8月の新作おすすめです。今回はここまでかなーと思って先走ってこのラノ用の新作オススメ企画を作ってしまいましたが、「あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね」(ファミ通文庫)はその中に入れてよかったと思うくらい強烈なインパクトのある作品でした。その他ライトノベルでは「ダークエルフの森となれ -現代転生戦争-」や表紙にインパクトがあった「幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 疎遠だった幼馴染が怖い」、「恋愛する気がないので、隣の席の女友達と付き合うことにした。」あたりには期待したいところ。
ライト文芸では連続刊行となったはるおかりのさんの「九天に鹿を殺す」 (集英社オレンジ文庫)と、北川恵海さんの「星の降る家のローレン 僕を見つける旅にでる」 (メディアワークス文庫)ですかね。文庫本は第1回双葉文庫ルーキー大賞受賞作「遥かに届くきみの聲」 (双葉文庫)単行本はなかなか興味深い本が多かったですが、河野裕さんの「昨日星を探した言い訳」や武田綾乃さんの「愛されなくても別に」あたりがどこまで伸びるかは注目しています。
あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね (ファミ通文庫)
あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね(1)
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藍月 要/Aちき KADOKAWA 2020年08月28日頃
幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 疎遠だった幼馴染が怖い (ファンタジア文庫)
幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 疎遠だった幼馴染が怖い(1)
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学内でも人気の美少女で、いつの間にか遠い存在となってしまった康貴の幼馴染・高西愛沙。その妹まなみの家庭教師をきっかけに、彼女とも再び接点を持ち始める青春小説。まなみもまた中学の間では人気者で、康貴に甘える彼女にやきもきする不器用過ぎる愛沙が分かりやすいわけですが、学校とのギャップもあって康貴も彼女との距離感掴みかねてる感じなんですかね。そんな彼が気になるまなみも、お互いの両親やクラスメイトたちも二人に好意的で、このもどかしい幼馴染の両片想い関係をこれからどう盛り上げていくのか、今後に期待のシリーズですね。
恋愛する気がないので、隣の席の女友達と付き合うことにした。 (ファンタジア文庫)
恋愛する気がないので、隣の席の女友達と付き合うことにした。(1)
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神戸で高校受験に失敗し、姉と一緒に香川の離島に移り住むことになった高校一年・凛太郎。そこで出会い仲良くなった女友達・友近姫乃に、秘密の偽装恋愛関係を持ちかけられる青春小説。一カ月で16回も告白され周りの恋愛ブームにうんざりしていた姫乃。偽装恋愛関係で今度は凛太郎が男に呼び出される展開には思わず笑いましたが、捉えどころのない姫乃の想い、凛太郎を目の敵にする有希、後輩のありなを絡めつつ、廃校危機を救うため教育実習中の姉と協力して文化祭を盛り上げるために奔走する凛太郎と、その結末にはぐっと来るものがありました。
小悪魔だけど恋愛音痴なセンパイが今日も可愛い 1 (オーバーラップ文庫)
小悪魔だけど恋愛音痴なセンパイが今日も可愛い 1
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遊歩新夢/ひつじたかこ オーバーラップ 2020年08月25日頃
