各電子書籍ストアで22年11月9日までに配信された講談社の文芸作品のセールが始まっています(BOOK☆WALKERはクーポン配布)。
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そこで今回は対象作品の文芸単行本・文庫本からおすすめ作品を30作品セレクトしました。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※下記紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1.方舟
大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れ、偶然出会った三人家族と地下建築の中で夜を越すことになった柊一。その地下建築が水没の危機に陥った矢先に殺人事件が起きるミステリ。地震が発生して扉が塞がれ、水没までのタイムリミットまでおよそ一週間。9人のうち死んでもいいのは、死ぬべきなのは誰か?殺人犯を一人犠牲にすれば脱出できる。そんな思いで犯人探しが始まる中で発生する連続殺人事件。わりとオーソドックスなクローズドサークルなのかなと思いながら読む中で、ディテールにこだわった推理はなかなか鮮やかでしたけど、それだけでは終わらない何とも衝撃的な結末には度肝を抜かれました。
綿密な犯罪計画により実行された殺人事件。アリバイは鉄壁、計画は完璧、事件は事故として処理される……はずだった。だが、犯人たちのもとに、死者の声を聴く美女・城塚翡翠が現れる第二弾。ITエンジニア、小学校教師、そして人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。さりげない風を装い現れて、いつの間にか距離を縮めて、乗り切ったと思ったら思ってもみなかった部分から覆していく鮮やかな推理劇。でもこんな感じだったかな…と積み重なってゆく違和感が、最後の最後で反転するその理由が、前回とはまた違う意味で鮮烈な印象を残しました。
3.汝、星のごとく
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく物語。夫に逃げられた母を放っておけない暁海と、母の恋愛に振り回されてきた漫画家になる夢を持つ櫂。急速に惹かれ合ってゆく二人が、けれどままならない状況に不器用すぎて少しずつすれ違う展開にはもどかしくなりましたけど、彼らを見守り続けて寄り添ってくれた北原先生との存在も大きくて、いつまでもずっと心に残り続けた鮮烈な想いに殉じる一途な姿は、傍から見たら歪でも、他の人に何と言われようとも、かけがえのないとても美しいものに思えました。
4.おいしいごはんが食べられますように
おいしいごはんが食べられますように
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高瀬 隼子 講談社 2022年03月24日頃
167回芥川賞受賞!「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。
5.爆弾
些細な傷害事件で野方署に連行されたとぼけた見た目の中年男スズキタゴサク。たかが酔っ払いと見くびる警察に、男は「十時に秋葉原で爆発がある」と予言するノンストップ・ミステリ。男の予言直後に秋葉原の廃ビルが爆発。今後の展開を示唆するこの胡散臭い中年男が果たして爆弾魔なのか。対話を試みて情報を引き出そうとする警察と男の駆け引き、鍵を握る過去の事件との繋がり。状況が二転三転して構図もガラリと変わる中で浮かび上がってゆく意外な真相があって、恐怖に支配されて不安を突きつけられた登場人物たちの生々しい感情がなかなか印象的な物語でした。
6.此の世の果ての殺人 講談社
二ヶ月後に小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され大混乱に陥った世界。淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受ける小春が、教官で元刑事のイサガワと地球最後の謎解きを始める終末ミステリ。母が姿を消して父は自殺し大部分の人が逃げ出した九州で、引きこもりの弟と残って奇特な教官のイサガワに自動車教習を受けていた小春が見つけた滅多刺しにされた女性の死体。荒廃しつつある世界でなぜ連続殺人が起きたのか。こういう事態に陥ったからこそそれぞれの本性が浮き彫りになっていって、不安を抱えて強くいられる人たちばかりではないけれど、それでも事件を調べ続けた小春たちがたどり着くひとつの真相が印象に残る物語でした。
7.競争の番人
新川 帆立 講談社 2022年05月11日頃
