読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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自分の読んだ本からここ数年のコバルト文庫を振り返る+コバルト文庫研究本2冊

自分もここのコメントに出てくるような作品で育った世代なのでいろいろ思うところはありましたが、そこを語ってくれる人はそれこそたくさんいそうですし、むしろコメントを見ていて昔の作品とマリみてくらいしか言及がないのは少しだけ気になりました。なのでとりあえずここ数年コバルト文庫でどんな作品が出ていたのか、自分の読んだ本から紹介してみたいと思います(そのうち自分より読んでいる方がもっともう少し濃い紹介記事を書いてくれると期待しています)

 

【2/4追記】現役読者みかこさんのエントリーも是非読んでみてください。


 

1.後宮シリーズ

後宮詞華伝 笑わぬ花嫁の筆は謎を語りき (コバルト文庫)

後宮詞華伝 笑わぬ花嫁の筆は謎を語りき (コバルト文庫)

 

栄華を極める凱帝国を舞台にした中華後宮ファンタジー。個性豊かなヒロインたちが特技を頼りに陰謀渦巻く宮中を生き抜いていく中で描かれる様々な恋の物語が印象的な作品です。はるおかりのさんの「後宮シリーズ」は近年のコバルト文庫を考える上で外せない存在だったと思います。2015年のオレンジ文庫創刊で一部作品が移籍したのを見た時コバルト文庫の終焉もそう遠くないと感じましたが、それでも長編シリーズがめっきり少なくなっていたコバルト文庫がここまで続いていたのは、ひとえにこのシリーズが柱となっていたことも大きかったように思います。昨年11月刊行の「後宮剣華伝: 烙印の花嫁は禁城に蠢く謎を断つ」で第一部完となりましたが、第二部をどのような形で刊行するのか気になるところではあります。現在10巻まで刊行。

【出版社ページ】後宮シリーズ特集 帝国の後宮に咲き誇る中華寵愛史伝

2.珠華杏林医治伝 ~乙女の大志は未来を癒す~ (コバルト文庫)

珠華杏林医治伝 ~乙女の大志は未来を癒す~ (コバルト文庫)

珠華杏林医治伝 ~乙女の大志は未来を癒す~ (コバルト文庫)

 

 医師の父親亡きあと女性は医師免許がとれず、診療することができなかった珠里。そんな彼女のもとに皇帝の使者が現れ、皇太后の体調不良の原因を見つけるよう命じられる中華後宮物語。ヤブ医者の妻にと請われ進退窮まっていた珠里に訪れた転機。皇帝を育てるのに専念するため実の娘・公主を手放した皇太后の病の原因。公主と皇太后、そして育ての親を敬愛する皇帝の何とも複雑な関係でしたけど、それをドタバタしながらもいい感じに修復してみせた珠里の奮闘ぶりが光っていました。

【関連作品】「春華杏林医治伝 ~気鋭の乙女は史乗を刻む~

3.犬恋花伝 ―青銀の花犬は誓約を恋う― (コバルト文庫)

犬恋花伝 ―青銀の花犬は誓約を恋う― (コバルト文庫)

犬恋花伝 ―青銀の花犬は誓約を恋う― (コバルト文庫)

 

人の姿にもなれる不思議な存在・花犬と、花犬を相棒に狩猟をする花操師。過去の花犬との辛い別れが原因で現在の相棒セキとの関係がぎくしゃくしていた花操師見習いのコトナが過去の因縁に挑む物語。花操師としてはまだ未熟なコトナと大切だった花犬・ハルシを亡くした悲しみ、そのハルシを殺した赤鬼の存在。赤鬼を相手に不名誉な負傷を負ったセキの鬱屈。不器用な登場人物たちのすれ違いがもどかしかったですが、そんな彼女たちが過去を乗り越えていろいろな意味できちんと決着を付けた結末には好感を持ちました。

4.チョコレート・ダンディ ~可愛い恋人にはご用心~ (コバルト文庫)

