先日の青春小説ベスト20作品に続いて第二弾ファンタジーベスト20作品です。
前回と同様に2010年以降にスタートしたファンタジー作品を対象に20作品を選ぼうと思いましたが、ファンタジー作品は入るべきなんだろうなと思う作品が多すぎて、正直青春小説以上に選考に悩みました(苦笑)いっそのことこれだけ30作品にしようかとも思ったのですが、あえて完結したのか曖昧な作品や続きが出るのか分からない作品、途中までは傑作だったのに…と思った作品などを思い切ってバッサリといって、また個人の好み的な相対評価でいくつか外して何とか20作品まで削りました。
正直に言えば客観的に見てこれは入れるべきだったろうなという作品もないわけではないですが、これが苦悩に苦悩を重ねた末に選んだ自分のベストということでよろしくお願いします。たぶんこの時期は他の誰かが同様の企画を作ってくれると思うので、客観的な評価はそちらにお願いすることにします(苦笑)
1.ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫 2013- )
本編15巻+外伝13巻
出会いを求めてダンジョンに身を投じた冒険者ベルの物語。最初は動機が不純だなあと思って読み始めたんですが(苦笑)、カッコ良くて強い女の子に助けられたのにお礼も言うことができず、自分の力不足を痛感して自分も強くなろうと努力する、そんな主人公ベルの真っ直ぐさには好感が持てました。そんな彼と契約する神様ヘスティアもベルが大好きだし、ギルドの担当者エイナやシルといった周囲にも恵まれていて、そんな彼が加速度的に成長しながら、ピンチに陥ったヒロインを救ってゆく物語はまさに英雄譚で、魅力的なキャラたちをうまく使った外伝もあったりと、奥行きと広がりを感じさせるシリーズですね。
2.とある飛空士への誓約 (ガガガ文庫 2012-2015) 全9巻
同盟関係を結んだセントヴォルト、秋津連邦から集まった士官候補生の七人。親善艦隊と共にセルファウストを目指す中ウラノスが急襲してきて、七人の操縦する飛空艇だけで単独翔破を目指すことに。見事力を合わせて切り抜けた今回でしたが、冒頭から七人のうち二人が裏切り者とされていることが言及され、清顕とミオの誓約、王位継承者と裏切り者、清顕とイリアの父親たちのライバル関係を無視できない複雑さなど、各々が背負う重い背景を前提とした人間関係や、過去シリーズとも絡めた一連の「とある飛空士」の物語の集大成とも言えるシリーズですね。
関連シリーズ:「とある飛空士への追憶」「とある飛空士への恋歌」「とある飛空士への夜想曲」(ガガガ文庫)
3.ロクでなし魔術講師と禁忌教典 (ファンタジア文庫 2014- ) 本編15巻+別巻5巻
働きたくない魔術嫌いのグレンが、養ってもらっていた師匠に魔術学院の非常勤講師に推薦され、やる気のない授業をするところから始まる学園アクションファンタジー。若干どこかで見たことあるような設定にも思えますが、きちんと授業をするようになってからのガラリと変わった展開以降は、テンポも良くなって面白くなっていきますね。主人公のグレンは強力な力を持ちながら制約も多く、共に戦う魅力的なヒロインたちとの組み合わせもバランスよくて、過去の因縁も絡めながら広がってゆく物語の展開力は流石です。
4.覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫 2012- )本編14巻+別巻1巻
辺境に飛ばされた皇女アルティーナと、読書好きな軍師レジスが出会うことで始まる戦記ファンタジー。本巻はこれからの物語に向けた前段部分で、世間知らずな感もある真っ直ぐな姫と、本で得た知識をベースに戦略を組み立てる軍師の組み合わせに、若干危うさも感じなくはないですが、魔法や特殊要素がほぼなく、皇女としての立場から次の皇帝を目指す道のりや、戦い方などが変わりつつある時代の中で現実路線を構築していく展開はなかなか興味深いですね。やや刊行ペースが不安定ではあるものの、戦いながら成長してゆくアルティーナやレジスがどんな結末を迎えるのか、期待が大きい作品のひとつです。