曲がったことは嫌いだけど、いまいち壁を破れない公正取引委員会職員・白熊楓が、留学帰りの超エリート・小勝負勉と出会うリーガルミステリ。考えるより先に動いてしまうお人好しな白熊と、だいぶ嫌みだけと言うことは正しくて頭脳明晰の小勝負のコンビが挑むウェディング業界にはびこる価格カルテル内部調査。状況が変わるたびに二転三転する関係者の印象、優しさゆえに裏切られてしまう白熊にもどかしさも感じましたが、そんな彼女を認めてゆく小勝負のサポートも得て、向き合って見事乗り越えてみせた彼女の強さにはぐっと来るものがありました。
完成間近の卒業制作を教授に酷評された美大生・木田蒼介。自分の中で失われてしまった大切な何かを取り戻すために、交通事故で亡くした幼馴染・河井明音をテーマに作品を描き直すことを決める美術小説。自らも左足が不自由になった六年前の事故以来、明音の記憶を全て失ってしまった蒼介。明音を描くためには彼女を思い出すことが必要で、共にあった親友やかつての恩師、明音の友人や自分の母、明音の母と聞き取りを進めるうちに気づく認識の齟齬。彼女の存在が自分にとってどんな存在であったのか、それを突き詰めていけばいくほど、明音が蒼介にとって単純な言葉では括れないかけがえのない存在だったことが浮き彫りになっていって、紆余曲折の末にようやく思い出すことができた大切な思い、そして向き合ったその先に待っていたその結末には強く心揺さぶられました。
きらめきを落としても
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鯨井 あめ 講談社 2022年07月27日頃
きらきらしていたりくすんでいたり。ときめきからもやもやからSFまで、青春を万華鏡でのぞくような6つの短編集。好きなものに素直な彼女と見栄っ張りで素直になれない主人公、憧れを見失いかけていた青年と星が大好きな女性の出会い、思わぬ一目惚れと自分らしさを探す旅路、何事にも夢中になれない主人公と彼のヴァイオリンを拾った少女、そして主人公が打ちのめされた作品を書いた作家の決断。読んでいると改めて鯨井あめさんの文章とか作風が好きだなと噛み締めながら読みましたが、本当に失ってはならないものにどう向き合うべきか、つい見失ってしまいがちな大切なことを思い出させてくれるとても素敵な短編集でした。
10.神薙虚無最後の事件
大学二年生の瀬々良木白兎とアパートの隣に住む一つ年下の後輩・来栖志希が、倒れていたところを助けた御剣唯から依頼され、大学の名探偵倶楽部に所属する金剛寺らとともに、二十年前に起きた事件の真相に挑むミステリ。唯の父・大が著した20年前のベストセラー「神薙虚無最後の事件」と伝説の炎上事件。未解決に終わった事件と行方不明になった名探偵・神薙虚無の真相に挑む名探偵倶楽部所属メンバーたちの推理。白兎と志希の何とも繊細な距離感も良かったですけど、積み重ねてきた伏線を丁寧に回収して導いてゆくそれぞれのアプローチには新たな発見があって、真相に迫る推理の先にあったその意外な結末はなかなか良かったです。
11.medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)
推理作家として難事件を解決してきた香月史郎が出会った、霊媒として死者の言葉を伝える城塚翡翠。そんな彼女の霊視と論理の力を組み合わせて殺人事件に立ち向かうミステリ。殺された香月の後輩、招待された別荘で殺された先輩作家、女子高生連続の犯人を警察に協力する二人が翡翠の霊視と香月の論理で何とか解決してゆく展開で、けれど最後の連続殺人犯との対峙は、これまで積み重ねて来たものの何が虚で実だったのか分からなくなる急展開に繋がって、その何とも鮮烈で皮肉に満ちていた決着をいろいろと想起させるエピローグが際立たせていました。
12.線は、僕を描く (講談社文庫)
両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生・青山霜介。アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、初めての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく青春小説。湖山に気に入られてその場で内弟子にされた霜介と、反発して翌年の「湖山賞」での勝負を宣言する湖山の孫・千瑛。初心者ながらも水墨画にのめり込んでいく霜介に、彼と関わるうちに千瑛もお互いに刺激を受けて変わっていって、才能だけでも技術だけでもない水墨画の世界で、その本質に向き合い続けた二人が迎える結末には新たな未来が垣間見えました。面白かったです。
13.電気じかけのクジラは歌う (講談社文庫)