田舎から外部入学で名門校の吹奏楽部へ入部した三鼓拓斗。独学のみの初心者・拓斗に可能性を見出したOB女子大生・宮城恵理那と運命の出会いを果たし、彼女に師事する青春小説。彼女の奏でる素晴らしい音色にほれ込んだ拓斗と、それを彼の愛の告白と勘違いした恵理那。演奏と料理は素晴らしくても、それ以外は人知を超えたポンコツで恋愛音痴っぷりも斜め上の恵理那はなかなか強烈でしたが、二人の音楽に向き合う姿勢は真摯で、同級生の波音や恵理那に師事する小学生・リュシーたちと演奏する喜びを見出してゆく展開はぐっと来るものがありました。
悪役令嬢になったウチのお嬢様がヤクザ令嬢だった件。 (DENGEKI)
悪役令嬢になったウチのお嬢様がヤクザ令嬢だった件。(1)
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翅田 大介/珠梨 やすゆき KADOKAWA 2020年08月12日頃
襲われた女の子を救おうとして命を落とし、悪役令嬢・キリハレーネとして転生したヤクザの女組長・霧羽。婚約破棄を迫る王子を始めとする破滅フラグを次々と粉砕してゆく物語。間違って悪役令嬢役として召喚された霧羽の魂。世界の創造神・ジェラルドを執事として従え、持ち前の度胸とハッタリで婚約破棄を迫る王子を逆にやり込め、たくましく冒険者として活躍して腹黒ヒロイン・ユリアナの企みを次々と打ち砕いて味方を増やし、さらには竜まで手なづけてしまうキリハの圧倒的な主人公感は爽快でした。ここからどんな展開が待つのか続巻に期待です。
魔女の愛し仔 (星海社FICTIONS)
魔宴の夜、魔女集会へ生け贄として捧げられ、古き魔女エンゲル・ヘクセンナハトに拾われた少女・サラ。『幸福になれなかった物語』を管理する彼女の書架に眠る「呪われた御話」たちを二人で終わりに導いてゆく物語。在るべき結末を迎えなかった白雪姫、人魚姫、茨姫、赤頭巾、ラプンツェルの物語の世界と、二人が協力することで導かれてゆくもうひとつの結末。魔女と少女を待ち受ける運命を様々な形で示唆しつつ、共にあることで少しずつ変わってゆく二人の繊細な関係はとても優しくて、幸せとは何かを模索し続けたその結末はなかなか印象的でした。
九天に鹿を殺す 煋王朝八皇子奇計 (集英社オレンジ文庫)
中原の覇者・煋王朝で皇帝の崩御とともに、次代の玉座を巡り八人の皇子が争う「九天逐鹿」。審判役・女帝の勅命のもと宮中に現れる蠱鬼を狩り、夭珠を増やす凄惨な戦いの幕が開ける中華謀略ファンタジー。母や家族だったり、妻や姉といった大切な存在のために集った八人の皇子たちが繰り広げる、卑劣な奸計が蠢いて情を断ち切れぬ者から滅びていく壮絶な後継者争い。新皇帝が誕生すれば殺される運命にある女帝・閨水娥。それぞれの想いが垣間見えるからこそ、それぞれの末路もまた印象的で、その先にあった結末にもまたぐっと来るものがありました。
星の降る家のローレン 僕を見つける旅にでる (メディアワークス文庫)
ある日姿を消し、生死不明となっていた少年時代の宏助の恩人で謎多き中年画家・ローレン。年月が過ぎて大学生になっていた宏助のもとに、突然ローレンから「自分の絵を売ってほしい」と手紙が届く物語。何とか個展を開催した宏助が、絵に描かれた友人を探す個展の客・雪子と一緒にローレンの行方を追う展開で、雪子と行方知れずになった親友・杏子のエピソード、そしてローレンの過去に迫ってゆく中で明らかになってゆく過去の真相は切なくて、けれどそれぞれがしっかりと向き合って新たな関係を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありましたね。
きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間 (富士見L文庫)
きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間
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村田 天/丹地 陽子 KADOKAWA 2020年07月15日頃