金と身分が目当ての女たちに絶望していた公爵家嫡男オスカーが、友人のユーディに唆され、小説家志望の少女アデルを匿名で支援し堕落するかどうかという賭けに乗ってしまい、彼女に興味を持つようになってゆく物語。あしながおじさん風の物語でしたけど、贈り物攻撃にも流されない真っ直ぐなアデルに惹かれてゆくオスカーの変化が良かったですね。展開はややベタな感じもありましたけどイラストもよくマッチしていて、こういう関係がとても好みなので楽しく読めました。全3巻。

5.ブライディ家の押しかけ花婿 (コバルト文庫)

ブライディ家の押しかけ花婿 (コバルト文庫)

ブライディ家の押しかけ花婿 (コバルト文庫)

 

伯爵令嬢でありながら社交界にも出ず、魔法石の研究に没頭するマリー・ブライディ17歳。そんな彼女に酔っぱらった父が結婚相手として国の王子デューイを連れてきて、マリーに求婚する物語。苦い過去から容易には男性を信用できないマリーと、焦らずそんな彼女に寄り添うデューイ。彼とのやりとりを重ねて少しずつ変わってゆく二人の距離感や、それでも恥ずかしくてなかなか素直になれないマリーがとても良かったですね。以前の作品とも繋がりがあったりで、こういう世界観や不器用な関係は大好きなので、これからも広がってゆくことを期待します。

6.若奥様、ときどき魔法使い。 (コバルト文庫)

若奥様、ときどき魔法使い。 (コバルト文庫)

若奥様、ときどき魔法使い。 (コバルト文庫)

 

優秀な魔法使いバイオレット伯爵レンの妻ローズは落ちこぼれ魔法使い。王国は春を呼ぶ春荒れの魔女が現れず、冬の精霊があちこちで悪さを働いていて不穏な事件も起きる中、王女にローズこそが春荒れの魔女だとして拘束されてしまうファンタジー。心優しい落ちこぼれ少女・ローズと優秀だけれど無愛想なレンの運命的な出会いとドラマチックな結婚。二人の甘い関係はとても可愛らしく、春荒れの魔女としてきちんと向き合おうとしたり、自分をずっと気にかけてくれていたリナのために奔走するローズと周囲の関係もとても温かくて良かったと思いました。

7.招かれざる小夜啼鳥は死を呼ぶ花嫁 ガーランド王国秘話 (コバルト文庫)

先王の遺児として寂れた古城で穏やかな幽閉生活を送っていたエレアノール。だがある時、第二王子ダリウスの妃候補として、急遽王宮に召されることになる物語。周囲と隔絶されていた彼女を見守ってきたダリウスと、そんな環境で育ったために客観的な自己評価ができないエレアノールが巻き込まれてゆく宮廷内の陰謀。客観的に見たらなもどかしい二人のすれ違いがちな関係はベタでしたけど、王室周辺を巡る過去の因縁も絡めた複雑な愛憎劇を絡めつつ、よくあるまるっとハッピーエンドではなくほろ苦さも残るような結末に終わったのは印象に残りました。

8.ひみつの小説家の偽装結婚 恋の始まりは遺言状!? (コバルト文庫)

ひみつの小説家の偽装結婚 恋の始まりは遺言状!? (コバルト文庫)
 

没落貴族の両親から逃れるため後見人の騎士ヒースと名目上の結婚をしていた覆面小説家セシリア。だがヒースが亡くなり部下クラウスと再婚を遺言される文学少女と堅物騎士のラブロマンス。次の小説大賞を獲らなければ契約を切られる危機のセシリアと持ち込まれる婚姻が煩わしいクラウスの契約結婚。二人を手のひらの上で転がすようなヒースの遺言を効果的に使いつつエピソードを積み重ねて不器用な二人の距離感の変化を繊細に描いていく展開は、ベタでしたけどなかなか良かったですね。

9.飛べない鍵姫と解けない飛行士 その箱、開けるべからず (コバルト文庫)

