前回最近読んだ文芸単行本企画を作りましたが、キャラ文芸とライトノベルも新作中心にある程度紹介する企画を作れそうなくらいには面白い本のストックが溜まったので、連作企画として作っていきます。というわけで第二弾のキャラ文芸企画です。どうしても手を広げすぎて読んでいるシリーズものも多いので、新作を読むにしても出遅れ気味になっているタイトルも少なくないですが、気になる作品はできるだけ読んでいきたいところですね。ライトノベル編も準備中ですので近々に更新します。
1.嘘つきな魔女と素直になれないわたしの物語 (集英社オレンジ文庫)
父親の浮気発覚による突然の両親の離婚。充実していた人生から一変した董子が、母親の地元である田舎で魔女を自称する金髪碧眼の少年・ハルと出会う青春小説。ご近所のほとんどが親類縁者で、携帯電話の電波もろくに入らない田舎への引っ越し。そこで出会った少年・ハルと解き明かす盗まれた卵、なくなったクッキー、赤い服の幽霊の謎。謎めいたハルとトーコが忘れてしまっていた八年前の真相。密かに村に危機が迫っていて、けれどそんな窮地を力を合わせて乗り越えて、二人で未来を切り開いてゆく姿がどこか微笑ましい、ひと夏の素敵な物語でした。
2.ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女 (集英社オレンジ文庫)
王族による共同統治が行われる国イルバス。王宮を離れ北方辺境のリルベクで趣味の工業生産に明け暮れる王女ベアトリスが、周辺国の情勢が悪化により政治的決断を迫られる激動のヒストリカルロマン。尊大な兄アルバートと狡猾な弟サミュエルから距離を置くベアトリスが抱える秘密と、彼女を支え続ける側近のギャレット。事態が緊迫する中で駆け引きを続ける兄弟に振り回されるベアトリスでしたけど、不器用な彼女とギャレットの葛藤と繊細な距離感が効いていて、覚悟を決めた彼女たちが向き合った末に取り戻した絆にはぐっと来るものがありましたね。
大阪で生まれ育ったコテコテのアラサー大阪女子が、凰朔国一の豪商・鴻家の華やかな屋敷に住む令嬢・鴻蓮華に転生し、放り込まれた後宮でたくましく生きてゆく後宮コメディファンタジー。理想の男性はバースと公言する大阪マダムが転生した理由には笑ってしまいましたが、母・皇太后と対立する疑り深い皇帝の天明に協力し、蓮華をライバル視する妃嬪候補たちすら巻き込んで、後宮にタコパを流行らせたり妃嬪たちに野球を指導したり、やりたい放題なのに深刻な問題すら何とかしてしまう蓮華の慧眼や心意気、圧倒的なパワーがとても痛快な物語でした。
九州に展開するコンビニ「テンダネス」の門司港こがね村店。勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡するフェロモン店長・志波三彦と、彼を慕ってやってくる常連客たちがコンビニを舞台に繰り広げるお仕事小説。バイト野宮が密かに抱えていた後悔、夢と現実の狭間で悩む塾講師・桐山、幼馴染との関係に悩む梓、定年後妻との距離感が分からなくなった夫、パート・光莉の息子・恒星が抱いた疑惑、クリスマスの騒動など、店長や周囲の登場人物たちを絡めたドタバタ劇が楽しくて、その優しさが関わる人たちの心を癒してゆくとてもじんわりと来る物語でした。
5.九天に鹿を殺す 煋王朝八皇子奇計 (集英社オレンジ文庫)
中原の覇者・煋王朝で皇帝の崩御とともに、次代の玉座を巡り八人の皇子が争う「九天逐鹿」。審判役・女帝の勅命のもと宮中に現れる蠱鬼を狩り、夭珠を増やす凄惨な戦いの幕が開ける中華謀略ファンタジー。母や家族だったり、妻や姉といった大切な存在のために集った八人の皇子たちが繰り広げる、卑劣な奸計が蠢いて情を断ち切れぬ者から滅びていく壮絶な後継者争い。新皇帝が誕生すれば殺される運命にある女帝・閨水娥。それぞれの想いが垣間見えるからこそ、それぞれの末路もまた印象的で、その先にあった結末にもまたぐっと来るものがありました。
6.星の降る家のローレン 僕を見つける旅にでる (メディアワークス文庫)
ある日姿を消し、生死不明となっていた少年時代の宏助の恩人で謎多き中年画家・ローレン。年月が過ぎて大学生になっていた宏助のもとに、突然ローレンから「自分の絵を売ってほしい」と手紙が届く物語。何とか個展を開催した宏助が、絵に描かれた友人を探す個展の客・雪子と一緒にローレンの行方を追う展開で、雪子と行方知れずになった親友・杏子のエピソード、そしてローレンの過去に迫ってゆく中で明らかになってゆく過去の真相は切なくて、けれどそれぞれがしっかりと向き合って新たな関係を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありましたね。
8.花村遠野の恋と故意 (幻冬舎文庫)
九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が続いて、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びながら事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いまいましたね。そんな彼らのこれからが楽しみです。2巻目が20年10月に刊行予定。
