読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2017年のおすすめ本40冊

読書メーターの方で2017年おすすめランキングを作成したので、ついでに紹介文付きのリストも作成してみました。2017年はマンガも相当数あるとはいえ読了1000冊超えているので絞り込むには相当難儀しましたが、自分がいいなと思った新作から40冊選んでいます。


なお今年は当エントリが最後になります。忙しいこともあってどうしても更新頻度はあれですが、それでも当ブログを訪れてくださった皆さんありがとうございました。また来年もたくさんの本を読んで紹介していければいいなと思っています。よろしくお願いします。

86―エイティシックス― (電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

 帝国の無人兵器レギオンによる侵略を受け、有色人種を差別し戦わせてしのいでいた共和国。そんな若者たちを率いる少年・シンと、後方から彼らの指揮を執るハンドラーとなった少女・レーナが出会う物語。人権を認められない有人の無人機として戦い続ける「エイティシックス」の若者たち。現状に疑問を持つもののその過酷さを本当の意味では分かっていなかったレーナ。次々と仲間が死んでゆく厳しい状況で彼らに突きつけられる指令には絶望的な気持ちになりましたが、因縁にもきちんと決着を付け迎えた意外な結末はとても良かったですね。現在3巻まで刊行。 

契約結婚はじめました。 ~椿屋敷の偽夫婦~ (集英社オレンジ文庫)

契約結婚はじめました。 ~椿屋敷の偽夫婦~ (集英社オレンジ文庫)

 

 椿屋敷で若くして隠居暮らしの柊一と契約結婚した香澄。町の相談役・柊一の元に近所から相談が持ち込まれるわけありな人々の物語。築六十年の椿屋敷という珍しい視点から綴られる穏やかで物事がよく見えるのになぜか人の機微には少し疎い柊一と、よく働き一緒に過ごすうちに柊一のことが気になってゆく可愛い香澄の関係。二人の穏やかな日常が周囲の関与により詮索しないはずの過去に触れ少しずつ変わってゆく展開は、二人が本当の夫婦に近づいてゆく過程をいろいろと楽しめそうですね。周りのキャラも魅力的でこれは続巻に期待大の新シリーズです。現在2巻まで刊行。

Just Because! (メディアワークス文庫)

Just Because! (メディアワークス文庫)

 

 高校三年の冬、残りわずかとなった高校生活。このまま何となく卒業していくのだと誰もが思っていた中、突然中学の頃に親の転勤で引っ越した瑛太が戻ってきて、少しずつ関係が変わってゆくTVアニメ原作小説。瑛太がかつて淡い恋心を抱いていた美緒、美緒が想いを寄せていた親友・陽斗との再会。陽斗の葉月への想いや、写真部存続のために奔走する恵那の思いも絡めて展開されてゆくこの青春群像劇は、止まったままだった過去の想いにきちんと向き合う物語でもあって、ひたむきで不器用なもどかしい想いを応援したくなるとても素敵な青春小説でした。

賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない (電撃文庫)

 

 十八世紀末ロンドン。うっかり大金を得た賭博師ラザルスが仕方なく購入させられたのは、喉を焼かれて声を失った奴隷の少女・リーラ。不器用な二人が戸惑いながらも心通わせてゆく物語。師の教え通り勝たない賭博師としてこれまで生きてきたラザルスの失敗。放り出すわけにもいかず感情に乏しいリーラを教育しながら一緒に生活するようになる日々。徐々に打ち解けてゆく二人の拙い関係の変化が繊細な積み重ねで描写されていて、強奪されたリーラを奪還するため冷静に計算して最後まで完遂してみせたラザルスのありようがとても見事でした。3巻目が2018年1月に刊行予定。
君に恋をするなんて、ありえないはずだった

幼いころに出会ったハーフの女の子ユーリヤ。僕をスプートニクと呼ぶ彼女と月を見上げて宇宙飛行士に憧れた夢。そんな二人の成長を描く物語。どんどん成長するスプートニクと生まれつき身体が弱い彼女とのすれ違い。遠く離れ夢に向けて突き進むユーリヤとの再会と、焦燥を覚えつつ遅ればせながら夢を追いかけることを決意したスプートニクの思い。彼女との距離がどんどん遠くなっていっても、お互いかけがえのない存在であることは変わりなくて、素直になれない彼女にきちんと向き合ったスプートニクの覚悟には本当にぐっと来るものがありました。

