1月の読了冊数は読書メーターによると最終的に97冊でした。
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こちらでは1月に読んだ文庫・単行本新作おすすめ28点を紹介します。
気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。ライトノベル編はこちら
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
タイタン (講談社タイガ)
野崎 まど 講談社 2023年01月17日
至高のAI『タイタン』のサポートで、人類は仕事から解放され自由を謳歌する未来。心理学を趣味とする内匠成果を世界でほんの一握りの就労者ナレインが訪れ、彼女に仕事を依頼する近未来SF。突如として機能不全に陥ったタイタンAIのカウンセリングを託されることになった成果。仕事という概念がない世界で様々なことを考察することや、働くことの意味、仕事しかしたことがないコイオスと共に旅する中で目にする様々な出来事、そんな中でコイオスの成長や彼女自身の心境の変化もあって、未来に生きるとはどういうことか、現段階ではあまりこういう世の中を想像できないですけど、いろいろと可能性を垣間見せてくれる物語でなかなか面白かったです。
仮面後宮 女東宮の誕生 (集英社オレンジ文庫)
仮面後宮 女東宮の誕生
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松田 志乃ぶ/皐月 恵 集英社 2023年01月20日
平安末期。謎の疫病・葡萄病みで大混乱に陥っている京の都。貴族や皇族も次々と倒れる状況で、次の東宮には一時、皇女を立てるべきという神託が届けられる和風ファンタジー。時の権力者で今上帝の兄の上皇・八雲院は神託の受け入れを決定、その条件を満たして選出された五人の女東宮候補となる皇女たち。双子の弟・映の宮、妹の貴の宮とともに宇治で忘れられた暮らしを送る火の宮もまた候補に指名される展開で、今上帝から命を受けてやってきた源翔との出会いがあって、様々な思惑が絡み合う中で起きた事件、覚悟を決めた映の宮主従、ライバル関係にある女東宮候補たちとの関係や、掴みどころのない八雲院の思惑など、その不穏過ぎる展開には今後への期待感しかありません。
MAMA 完全版 (メディアワークス文庫)
紅玉 いづき KADOKAWA 2022年11月24日頃
ガーダルシア王国で魔術師の血筋サルバドール家に生まれながら、魔術の才に恵まれなかった少女トト。数百年前に封印された人喰いの魔物と運命の出会いを果たすファンタジー。トトが母として歪な使い魔契約を結んだ人喰いの魔物ホーイチ。外交官を目指すトトの運命を変えた王女ティーランの印象的な出会い。彼女が外交官として人として成長してゆく中でも、ずっと変わらず共にあったホーイチと彼女の揺るぎない関係があって、だからこそその幸せを願う決断が切なかったです…。けれどティーランの憂鬱な人生を変えた出会い、そしてダミアンとミレイニア兄妹の関係とひとつの物語として繋がってゆくその後のエピソードはなかなか効いていて良かったですね。
女王の結婚(上)ガーランド王国秘話 (二見サラ文庫)
女王の結婚(上)ガーランド王国秘話
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久賀理世/ねぎしきょうこ 二見書房 2023年01月11日頃
アレクシアが帰還し王冠を戴いてひと月。早くも王侯貴族は女王との婚姻をもくろみ動き始め、その思惑に翻弄される中、情報収集の旅に出たディアナは不穏な噂を耳にする新章開幕。身分の違いや対外的な関係から、しばらくガイウスへの想いは胸に秘めざるをえないアレクシア。そこに婚約を撤回されたローレンシアの王太子レアンドロスや隣国ラングランドの後継者争いで劣勢の王太子ヴァシリスも祝賀を名目にガーランド宮廷へ乗り込んできて、アレクシアも対応に苦慮する展開で、葛藤を隠せないガイウスが覚悟を決めて男を見せる展開は盛り上がりましたけど、まだまだ彼女たちの状況は前途多難ですね。最後何があったのか続巻が気になります。
