読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2019年3月に読んだ新作おすすめ本

新作と題しながら、もはや発売月のうちに読めている割合がだんだん少なくなってきているぐだぐだっぷりですが、かといって後回しにしても読みたい本が減るわけでもなく、積んだまま読まなく…ではなく読めなくなるのが目に見えているので、積読をこれ以上増やさないために追っかけで準新刊を消化しているという状態がもはや恒常化しつつあります(白目

 

とりあえず3月のラノベの新作では何と言っても「あの日、神様に願ったことは」(電撃文庫)ですね。今後に期待の新シリーズです。あとは少女小説ですがまだ序章の序章といった感はあるものの、今後の関係の変化が気になる「女王の化粧師」 (ビーズログ文庫)、ライト文芸では「ことのはロジック」(講談社タイガ)と似鳥航一さんの対になる物語「あの日の君に恋をした、そして」「そして、その日まで君を愛する」 (メディアワークス文庫)あたりですか。

 

一般文庫はドラマ化「わたし、定時で帰ります。」(新潮文庫)、藤まるさんの「さとり世代の魔法使い」(双葉文庫)、柊サナカさんの「人生写真館の奇跡」(宝島社文庫)あたりですかね。単行本は「本と鍵の季節」あたりは安心安定のハイクオリティですが、印象に残ったという意味では一本木透さんの東京創元社「だから殺せなかった」、額賀澪さんの「イシイカナコが笑うなら」も押さえておきたい一冊ではあります。

 

あの日、神様に願ったことはI kiss of the orange prince (電撃文庫)

あの日、神様に願ったことはI kiss of the orange prince (電撃文庫)

 

 一年に一度、願いが叶う宿星市に住む風祭叶羽が、十七歳の誕生日に出会った先輩・逢見燈華。願いを叶えるために星の幸魂の試練を課された燈華と、姉を喪い傷心を抱える叶羽の優しくて少し痛い奇跡の青春小説。病床にあった姉との悔いの残る別れから、写真を撮ることを止めてしまった叶羽が、人知れず試練を抱えていた燈華と出会い、振り回されながらも惹かれていく展開で、登場人物たちの不器用で甘酸っぱい想い、そして絶望を救おうと奔走する真摯で一途な想いがもたらした奇跡はとても素晴らしかったです。続巻も気になる期待の新シリーズですね。

君がいた美しい世界と、君のいない美しい世界のこと (電撃文庫)

君がいた美しい世界と、君のいない美しい世界のこと (電撃文庫)

 

高校を卒業直前に恋人の三日月緋花里を病で亡くした日野夕斗。失意に沈む彼のもとに「世界を『リセット』して、もう一度あたしに会いに来い」という彼女からの手紙が届く青春小説。ワガママで破天荒で何よりもかけがえのない存在だった緋花里。彼女ともう一度会うため、怪しげな男・クレセントを道連れに彼女との想い出の場所をめぐる旅路。行く先々で遭遇する彼女との思い出は濃密で、積み重ねた先にあったセカイのアルジが示す「リセット」の正体も意外なところから繋がって。とても彼女らしい想いが詰まった結末にはぐっと来るものがありました。

きゃくほんかのセリフ! (ガガガ文庫)

きゃくほんかのセリフ! (ガガガ文庫)

 

 デビュー作以来鳴かず飛ばずで、うだつのあがらない脚本家・竹田雲太。そんな彼に元に宿敵とも言える制作会社の極悪プロデューサー辻骨から何かとトラブル続きな作品の劇場版の仕事がもたらされるお仕事小説。監督や映画プロデューサー、さらに原作作家たちの無茶ぶりに応えようとしてどんどん形を変えてゆく脚本。実際にはここまで極端ではないにしても、各々の思惑によっていろいろ手が加わるんだろうな…と思いながら読んでいましたが、挙句の果てに迎えた最悪の事態に、それでも誇りを持って立ち向かう雲太の姿にはぐっと来るものがありました。

女王の化粧師 (ビーズログ文庫)

女王の化粧師 (ビーズログ文庫)

 

五人の候補者が次期女王の座を競う小国デルリゲイリア。花街の化粧師ダイの下に、女王候補の一人マリアージュの遣いと称する男・ヒースが現れる物語。最も玉座から遠い癇癪持ちの女王候補・マリアージュの化粧師となったダイ。借金だらけの家のために奔走するヒース、実情を知らされないまま孤立し苛立ちを募らせるマリアージュ、厳しい状況を彼女に教えない家の者たち。苦しい状況なのに家中はバラバラで、ダイが化粧師という立ち位置からそこにどう関わってゆくのか、自身の想いやマリアージュとの関係がどう変わってゆくのか今後が楽しみですね。

