このラノ集計期間と同じ形で一般文庫レーベル/ライト文芸/文芸単行本を紹介しようという試み、「オススメ!この文庫が読みたい2021」に続く第二弾、ライト文芸編です。近年、ライト文芸もライトノベル同様刊行点数が急増していて、カバーできている領域的に厳しくなっているのを痛感していますが、とりあえず読んだ中からおススメの30作品を紹介したいと思います。なお対象期間は19年9月から20年8月に刊行されたものが対象です。なお、文芸単行本編は残る対象候補作を消化中ですので、それ読んでからセレクトを最終決定するつもりです。
1.ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女 (集英社オレンジ文庫)
王族による共同統治が行われる国イルバス。王宮を離れ北方辺境のリルベクで趣味の工業生産に明け暮れる王女ベアトリスが、周辺国の情勢が悪化により政治的決断を迫られる激動のヒストリカルロマン。尊大な兄アルバートと狡猾な弟サミュエルから距離を置くベアトリスが抱える秘密と、彼女を支え続ける側近のギャレット。事態が緊迫する中で駆け引きを続ける兄弟に振り回されるベアトリスでしたけど、不器用な彼女とギャレットの葛藤と繊細な距離感が効いていて、覚悟を決めた彼女たちが向き合った末に取り戻した絆にはぐっと来るものがありましたね。
関連シリーズ:【電子オリジナル】廃墟の片隅で春の詩を歌え
2.恋に至る病 (メディアワークス文庫)
善良だったはずの幼馴染の少女がいかにして化物へと姿を変えたのか。150人以上の被害者を出した自殺教唆ゲームを作り上げた誰からも好かれる女子高生・寄河景と宮嶺の複雑な関係が描かれるミステリ。宮嶺への壮絶ないじめをきっかけに始まった景の変貌…自殺教唆ゲームはどんどんエスカレートして、彼女とともにあろうとする宮嶺はどんどん景のことが分からなくなっていって、そんな危うい状況の先にあった結末と、洗脳だったのか歪んだ純愛だったのか最後に気づいてしまう可能性、それでも変わらない彼女への想いが鮮烈で印象に残る物語でした。
3.メイデーア転生物語 (富士見L文庫)
幼馴染に片想いしていた前世を時々夢に見る辺境貴族の令嬢マキア。運命的な出会いを果たした少年トールと魔法を学ぶ楽しい日々を過ごしていた彼女が、引き離されたトールと再会するために奮闘する転生ファンタジー。トールが救世主の守護者に選ばれ引き離されてしまう二人。トールと再会するため王都で最高峰の魔法学校を目指すマキア。学校では個性的な仲間もできて、選ばれていた救世主がまた前世でいろいろと因縁のあった存在で、抗いがたい運命に翻弄されるマキアとトールが大切な絆を守っていけるのか、続巻がとても楽しみなシリーズです。現在3巻まで刊行。
4.太陽のシズク ~大好きな君との最低で最高の12ヶ月~ (新潮文庫nex)
死に至る「宝石病」を患い海の見える高校に転校してきた理奈。親友や彼氏を作って最高の学園生活を送ろうと決意する理奈と、彼女のために受験を頑張る翔太が過ごした最高の12ヶ月の物語。運命の恋人と出会い、印象的な出会いを果たした美里と様々な出来事を経て大切な親友となってゆく理奈。彼女と自分の夢のために受験勉強する翔太が予備校で出会った仲間たち。違う時を過ごす中で不安やすれ違いもあって、それでも二人で育んできた確かな絆があって。そんな二人のかけがえのない日々を必ず読み返したくなる、とても鮮烈で印象に残る物語でした。
5.流転の貴妃 或いは塞外の女王 (集英社オレンジ文庫)