電気じかけのクジラは歌う
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逸木 裕 講談社 2022年01月14日
人工知能が作曲をするアプリ「Jing」が普及し、作曲家の仕事が激減した近未来。「Jing」専属検査員になった元作曲家・岡部の元に、自殺した現役作曲家で親友の名塚から未完の新曲と指紋が送られてくる近未来ミステリ。名塚から託されたものの意味と、事故で右手が不自由になった名塚の従妹・梨紗の苦悩、そして「Jing」を作り出した霜野の野望。「Jing」で気軽に音楽を作れてしまう中、あえて自分の手で音楽を作り出す意味に葛藤しながらも、秘められた名塚の想いに気づいてゆく展開は著者さんらしさがよく出ていて面白かったです。
14.海蝶 海を護るミューズ (講談社文庫)
海蝶 海を護るミューズ
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吉川 英梨 講談社 2022年04月15日
女性初の潜水士として注目を集める横浜海上保安部所属・忍海愛。兄は特殊救難隊、父もベテラン海保潜水士で血筋は折り紙付きの彼女が、初めてならではの苦難や過去にも向き合ってゆく物語。東日本大震災に遭遇し目の前で母を失った愛。それをきっかけにバラバラになってしまった家族や、女性初の潜水士「海蝶」として働く彼女や周囲の戸惑い。初めての任務がまたとんでもない事件でしたけど、苦難にぶつかって葛藤しながらも、行くも地獄戻るも地獄の道を突き進む覚悟を決めた愛が、皮肉にもそれをきっかけにようやく失われていた大切な絆を取り戻してゆく結末がとても印象的な物語でした。
15.あめつちのうた (講談社文庫)
運動が苦手で家族に抱える鬱屈から逃げ出したい思いもあって、甲子園球場の整備を請け負う阪神園芸へと入社した雨宮大地。そんな彼が仕事や人々の出会いから変わってゆくスポーツ裏方小説。仕事もなかなか覚えられない大地に突っかかってくる、ケガでプロへの道を断念した同僚の長谷。それに同性愛者であることを周囲に隠す親友・一志や、重い病気を乗り越えて歌手を目指すビールの売り子・真夏と、同じく「選べなかった」運命に思い悩む仲間たちの葛藤を知り、自らも仕事や家族とも向き合いながらともに成長してゆく展開はなかなか良かったですね。
16.凜として弓を引く (講談社文庫)
高校入学目前の矢口楓がふと足を踏み入れた神社の片隅にみつけた弓道場。おとなたちに交じって弦音を響かせる少年・乙矢の凛々しい姿に魅せられ、誘われた弓道会に入門する青春小説。学校の部活も付き合いで辞めてしまい、乙矢の妹・善美と一緒に弓道会に通うようになる楓。素直でちょっとした気づきを大切にできる楓が、真摯に弓道に取り組む中でいろいろな人と出会い、向き合ってゆく関係には様々な発見があって、乙矢兄妹のお家の事情に巻き込まれたりもしましたけど、ちょっと気になる乙矢との関係も含めてこれからがとても楽しみな物語ですね。
17.晴れ、時々くらげを呼ぶ (講談社文庫)
晴れ、時々くらげを呼ぶ
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鯨井 あめ 講談社 2022年06月15日
売れない作家だった父が病死してから、ワーカホリック気味な母と二人で暮らしの高校生の越前亨。図書委員になった彼が、毎日屋上でくらげ乞いをする後輩・小崎優子と出会う青春小説。理不尽に対抗するために、毎日屋上でくらげ乞いをしている小崎を冷めた目で見ながら、日常を適当にこなすうちにいつしか彼女のことが気になってゆく亨。本が好きな図書委員たちの読書あるあるがあって、同じ場所にいるのに温度差を感じてしまう亨がいて、けれどバス停で見かけた小崎をきっかけに、バラバラだったそれぞれの想いが繋がる展開は優しくて、ずっと忘れていた大切なものを思い出してゆく、とても素敵な結末だったと思いました。
18.占い師オリハシの嘘 (講談社タイガ)
カリスマ占い師の姉が失踪。代役を頼まれた妹で霊感ゼロのリアリスト折橋奏が、大好きな修二さんを引きずり回しながら、呪いやカルト教団を占いでなく卓越した推理力で両断するミステリ。いつもふらりといなくなる姉に依頼されて、想い人の修二にサポートされながら挑む、魔女に呪われているかもしれない恋人、映画コンペと蛇神に憑かれた主演候補、新興宗教団体教祖の千里眼の正体、そして姉の失踪の真相。代役としての雰囲気作りがシュールで笑ってしまいましたが、情報収集してその洞察力で事件を解決する奏のスタイルや、甘える彼女にはつれない修二さんとの迷コンビっぷり、そしてオチをしっかりつけてくれる結末はなかなか面白かったです。