 

 

ことのはロジック (講談社タイガ)

ことのはロジック (講談社タイガ)

 

書くべき言葉を見失った元天才書道少年の墨森肇。金髪碧眼の転校生・アキに一目惚れした彼が、彼女とともに校内で発生する言葉にまつわる事件を解決してゆくミステリ。好奇心旺盛なアキや仲間たちと一緒に挑む回し手紙の伝言ゲーム、存在しない幽霊文字、同人誌の不可解な改変、そしてアキに対する違和感。探し続ける「月が綺麗ですね」を超える告白の言葉。彼らの心境の変化に繋がってゆくひとつひとつのエピソードがまた絶妙で、明らかになった真実にしっかりと向き合い、想いを込めた回答を提示してみせた結末にはぐっと来るものがありました。

あの日の君に恋をした、そして (メディアワークス文庫)

あの日の君に恋をした、そして (メディアワークス文庫)

 

十二歳の夏を過ごしていた少年・嵯峨ナツキ。しかしある事故をきっかけに心だけが三十年前に飛ばされ、今は亡き父親・愁の少年時代の心と入れ替わってしまい、クラスメイトの少女・緑原瑠依と運命の出会いを果たす物語。戸惑いながらも愁として三十年前の世界で過ごすナツキと、ともに過ごすうちに大切な存在となってゆく瑠依。彼女も関わる父の日記にあった凄惨な事件の解決に挑むナツキ。瑠依と繋がる意外な関係性も明らかになって、短くも濃厚でかけがえのない時間を過ごしたナツキが、現在で見出した不思議な縁にはぐっと来るものがありました。

そして、その日まで君を愛する (メディアワークス文庫)

そして、その日まで君を愛する (メディアワークス文庫)

 

十二歳の夏を過ごす少年・嵯峨愁。しかし彼はあるとき心だけが三十年後に飛ばされ、将来生まれる自分の息子・ナツキの少年時代の心と入れ替わってしまうもうひとつの物語。開き直ってナツキとして積極的に過ごす愁と、そっと寄り添う不思議な少女・雪見麻百合。運命の出会いから明らかになってゆくもうひとつの物語。愁はナツキとだいぶ違うタイプのキャラで、ナツキ側エピソードとも関連性を持たせつつ、2つの物語に深く関わる秘められた過去の精算と、時を超えて果たした運命の出会いがひとつの結末に繋がってゆく展開はなかなか良かったですね。

横浜ヴァイオリン工房のホームズ (メディアワークス文庫)

横浜ヴァイオリン工房のホームズ (メディアワークス文庫)

 

横浜の弦楽器修理工房『響』のオーナーで絶対音感探偵の冬馬響子。下宿人兼助手の大学生・結城広大が彼女と一緒に音楽に纏わる謎を解き明かすミステリ。広大の兄と自殺した彼女の真相、ストラディバリウスと百年越しの物語、響子の師匠と家族を巡る物語の三編からなる構成で、風変わりなお嬢様ながら洞察力に優れ豊富な人脈を持つ探偵役の響子と、フォロー役の広大がなかなかいいコンビで、本格的な謎解きではないものの二人が解き明かしてゆく真相もまたなかなか優しくぐっと来る結末で良かったですね。続編あるならまた読んでみたいと思いました。

想い人に恋人ができたことを知ってしまうさくら。そんな彼女が江ノ島にある恋愛レンタル店でノアと出会い、理想の恋愛を7泊8日でレンタルする物語。ノアによって提供される想い人と恋人になれた一週間で知る真実。それをきっかけにノアを手伝うようになったさくらが出会う不倫の恋、妻を亡くした老紳士の悔恨。あの時もう少し上手くやれていれば...自分なら上手くやれるはず、過去をやり直せていたら...そんなリアルな現実は体験するとそうそう甘くもなくて、レンタルを通じて過去を精算し乗り越えてゆくヒロインたちがとても印象的でした。

銀行ガール 人口六千人の田舎町で、毎日営業やってます (メゾン文庫)
 

都会に行ってモデルになることを夢見ながら、地方銀行の営業として働く五十嵐吟子、24歳の奮闘が描かれるお仕事小説。渉外として顧客を訪れる吟子の元に次々と舞い込む厄介な相談。戦前から続く雨漏り食堂の修繕費用融資から、リサイクルショップ立ち退き交渉、振り込め詐欺犯逮捕、町おこしに離婚して生き別れた父の過去が絡んできたり、かつての想い人との久しぶりの再会もあって、困っている人たちのために周囲の助けも借りながらアイデアをひねり出し、奔走するうちに自分の目指すところを見出してゆく吟子の姿には心に響くものがありました。

太陽と月の眠るところ 紫微国妖夜話 (小学館文庫キャラブン!)