天才錠前師・トマスの養女として育てられた少女・マージ。トマス亡きあと錠前店を継いだマージの元に伯爵家の若き当主・アレックスが破格の報酬で解錠依頼を持ってくるスチームパンクミステリ。複雑な事情を抱えた侯爵家の遺産相続を巡る解錠依頼。なぜか伯爵家で丁重な対応を受けて困惑するマージ。侯爵家の過去の事件の真相と明らかになる真実。物語の筋としては分かりやすいシンプルなものでしたが、ハッキリとした性格のマージや軽そうで意外と真摯なアレックスなど登場人物たちも魅力的に描かれていて、最後まで気持ちよく読めた物語でした。

10.シグザール警察特命官 まるで愛おしくない君とふたり (コバルト文庫)

上司の思惑によってエリート警察官・ジークが左遷されたのは、刑事課の雑用係として悪名高い十三区特別命令班。そこでただ一人働くイリスと組んで仕事をすることになる物語。いわくありげながらも健気で危なっかしいリリスを見て、一刻も早く出世街道に復帰しようと目論む有能なジーク。そんな状況からイリスは一緒に仕事をする喜びを知って、ジークもまた彼女の知らなかった一面を知って少しずつ感化されてゆく展開はいいですね。二人ともまだ見えていない部分でいろいろ背景を抱えていそうで、二人の関係がどうなるのかも含めて続刊に期待ですね。

11.薬草令嬢ともふもふの旦那様 (コバルト文庫)

薬草令嬢ともふもふの旦那様 (コバルト文庫)

薬草令嬢ともふもふの旦那様 (コバルト文庫)

 

月夜に狼に変身してしまう秘密を抱え、極度の恥ずかしがり屋で一見無愛想な田舎領主のレナルド。なかなか結婚相手が見つからない彼が、一縷の望みをかけて顔を出した王都の夜会でちょっと変わった貴族令嬢のメレディスと出会う物語。不器用で最初は狼の姿でしかメレディスと言葉を交わせないレナルドと、薬草に精通し田舎暮らしにも前向きなメレディス。ぎこちない二人のやりとりはもどかしくもなりましたが、彼女の危機に颯爽と立ち向かうレナルドと助けられる側に甘んじないメレディスはお似合いで、お幸せにと素直に祝える素敵なカップルでした。

【関連作品】「魔法令嬢ともふもふの美少年

 

以上です。ざっくりとした紹介になりましたが、これを読んでなおさら自分は過去のコバルト文庫の思い出に浸りたいんだよ!という方も多いと思います。以下の2冊はコバルト文庫の歴史を振り返る上でも、その後の動向を知る上でもとても参考になります。古のファンの方も懐かしい気持ちになること間違いなしなので、興味がある方は是非手に取って読んでみてください。

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

 

 雑誌コバルトの前身小説ジュニアから、WebマガジンCobaltまでの時代を追い、各時代の読者と「少女小説」の移り変わりを徹底追跡した一冊。コバルト文庫だけでなくX文庫やその他レーベルの変遷なども交えつつその歴史が語られていて、若木未生前田珠子桑原水菜あたりが活躍していた頃にがっつり影響を受けた覚えがある自分には、懐かしさとその後の推移になるほどなあという思いで興味深く読めました。書影があるともっとイメージしやすかったかもですが、それでもこれだけのボリュームをコンパクトにまとめていてとても良かったです。

コバルト文庫40年カタログ コバルト文庫創刊40年公式記録

コバルト文庫40年カタログ コバルト文庫創刊40年公式記録

コバルト文庫40年カタログ コバルト文庫創刊40年公式記録

 

 構成としては佐藤愛子インタビュー、桑原水菜×今野緒雪若木未生×須賀しのぶ、日向章一郎×みずき健の対談、コバルト文庫40年史、作家別シリーズ紹介、歴代の受賞作家、読者サービスあれこれ、コバルト文庫全リストなど。彩流社の「コバルト文庫で辿る少女小説変遷史」とはまた違った切り口のアプローチで、刊行している集英社ならではの視点もあったり、コバルト以外で今も作家さんとして作品を発表している方も結構いるんですね。若木未生桑原水菜、日向章一郎あたりの世代は一番読んでいたので、巻頭の対談は読んでいて懐かしかったです。