ある日吉祥寺で金色の瞳の猫と出会い、一匹の猫となってしまった仕事に疲れたOL・舞原留里。そんな彼女が猫にだけ優しい偏屈な高校時代の元同級生・岸田頼朝と出会う物語。猫に好かれる特異体質を持つ岸田にお持ち帰られて、彼の家で一緒に過ごした67日間。共同生活で岸田の意外な一面がたくさん垣間見えて、共に過ごすうちに留里の中にも育まれてゆく想いがあって、改めて留里が人として対してみると岸田はほんとめんどいやつだなーと苦笑いでしたけど、それにめげずにしっかり向き合った留里と頼朝のお似合いな感じがとても素敵な物語でした。
御苑筆姫物語 (富士見L文庫)
定年後の呑気な隠居を夢みて円満退職を願う代筆係の采女・蒼月。期せずして皇帝とから姫へ贈る恋文と物語の執筆を頼まれ、さらには思わぬ争乱に巻き込まれてゆく中華風ファンタジー。今上帝・叡泉に字の上手さを見込まれたことによる転機。明らかになってゆく蒼月の秘めた過去と、周辺国を侵略する晏国の苛烈な遺臣狩り。次代への中継ぎに徹する叡泉と物語が好き過ぎて自らの計画に固執する蒼月でしたけど、巻き込まれた危機的状況に力を合わせて乗り越えたことでお互い心境の変化もありましたかね…そんな二人の行く末をもう少し読んでみたいです。
赤ちゃんと教授 乳母猫より愛をこめて (集英社オレンジ文庫)
不運なトラブルで住む場所と仕事をいっぺんに失ってしまった有能なベビーシッター・西東鮎子。偶然立ち寄った公園で赤ん坊の養父で大学教授・島津伊織にベビーシッター兼偽婚約者役として雇われるお仕事小説。路頭に迷いかけていた鮎子を雇ってくれた伊織と亡き姉の子が抱える事情。「保育のプロでも子育てのプロではない」鮎子は偽婚約者として伊織の乳兄弟に対応したり、遺産相続争いにも巻き込まれましたけど、彼女の持ち前の機転で切り抜けてゆく展開はなかなか良かったですね。意外とお似合いな二人のその後が読んでみたくなる新シリーズです。
海月館水葬夜話 (集英社オレンジ文庫)
穏やかな港町の学園で司書として働く遠田湊。そんな彼女と幼馴染・凪が一緒に暮らす小さな洋館・海月館に死んでも忘れることのできなかった後悔を抱えて客人が訪れる葬送ミステリ。湊の先輩司書だった櫻子と図書委員の吉野、「私が朝香を殺した」と告げる二人が抱えていた秘密、妻が殺されてから気づいた夫の後悔、病死した兄と双子の妹の複雑な関係、訪れた死者たちの後悔に向き合い、真相を解き明かしてゆく湊と凪。そんな二人の関係もまた過去に縛られたものに思えましたけど、様々な後悔に向き合ってきた湊の選択がなかなか印象的な物語でした。
遥かに届くきみの聲 (双葉文庫)
かつて天才子役だった過去を隠して高校生活を送る小宮透。当時彼が朗読に励んでいたことを知る同級生の沢本遥が、徹を所属する朗読部へ勧誘する青春小説。今の透が人前で声を出せなくなった苦い過去、かつてのライバルだった近藤先輩との再会、そして声を取り戻す手助けをしてくれた遥が抱える秘密。人に聞かせる朗読、そして競技としての朗読は、読む人が物語をどう解釈して聞かせるのか奥深いものがあって、遥たちと再び朗読に取む中で過去とも向き合い、自分と競い合い支えてくれる周囲の人たちの大切さを思い出してゆくとても素敵な物語でした。
夏、君と運命の恋をするはずだった (角川文庫)
出産間近の妻・千花と病院に向かう道中で不慮の事故に遭ってしまう明良。悲劇を拒絶したことで彼女と出会う10日前にタイムリープしてしまった明良が、彼女と再会すべく奔走するやり直し青春ミステリ。彼女を抱きしめた瞬間繰り返されるタイムリープ。その度に薄れる彼女の記憶や周囲で起きる事件の差異、事情を知って支えてくれる友人たち。なかなかうまく行かないのはなぜなのか、事件を防ぎ追い求めた過程で見えたもう一つの可能性や真相はほろ苦かったですが、それでも諦めなかった彼らが取り戻した大切な関係にはぐっと来るものがありました。
ドローン探偵と世界の終わりの館 (文春文庫)
颯爽と空から現れ犯人を捕獲する神出鬼没のドローン探偵こと飛鷹六騎。捜査中に両足を骨折したにも関わらず、大学探検部の面々と廃墟ヴァルハラへ向かった彼が、ドローン越しに連続殺人の謎に挑むミステリ。探検部員それぞれの思惑を秘めて行われた廃墟ヴァルハラの探索。骨折のため車に残った六騎以外の面々が、入り込んだ廃墟内で次々と襲われる展開で、それぞれの動機がありうる中で誰がどんな方法で連続殺人を成し遂げたのか、種明かしを読むとなるほどなあと思いましたけど、これは自分にはちょっと辿り着くのは難しかったかもと苦笑いでした。