太陽と月の眠るところ 紫微国妖夜話 (小学館文庫キャラブン!)

 

幼少時から驚くほど不運なのに奇跡的に科挙に登第して進士となった青年・梁脩徳。しかし赴任先の侶州は鬼怪が跋扈する妖しい西方の僻地で、日々勃発する怪異事件に巻き込まれてゆく中華風怪異譚。基本的にいろいろな意味で残念な脩徳は怪異の引き寄せ体質で、それを辛辣な部下たちに利用される日々。様々な怪異に脅かされて、辛過ぎる料理に辟易し、素敵な女性との出会いがあったら中身はあれで、災難続きでしたけど転任願いを出そうにも採用された理由が理由と、選択肢を考えるとこれはもう諦めるしかない(苦笑)続刊出たらまた読んでみたいです。

 

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

 

苦い過去の経験から定時で帰ることをモットーにウェブ会社で働く東山結衣。ブラック上司に曲者揃いの同僚相手に定時で帰る?仕事する気あるの?という空気の中奮闘するお仕事小説。働き方も婚約者もやや極端から極端に走りがちな感もあった結衣でしたが、無理を精神論で通そうとする天敵の勘違い上司や、同僚や取引先に振り回され続ける展開には共感めいたものを覚えてしまいますね(苦笑)それでも何とかしてみせた結衣の奮闘っぷりは流石で、婚約者は正直どっちもどっちだけれど、とりあえず巧は止めておいて正解だった気がしました(苦笑)

さとり世代の魔法使い (双葉文庫)

さとり世代の魔法使い (双葉文庫)

 

魔女が隔世で生まれる家系の女子大生・北条雫、19歳。さとり世代のすっかり醒めた平成最後の魔女の前に、10年前いなくなった幼馴染の爽太が現れる物語。魔女だったおばあちゃんを巡る悔恨と姿を消していた爽太。再会した彼と一緒に果たしていく、好きな人に告白したい同級生の手伝い、素直になれない女の子と家族の仲直り、そして未来からやってきた孫娘との邂逅。素直になれないけれど雫は人のために頑張ろうとするいい子で、その過程でかけがえのないものを得ていった先の結末は切なくもありましたけど、未来に繋がるとても素敵な物語でした。

人生写真館の奇跡 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

人生写真館の奇跡 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

天国までの道の途中に佇む人生写真館。人生を振り返りながら、自分が生きた年数だけの写真を選び、自らの手で走馬燈を作る死者たちとその儀式を手伝う青年・平坂の奇跡の物語。九十二歳の老婆が選んだバスの写真、四十七歳のヤクザが選んだクリスマス・イブの写真、そして七歳の子どもと笑顔を浮かべる青年の写真。平坂と寄り添うように振り返ってゆく人生と、今までで最も印象的な場面を撮り直す思い出の写真にはぐっと来るものがあって、抗えぬはずの運命に立ち向かった平坂がいて、それらが全て繋がってゆくエピローグがとても素敵な物語でした。

叡智の図書館と十の謎 (中公文庫)

叡智の図書館と十の謎 (中公文庫)

 

時間にも空間にも支配されない無限に等しい書架を持つ「叡智の図書館」を探す旅人と、そこを守り訪れた相手に対して謎掛けをする守人の物語。謎の魔法の石板が旅人に提示する十の物語。女王の恋人と女戦士の物語や、貿易商人の使用人を刺した無実の罪に問われた少年といった中世風の話もあれば、映画スターとなった女優の波乱万丈の人生と故郷の物語、日本の吉備家の長年に渡る妖狐との戦いの顛末といったテーマや舞台も多岐に渡っていて、そんな物語の謎からもたらされた回答が、旅人の正体や結末へと繋がってゆくラストはなかなか良かったですね。