僕が恋したカフカな彼女 (富士見L文庫)

僕が恋したカフカな彼女 (富士見L文庫)

 

気になる架能風香から誤字脱字だらけの恋文に散々なダメ出しを食らった深海楓が、彼女にふさわしい男になるべく小説家を志すボーイ・ミーツ・ガールミステリ。普段からヘルメットを着用し敬愛するカフカになれと告げる風香と、女好きだった過去を封印する偽装天然な楓。カフカの作品になぞらえた身近な謎を二人で解決するうちに少しずつ変化する距離感と、彼女を本当に好きになっていく楓の想い、彼に対して秘密を抱える風香の逡巡といった心情描写がなかなか良かったです。このレーベルらしい一風変わった、けれどとても自分好みな青春小説でした。

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)

 

人間関係に焦燥を募らせる優等生香衣。サッカー部のエースで香衣が気になる隆生。香衣に一目惚れした不良・龍輝。付かず離れずの距離で香衣の友人を演じるセリカ。それぞれの視点から綴られる出会いと別れの物語。中学時代一緒に勉強して同じ高校に合格したのに、いつの間にか距離ができてしまった香衣と隆生。その関係を起点に描かれてゆく読んでいる方がもどかしくなるような青春群像劇は、前作とはまたガラリと違う読みやすさと繊細さが感じられて、こういう作品も書けるのかとビックリしました。こういう王道の青春小説をまた読んでみたいです。

どこよりも遠い場所にいる君へ (集英社オレンジ文庫)

どこよりも遠い場所にいる君へ (集英社オレンジ文庫)

 

訳ありの過去もあり友人の幹也と采岐島のシマ高に進学した月ヶ瀬和希。そんな彼が初夏に神隠しの入江で倒れていた少女・七緒を発見するボーイミーツガール青春小説。過去からやって来た七緒と少しずつやりとりを重ねてゆく日々。何気なく過ごせていた高校生活の突然の暗転。明かされる過去の真相と、変わらず向き合ってくれる友人たちの存在、そして覚悟を決めた七緒。甘酸っぱく初々しかった出会いの結末には切なくなりましたけど、繋がって行く過去と未来、そして意外な形で届けられた真摯な思いは、かけがえのないとても素敵なものに思えました。

彼女の色に届くまで

彼女の色に届くまで

 

画廊の息子で幼い頃から才能を過信し画家を目指している緑川礼。しかしいつの間にか冴えない高校生活を送っていた礼が、無口で謎めいた同学年の美少女・千坂桜と出会うアートミステリ。礼が衝撃を受けた原石のような彼女の絵の才能。その推理で礼の窮地を救ってみせる桜の意外な一面と、共に過ごすようになってゆく日々。圧倒的な才能を前に平凡な自分を突きつけられる葛藤と少しの打算、生活力皆無な桜が気になって飼育係として世話を焼いてしまう礼の複雑な想いが悩ましいですが、それでも不器用な二人らしいとても素敵な結末でした。

山中にある屋敷の座敷牢で出会った少女ツナ。怖い話を聞かせることを条件に週一回会うことを許されたミミズクが十年目に転機を迎える物語。育ての親や友人にもツナのことを隠し続けてきたミミズクこと瑞樹。かつて投稿した怪談記事が縁で多津音一と出会ったことにより徐々に明かされてゆくツナを巡るからくり。丁寧で繊細なことばによって恐怖が描かれる一方で、瑞樹がきちんと向き合ったことで明らかになった真実は思わぬ奇跡にも繋がっていて、どうにか折り合いをつけて迎えたその結末は、これまでの想いが報われたとても素敵なものに思えました。

 いなり寿司しか食べられない呪いを祓うため神々の住む島・白結木島を訪れた高校生春秋。そんな彼が神様との縁を切ることで怪異を祓う花人の後継者の少女・空と出会い、怪異解決に挑む沖縄青春ファンタジー。天真爛漫でどこまでもフリーダムだけれど島想いな空たちに翻弄されながら、徐々に変わってゆく春秋の心境。師匠を亡くし未熟を自覚しつつも、事情を知って春秋のために呪いを解こうとする空の決意。のびやかな舞台で繰り広げられる物語の結末はちょっぴり切なくて、けれどそれを乗り越える爽快な読後感は著者さんらしい魅力に溢れていました。