このビル、空きはありません! オフィス仲介戦線、異常あり (集英社オレンジ文庫)
このビル、空きはありません! オフィス仲介戦線、異常あり
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森ノ薫/ゆき哉 集英社 2022年12月20日
入社以来、契約ゼロを続けるオフィス仲介営業の咲野花。ついに初契約かと思われた案件も押印直前で壊れ、謎の男性早乙女の一人部署・特務室に異動になるお仕事小説。仕事らしい仕事もなく同期には蔑まれ、退職を申し出る花。早乙女の提案で最後に一つだけクライアントの希望に合致するオフィスビルを探す展開で、「査定に響く」という理由で慰留する早乙女には苦笑いでしたけど、ペット可の物件探しや空き室を巡るギリギリの攻防など、謎が多い上司早乙女もいい感じに花を動かす采配の妙を見せて、彼女なりの居場所を見出してゆくストーリーは荒削りながらも勢いがあって面白かったです。
チーズ屋マージュのとろける推理 (新潮文庫nex)
チーズ屋マージュのとろける推理
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森 晶麿 新潮社 2022年12月23日
イケメンシェフ真沙流が出す絶品チーズ料理で人気の神楽坂の路地に佇むレストラン・マージュ。おいしい一皿とともに、客の抱える悩みやトラブルを解決に導いていくグルメミステリ。実は女性恐怖症気味の真沙流と彼を支える美藻が、美味しそうな料理を提供しながら紐解いて解決に導いてゆく夫婦のビー玉の謎、最悪な彼氏から逃れてきたワケアリ女子だった美藻との出会い、何かありそうな年齢差がある女性を連れてきた常連、真沙流の昔の同僚の来店。明らかにされてゆく真沙流の過去もなかなか悲惨な気がしましたけど、そんな彼らだからこそ、ようやく見出した無理をしないで生きられる今の居場所や関係を大切に思える気持ちが分かるような気がしました。
ハケンの落とし前! 文具会社の猫と消えた食券 (富士見L文庫)
ハケンの落とし前! 文具会社の猫と消えた食券
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本葉 かのこ/くじょう KADOKAWA 2022年10月15日頃
派遣社員の契約も更新されず、正社員も諦めかけていた高山花穂、二十八歳。大手文具会社の問題のある部署に派遣された彼女が、スーパー派遣の宝城きわ子に出会うお仕事小説。なかなか上手く行かずに自信を失いかけて、新しい派遣先でも社員OLに嫌がらせを受けてしまう花穂。そんな彼女をフォローして、得意の料理を褒めてくれたカッコいいきわ子さんの鋭い指摘、花穂にだけは意外な一面を見せる生活不適合者の開発部エース国枝との出会いもあって、流されがちだった彼女が触発されて前向きに取り組む姿勢を見せて、周囲にも認められてゆく姿を応援したくなるとても素敵な物語でした。
後宮の黒猫金庫番 (富士見L文庫)
岡達 英茉/櫻木けい KADOKAWA 2022年10月15日頃
落ちぶれた蔡家を必至で立て直した月光のもとにもたらされた、若き天才・戸部尚書の柏偉光とのお見合い。なぜか気に入られてしまってそこから逃れるため後宮の秀女試験を受ける中華風ファンタジー。貧乏貴族の自分とは釣り合わないし、必死に立て直した家業もやっと軌道に乗り始めて結婚したくなかった月光。しかし試験での解答が目を引いてなぜか女官吏として採用されてしまい、後宮の無駄を洗い出す仕事に取り組むうちに、彼女のことが気にかけている偉光との関わりもいろいろ出てくる展開で、いろいろ巻き込まれて振り回されても、それにめげずにたくましい彼女が真相に切り込んでゆく姿はなかなか良かったです。
華は天命を診る 莉国後宮女医伝 (角川文庫)
華は天命を診る 莉国後宮女医伝(1)
