読書する日々と備忘録

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瑞々しい青春小説が魅力な岬鷺宮さんの11作品

 前回に引き続き著者別企画第四弾。今回は11月9日に電撃文庫から期待のシリーズ「三角の距離は限りないゼロ」の4巻目が刊行される鷺宮さんです。

 

鷺宮さんは 2012年、第19回電撃小説大賞にて投稿作「失恋探偵ももせ」が《電撃文庫MAGAZINE賞》を受賞してデビューを果たした作家さんです。「失恋探偵ももせ」以降はやや作品的に試行錯誤が続いた感もありましたけど、「読者と主人公と二人のこれから」そして 「三角の距離は限りないゼロ」で再び注目を集めつつあります。

 

三角の距離は限りないゼロ」と「読者と主人公と二人のこれから」の登場人物たちは同じ高校の同級生、そして「失恋探偵ももせ」「失恋探偵の調査ノート」もしっかりと繋がる同じ世界観の物語だったりします。そんな物語の繋がりを楽しむのもいいですし、まだ未読の作品があったら過去作もぜひ読んでみてください。

 

1.三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

 

過去の苦い経験から「偽りの自分」を演じてしまう高校生・矢野四季が、印象的な出会いを果たした物静かな転校生・水瀬秋玻に惹かれ、彼女ともうひとりの人格・春珂を支えるようになってゆく不思議な恋物語。しっかりものの秋玻と対照的な危なっかしい印象の春珂。状況的に春珂をフォローすることが多い四季と二人を見つめる秋玻の繊細な距離感がまた絶妙で、大切な存在なのにすれ違ってしまうやるせなさだったり、ごまかさずにきちんと想いをぶつけてゆく彼らの青春がとても良かったですね。終盤は挿絵の使い方も効いていて続巻が楽しみな注目のシリーズ。19年11月に4巻目刊行。

2.読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

 

期待もない新学年のホームルーム。高校生・細野亮の前に愛してやまない物語の中にいた「トキコ」そのままの少女・柊時子が現れる出会うはずがなかった読者と主人公の物語。見れば見るほどそのままの時子との出会い。一緒に過ごしてゆくうちに想いが少しずつ積もってゆく一方で、自分の中で湧き上がってくる違和感。主人公の周辺を切り取ったようなクローズな世界観で、あまりにも不器用な二人の距離感にもどかしくもなりましたが、物語をきっかけに知り合った二人が物語で心を通わせて、これからの二人の世界の広がりを予感させる素敵な物語でした。

3.失恋探偵ももせ (電撃文庫)

失恋探偵ももせ (電撃文庫)

失恋探偵ももせ (電撃文庫)

 

 「恋はいつか終わります―」そんなことを言う後輩の千代田百瀬に巻き込まれ、野々村九十九は「失恋探偵」である彼女に手を貸す日々を送る青春小説。特にミステリ好きでもないのにミステリ研究会に入会した百瀬は、なぜか九十九を助手に失恋探偵を始める。しかし依頼をこなすうちに、すれ違いが重なって九十九と大喧嘩。でも百瀬は、九十九にとって時々イライラしながらも、ほっとけない存在なんですよね。九十九相手になぜ失恋探偵を始めたのか、訥々と語る百瀬が乙女過ぎて、やっぱりちょっと変わった百瀬も恋する女の子なんだなあとニヤニヤしてしまいました。全3巻。

4.失恋探偵の調査ノート (メディアワークス文庫)

長年一緒に過ごした幼馴染みへの告白で見事玉砕しながら、どこか失恋した実感を持てないままでいた逢川零。そんな彼女がひょんなことから失恋探偵のことを知り、助手見習いとして失恋探偵とともに依頼者の悩みを解決してゆく物語。舞台は前作と同じ道立宇田路中央高校。零が本作の失恋探偵である一ノ瀬那由他とともに依頼を受け、悩みながら二人で依頼に取り組む過程は、彼女自身の失恋に区切りをつけて、そこから前に進むための物語でもありました。今回はミス研の顧問として千代田先生が登場しましたが、次作では彼の登場にも期待したいですね。

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5.陰キャになりたい陽乃森さん (電撃文庫)

陰キャになりたい陽乃森さん Step1 (電撃文庫)

陰キャになりたい陽乃森さん Step1 (電撃文庫)

 

圧倒的存在感で陽キャラの頂点に君臨する陽乃森さん。そんな彼女がとある事情から陰キャラの鹿家野たちに陰キャラになれるよう協力を依頼する青春ラブコメ。彼女の事情を知って意識や常識の違いに戸惑いつつも協力する鹿家野たちに突きつけられる、いい子だけど何をしても陽キャラ感がにじみ出てしまう陽乃森さんを変える無理ゲー感。それでも楽しそうなラブコメエピソードからの急展開には驚きましたけど、一緒に行動することでお互い大切なことを知り、そのために奔走する姿は良かったですね。最後まで破壊力あった陽乃森さんはやはり破格でした。全2巻。