8.きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間 (富士見L文庫)
きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間
posted with ヨメレバ
村田 天/丹地 陽子 KADOKAWA 2020年07月15日頃
ある日吉祥寺で金色の瞳の猫と出会い、一匹の猫となってしまった仕事に疲れたOL・舞原留里。そんな彼女が猫にだけ優しい偏屈な高校時代の元同級生・岸田頼朝と出会う物語。猫に好かれる特異体質を持つ岸田にお持ち帰られて、彼の家で一緒に過ごした67日間。共同生活で岸田の意外な一面がたくさん垣間見えて、共に過ごすうちに留里の中にも育まれてゆく想いがあって、改めて留里が人として対してみると岸田はほんとめんどいやつだなーと苦笑いでしたけど、それにめげずにしっかり向き合った留里と頼朝のお似合いな感じがとても素敵な物語でした。
9.動機探偵 (双葉文庫)
令王大学で人工知能を進化させるため、人の心を解きあかそうとする名村准教授。特任助手の若葉とともに持ち込まれた不可解な事件の理由解明に挑むミステリ。遺品として見つかった出所不明の日本刀を亡き母が持っていた理由、慣れない登山で事故死した青年の想い、突然婚約破棄した理由、息子に殺人の罪をなすりつけた父親と、日常の人間関係において発生する「なぜ」を解き明かしてほしいという依頼を、有能だけれど人の心の動きがよく分からない名村を、行動力ある若葉がフォローする形で二人で真相を解き明かしてゆく展開はなかなか良かったです。
承和の変の謀反から二年。いまだ権力争いの残り火に翻弄される後宮で、言霊をあやつる異才の陰陽師・小野小町が難事も怪異も解き明かす物語。陰陽師・小野篁の孫として後宮の女たちの相談を受ける小町が直面する、袖にした貴族の悪夢や恋煩いの相手探し、そして承和の変を巡る事件。時の権力者・藤原良房なども登場して、かの有名な色男・在原業平などの協力も得ながら、あやかしが絡むの事件の背景を探り、言霊を使って人知れず影から解決してゆく業深き女陰陽師・小町という構図はなかなか面白かったですね。続刊がまた出るなら読んでみたいです。
11.赤ちゃんと教授 乳母猫より愛をこめて (集英社オレンジ文庫)
不運なトラブルで住む場所と仕事をいっぺんに失ってしまった有能なベビーシッター・西東鮎子。偶然立ち寄った公園で赤ん坊の養父で大学教授・島津伊織にベビーシッター兼偽婚約者役として雇われるお仕事小説。路頭に迷いかけていた鮎子を雇ってくれた伊織と亡き姉の子が抱える事情。「保育のプロでも子育てのプロではない」鮎子は偽婚約者として伊織の乳兄弟に対応したり、遺産相続争いにも巻き込まれましたけど、彼女の持ち前の機転で切り抜けてゆく展開はなかなか良かったですね。意外とお似合いな二人のその後が読んでみたくなる新シリーズです。
12.海月館水葬夜話 (集英社オレンジ文庫)
穏やかな港町の学園で司書として働く遠田湊。そんな彼女と幼馴染・凪が一緒に暮らす小さな洋館・海月館に死んでも忘れることのできなかった後悔を抱えて客人が訪れる葬送ミステリ。湊の先輩司書だった櫻子と図書委員の吉野、「私が朝香を殺した」と告げる二人が抱えていた秘密、妻が殺されてから気づいた夫の後悔、病死した兄と双子の妹の複雑な関係、訪れた死者たちの後悔に向き合い、真相を解き明かしてゆく湊と凪。そんな二人の関係もまた過去に縛られたものに思えましたけど、様々な後悔に向き合ってきた湊の選択がなかなか印象的な物語でした。
13.遥かに届くきみの聲 (双葉文庫)
かつて天才子役だった過去を隠して高校生活を送る小宮透。当時彼が朗読に励んでいたことを知る同級生の沢本遥が、徹を所属する朗読部へ勧誘する青春小説。今の透が人前で声を出せなくなった苦い過去、かつてのライバルだった近藤先輩との再会、そして声を取り戻す手助けをしてくれた遥が抱える秘密。人に聞かせる朗読、そして競技としての朗読は、読む人が物語をどう解釈して聞かせるのか奥深いものがあって、遥たちと再び朗読に取む中で過去とも向き合い、自分と競い合い支えてくれる周囲の人たちの大切さを思い出してゆくとても素敵な物語でした。
14.うちの作家は推理ができない (二見サラ文庫)
先輩編集の高山から売れっ子現役大学生ミステリ作家・二ノ宮花壇の担当を引き継いだ左京真琴。「いま書いている物語の推理パートを忘れてしまう」彼の物語を推理し、つじつまの合う結末を考える作家ミステリ。喫茶店でカップルの男が怒った理由、花壇に依頼した書評、寮で見かけた幽霊の正体、エノが食あたりをした理由、そして素直になれない作家の真意。何度も振り回される左京を見ていると拗らせ過ぎなのではと思ってしまいますが、左京があまりにも不憫だったので続編があったら是非二ノ宮に逆襲してぎゃふんと言わせる展開を期待したいですね。
15.お局美智 経理女子の特命調査 (文春文庫)