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

 

 期待もない新学年のホームルーム。高校生・細野亮の前に愛してやまない物語の中にいた「トキコ」そのままの少女・柊時子が現れる出会うはずがなかった読者と主人公の物語。見れば見るほどそのままの時子との出会い。一緒に過ごしてゆくうちに想いが少しずつ積もってゆく一方で、自分の中で湧き上がってくる違和感。主人公の周辺を切り取ったようなクローズな世界観で、あまりにも不器用な二人の距離感にもどかしくもなりましたが、物語をきっかけに知り合った二人が物語で心を通わせて、これからの二人の世界の広がりを予感させる素敵な物語でした。

佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 1 (ファミ通文庫)

佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 1 (ファミ通文庫)

 

高校二年生の春、ひとり暮らしを始めるはずだった弓月恭嗣が、不動産屋の手違いでひとつ年下の帰国子女・佐伯貴理華と同居するはめになってしまう物語。無防備な距離感で接してきて家の中と外とでは印象が違う佐伯さんと、苦い過去を持つがゆえに家の外では一定の距離を置こうとささやかな抵抗を続ける弓月くん。表情豊かでキャラとしてもよく動いている佐伯さんとの同居生活が弓月くんを少しずつ変えていって、その変化がクールな弓月くんの元カノ宝龍さんや周囲の友人たちにもまた影響を及ぼしてゆく展開はとても良かったです。2018年2月に4巻目が刊行予定。

ぬばたまおろち、しらたまおろち (創元推理文庫)

ぬばたまおろち、しらたまおろち (創元推理文庫)

 

 両親を亡くし角田村で叔父夫婦に育てられた綾乃。小さい頃からの秘密の親友・大蛇のアロウにプロポーズされた彼女が、別の大蛇に襲われる事件を経て母校ディアーヌ学園で学ぶことになるファンタジー。妖魅子女も通うディアーヌ学園で楽しい友人たちと出会い魔女の修行をする日々。そこから繋がる雪之丞との縁と過去の因縁もまた明らかになってゆく展開で、アロウとの約束に心揺れる綾乃と共に過ごすうちに絆を深めてゆく雪之丞が過去に飛んで、そこで果たした役割が現在に繋がってゆくその結末にはなるほどと唸らされた、とても素敵な物語でした。

モノクローム・サイダー あの日の君とレトロゲームへ

モノクローム・サイダー あの日の君とレトロゲームへ

 

 高校最後の夏を迎えた平凡なゲームオタクの高校生・百式長之介が、昼休みの屋上でゲームをしている女の子・鯨武由美と出会い人生が動き出す自伝的小説。最初は彼女の前を通るくらいで精一杯だった彼が、勇気を出して声を掛けたことで始まった一緒にゲームをするようになる日々。なかなか思うようにいかないことばかりでしたけど、不器用でも諦めずにきちんと向き合おうと奮闘する百式くんと、共に過ごす日々を送るようになった鯨武さんが二人らしい形で積み重ねてきた関係がとても素敵だと思いました。続編もまた書籍で読めること期待しています。

しがないゲームディレクターで会社は倒産、企画も頓挫して実家に帰ることになった橋場恭也。輝かしいクリエイターの活躍を横目にふて寝して目覚めると、なぜか十年前の大学入学時に巻き戻っていた青春リメイクストーリー。落ちたはずの大学に受かっていて憧れの芸大ライフ、さらにはシェアハウスで男女四人の共同生活。とはいえ同居人はそれぞれキラリと光るものを持っているのが垣間見えてしまう厳しい現実。今回はこれまでの経験を活かして存在感を出せましたけど、まだまだ試される状況は続きそうで、気になる人間模様も含めて続巻が楽しみなシリーズですね。現在3巻まで刊行。

緋色の玉座 (角川スニーカー文庫)

緋色の玉座 (角川スニーカー文庫)

 