商人の娘として生まれ、後宮の貴妃になった柴紅玉。それが勢力を拡大しつつある北方の遊牧民族の盟主へと嫁がされることになり、さらにその途上で嫁ぎ先の敵対部族による襲撃で攫われてしまう中華風浪漫譚。帝の寵愛はなくとも後宮で謳歌していた生活から、二転三転する運命に翻弄され激変する紅玉の人生は大変だなあと思わずにいられませんでしたが、族長の末子アマルの妻となった彼女があるべき姿を見定めて覚悟を決め、遊牧民族の妻としては型破りな、けれど自分らしいやり方でアマルを支えるようになってゆく姿にはぐっと来るものがありました。
6.処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな (新潮文庫nex)
留年して二回目の高校三年生となった佐藤晃に話しかけてきた同級生・白波瀬巳緒。それをきっかけに居場所がないと思っていた学校で周囲に輪ができて、かけがえのないものを取り戻してゆく喪失と再生の青春小説。留年の経緯で明らかになってゆく深い愛には驚かされましたが、あっけらかんとしたギャルの白波瀬巳緒、綺麗な声が耳に残る少女・御堂楓、そしてアニメ好きな和久井と出会い、大切な友人・藤田たちにも支えられながら、みんなで結成したバンドを通して熱い想いをぶつけ合い、未来に希望を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありました。
7.父親を名乗るおっさん2人と私が暮らした3ヶ月について (メディアワークス文庫)
たった一人の家族だった母親を病気で亡くした高校二年生の新田由奈。葬式の当日、由奈の前に金髪でチンピラ風の竜二と、眼鏡でエリート官僚風の秋生、父親を名乗るおっさん2人が現れる物語。今の家に住み続けたいという由奈に願いに、同じアパートへと引っ越してきた二人。最初はタイプも違う二人にイライラしっぱなしだった由奈も、いい加減にしか思えなかった母の真意を彼らの中に見出すうちに少しずつ変わっていって、状況が二転三転する中で彼らの優しさに気づき、育まれていったかけがえのない絆を見出してゆくとても素敵な家族の物語でした。
九州に展開するコンビニ「テンダネス」の門司港こがね村店。勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡するフェロモン店長・志波三彦と、彼を慕ってやってくる常連客たちがコンビニを舞台に繰り広げるお仕事小説。バイト野宮が密かに抱えていた後悔、夢と現実の狭間で悩む塾講師・桐山、幼馴染との関係に悩む梓、定年後妻との距離感が分からなくなった夫、パート・光莉の息子・恒星が抱いた疑惑、クリスマスの騒動など、店長や周囲の登場人物たちを絡めたドタバタ劇が楽しくて、その優しさが関わる人たちの心を癒してゆくとてもじんわりと来る優しい物語でした。
9.青ノ果テ :花巻農芸高校地学部の夏 (新潮文庫nex)
東京からの転校生・深澤がやってきてから、壮多も幼馴染の七夏もおかしくなった。彼女が姿を消す前に託された約束を胸に、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る巡検の旅に出る青春小説。将来の展望もないまま鹿踊りにのめり込んでいた壮多が、転校生・深澤と七夏の急接近で突き付けられた焦燥と動揺。彼女不在で複雑な想いを抱えたまま臨んだ男三人の旅で、それぞれの抱く想いに触れて、宮沢賢治ゆかりの地やそのゆたかな情景に魅せられて、過去に向き合い乗り越えようとする彼らの成長とその結末にはぐっと来るものがありましたね。
10.僕が僕をやめる日 (メディアワークス文庫)