5.魔法科高校の劣等生 (電撃文庫 2011- ) 本編30巻+別巻3巻
魔法が伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となってから一世紀が経とうとしていた世界。成績が優秀な『一科生』と、その一科生の補欠『二科生』で構成される『魔法科高校』に、ある欠陥を抱える劣等生の兄達也と全てが完全無欠な優等生の妹・美雪が入学する学園ファンタジー。設定が若干凝り過ぎている感はありますが、それを乗り越えると一般に計測可能な尺度では劣等生でも、実戦では圧倒的な力を持っている達也の活躍は痛快で、ある意味タイトル詐欺的な作品ではありますが安定した面白さがありますね。
6.ストライク・ザ・ブラッド (電撃文庫 2011- ) 本編20巻+別巻2巻
世界最強の吸血鬼“第四真祖”暁古城。一見怠惰な生活を送る普通の高校生で、そこに獅子王機関から見習い剣巫の姫柊雪菜が、監視役として派遣されることで始まるファンタジー。主人公の古城は血を吸うことでその眷属を目覚めさせることができるけれど、まだ真の力を目覚めさせていない吸血鬼で、その監視役でヒロイン役の雪菜、同級生の浅葱やロリっぽい先生、妹に加えてどんどん増えてゆく魅力的なヒロインたちの存在と、第四真祖を巡る強敵たちとのバトルが物語を盛り上げてゆくシリーズですね。
7.デート・ア・ライブ (ファンタジア文庫 2011- ) 本編21巻+別巻10巻
世界を殺す災厄・正体不明の怪物と、世界から否定される少女を止める方法は二つ。殱滅か対話。名前もない精霊を十香と名付けた五河士道が、精霊をデレさせるべく奮闘するボーイ・ミーツ・ガール。人類の敵をデレさせろという突拍子もないテーマで、十香は精霊だけれど一人の可愛い女の子でもあって、士道を支える機関が義妹含めて変な選択肢ばかり選ぶ変人揃いと、士道や精霊たちの背景など不明な点も多いですが、テンポ良く進む展開とシーンごとの印象的な描写が素晴らしくて、シリアスなはずなのにシリアスを感じさせない楽しい物語。魅力的なヒロインたちが大活躍する外伝も必見です。
8.WORLD END ECONOMiCA (電撃文庫 2014-2015) 全3巻
夢を叶えるため株式市場に活路を見出す月生まれ月育ちの家出少年ハルが、ふとしたきっかけから数学の天才少女ハガナと出会い、コンテスト優勝と周囲の人々の危機打開を目指す物語。夢のために孤高だったハルが彼女たちに出会い触発され、自分に自信を持てなかったハガナもハルへの協力をきっかけに変わっていく、そんな不器用な二人の距離感の変化。そんな存在に葛藤しながら、二人が夢やその思いを語れるようになるまでに近づいたからこそ、終盤の喪失感、そして絶望が切なかったです。そんな一度は全て失ってしまった彼らの壮大な挑戦が盛り上がるシリーズです。
9.薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫 2015- ) 本編8巻-
花街の薬師だったのをさらわれて後宮で下働き中の娘・猫猫が、薬師としての能力を美形の宦官・壬氏に見込まれ、後宮の事件や噂を解決する物語。中華風の後宮にいるものの特に出世を目指すわけでもない猫猫はわりとさっぱりとした性格で、周囲が色めき立つ美貌の壬氏にも醒めた視線を向けるわけですが、そんな猫猫を壬氏が何となく気にかけている構図が面白いですね。狭い世界で繰り広げられる事件に、薬と毒には並々ならぬ執着とこだわりを見せて謎解きに挑む猫猫、彼女を取り巻く登場人物たちも魅力的で、テンポの良いやりとりが楽しいシリーズですね。
10.魔弾の王と戦姫 (MF文庫J 2011-2017) 全18巻
