こちらは2021年8月に読んだ新作おすすめ本 文庫・単行本編です。
ライトノベル編はこちら↓
8月に読んだ本の中では聖女の座を剥奪されかけたヴィクトリアが王家を巡る真実を解き明かすファンタジーミステリ「聖女ヴィクトリアの考察」 (角川文庫)、中学生とヤンキーが小説家を目指す青春小説「青少年のための小説入門」 (集英社文庫)、地球上の全ての生物がウイルス感染し、誰もがいずれゾンビ化する世界での密室殺人を描いた「わざわざゾンビを殺す人間なんていない。」 (二見ホラー×ミステリ文庫)などはなかなか良かったですね。
また今後の展開に期待感しかない三川みりさんの男女逆転建国宮廷ファンタジー「龍の国幻想」 (新潮文庫nex)、メフィスト賞を受賞した秋保水菓さんのコンビニミステリ「コンビニなしでは生きられない」 (講談社文庫)「謎を買うならコンビニで」 (講談社タイガ)、単行本では異能探偵たちが共演する似鳥鶏さんの「推理大戦」、繰り返されるループの中で起きた事件の真相を追う「時空犯」などインパクトのある作品が多かったです。
聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語 (角川文庫)
春間 タツキ KADOKAWA 2021年08月24日
平和を司るアウレスタ神殿の聖女のひとりで霊が視える少女ヴィクトリア。その能力を疑われ追放を言い渡された彼女が、辺境の騎士アドラスに依頼され、出生の謎を解き明かす謎解きファンタジー。アドラスと共に彼の故郷へ向かい、出生の秘密を調べ始めるヴィクトリア。彼女が巻き込まれてゆく思惑が絡み合う帝位継承争い。真実はどこにあるのか、陥れられた窮地をいかに乗り越えるのか。腹を括った彼女の優れた観察力・洞察力で事態を打開して、思ってもみなかった真実へと導いてゆく展開はなかなか面白くて、また続きを読んでみたい新シリーズです。
青少年のための小説入門 (集英社文庫)
中学2年だった一真が万引きを強要された現場でヤンキーの登と出会い、幼い頃から自由に読み書きができなかった彼と共に小説家を目指す青春小説。文字を読むのには苦労する登が一真に小説の朗読をしてもらって、彼が頭の中に湧き出すストーリーを一真が小説にする日々。そして一真が出会った少女・かすみとのほのかな恋。二人で多くの印象的な作品を読みながらコンビで小説家を目指すべく試行錯誤を続ける二人が、作家になってから少しずつ歯車が狂ってゆく展開はもどかしくて、けれどそんな彼らのままならない青春にはぐっと来るものがありました。
わざわざゾンビを殺す人間なんていない。 (二見ホラー×ミステリ文庫)
小林 泰三/我孫子 武丸 二見書房 2021年07月21日頃
地球上の全ての生物がウイルス感染し、誰もがいずれゾンビ化する世界。ある細胞活性化研究者が密室の中でゾンビ化してしまい、現れた探偵・八つ頭瑠璃がその謎に迫るホラーミステリ。なぜその研究者はゾンビ化してしまったのか。極秘とされていたその研究内容や数々の状況証拠、瑠璃が抱える秘密とその目的、彼女によって解き明かされてゆく事件の真相。動機自体はわりと俗っぽい感じでしたけど、たびたび挿入される双子姉妹の過去エピソードの持つ意味が、後でじわじわと効いてくる結末には強烈なインパクトがあって、とても印象的な物語でしたね。
コンビニなしでは生きられない (講談社文庫)
大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋が、バイト先のコンビニに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲と次々と起きる謎を解いてゆく青春ミステリ。店から逃げ出さない強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女といった事件が起きるたび、彼女の暴走に翻弄されながら謎を解き明かす白秋。やや強引な謎もありましたがテンポの良い二人の謎解きは楽しくて、伏線を回収しながら見事に繋がってゆくほろ苦い背景と、それを乗り越えて迎える結末にはぐっと来るものがあって、何より著者さんの深いコンビニ愛が感じられた作品だったと思います。
さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)
見返り谷に心を囚われた少女の物語、村で凶兆があるたび若者が捧げられる千年図書館の秘密、地球侵略中の異星人に遭遇した大学生、墓として大きく塔を村のあちこちに建てる男爵の謎、大きく奇怪な墓を村のあちこちに建てる男爵の謎、呪われた曲を奏でた傷心の高校生におこる不可思議。不可思議な出来事をテーマに、何の気なしに読んでいくと最後の最後で物語の見え方がガラリと変わってしまうやられたと思った5つの連作短編集でした。個人的には「見返り谷から呼ぶ声」「千年図書館」「さかさま少女のためのピアノソナタ」あたりが良かったですね。
M.G.H. 楽園の鏡像 (徳間文庫)
日本初の多目的宇宙ステーション『白凰』で発生した不可解な出来事。『白凰』見学に訪れていた若き研究者・鷲見崎凌が、謎の真相を探るため行動を開始するSFミステリ。従姉妹の森鷹舞以の計略により偽装結婚し、新婚旅行で『白凰』を訪れた矢先に発見した無重力下なのに墜落したかのような死体。凌と彼を慕う舞以の偽装結婚カップルの距離感もなかなか良かったですけど、思わぬところから判明した想像もつかない状況で起きた事件の真相とその動機、そして仮想空間も絡めて生きるとは何かを考えさせるエピソードはなかなか深くて印象に残りました。