困窮し生きることに絶望した立井潤貴。そんな彼を救った高木健介の代わりに大学に通うようになった二年後、高木が突如失踪するミステリ。作家でもある高木との充実した共同生活、そして失踪から始まる突然の暗転。残された数少ない手掛かりと作品をもとに高木の過去を知る人に会い、その行方を追う立井が知ってゆく意外な繋がりと高木の壮絶な過去。彼らが置かれた環境の過酷さと、何度も絶望感を突き付けられる彼らの生々しい感情描写はインパクトがあって、繋がってゆく複雑な因縁とその結末に至るまでを描く著者の熱い想いで読ませる物語でした。
11.香港シェヘラザード (富士見L文庫)
誘拐された邦人家族から相談を受けた香港赴任中の新人女性外交官・秋穂。黒幕は香港最大の黒道組織・七海幇と判明したものの、証拠が足りず踏み込めない中、幹部の男・立花と出会う絶望と再生のラブサスペンス。商社マン・笹森が一瞬目を離した隙に誘拐された妻・蓮子の絶望。犯人は明らかなのに安易には手を出せないもどかしさと、危険な匂いのする立花との出会いがあって、急展開後も続く過酷な環境でもかすかな希望を諦めない蓮子と彼女を支える女医の梨令、そして秋穂と立花の因縁がどんな結末を迎えるのか、緊迫感のある展開が面白かったです。
同僚の木内たちと協力して、誘拐された蓮子の行方を追う 新人外交官の秋穂。そんななか、七海幇当主の三男である月龍の屋敷が突然襲撃される下巻。捜査過程で蓮子に繋がる手がかりを得たものの、救出を目前にして彼女を保護しそこなってしまう秋穂たち。事態が急展開を迎える中で、秋穂が立花に会いに行く決断をしたことが事件としても物語としても大きな転機に繋がりましたかね。彼女を取り戻せるのか緊迫した状況での劇的な救出劇でしたけど、救われたから万事解決ではないのがまたほろ苦かったですね…。立花と秋穂の関係も気になるところです。
12.九天に鹿を殺す 煋王朝八皇子奇計 (集英社オレンジ文庫)
中原の覇者・煋王朝で皇帝の崩御とともに、次代の玉座を巡り八人の皇子が争う「九天逐鹿」。審判役・女帝の勅命のもと宮中に現れる蠱鬼を狩り、夭珠を増やす凄惨な戦いの幕が開ける中華謀略ファンタジー。母や家族だったり、妻や姉といった大切な存在のために集った八人の皇子たちが繰り広げる、卑劣な奸計が蠢いて情を断ち切れぬ者から滅びていく壮絶な後継者争い。新皇帝が誕生すれば殺される運命にある女帝・閨水娥。それぞれの想いが垣間見えるからこそ、それぞれの末路もまた印象的で、その先にあった結末にもまたぐっと来るものがありました。
残虐非道な凶后の姪として政変で断罪され、天下万民の怨敵として刑場に引っ立てられた先帝の廃妃・劉美凰。死ねずに幽閉された血染めの廃妃が、十年ぶりに後宮に帰還する中華風ファンタジー。彼女の身に宿る奇しき力を必要とし、皇太后とした現皇帝・天凱。表向きは白き喪服をまとった皇太后として、裏では天凱と一緒に都で猛威をふるう鬼病の原因を突き止めるため、未だ怨憎が煮えたつ禁城に舞い戻った美凰の苦悩がまた壮絶で、二人の愛憎が入り交じる複雑な因縁があまりにも切なくて、そんな二人の行く末がとても気になる注目の新シリーズですね。
諍いの絶えない後宮を治めるため、凱帝国皇帝・高隆青の皇貴妃となった共紫蓮。聡明さを買われて入宮した紫蓮が、職務上の信頼関係で結ばれた隆青を巡る妃たちの野心と嫉妬に巻き込まれてゆく中華風ファンタジー。皇太后・李飛燕の後ろ盾の下で蔡貴妃と許麗妃の派閥がぶつかり合う後宮を統率する紫蓮、そしてかつて隆青が寵愛した冷宮にいる元皇貴妃・黛玉の存在。より重厚な雰囲気にシフトする中で対比するように様々な愛が描かれましたが、重責に苦悩する隆青と彼を支える覚悟を決めた紫蓮がぶつかり合いながら育んでいく絆がとても印象的でした。
15.さようなら、君の贖罪 (集英社オレンジ文庫)