19.ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー (講談社タイガ)
ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー
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石川 宗生/小川 一水 講談社 2022年10月14日
歴史は変えられる―物語ならば。色とりどりのifの世界に飛び込む五人の著者による珠玉の改変歴史SFアンソロジー。石川宗生さんの死ぬまで踊り続ける奇病が蔓延したイタリアで錬金術師が披露した奇天烈な治療法、宮内悠介さんの「ピーガー」というSNSが存在した一九六五年の日本で起きた世界初の炎上事件の真実、斜線堂有紀さんの和歌を詠訳する平安時代で歌人・式子内親王が出会った一人の女房、小川一水さんの巨大石壁・大廓ともうひとつの江戸時代の事件、そして伴名練さんのジャンヌ・ダルクが何度もやり直すことで垣間見せる様々な可能性。どの話も著者さんらしさがよく出ているどれも面白い短編集で、個人的には甲乙付けがたかったです(苦笑)
20.本のエンドロール (講談社文庫)
就職説明会で「印刷会社はメーカーです」といった営業・浦本、夢を「目の前にある仕事を手違いなく終わらせる」とした仲井戸。斜陽産業と言われる印刷業界を描いたお仕事小説。浦本と仲井戸という対照的な二人を軸に、登場人物たちと家族や出版社編集とのやりとり、それぞれの仕事ぶりや印刷工場でのトラブル、電子書籍なども絡めて描かれる印刷業界の今はなかなか厳しくて、それでもその状況の中で仕事に真摯に向き合い、自らが印刷業界がどうあるべきか、できることはないのかと模索し続ける彼ら熱い想いと奮闘ぶりには心に響くものがありました。
21.禁じられたジュリエット (講談社文庫)
ミステリ小説が退廃文学として禁書扱いな世界観の日本で、それに触れてしまった女子高生6人が囚人として収監され、看守役2名を加えた8名で更正プログラムに参加させられる本格ミステリ。プログラムを早く切り上げられるよう協力するはずだった友人8人。役割に徹するうちに急速に対立を深めてゆく描写はあまりにも過酷で、二転三転してゆく展開には驚かされ、追い詰められた参加者たちの叫びは痛切で心に響くものがありましたが、終わってみるとなぜか清々しさすら感じてしまったその読後感に著者さんの深い本格ミステリ愛を見る思いがしました。
22.歪んだ波紋 (講談社文庫)
新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディアの「誤報」をテーマに、それが生み出される過程、直面したり振り回される人たちの複雑な想い、それらがもたらした結末が描かれる連作短編集。意図せずとも誤報に繋がってしまう構図や、誤報によって人生が歪められたり不安に怯えるようになったり、誤報を弾劾する側の人間もまた一歩間違えばフェイクニュースを掴まされ、容易に糾弾される側に回ってしまう構図に今のマスメディアの難しさと怖さがあって、報じる側の姿勢が問われると同時に、受け取る側にもまた判断が難しい時代になりつつあると痛感しました。
23.青い春を数えて (講談社文庫)
数えても数えきれない複雑な思い。葛藤を抱える少女たちの逡巡とそれを乗り越えてゆく姿が描かれる5つの連作短編集。親友に対する複雑な想い、ズルイと思われたくないでも損したくない心境、天真爛漫な姉に対する器用貧乏な妹のコンプレックス、メガネにこだわる少女の心境を言い当てた電車の中での出会い、そして優等生が噂の不良少女に振り回されて気づいたこと。登場人物たちがゆるく繋がるひとつの世界観の物語で、繊細で複雑な想いをずっと抱えていた少女たちがきっかけを得てそれを乗り越え、新たな一歩を踏み出す姿はとても心に響きました。
24.友達未遂 (講談社文庫)
伝統と格式のある全寮制女子高・星華高等学校。その寮で不審な事件が次々と起き、ルームメイト4人が巻き込まれていく青春小説。家に居場所がなかった茜、学校で伝説となっている母を持つ生徒会長の桜子、美工コースの憧れの先輩・千尋、周囲に迎合しない天才肌の真尋。複雑な家の事情や周囲の評価とのギャップに鬱屈を抱えていたりと、一人ひとり語られてゆくそれぞれの過去。けれど今まで見えていたものが全てではなくて、自分をきちんと見て気にかけてくれる人がいて、少しずつ変わってゆく彼女たちが迎えた結末にはぐっと来るものがありました。
25.コーチ! はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル (講談社文庫)