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小田 菜摘/Minoru KADOKAWA 2023年01月24日頃
女子太医学校を首席で卒業し、市井の医療院で研修する新人医官・李翠珠。医学的知識で根拠に薬店店主を救ったことをきっかけに、後宮への配置換えを命ぜられる中華医療ミステリ。彼女の医療に対する真摯な姿勢や医学知識を評価され、実直な若き官吏・鄭夕宵とともに、河嬪の殿舎から見つかった堕胎薬、発熱を繰り返す御史大夫、呂貴妃が体調を崩した原因など、後宮や周辺で次々と起きる医療絡みの事件解決に挑む展開で、姉弟子や周囲とも相談しながら過去の因縁も絡むそれらの真相を解き明かしてみせた読後感は悪くなかったです。最初は実家の医院を継ぐつもりだったはずの彼女が、これからどんな生き方を選ぶのか、今後に期待の新シリーズですね。
11文字の檻: 青崎有吾短編集成 (創元推理文庫)
青崎 有吾 東京創元社 2022年12月12日頃
『体育館の殺人』でのデビューから10年。本格ミステリ、SF、人気コミックのトリビュートまで、書き下ろしも含めた全8編を集めた短編集。鉄道事故に遭遇したカメラマンが感じた違和感、全面ガラス張りの特異な屋敷での不可能殺人の顛末、わたモテ公式二次創作、どんでん返しショートストーリー、飽きっぽい男の残念な結末、スーパーロボの掃除風景、人生に干渉するものを許さない恋澤姉妹、絶対に解けるはずのない11文字のパスワードを当てなど、著者さんはいろいろなものを書けるんだなと改めて感じさせてくれるバラエティ豊かな構成でした。
シュレーディンガーの少女 (創元SF文庫)
シュレーディンガーの少女
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松崎 有理 東京創元社 2022年12月12日頃
様々なディストピア世界でたくましく生きのびる女性たちを描いた、コミカルでちょっぴりダークな連作短編集。全ての65歳にプログラムされた死が訪れる世界、肥満者たちを集めて公開デスゲームを開催する健康至上主義社会、あらゆる数学を市民に禁じて違反者を捕らえている王国、日々の食卓から秋刀魚が消え失せてしまった未来。その特殊な設定の世界ならではの特有の事象や、そこで生きる人々にもそれぞれの矜持が感じられて、それがもしなかったり禁じられたりしたらどうなるのか、いろいろと想像したり考えたりしながら楽しく読むことができました。
火狩りの王 〈一〉春ノ火 (角川文庫)
火狩りの王 〈一〉春ノ火(1)
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日向 理恵子/山田 章博 KADOKAWA 2022年11月22日頃
人類最終戦争後の世界。森に囲まれた小さな村に生まれた11歳の少女・灯子と、機械工場が立ち並ぶ首都で暮らす15歳の少年・煌四。2人の人生が交差するファンタジー。大地は黒い森に覆われる世界、天然の火に近づくと体が内側から燃え上がる人体発火病原体に冒されている人類。千年彗星〈揺るる火〉や「火狩りの王」といった伝説とは何なのか。困難な時代を背景に二人の数奇な運命が動き出すストーリーは、灯子が火狩りの遺品と狩り犬かなたを遺族に返すため首都へ向かうことで、それぞれ描かれているストーリーも繋がることになりそうですね…ここからどう物語を動かしてゆくのか続巻に期待のシリーズです。
魔女たちは眠りを守る (角川文庫)
魔女たちは眠りを守る
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村山 早紀 KADOKAWA 2022年11月22日頃
桜の花びらが舞う季節。古い港町・三日月町に帰ってきた若い魔女の娘・七竈・マリー・七瀬。懸命に生きる人々と、ひっそりと長い時を生きる魔女たちの出会いと別れの連作短編集。ひとの子たちが「魔女の家」と呼ぶ、銀髪の美しい魔女二コラのカフェバーを訪れた七瀬が、街に住み着いて密かに人々の手助けをしてゆく連作短編集で、かつての友人でもある書店員と交わした約束に始まって、優しい魔女がささやかな奇跡を起こしてゆく穏やかなストーリーはなかなか良かったですね。一つ一つ丁寧に描かれた魔女が人に寄り添ってくれるとても繊細で優しい物語になっていました。