戦いに参加して敵国の美しい戦姫エレンの捕虜になってしまった小貴族の少年ティグルが、弓の腕を買われて仕えるように勧誘される物語。弓が軽んじられる国に生まれたティグルとエレンの運命の出会い。世界観や登場人物たちがしっかりと作られていてよく動き、丁寧に物語を描いているのが感じられて良かったです。しかるべき地位にあるキャラが情に流されて動くのではなく、きちんと考えている姿勢にも好感。興味を抱いても最初は知らない者同士、距離感もこんな感じから始まりますよね。そんな彼らの成長と魅力的な戦姫たち、そしてスケールの大きい展開が魅力のシリーズです。
関連シリーズ:「魔弾の王と凍漣の雪姫」「魔弾の王と聖泉の双紋剣」 (ダッシュエックス文庫)
11.黒鋼の魔紋修復士 (ファミ通文庫 2012-2015) 全13巻
神巫になったばかりの少女・ヴァレリアと、実力はあるものの性格に難のある紋章官ディミタール。肌に刻まれた魔紋を委ねる恥ずかしさや、プライドが高いのに自分の世間知らずを痛感させられるヴァレリアは、容赦無いディミタールの物言いに当然の如く反発するわけなんですが、そんな分かりやすい性格の彼女に現実を突きつけながらも囚われたヴァレリアを救い出すカッコよさがあった、その思うところもよく理解しているんですよね。スケールの大きい世界観で最初の反発することの多かった二人が、それぞれ成長しどのように関係が変わっていくのか楽しめるシリーズです。
12.86―エイティシックス (電撃文庫 2017- ) 本編7巻-
帝国の無人兵器レギオンによる侵略を受け、有色人種を差別し戦わせてしのいでいた共和国。そんな若者たちを率いる少年・シンと、後方から彼らの指揮を執るハンドラーとなった少女・レーナが出会う物語。人権を認められない有人の無人機として戦い続ける「エイティシックス」の若者たち。現状に疑問を持つもののその過酷さを本当の意味では分かっていなかったレーナ。次々と仲間が死んでゆく厳しい状況で彼らに突きつけられる指令には絶望的な気持ちになりましたが、因縁にもきちんと決着を付け迎えた意外な結末から始まったシリーズの今後がいろいろ楽しみなシリーズです。
13.ゴブリンスレイヤー (GA文庫 2016- ) 本編10巻+外伝4巻
ゴブリン討伐だけで銀等級まで上り詰めた稀有な存在・ゴブリンスレイヤー。そんな彼が冒険者として初めての依頼でピンチだった女神官を助けるところから始まる物語。冒頭から情け容赦のない展開が待っていて面食らいますが、視点を変えるとゴブリン相手の戦い方も奥が深く、えげつない方法も厭わずにゴブリンの習性や倒し方をひたすら極め、世界を救うことには興味がない変わり者のゴブリンスレイヤーが、直面した危機的状況で身近な人を失うことを繰り返さないために、仲間に助けを求めて立ち上がる展開はなかなか来るものがあって面白いシリーズです。
14.Unnamed Memory (DENGEKI 2019-) 本編3巻-
幼い頃に受けた『子孫を残せない呪い』を解呪するため、強国ファルサスの王太子・オスカーが試練を乗り越えたものに望みのものを与える魔女・ティナーシャの塔に挑むファンタジー。解呪が容易でなく呪いに負けない女であればいい、という状況で目の前に好物件がいたことに気づき求婚するオスカー(苦笑)わりとシリアスな展開ですが繰り返される二人のやりとりが微笑ましくて、感化されつつも容易には頷きそうもない孤高の魔女・ティナーシャが、どんどん強くなってゆく諦めが悪そうなオスカー相手にどこまで頑張れるのか、今後が楽しみなシリーズ。
15.月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫 2016- ) 本編5巻
連合王国より先に人類を宇宙へ到達させるべく、共和国の最高指導者はロケットで人間を軌道上に送り込む計画を発令。実験体として選ばれた吸血鬼の少女・イリナと監視係に任じられた候補生レフの物語。蔑まれる境遇から自由を得るため実験体として志願したイリナ。そんな彼女に最初は戸惑いながらも、共に過ごし訓練するうちに大切な存在として思うようになってゆくレフ。あくまで実験体としてか扱われない彼女の境遇には厳しいものがありましたが、乗り越えて見せた彼女たちの未来が明るいものであることを信じたくなる希望の物語ですね。