 かつての栄光を失い虚栄と退廃に堕ちた東ローマ帝国。国の危機を憂う生真面目な騎士ベリスが、型破りな書記官プロックスと運命的な出会いを果たす戦記ファンタジー。ブロックスとの邂逅によって窮地を脱し、次期皇帝と目されるユスティンの元で頭角を現してゆくベリス。シリアスな展開続きでも脇を固めるキャラたちがよく動いて、その力が高く評価されることになったベリスとブロックスが、一方で皇妃となったテオドラと相容れない確執もあったりで面白かったです。それがいろいろな形で影響しそうな複雑な関係も絡めた今後の展開に期待大ですね。現在2巻まで刊行。

スクールジャック=ガンスモーク (ガガガ文庫)

スクールジャック=ガンスモーク (ガガガ文庫)

 

戦勝国・葦原皇国に創設された新兵器・機巧外骨格のパイロット育成学校。そこで戦時中の遺恨からテロが発生し、運命的な因果に絡め取られた二人の手に人質たちの命運が託される物語。戦時中の虐殺という事実無根の糾弾から貶められ爆発した元情報部。かつて情報部に助けられたヤンキー風のウブなヒロイン・連理と、整備士として学園を訪れた元情報部の凛児が力を合わせその阻止に動く展開は、いくつもの悲しい因縁にAIやロボットも絡めたギリギリの緊張感があって、何よりその結末が自分好みでとてもいいですね。もっと早く読めば良かったです。

犬神筋に生まれながらも霊力の低い白瀬さんの側にいる、白いしっぽだけしか見えない白い犬神・雪尾。そんな彼女と雪尾、不思議なものが見える高階くんの日常を描いたショートストーリー集。雪尾に救ってもらったことがある年下の高階くんと、図書館で働く白瀬さんの白い犬神を通じた出会い。高階くんもそういう筋の人なのかな?気になってはいてもお友達の域を出ないもどかしい距離感があって、白瀬さんの初恋相手や姉妹との邂逅もあったりで、そんな二人の想いと犬神とのささやかなやりとりが素敵な物語でした。続巻出たらまた読んでみたいですね。

豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい (ファンタジア文庫)

豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい (ファンタジア文庫)

 

大人気アニメの嫌われ豚公爵に転生した主人公が、身分を秘した亡国の王女で今は自分の従者・シャーロットに告白するため、熟知するバットエンドを回避するべく奮闘する物語。才能に溢れて将来を嘱望された存在だったはずの豚公爵が、それを投げ捨ててしまった密かな理由。どこか悪徳令嬢ものっぽい雰囲気がある展開でしたが、落ちぶれていた豚公爵の決意とひたむきな想いは素直に応援したいと思えましたし、その評価を覆す奮闘ぶりはとても良かったですね。途中からやや物語に置いて行かれた感もあったメインヒロインでしたけど盛り返しに期待のシリーズです。現在4巻まで刊行。

 吸血鬼ハンターの顔も持つ池袋の横町で小さなバーを営む神谷誠一郎。ある夜、彼のもとに世界で唯一の自称生まれつきの吸血鬼綾瀬真が訪ねてくる物語。吸血鬼になってしまった妹を追う誠一郎。かつての恋人・綾瀬泉の娘をかくまうことにした彼と、自らの目で見極めた誠一郎を信頼し押しかけ女房気取りで振る舞う真。可憐でしたたかな真が見せる可愛らしいギャップと、ストイックでルーチンを大事にしていたはずなのにいつの間にかそれを受け入れ始めている誠一郎の距離感が素敵で、複雑に絡み合う因縁が何をもたらすのか、続巻がとても楽しみですね。

天盆 (中公文庫)

天盆 (中公文庫)

 

小国「蓋」を動かすのは、国民的盤戯「天盆」を勝ち抜いた者。 貧しい13人兄弟の末っ子・凡天は10歳ながらも天盆にのめり込んでいき、異様な強さで難敵を倒していくファンタジー。将棋のような天盆が軸に据えられた世界観で、のめり込んでいく凡天が行く先々で引き起こす事件と、権力者に睨まれて少しずつ追い詰められてゆくその家族。困難に際しての様々な葛藤はあっても血の繋がらない父母や兄弟たちとの揺るぎない絆は確かにあって、頂点を目指す天盆を巡る戦いはどんどん熱くなっていって、劣勢を覆し上り詰めてゆく戦いぶりは痛快でした。

