読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2017年上半期注目のオススメ新作一般文庫24選

というわけで 2017年上半期注目のオススメ新作第四弾ということで一般文庫編です。一般文庫もそれなりの数読んでいますが、最近キャラ文芸とライト文庫の境界が曖昧になってきていて、また青春小説も増えてきています。とりあえずそれなりに点数もあるので、便宜上一般文庫レーベルから出ているもの一般文庫として区分しました。今回は上半期に読んだ中から新作を24点選んでいます。

君に恋をするなんて、ありえないはずだった (宝島社文庫)

君に恋をするなんて、ありえないはずだった (宝島社文庫)

 
君に恋をするなんて、ありえないはずだった そして、卒業 (宝島社文庫)

君に恋をするなんて、ありえないはずだった そして、卒業 (宝島社文庫)

 

 勉強合宿の夜に困っていた同級生の北岡恵麻を助けた地味で冴えない飯島靖貴。それをきっかけに密かな交流が生まれてゆく地味系眼鏡男子と人気者ギャルのすれ違いラブストーリー。入学直後の出来事で恵麻に苦手意識を持っていた靖貴と、助けてくれた靖貴が気になってゆく恵麻。学校では知らんぷりだけれど予備校帰りのわずかな時間で育まれてゆく二人の交流。少しずつ想いが積み重なってゆくのに、繊細で不器用な二人が距離を詰め切れないうちに起きる様々なすれ違いと、ギリギリで繋がってゆく巡り合わせの妙とても切ない物語です。全2巻。

長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本 (宝島社文庫)

長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本 (宝島社文庫)

 

 長崎の女子大学に入学した東京出身の日高乙女。バイトで不採用続きの乙女がオランダ坂の外れに不思議な洋館カフェを見つけ、そこで不機嫌顔のオーナーと一緒にバイトとして働くようになる物語。東京っぽさがないとある作家の熱烈大ファンな天然の乙女と、本業が不明で雨降る夜にしか開店しない無愛想で謎めいたカフェ・オーナーの向井。長崎の美味しいものがたくさん紹介されつつ、それと少しずつ増えてゆくお客さんとのエピソードや積み重なってゆく向井への想いがとてもいい感じに組み合わさって、不器用な二人を見守りたくなる素敵な物語でした。

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

 

 自分の目の前で幼馴染・歩巳が暴漢に襲われ姿を消した事件をきっかけに、棋士を諦めたかつての天才少年棋士・香丞。高校で美貌の女流棋士として再会した彼女が再び何者かに襲われ、その事件の真相を追う将棋ミステリ。コンピューター将棋が棋士に勝つのが当たり前になった近未来が舞台。謎解きのアプローチにいくつか後出し設定もあったのは少し気になりましたが、棋士を目指すもう一人の幼馴染・桂花も交えた三角関係の機微や、コンピューター将棋の考察も絡めながらたどり着いた結末の意味にはなるほどと納得してしまいました。面白かったです。

僕は小説が書けない (角川文庫)

僕は小説が書けない (角川文庫)

 

 不幸体質や家族関係に悩む高校1年生の光太郎。先輩・七瀬の強引な勧誘で廃部寸前の文芸部に入部した彼が、部の存続をかけて部誌に小説を書くことになる青春小説。物語を書けなくなっていた光太郎が出会った七瀬先輩の容赦ない批評。プレッシャーが掛かる部誌作成という状況で、振り回すOBふたりの存在と自覚してゆく七瀬先輩への想い。知りたくもない現実を突きつけられてきた光太郎が、それでも苦悩を乗り越えてきちんと向き合ったからこそ見えた光明があって、相変わらず不器用な彼のこれからを予感させるエピローグがとても素敵な物語でした。

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

 

 二浪で中堅私大に入学するも目標を見失っていた十倉和成20歳。そんな彼のボロ下宿の天袋をセーラー服姿の少女・さちが住処としていることが判明し、庇護しようとしたことから物語も動き出す青春小説。十倉が動き出すきっかけとなったさちの出現。停滞の原因となった高校時代の親友・才条の謎の死。やや時代がかった言い回しが多かった停滞の前半はテンポが悪かったですが、そこから親友の死の謎を追い、志を受け継いで映画にのめり込んでいく怒涛の展開は読ませるものがありました。ファンタジーじみた結末も最後で救われてなかなか良かったです。