16.ゼロから始める魔法の書 (電撃文庫 2014-2017) 全11巻
自分が書いた魔法の書を奪われたゼロが、半獣半人の傭兵と一緒にゼロの書を取り戻すため旅をするお話。全体の印象としては、結構自分好みの世界観や登場人物で、読んでいて面白かったです。かけがえのない存在となってゆく二人の関係性を構築していく過程があっさりめなのはやや気になりましたが、しっかりとした構成をベースに手堅く作られていて物語としての完成度も高かったと思います。そんな二人が旅する過程で様々な人たちと巡り合い、騒動に巻き込まれてゆく物語です。
関連シリーズ:魔法使い黎明期 (講談社ラノベ文庫)
17.エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫 2012-2015) 全7巻+別巻1巻
昭和がもうしばらく続く近未来、大戦後の世界が舞台で、ボーイミーツガールな話と書くには、やや文章が硬めだったかなという印象です。ただ九曜の持っている雰囲気や、この作品の世界観にはうまくマッチしていたと思います。かつての戦友で強敵の竜胆を前にしてあくまで兵器であろうとする九曜と、天涯孤独な叶葉が偶然出会い、お互い感化されていくことで、結果としてこれまで抱えていた過去のしがらみを、何とか乗り越えられた部分があったのかもしれません。旅立つことになった二人がどう変わっていくのか、その行く末が楽しみなシリーズですね。
18.エイルン・ラストコード (MF文庫J 2015-2019) 全10巻
謎の生命体マリスに対抗する唯一の手段として巨大兵器デストブルムに無理やり乗せられ戦わされていたセレンを救ったのは、人気アニメそっくりの戦闘機とそのパイロット、エイルン・バザットだった。二次元から救世主が現れるというのも設定として新しいですが、本人や周囲もその状況に戸惑ったり、そのありように衝突しながらも、帰ってくると約束したヒロインの絶体絶命のピンチに颯爽と登場して救ってみせた展開はとにかく熱いです。一見荒唐無稽に見えるその登場も何やら理由がありそうな示唆があったりで、エルインと仲間たちの間で育まれてゆく絆にも注目のシリーズです。
19.グランクレスト戦記 (ファンタジア文庫 2013-2018) 全10巻+別巻1巻
意に染まぬ契約のため君主の元に向かっていた魔法師シルーカが、道中襲われたところを助けた流浪の騎士テオに運命を感じて契約、二人で君主を目指すお話。ゼロからのスタートながら、襲った君主の領土を奪いテンポよく領土を広げていくスピード感は、ベテラン作家さんらしい安定感と合わせて流石だなと感じました。今回は性急過ぎる勢力拡大の反動で、苦境に陥ってしまいましたが、君主としての地位に固執することなく、一介の騎士としてシルーカとの契約を取ったテオの清々しさに、この物語の今後への期待を感じさせてくれるシリーズですね。
20.ファイフステル・サーガ (ファンタジア文庫 2018- ) 本編4巻-
古の魔王が再臨する絶望の未来を変えるため「アレンヘムの聖女」セシリアと婚約し、傭兵団「狂嗤の団」団長となる道を選んだカレル。聖女の加護を受け死の未来を回避する英雄として奮闘するファンタジー戦記。二年後の魔王再臨を限られた人しか知らない中で、代替わりした王国や戦争を仕掛けてきた自治領相手にどう立ち回るのか。腕が立って商才があり現実的な手段を積み重ねるカレルだけでなく、ヒロインのセシリアや仲間たち、王国の登場人物たちもまた魅力的なキャラが多くて、ここから物語がどう動くのか続巻がとても楽しみな新シリーズですね。
以上です。
他の人のベストも読んでみたいので、皆さんのセレクトに期待しています(笑)