6.僕らが明日に踏み出す方法 (メディアワークス文庫)

一週間後にピアノコンクールを控えた少年・中瀬と、告白の返事を待たせている少女・山田。ある日、同じ一日をループしていることに気づいた二人が、運命の出会いを果たす物語。納得したら次の日に進めていたのに、出会ったことで二人が納得する条件に変わったループ。適当な言動が多いように見えた山田の悩める心情と、堅物に思えた中瀬のコンクールに賭ける想い。困難に直面する自分のために奔走する相手への想いが少しずつ変わっていって、忘れていた過去も繋がって、乗り越えた二人が紆余曲折の末に迎えた結末はとても素敵なものに思えました。

7.踊り場姫コンチェルト (メディアワークス文庫)

伊佐美吹奏楽部に入部した梶浦康規が、全国大会を目指すべく先輩から才能を持ちながら破滅的な指揮を振る「踊り場姫」藤野楡を変えるよう命じられる物語。生真面目な演奏になりがちな康規と型破りな指揮者・楡という対極な二人の印象的な出会い。孤高な存在だった楡の康規の作曲を知ってからの変化、変わらぬ指揮をする楡との衝突、それを乗り越え素晴らしい演奏に繋げてゆく展開はとても良かったですが、吹奏楽をメインに据えた物語で楡の変化など繊細な心理描写があるともっと良かったのかも。全体としては清々しい読後感のある青春小説でした。

8.放送中です! にしおぎ街角ラジオ (メディアワークス文庫)

ナレーター志望の香奈、作曲家志望の奈須野、ディレクター志望の松任谷と夢に足踏みしている三人が、行きつけのカフェの店長の薦めでFM街角ラジオにチャレンジする物語。初っ端から大失敗をやらかした三人が、リスナーと体当たりで向き合っていくストーリーは試行錯誤感がわりとよく出ていた印象。真摯に取り組んで作り上げていったことで生まれた一体感が転機を迎えた時、逡巡するその背中を押す仲間たち、そしてリスナーたちの応援する声もまた暖かくて、こういう関係はとてもいいなと思えました。

9.魔導書作家になろう!  (電撃文庫)

勇者討伐後に魔導書がブームになった世界。魔導書作家としてデビューしたアジロと実は元勇者で出版社担当編集のルビが、周囲を人々を巻き込みつつ魔導書作りに邁進する物語。肝心の「魔導書」の具体的なイメージがあまりピンとこなかったですが、思索派のアジロの考えた魔法を超現場主義のルビや周囲の人々の協力(?)を得ながら実践的なものに仕上げていくような各話構成で、作品にうまく落とし込んだ作家生活あるあるや、アジロに関わってゆく魅力的な女性キャラたちは良かったと思いました。全3巻。

10.大正空想魔術夜話 墜落乙女ジヱノサヰド (電撃文庫)

大正空想魔術夜話 墜落乙女ジヱノサヰド (電撃文庫)

大正空想魔術夜話 墜落乙女ジヱノサヰド (電撃文庫)

 

無差別殺人を繰り広げる「人形座」が暗躍する大正時代の東京を舞台に、活キ人形に立ち向かう「墜落少女」と、その取材を許可された記者乱歩のお話。悪人を自称しながらも、どこか不器用そうなサヱカはとても良かったんですが、それだけに乱歩が記者としてもう少し説得力のある活躍をして欲しかった感も。前作とは随分と作風も変わりましたが、全体としては自分好みで面白かったと思います。ただ今後も物語を続けるとすると、物語の構成によくハマっていた人形座と同じくらい、敵に魅力やインパクトを持たせるのは、簡単ではないかなとは感じました。

11.空の青さを知る人よ Alternative Melodies (電撃文庫)

なぜか上京したはずのあの日から13年後の未来で目を覚ました音楽で天下を取る夢を抱く少年「しんの」。そんな彼と大人になった慎之介視点で描かれる「空の青さを知る人よ」のもうひとつの物語。ストーリーの展開自体は額賀澪さんのノベライズ「小説 空の青さを知る人よ」(角川文庫)とほぼ一緒でしたけど、視点があおいから慎之介たちに変わったことで、あおい不在時のしんのの心理描写や慎之介の抱える葛藤、そして過去に向き合って再び前に進み、自らの想いを再確認してゆく姿が描かれて、同じ物語でもまた違った趣を楽しむことができました。