 カネなし男なし才能なしで崖っぷちな29歳のタロット占い師・柏木美月。ある日ずば抜けた推理力を持つ美少女・愛莉を助けたことをきっかけに、占いユニット「ミス・マーシュ」を結成し人々の悩みに秘められた謎に挑むミステリ。お人好しで困った人を放っておけないお節介な美月と、人と関わるのが苦手だけれど数々の謎を解いてみせるツンデレな愛莉。訪れる人々の謎を解きながら、テンポのいい二人の凸凹コンビぶりや遠慮していた距離感もだんだんいい感じになっていく過程が良かったですね。まだまだ続きも期待できそうですし続巻に期待します。

知らない記憶を聴かせてあげる。 (角川文庫)

知らない記憶を聴かせてあげる。 (角川文庫)

 

 勤務先で先輩の失敗を押しつけられて辞め、叔父が住んでた家に籠もっていた陽向。彼の元に届けられた叔父のテープを原稿起こししてもらうため、音谷反訳事務所の久呼と出会うお仕事小説。訳ありで個人宛てテープは起こさない信条の久呼に反訳のやり方を教えてもらううちに、テープの真意や反訳の奥深さを知って彼女に師事しその仕事を手伝うようになってゆく陽向。意気込みが空回りすることもありましたけど、自身も抱えているものがある久呼とは足りないところをお互い補い合えるいいコンビになりつつあって、続巻あるならまた読んでみたいです。

憧れの作家は人間じゃありませんでした (角川文庫)

憧れの作家は人間じゃありませんでした (角川文庫)

 

 【第2回角川文庫キャラクター小説大賞大賞受賞作】
紆余曲折の末に憧れの作家・御崎禅の担当となった文芸編集者2年目の瀬名あさひ。実は吸血鬼で人外の存在が起こした事件について警察に協力している御崎に原稿を書いてもらうため事件解決にも奮闘する物語。映画好きで意気投合した作家・御崎の意外な正体。最初は困惑するものの映画好きで意気投合しファンでもある御崎の事情を知ることになって、原稿を書いてもらうためにと奮闘するあさひの行動力が物語を引っ張っていた印象。読みやすい語り口でいい感じに物語を引き締めていた刑事の夏樹にも好感。もし続巻あるようならまた読んでみたいですね。

弁当屋さんのおもてなし ほかほかごはんと北海鮭かま (角川文庫)
 

 恋人に二股をかけられ傷心状態のまま北海道・札幌市へ転勤したOL千春。仕事帰りの彼女が路地裏にひっそり佇む『くま弁』を発見し、「魔法のお弁当」の作り手・ユウと出会う物語。悩みを抱えた一人のお客様のためだけに作るユウの裏メニュー。それによって救われてゆく常連客たち。北海道ならではの食材やお客さんの思い出のメニューに寄り添うユウが作り出すひとつだけのお弁当がとても美味しそうで、ユウ自身もまた自らのありようを見定めてゆく暖かな気持ちになれる物語でした。千春とユウの距離感も変化の兆しがあって続刊に期待したいですね。

屋上のテロリスト (光文社文庫)

屋上のテロリスト (光文社文庫)

 

 ポツダム宣言を受諾せず東西に分断された日本。七十数年後、高校の屋上で出会った不思議な少女・沙希からアルバイトに誘われた彰人が、彼女の壮大なテロ計画に巻き込まれてゆく物語。両親も亡くなって目的もなく死に魅入られていた彰人。彼に協力を求めた沙希が、思惑ある権力者たちをも巻き込んで邁進する真の目的。緊張が高まってゆく状況で大人たちの間を動き回り、ギリギリの駆け引きが続きながらも切り抜ける覚悟を見せた沙希と、彼女と一緒に最後まで走り抜けた彰人が最後に迎えた結末はとても素敵なものだったと思いました。面白かったです。

プラットホームの彼女 (光文社文庫)

プラットホームの彼女 (光文社文庫)

 

 転校前に親友と喧嘩してしまった少年、地味な高校生の意外な一面に心穏やかでいられない少女、事故で娘を失った傷心の母親など、様々な想いを抱える人が駅で出会う一人の少女の連作短編集。逡巡して踏み出せない決心や消化しきれない悔恨を抱える人たちの前に現れ、その背中を押したりわだかまりを解消するきっかけを与えて大切なことを思い出させてくれる少女。物語を重ねてゆくうちにその素性や背景も徐々に明らかになっていって、途中で想像していたものとは少し異なるやや意外な結末を迎えましたけど、切ないながらも心温まる素敵な物語でした。