佐久の部屋に突如現れたパジャマ姿の少女とアザラシ。意味が分からないまま目を覚ました少女たちが消えてしまい、そんな彼女・卯月が同じ高校の生徒だと知る青春小説。精神が不安定になるとテレポート能力で勝手に飛んでしまい、いろいろなものを持ってきてしまう卯月と、一度見たら忘れない記憶力を持つ佐久。佐久の友人蓮野との関係も絡めつつ、特別と過ちを抱えた不器用な二人が、一緒に持ってきたものを返してゆく過程で育まれてゆく想いとすれ違い、ぶつかり合って過去を乗り越えた先で再構築されてゆく新たな関係がなかなか素敵な物語でした。
16.水曜日が消えた (講談社タイガ)
周期性人格障害を抱え、曜日ごとに人格が切り替わる僕。これまで一週間のうち火曜日しか生きてこなかった七人のうちの一人が、初めて水曜日を経験し世界が広がってゆく物語。いつもは定休日の飲食店、入ったことのない図書館、そして初めて出会った恋。過ごす曜日が違うと世界もまた違って見える感覚がなかなか興味深かったですが、裏を返せば自分が他の曜日を過ごせている理由にも気づいてしまうわけで、迎えた転機に自分がどうあるべきか、自分にとって大切なものは何か、知ってしまったがゆえの葛藤の末に出した結論がなかなか素敵な物語でした。
17.星の降る家のローレン 僕を見つける旅にでる (メディアワークス文庫)
ある日姿を消し、生死不明となっていた少年時代の宏助の恩人で謎多き中年画家・ローレン。年月が過ぎて大学生になっていた宏助のもとに、突然ローレンから「自分の絵を売ってほしい」と手紙が届く物語。何とか個展を開催した宏助が、絵に描かれた友人を探す個展の客・雪子と一緒にローレンの行方を追う展開で、雪子と行方知れずになった親友・杏子のエピソード、そしてローレンの過去に迫ってゆく中で明らかになってゆく過去の真相は切なくて、けれどそれぞれがしっかりと向き合って新たな関係を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありましたね。
18.昨夜は殺れたかも (講談社タイガ)
平凡なサラリーマン・藤堂光弘。夫を愛する専業主婦・藤堂咲奈。誰もが羨む幸せな夫婦の二人が、妻の不貞と夫の裏の顔にそれぞれ気づき、互いの殺害計画を練りはじめる物語。夫パートを藤石波矢さんが、妻パートを辻堂ゆめさんが担当し競作する愛と笑いとトリックに満ちた「殺し愛」のストーリーで、勘違いがものの見事にハマってお互い疑心暗鬼になってゆく中、仲良かった相手を殺そうと巧妙な殺人計画を練るようになってゆく二人。そこに至る前に前に気づけなかったのか…とも思いましたけど、そのコメディめいた展開はなかなか楽しかったですね。
19.終わった恋、はじめました (講談社タイガ)
意地を通して退職した拓斗にかかってきた妹・莉音からの一年ぶりの電話。妹と一緒に心残りだった高校時代の恋人・小夜の足跡を辿る旅に出る物語。妹に指摘されて未練が残る過去の恋に決着をつけることを決意した拓斗。遭遇する謎を気が利く賢い妹にフォローされつつ解きながら、小夜に繋がる手がかりを追ってゆく展開でしたけど、それは一方で妹もまた思い悩む自身の過去に向き合う過程に繋がっていて、これまで積み重ねてきた状況からつい小夜のその後を想像してしまいましたが、そんな結末をいい意味で見事裏切ってくれたとても素敵な物語でした。
20.有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 (集英社オレンジ文庫)
ヴィクトリア朝の英国を舞台に、社交界で浮名を流し風雅と博物学を愛する有閑貴族エリオットが、オカルト事件に目がない幽霊男爵として美貌の助手コニーを従え、持ち込まれる幽霊絡みの依頼に挑む物語。沈黙の交霊会、ミイラの呪い、天井桟敷の天使といった事件に、周囲を振り回しながら喜々として挑むエリオット主従はなかなか楽しいキャラたちで、けれど向き合った事件の真相にはどこまで真摯で、そんな彼らがあるのも二人に壮絶な過去があったからなんですよね。でもいつかその過去を乗り越えて欲しいですし、また彼らの活躍を読んでみたいです。