昨日星を探した言い訳
全寮制中高一貫校・制道院学園に進学した坂口孝文。中等部2年進級の際、映画監督の清寺時生を養父にもつ茅森良子が転入してきて、坂口と運命の出会いを果たす青春小説。生徒会長を目指す真っ直ぐだけれど脇の甘い茅森を、影から支える坂口の密かな共犯関係。二人だけでたくさんの想いを語り合い、揺るぎない信頼と甘酸っぱい関係を積み上げてきたからこそ、思ってもみなかった急展開には驚かされましたけど、どこまでも頑固者で不器用で揺るぎない二人が、意外な転機と巡り合わせの末に迎えた結末には、苦笑いしつつもぐっと来るものがありました。
愛されなくても別に
虜囚の犬
過去の苦い事件から家裁調査官を辞め、妹の専業主夫代わりの日々を送る白石洛。友人の刑事・和井田からかつて担当した少年・薩摩治郎が死体となって発見されたことを知らされるサスペンスミステリ。治郎の自宅を訪れて判明する監禁虐待されていた女性たち。なぜ治郎は監禁したのか、史上最悪の監禁犯を殺したのは誰なのか。強権的な父や無力な母、家政婦や庭師、精神医を通じて明らかになる凄惨な背景。中学生二人の動向も絡めて組み上げられる構図に覚えた違和感の正体は見事打破されましたけど、根深く逃げられないその連鎖には戦慄を覚えました。
あめつちのうた
縁結びカツサンド
駒込うらら商店街に佇む、昔ながらのパン屋さん「ベーカリー・コテン」。その未来を背負う悩める三代目・和久が人の悩みに寄り添うパンを焼こうと奮闘する連作短編集。挙式に消極的な婚約者に悩む女性、就活に落ち続ける学生、中学受験する小学生の悩み、肉バカな肉屋の息子の恋。シェフから出戻りでパン屋を継いで、迷いを抱えながらも試行錯誤を続ける和久。そんなお店に訪れる悩めるお客さんたちがパンを通じて自分の本当に大切なものに気づき、お店の常連客となってゆく、とても温かくて優しい物語でしたね。賢介さんうまくいくといいな(苦笑)
彼女が天使でなくなる日
ただいま神様当番
ファルセットの時間
かつて女装をしていた34歳の竹村がたまたま見つけた、16歳の「美少女」ユヅキ。その出会いから理想の女装像に惹かれ、複雑な想いや葛藤を描いてゆく物語。似たような嗜好の存在を見つけてそれが気になって仕方ない竹村。そこから始まった関係で感じる忘れていた思い、けれど今はもう自分は止めて仕事や家庭もあり、同じようにはなれない現実。かつての自分を知る人の変わった部分や変わらない部分に安堵し、自らにないユヅキの若さに対する複雑な想いを抱えて、けれどそんな自らの想いを認め折り合いをつけてゆく竹村の姿がとても印象的でした。
俺の残機を投下します
ないものねだりの君に光の花束を
ごくごく普通で没個性が悩みの高校生・影子。そんな彼女が同じクラスの芸能人・鈴木真昼の隣の席になってしまい、さらには一緒に図書委員をすることになって、彼の意外な一面を知ってゆく青春小説。別世界すぎて真昼を苦手に感じていた影子が、図書委員の活動を通じて知ってゆく彼の意外な一面。二人の関係が少しずつ変わってゆく中、突然のスクープによって激変してゆく周囲の反応やSNSでの無責任な発言に翻弄される展開はなかなか厳しかったですが、それでも変わらなかった影子の献身と真昼の頑張りがもたらした結末はなかなか良かったですね。
あの夏の日、私は君になりたかった。
幼い頃に母親を亡くして父親も仕事が忙しく、学校でもうまくいかず退屈な毎日を送る高校生の亜弥。夜の街を散歩している途中酔っ払いに絡まれたところを高校生のリョウに助けられる青春小説。家に不在がちな父親が期間限定で契約した伊予さんによる生活指導。カフェでバイトしているリョウに少しずつ惹かれ、些細な出来事に心揺れる亜弥。面倒だった高校の友人関係にも変化が訪れて、伊予さんの正体には驚きましたけど、今は上手く行かなくても、きっかけがあれば様々な物事の見え方も変わって前を向けるようになることを改めて実感した物語でした。