春や春 (光文社文庫)

春や春 (光文社文庫)

 

 句雑誌で昔知っていた男の子の名前を発見し、俳句の価値を主張して国語教師と対立した茜。友人の東子にそんな顛末を話すうち俳句甲子園出場を目指すことになってゆく青春小説。個性的な初心者の新入生三人も加えつつ立ち上げた俳句同好会。顧問などの協力を得ながら俳句の基本に取り組んだり、抽象的な俳句を数値化する俳句甲子園の独特なルールに向き合ったり気になる人間関係も織り交ぜつつ、豊かな言葉を駆使しながらチームとして戦う展開はなかなか新鮮でした。有望な新入生も入学するということは続巻出るということですよね?期待してます。

 

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

 

 ある日病院で一冊の文庫本「共病文庫」を拾った高校生の僕が、それを密かに綴っていた膵臓の病気により余命がいくばくもないクラスメイト・山内桜良と出会う物語。ぼっちな僕相手にずけずけと距離を縮めてくる彼女。困惑しつつも彼女と共に過ごす時間がどんどん増えていき、その影響を受けて変わっていく僕。何とも形容し難い二人の繊細な関係と距離感のとても甘酸っぱい恋愛未満な感じが良かったです。何をもって報われたとするのか難しい結末でしたが、二人にとって出会って共に過ごした濃密な時間は、素敵なものだったんだなと改めて思えました。

嘘が見える僕は、素直な君に恋をした (双葉文庫)

嘘が見える僕は、素直な君に恋をした (双葉文庫)

 

 好きになった人の嘘が分かってしまう高校生の藤倉聖。幼い頃から大切に想う人たちの嘘に苦しめられ、距離を置くようになっていた聖が明るく素直な転校生・二葉晴夏と出会う青春小説。誰かを好きになることを渇望しつつも臆病になっていた聖。捨て猫をきっかけに知り合い、お互いの飼い猫を話題に距離を縮めてゆく晴夏。すれ違いを乗り越えてお互いが大切な存在だと自覚するがゆえの嘘がとても切なくて、どうにもならないもどかしさも感じてしまいましたが、明示されなかった結末にかけがえのない時間を共有した二人のその後を想像したくなりました。

屋上のウインドノーツ (文春文庫)

屋上のウインドノーツ (文春文庫)

 

 中学まで人生に何も期待せずに生きてきた志音。そんな彼女が屋上で吹奏楽部部長・大志と出会い、人と共に演奏する喜びを知ってゆく青春小説。人気者の幼馴染から逃げるように別の高校を受験した志音が屋上で出会った先輩とドラム。そして不器用な志音を見守ってくれる仲間たち。登場人物たちそれぞれが立場は違えど抱えている葛藤があって、頑張ったからといって必ずしも目指しているものに手が届くわけではないあたりがわりとほろ苦かったりもしますが、それを踏み越えてチャレンジしたり、関係を再構築してゆく姿がとても爽やかな物語です。

 スクールカースト保健室登校…学校生活に息苦しさを感じる女子中学生たちの揺れ動く心を綴った連作短編集。短編の主人公は自分の居場所を見いだせない女の子たち。時が経てば分かることも、今見えている世界だけではなかなか分からないんですよね。誰もが不安を抱えていて閉塞感のある世界は些細なきっかけで変わる。周囲のストレートな悪意に葛藤しながらも向き合い変わっていこうとする少女たちを描いた物語は、雨上がりのようなこれから良くなる期待を予感させる読後感でした。スカートの長さとカーストを対比させてみせる視点もまた秀逸です。

君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

 

 東京藝術大剣道部に事情があって三年生になってから入部してきた唯。それを指導することになった主将の壮介と、剣道部員たちが織りなす青春群像劇。複雑な家庭の事情を抱えながらも、画廊への契約条件として提示された初段を取ることを承諾した唯。割り切った唯の言動に戸惑い心配する一方で、憧れの部員・綾佳への想いにも揺れる壮介。そろそろ進路を意識せざるをえない部員たちが突きつけられる才能とそれに向き合う覚悟はシビアで、各々が直面する状況もまたほろ苦かったですが、それでも変わらない想いが垣間見える結末はとても心に響きました。

