今回は8月の電撃文庫・富士見L文庫・講談社タイガ新刊感想まとめです。内訳は電撃文庫が新作5点、続巻5点、富士見L文庫の続巻1点、講談社タイガの続巻1点の計12点になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
星が果てても君は鳴れ (電撃文庫)
【第30回電撃小説大賞<銀賞>受賞作】
唯一の肉親を失い夢への希望も絶たれ、他者の影が纏うノイズに侵される状況に、ついに命を絶つ覚悟を決めた高校生・月城一輝。そんな彼の前に、元国民的女優の星宮未幸が現れる青春小説。思いもよらない方法で一輝を救った、素顔はなかなか勝気で、時々猫かぶりで実は未来が視える未幸。一輝の自殺願望を止めるために始まった未幸と、その引きこもりの妹・瑠姫奈を交えた奇妙な同居生活。一緒に生活していく中で知ってゆく姉妹のこと、そして明らかにされる姉妹それぞれの事情があって、ままならない状況に葛藤を抱えながら、それでも彼女のために今の自分にできることは何かを懸命に考えて、覚悟を決めて最後まで奔走して真摯に寄り添い続けたその結末には、強く心を揺さぶられるものがありました。
宮澤くんのとびっきり愚かな恋 (電撃文庫)
昔好きだった幼馴染で、自他ともに認めるビッチの藤代瑠音。学校の日陰者で、今や瑠音とは全然縁もなくなっていた宮澤恆が、彼女と付き合い始める青春小説。セフレの彼女からの浮気疑惑を解消したいという斜め上の理由で、かつての初恋相手と付き合い始めた2人。それでも話を聞くうちにイメージ先行で偏見もあった瑠音への理解度も上がって、お互いいい関係になれそうな予感もあったわけですけど、そこでセフレの彼女が恆の親友ともいうべき部活仲間という何ともややこしい状況がなかなか地雷でしたね…不測の事態に動揺した不用意な発言は仕方なかったような気もしましたけど、それをきっかけに否が応でも巻き込まれていく地獄には目眩がしましたし、まだまだ終わりそうにないですね…。
千早ちゃんの評判に深刻なエラー (電撃文庫)
若隠居が将来の夢の根暗ぼっち少女千早ちゃん。重度のコミュ症で就職できずにいた彼女が完全リモート勤務に釣られて、人型工作機械《アクタノイド》での異世界開拓に従事するファンタジー。各国が資源開拓でしのぎを削り合っている『新界』で、安全な仕事を探そうと思っていた千早ちゃんが、チーム行動を避けてぼっち依頼を受けるうちになぜか毎回戦闘に巻き込まれてしまい、天才的な操縦センスと爆発オチの過激な防御行動を取り、鹵獲したアクタノイドを売却して赤字を回避する行動に、反社組織からも目をつけられボマーと恐れられるようになって行く展開で、本人はそんなつもりは微塵もないわけなんですが、その狂ったような圧倒的戦果だけ見ると、AIが過酷な戦闘任務ばかり提案してくるのも仕方ないような気がしました(苦笑)
異能アピールしないほうがカワイイ彼女たち (電撃文庫)
若い間だけ空想上の存在の特徴に覚醒するミューデントが存在する世界。サキュバスな幼馴染・朔夜先輩に振り回される高校生・古森が異能を持つ生徒のお悩み相談を受ける【文芸部( )】を立ち上げる青春小説。活動実績に乏しい文芸部存続危機を回避すべく動き出した2人が出会う、個性の弱さに悩む猫娘ギャルJKや、顧問候補の雪女副担任、ストレスを抱える人魚の同級生。どうしても属性のイメージで語られがちだったり、意識し過ぎて個性を見失ってしまう悩める彼女たちは、いろいろ難しいなと思いましたけど、だからこそ一般人でも分からないなりに理解しようと懸命に努力して、その危機には迷わず奔走して、不器用でもしっかりと向き合い続けて、彼女たちにとって肩の力が抜けるかけがえのない存在になってゆく古森の頑張りが効いていました。
俺にだけ小悪魔な後輩は現実でも可愛いが、夢の中ではもっと可愛い (電撃文庫)
俺にだけ小悪魔な後輩は現実でも可愛いが、夢の中ではもっと可愛い(1)
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片沼 ほとり/たん旦 KADOKAWA 2024年08月09日