21.呪殺島の殺人 (新潮文庫nex)
呪術者として穢れを背負った赤江一族が暮らした呪殺島。伯母・赤江神楽に招待され、友人の古陶里とともに島を訪れた秋津真白が、記憶を失い神楽の遺体の前で目を覚ます密室ミステリ。ミステリ作家の神楽に招かれた8人が密室状態の殺人事件に遭遇し、連絡も絶たれた孤立状態で発生する連続殺人という典型的な展開でしたが、お互い疑心暗鬼な状況で肝心の真白が記憶を失っていることも効いていて、前提を覆される意外な事実と人物配置の妙、これこそ呪いだったのかと唸らされた結末がなかなか印象的でした。続編があるようならまた読んでみたいです。
22.愛を綴る (集英社オレンジ文庫)
父親がおらず厳しく貧しい苦境にありながら、明るく清らかに生きてきた天涯孤独な少女フェイス。ファーナム侯爵のメイドとして働き始めた彼女が森で迷い、情熱的な青年ルークと運命の出会いを果たす物語。字を読むことも書くこともできなかったフェイスが、文字の手ほどきを受けながらルークとやり取りを交わす日々と、明らかになってゆくルークの正体、身分違いの二人が直面する悲劇。暗転してからの二転三転する展開は勢いがあって、生い立ちや身分が違うがゆえの温度差も感じましたが、最後まで愛を貫いた先にあった結末はなかなか良かったです。
23.王妃ベルタの肖像 (富士見L文庫)
王妃と仲睦まじいと評判の国王のもとに、巡り合わせで第二妃として嫁いだ南部領主の娘ベルタ。王宮で無難に過ごそうと思っていたベルタが予想外の妊娠をしたことで、状況が変わってゆくファンタジー。数年したら実家に帰るつもりで後宮入りしたのに、まさかの懐妊がもたらしたベルタを巡る心境の変化。最初からボタンの掛け違えで始まった国王との関係はお互い掴み切れずにおっかなびっくりで、もっとお互いを知ろうと努力する必要を感じましたけど、ほろ苦い事件を乗り越えた二人が何だかんだでいい夫婦になりそうだなと思えた結末が印象的でした。20年9月に2巻目刊行。
24.神招きの庭 (集英社オレンジ文庫)
豊穣と繁栄を招く反面、ひとたび荒ぶれば恐ろしい災厄を国にもたらす神々を招きもたらす兜坂国の斎庭。親友の謎の死を探るため、地方の郡領の娘・綾芽が上京する和風ファンタジー。偶然、荒ぶる女神を鎮めてみせ、王弟の二藍に斎庭の女官として取り立てられる綾芽。少しずつ育まれてゆく二藍との信頼関係と、明らかになってゆく親友・那緒の死の真相、そして国の存亡を揺るがす危機。誰を信じればいいのかどうすべきか、ギリギリの駆け引きの先にあった関係は何とも複雑でしたけど、あの二人ならきっと乗り越えて幸せを掴んでくれると信じています。20年10月に2巻目刊行。
25.三日月邸花図鑑 花の城のアリス (講談社タイガ)
父が亡くなったことで、大名庭園を敷地内に持つ三日月邸を相続し、探偵事務所を開業した八重樫光一。そんな事務所を訪れた不思議な少女・咲に出会い三日月邸を巡る謎に迫る和風ファンタジー。「庭には誰にも立ち入らないこと」という亡父の謎の遺言。咲と踏み入った庭で出会った人々の悔恨と、彼らのためにそれを解消してゆくお人好し探偵・光一。八重樫家とは険悪の仲と聞いていた牧家の兄妹たちとの出会いがあって、明かされる過去や庭園の真相には切ない気持ちになりましたが、光一と不器用な牧兄妹たちのやりとりが妙にツボにハマる物語でした。
26.かくしごと承ります。 ~筆耕士・相原文緒と六つの秘密~ (メディアワークス文庫)
