピソードたち。そしてTwitter終了により助手との連絡手段を失った探偵が、見つけ出した助手の意外な正体。最後の斜線堂有紀さんの話目当てで読みましたが、他の短編とも世界観を共有するストーリーはミステリ仕立てでなかなか面白かったですし、参加した作家さんたちが書いた最後のTwitterへの追悼文もなかなか効いていました。鳥返してって(苦笑)