堅物で嫌われ者な生徒会長の慧吾と、スター俳優を両親に持ち品行方正で人気者な後輩役員の千春。縁結びの神社で一対の御守りを買い、その夜に夢で出会ってしまう筒抜け系ラブコメ。慧吾にだけは小悪魔系な一面を見せる千春という関係の2人が、夢の中だからと本音を曝け出して盛大に告白しあったら、実は慧吾だけが夢での出来事を覚えているという構図で、両片想いがバレバレなのに気づかず小悪魔ムーブをかます千春が、後から夢の中で弁解する様子は微笑ましかったですけど、慧吾もまた俳優の娘だからと特別視せずに、千春本人のことをちゃんと見てくれる存在で、その危機には千春の真意に寄り添って、難敵に思えた彼女の両親相手に一緒に戦ってくれるその姿がなかなか頼もしかったですね。
青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない (電撃文庫)
青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない(14)
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鴨志田 一/溝口 ケージ KADOKAWA 2024年08月09日
「実は、私が霧島透子なんです」ステージで歌を披露した麻衣が、観衆を前に言い放った思ってもみなかった衝撃発言。ついに夢見たその日がやってくる第14弾。自ら否定していたはずの正体説をなぜか公衆の面前で認めてしまう麻衣。そんな現状を肯定してしまう周囲の人物たち。そして頼みの綱であるはずの双葉すら、望みが叶ったことで今の状況を肯定してしまい、追い詰められた咲太はどうするのかという構図でしたけど、それでも諦めずに細い糸を辿るように可能性を探し続ける中で思いもしなかった人物との再会があって、ようやく霧島透子の正体も明らかになっていきましたけど、これまで積み重ねてきた先に何が待っているのか、早く続きが読みたくなる結末でしたね…。
王妹のブリュンヒルド (電撃文庫)
王城から追放されて1人森の奥深くで暮らしていたブリュンヒルド。傷ついていた竜を助けて、かけがえのない絆を育んでいた彼女と、その力を得るために殺した兄シグルズ王が再会を果たす第4部。暗愚の女王以降、百年もの間に「神の力」を失いつつあったジークフリート家。人体実験施設で変わり果てたシグルズとの再会、複雑な想いを抱えながら彼を支えるリヒャルトに、ブリュンヒルドも絡めた皮肉な愛憎が絡み合う展開で、真摯に向き合っていくうちに許そうとする想いが生まれてゆく一方、それが許容できず歪み憎しみを募らせていった末の悲劇には言葉もありませんでしたけど、けれどそこには憎しみを受け止めて赦そうとする想いと、伝わらなくても相手のことを想わずにはいられない、かけがえのない確かな愛があったと思いました。
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる2 (電撃文庫)
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる2
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ぽち/久賀 フーナ KADOKAWA 2024年08月09日
エンドコンテンツ【魔神器創造】をうっかり手にして、アイテム何でも作り放題になってしまったヤマモト。即席パーティーを組んで海辺の地下都市・フォーザインを目指す第2弾。うっかり道中でフラグを立ててしまい、プレイヤーやNPC入り乱れる大型対戦イベント大武祭が開催。自身は生産職らしく屋台でがっぽり稼ごうと思っていたところに、泣いている女の子リリを放っておけず助力を誓うヤマモト。今回はいろいろ大忙しで一見何気ないエピソードや獲得したスキルが、後の展開でちゃんと活きていましたけど、目立たないようにとか思っているはずなのに困っている人を放っておけず、自分のやりたいようにやった結果として、無自覚に周囲にも大きな影響を与えていく彼女の生き方が今回も光っていました。
ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います8 (電撃文庫)
ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います8
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香坂 マト/がおう KADOKAWA 2024年08月09日
激動のランク査定を経て、ひとときの平穏を取り戻したイフールカウンター。しかしギルド本部に新たなカウンターを併設する話が持ち上がる第8弾。利便性が良く冒険者が殺到する超多忙な生贄カウンターの誕生に戦々恐々とする歴戦の受付嬢たち。そこにインターンでやってくるアリナの弟アシュリー。黒幕が明らかになって、それぞれが対抗策を考える中、ジェイドとのスイーツデートに浮き立つアリナや姉大好きでジェイドに噛みつくアシュリー、ルルリの過去を乗り越えるエピソードもなかなか効いていて良かっただけに、最後の最後であんな展開が待っているとは思いませんでした。アリナにとってあまりに過酷な状況に加えてここからのリカバリも大変そうで、今後の展開が気になります…。
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 9. (電撃文庫)
七菜 なな/Parum KADOKAWA 2024年08月09日
高校2年生の3学期を迎えて、それぞれの想いを胸に修学旅行へ向かう悠宇と凛音。一方、同じく東京を訪れた日葵は、紅葉によって新しい世界へと誘われる第9弾。因縁の地・東京で凛音のお願いと一つの約束、そして最後の一日。過去と現在が交わる夜に、悠宇が見つけたやるべきこと。相変わらず視野が狭くて頑なで、迷走感満載の3人は大丈夫かなあ…と心配になる展開でしたけど、今回の修学旅行でそれぞれが三者三様に鮮烈なインパクトを残す出会いがあって、中でもだいぶ吹っ切れた感もあった日葵の変化が印象的でしたね。でも再構築された関係も未だ過程でしかなくて、最終的に3人の関係がどういう形に落ち着くのか…今回でまた新たな一面が見えた兄姉世代の人間関係も気になるところではあります。
メイデーア転生物語 7 この世界で一番大好きなあなたへ (富士見L文庫)
メイデーア転生物語 7 この世界で一番大好きなあなたへ
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友麻碧/雨壱 絵穹 KADOKAWA 2024年08月09日頃
追憶の旅路から帰還して紅の魔女の記憶に振り回されるまま、カノンのもとへ向かったマキア。そして世界を救うための予言がもたらされる第7弾。カノンにすがるマキアを見て、その心変わりを恐れて動揺してしまい、彼女を避けて帰還することを拒否してしまうトール。すれ違う二人に追い打ちをかけるように、守護者の紋章が消え始めたマキア。その先に待っていた激闘の結末はあまりにも悲しくて、けれど状況的にああするしかなかったですかね…。いまいち掴みどことのない存在だったカノンも最後の最後でその印象がだいぶ変わりましたけど、過去の心残りにも決着を付けることができましたし、諦めずにここからまた物語の流れをまた変えてくれることを期待したいですね。
傷モノの花嫁2 (講談社タイガ)
白蓮寺との騒動を乗り越えて夜行と穏やかな日々を過ごすようになった菜々緒。そこに由緒正しく見目麗しい夜行の元婚約者・斎園寺しのぶが現れる第2弾。兄の鷹夜に当主の座を譲れと迫る夜行の母・朱鷺子と、彼女の勧めで鷹夜と婚約しながら、吸血行為を嫌い婚約破棄後に皇國の英雄となった夜行を見て、正妻である菜々緒の存在を知りながらあからさまに妻の座を狙う外堀から埋めようとするしのぶ。兄の鷹夜が意外とまともだったのは救いですけど、全く共感できないしのぶに揺さぶられながら、絶体絶命の危機に駆けつけた夜行を信じて、揺るぎない強い絆を見せてくれた2人が良かったですね。けれど黒幕はまだまだ暗躍していて、菜々緒の妖印を巡る因縁が今後もポイントになりそうです。