さいはての家 (集英社文庫)
居づらくなったり罪を犯したり、何かに反発したり所属していた場所を捨て他の土地へ向かう人たち。行き詰まった人々が、ひととき住み着く「家」を巡る連作短編集。家族を捨てて逃げてきた不倫カップル、逃亡中のヒットマンとその事情を知らない元同級生、新興宗教の元教祖だった老婦人、親の決めた結婚相手から逃げてきた女と別れた彼に追われる妹、子育てに戸惑い、仕事を言い訳に家から逃げた男など、逃亡のはてにたどり着いた住処に住まう人々の繊細な心情描写がとても著者さんらしいと思いましたが、個人的には「ままごと」と「かざあな」が印象に残りました。
時空犯 (講談社文庫)
私立探偵・姫崎智弘の元に舞い込んだ報酬一千万円という破格の依頼。6月1日がすでに千回近く巻き戻されている原因を突き止めるため、姫崎を始めとするメンバーが巻き戻しを認識することができる薬剤を口にするミステリ。情報工学の権威・北神博士によって集められたメンバーたち。そこでの思ってもみなかった再会と、再び6月1日が訪れた直後、他殺死体で発見された博士。博士を殺したのは一体誰なのか、その犯人探しに乗り出す展開で、繰り返し自体はわりとあっさりめでしたが、疑心暗鬼に陥ってもおかしくない状況の中、思ってもみなかった犯人の動機があって、甘酸っぱくて切ないもどかしさも絡めながら迎える結末はなかなか良かったですね。
探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵 (角川文庫)
探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵
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松岡 圭祐 KADOKAWA 2022年11月22日頃
アルバイト先であるガールズバーの太客から執拗なつきまとい行為を受けていた女子大生の璃香。一縷の望みを託し探偵の探偵・桐嶋颯太に救いを求める「探偵の探偵」スピンオフ。どんどん追い詰められて、通常の探偵では対応できない危機的状況を救うべく動き出した桐嶋。その活躍で収まったかに見えた矢先の大きな悲劇。巨悪に対して孤軍奮闘ではどうにもならない苦しい状況に追い込まれてゆく展開で、こういう危機的状況を打開してくれるのはやっぱり彼女ですよね。なかなかハードな展開ではあったものの、「探偵の探偵」スピンオフゆえの繫がりや懐かしさもあったりで続巻に期待です。
みどり町の怪人 (光文社文庫)
彩坂美月 光文社 2023年01月11日
埼玉県のローカルな田舎町・みどり町。以前あった未解決の殺人事件もあって、どことなく閉塞感を感じさせる小さな町に都市伝説の噂も絡んで怪人が出ると噂されるミステリ。地方FM局の放送がきっかけで全国的に広まっていくみどり町の怪人の伝説。閉塞的な地域にありがちな話ですが、登場人物たちが何らかの形で繋がっていて、そんなみどり町に住む人々の鬱屈、そして魔が差したとしか思えないそれぞれの行動が、結果として意外な真実に結びついてゆく展開で、みどり町の怪人の噂が燻るようになかなか消えない理由や、ひっそりと収束した過去の事件の意外な結末、立ち位置が異なる人々の感じ方の違いがなかなか興味深かったです。
十二月の辞書
15年ぶりに元恋人から電話を受けたAI研究者の南雲薫。私生児の彼女に遺された函館の一軒家にあるはずの、父が描いた彼女のポートレイトを見つけてほしいと依頼される恋愛ミステリ。アトリエではなく書庫だった一軒家で、学生の佐伯とともに絵を探し始める南雲。並行して描かれる元恋人リセや恩師・藤崎との出会いと関係、そしてたった一度だけ会ったリセの父・深島との印象的な思い出。「グリフォンズ・ガーデン」や「プラネタリウムの外側」と世界観が地続きの物語で、相変わらず重厚過ぎて読むのには難儀しましたが、でもこれこそが早瀬作品なんですよね。年月を積み重ねて様々なことが変わる中でも、変わらない大切なものがあって、相変わらず不器用で面倒な彼らのありようが愛しくなりました。