大都市の夜にコミュニティーを形成し人に紛れている吸血鬼たち。怠惰な吸血鬼・十二が久しぶりに目覚めると、池袋のまとめ役・白猫が失踪しており、関係者の少女・遠夜が十二の下に転がり込でくる物語。白猫不在の状況で秩序の一角が失われ、六本木の三長老や新宿の女王などもその動静を探る中、遠夜を巡る抗争の激化に巻き込まれてゆく十二。ハードボイルドでアウトローな雰囲気のある世界観は著者さんらしくて、個性的なキャラたちもなかなか印象的でしたが、真相は明らかになったものの結末はやや消化不良な感も…続巻あるなら読んでみたいです。

ふたりの文化祭 (角川文庫)

ふたりの文化祭 (角川文庫)

 

夏休みが明け、文化祭準備で浮き足立つ神丘高校。盛り上がりに欠けるクラスでお化け屋敷をやることになった人気者の潤と、内気な図書委員あやのそれぞれの視点から綴られてゆく青春小説。「わたしの恋人」「ぼくの嘘」と世界観や登場人物を同じくする物語で、結城さんに惹かれてゆく潤と、彼が気になるかつて幼馴染だったあやの。恋心とはまた少し違う二人の距離感と、その温度差がある心情の変化が繊細に綴られていて、あやが踏み出した勇気に潤が触発され逆境に立ち向かう展開には、彼らの間で失われていた共感と絆が確かにあったと思いました。 

響野怪談 (角川ホラー文庫)

響野怪談 (角川ホラー文庫)

 

響野家の末っ子で怖がりなのに霊感が強く、ヒトではないものたちを呼び寄せてしまう春希。些細だった怪異は徐々にエスカレートし、彼を守ろうとする父や兄たちをも脅かしてゆくノスタルジックホラー。春希がふっと一人になるたびに、彼の元に忍び寄り脅かそうとするヒトではないものたちと、それに気づいて春希を守ろうとしてきた父や兄たち。小さいエピソードの積み重ねによって春希が日常的に晒されている不穏な状況と、彼を守ってきた存在が浮き彫りになっていって、それがいい感じにまとまったかに思えた先の結末を印象的なものにしていました。

坊さんのくるぶし 鎌倉三光寺の諸行無常な日常 (幻冬舎文庫)
 

実家の寺のお布施をくすねた罰で、鎌倉にある禅寺・三光寺に送られることになったお気楽跡継ぎ坊主・高岡皆道。同時期に入れられた修行仲間三人とワケあり先輩僧侶たちに囲まれ様々な経験をしてゆく青春坊主小説。仏教を信じられずやる気が見られない皆道が三光寺で出会った、脛に傷を持った悟りきれない修行僧たち。抱えるものがあるのは同期の仲間たちだけでなく先輩の強面な禅一や怪しく謎めいた高仙らも一緒で、葛藤に悩ましい気持ちになりながらもそれとしっかり向き合って、自ら進む道をそれぞれが見出してゆく展開はなかなか良かったですね。

(P[い]6-1)この冬、いなくなる君へ (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[い]6-1)この冬、いなくなる君へ (ポプラ文庫ピュアフル)

 

仕事もプライベートも冴えない文具会社勤務の生久田菜摘24歳。ひとり会社で残業をしている時に火事に巻き込まれた彼女が、救ってくれた謎の男・篤生と出会ったことで人生が変わり始める物語。毎年12月に現れる篤生からのアドバイスと彼女の死を回避するための試練。何事にも消極的だった菜摘が向き合うようになった仕事や友人たちの悩み、母や父のこと、そして気になる相手のこと。後悔しないように精一杯頑張ったことでいろいろなことが変わっていって、自分次第で人生もいかようにも変えていける大切さを改めて教えてくれた素敵な物語でした。

コレって、あやかしですよね? ~放送中止の怪事件~ (光文社文庫)

コレって、あやかしですよね? ~放送中止の怪事件~ (光文社文庫)

 

ネット放送の『あやかしTV』でADとして奮闘する香月都が、オカルト否定論者のディレクター・倉橋匠やMCの漫画家妖海太などとともにもたらされたあやかしの謎を解き明かすお仕事小説。多摩川に出現した巨大生物や怪火、世田谷の公園に化け猫といった、低予算のネット番組が舞台とする珍しい切り口で、視聴者との距離が近くてコメントが反映されたり、もたらされたネタを元に取材に向かったりとなかなか興味深く読みました。テキトーに見えて意外と観察眼が鋭い匠や都を気にかける妖先生とのことだったり、人間関係も含めて今後に期待ですね。 