卒業証書や招待状の宛名などを毛筆で書く筆耕士・相原文緒。憧れの都築先生から請け負った数々の仕事を丁寧にこなしていく中で、文字にまつわる不思議な謎にしばしば遭遇する物語。お品書きに込められた故人の思い、命名書を依頼された家にあったノートに書かれた名前、秘密の暗号に込められた意味、五度目の招待状の理由、誰かのための嘆願書、そしてラブレター。文字に込められた思いを読み解いていく展開も良かったですけど、慎重でなかなか関係が変わらないけれど意識しているのは感じられる、もどかしい二人のその後をまた読んでみたいですね。
27.本を愛した彼女と、彼女の本の物語 (メディアワークス文庫)
生まれた時から意識があった文庫本『ホテル・カロン』。なかなか売れなかった文庫本と、ある一人の少女が出会い、ともに過ごしたかけがえのない日々の物語。病弱な女の子・銀河に勇気をもたらした『ホテル・カロン』との出会い。そんな密かに彼が見守る銀河の成長と、親友・睦月との邂逅、運命の相手・輝星とのと出会い。見守ることしかできない本の視点というのがもどかしくて、けれどそんな想いはかけがえのない彼女にもしっかり伝わってたんでしょうね...最後まで寄り添い続けた姿がとても印象的で、受け継がれてゆく想いを感じる物語でした。
28.きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間 (富士見L文庫)
きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間
posted with ヨメレバ
村田 天/丹地 陽子 KADOKAWA 2020年07月15日頃
ある日吉祥寺で金色の瞳の猫と出会い、一匹の猫となってしまった仕事に疲れたOL・舞原留里。そんな彼女が猫にだけ優しい偏屈な高校時代の元同級生・岸田頼朝と出会う物語。猫に好かれる特異体質を持つ岸田にお持ち帰られて、彼の家で一緒に過ごした67日間。共同生活で岸田の意外な一面がたくさん垣間見えて、共に過ごすうちに留里の中にも育まれてゆく想いがあって、改めて留里が人として対してみると岸田はほんとめんどいやつだなーと苦笑いでしたけど、それにめげずにしっかり向き合った留里と頼朝のお似合いな感じがとても素敵な物語でした。
29.モノノケ踊りて、絵師が狩る。 ―月下鴨川奇譚― (集英社オレンジ文庫)
美大の日本画科に通う大学生詩子と、幼い頃から知る青年・七森が、二人で散逸した詩子の先祖で江戸末期の妖怪絵師・月舟の百枚連作の妖怪画を探すファンタジー。本物が封じ込められているという月舟の妖怪画を巡る因縁が描かれる展開で、月舟の絵に執着する画商・九十九の暗躍と、複雑な事情を抱える詩子と七森の関係。憑きもの落としや絵を巡る過去の因縁の清算がメインでしたけど、お互い相手をかけがえのない存在と自覚しながらも、なかなか上手く向き合えない詩子と七森の何とも不器用な距離感にはついもどかしい気持ちになってしまいました。
30.鬼恋語リ (集英社オレンジ文庫)
戦いの最前線だった椿ノ郷の若き郷長・雪疾の死を以て一時休戦となった鬼と人間の対立。郷長の妹・冬霞は和平の証として雪疾を討った鬼の頭領・緋天へ嫁ぐ恋と陰謀の和風幻想譚。わずか十二歳で都での人質生活から鬼へ嫁ぐことになった冬霞が知る、緋天の意外な素顔と一枚岩ではない鬼の事情。彼女が探る兄の死の真相と暗躍する人側の事情。幼くて緋天に妹扱いされてしまう冬霞でしたけど、そんな境遇に甘んじない積極性もあって、不安要素も多かった和平交渉のキーマンとなって、鬼たちにも認められてゆく存在に成長してゆく展開は良かったですね。
以上です。気になる本があったら是非読んでみて下さい。