令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法
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新川 帆立 集英社 2023年01月26日頃
通称:令和反逆六法。六つのパラレル・レイワで成立した六つの架空法律と、それに振り回される人々の困惑と抵抗を描く連作短編集。動物福祉法とボノボを弁護することになった弁護士、どぶろく通達により家庭の味で自家醸造をさせられる女、南極議定書と南極に住む者たち、「労働者保護法」で変容する労働環境、電子通貨法により現金がなくなりつつある世界、健雀法による賭け麻雀合法化と接待麻雀。それらの法律が成立したことで社会のありようは大きく変わって、けれどそんな急激な変化についていけず困惑してうまく適合できない不器用な人たちもいて、他に選択肢もなく抗うしかない立場に追い込まれてゆく姿と、皮肉にも思えるそれぞれの結末が、これからの未来を暗示しているような気がしました。
世はすべて美しい織物
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成田 名璃子 新潮社 2022年11月17日頃
昭和の桐生養蚕農家の娘として生まれた芳乃と、現代の東京でトリマーとして働く詩織。思わぬ形で繋がってゆく織り人たちが抱える業と歓びの物語。一人で着物を作り上げる腕を見込まれ、嫁いだ先でさらにのめり込んでゆく芳乃。なぜか手芸に関わることを母に強く反対され、トリマーとして働きつつも諦めきれない詩織。そんな訳ありな二人が導いてくれた人との出会いで迎えた転機、そして逆境でものめり込まずにはいられない業の深さがあって、時には迷いながらも大切なことは何かを見失わず、自らの生きるべき道を見出すその生き様が印象的に残る物語でしたね。
伏尾 美紀 講談社 2023年01月25日頃
新札幌に新設されたばかりの北日本科学大学で起きた爆破事件。道警本部の警務部に異動となった博士号を持つ異色のノンキャリ警察官・沢村依理子が事件に挑む警察ミステリ。思惑が透けて見える人事に複雑な思いを抱きながらも、突然班長を任されて公安との駆け引きの中で進めていく捜査。一体誰がどんな理由でこんな事件を引き起こしたのか。調べてゆく中で思わぬところから繋がってゆく因縁があって、明らかになってゆくその背景を思うと、当時とはまた違う意味で、今もまた厳しい状況ではあることを考えずにはいられませんが、才能があっても人間関係の構築が上手くないと、どうしても不遇な境遇に陥りがちなのは今も昔も変わらないですね…。
君の地球が平らになりますように
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斜線堂 有紀 集英社 2022年12月05日頃
幸せになりたかったはずなのに、なかなか上手くいかない5つの地獄の恋路を描いた恋愛小説集。陰謀論にはまって周囲から敬遠されるようになっていた大学時代に好きだった人との再会、周囲に人が絶えない人気者だけれど結婚できない相手、地下アイドルグループのアイドルがピークを迎えた頃に作った彼氏、担当ホストと結婚するため風俗で働いてまで生き別れの弁護士の姉と張り合う女の結末。そして自分の病気のせいで同棲相手が陰謀論に染まる絶望。上手くやったはずなのに、些細なきっかけからその歯車が狂ってしまう一筋縄ではいかないそれぞれの恋が印象的でした。
武田 綾乃 KADOKAWA 2022年11月11日頃
親元から離れ東京の寮で生活する19歳・朝日光が、偶然再会した小学校の同級生・長谷川琴葉。当時の担任が川で転落死したニュースを知った光に、琴葉が意外な告白をする青春ミステリ。小学校時代に突然転校してずっと音信不通だった琴葉との突然の再会から、急展開で一緒に逃避行を提案され行動を共にするストーリーで、一緒に向かった京都での出会い、綴られてゆく仲が良かった二人の小学校時代や十年前の同窓会での出来事、そしてそれぞれが重ねてきた嘘があって、そこからの鮮やかな構図の変化と、対照的に見えるけれど、ともに母親に振り回されてきた二人が見出したその結末はなかなか良かったですね。
