読書する日々と備忘録

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オススメお仕事小説一般文庫編20選

前回の 「オススメお仕事小説ライト文芸編20選」はわりと好評だったようなので、今度はオススメお仕事小説企画第二弾ということで一般文庫編ということで20作品選んでいます。選んでみるとつくづくあやかし絡みの本ってわりと多いんだなとか、マイナーレーベルにたまにあるマニアックすぎるテーマの作品はあまり手を出しきれてないなとか、いろいろ思うこともありましたが、最終的に残った作品はどれもおすすめできる作品です。気になるタイトルがあったら是非手に取って読んでみてください。

 

1.書店ガール (PHP文芸文庫)

書店ガール (PHP文芸文庫)

書店ガール (PHP文芸文庫)

 

部下の亜紀の結婚式でうっかり関係をこじらせてしまった書店のアラフォー副店長理子が、初の女性店長昇格後訪れた危機に残ったメンバー一丸で奮闘する物語。ちょっと不運な行き違いの積み重ねからどうしようもなくこじれていく関係とか、職場での変化に伴う複雑な感情だったりとか、感情のぶつかり合いがとても生々しく描写されていましたが、危機に瀕して前向きに頑張ろうと奮闘する姿勢は良かったですね。理子のこだわりと亜紀のチャレンジ精神、どちらも大事。奮闘した割にはどうにもやるせない結末や、それぞれの成長と葛藤を描く物語は必読。全7巻。

2.校閲ガール (角川文庫)

校閲ガール (角川文庫)

校閲ガール (角川文庫)

 

憧れのファッション誌編集を夢見て出版社に入社するも配属されたのは校閲部。そんな入社2年目河野悦子の日常を描いたお仕事小説。編集のように直接作家と関わらない、地道でプロフェッショナルな校閲の仕事を、登場人物との関わりで比較しつつ、テンポよく描かれるストーリーは面白かったです。衣食住の衣にお金をつぎ込む悦子は博覧強記の毒舌でインパクトがありましたが、憧れを持ちながらどこか醒めた現実主義者な彼女も、恋したり何だかんだ言いつつ困った人を見捨てられない部分も同居するところが、何ともいい味を出していると思いました。現在3巻まで刊行。

3.舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

 

 玄武書房の辞書編集部に迎えられた馬締が、部署の離れる人たちの思いも受け継ぎながら、十年以上の歳月を掛け執念で辞書を作り上げていく物語。これは一つの辞書を作り上げる困難と同時に、ちょっと変わっていてなかなか周囲に受け入れられることのなかった馬締が、巡り合わせで自らが生きる場所を得て恋をしたり、周囲の人に影響を与えずにいられない人物に成長する過程を描いたお話でもあるんですよね。幾多の困難がありながら、最後まで諦めずに完成させたその姿には感じることも多かったです。巻末掲載された馬締の恋文には驚愕でした(苦笑)

4.次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

 

仕事に追われる月刊漫画誌の若き編集長で苦労人の眞坂崇とトンデモ天才漫画編集者・蒔田が、漫画バカの編集者たちや漫画に命をかける漫画家たちとともに日常のお仕事に潜む謎を解き明かしてゆくお仕事小説。落とし物をきっかけに出会ったビルの夜間警備員・夏目の謎、打ち切りに悩む漫画家とのやりとりやヘッドハンティング、そして盗作疑惑の真相など、漫画雑誌はほんと大変な仕事なんだなと実感させる一方で、それでも登場人物たちが面白い漫画を作りたいという想いからぶつかり合うなかなか熱い作品でした。現在2巻まで刊行。

5.小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

 