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

 

五年前にベンチャー企業社長である母を亡くした平浦一慶。残されたトランスジェンダーの姉、オタクで引き籠りの妹、コミュ障でフリーターの父とともに過ごす日々が描かれる青春小説。何でも自分でできてしまうがゆえに高校にもろくに通わず、アプリ開発に精を出す日々を送る一慶。過去の苦い経験から周囲に無関心でしたけど、誤解されて窮地に陥った時でも彼のことを気にかけてくれる人たちがいて、不器用な交流の中にもたくさん気づけたことがあって、彼だけでなく周囲もまたその影響を受けて成長してゆく展開は、とても心に響くものがありました。

応えろ生きてる星 (文春文庫)

応えろ生きてる星 (文春文庫)

 

 結婚直前の廉次の前に現れて突然のキスと謎の予言を残して消えた女。直後に婚約者に目の前で別の男と駆け落ちをされた廉次が、再会した女・朔と婚約者を取り戻すために奔走する物語。新婚旅行に行くはずだった二週間、謎多い朔と一緒に婚約者に見せつけるかのようにデートを満喫するフリをする廉次。彼女のことが気になり始めた頃にうっかり知ってしまうその背景。劇的な展開と爆発的な行動力が物語を動かし、因果応報をしっかり忘れないあたりに著者さんらしさがよく出ていましたが、ほろ苦くも未来を予感させる結末はとても良かったと思いました。

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

 

 想いを寄せていた少女・襟仁遥人と共に屋上から落下し死んでしまったらしい神田幸久。二年後地縛霊として目覚めた彼はクラスでいじめに遭う穂積美咲に存在を気づかれ彼女と友達になる青春小説。自分の存在に気づいてくれた少女・美咲の優しい一面を知って現状を変えようとアドバイスをし、美咲が勇気を持って踏み出した一歩から少しずつつ変わってゆくその境遇。繊細な描写を積み重ねて作り上げられた伏線を回収してゆくことで意外な事実も明らかになっていって、爽やかで納得感のある結末まで組み上げたその構成力は今後に期待の作家さんですね。

妻を殺してもバレない確率 (宝島社文庫)

妻を殺してもバレない確率 (宝島社文庫)

 

未来に起こる確率を調べる技術が確立した世界。自らが抱える苦しい思いをどうにかしたくて、確率をつい確認し続けてしまう人たちの物語を描く連作短編集。政略結婚や大怪我、路面電車での出会い、届かぬ思いや父と娘の関係、忘れられない運命の出会いなど、停滞する状況を抱える登場人物たち。それでも人との関わりの積み重ねから事態や心境も少しずつ変化して、それに向き合ったり素直になったり次に向けた一歩を踏み出してゆく7つのエピソードは、表題作でもあるタイトルイメージをいい意味で裏切る思いのほか爽やかな読後感の素敵な物語でした。

崩れる脳を抱きしめて

崩れる脳を抱きしめて

 

広島から神奈川の病院に実習に来て、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会い次第に心を通わせてゆく研修医の碓氷。実習を終え広島に帰った彼の元にユカリの死の知らせが届くが、その死に疑問を抱く青春ミステリ。過去に縛られていた碓氷が、解消してくれたユカリに惹かれるも果たせず終わった結末。その死に感じた違和感をそのままにできず、神奈川に飛びユカリの足跡を追う碓氷。ミステリとしての構図はさほど意外なものではなかったですけれど、読みやすくテンポよく進む展開と最後にたどり着いた結末は、その真摯な想いが報われた素敵な読後感でした。

群青の竜騎士 1 (ヒーロー文庫)

群青の竜騎士 1 (ヒーロー文庫)

 

 科学とファンタジーが混じり合う世界。テルミア空軍第一航空隊の結城文洋が交戦中に邂逅した少女・レオナ。策謀に巻き込まれた異国の少女を若き飛行士たちが救う航空戦記。母国に残されたレオナの弟を救出するため密かに協力を惜しまないフミや男たちはカッコよくて、機を逃さずしっかり妻の座に収まったエルフで大家のローラを軸に、養女となったレオナやダークエルフで戦場では相棒のラディアといったヒロインたちもまた魅力的で、絶妙な世界観を舞台に繰り広げられる躍動感のある展開もとても良かったです。これは続巻も期待の新シリーズですね。