コーチ! はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル
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青木 祐子 講談社 2021年03月12日
流されるままに25年生きてきたことりの転職先「はげまし屋」。おんぼろマンションの一室にあるオンライン専門の人生相談所での奮闘記。身近には打ち明けられないひそかな悩みを抱える、いいね探しの派遣社員、白雪姫に恋したカサノバさん、小説家志望の実家住まいのアラサー女子、行動力あるちょっと変わったネットビジネス志望など、顧客との距離感が難しそうだなあと思いながら読んでましたけど、偶然見つけたこの仕事にいつの間にかのめり込んで、ひとつひとつに真摯に向き合っていくことりの姿に、読んでる自分も応援されている気がしました。
26.コンビニなしでは生きられない (講談社文庫)
大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋が、バイト先のコンビニに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲と次々と起きる謎を解いてゆく青春ミステリ。店から逃げ出さない強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女といった事件が起きるたび、彼女の暴走に翻弄されながら謎を解き明かす白秋。やや強引な謎もありましたがテンポの良い二人の謎解きは楽しくて、伏線を回収しながら見事に繋がってゆくほろ苦い背景と、それを乗り越えて迎える結末にはぐっと来るものがあって、何より著者さんの深いコンビニ愛が感じられた作品だったと思います。
27.京都船岡山アストロロジー (講談社文庫)
文芸をやりたくて耕書出版に就職し、大阪支社に転勤となった高屋誠。占い嫌いなのに占い雑誌編集に配属されれ、船岡山珈琲店にいる占い師と衝突した彼が、和解の流れで店の二階に住むことになる物語。不本意ながらも星の世界に触れ、その奥深さを知っていく高屋。彼が占い嫌いの原因となった過去の苦い事件、占い雑誌に掲載される作品を書く作家の意外な正体。不本意な仕事に配属され自分を見失いかけていた高屋が、占いや様々な考え方に触れる中で見出したものがあって、過去や今の仕事にも向き合うようになってゆく展開はなかなか良かったですね。
28.湯けむり食事処 ヒソップ亭 (講談社文庫)
湯けむり食事処 ヒソップ亭
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秋川 滝美 講談社 2022年05月13日
名料亭の料理人をある事情から辞めた章が、幼馴染夫婦の素泊まり温泉旅館「猫柳苑」の食事処「ヒソップ亭」の主人となり、店を訪れるワケありの客たちにこだわりの料理を提供する料理小説。お節介な幼馴染夫婦に誘われ、旅館の元料理人の娘・桃子と始めた食事処。両親が出かける時の妻の表情を気にする中年男性、史跡めぐりの定年退職者のピンバッジ、酒を知るひとり旅の女性のリベンジ、そして桃子の気がかりや、旅館が抱える苦悩にも向き合いつつ、美味しい料理を食べてもらうこと、周囲の人たちを大切にする章の生き方がなかなか良かったですね。
29.スイッチ 悪意の実験 (講談社文庫)
夏休み。お金がなく暇を持て余す大学生たちに持ちかけられた風変わりなアルバイト。自分達とはなんの関わりもない家族を破滅させるスイッチを渡されるミステリ。スイッチを押さなくても1ヵ月後に100万円が手に入るはずなのに、スマホを盗まれて押されてしまったスイッチ。一体誰が何のために押したのか。そして直面する思ってもみなかった惨劇。とある新興宗教を巡る過去の因縁も絡めながら、残された証拠から真相に迫ってゆく過程で、関係者たちの様々な事情も浮かび上がってきて、純粋な悪意とは何か、それを突き詰めた先にあった結末にはいろいろ考えさせられてしまいました。
30.小麦の法廷 (講談社文庫)
ケータイ弁護士として日々奔走する新人女性弁護士・杉浦小麦、25歳。国選弁護士として1日で公判が終わるはずだった仲間内の傷害事件が、やがて世間を震撼させる大事件へと変貌してしまう法曹ミステリ。殺人犯のアリバイ作りに協力しているのかとマスコミに囲まれ、一転して注目を集めることになってしまった被告人の事情。敵は法律を知り尽くした悪党と司法の穴。傷害事件はアリバイ作りなのか、警察と検察のメンツや思惑も絡む複雑な状況に振り回される新人弁護士という構図でしたけど、真正面から向き合って奔走する小麦を支えてくれる人たちもいて、新人なりに不器用ながらも信じるもののために戦った彼女の物語をまた読んでみたいと思いました。