(P[こ]4-6)あざみ野高校女子送球部! (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[こ]4-6)あざみ野高校女子送球部! (ポプラ文庫ピュアフル)

 

 中学時代バスケ部での苦い経験から、もう二度とチーム競技はやらないと心に誓っていた端野凛。つい本気で臨んだ体力測定の記録からハンドボール部顧問成瀬にスカウトされる青春スポーツ小説。典型的なストイックアスリートの凛と凄まじいポテンシャルを持ちながら運動素人の智里。どんなにやられても凹まない絶望しない凛には苦笑いでしたが、好対照な二人を軸として、勝つために自らを追い込んでゆくハンドボール部のメンバーたちそれぞれの想いや葛藤も熱くて、スポーツ小説としてなかなか読み応えがありました。続編あるなら是非読みたいですね。

あした世界が、 (小学館文庫)

あした世界が、 (小学館文庫)

 

 楽会社に勤める吉山朗美と、社長に契約解除され怒り狂う同級生のスーパースター・絹川空哉。十年前の高校時代にタイムスリップした朗美が当時の心残りをやり直す物語。極度のあがり症を抱える冴えない女子高生だった朗美。空哉と蓮に急接近していく一方で、すれ違い続けていた父との関係。無難に生きるしかなかった高校時代の人間関係も十年後の自分には大したことには思えなくて、だからといってままならないこともたくさんあって。それでも逃げずに困難に向き合った朗美の決断が、当時も今も変えてゆく結末は清々しい読後感で面白かったです。

京都西陣なごみ植物店 (PHP文芸文庫)

京都西陣なごみ植物店 (PHP文芸文庫)

 

 ある母娘から質問を受けて戸惑う京都府立植物園の新米職員の神苗健。そんな彼を救った「植物探偵」を名乗るなごみ植物店の店員・実菜と植物にまつわる様々な謎を解いてゆく連作ミステリ。著者さんらしい情緒ある京都の風物詩を絡めつつ、植物絡みの謎に挑む探究心旺盛でちょっと変わった実菜と、彼女から探偵助手に任命された神苗の二人はお互いを補い合うなかなかいいコンビっぷりで、彼らの奔走ですれ違いかけた人の想いが繋がったり、周囲も温かく見守る二人の距離感も今後が気になったりで、続編を期待したい作品ですね。

 様々な事情で集まってきたはみ出し者のメンバーたちが、ど田舎のスーパーなどで働きながら、一緒にクラブチームの野球で社会人全国制覇を目指す物語。かつての過去の栄光だったり、自分の夢と家族との間の葛藤だったり、なかなかうまく行かずに拗らせてしまっている想いにどう向き合って、難しい環境の中でも好きなことをやり抜くのか。社会人野球を扱ったという点でも興味深く、分かりやすくプロを目指すことだけが野球をやる理由ではなくて、不器用にぶつかり合いながらチームとして一つにまとまってゆく彼らの奮闘は心に響くものがありました。

すしそばてんぷら (ハルキ文庫)

すしそばてんぷら (ハルキ文庫)

 

 早朝のテレビ番組でお天気お姉さんをしている寿々が、事務所の発案で江戸まちめぐりのブログを開設することになり「江戸の味」を求めて歩き回る物語。小学生時代を過ごした下町で祖母とのんびりふたり暮らしをしている寿々。長く付き合ってきた人に婚約を破棄されたりでどこか元気のなかった彼女が、ブログ開設を機に新しい仕事が増えたり、iPadを駆使して検索するおばあちゃんや幼馴染と美味しい江戸の味に挑戦したりと、優しく人情味のある展開はとても良かったです。あまり進展しなさそうな幼馴染との関係含めて続編に期待ですね。

 企業の容易には解決できない表沙汰にできない危機的なセキュリティ問題。解決を依頼された82歳のセキュリティ・コンサルタント吹鳴寺籐子が、社内のネットワークを走査する連作ミステリ。個人情報漏洩や企業内情報漏洩、偽ウィルスソフト詐欺やCOBOLレガシーシステムといった昨今よくあるトラブルをテーマに、犯罪者たちのセキュリティの意外な穴を突いてくる手法や、それを合法非合法な手段で追い詰めてゆく籐子の攻防は意外な展開で面白かったです。まあ確かに企業は問題起きたからといって何でも公表してるわけではないですよね(遠い目)

 

 以上です。一連の更新はいったんこれで一区切りになります。

読んでみたい本を探すのに参考になれば幸いです。

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