南海ちゃんの新しいお仕事 階段落ち人生
南海ちゃんの新しいお仕事 階段落ち人生
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新井 素子 角川春樹事務所 2022年12月15日頃
常に転んでばかりで周囲に粗忽姫と呼ばれる高井南海。隠されたその特異体質に気づいた御曹司の超能力者・板橋さんにスカウトされて、世界と人々を救う仕事に乗り出す現代ファンタジー。実は転ぶことで無意識にこの空間の各所にあるヒビを修復していたことを、ヒビを靄として見ることができる板橋さんに教えてもらった南海。その副作用で物体を直す力を利用して会社の中に「修復課」を立ち上げる二人。練馬区・板橋区あたりの靄を探して歩く展開は傍から見たら怪しさ満載で、何でも直していけばいずれそういう発想になるよな…とも思いましたけど、着想から結末に至るまで著者さんらしさがよく出ていると思いました。
清水 裕貴 KADOKAWA 2023年01月30日頃
稲毛海岸近くの古い洋館・伝兵衛邸の地下で発見された正体不明の絵画。失敗から仕事を干されていた美術館の学芸員ひかりが、絵について調べ始める物語。過去にこの地域で流行っていた赤いドレスの女の怪談を思い出させる、ドレスを翻して踊る女を描いた絵。一方、映像作家から預かった花街として栄えた蓮池にまつわるインタビューを集めた資料。彼女の祖母もまた関わっていて、現在と過去が並行しながら描かれる中、明らかにされる当時の秘密があって、時代は移り変わっても、残された当時の様々な思いが鮮やかに再現されてゆく印象的な物語でした。
水野 梓 講談社 2022年11月30日頃
一緒に大学を卒業した同期の三人。月一回のランチ会で愚痴をこぼすことでストレスを解消していた彼女たちが、役割を背負わされて反発しながらも生き抜く三者三様の物語。出産によって後方支援に追いやられてしまった凜が直面する過酷な運命。シングルマザーとして発達障害の子供を抱え貧困から抜け出せずにいる響子。週刊誌のサブデスクまで上り詰めがら不妊治療がうまくいかない美華。身近に比較の対象がいて、上手くいかないことに直面する彼女たちの葛藤は生々しかったですが、自分がどうあるべきかしっかりと向き合って、それを乗り越えてたどり着いたそれぞれの結末がなかなか印象的な物語でした。
安部 若菜 KADOKAWA 2022年11月18日頃
アイドルグループ「テトラ」のセンターを務める実々花と、その熱烈なオタクで冴えない日々を送る大学生ケイタの不器用な恋を描く青春小説。叶わないと知りつつも本気で実々花に恋をするケイタと、高校3年生で彼の好意を嬉しく思いながらも、将来に漠然とした不安を抱える実々花。母親との衝突をきっかけに自暴自棄になり、思わずSNS情報を頼りにケイタのバイト先へ向かってしまったことから始まった交流。NМB48現役アイドルのデビュー作で、それぞれが抱く複雑な思いを巧みに投影していましたけど、それが二人のこれからを変えるきっかけとなってゆく、切なくも希望を感じさせてくれるその結末はなかなか良かったです。
劉 震雲/水野 衛子 早川書房 2022年12月21日頃
河南省の延津にある、夢に現れて笑い話をせがむ花二娘の伝説。伝統劇『白蛇伝』を演じた三人の男女の運命が、その伝説と絡み合う物語。劇団の役者だった李延生と陳長傑、女優の桜桃の複雑な三角関係からの関係の変化。武漢に移った長傑に会いに行くことで受け継がれた思いがあって、そこから子供世代にもストーリーが移ってゆくなかなか壮大なスケールの物語が描かれていましたけど、全てが笑いになるわけではない人生の中で、笑いが持つ力を考えさせられる内容で、日本人とはまた少し違った考え方だったり、それでもさくさく読ませてしまう圧巻のストーリーでした。