華々しいデビューを飾ったものの鳴かず飛ばずの作家・豊隆と、彼の作品がきっかけで文芸編集者になった俊太郎。経営状態から俊太郎の所属する文芸誌存続が危ぶまれる状況で、あえて勝負に出る二人の物語。「いつか一緒に仕事を」と思いながらも、具体化しないまま迎えてしまった苦境。出版業界の苦境を生々しく描く一方で、それでもどうにかできないか諦めずに活路を見出そうとし、それぞれの立場から何度もぶつかり合い、もがき苦しみながらも目をそらさずに真っ向から向き合って、いい作品を作り上げていく熱い思いは心に響くものがありました。

6.金曜日の本屋さん (ハルキ文庫)

金曜日の本屋さん (ハルキ文庫)

金曜日の本屋さん (ハルキ文庫)

 

「読みたい本が見つかる」と噂の北関東の駅ナカ書店・金曜堂。藁にもすがる思いで訪ねた大学生の倉井がここで働くようになり、人と本の運命の出会いを目の当たりにしてゆく物語。この書店に訪れてくるのは主人公の倉井含めて訳ありの人たちばかり。底抜けに明るい女店長・南槇乃とその仲間たちが、必要な本やその悩める想いにもきちんと向き合うことで、訪れた迷える客たちが前を向けるよう優しく手助けをしているのを感じて、とても温かい気持ちになりました。書店あるあるとはまた違った趣でしたが、これはこれで味のあるシリーズです。全4巻。

7.イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

 

念願かなって神保町の小出版社にインターンとして採用された満島絢子。しかし、当のイシマル書房は親会社から最後通告を受ける―会社存続の危機で、起死回生のベストセラー誕生を目指す出版小説。今年の目標「生き延びる」がリアルで、不器用だけど情熱ある石丸社長が命運を託したのは引退していた文芸編集者と理由あり作家。絢子はもとより元ヤンキーの営業マン、活版職人の絢子の祖父、全国の書店員などにも協力を仰いでの総力を挙げた奮闘ぶりやそれぞれの想いはとても熱く心揺さぶるものがあって、最後には少しばかりうるっと来てしまいました。

8.活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)

([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)

([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)

 

長らく空き家だった川越の片隅に佇む印刷所・三日月堂。そこにかつて亡くなった店主の孫娘・弓子が住むことになり、昔ながらの活版印刷で人との繋がりを解きほぐしてゆく物語。近しい人との関係に迷いを抱える登場人物たちが、身近な人の繋がりから知る営業を再開した三日月堂の存在。物静かで真摯な弓子さんと一緒に印刷するものを考えてゆくうちに、悩みにもきちんと向き合えるようになってゆく展開は、失われた活版印刷の良さを思い出させてくれるだけでなく、作られた印刷物も悩める人の想いに寄り添っていて、とても素敵な物語だと思いました。全4巻。

9.菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

 

進路に悩む高校3年生・三峰菜月は、子供の頃に自分の大切な絵本を直してくれた書籍修復家・豊崎俊彦と再会。一念発起弟子入りを目指し奮闘するお仕事小説。親に言われるままに大学進学でいいのか疑問に思っていた菜月の運命の出会い。彼女の修行を通じて描かれる和書の修復がどのように行われるのか、その描写や解説はなかなか興味深かったですが、食べていくのが難しい仕事だからこそ、書籍修復の仕事にどう真摯に向き合うのかをしっかり考えるのは大切なことですよね。周囲の人に支えられながら成長してゆく菜月の今後を応援したくなりました。

10.撮影現場は止まらせない! 制作部女子・万理の謎解き (角川文庫)

撮影現場は止まらせない! 制作部女子・万理の謎解き (角川文庫)

撮影現場は止まらせない! 制作部女子・万理の謎解き (角川文庫)

 

映像制作であらゆる雑用をこなす縁の下の力持ち的存在の制作部。制作部女子の万理が巻き込まれるトラブルだらけな撮影の日々が綴られたお仕事エンタメ小説。プロデューサーから女優の変更を告げられ突如降板しようとする監督の真意、わがまま女優が気になる助監督の初恋、撮影場所が事前にリークされてしまうトラブルに、撮影現場先での元カレとまさかの遭遇。トラブルを起こす当事者たちにもまた上手く伝わらない思いがあって、そんな機微を汲み取って配慮しながらうまくまとめ上げてしまう、皆に愛される万理の頑張りを応援したくなる物語でした。

