少し前から #1日1文庫 のハッシュタグで読んだ本の中から1日1作品紹介するようにしていますが、このまま流して終わりなのもあれなので、ここから10日ごとにまとめていこうと思います。Twitterの紹介は140文字に収まるようあっさりめですが、こちらはもう少し長めの紹介です。
【#1日1文庫51日目】
屋上のテロリスト (光文社文庫)
ポツダム宣言を受諾せず東西に分断された日本。七十数年後、高校の屋上で出会った不思議な少女・沙希からアルバイトに誘われた彰人が、彼女の壮大なテロ計画に巻き込まれてゆく物語。両親も亡くなって目的もなく死に魅入られていた彰人。彼に協力を求めた沙希が、思惑ある権力者たちをも巻き込んで邁進する真の目的。緊張が高まってゆく状況で大人たちの間を動き回り、ギリギリの駆け引きが続きながらも切り抜ける覚悟を見せた沙希と、彼女と一緒に最後まで走り抜けた彰人が最後に迎えた結末はとても素敵なものだったと思いました。面白かったです。
【#1日1文庫52日目】
イマジナリ・フレンド (ハヤカワ文庫JA)
リアルではぼっちでも空想の友達「イマジナリ・フレンド」の美少女・ノンノンと楽しい日々を過ごす大学生やまじ。現状に小さな不安を感じた彼女が、似たような人々が集まるカンパニーへと彼を誘う物語。カンパニーで二人が知ったイマジナリ・フレンドとの様々なありようと、大人になると別れを迎える空想の友達との関係。大学では相変わらずキモい行動で周囲から浮きがちなやまじにも、その関係を大切にしてくれる人たちができて、絶対に失いたくない関係を取り戻そうと奔走した結末には、これもまたひとつのありようだと思える納得感がありました。
【#1日1文庫53日目】
きっと彼女は神様なんかじゃない (メディアワークス文庫)
現在に至るまで受け継がれた部族の教えがあるけど海を愛し、浮いた存在の集落で生贄とされて海の底に沈んだ一人ぼっちの少女が、自らを神と称した無知な少女・メイと出会うSF的ガール・ミーツ・ガールな物語。未開の地で疎まれていた少女と海底で眠っていた少女・メイの出会いが転機となり、原始的な環境で二人が拙いながらも交流してゆく展開でしたけど、冒頭の流れから何となく思い描いていたSF的展開よりはよほど現実的な顛末が待っていて、二人で選んだ決断にはやるせなさもありましたが、それだけでは終わらない何かがあったと思いました。
【#1日1文庫54日目】
未だ青い僕たちは (スターツ出版文庫)
雑誌の読モをしている高校生・野乃花が隣の席になったアニメオタクの原田。実はSNSでアニメ界のカリスマだった原田と正体を隠して交流するうちに、だんだん心境が変わってゆく青春小説。窮屈な現実世界では一切交わりがないのに、ネットではいろいろと話すようになって、お互い必要不可欠になってゆく二人。不器用な野乃花が踏み出した一歩を受け止められない原田の劣等感がまたじわじわ来ましたけど、様々な出来事を通してかけがえのない存在として自覚してゆく二人と、けれどそう簡単には変われないもどかしい距離感がなかなか良かったですね。
【#1日1文庫55日目】
ナイトメアはもう見ない 夢視捜査官と顔のない男 (集英社オレンジ文庫)
ナイトメアはもう見ない 夢視捜査官と顔のない男
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水守 糸子/星野 桂 集英社 2019年01月18日頃
遺体に触れると死の瞬間を追体験できる「夢視者」の能力で事件を解決に導く特殊捜査官・笹川硝子。意味深な言葉を残して突如失踪した先輩捜査官の行方を追ううちに意外な事実が明らかになってゆく物語。失踪を追う中で明らかになってゆく、硝子が生まれ育った研究所の火災で人生が変わってしまった人々、夢視捜査の際に使用される薬品を巡る疑惑。捜査線上に硝子と親しい関係者が次々と浮上する難しい状況で、それでもきちんと向き合おうとした彼女が辿り着いた結末は何ともほろ苦かったですが、硝子に希望も垣間見える最後には救われる思いでした。