青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中 (電撃文庫)

青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中 (電撃文庫)

 

ARの技術が進化したアキバ特区でオタクの歩夢が偶然出くわしたスクールカースト最上位の同級生衣更着アマタ。歩夢がアマタに近づいた時、特区のAR空間に重篤な異変が発生してしまう青春小説。特区のバグ解消のためもあってオタショップバイト仲間の腹黒ロリっ子瑠璃や金髪コスプレ女ノエルの悩みに一緒に向き合ってゆく歩夢に突きつけられた、アマタの意外な正体と自身の過去の苦い思い出。失敗を悔いていたからこそ今があって、特区や歩夢に救われた人たちがいて、悩める不器用な登場人物たちの成長とほのかな想いを応援したくなる物語でした。

絶対彼女作らせるガール! (MF文庫J)

絶対彼女作らせるガール! (MF文庫J)

 

 目立たず冴えない自称幽霊の大地は、憧れの生徒会長・獅子神玲花の雑務を手伝うために生徒会室に通う日々。ある日偶然必勝の女神・白星絵馬の秘密に触れ、絵馬が大地の恋愛を全力応援し始める青春ラブコメ。絵馬に巻き込まれた彼女の友人・猪熊みりあと鷹見エレナに指導を受けて始まる大地のモテ改革。天然で暴走気味の絵馬が抱える秘密と、知ってしまった玲花の想い。いかにもありそうな揺れる心情を繊細に描きつつ、テンポが良く進む展開はぐいぐい読ませるパワーもあって、なかなか面白いラブコメになってきたと思いました。これは続巻に期待。

恋虫 (角川文庫)

恋虫 (角川文庫)

 

 政府が結婚相手を決めて、恋をした人は「恋虫」に感染したとして他者の感染を防ぐために駆除される世界。念願の『恋虫駆除隊』に入隊した四ノ宮美季が、救世主と呼ばれる上官・冬野花火と出会う物語。同期の首席で誰よりも恋という病に熟知しているはずの四ノ宮が直面する駆除の現実と苦悩する想い。感染した花火の兄・雪尋と婚約者・千春、二人に関わった花火それぞれのエピソード。こんな時代に美しくも儚い恋に向き合った彼らの真っ直ぐな想いにはじわじわと来るものがあって、諦めない孤独な花火が四ノ宮と巡り会えた幸運に救われる思いでした。

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

 

 自分の目の前で幼馴染・歩巳が暴漢に襲われ姿を消した事件をきっかけに、棋士を諦めたかつての天才少年棋士・香丞。高校で美貌の女流棋士として再会した彼女が再び何者かに襲われ、その事件の真相を追う将棋ミステリ。コンピューター将棋が棋士に勝つのが当たり前になった近未来が舞台。謎解きのアプローチにいくつか後出し設定もあったのは少し気になりましたが、棋士を目指すもう一人の幼馴染・桂花も交えた三角関係の機微や、コンピューター将棋の考察も絡めながらたどり着いた結末の意味にはなるほどと納得してしまいました。面白かったです。

僕は小説が書けない (角川文庫)

僕は小説が書けない (角川文庫)

 

 不幸体質や家族関係に悩む高校1年生の光太郎。先輩・七瀬の強引な勧誘で廃部寸前の文芸部に入部した彼が、部の存続をかけて部誌に小説を書くことになる青春小説。物語を書けなくなっていた光太郎が出会った七瀬先輩の容赦ない批評。プレッシャーが掛かる部誌作成という状況で、振り回すOBふたりの存在と自覚してゆく七瀬先輩への想い。知りたくもない現実を突きつけられてきた光太郎が、それでも苦悩を乗り越えてきちんと向き合ったからこそ見えた光明があって、相変わらず不器用な彼のこれからを予感させるエピローグがとても素敵な物語でした。

ニセモノだけど恋だった (宝島社文庫)

ニセモノだけど恋だった (宝島社文庫)

 