11.谷中レトロカメラ店の謎日和 (宝島社文庫)

谷中レトロカメラ店の謎日和 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

谷中レトロカメラ店の謎日和 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

思い入れのあった故人のカメラ売却をきっかけに下町谷中のレトロカメラ店でバイトすることになった山之内来夏が、三代目店主の今宮とともに客が持ち込む謎を解決する連作ミステリ。中古クラシックカメラを専門に扱う落ち着いた雰囲気のお店を舞台に、優れたカメラ修理技術や知識、そして卓越した観察眼を持つ今宮と写真に関連する謎を解いたり、様々なやりとりを重ねていく中、徐々に変わってゆく来夏さんの気持ち。繊細な描写を積み重ねた末に明らかにされた事実はやや意外なものでしたが、それを乗り越えようとする二人の今後に期待したいですね。

12.神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん (双葉文庫)

神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん (双葉文庫)

神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん (双葉文庫)

 

亡き祖父に譲られたアンティークショップを継ぐために、仕事を辞めて東京から神戸に移り住んだ高橋寛人が、お店を間借りしている修理職人の後野茉莉と出会う物語。何でもパソコンで調べる古い物に全く興味のない寛人と、物に宿る想いを大切にしてどんなものでも修理してしまう茉莉。そんな一見噛み合わなそうな二人が、抱えていた過去に決着をつけたり、亡き祖父・万の縁から多くの人たちと知り合ったりしながら、大切な居場所で過ごす家族のような存在として、共に過ごす時間や大切な想いを共有するようになってゆく物語はなかなか良かったですね。2巻まで刊行。

13.星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

 

観光地化された星空が素敵な島を捨てた渡久地昴が就職先で配属されたのはプラネタリウム事業課。複雑な思いを抱える彼が魔法使いのようにプラネタリウムの解説をする望月と出会う物語。観客を魅了する望月の手腕や、変わり者の同僚たちにも触発されて仕事に前向きになってゆく昴と、幼き日に約束を交わした天音の再会。いくつもの人間関係と星空への思いのバランスをうまく取りつつ描かれてゆくエピソードでしたが、様々な出会いから心境も少しずつ変わってゆく中、昴が担当することになった故郷の島での星空解説にはぐっと来るものがありました。

14.建築士・音無薫子の設計ノート (宝島社文庫)

挫折から建築を学ぶ情熱を失った今西が、教授の紹介による建築事務所インターンで奇抜な発想を持つ音無薫子と出会い、ワケあり物件の依頼に応えていく物語。最初強引に持論を展開しているように見えた薫子も、裏では天才的な観察眼と見聞を厭わない行動力があって、その積み重ねで顧客が真に望んでいるものを見抜いていたんですね。そんな彼女に触発されて今西もまた失っていた自信や自分らしさを取り戻していくストーリーはとても面白かったです。今西の想いの行く末やいわくありげな登場人物たちも気になるシリーズですね。2巻まで刊行。

15.推理は空から舞い降りる 浪速国際空港へようこそ (宝島社文庫) 

優秀な管制官だった叔母の真紀子に憧れ、日夜奮闘する新米航空管制官の藤宮つばさ。同期の情報官・戸神大地とともに、空港で発生する様々なトラブルや謎を解決していくお仕事ミステリ。鳥が原因のエンジントラブルや、不定期に鳴り響く発信源不明の遭難信号、外国要人専用機の離陸失敗事故など、トラブルに巻き込まれるつばさを少し変わった同期の大地や職場の同僚・上司の協力で解決してゆく展開で、お仕事小説としてもなかなか興味深かったですが、探していた叔母の「管制官に一番必要なもの」を見出してゆく結末にもぐっと来るものがありました。