【#1日1文庫56日目】
君の想い出をください、と天使は言った (角川文庫)
急性脳腫瘍で入院し、医師の態度から最悪の結果を察してしまい絶望する河野夕夏。その夜悪魔を名乗る不思議な青年と出会い、大切なものと引き換えに命を助ける取引を交わす恋愛ミステリ。二年間の記憶を失って様々な違いに戸惑いながらも再び職場の銀行で働き始める夕夏と、そんな彼女の前にアフターフォローとして再び現れた青年・水上。記憶が戻らなくても確実に前に進めている実感があって、そんな彼女を気にかけてくれる人たちがいて、そんな中で本当に大切なものを再び見出して、これまでの全てが繋がってゆく結末がとても素敵な物語でした。
【#1日1文庫57日目】
榮国物語 春華とりかえ抄 (富士見L文庫)
榮の貧乏官僚の家に生まれた双子、金勘定にシビアな姉・春蘭と刺繍を得意とする立派な淑女に育った弟の春雷。誤った噂は皇帝の耳にも届き春蘭の後宮入りと春雷も科挙受験が決まり、追い詰められた二人が入れ替わることを決意する中華ファンタジー。双子を利用しようとする野心家・天海宝が出世を目論む理由。妃嬪を避けるため双子が近づいた公主が知ってしまった陰謀。春蘭と口が悪い海宝の毎度いがみ合う関係からの変化や、そんな彼の意外な一面と窮地に双子たちも協力しての大逆転劇はなかなか面白かったです。今後どうなってゆくのか続巻に期待。
【#1日1文庫58日目】
あした世界が、 (小学館文庫)
音楽会社に勤める吉山朗美と、社長に契約解除され怒り狂う同級生のスーパースター・絹川空哉。十年前の高校時代にタイムスリップした朗美が当時の心残りをやり直す物語。極度のあがり症を抱える冴えない女子高生だった朗美。空哉と蓮に急接近していく一方で、すれ違い続けていた父との関係。無難に生きるしかなかった高校時代の人間関係も十年後の自分には大したことには思えなくて、だからといってままならないこともたくさんあって。それでも逃げずに困難に向き合った朗美の決断が、当時も今も変えてゆく結末は清々しい読後感で面白かったです。
【#1日1文庫59日目】
咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)
父を亡くし、川越の和カフェを営む高咲三姉妹の家に居候することになった高校生・薫。不本意ながら三姉妹と暮らすことになった傷心な薫の変化と、姉妹たちの切ない恋愛模様、そして成長の物語。咲見庵を営む長女・花緒、ボーイッシュで夢見がちな次女・六花、そして二人とは母親の違う十六歳の三女・若葉。三姉妹それぞれの複雑で繊細な恋模様とその失恋は切なかったですが、それは彼女たちの停滞した状況からの前進でもあって、三姉妹とかけがえのない日々を過ごした薫もまた成長して新たな一歩を踏み出してゆく、とても優しくて温かい物語でした。
【#1日1文庫60日目】
原之内菊子の憂鬱なインタビュー (小学館文庫キャラブン!)
崖っぷち編プロ「三巴企画」の戸部社長と桐谷が弁当屋で見出した原之内菊子。その顔を見た者は自分語りが止まらなくなってしまう特殊能力を活かして、インタビューとして働くお仕事小説。引き出される本音ダダ漏れのインタビューに悪戦苦闘しながらも可能性を感じる桐谷と、自らも苦悩しながらそこに居場所を見出してゆく菊子。苦い過去を積み重ねてきた彼女が特殊能力によってもたらされた事態の重さに逃げ出して、それでもそんな彼女が必要だと追いかけてきた二人や周囲の人たちに認められ、乗り越えてゆく優しい結末はなかなか良かったですね。