 俳優だった夢を諦めてレンタル彼氏として働いているカオル。そんな彼が高額な料金にもかかわらず職業を偽って予約を入れ続けるエイコと出会う物語。エイコが職業を偽ってお金を払いデートをする理由。偶然エイコの似たような境遇を知り複雑な想いを抱くカオル。夢を追いかけ続けるべきか現実を思い求めるか、分岐点で心揺れる二人が疑似恋愛のデートを重ねるからこそ育まれ、複雑になってゆくそれぞれの想いにはもどかしくなりましたが、不器用な二人が出会ったことで切り開かれた未来に明るい予感をつい期待したくなる不毛で素敵な恋の物語でした。

イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

 

 念願かなって神保町の小出版社にインターンとして採用された満島絢子。しかし、当のイシマル書房は親会社から最後通告を受ける―会社存続の危機で、起死回生のベストセラー誕生を目指す出版小説。今年の目標「生き延びる」がリアルで、不器用だけど情熱ある石丸社長が命運を託したのは引退していた文芸編集者と理由あり作家。絢子はもとより元ヤンキーの営業マン、活版職人の絢子の祖父、全国の書店員などにも協力を仰いでの総力を挙げた奮闘ぶりやそれぞれの想いはとても熱く心揺さぶるものがあって、最後には少しばかりうるっと来てしまいました。

やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女 (講談社タイガ)

やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女 (講談社タイガ)

 

 危篤に陥ったおじいちゃんが肌身離さず持っていた写真の謎。雨女の五雨がその謎を解くために、雨の日にだけ登校する不思議な雨月先輩に相談を持ちかける雨の物語。おじいちゃんの写真や七夕の催涙雨といった雨に関する謎を、どこか複雑な気持ちで雨月先輩の下に持ち込む五雨。雨に関する無駄に詳しい知識を活かして優しい解決に導いてゆく雨月先輩の謎は深まるばかりで、五雨がその謎を追うことでたどり着いた真相は切なくもありましたが、それでも相変わらずなように見えて何かが変わったようにも思える二人の今後をまた読んでみたいと思いました。

ひきこもりの弟だった (メディアワークス文庫)

ひきこもりの弟だった (メディアワークス文庫)

 

 突然見知らぬ女性に三つの質問を問いかけられた雪の日。誰も好いたことがない掛橋啓太が問いかけた大野千草と夫婦になり、平穏な彼女との生活の中で過ぎ去った過去の日々を追憶させてゆく物語。お互いの過去を知らないまま三つの質問という契約によって夫婦になった二人。引きこもりの兄と共依存関係にあった母との辛い過去。徐々に惹かれ合っているのを自覚するがゆえに、じわじわと重くのしかかってゆく三つ目の質問。それぞれが抱える壮絶な過去も二人でなら乗り越えられると思えただけに、淡々と綴られたその不器用な結末には衝撃を受けました。

他に好きな人がいるから

他に好きな人がいるから

 

 寂れてゆく造船の田舎町。目立たないように鬱屈を抱えながら生きている高校生・坂井が、夜のマンション屋上で危険な自撮りを投稿し続ける白兎のマスクを被った少女と出会う青春恋愛ミステリ。苦い過去に縛られる少年と兎人間の秘密の共犯関係。クラスで浮いている少女・峰に巻き込まれてゆく学校生活と、彼女が意識する優等生の少女・鈴木。どこか危うさを感じさせる日々が続いた末に起きた事件とその真相は衝撃的で、いつまでも忘れられない坂井がこれからどうするのか、読み終わるとタイトルの意味がじわじわと効いてくる印象的な物語でした。

モノクロの君に恋をする (新潮文庫nex)

モノクロの君に恋をする (新潮文庫nex)

 

 浪人覚悟で受験した大学に合格した小川卓巳が、加入した奇人変人揃いの漫画サークルで運命的な出会いを果たした新入生・天原と再会する青春小説。将来もマンガに関わっていきたいと考える卓巳が出会った漫画家を目指す訳ありな先輩たち。彼らが作り出す濃い空間にどんどん溶け込んでゆく天原と卓巳。触発されてマンガを書き始めたり天原と二人で出かけたり、いい雰囲気になりかけたのに全てがぶち壊される急展開にはぐいぐい読ませるものがあって、追いかけたはずなのになぜか追い込まれた卓巳が本音をぶちまける熱い展開はとても面白かったです。