16.外資のオキテ (角川文庫)

外資のオキテ (角川文庫)

外資のオキテ (角川文庫)

 

英語を使う仕事に憧れて一念発起して会社を辞め、語学留学を決行した貴美子。帰国後直面する現実と、悪戦苦闘の転職活動の末に何とか決まった米系企業で外資での一歩を歩み始めるリアルお仕事成長物語。帰国してみれば外資系企業では語学留学は留学と認められない現実。キャリアアップを目指し派遣社員として外資系企業で働き始めた貴美子が経験してゆく様々な仕事には充実感も翻弄されることもあって、外資系に対する周囲のイメージとのギャップもあったりで、外資系企業の勤務が長い著者の経験を活かしたリアルな描写がとても印象的な一冊でした。

17.鷹野鍼灸院の事件簿 (宝島社文庫)

鷹野鍼灸院の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

鷹野鍼灸院の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

院長が不在になることが多く、鍼灸院をほとんどひとりで切り盛りする新米鍼灸師真奈の事件簿。鍼灸×ミステリーとは謳っていますが、実質的には現役鍼灸師による業界あるある物語的な印象です。あまり知る機会のない鍼灸師や業界について語られている部分も多く、必ずしもいい話ばかりではありませんでしたが、こういうお仕事は難しいこともあるんだろうなと興味深く読めました。いろいろと悩みの尽きない真奈と、飄々として謎の多かった鷹野院長の不思議な距離感も気になったります。2巻まで刊行。

18.水族館ガール (実業之日本社文庫)

水族館ガール (実業之日本社文庫)

水族館ガール (実業之日本社文庫)

 

市役所の観光事業課から水族館へ出向することになった由香。何にも知らない素人がいきなり現場に放り込まれ、戸惑ったり失敗したりしながらも、徐々に水族館での仕事に興味を覚えて成長していく物語ですね。口ではいろいろ言ったり思ったりするけれど、最後まで放り出さずに責任感を持って取り組む由香の姿勢は、悲しい別れや失敗を乗り越えて経験を積んでいくことで、新しいこと生み出したり、周囲に好影響を与えるまでになりましたね。水族館の実情にも踏み込む内容は興味深くて、読む人を前向きな気持ちにさせてくれる爽やかな物語です。19年7月に6巻目刊行予定。

19.ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

 

大学卒業後もダイビング以外は興味を持てず、就職も決まらない蒼衣。そんな彼がドルフィントレーナー採用試験でイルカやトレーナーの凪たちと出会いのめり込んでゆくお仕事小説。そこそこ器用だけれどプライドが高い蒼衣が魅せられ、仲良くなった相棒イルカ・ビビと共に目指すショーデビュー。熱くなるとつい周りが見えなくなって失敗するその性格は、一方でまっすぐでひたむきな一面もあって、イルカには致命的な異変が見つかったビビやイルカを愛する仲間とともに、その危機を乗り越えるべく奮闘し成長してゆく姿にはぐっとくるものがありました。

20.ビストロ三軒亭の謎めく晩餐 (角川文庫)

ビストロ三軒亭の謎めく晩餐 (角川文庫)

ビストロ三軒亭の謎めく晩餐 (角川文庫)

 

セミプロの舞台役者だった神坂隆一が、姉・京子の紹介で来る人の望みを叶える魔法のような店『ビストロ三軒亭』でギャルソンとして働くことになるグルメミステリ。奇妙な客の荷物と残した料理の謎、仲違いを解決した七面鳥の栗詰め、チーズたっぷりな試食会にやってきた三人の大食い魔女の事情、シェフが作れないキッシュに隠された秘密。若きオーナーシェフ・伊勢が作る料理はとても美味しそうで、隆一をサポートしながら悩めるお客様に真摯に寄り添う個性豊かな先輩ギャルソンたちがいて、隆一自身の成長も楽しみですね。現在2巻まで刊行。