店長がバカすぎて (ハルキ文庫)
とにかく本が好きで〈武蔵野書店〉吉祥寺本店の契約社員として働く谷原京子、28歳。独身。「非」敏腕店長・山本の下で、文芸書の担当として次から次へとトラブルに遭いながら働くお仕事小説。日々入ってこない注文を嘆いたり、尊敬する先輩が辞めたりする中で、問題客や増長した作家、ワンマン書店経営者といったトラブルに対処しながら、意外な繋がりがあったりガリバー出版社に新卒で入社した元後輩の奮闘を知ったり、斜め上にバカすぎる店長にイライラしながら文句だらけの書店員に愛着を持っている主人公が迎えた結末はなかなか良かったです。
神保町・喫茶ソウセキ 文豪カレーの謎解きレシピ (宝島社文庫)
「漱石カレー」を看板メニューに、神保町で駆け出しシェフの千晴が開店した喫茶ソウセキ。漱石カレーを食べて「漱石のことを何も知らない」と酷評するイケメン小説家の葉山と謎解きをするミステリ。とある作家を気に病むあまり自殺願望を抱き始める葉山。おばあさんが店に忘れていった古書の謎、名店と同じ味がするカレーの謎、そして千晴の祖父が残した遺産の謎など、カレー魔人葉山に振り回されながら一緒に謎解きしていく展開で、それぞれのエピソードの中で断片的に出てきた情報が、最終的にひとつに繋がって迎える結末なかなか良かったですね。
七月七日のペトリコール (集英社文庫)
親友の命日にかかってきたのは、12年前の自分からの電話。ガラケーが繋ぐ時を超えて親友の死の謎を追う青春ループミステリ。親友・柊の13回忌が終わった夜、29歳の和泉が受けた高校生の和泉自身からの電話。高校生の自分と通話するたび時間がリセットされて、過去の自分と協力して柊の死を食い止めようとする展開で、広がってゆく交友関係、深まる柊の死を巡る謎、明らかになってゆく複雑な思いともうひとつの真実の先にあった奔走と葛藤の結末は…青春ものとして面白かった分、こうすることしかできなかったのか少し考えてしまう結末でした。
龍の国幻想1 神欺く皇子 (新潮文庫nex)
皇子・日織皇子が運命に翻弄されながら新しい国を目指す男女逆転建国宮廷ファンタジー。龍の声を聞く力を持たない女が「遊子」呼ばれ虐げられる現状を変えるため、男として皇尊を目指す日織。持たざる者と持たない者の邂逅から動き出す運命、そして過酷な現実を突きつける展開にはぐいいぐい読ませるものがあって、多くの人に思いを託されて乗り越えた先に、ここからどういった新展開が待っているのか、未だ先の見えないこの物語には期待感しかありません。
謎を買うならコンビニで (講談社タイガ)
コンビニ限定探偵ナイトアウルとして謎解きを請け負う高校生・春紅。2ヵ月前にとあるコンビニのトイレで起きた店員不審死を調査するためバイトとして潜入する青春ミステリ。警察が自殺と断定した事件に、遺体に残された傷の形から連続猟奇的強盗殺人との繋がりを疑う春紅。同僚・司水の協力も得ながら、店内で起きた謎を解くことで同僚たちの信頼を得て、事件の真相に迫ってゆく展開でしたけど、コンビニならではトリックとその闇が深く絡み合う事件の背景、そして何とも複雑な真相があって、それでも希望の光が見える結末には救われる思いでした。
ニューノーマル・サマー (新潮文庫nex)
2020年、日常が一変したコロナの夏。次の公演『4回転サイタマ』の準備を始めた劇団脚本係の潮見康介と仲間たち。たった一度きりの今しかないこの瞬間に、全てを注ぎ込む青春小説。非常事態宣言明けに不安を抱えながら、公演の準備を進める年齢も職業もバラバラの劇団員たち。対策はこれでいいのかと垣間見える不安が今読むとわりと生々しくて、二度とない夏に向き合う劇団員それぞれの複雑な思いがあって、コロナ禍では実際にこういうこともあったんだろうな…と思ったそのほろ苦い結末もまた、忘れられない思い出になっていくんでしょうね…。
推理大戦
日本で見つかった、ある「聖遺物」。世界的にも貴重なその「聖遺物」をかけ、「推理ゲーム」が北海道で行われることになり、驚異の能力を持つ「名探偵」たちが、決戦の地に集うミステリ。アメリカ、ブラジル、ウクライナ、日本などの「名探偵」たちが、描かれたそれぞれのエピソードで見せつける特異な能力の数々。そんな彼らの聖遺物をかけた推理ゲームを前に起きた殺人事件。事件解決のために名探偵たちが持てる力を使って導き出してゆく推理の数々にはワクワクさせられて、その先にあった思ってもみなかった結末にはつい唸らされてしまいました。
時空犯
私立探偵・姫崎智弘の元に舞い込んだ報酬一千万円という破格の依頼。6月1日がすでに千回近く巻き戻されている原因を突き止めるため、姫崎を始めとするメンバーが巻き戻しを認識することができる薬剤を口にするミステリ。情報工学の権威・北神博士によって集められたメンバーたち。そこでの思ってもみなかった再会と、巻き戻された先で他殺体で発見された博士。博士を殺したのは誰なのか、疑心暗鬼に陥りかねない状況の中で、思ってもみなかった犯人の動機があって、甘酸っぱくて切ないもどかしさも絡めながら迎える結末はなかなか良かったですね。