駅の改札でスリの現場に遭遇し酒屋を経営するあやかを救った女子高生の菜乃が、縁あってそのお店や探偵の助手として働くことになる居酒屋ミステリ。カクテル占いもするあやか、本業は探偵の店員・千種、引きこもりでゲーマーのやよいらと共に、店に持ち込まれる事件や謎を追う展開で、複雑な想いを抱える父親との関係や、占いで気になる結果が出た常連の婚約者の真相、猫探しの真相やおばあさんと懐かしの本の再会といった印象的なエピソードの中で、成長してゆく菜乃を応援したくなる優しく温かい物語でした。続刊あるならまた読んでみたいですね。

 

 

本と鍵の季節 (単行本)

本と鍵の季節 (単行本)

 

利用者のほとんどいない放課後の図書室で同じく図書委員の松倉詩門と当番を務める堀川次郎。放課後の図書室に持ち込まれる謎に二人で挑む図書室ミステリ。先輩女子が持ち込んだ亡くなった祖父の開かずの金庫、美容室に感じた違和感の正体、友人の兄のアリバイ、友人の遺言が挟まれた本、松倉の父の遺産に絡む連作短編。ビターな事件が続く中でアプローチが違う二人はお互い足りない部分を補い合ういいコンビで、転機に繋がりそうなそうな最後の事件の結末は気になるところですね。でもそれを乗り越えた二人の探偵劇をまた読んでみたいと思いました。

発現

発現

 

自殺した兄の事情を探る弟・省吾と、自殺した母と同じようにおかしくなった兄を危惧するさつき。平成と昭和、二つの時代で起こった不可解な事件が、不思議な縁で繋がってゆく物語。昭和40年に起きた自殺事件と、平成が終わろうかという時代に自殺した母と同じように狂ってゆく兄。2つのエピソードが交互に語られてゆく中、それぞれの調査で明らかになってゆく真相があって、思わぬところで繋がってゆく共通点があって。背負ったものは重いと感じつつも、それにきちんと向き合い付き合っていこうと決意した彼女たちには希望があったと思いました。

だから殺せなかった

だから殺せなかった

 

大手新聞社の社会部記者・一ノ木透の許に届いた一通の手紙。「ワクチン」と名乗り、首都圏全域を震撼させる連続殺人犯が紙上での公開討論を要求し、苛烈な報道合戦に巻き込まれていく物語。低迷する新聞売上を打開するため、自らの悔恨記事を載せた一ノ木。連続殺人犯に指名されて対話するなかで問われる新聞や報道のあり方、並行して取材を進めてゆくうちに少しずつ明らかになってゆく事件を巡る全貌。ほろ苦い決着の先にはこの物語の印象をガラリと変えてしまうもう一つの事実があって、ジャーナリズムとは何かを改めて突きつけられた結末でした。

イシイカナコが笑うなら

イシイカナコが笑うなら

 

 いい先生として同僚にも羨望の眼差しを送られる教師・菅野。醒めた内心と虚像のギャップに苦しむ彼の前に、かつて自殺した同級生の幽霊・イシイカナコが現れる物語。イシイカナコから持ちかけられる「人生やり直し事業」と二人で飛ぶ17歳の自分が生きる時間軸。そこでまさかの同級生と入れ替わって、生前の石井可奈子や高校時代の自分と関わってゆく展開はなかなか面白いアプローチで、ほろ苦い真実に葛藤しながらも逃げずに向き合ったそのありようと、「やり直しはできないが、失敗が許されないわけではない」 という言葉がとても印象的でした。

まよなかの青空

まよなかの青空

 

結婚を前提に交際していた相手の母親から、手切れ金と共に息子と別れるよう言い渡された33歳のひかる。傷心の彼女が様々な人と再会し、「ソラさん」のからくり箱の話を思い出す物語。偶然再会した高校時代の同級生・日菜子や幼馴染の達郎。そこから運命に導かれるように繋がってゆくいくつもの縁と、明らかになってゆく家族の過去や「ソラさん」の謎。登場人物たちの誰もが過去に悔いを抱えていて、長らく苦しめられていた呪縛と久しぶりに向き合うことになって、過去はやり直せませんが、それでも希望が見える結末には救われるものがありました。